王亡き樹冠のミストルティン

おうなきじゅかんのミストルティン

収録作品:星のカービィ Wii デラックス[NS]
作曲者:安藤浩和

概要

(あか)()宿(やど)()となり よみがえった 支配(しはい)(かんむり)
マスタークラウン。(ちから)と ともに ()にした(もの)
(こころ)にひそむ(やみ)をも ぞうふくさせ、憎悪(ぞうお)にそめる
という。数多(あまた)(くに)世界(せかい)(めぐ)(つづ)け、ついには
滅亡(めつぼう)をよぶ、(おう)なき樹冠(じゅかん)と… ()したのだ!


リメイク作である本作の追加エピソード「マホロアエピローグ」のラストボスにして、この作品の真の元凶といえる存在である「マスタークラウン」そのものとの対決で流れる曲。
失った力を取り戻すために集めた不思議な力を持つ「赤き果実」を、マスタークラウンのカケラで力を得たクラウンドローパーに強奪され、これを退けたのも束の間、なんと残されたクラウンのカケラ自体が果実に取り付き、エンデ・ニル級の巨体を誇る翼を広げた異形の大樹の怪物へと変化。
どこかの発達した文明の都市が滅びゆく中に降り立ち、最終決戦の幕が上がる。
なおここに至るまでの追加ボスはすべて本編のポップスターのボスの強化版であるのだが、唯一ウィスピーウッズに該当する存在が登場していなかった。
その理由こそが正にこれであり、追加エピソードのお約束となりつつあった騎士系ボスどころか、初代からのお約束であった序盤の大樹系のボスの枠がまさかのラスボスを務めることになるという驚愕の事態となる。
そして追加エピソードにあるまじき本編レベルの壮大なラスボス曲まで用意されているダメ押しで、これまでのシリーズの追加エピソードとは訳が違うことを誰しもが思い知ることになる。

曲の傾向は前作のラスボス曲であり、同時期に作曲された事実上の兄弟曲といえる「いつしか双星はロッシュ限界へ」を踏襲した、荘厳で神秘的ながらも禍々しい前半部と勇ましい後半部に大きく分けることができる。
前半部はマホロアとマスタークラウンを繋げる曲である「CROWNED」のフレーズが全面に出ているのだが、イントロを始めとする所々でこの世界とは違うものの何処かで聴いたことのあるフレーズが差し込まれていることを感じるだろう。
そして後半部に入ることでそれははっきりと示されることになる。
その正体はカービィハンターズの代表曲である「すくえキングダム!しれんクエスト」であった。
様々な箇所にフレーズを入れまくったことによりパート数とそれに伴う転調の数も凄まじいものとなっているが、それをものともせず曲を纏め上げている様は圧巻である。
「赤き果実」の既視感から薄々感づいていたものが、この曲をもって確信へと変わることになるはずだ。
そしてこの決戦とエンディングをもって、マホロアがこの世界とあの世界を繋げる存在、即ち「異空をかける旅人」であったことが分かるだろう。
なおこのラストバトル後、マホロアは己が罪を精算する(Pay For One's Sin)ため、最後のアトシマツをすることになる…。

曲名にあるミストルティンとは寄生植物の一種であるヤドリギのことであり、北欧神話ではラグナロクを迎える切っ掛けとなった神殺しの木として知られる存在である。
マスタークラウンの本質がどういうものであるか、この曲名からも分かるだろう。
一方で、その神話上のミストルティンは、あまりにも幼く弱々しい存在として描写されている。
それゆえ神に見過ごされ、結果的に神殺しの道具とされてしまったのである。
加えて、北欧の伝承において「ミストルティン」という名前は、このヤドリギとは別でにも使われている。
マホロアもまた、あまりにも弱々しい状態で異空へと放り出され、
最後には神にも等しい樹冠を剣で討ち果たすこととなる。
この曲名は、樹木に寄生し聳え立つ「王亡き樹冠たる寄生植物」というマスタークラウン、そしてそれに立ち向かう弱者「王亡き樹冠にとっての神殺しの剣」というマホロア、これら対極の存在を表現したダブル、いやトリプルミーニングなのかもしれない。

また、ヤドリギはその姿や生命力の強さから、宗教上で永遠を象徴する神聖な木ともされている。
この曲には本編の曲としては珍しくチェンバロの音色が目立っており、宗教改革や絶対王政の時代に当たるバロック音楽の気配が仄かに感じられるのもこのためだろうか。
なおチェンバロはかつてカービィハンターズの曲で使用された実績があり、この楽器が使われた意図もストーリーの根幹に関わる事案であったことが考えられる。

+ 今回のキーワード
カンの鋭い人は、本編のラスボス曲の由来を思い出して気づくかもしれないが、今回の各ステージの頭文字「APPLE」(エアグリーフのA、プロムゾーンのP、ポセインブールのP、ロスカドーラのL、エデンの間のE)は、恐らく「赤き果実」の正体「グランドジェムリンゴ」のことだけではなく、ウィスピーウッズ系統の象徴のダブルミーニングで決められたのだろう。
なおこの果実も、北欧神話を始めとする多くの伝承で伝わる「黄金の林檎」や、アダムとイブが楽園を追放される「禁断の果実」と、説話に事欠かない存在である。

本作はメインシリーズとしては久方ぶりとなる外部との共同制作となったが、理由の一つとしてこの事実がかかわっていることは間違いないはずである。
メインと番外の垣根を越え、原作から積もっていた伏線をこのストーリーと曲をもって精算しており、シリーズ30周年記念の事実上の大トリの務めを見事果たしたと言えるだろう。

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最終更新:2024年04月24日 05:36