託された希望(1) ◆dGUiIvN2Nw
コンクリートで舗装された道路。そこを歩く一人の男がいた。
彼の名はアシュナード。デイン王国に君臨する狂王である。
彼は世界の改変を望み、混沌を望み、そうして颯爽と現れた勇者によって打ち倒される運命にあった。
しかし、今は違う。この殺し合いに放り込まれたことで、アシュナードの運命は大きく変わった。
場所が変わろうがどうなろうが、アシュナードのすることは変わらない。戦いを望み、殺戮を望み、ただただ強者が支配する世界を見たいがために、彼は行動する。
「……一人、死んだか?」
ふと、そんな感覚が彼の中で沸き立った。死に行く者の絶望、殺した者の絶望、それを目撃した仲間の絶望。
アシュナードの中にあるメダリオンの瘴気。彼の中に潜む魔物が、それらを敏感に察知し、こう告げる。
彼の名はアシュナード。デイン王国に君臨する狂王である。
彼は世界の改変を望み、混沌を望み、そうして颯爽と現れた勇者によって打ち倒される運命にあった。
しかし、今は違う。この殺し合いに放り込まれたことで、アシュナードの運命は大きく変わった。
場所が変わろうがどうなろうが、アシュナードのすることは変わらない。戦いを望み、殺戮を望み、ただただ強者が支配する世界を見たいがために、彼は行動する。
「……一人、死んだか?」
ふと、そんな感覚が彼の中で沸き立った。死に行く者の絶望、殺した者の絶望、それを目撃した仲間の絶望。
アシュナードの中にあるメダリオンの瘴気。彼の中に潜む魔物が、それらを敏感に察知し、こう告げる。
もっと狂乱を。
もっと闘争を。
この場所全てを埋め尽くしてもまだ止まらない、負のオーラでもっともっとこの身を満たせ。
もっと闘争を。
この場所全てを埋め尽くしてもまだ止まらない、負のオーラでもっともっとこの身を満たせ。
「よかろう。我にとって、それはむしろ喜ばしいことだ」
アシュナードが求めるのは闘争である。弱者が死に、強者が生きる絶対的な世界である。
その世界の覇者は、最強でなくてはならない。その世界の王は、無敵でなくてはならない。その世界の支配者は、闘争を求め、常に強者であり続けなければならない。
「ならば行くしかあるまい。闘争の場があれば我はそこに君臨し、弱者を屠り、蹂躙し、我が想う我の世界を創造するのだ」
自分でもよくわからない微細な感覚。しかし確かに感じる負のオーラ。そちらに向けて歩みを進めようとし、止まる。
「……ついでだ。余興として、少し参加者を増やしておくか」
先程別れたあの小僧。シルバーが向かった先へと方向を変え、アシュナードは人間とは思えないスピードでその場から消え去った。
アシュナードが求めるのは闘争である。弱者が死に、強者が生きる絶対的な世界である。
その世界の覇者は、最強でなくてはならない。その世界の王は、無敵でなくてはならない。その世界の支配者は、闘争を求め、常に強者であり続けなければならない。
「ならば行くしかあるまい。闘争の場があれば我はそこに君臨し、弱者を屠り、蹂躙し、我が想う我の世界を創造するのだ」
自分でもよくわからない微細な感覚。しかし確かに感じる負のオーラ。そちらに向けて歩みを進めようとし、止まる。
「……ついでだ。余興として、少し参加者を増やしておくか」
先程別れたあの小僧。シルバーが向かった先へと方向を変え、アシュナードは人間とは思えないスピードでその場から消え去った。
「ふぃ、ふぃたいふぇふ~!」(い、痛いです~!)
「え~? なあに? よく聞こえなかったんだけど。もっとはっきりした発音で喋りなさい。そうしたら止めてあげるから」
「ふぃ、ふぃふぉえふぇるふぁふぁいふぇふか~~!!」(き、聞こえてるじゃないですか~~!!)
