「うおおおおぉぉ──!!」

気合いと共に振るわれた陽介の拳がクラウドの頬を殴り抜く。
大きく後退するクラウドを追うように今度は逆の拳が肋に突き刺さる。血を吐くクラウドはしかし怯まずに反撃の蹴りを腹に叩き込んだ。

重い咳で空気を吐き出し陽介はがむしゃらに掴みかかる。そのまま頭突きを繰り出し、屈み込んでがら空きになった腹へ膝蹴りを浴びせ、突き飛ばした。
尻餅をつくクラウドへ追い討ちを決めようとふらつく足を掲げるが、これより先にクラウドが転がり陽介の足は瓦礫を崩すだけに終わる。
反撃を警戒し咄嗟に両腕を交差させ顔の前に持っていく。が、形のなっていないクラウドのローキックが陽介の左腿を打ち抜き無意味と化す。
苦悶の呻きを上げ足を押さえる陽介の右脇腹に大振りなボディブローが直撃した。白飛びする視界の中、踏み込みと共に右肩を引いて拳を振り抜こうとするクラウドの姿を捉え、反射的にそのパンチを頭突きで受け止める。

何かが砕ける音がした。
既に崩壊寸前だったクラウドの右手は血飛沫を散らし、競り合いに打ち勝った陽介はそのままクラウドを巻き込んで倒れ込み、馬乗りになる。

鈍い音が何度も、何度も響く。
十発近い殴打を受けたクラウドの顔面は膨れ、斑な青痣が生まれる。無抵抗でそれを受け入れていたクラウドは不意に弾かれるように陽介の体を蹴り飛ばし、がくがくと震えながら立ち上がる。

血混じりの唾を吐き捨て、陽介は全力疾走でクラウドへ近付く。傍から見れば牛歩のように遅いそれをクラウドはいなせず、放たれたテレフォンパンチに頬を殴り抜かれた。
ぐらりと大きく揺れたクラウドは体勢を立て直すこともせず不格好な反撃の拳をお見舞する。


「こ、の──!」
「…………っ!」

そこからはもう、ノーガードの殴り合いだった。
一発殴っては殴り返され、殴られては殴り返し──腕が持ち上がらなくなるのは同時だった。
がくんと両膝を着き、お互い前のめりに倒れようとしたせいで奇しくも身体同時で支え合う形となる。そのまま数秒経ち、やがて同時に頭を後ろに引き強烈な頭突きがぶつかり合う。

今度は二人とも後ろへ倒れ込んだ。
満開に広がる青空を見上げ、朦朧とする意識に無理を言って身体を起こす。たっぷり時間を費やして立ち上がれば何も言わず拳を握り締める。もう手の感覚なんてないけれど、確かに握れていると信じた。


「う、おおおおおおおぉぉぉぉ──!!」
「あああああああああぁぁぁぁ──!!」


全てを込めて殴り掛かる。
正真正銘全力の拳が相手を狙う。
時同じく放たれた攻撃は鈍重な音を一つ立てる。即ち、当たったのはどちらかだけ。

暫しの静寂の後、ゆっくりと倒れ伏す影。
それを見下ろす青年は果たしてどんな表情を浮かべているのか。悲哀とも、歓喜とも、達成感ともつかぬ感情が絡み合った複雑な面持ちで空を見上げる。


「悠、天城、ティファさん、ホメロス……」


死闘の勝者、陽介は静かに散っていった仲間達の名を連ねる。
祈りを捧げるように。天に還る彼らへ伝えるように。
空を仰ぐ青年は少しだけ微笑んだ。


「──俺、勝ったよ…………」


声よ届け。想いよ伝われ。
失われた命は無駄ではない。みんなが道を繋いでくれたから今がある。

だから安心して眠ってくれ。
これから先の未来は、俺達が繋ぐから。



戦いは──終わった。







ああ、負けたのか。
まるで地の底まで落とされるような意識の漂流の中、どこか他人事のように思う。

もうどうでもよかったから。
全てを取り零し、生ける死体となった時点でそれはクラウド本人ではなかったから。
だからなんの感情も湧かない。湧かせないのだ。ただ自分のような何かが絆とやらに敗北したと、俯瞰じみた視点でしか見ることが出来ない。


けれど、ただ一つ思うことがあるのならば。
当然だな──という自嘲に似たなにか。


救いの手を跳ね除け、自ら絶望の渦を撒き散らし続けた醜い怪物にはお似合いの最後だ。
最初から勝てるはずなど無かったのだ。自分は最後まで一人で力も偽りのもの。けれど彼らは多くの仲間と共に真なる力で立ち向かった。

