Fearing heart ◆WAWBD2hzCI
「…………銃、か」
手に馴染まないずっしりとした重さ、モデルガンとは違う本物の拳銃。
広く支給されているだろう凶器は、岡崎朋也のデイパックにも漏れることなく支給されているのだった。
時刻はこの殺し合いの場に投げ込まれて二時間。
世界は相変わらず闇の帳に閉ざされた時間帯、夜間なら本来なら近寄りたくもない森の中を朋也は進んでいく。
広く支給されているだろう凶器は、岡崎朋也のデイパックにも漏れることなく支給されているのだった。
時刻はこの殺し合いの場に投げ込まれて二時間。
世界は相変わらず闇の帳に閉ざされた時間帯、夜間なら本来なら近寄りたくもない森の中を朋也は進んでいく。
彼に支給されたのは銃の他にもうふたつ。
残念ながら殺し合いには向かないハズレの部類らしい。とはいえ、銃を支給された以上、文句を言うつもりはない。
渚を捜さなければ、と心の中で思いつつも、先ほどの銃撃が頭から消えなかった。
残念ながら殺し合いには向かないハズレの部類らしい。とはいえ、銃を支給された以上、文句を言うつもりはない。
渚を捜さなければ、と心の中で思いつつも、先ほどの銃撃が頭から消えなかった。
(もしも、狙撃されていれば……)
普通の一般人、進学校の不良程度の朋也には銃で撃たれる痛みなど分からない。
だが、撃たれればきっと死ぬということだけは分かるつもりだ。
髪の長い女が誰だったのかは結局分からない。だが、脳裏には恐怖が刻まれている。何度も背後の闇を振り返る。
いつ、今度は後ろから撃たれるかと思うと自然小走りになってしまう。ぬるっと忍び寄る恐怖が気持ち悪かった。
だが、撃たれればきっと死ぬということだけは分かるつもりだ。
髪の長い女が誰だったのかは結局分からない。だが、脳裏には恐怖が刻まれている。何度も背後の闇を振り返る。
いつ、今度は後ろから撃たれるかと思うと自然小走りになってしまう。ぬるっと忍び寄る恐怖が気持ち悪かった。
岡崎朋也は冷静になれなかった。
命の危機にあって平然とできない、ごく普通の一般人なのだ。死にたくないし、怪我だってしたくない。
現実に命を狙われた以上、当然ながら恐怖と吐き気が全身に伝染する。息が荒かった、誰かに殺意ほどの悪意を持たれていることに吐きそうになる。
そんな思いを抱えている以上、平静に戻ることなんてできなかったのだ。
だから知人以外は皆、敵としか見れなかった。人間、腹の底で何を考えているか分からないのだ。
絶対に大丈夫だ、と太鼓判を押せるほど知っている奴なんて片手の指で余るだけ。疑心暗鬼に陥った朋也は森の中を乱雑に歩き回る。
命の危機にあって平然とできない、ごく普通の一般人なのだ。死にたくないし、怪我だってしたくない。
現実に命を狙われた以上、当然ながら恐怖と吐き気が全身に伝染する。息が荒かった、誰かに殺意ほどの悪意を持たれていることに吐きそうになる。
そんな思いを抱えている以上、平静に戻ることなんてできなかったのだ。
だから知人以外は皆、敵としか見れなかった。人間、腹の底で何を考えているか分からないのだ。
絶対に大丈夫だ、と太鼓判を押せるほど知っている奴なんて片手の指で余るだけ。疑心暗鬼に陥った朋也は森の中を乱雑に歩き回る。
ふと、夜の闇を見上げた。
真っ暗闇に月がひとつ。虫の鳴き声もしない不気味な森の中だ。
そう、ここは静寂であり、寂滅の森だった。人の存在すら感じられない。朋也の荒い息だけは自分の耳に帰ってくるのみ。
ここには今は自分しかいない、という安堵の溜息がそっと漏れた。
真っ暗闇に月がひとつ。虫の鳴き声もしない不気味な森の中だ。
そう、ここは静寂であり、寂滅の森だった。人の存在すら感じられない。朋也の荒い息だけは自分の耳に帰ってくるのみ。
ここには今は自分しかいない、という安堵の溜息がそっと漏れた。
「いいぃぃぃぃいやぁぁっ! あぁぁいむ、ロックンロォォォオオオルッ!!!」
「――――っつおッ……!!?」
「――――っつおッ……!!?」
寂滅はその名称のごとく、完全に消え失せた。
弛緩したはずの警戒心が、それで倍に膨れ上がる。咄嗟に近くにあった木を背にすると、朋也は右手に握った銃を力強く握り締めた。
父親との喧嘩で右肩から上にあがらない右腕だが、左手で撃つよりも照準は合わせやすい。
それに銃ならば、バットや剣みたいに振り上げる必要がない。垂直に向ければそれでいい。それで――人を殺す、人を殺せる。
弛緩したはずの警戒心が、それで倍に膨れ上がる。咄嗟に近くにあった木を背にすると、朋也は右手に握った銃を力強く握り締めた。
父親との喧嘩で右肩から上にあがらない右腕だが、左手で撃つよりも照準は合わせやすい。
それに銃ならば、バットや剣みたいに振り上げる必要がない。垂直に向ければそれでいい。それで――人を殺す、人を殺せる。
「……殺す、か」
死ぬ、死なない、殺す、殺さない。
そんな非日常に足を踏み入れつつある。冷静に考えられない頭でも、本能が現状を理解しつつある。
油断すれば死ぬ。食事も睡眠もできないだろう。いつ、木陰から銃弾が飛び込んでくるか恐ろしくてたまらないのだから。
自分だけじゃない、渚もだ。男である自分ですらこれなのだから、今頃渚はどうしているだろうか。怯えていないか、怖がっていないだろうか。
そうだ、渚だって殺されるかも知れない。どいつもこいつも、腹の中では何を考えているか分からない。渚の人の良さを利用する可能性も高い。
そんな非日常に足を踏み入れつつある。冷静に考えられない頭でも、本能が現状を理解しつつある。
油断すれば死ぬ。食事も睡眠もできないだろう。いつ、木陰から銃弾が飛び込んでくるか恐ろしくてたまらないのだから。
自分だけじゃない、渚もだ。男である自分ですらこれなのだから、今頃渚はどうしているだろうか。怯えていないか、怖がっていないだろうか。
そうだ、渚だって殺されるかも知れない。どいつもこいつも、腹の中では何を考えているか分からない。渚の人の良さを利用する可能性も高い。
――――俺が守ってやらないと。
朋也は木の影から、騒がしい男の姿を覗き見た。
異様な男だった。時刻は深夜から黎明にかかる時間、森の中を無用心にも騒ぎ立てながら行進する緑色の髪の男。
異様な男だった。時刻は深夜から黎明にかかる時間、森の中を無用心にも騒ぎ立てながら行進する緑色の髪の男。
「さぁて、どうするであるか。我輩とにかく大十字九郎あたりと合流できればこれ幸いなのであるがっ。
だけど簡単には仲間になってやらないのである! そう、例えば! 『まもののにく』など安いモノには惹かれないモンスターのように!