頬をこれでもかとばかりに引っ張られ、涙目になっているアドレーヌ。それを見て、思わず息を呑んでしまいそうなくらいの素敵な笑みを浮かべている風見幽香。
彼女達は通常よりもかなり遅いペースで歩いていた。
それも無理からぬことで、行軍の合間合間に幽香のスキンシップ(という名の虐待)が入るからである。
ようやく解放された自分のほっぺを擦りながら、アドレーヌはきっと幽香を睨んだ。
「痛かったです!!」
「だから?」
「…………」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。アドレーヌは何も言えずに不満そうに頬を膨らませる。
「え? なあに? もしかしてこの私に文句を言いたいのかしら。あらあら、それは困ったわね~。戦闘になったら誰があなたを守ると思ってるのかしら」
意味もなく怪我のしない訓練用の斧で殴られたり、もげるかと思うくらいの勢いで耳を引っ張られたりした挙句、いつもこの文句で幽香は締めくくるのだ。
結果強く咎めることもできず、アドレーヌは幽香の玩具のように扱われるのである。
(うう~。こんなことなら一人で行動すればよかった)
アドレーヌが本気で後悔し始めた時だった。
突然遠くから地響きのような音が聞こえてきた。
アドレーヌは思わず幽香の影に隠れ、幽香はただ黙って震源地を見つめていた。
「……な、なんだったんでしょう」
「殺し合いでしょ」
「そ、そうですよね…。ここ、そういう場所なんですよね…」
アドレーヌの言葉はだんだん尻すぼみになっていく。
そんなアドレーヌの心境を知ってか知らずか、幽香はその震源地、つまりは戦闘が行われたであろう場所へと歩を進めた。
「ゆ、幽香さん。そっちは……」
「なに? 怖いから行きたくないって? あなた、お友達を捜してるんでしょ。なら、少しでも人のいる可能性のあるところに行った方が効率的じゃない」
幽香の言う通りだ。アドレーヌは自分の友達を探すために幽香と行動を共にしているのだ。恐怖に震えながらも、アドレーヌはこくりと頷いた。
「そ、そうですね。……よし。行きましょう! 幽香さん!!」
声は勇ましく、しかし身体は幽香の背中にぴたりとくっつけて、アドレーヌは言った。
「……アドレーヌ。敵と出くわした時の良い撃退方法を思いついたわ」
ふいに幽香が口を開いた。
「え! どんな方法ですか!?」
「ここで私達を襲う連中っていうのは、大抵皆殺しが目的でしょ。だから、わざと撒き餌を放り投げてそっちに気を取られている内に仕留めるの。良い方法でしょ?」
「……その撒き餌って?」
「ふふふ」
嗜虐的な笑みで、幽香はアドレーヌを見つめた。
自分の身体から血の気が引くという経験を、アドレーヌは今初めて体験した。
咄嗟に幽香から距離を取ろうとしたが、その気配を察知され、襟首をむんずと掴まれてしまった。
「いやだーー!! 私エサなんかじゃありませんー!!!」
宙に浮いた身体でばたばたと暴れるが幽香相手には無駄な抵抗だった。
「あー面白そう。はやく誰かと遭遇しないかしら」
「おにーーー!! あくまーーー!!」
アドレーヌの叫びは、むなしく木霊するだけだった。
「え~? なあに? よく聞こえなかったんだけど。もっとはっきりした発音で喋りなさい。そうしたら止めてあげるから」
「ふぃ、ふぃふぉえふぇるふぁふぁいふぇふか~~!!」(き、聞こえてるじゃないですか~~!!)
頬をこれでもかとばかりに引っ張られ、涙目になっているアドレーヌ。それを見て、思わず息を呑んでしまいそうなくらいの素敵な笑みを浮かべている風見幽香。
彼女達は通常よりもかなり遅いペースで歩いていた。
それも無理からぬことで、行軍の合間合間に幽香のスキンシップ(という名の虐待)が入るからである。
ようやく解放された自分のほっぺを擦りながら、アドレーヌはきっと幽香を睨んだ。
「痛かったです!!」
「だから?」
「…………」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。アドレーヌは何も言えずに不満そうに頬を膨らませる。
「え? なあに? もしかしてこの私に文句を言いたいのかしら。あらあら、それは困ったわね~。戦闘になったら誰があなたを守ると思ってるのかしら」
意味もなく怪我のしない訓練用の斧で殴られたり、もげるかと思うくらいの勢いで耳を引っ張られたりした挙句、いつもこの文句で幽香は締めくくるのだ。
結果強く咎めることもできず、アドレーヌは幽香の玩具のように扱われるのである。