ならば、自分も仲間がいれば結果は違ったのだろうか。
そんな後悔をする資格なんてない。共に旅してきた彼女達を仲間と呼ぶことは許されないのだから。

「俺、は……」

今更許してもらおうだなんて思わない。
だからせめて彼女達との繋がりは地獄まで持っていかないように。想い出は綺麗なまま終わらせたくて。
改めてそれを口にする事で憐れな人生に終止符を打つ。


「ひとりぼっち……だった……」


瞳を閉じる。
魂の行く末に身を任せ、死へと落ちてゆく。
こうしてクラウド・ストライフという男が抱いた幻想は終わりを迎えた。







『────違うよ』


不意に聞き慣れた声が響く。
落下し続けるかと思われた身体はふわりと浮き上がり、両足が地に着く感覚に見舞われる。
顔を上げたクラウドの瞳にはこちらを見て微笑む黒髪の少女の姿が映し出された。

『ひとりじゃない。クラウドには仲間がいるよ』

これは、幻なのか。
揺蕩う意識が見せた想い出ならそれでもいい。目を逸らさず、向き合わなければならない。

「同情も、深い悲しみもいらない。……ただ一つだけティファ、お前に問いたい」

勇気を出して少女へ声を掛ける。
彼女は静かに、ただじっとクラウドの瞳を見つめている。

「お前はまだ……俺を仲間と呼んでくれるのか?」

孤独が嫌いだった。
けれどあの道を進むからには孤独にならなければいけなかった。
すべてが終わったあとにこんな事を聞くなんて都合がいいかもしれない。拒絶されるかもしれない。
それでも、もし許されるのならば────


『勿論。クラウドは私の大切な仲間だよ』


俺はずっと、その言葉を待っていたのかもしれない。


「──ありがとう」


魔軍兵士としての彼は死んだ。
魔物の肉体は輝きと共にクラウド・ストライフ本来の姿を取り戻す。
見つめ合う男女は穏やかな笑顔を浮かべ、光の粒子となりやがてゆっくりと消えた。






  誰も一人ではない
──No One is Alone──








「……ぅ、……」

意識を取り戻した千枝が呻きと共に身体を起こす。辺りを見渡し、戦闘の様子が見られないことから彼らが終わらせてくれたのだと安堵する。

「いつから気絶してたんだろ……かっこわるいなぁ」

格好つけて参戦したはいいものの一番最初に意識を失う事になるとは。結果オーライとはいえどことなく気恥ずかしい気持ちに駆られる。
けれど時間と共に思考が冷えてゆき、そんな些細な感情を吹き飛ばした。

「──そだ、鳴上君と花村探さないと!」

いつまでも寝ていられない。
疲労を残した身体を引きずって瓦礫の山を駆け下り、悠達を探し回る。

「あ、いた! おーい!! 鳴上君、花む──」

彼らを見つけるのに時間は掛からなかった。
仰向けに倒れる悠を介抱するように寄り添う陽介の姿が遠目に移る。ぶんぶんと片手を振りながら急いで駆け寄る最中、千枝の声は途切れる事となる。

「……え?」

姿がはっきりと見える距離まで近付いて異常に気がつく。ぴくりとも動かない悠と、その傍でじっと目を瞑る陽介の姿。
それはまるで死者へ黙祷へ捧げているかのようで、不吉な予感に速まる鼓動に息を荒らげては次の瞬間にそれが事実なのだと知らされる。

「悠は俺達の為に死んだ。最後まで戦い抜いたんだ」

淡々と紡がれる陽介の言葉。
それを聞いた瞬間内蔵が凍てつくような感覚が襲い掛かり、抑えるものを無くした涙がとめどなく溢れ出す。



「嫌、嫌──!!」

頭が目の前の現実を否定する。
脳味噌がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような気持ち悪さに吐き気を覚える。
悠が動かないのも、陽介が嫌に落ち着いているのも受け入れられなくて、どうしようもない恐怖を誤魔化すように早口で捲し立てた。

「嘘だよ、鳴上君が死ぬはずない!! だって鳴上君、あんなに強いんだから!! 鳴上君の強さは花村だって知ってるでしょ!? 全く、こんな時につまんない冗談やめてよ花村……ほら、起きて鳴上君。一緒に八十神──」
「里中っ!!」

悠の身体に触れようとした瞬間に陽介の荒い声が響き、肩を跳ね上げる。
振り返る陽介の顔は先程までの落ち着きようが嘘のようにくしゃくしゃに歪んでいて、今にも泣き出しそうだった。