我輩を仲間にしたくば『くんせいにく』を通り越して『しもふりにく』をプレゼンするぐらいの心持を希望! いいから『ほねつきにく』で負けろって?
否、断じて否ぁあっ!! 我輩はこう見えても高級嗜好なのであ――――おおっと、怒ったからって紫色の肉を投げつけないでおくれよべいびぃぃいっ!!」
だけど簡単には仲間になってやらないのである! そう、例えば! 『まもののにく』など安いモノには惹かれないモンスターのように!
我輩を仲間にしたくば『くんせいにく』を通り越して『しもふりにく』をプレゼンするぐらいの心持を希望! いいから『ほねつきにく』で負けろって?
否、断じて否ぁあっ!! 我輩はこう見えても高級嗜好なのであ――――おおっと、怒ったからって紫色の肉を投げつけないでおくれよべいびぃぃいっ!!」
一人盛り上がる緑色の男、ドクターウェストを十秒間凝視した朋也の回答はひとつ。
奴はキチガイだ、きっとこの殺し合いに巻き込まれて気が触れてしまったに違いない。普段の朋也なら同情のひとつもしただろう。
だが、今の朋也にはそんな余裕などなかった。
気が触れてしまった男……きっと善悪の判断も、理性も倫理もなくしてしまった狂人なのだろう。
奴はキチガイだ、きっとこの殺し合いに巻き込まれて気が触れてしまったに違いない。普段の朋也なら同情のひとつもしただろう。
だが、今の朋也にはそんな余裕などなかった。
気が触れてしまった男……きっと善悪の判断も、理性も倫理もなくしてしまった狂人なのだろう。
(……殺さないと)
渚に危害を加える可能性のある人間は、全員殺す。
どうやってここから逃げようか、とかそんなことを考える余裕などない。先のことを考えて行動なんてできない。
目の前のことをひとつひとつ、やり遂げていこう。さしあたってまずは――――あの男の始末だ。
人を殺す覚悟はした、はずだ。指は禁忌を犯すことに震えているし、焦燥に駆られた脳裏の奥に残った理性は警鐘を鳴らしている。
どうやってここから逃げようか、とかそんなことを考える余裕などない。先のことを考えて行動なんてできない。
目の前のことをひとつひとつ、やり遂げていこう。さしあたってまずは――――あの男の始末だ。
人を殺す覚悟はした、はずだ。指は禁忌を犯すことに震えているし、焦燥に駆られた脳裏の奥に残った理性は警鐘を鳴らしている。
―――さあ、引き金を引け。
―――お前は渚を守るのだろうっ!? さあ、さあ、さあ、さあ、さあさあさあさあっ!!
―――お前は渚を守るのだろうっ!? さあ、さあ、さあ、さあ、さあさあさあさあっ!!
熱に浮かされた頭が敵の殺害を命じる。
命じられるまま、右腕を掲げた。そうだ、渚のためだ、と自身に言い聞かせて―――愛する人を免罪符にして。
命じられるまま、右腕を掲げた。そうだ、渚のためだ、と自身に言い聞かせて―――愛する人を免罪符にして。
「っ―――――!!」
引き金に力を込めた。
狙いは男の頭蓋。何が何でも一撃で殺すため、震える腕を覚悟という名の言い訳で押さえつけた。
だが、迷いがあったのだろう。心の中で激しい葛藤があったのだろう。
それは足元に集中を怠らせるには十分で、そして朋也の足元には枯れ木の枝があって、結局彼はそれに気づけるほど冷静ではなかった。
狙いは男の頭蓋。何が何でも一撃で殺すため、震える腕を覚悟という名の言い訳で押さえつけた。
だが、迷いがあったのだろう。心の中で激しい葛藤があったのだろう。
それは足元に集中を怠らせるには十分で、そして朋也の足元には枯れ木の枝があって、結局彼はそれに気づけるほど冷静ではなかった。
パキッ。
「っ――――誰であるかっ!?」
「―――ッ!!!」
「―――ッ!!!」
ウェストの叫び声と、乾いた音が森に木霊するのはほぼ同時。
僅かに早かったウェストの反応。そして、初めて撃った銃の反動が重なった。朋也の想定以上に銃というのは反動が高い。
命を奪うため疾走する銃弾はウェストの左に切れていき、背後の木に着弾する。
外した、と理解した瞬間、舌打ちする朋也。
本来、銃とは両手で構えて撃つものだ。狙いも頭ではなく、胸を狙っていればどこかには当たっただろう。だが、素人の朋也は気づけなかった。
だがめげることはない。狙撃は失敗した。ならば、もうなりふり構わず殺してやればいい。
僅かに早かったウェストの反応。そして、初めて撃った銃の反動が重なった。朋也の想定以上に銃というのは反動が高い。
命を奪うため疾走する銃弾はウェストの左に切れていき、背後の木に着弾する。
外した、と理解した瞬間、舌打ちする朋也。
本来、銃とは両手で構えて撃つものだ。狙いも頭ではなく、胸を狙っていればどこかには当たっただろう。だが、素人の朋也は気づけなかった。
だがめげることはない。狙撃は失敗した。ならば、もうなりふり構わず殺してやればいい。
「おのれぇええっ!! 我輩を襲うとは不届き千万、ハリセンボン!! 今すぐ我輩が天誅をぉぉお!!
かもん、エルザぁぁあっ! おっとエルザはいないのである、ならスーパーウェスト無敵ロボ29号ぉぉおおっ、もまだ現れないのであるっ!!