(うう~。こんなことなら一人で行動すればよかった)
アドレーヌが本気で後悔し始めた時だった。
突然遠くから地響きのような音が聞こえてきた。
アドレーヌは思わず幽香の影に隠れ、幽香はただ黙って震源地を見つめていた。
「……な、なんだったんでしょう」
「殺し合いでしょ」
「そ、そうですよね…。ここ、そういう場所なんですよね…」
アドレーヌの言葉はだんだん尻すぼみになっていく。
そんなアドレーヌの心境を知ってか知らずか、幽香はその震源地、つまりは戦闘が行われたであろう場所へと歩を進めた。
「ゆ、幽香さん。そっちは……」
「なに? 怖いから行きたくないって? あなた、お友達を捜してるんでしょ。なら、少しでも人のいる可能性のあるところに行った方が効率的じゃない」
幽香の言う通りだ。アドレーヌは自分の友達を探すために幽香と行動を共にしているのだ。恐怖に震えながらも、アドレーヌはこくりと頷いた。
「そ、そうですね。……よし。行きましょう! 幽香さん!!」
声は勇ましく、しかし身体は幽香の背中にぴたりとくっつけて、アドレーヌは言った。
「……アドレーヌ。敵と出くわした時の良い撃退方法を思いついたわ」
ふいに幽香が口を開いた。
「え! どんな方法ですか!?」
「ここで私達を襲う連中っていうのは、大抵皆殺しが目的でしょ。だから、わざと撒き餌を放り投げてそっちに気を取られている内に仕留めるの。良い方法でしょ?」
「……その撒き餌って?」
「ふふふ」
嗜虐的な笑みで、幽香はアドレーヌを見つめた。
自分の身体から血の気が引くという経験を、アドレーヌは今初めて体験した。
咄嗟に幽香から距離を取ろうとしたが、その気配を察知され、襟首をむんずと掴まれてしまった。
「いやだーー!! 私エサなんかじゃありませんー!!!」
宙に浮いた身体でばたばたと暴れるが幽香相手には無駄な抵抗だった。
「あー面白そう。はやく誰かと遭遇しないかしら」
「おにーーー!! あくまーーー!!」
アドレーヌの叫びは、むなしく木霊するだけだった。
最初こそどうにかこの束縛から解き放たれようともがいていたアドレーヌだったが、震源地に近づくにつれ、どんどん大人しくなっていった。
おそらく恐怖のためなのだろうが、幽香にとっては都合が良かった。まるでナップサックのようにアドレーヌを担ぎ、何も喋らない幽香。それが、周りに対する警戒のためであることは誰よりも自分がよく理解していた。
幽香は強い。参加者の中でも最上級クラスの強さだろう。しかし、彼女は誰かを守る戦いをこれまでしたことがない。
戦いはいつも一人だった。敵が複数人いても、幽香だけはいつも一人で戦っていた。それで相手に遅れを取ることなど一度もなかったし、なによりそのスタイルが自分に向いているとも幽香自身思っていた。
だが、今回は違う。いつものように考えなしに戦っていては駄目なのだ。そういう意味で、幽香にしては珍しく慎重な態度を取っていた。アドレーヌを自分の手から離さないのはその為なのである。
「……誰かいる」
幽香は言葉短くそう伝え、アドレーヌは心持ち縮こまる。
周りは木々が邪魔でよく見えない。だがそれでも、幽香には誰かの存在を感知できた。一人じゃない。詳しくは分からないが、おそらく数人だ。
しかし、幽香の歩みは止まらない。慎重ではあっても、退くという言葉を幽香は知らない。
アドレーヌを意識して動く必要がある。それが面倒だ。それくらいの認識しか幽香にはない。
アドレーヌがいるから敵に負けるなどという発想は一切ない。敵を打ち倒し、アドレーヌもきっちり守り切る。それくらいのことができる力を自分は持っている。それは幽香の妖怪としてのプライドでもあり、数々の妖怪を屠ってきた自負でもある。
木々を抜け、震源地であろう湖が視界に入った。
おそらく恐怖のためなのだろうが、幽香にとっては都合が良かった。まるでナップサックのようにアドレーヌを担ぎ、何も喋らない幽香。それが、周りに対する警戒のためであることは誰よりも自分がよく理解していた。
幽香は強い。参加者の中でも最上級クラスの強さだろう。しかし、彼女は誰かを守る戦いをこれまでしたことがない。
戦いはいつも一人だった。敵が複数人いても、幽香だけはいつも一人で戦っていた。それで相手に遅れを取ることなど一度もなかったし、なによりそのスタイルが自分に向いているとも幽香自身思っていた。
だが、今回は違う。いつものように考えなしに戦っていては駄目なのだ。そういう意味で、幽香にしては珍しく慎重な態度を取っていた。アドレーヌを自分の手から離さないのはその為なのである。