「認めたくねぇのも分かる、受け入れられねぇのもわかる! でもな、目を逸らしちゃダメなんだ! 辛い現実にうちのめされたって、挫けそうになったって!! 俺達は進まなきゃいけねぇんだ!!」
「っ!? ……は、花村……」

堰を切ったように大粒の涙を零しながら訴える陽介の懸命さに千枝の喉奥が熱を帯びる。
そこで初めて陽介が決して無感情だった訳では無いと気が付いた。彼は、現実を受け入れていただけなのだ。
悠との付き合いが最も長く、相棒の死の瞬間を目にしている分千枝よりも辛いはずなのに。その感情を抑え込んで前に進む事を選んだのだ。

「だから里中……一緒に進もう。しっかり前を向いて、現実と向き合おうぜ」
「……現実と、向き合う……」

強い感情を節々に滲ませる震え声で語りかける陽介に抱くのは羨望。
自分はそんな強い人間じゃない。なのに陽介は悠の死を乗り越え、迷わずに前を進んでゆく。
今の陽介はまるでぐんぐんと自分を追い越しているようで、その背中が悠と並んだような──そんな気がした。




分かっていたんだ。
いつまでも立ち止まってなんかいられないって。彼の想いを継がなくちゃいけないんだって。
違う、鳴上君だけじゃない。人知れず死んでしまった雪子の分も生きなくちゃいけない。
もう生きれない人達に代わってこの殺し合いをぶち壊す──きっとそれが本当の『あたしらしさ』なんだ。

「鳴上君……鳴上、くん……うっ、ああ……うわああああああぁぁぁぁ────!!!!」

けど、ごめんね。もう少しだけ待ってて。
これも『あたしらしさ』だからさ。
だから、お願い。今はただ二人の死を悲しむ女の子でいさせて。
そしたらちゃんと、現実と向き合うから。


(……辛いだろうな、里中)

悠の名を呼び慟哭する千枝を眺めながら、釣られるように陽介も行き場を失った涙を零す。
この戦いで失ったのは悠だけではない。自分の為に命を懸けてくれたホメロスやティファのこともしっかりと弔いたかった。

(ありがとな、皆。それと……見ててくれ。こんな殺し合い、絶対に止めてみせるから)

ウルノーガに振り回され命を落としてしまった彼らがせめて安らかに眠れるように願い、目を瞑る。
蘇る大切な想い出。二度と戻ることのないあの日々を胸に、残された自称特別捜査隊は前へ進む決意を固めた。




忘れないよ大事な みんなと過ごした毎日
NEVER MORE 暗い闇も一人じゃないさ

見つけ出すよ大事な なくしたものを
NEVER MORE キミの声がきっとそう

──ボクを導くよ


【鳴上悠@ペルソナ4 死亡確認】
【ティファ・ロックハート@FINAL FANTASY Ⅶ 死亡確認】
【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ 消滅】
【残り46名】

※E-4の一部の区域が崩壊しました。
※龍神丸、虹、ティファの支給品はE-4のどこかに放置されています。
※シルバーオーブ・LIFEは生命エネルギーを使い果たしました。
※クラウドの遺体は消滅しました。



【E-4/一日目 昼】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(大)、顔に痣、体力消耗(大)、SP消費(大)、疲労(極大)、決意
[装備]:グランドリオン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品3人分、女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル、クラウドの首輪、不明支給品(1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.悠、ティファ、ホメロスを弔う。
2.死ぬの、怖いな……。
3.足立、お前の目的は……?

※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュはMAXになりました。
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、体力消耗(大)、SP消費(小)、びしょ濡れ、右掌に刺し傷、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0~1個)
[思考・状況]
基本行動方針:前を向き、現実と向き合う。
1.鳴上くん……。
2.陽介と共に八十神高校でピカチュウ達と落ち合う。
3.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない

※錦山彰、ミファーは死んだと思っています。


【E-4東側/一日目 昼】
【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.八十神高校へ行く。
2.悠とティファの仲間、そして工具箱に書かれた『L』、ポカブのパートナーを探す。
3.悠、ティファ、無事でいてくれ……。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ティファからマテリアのこと、悠からペルソナのことを聞きました。

【支給モンスター状態表】
【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、満腹
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。



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094:セフィィィィィロォォォォォス!!! 時系列順 096:回想:彼の求める強さ
投下順
074:チョッカクスイチョク ピカチュウ 129:クロス八十神物語
鳴上悠 GAME OVER
ティファ・ロックハート
085:……and REMAKE(前編) クラウド・ストライフ
花村陽介 129:クロス八十神物語
087:差し込む陽光、浮かぶ影 里中千枝

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最終更新:2025年01月04日 06:40