かもん、エルザぁぁあっ! おっとエルザはいないのである、ならスーパーウェスト無敵ロボ29号ぉぉおおっ、もまだ現れないのであるっ!!
あ、あれ……? 我輩、実は意外と大ピンチ? のんのんのん!! 我輩は肉体労働派ではないのである、少年、一時戦略的撤退を認めたまぇえ!!」
誰が認めるものか、と朋也は思う。
背中を見せて逃げ去ろうとするウェストの背中めがけて、もう一度発砲。
だが、どこで鍛えたのかウェストの逃げ足は速かった。ジグザグ走行お手の物、まるで銃から逃げる術など百も承知と言わんばかりだ。
結果的にもう一撃も外すことになる。苛立たしげにもう一度舌打ち、朋也は追跡を開始する。
背中を見せて逃げ去ろうとするウェストの背中めがけて、もう一度発砲。
だが、どこで鍛えたのかウェストの逃げ足は速かった。ジグザグ走行お手の物、まるで銃から逃げる術など百も承知と言わんばかりだ。
結果的にもう一撃も外すことになる。苛立たしげにもう一度舌打ち、朋也は追跡を開始する。
「ちっ……あいつは何処の台所の嫌われ者だっ……!」
もちろん、逃がすつもりなど毛頭ない―――!
◇ ◇ ◇ ◇
ええい、何故にこんなことになってしまったのであるかーーっ!!
我輩は華麗に銃弾を避けるスーパーウェストジグザグ走行で弾丸を避けながら、そんなことを思うわけである。
ひとしきり騒いだものの、誰も近づかない寂しさに一夏の寂しさを覚えた我輩は、情報と器具を集めるために歩いていたのだ。
その間、大十字九郎が仲間になってくれ、と頼み込まれたときのシチュエーションを108式用意していた我輩。
そして、そんなクールで萌えな我輩に訪れる危機! 危難! 危険!! えっ、どれも同じだって? 固いこと言うものではないのである。
ひとしきり騒いだものの、誰も近づかない寂しさに一夏の寂しさを覚えた我輩は、情報と器具を集めるために歩いていたのだ。
その間、大十字九郎が仲間になってくれ、と頼み込まれたときのシチュエーションを108式用意していた我輩。
そして、そんなクールで萌えな我輩に訪れる危機! 危難! 危険!! えっ、どれも同じだって? 固いこと言うものではないのである。
そんな我輩、ただいま絶好ピンチ状態。誰かにアピールできるいいチャンス? だが回りには誰もいないのである!!
元々肉体労働よりも頭脳労働を資本とするのだが、こうなればしょうがない。
この我輩の世界一は頭脳だけではないことを証明して、きゃーー、ウェスト様素敵、結婚してロボーッ!! とか言わせてみせるのであるっ!
うん、何故か我が最愛のエルザに脳内変換されたような気がしたが、そこはそれノープロブレムぅぅううううっ!!
元々肉体労働よりも頭脳労働を資本とするのだが、こうなればしょうがない。
この我輩の世界一は頭脳だけではないことを証明して、きゃーー、ウェスト様素敵、結婚してロボーッ!! とか言わせてみせるのであるっ!
うん、何故か我が最愛のエルザに脳内変換されたような気がしたが、そこはそれノープロブレムぅぅううううっ!!
我輩の支給品は魔道奏器!
残念ながら我輩のように魔力のない人間には、忌々しいながらも使えないのである! むむう、なんともジェラシィイーーッ!!
駄菓子、菓子! いや! だが、しかし!
我輩のように大・天・才ッ!! このドクターウェストに支給されたものはそれだけではないのであるっ!!
さあ、目にもの見よ! この我輩に相応しかろう、ビッグでキュートでロックンロールな支給品をっ!!
残念ながら我輩のように魔力のない人間には、忌々しいながらも使えないのである! むむう、なんともジェラシィイーーッ!!
駄菓子、菓子! いや! だが、しかし!
我輩のように大・天・才ッ!! このドクターウェストに支給されたものはそれだけではないのであるっ!!
さあ、目にもの見よ! この我輩に相応しかろう、ビッグでキュートでロックンロールな支給品をっ!!
「さあ、これなどどうであるかッ!?」
デイパックから取り出したのは……Tシャツ?
何であるか、これは。白いシャツに穢れも知らない女の子がキュートに投影されていて、あら素敵……じゃないのであるっ!!
ファッキン、主催者! この大天才ドクターウェストへの警戒心の表れであるなぁー!? ぶっちゃけ殺し合いには役に立たねえええええっ!!
ええい、思わずいつもの口調すら剥離した突っ込みになったのである。
何であるか、これは。白いシャツに穢れも知らない女の子がキュートに投影されていて、あら素敵……じゃないのであるっ!!
ファッキン、主催者! この大天才ドクターウェストへの警戒心の表れであるなぁー!? ぶっちゃけ殺し合いには役に立たねえええええっ!!
ええい、思わずいつもの口調すら剥離した突っ込みになったのである。
パァン、パァンッ!!
わぁあああああいっ!!?
おのれ、この我輩にあと数cmミリ切り上げで弾丸が当たるところである! 断固、拒否拒否きょーーーーひッ!!
こうなれば我輩に残された最後の支給品に賭けるしかないのであるな!
さあ、さあさあさあ!! 我輩に残されたクジ運よっ、今こそ飛翔して空中三回転、螺旋力覚醒して奇跡を……うん、違うであるか?
おのれ、この我輩にあと数cmミリ切り上げで弾丸が当たるところである! 断固、拒否拒否きょーーーーひッ!!
こうなれば我輩に残された最後の支給品に賭けるしかないのであるな!
さあ、さあさあさあ!! 我輩に残されたクジ運よっ、今こそ飛翔して空中三回転、螺旋力覚醒して奇跡を……うん、違うであるか?
ええい、兎にも角にも何でもいいのである!
さあ、出てくるがいい我輩を勝利に導く伝説の武器あたりでもっ!! この一億二千年前から愛され続けた我輩のために!!
さあ、出てくるがいい我輩を勝利に導く伝説の武器あたりでもっ!! この一億二千年前から愛され続けた我輩のために!!
「…………………………バット」
…………………………………………
………………………………………………くぁぁあああああああああああっ!!!
バット、ばっと、BAD!! 英語の綴りが違う? NO! 断じてNOォォオッ!! むしろバッド! 悪いに決まっているのである!