「……誰かいる」
幽香は言葉短くそう伝え、アドレーヌは心持ち縮こまる。
周りは木々が邪魔でよく見えない。だがそれでも、幽香には誰かの存在を感知できた。一人じゃない。詳しくは分からないが、おそらく数人だ。
しかし、幽香の歩みは止まらない。慎重ではあっても、退くという言葉を幽香は知らない。
アドレーヌを意識して動く必要がある。それが面倒だ。それくらいの認識しか幽香にはない。
アドレーヌがいるから敵に負けるなどという発想は一切ない。敵を打ち倒し、アドレーヌもきっちり守り切る。それくらいのことができる力を自分は持っている。それは幽香の妖怪としてのプライドでもあり、数々の妖怪を屠ってきた自負でもある。
木々を抜け、震源地であろう湖が視界に入った。
ばったり、という効果音がこれほどまでに似合うシチュエーションは早々ないだろう。
怪我をしたレミリアを担ぐ瀬多総司。その後ろをトボトボと歩くデデデ大王。その三人に、風見幽香は遭遇した。
「っ!! 敵だ!! 応戦しろ、デデデ!!」
後ろに下がり、慌てて戦闘態勢を取ろうとする瀬多とデデデ。その様を幽香はじっと見つめていた。
何も相手取ろうとしない幽香に、二人が怪訝な表情を浮かべ始めた時だった。
「……はっ」
ふいに、幽香が口を開いた。
「あっはっはっはっはっはっは!!!」
大爆笑。
誰がどう見ても腹を抱えて笑っている。
瀬多は雪子の爆笑癖を思い出しながらも、とりあえず声をかけてみることにした。
「えっと、あんたは──」
「何がそんなにおかしい」
それを遮るように、明らかに不快そうな声が背中から聞こえた。
「はっはっは!! そ、そりゃ…くっくっく。おかしいに決まってるでしょ。普段息巻いて調子乗ってるから、そうやってボロボロになるのよ。幻想郷最強の種族が聞いて呆れるわ」
そう言って、再び笑い始める。
瀬多はレミリアと出会ってさほど時間が経ってない。しかし、その人となりはそれなりに理解できていた。こうやって笑い物にされれば彼女がどう思うかくらいは。
途端に瀬多の身体が軽くなる。先程まで背中に背負っていたレミリアが既にそこにはいない。
瀬多がその姿を感知した時には、レミリアの左腕が幽香を襲っていた。その銃弾のような鋭い攻撃を幽香はいとも簡単に片手で受け止めてみせ、にやりと笑う。
「あらあら。まだそれなりに元気は残っているようだけど、幻想郷最強を謳うにはちょぉっとキレのないパンチね」
「……そっちこそ、今までどこで遊んでたのかしら。またお得意のお花屋さんごっこ? 年増の老後生活は気楽でいいわね」
「ま、遊んでいたといえば遊んでいたわけだけど。私にしてみればこんな殺し合い、遊びの延長みたいなものよ。あなたと違ってね」
幽香はレミリアの拳を掴んだまま、それを瀬多の方に放り投げる。レミリアにしてみれば屈辱的な行為だが、右手と左足を怪我している今の段階ではそれを防ぐ手立てはない。そのまま瀬多にキャッチされ、その時の衝撃で全身に痛みが走る。
「あ、ごめんなさい。大怪我して死にそうな餓鬼は労わってあげないといけないことを忘れていたわ」
「……っ!!」
再び攻撃を仕掛けようとするレミリアを瀬多が慌てて止めた。
「と、とにかく今は情報交換が先だ。あんたとレミリアは知り合い同士だろうけど、俺達の話は興味があるだろ?」
「まあね」
軽く返事をする幽香。あまり興味がありそうな様子ではない。
「デデのだんな? もしかして、そこにだんながいるの!?」
しかし、幽香がぶら下げている一メートルにも満たない少女は、かなり興奮した様子だった。
怪我をしたレミリアを担ぐ瀬多総司。その後ろをトボトボと歩くデデデ大王。その三人に、風見幽香は遭遇した。
「っ!! 敵だ!! 応戦しろ、デデデ!!」
後ろに下がり、慌てて戦闘態勢を取ろうとする瀬多とデデデ。その様を幽香はじっと見つめていた。
何も相手取ろうとしない幽香に、二人が怪訝な表情を浮かべ始めた時だった。
「……はっ」
ふいに、幽香が口を開いた。
「あっはっはっはっはっはっは!!!」
大爆笑。
誰がどう見ても腹を抱えて笑っている。
瀬多は雪子の爆笑癖を思い出しながらも、とりあえず声をかけてみることにした。
「えっと、あんたは──」
「何がそんなにおかしい」
それを遮るように、明らかに不快そうな声が背中から聞こえた。
「はっはっは!! そ、そりゃ…くっくっく。おかしいに決まってるでしょ。普段息巻いて調子乗ってるから、そうやってボロボロになるのよ。幻想郷最強の種族が聞いて呆れるわ」
そう言って、再び笑い始める。