せめてハズレにするにももっと派手なものよこせ、であーる! そしてバットをつけるならボールを付けるべきではないのであるかっ!?
泥まみれのユニホーム、光る汗、活気のある声援、白球を追いかける球児たち……それぐらい再現して見せろよボケぇぇえええええッ!!!
………………………………………………くぁぁあああああああああああっ!!!
バット、ばっと、BAD!! 英語の綴りが違う? NO! 断じてNOォォオッ!! むしろバッド! 悪いに決まっているのである!
せめてハズレにするにももっと派手なものよこせ、であーる! そしてバットをつけるならボールを付けるべきではないのであるかっ!?
泥まみれのユニホーム、光る汗、活気のある声援、白球を追いかける球児たち……それぐらい再現して見せろよボケぇぇえええええッ!!!
ちなみに、どうして我輩が夢の甲子園を知っているのか、などと聞くのは野暮であるぞ?
良い子と我輩との約束なのである、まる。
良い子と我輩との約束なのである、まる。
パァンッ!!
わぁぁあああああああああいッ!!!?
◇ ◇ ◇ ◇
「ちっ……くねくね、ちょこまかと!」
追跡しながら、朋也は逃亡するウェストの背中に狙いをつける。
普通なら簡単に仕留められそうなはずなのに、あのキチガイ男の逃げ足の速さと言えば漫画の小悪党のようだ。
追っている間も黒いバッグを漁っているかと警戒していれば、オタクTシャツなどを取り出して騒ぎ立てている。
まあ、銃とかを取り出されるよりもずっといいだろ、と思って狙いをつける。段々、銃を撃つことにも慣れてきた。
普通なら簡単に仕留められそうなはずなのに、あのキチガイ男の逃げ足の速さと言えば漫画の小悪党のようだ。
追っている間も黒いバッグを漁っているかと警戒していれば、オタクTシャツなどを取り出して騒ぎ立てている。
まあ、銃とかを取り出されるよりもずっといいだろ、と思って狙いをつける。段々、銃を撃つことにも慣れてきた。
こうして、真っ直ぐに落ち着いて引き金を引けばいい。
落ち着いて撃てば外れるはずがない。だけど、ドクターウェストは背中を見せながらもうまく銃弾を避ける。
朋也が撃ち慣れてないだけではなかった。ドクターウェストは大黄金時代にして大暗黒時代たるアーカムシティで悪事を働いていた男だ。
銃撃戦など数えられないほど経験したのだ。ならば、この深い森の中、素人の撃つ銃など当たるはずがない。
落ち着いて撃てば外れるはずがない。だけど、ドクターウェストは背中を見せながらもうまく銃弾を避ける。
朋也が撃ち慣れてないだけではなかった。ドクターウェストは大黄金時代にして大暗黒時代たるアーカムシティで悪事を働いていた男だ。
銃撃戦など数えられないほど経験したのだ。ならば、この深い森の中、素人の撃つ銃など当たるはずがない。
「くそっ……!」
もう一撃、放たれた銃弾は脇を掠めて横に逸れる。
こうなれば撃てるだけ連射してやろうか、と引き金を力を込めて……かちり、と空砲。弾丸が切れたことに気づいた。
朋也には冷静さが足りなかったのだ。ちょっと考えれば、弾がなくなることなど思い至れただろうに。
そして、それを狙わないドクターウェストではなかった。常に命の危機を感じざるを得ないアーカムシティは、場数という最高の経験をもたらしている。
こうなれば撃てるだけ連射してやろうか、と引き金を力を込めて……かちり、と空砲。弾丸が切れたことに気づいた。
朋也には冷静さが足りなかったのだ。ちょっと考えれば、弾がなくなることなど思い至れただろうに。
そして、それを狙わないドクターウェストではなかった。常に命の危機を感じざるを得ないアーカムシティは、場数という最高の経験をもたらしている。
「今なのである!」
接近してくるドクターウェスト、打って変わって放たれた弾丸のように朋也との距離を詰める。
その手にもったのはバット。朋也の顔が驚愕と混乱に彩られる。
弾丸を装填すれば、という誘惑があった。それでまた自分の優位を取り戻すことができるのだから。
その手にもったのはバット。朋也の顔が驚愕と混乱に彩られる。
弾丸を装填すれば、という誘惑があった。それでまた自分の優位を取り戻すことができるのだから。
「うっ……ぉおおおおおおおおおっ!!!」
だが、朋也は敢えて銃を捨てた。
デイパックに手を突っ込む。冷静になれない思考の何処かで、接近されたときのことを考えていたのだろうか。
ウェストが振り上げられたバットに叩きつけるように、朋也は利き腕ではない左腕で『それ』を掴むと、力任せに一閃した。
デイパックに手を突っ込む。冷静になれない思考の何処かで、接近されたときのことを考えていたのだろうか。
ウェストが振り上げられたバットに叩きつけるように、朋也は利き腕ではない左腕で『それ』を掴むと、力任せに一閃した。
その支給品の名を、フカヒレのギターという。
ドクターウェストの顔が今度は驚愕に彩られた。
音楽好きな彼にとって、楽器は喉から手が出るほど欲しい支給品だった。
バットとギターが交錯する。ハードロックも顔負けの耳に響く破壊音が森に木霊し、バットはその威力を遺憾なく発揮してギターを叩き壊した。
音楽好きな彼にとって、楽器は喉から手が出るほど欲しい支給品だった。
バットとギターが交錯する。ハードロックも顔負けの耳に響く破壊音が森に木霊し、バットはその威力を遺憾なく発揮してギターを叩き壊した。
「のっ……NOォォォォォォォォオオオオオオッ!!!!」
目の前で、自分の手で壊してしまう楽器。
破片が飛び散り、一種の幻想的な光景にウェストが一瞬だけ呆然とするのを確認し、朋也は拳に力を込める。
無防備なウェストの腹に一撃。確かな手ごたえを感じた。
ごぼっ、っと息を吐くウェストに今度は飛び蹴り。これも手ごたえがあった。
破片が飛び散り、一種の幻想的な光景にウェストが一瞬だけ呆然とするのを確認し、朋也は拳に力を込める。
無防備なウェストの腹に一撃。確かな手ごたえを感じた。
ごぼっ、っと息を吐くウェストに今度は飛び蹴り。これも手ごたえがあった。
手ごたえはあったのだ。だが、それでも朋也は勝てなかった。
「しゃらくせぇぇええええのであるっ!!」
「ぐあっ……!?」
「ぐあっ……!?」
並の不良なら確実に落ちていた一撃を受けてなお、ドクターウェストにダメージはない。
これが場数の差というものだ。ドクターウェストの調子が万全ならば、ビルの倒壊からだって生き残ることができる。
高校時代、不良として堕落と怠惰のまま生きてきた岡崎朋也。
悪の秘密結社として、悪人としてアーカムシティそのものに喧嘩を売ってきたドクターウェスト。生き様の違いがここにある。
これが場数の差というものだ。ドクターウェストの調子が万全ならば、ビルの倒壊からだって生き残ることができる。
高校時代、不良として堕落と怠惰のまま生きてきた岡崎朋也。
悪の秘密結社として、悪人としてアーカムシティそのものに喧嘩を売ってきたドクターウェスト。生き様の違いがここにある。
「この大天才、ドクターウェストはクールに肉弾戦もこなせるのである!! 実は我輩もちょっぴりびっくり」
「くっそ、がぁぁあああああああっ!!」
「くっそ、がぁぁあああああああっ!!」
一撃、同じく腹に受けた拳で朋也の視界は暗転しかけた。
本能が激情に駆られたまま、ドクターウェストに飛び掛ろうとするのを全力で理性と常識が押さえ込んだ。
ここで大怪我をしてはならない。こんなところで死んではならない。
あくまで岡崎朋也の目的は古河渚と合流し、そして守ることだ。ここでこんな規格外のキチガイと相対することではない。
本能が激情に駆られたまま、ドクターウェストに飛び掛ろうとするのを全力で理性と常識が押さえ込んだ。
ここで大怪我をしてはならない。こんなところで死んではならない。
あくまで岡崎朋也の目的は古河渚と合流し、そして守ることだ。ここでこんな規格外のキチガイと相対することではない。
判断は一瞬、朋也は力を込めた蹴りでウェストを蹴り飛ばすと、捨てた銃を回収して背を向ける。
弾丸を装填する暇さえあればいいのだが、そんな余裕は残念ながらない。
弾丸を装填する暇さえあればいいのだが、そんな余裕は残念ながらない。
「うぬう!? 待つである、そこの若人っ!! ここまでやっておいて逃げるなどお天道様ならびにこの世紀の大・天・才!! ドクタ―――」
背後から聞こえる声など、もはや無視して。
朋也は森の中、真っ直ぐに退却していった。背後の敵に追いつかれないように。
朋也は森の中、真っ直ぐに退却していった。背後の敵に追いつかれないように。
「おのれえ、この我輩に楽器を破壊させるなどなんと! なんと酷いことをしてくれたのであるかぁぁあっ!!
すまぬである、愛しき楽器、この世すべての我が癒しよ。あの極悪非道卑怯千万なる若人の手にかかるなど、さぞかし無念であっただろう。
おっと、こうしてはおれんのである。かつて大十字九郎との勝負ではお約束のごとく負け続けた我輩ではあるが。
今は久しぶりの勝利の余韻に浸ってなどおれないわけであるので、我輩はギターの仇を討つため、追跡して天誅をォォォォオオオッ!!!」
すまぬである、愛しき楽器、この世すべての我が癒しよ。あの極悪非道卑怯千万なる若人の手にかかるなど、さぞかし無念であっただろう。
おっと、こうしてはおれんのである。かつて大十字九郎との勝負ではお約束のごとく負け続けた我輩ではあるが。
今は久しぶりの勝利の余韻に浸ってなどおれないわけであるので、我輩はギターの仇を討つため、追跡して天誅をォォォォオオオッ!!!」
その背後を、猛烈に追いかけるドクターウェスト。
朋也は一瞬だけ背後を見るが、どうやらかなり距離はある様子。最初のスタートダッシュとウェストのギター回収によるタイムラグだ。
十分に逃げ切れる、そう確信しながら朋也は森の中を走る。
朋也は一瞬だけ背後を見るが、どうやらかなり距離はある様子。最初のスタートダッシュとウェストのギター回収によるタイムラグだ。
十分に逃げ切れる、そう確信しながら朋也は森の中を走る。
荒い息をついて激走する朋也の脳裏に、ひとつの願い――――どうか、知人と合流できますように。
◇ ◇ ◇ ◇
「ひい……!」
少女、藤林杏はその場を一歩も動けなかった。
響く銃声、そして誰かの雄たけび、唸り声、怒号、悲鳴、その他もろもろが耳を塞ぐ両手を貫いて脳に届く。
怖い、怖い、怖い。
涙が滲んでくる。あれから一時間ちょっと。恐怖で絞りつくしたはずの涙腺をまた刺激されている。
響く銃声、そして誰かの雄たけび、唸り声、怒号、悲鳴、その他もろもろが耳を塞ぐ両手を貫いて脳に届く。
怖い、怖い、怖い。
涙が滲んでくる。あれから一時間ちょっと。恐怖で絞りつくしたはずの涙腺をまた刺激されている。
怖い、誰か助けて。
怖い、誰も近づかないで。
怖い、誰も近づかないで。
響く銃声が怖かった。
誰かの叫びが怖かった。
いきなり訪れる静寂が怖かった。
この世に存在する杏を取り巻く環境すべてが怖かった。
誰かの叫びが怖かった。
いきなり訪れる静寂が怖かった。
この世に存在する杏を取り巻く環境すべてが怖かった。
そして、近づいてくる足音が怖かった。
(え……足音……?)
足音。
足音とは何か。人が近づいてくる証拠だ。
誰が近づいてくる?
それはもちろん―――――殺し合いをしていた奴らの片割れだろう、そう――――お 前 を 殺 し に 来 た ん だ 。
足音とは何か。人が近づいてくる証拠だ。
誰が近づいてくる?