瀬多はレミリアと出会ってさほど時間が経ってない。しかし、その人となりはそれなりに理解できていた。こうやって笑い物にされれば彼女がどう思うかくらいは。
途端に瀬多の身体が軽くなる。先程まで背中に背負っていたレミリアが既にそこにはいない。
瀬多がその姿を感知した時には、レミリアの左腕が幽香を襲っていた。その銃弾のような鋭い攻撃を幽香はいとも簡単に片手で受け止めてみせ、にやりと笑う。
「あらあら。まだそれなりに元気は残っているようだけど、幻想郷最強を謳うにはちょぉっとキレのないパンチね」
「……そっちこそ、今までどこで遊んでたのかしら。またお得意のお花屋さんごっこ? 年増の老後生活は気楽でいいわね」
「ま、遊んでいたといえば遊んでいたわけだけど。私にしてみればこんな殺し合い、遊びの延長みたいなものよ。あなたと違ってね」
幽香はレミリアの拳を掴んだまま、それを瀬多の方に放り投げる。レミリアにしてみれば屈辱的な行為だが、右手と左足を怪我している今の段階ではそれを防ぐ手立てはない。そのまま瀬多にキャッチされ、その時の衝撃で全身に痛みが走る。
「あ、ごめんなさい。大怪我して死にそうな餓鬼は労わってあげないといけないことを忘れていたわ」
「……っ!!」
再び攻撃を仕掛けようとするレミリアを瀬多が慌てて止めた。
「と、とにかく今は情報交換が先だ。あんたとレミリアは知り合い同士だろうけど、俺達の話は興味があるだろ?」
「まあね」
軽く返事をする幽香。あまり興味がありそうな様子ではない。
「デデのだんな? もしかして、そこにだんながいるの!?」
しかし、幽香がぶら下げている一メートルにも満たない少女は、かなり興奮した様子だった。
「デデのだんな!」
「アドレーヌ! 無事だったんだな」
二人が両手を握りあってピョンピョン飛び跳ねる様子を見ながら、幽香は口を開いた。
「異世界があるっていう話は、まあ分かったわ。魔界や霊界も同じようなものだしね」
「日本、プププランド、幻想郷、そして魔界や霊界か。認知度の問題なのか。まったく別次元のものなのか。今はまだ判別がつかないな」
プププランド、瀬多の住む日本、幻想郷。後の二つは接点もあるが、プププランドに至ってはまったくそういうものはない。完全に孤立した世界だ。
魔界などと同様に、出入り口はあるが誰も知らないだけなのか。それとも、パラレルワールド的なものなのか。今の情報だけでは分からない。
「たかだか殺し合いするためだけで、偉く手の込んだことをするじゃない。複数の世界を行き来? スキマ妖怪でもあるまいし」
「その辺りのことをもう少し詳しく聞きたい。地図にある別荘まで行ってから落ちついて全員で話はできないか?」
「どっかの足手まといに合わせるのは癪だけど、まあいいわよ」
「……悪かったわね」
さすがのレミリアも、いちいちキレていたら身が持たないことを理解したらしい。ムスっとした態度を取ってはいるものの、それ以上は何も言わなかった。
「アドレーヌ。そういうわけだから、一旦別荘を目指すわよ」
「はーい!」
間延びし、どこか浮かれた返事だ。念願だった知り合いに会えたのだから、それも仕方のない事なのだろう。
幽香が離れたのを機に、瀬多はレミリアに耳打ちした。
「……なぁ、幽香ってどんな妖怪なんだ? 協調性のなさそうな性格の割に二人で行動しているようだし」
「知らないわよそんなこと。宴会で時々顔合わせるくらいなんだし。ただまあ、あいつが誰かと行動してるっていうのなら、そいつは御愁傷様ってやつね。どうせストレスのはけ口にされるのがオチなんだから」
言い方からして、どうやらレミリアはかなり拗ねているらしかった。全快時ならどうということもないのだろうが、完全に優劣がはっきりしている現状が、彼女には気に入らないのだろう。
瀬多としては、今回の合流は正直なところ良かったのか悪かったのか、判断しづらいところがあった。ただでさえ操縦しづらいレミリアの機嫌を敢えて損なうような言動を連発する幽香の性格に、少し問題を感じていたのだ。
この二人だけを見て判断するのはいささか軽率な気もするが、とにかく幻想郷の人間は我の強い者が多いようだ。自分から折れるようなことは一切しない。妥協も何もなく、ただ自分のために今を生きる。
それは確かに強さになるだろうが、チームを組むとなるとこれほど大変な連中もいない。レミリアはまだ協調の必要性を感じている部分もあるが、幽香からは一切そういうものが感じ取れない。
デデデもアドレーヌも、あまり場を纏めるようなタイプではないことは、出会って十分も経たないうちに分かってしまった。自分一人でこの二人を制御できるのか。瀬多にはあまり自信がなかった。
「あ、そうそう。そういえば、ここらへんでおっきな地震みたいな音しなかった? 私達、あれがあったからここまで来たんだけど」
アドレーヌが無邪気に聞いたその言葉に、デデデは見るからに気落ちしていた。
「……どうしたの? もしかして、なにかあった?」
しん、と静まりかえる。
レミリアも、事情を察した幽香も、口を挟む気はないらしい。瀬多が事実を伝えようとした時、それを遮るようにデデデの明るい言葉が割って入った。
「てきをたおしたんだ!」
「てき?」
「そうだ! あの地震は……えーっと……そ、そう。レミリアの攻撃のせいなんだ。おれさまも一緒に戦ったから、その時の疲れがちょっと出てただけだぞ。殺し合いに乗ったって言っても、大人数で戦えばなにも怖いことなんかない!」
悲しいことなんて起きなかった。自分達の未来は希望に溢れている。
それは先程の別れを経験した今のデデデにはとても辛く、心に沁みる言葉だった。しかし、リディアと何の接点もなかったアドレーヌにも、自分と同じような苦しみを味あわせることはしたくない。
(ごめんよ、リディア。でも、プププランドに帰ったら、リディアのことはおれさまの友達全員に話してやるからな。とっても強い子だったって、絶対にみんなに教えてやるからな)
「ふーん。吸血鬼ってすごいんですね」
何も知らずにただ感心している様子のアドレーヌに、レミリアは不遜な笑みを浮かべた。
「当然でしょう。この私が本気を出せば、ここら一帯吹き飛ぶわよ」
デデデの嘘に対してレミリアは何も言わなかった。それが嘘だとも、本当だとも。
レミリアが何を思っていたのか、瀬多には分からない。分からないが、レミリアはレミリアなりに、デデデを気遣ったのではないかと、瀬多は思った。
「アドレーヌ! 無事だったんだな」
二人が両手を握りあってピョンピョン飛び跳ねる様子を見ながら、幽香は口を開いた。
「異世界があるっていう話は、まあ分かったわ。魔界や霊界も同じようなものだしね」
「日本、プププランド、幻想郷、そして魔界や霊界か。認知度の問題なのか。まったく別次元のものなのか。今はまだ判別がつかないな」
プププランド、瀬多の住む日本、幻想郷。後の二つは接点もあるが、プププランドに至ってはまったくそういうものはない。完全に孤立した世界だ。
魔界などと同様に、出入り口はあるが誰も知らないだけなのか。それとも、パラレルワールド的なものなのか。今の情報だけでは分からない。
「たかだか殺し合いするためだけで、偉く手の込んだことをするじゃない。複数の世界を行き来? スキマ妖怪でもあるまいし」
「その辺りのことをもう少し詳しく聞きたい。地図にある別荘まで行ってから落ちついて全員で話はできないか?」
「どっかの足手まといに合わせるのは癪だけど、まあいいわよ」
「……悪かったわね」
さすがのレミリアも、いちいちキレていたら身が持たないことを理解したらしい。ムスっとした態度を取ってはいるものの、それ以上は何も言わなかった。
「アドレーヌ。そういうわけだから、一旦別荘を目指すわよ」
「はーい!」
間延びし、どこか浮かれた返事だ。念願だった知り合いに会えたのだから、それも仕方のない事なのだろう。
幽香が離れたのを機に、瀬多はレミリアに耳打ちした。
「……なぁ、幽香ってどんな妖怪なんだ? 協調性のなさそうな性格の割に二人で行動しているようだし」
「知らないわよそんなこと。宴会で時々顔合わせるくらいなんだし。ただまあ、あいつが誰かと行動してるっていうのなら、そいつは御愁傷様ってやつね。どうせストレスのはけ口にされるのがオチなんだから」
言い方からして、どうやらレミリアはかなり拗ねているらしかった。全快時ならどうということもないのだろうが、完全に優劣がはっきりしている現状が、彼女には気に入らないのだろう。
瀬多としては、今回の合流は正直なところ良かったのか悪かったのか、判断しづらいところがあった。ただでさえ操縦しづらいレミリアの機嫌を敢えて損なうような言動を連発する幽香の性格に、少し問題を感じていたのだ。
この二人だけを見て判断するのはいささか軽率な気もするが、とにかく幻想郷の人間は我の強い者が多いようだ。自分から折れるようなことは一切しない。妥協も何もなく、ただ自分のために今を生きる。
それは確かに強さになるだろうが、チームを組むとなるとこれほど大変な連中もいない。レミリアはまだ協調の必要性を感じている部分もあるが、幽香からは一切そういうものが感じ取れない。