それはもちろん―――――殺し合いをしていた奴らの片割れだろう、そう――――お 前 を 殺 し に 来 た ん だ 。
「あっ……」
恐怖が、ぬらぬらと迫ってくる。
足音は、どんどん大きくなっていく。
藤林杏を、首をなくした彼らのように殺すために。
殺しに来たんだ、自分を。一人殺して、そして次は自分の出番なんだ、この足音は死神のものなんだ。
足音は、どんどん大きくなっていく。
藤林杏を、首をなくした彼らのように殺すために。
殺しに来たんだ、自分を。一人殺して、そして次は自分の出番なんだ、この足音は死神のものなんだ。
嫌だ。
嫌だ、怖い、辛い、痛い。
助けて―――――誰が助けるものか。
近づかないで―――――ほら、足音はすぐ近くまで……
嫌だ、怖い、辛い、痛い。
助けて―――――誰が助けるものか。
近づかないで―――――ほら、足音はすぐ近くまで……
「ああああっ……」
足腰が立たなくなっていた、逃げられない。
鼻からの出血など気にならない。酷い捻挫で退却などという手段はもう失われている。
なら、手段はひとつだけ。
無我夢中でデイパックを漁る。振り乱した髪に慎みはない、怯えきった表情にいつもの勝気な姿はない。
ただ死にたくなかったから、藤林杏は支給された銃を構えただけだ。
鼻からの出血など気にならない。酷い捻挫で退却などという手段はもう失われている。
なら、手段はひとつだけ。
無我夢中でデイパックを漁る。振り乱した髪に慎みはない、怯えきった表情にいつもの勝気な姿はない。
ただ死にたくなかったから、藤林杏は支給された銃を構えただけだ。
「いやっ、いやぁっ……来ないで……近づかないで……!」
冷たい地面の上にへたり込んだまま、必死に杏は懇願する。
誰も私に構わないでほしい、と。だってそうすれば、誰にも殺されることはない。こんな恐怖もなくなってくれるのだから。
その願いを打ち砕くように足音は大きく、近く、着実に進行していき……そして、ついに人影が飛び出してきた。
背後から耳元に囁くように、恐怖がそっと嘲笑って告げた。
誰も私に構わないでほしい、と。だってそうすれば、誰にも殺されることはない。こんな恐怖もなくなってくれるのだから。
その願いを打ち砕くように足音は大きく、近く、着実に進行していき……そして、ついに人影が飛び出してきた。
背後から耳元に囁くように、恐怖がそっと嘲笑って告げた。
――――殺 人 鬼 が 殺 し に 来 た ぞ 。
「はあ、はあ……――――ッ!! き、きょ――――!」
「嫌ァァァァアアアアアアアアアアッ!!!」
「嫌ァァァァアアアアアアアアアアッ!!!」
それが杏に残された理性を完全に吹っ飛ばした。
両腕が握り締めていた凶器、黒い銃口が火を噴いた。黎明の森に響き渡る破裂音。
杏は瞳を瞑って現実から逃避した。
だからその一瞬、自分のしたことに気づけなかった。
両腕が握り締めていた凶器、黒い銃口が火を噴いた。黎明の森に響き渡る破裂音。
杏は瞳を瞑って現実から逃避した。
だからその一瞬、自分のしたことに気づけなかった。
初めて撃った銃の衝撃が、一瞬だけ杏を現実へと帰還させた。
目を開ける。
そこには青年がいた。信じられない、と目を見開いたまま杏の顔を呆然と見ている、少女の好きな人がいた。
目を開ける。
そこには青年がいた。信じられない、と目を見開いたまま杏の顔を呆然と見ている、少女の好きな人がいた。
「あ……?」
呆然と声を漏らす。
目の前に岡崎朋也が立っていた。自分が好きな人で、自分の双子の妹が好きな人。
彼もまた呆然としていた。杏と違っているところは、彼の表情は苦痛に歪み……そして、彼の右肩には止め処ないように血が溢れていた。
青年の顔つきが変わった。放心状態から、確実な殺意へと変わったのが分かった。
目の前に岡崎朋也が立っていた。自分が好きな人で、自分の双子の妹が好きな人。
彼もまた呆然としていた。杏と違っているところは、彼の表情は苦痛に歪み……そして、彼の右肩には止め処ないように血が溢れていた。
青年の顔つきが変わった。放心状態から、確実な殺意へと変わったのが分かった。
「朋、也……?」
「……お前もか」
「……お前もか」
短い会話だった、彼らはそれだけしか残せなかった。
疑いようもなく、杏は朋也を傷つけてしまったのだ。
彼の右腕があがらないことは知っている。だけど、もしかしたらという一縷の望みはあった。またバスケが出来たかも知れない。
だが、その唯一の可能性を杏は奪った。杏が撃った銃弾は朋也の肩を貫き、二度と使い物にならなくしてしまったのだ。
疑いようもなく、杏は朋也を傷つけてしまったのだ。
彼の右腕があがらないことは知っている。だけど、もしかしたらという一縷の望みはあった。またバスケが出来たかも知れない。
だが、その唯一の可能性を杏は奪った。杏が撃った銃弾は朋也の肩を貫き、二度と使い物にならなくしてしまったのだ。
やがて朋也は右肩を抑えたまま、森の奥へと消えていった。もう杏のことなど眼中にもなかった。
好きな人が自分に向けた視線は、失望と侮蔑と怨嗟しかこもっていなかった。
好きな人が自分に向けた視線は、失望と侮蔑と怨嗟しかこもっていなかった。
「あっ……あああ……! 朋也……朋也、朋也ぁああっ!!!」
その瞳を受けてようやく。
藤林杏は岡崎朋也の大切な何かを破壊してしまったのだ、ということを受け入れた。
もう二度と、彼とは並んで歩けないことを理解してしまった。
藤林杏は岡崎朋也の大切な何かを破壊してしまったのだ、ということを受け入れた。
もう二度と、彼とは並んで歩けないことを理解してしまった。
「朋也っ……!! うっ……うぁぁあああああああああああっ!!!!」
絶望の叫びが響く。
恐怖が、己の弱さが、彼らを繋ぐ糸を切ってしまったことを後悔して。
恐怖が、己の弱さが、彼らを繋ぐ糸を切ってしまったことを後悔して。
自分のせいだ、自分が何もかもを恐れてしまったからだ。
恐慌状態に陥った杏の弱さが、ついには好きな人と決別してしまうという結末を迎える。
ひとつの縁が完全に切れて、ようやく杏は正気を取り戻した。
大切なものを犠牲にした結果、ようやく藤林杏は現実を直視する機会を与えられたのだ。
恐慌状態に陥った杏の弱さが、ついには好きな人と決別してしまうという結末を迎える。
ひとつの縁が完全に切れて、ようやく杏は正気を取り戻した。
大切なものを犠牲にした結果、ようやく藤林杏は現実を直視する機会を与えられたのだ。
泣き叫び、許しを乞う少女を静かに見つめる影がひとつ。
朋也を追跡していたドクターウェストは、柄にもない複雑な表情を浮かべながら、杏の嘆く姿を見つめることしかできなかった。
朋也を追跡していたドクターウェストは、柄にもない複雑な表情を浮かべながら、杏の嘆く姿を見つめることしかできなかった。
「……ふん。出ていけんのである」
恐らく、彼女が泣き止んだとき、きっと彼女は現実に立ち向かえるだろう。
己の弱さが岡崎朋也との絆を殺した。それをちゃんと後悔して受け止めれば……この悲しい再会だって、きっと無駄ではないのだから。
ウェストは時間をおいて、少女の嗚咽が掠れ声になるのを待つと同時に、少女の背後に声をかけた。
己の弱さが岡崎朋也との絆を殺した。それをちゃんと後悔して受け止めれば……この悲しい再会だって、きっと無駄ではないのだから。
ウェストは時間をおいて、少女の嗚咽が掠れ声になるのを待つと同時に、少女の背後に声をかけた。
「……少し、いいであるか?」
「っ……ぐっ……う……」
「っ……ぐっ……う……」
びくり、と身体を震わせた杏は背後を振り返り、男の姿を確認すると……やがて、ゆっくりと首を縦に振った。
【D-4 深い森 黎明】
【藤林杏@CLANNAD】
【装備】:コルト M1917(5/6)
【所持品】:支給品一式、予備弾30、ランダム支給品0~2(未確認)
【状態】:右手首に重度の捻挫、鼻からの出血は止まりました、掌と膝にひどい擦過傷。
【思考・行動】
基本:ごめん……ごめん
0:朋也……
1:目の前の男(ドクターウェスト)に応対する
【装備】:コルト M1917(5/6)
【所持品】:支給品一式、予備弾30、ランダム支給品0~2(未確認)
【状態】:右手首に重度の捻挫、鼻からの出血は止まりました、掌と膝にひどい擦過傷。
【思考・行動】
基本:ごめん……ごめん
0:朋也……
1:目の前の男(ドクターウェスト)に応対する
【備考】
※捻挫は専門知識による治療が必要です。
※現在、多少なりとも冷静さを取り戻しました。
※捻挫は専門知識による治療が必要です。
※現在、多少なりとも冷静さを取り戻しました。
【ドクター・ウェスト@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:秋夫のバット@CLANNAD、フォルテール(リセ)
【所持品】支給品一式 、ウラジミールのTシャツ@あやかしびと -幻妖異聞録-、フカヒレのギター(破損)@つよきす -Mighty Heart-
【思考・行動】
基本方針:我輩の科学力は次元一ィィィィーーーーッ!!!!
0:目の前の少女(杏)と情報交換。その後、どうするかは決めてない
1:設備・器具の入手
2:首輪のサンプルが欲しい
3:首輪の解除
4:フォルテールをあらゆる手を使って弾いてみせる
5:誰か人と合流したい(ティトゥス以外)
6:目の前の少女と襲ってきた少年が元からの知り合いであると推測
【装備】:秋夫のバット@CLANNAD、フォルテール(リセ)
【所持品】支給品一式 、ウラジミールのTシャツ@あやかしびと -幻妖異聞録-、フカヒレのギター(破損)@つよきす -Mighty Heart-
【思考・行動】
基本方針:我輩の科学力は次元一ィィィィーーーーッ!!!!
0:目の前の少女(杏)と情報交換。その後、どうするかは決めてない
1:設備・器具の入手
2:首輪のサンプルが欲しい
3:首輪の解除
4:フォルテールをあらゆる手を使って弾いてみせる
5:誰か人と合流したい(ティトゥス以外)
6:目の前の少女と襲ってきた少年が元からの知り合いであると推測
【備考】
※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています。
※ティトゥス、襲ってきた少年(岡崎朋也)を警戒しています。
※フォルテールをある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。
※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています。
※ティトゥス、襲ってきた少年(岡崎朋也)を警戒しています。
※フォルテールをある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。
◇ ◇ ◇ ◇
「うっ……ぐっ……っ……」
出血の多さに眩暈がする。
ずるずると下がりきった右腕を押さえながら、岡崎朋也は張り裂けそうな胸の痛みを強引に飲み込んだ。
身体が痛かったし、心も痛かった。
悔しい、悲しい、辛い、涙が出るほどに腹立たしくて、憎らしくて、でもやっぱり悲しかった。
ずるずると下がりきった右腕を押さえながら、岡崎朋也は張り裂けそうな胸の痛みを強引に飲み込んだ。
身体が痛かったし、心も痛かった。
悔しい、悲しい、辛い、涙が出るほどに腹立たしくて、憎らしくて、でもやっぱり悲しかった。
あのとき、あの緑色の髪の男……本人はドクターウェストなどと言っていたが、あの男から逃げていたとき。
偶然、友人の杏を見つけた。初めての知り合いとの邂逅が嬉しかった。
見つけて、杏と確認した瞬間、信用できる仲間の存在に涙腺が緩むほどだった。本当にその再会は祝福されるべきものだった。
偶然、友人の杏を見つけた。初めての知り合いとの邂逅が嬉しかった。
見つけて、杏と確認した瞬間、信用できる仲間の存在に涙腺が緩むほどだった。本当にその再会は祝福されるべきものだった。
だが、それは自分の幻想だったらしい。
叩きつけられた拒絶の言葉、自分の右肩を穿った弾丸、激痛と共に告げられた……別離。
叩きつけられた拒絶の言葉、自分の右肩を穿った弾丸、激痛と共に告げられた……別離。
「くそっ……!」
銃を持った、ロングストレートの髪の少女。
それがさっきまでの杏の姿と酷似していた。それだけではない、彼女は近づくな、と言った。友人であるはずの自分を問答無用で撃った。
やましいことがあるのだ。例えば、さっき銃で狙ってきた女と杏は同一人物であったりなど。
なるほど、そうか―――――杏は俺を殺そうとしたのか。
生き残るために、死にたくないから殺し合いに乗ったのか。それに思い至った瞬間、朋也の歩きながら歯を噛み締めた。
それがさっきまでの杏の姿と酷似していた。それだけではない、彼女は近づくな、と言った。友人であるはずの自分を問答無用で撃った。
やましいことがあるのだ。例えば、さっき銃で狙ってきた女と杏は同一人物であったりなど。
なるほど、そうか―――――杏は俺を殺そうとしたのか。
生き残るために、死にたくないから殺し合いに乗ったのか。それに思い至った瞬間、朋也の歩きながら歯を噛み締めた。
「……杏……」
自分を撃った藤林杏が憎かった、友人だったはずの自分を拒絶した彼女を恨んだ。
だが、それすらも悲しかった、虚しかった。
彼女は生きたいのだ。この地獄の中に突然放り出されて、必死に生き足掻いているだけに過ぎないのだ。
朋也とて気持ちが理解できる。生きたい、死にたくない、怖い、痛い、そんな感情は朋也自身だって感じていたのだから。
だが、それすらも悲しかった、虚しかった。
彼女は生きたいのだ。この地獄の中に突然放り出されて、必死に生き足掻いているだけに過ぎないのだ。
朋也とて気持ちが理解できる。生きたい、死にたくない、怖い、痛い、そんな感情は朋也自身だって感じていたのだから。
だから、恨むものか。
決して裏切った友人を憎みはしない。憎しみのまま、生き足掻く彼女の人生は奪えない。
だけど、もしも相対することがあれば……杏が優勝を目指して、渚に危害を加えようというのなら。
決して裏切った友人を憎みはしない。憎しみのまま、生き足掻く彼女の人生は奪えない。
だけど、もしも相対することがあれば……杏が優勝を目指して、渚に危害を加えようというのなら。
この手で友人を撃ち殺そう。
(俺は杏とは違う……俺は、渚のために戦うんだ……!)