デデデもアドレーヌも、あまり場を纏めるようなタイプではないことは、出会って十分も経たないうちに分かってしまった。自分一人でこの二人を制御できるのか。瀬多にはあまり自信がなかった。
「あ、そうそう。そういえば、ここらへんでおっきな地震みたいな音しなかった? 私達、あれがあったからここまで来たんだけど」
アドレーヌが無邪気に聞いたその言葉に、デデデは見るからに気落ちしていた。
「……どうしたの? もしかして、なにかあった?」
しん、と静まりかえる。
レミリアも、事情を察した幽香も、口を挟む気はないらしい。瀬多が事実を伝えようとした時、それを遮るようにデデデの明るい言葉が割って入った。
「てきをたおしたんだ!」
「てき?」
「そうだ! あの地震は……えーっと……そ、そう。レミリアの攻撃のせいなんだ。おれさまも一緒に戦ったから、その時の疲れがちょっと出てただけだぞ。殺し合いに乗ったって言っても、大人数で戦えばなにも怖いことなんかない!」
悲しいことなんて起きなかった。自分達の未来は希望に溢れている。
それは先程の別れを経験した今のデデデにはとても辛く、心に沁みる言葉だった。しかし、リディアと何の接点もなかったアドレーヌにも、自分と同じような苦しみを味あわせることはしたくない。
(ごめんよ、リディア。でも、プププランドに帰ったら、リディアのことはおれさまの友達全員に話してやるからな。とっても強い子だったって、絶対にみんなに教えてやるからな)
「ふーん。吸血鬼ってすごいんですね」
何も知らずにただ感心している様子のアドレーヌに、レミリアは不遜な笑みを浮かべた。
「当然でしょう。この私が本気を出せば、ここら一帯吹き飛ぶわよ」
デデデの嘘に対してレミリアは何も言わなかった。それが嘘だとも、本当だとも。
レミリアが何を思っていたのか、瀬多には分からない。分からないが、レミリアはレミリアなりに、デデデを気遣ったのではないかと、瀬多は思った。
「遅い。もっと早く歩け」
「これ以上はいざという時に支障が出る。我儘を言うな」
別荘に向かう道中、かれこれ三度目になる問答に、瀬多は辟易していた。
瀬多がレミリアを背負っているのでその行軍は通常よりも少し遅いものとなっていた。そのことはレミリアも承知しているが、彼女の理屈としては「なら、瀬多がもっと早く歩けばいいじゃない」という結論に達するのだ。
唯我独尊のレミリアにとって自分が足を引っ張っているなどということはたとえ天変地異が起ころうと考えないのである。
「誰に向かって口を聞いている? お前は私の下僕なんだから、言う通りにしていればいいのよ」
いつ下僕になったんだ、というツッコミは話をややこしくするだけなので敢えてしない。
「はぁ。部下に当たり散らすなんて情けないわね。求心力の薄さが目に見えるわ」
部下じゃないけどな。
心の中で瀬多は呟いた。
「ふん。自分の部下を捨てて隠居生活するような老婆に言われたくないわね。案外、部下に見放されて泣く泣くお花畑に水をやってるんじゃないの?」
「プライドだか見栄だか知らないけど、自分で管理できないくらいの妖精を雇い入れるような馬鹿よりはマシだと思うけど? 私はどっちにも当てはまらないけど」
「……」
「……」
二人は見るからにイラついていた。幽香はあからさまに舌打ちしているし、レミリアの指は先程から瀬多の肩に食い込んでいる。いつ血が滲み出てもおかしくないくらいに痛い。
「お、お二人ともそんな喧嘩しないでくださいよ。ほ、ほら! もうすぐ日が昇りますよ!! 綺麗なお日さまを見ながらみんなでお話しましょう」
「そうねえ。じゃ、ここらで休憩しましょうか。皆で朝日を楽しみながらお喋りするのはさぞ楽しいでしょうし」
見るからに嗜虐的な笑みでレミリアを見つめる幽香。それを見て、アドレーヌはようやく地雷を踏んだことを実感したらしい。両手で口元を押さえている。
「……殺す。もう殺す。絶対殺す!」
「ま、待て! 落ちつけ! これ以上怪我がひどくなったらどうする!」
「そうだぞ! このままじゃいつまでたっても怪我が治らん」
背中から飛び出そうとするレミリアを瀬多とデデデが慌てて止める。
「幽香さん! そんないちいち癇に障る言い方しなくてもいいじゃないですか!」
アドレーヌがキッとなって幽香を諫める。
「何? 私が悪いって言いたいわけ?」
「い、いえ別に…そういうわけじゃないですけど」
しかしそれも幽香の視線一つで尻すぼみ状態である。