もはや知り合いで頼れるのは、渚の実の父親である秋夫だけだ。
合流するまでは自分が戦わなければ。渚を、大切な人を守るために。あのどんくさい彼女を、守るために。
合流するまでは自分が戦わなければ。渚を、大切な人を守るために。あのどんくさい彼女を、守るために。
(痛っ……)
激痛が右肩を刺激する。
決別の銃弾は肩を貫いているらしい。生きるために必要な血液がどんどん抜けていく。
簡単な応急処置はしたものの、右腕はろくに動かないだろう。どの道、肩から上にあがらなかったのだ、問題ない。
左手で戦えばいい。握られたコルト・パイソンに震える右手で支えながら、改めて弾丸を装填する。
決別の銃弾は肩を貫いているらしい。生きるために必要な血液がどんどん抜けていく。
簡単な応急処置はしたものの、右腕はろくに動かないだろう。どの道、肩から上にあがらなかったのだ、問題ない。
左手で戦えばいい。握られたコルト・パイソンに震える右手で支えながら、改めて弾丸を装填する。
片手では銃弾の装填には少し手間を取る。
どうやら一回の戦闘で使えるのは六発まで、と考えたほうが良さそうだ。それを心に留めて、朋也は歩く。
どうやら一回の戦闘で使えるのは六発まで、と考えたほうが良さそうだ。それを心に留めて、朋也は歩く。
(渚……力を貸してくれ)
懐に入った最後の支給品。
愛する彼女のお気に入りのアイドル。だんご、だんご、だんご、だんご、だんご、だんご、大家族。
十本あるうちのひとつを口にして、一昔前に流行って、そして廃れてしまった歌を口ずさんだ。
少しだけ心が洗われたような気分になる。こんな効力があるのなら、もう少し真面目に渚のだんご大家族に付き合ってやってもよかったか。
愛する彼女のお気に入りのアイドル。だんご、だんご、だんご、だんご、だんご、だんご、大家族。
十本あるうちのひとつを口にして、一昔前に流行って、そして廃れてしまった歌を口ずさんだ。
少しだけ心が洗われたような気分になる。こんな効力があるのなら、もう少し真面目に渚のだんご大家族に付き合ってやってもよかったか。
「……ん?」
そんな和やかな歌を掻き消すように、朋也の耳に届いたものがあった。
聞こえてきたのはピアノの旋律。心を奪われそうな綺麗な音が、朋也を誘うように連れて行く。
訪れたのは中世西洋風の街。
荘厳なる大聖堂の門の前に、朋也は立っていた。
聞こえてきたのはピアノの旋律。心を奪われそうな綺麗な音が、朋也を誘うように連れて行く。
訪れたのは中世西洋風の街。
荘厳なる大聖堂の門の前に、朋也は立っていた。
(………………)
渚のために。
獲物を狙い打つ狩人のごとく、朋也はゆっくりと大聖堂へと歩み始めた。
獲物を狙い打つ狩人のごとく、朋也はゆっくりと大聖堂へと歩み始めた。
【E-3 大聖堂前 黎明】
【岡崎朋也@CLANNAD】
【装備】コルト・パイソン(6/6)
【所持品】支給品一式、、357マグナム弾24、だんご9本(家族だんご)@CLANNAD
【状態】身体的疲労中、右肩に銃創(応急処置済み)、元から右肩から上にあがらない状態、渚中心の思考
【思考・行動】
0:杏……
1:大聖堂の中にいる敵を……倒す
2:渚を見つけて守る。知らない奴は殺す
3:その後の事を考えるという発想がない程に、平静ではない
【装備】コルト・パイソン(6/6)
【所持品】支給品一式、、357マグナム弾24、だんご9本(家族だんご)@CLANNAD
【状態】身体的疲労中、右肩に銃創(応急処置済み)、元から右肩から上にあがらない状態、渚中心の思考
【思考・行動】
0:杏……
1:大聖堂の中にいる敵を……倒す
2:渚を見つけて守る。知らない奴は殺す
3:その後の事を考えるという発想がない程に、平静ではない
【補足】
※渚ルート文化祭以降より召集
※ドクターウェスト、藤林杏を警戒
※自分を狙撃した女=藤林杏だと思い込んでいます
※渚ルート文化祭以降より召集
※ドクターウェスト、藤林杏を警戒
※自分を狙撃した女=藤林杏だと思い込んでいます
032:月光カプリッチオ | 投下順 | 034:True Love Story/堕落のススメ |
028:ドゥー・ユー・リメンバー・ミー | 時系列順 | |
010:Let's Play? | ドクターウェスト | 041:GET TO BURNING |
017:彼等の本気 | 岡崎朋也 | 040:蒼い鳥に誘われて |
006:Piova | 藤林杏 | 041:GET TO BURNING |