怪我をしているという点で押さえやすいレミリアに対し、幽香は常にフリーダム状態だ。一番注意できる立場にあるアドレーヌの言う事も聞かないのだからもう手がつけられない。
瀬多は溜まっていく一方である精神的疲労から、思わずため息をついた。
「これ以上はいざという時に支障が出る。我儘を言うな」
別荘に向かう道中、かれこれ三度目になる問答に、瀬多は辟易していた。
瀬多がレミリアを背負っているのでその行軍は通常よりも少し遅いものとなっていた。そのことはレミリアも承知しているが、彼女の理屈としては「なら、瀬多がもっと早く歩けばいいじゃない」という結論に達するのだ。
唯我独尊のレミリアにとって自分が足を引っ張っているなどということはたとえ天変地異が起ころうと考えないのである。
「誰に向かって口を聞いている? お前は私の下僕なんだから、言う通りにしていればいいのよ」
いつ下僕になったんだ、というツッコミは話をややこしくするだけなので敢えてしない。
「はぁ。部下に当たり散らすなんて情けないわね。求心力の薄さが目に見えるわ」
部下じゃないけどな。
心の中で瀬多は呟いた。
「ふん。自分の部下を捨てて隠居生活するような老婆に言われたくないわね。案外、部下に見放されて泣く泣くお花畑に水をやってるんじゃないの?」
「プライドだか見栄だか知らないけど、自分で管理できないくらいの妖精を雇い入れるような馬鹿よりはマシだと思うけど? 私はどっちにも当てはまらないけど」
「……」
「……」
二人は見るからにイラついていた。幽香はあからさまに舌打ちしているし、レミリアの指は先程から瀬多の肩に食い込んでいる。いつ血が滲み出てもおかしくないくらいに痛い。
「お、お二人ともそんな喧嘩しないでくださいよ。ほ、ほら! もうすぐ日が昇りますよ!! 綺麗なお日さまを見ながらみんなでお話しましょう」
「そうねえ。じゃ、ここらで休憩しましょうか。皆で朝日を楽しみながらお喋りするのはさぞ楽しいでしょうし」
見るからに嗜虐的な笑みでレミリアを見つめる幽香。それを見て、アドレーヌはようやく地雷を踏んだことを実感したらしい。両手で口元を押さえている。
「……殺す。もう殺す。絶対殺す!」
「ま、待て! 落ちつけ! これ以上怪我がひどくなったらどうする!」
「そうだぞ! このままじゃいつまでたっても怪我が治らん」
背中から飛び出そうとするレミリアを瀬多とデデデが慌てて止める。
「幽香さん! そんないちいち癇に障る言い方しなくてもいいじゃないですか!」
アドレーヌがキッとなって幽香を諫める。
「何? 私が悪いって言いたいわけ?」
「い、いえ別に…そういうわけじゃないですけど」
しかしそれも幽香の視線一つで尻すぼみ状態である。
怪我をしているという点で押さえやすいレミリアに対し、幽香は常にフリーダム状態だ。一番注意できる立場にあるアドレーヌの言う事も聞かないのだからもう手がつけられない。
瀬多は溜まっていく一方である精神的疲労から、思わずため息をついた。
そんなやりとりを三度くらいこなしていると、ようやく目当ての別荘に辿り着いた。
早速中に入り、先客がいないかを慎重に確かめる。その工程を終えて居間に集まると、ようやく一服できる時間がやってきた。
「とにかく、ここでレミリアの回復を待つのが得策だな」
「それはいいけど、話があるのならさっさと終わらせてくれないかしら?」
ここに来る道中であらかたの情報交換は終わっていたが、それでも瀬多は全員に話し、聞いておきたいことがあった。
「そうだな。それじゃあとりあえず全員集まってくれないか?」
居間はかなりの広さではあったが、その分家具は充実していないようで、椅子やテーブルの類もあまり置いていなかった。必然的に床に直接座ることになる。全員が輪になって、各々の場所に腰を下ろす。
窓から少し差しこんでいる太陽の光が、今の時間を物語っていた。
「さて。まずはみんなにこれを見て欲しい」
そう言って瀬多が取りだしたのは、一冊の本だった。
「何なのだこれは?」
デデデがそれを受け取り、ペラペラとページを捲る。
しばらく本を眺めていたデデデが、突然目を大きく見開いた。
「こ、これは!! なぜおれさまとカービィのことが載っているのだ!?」
その声に興味を惹かれたのか、瀬多以外の人間が本を覗き込む。
「あら、私と霊夢の初顔合わせのことも載ってるわね」
「あっ! 私のことも載ってる!! なんか恥ずかしいなぁ」
「で、このふざけた本は一体何なのかしら」
全員が少なからず興奮状態にある中、幽香はひどく冷静な態度で瀬多に聞いた。
「“攻略本”らしい。このゲームのな」
「ゲーム、というのはつまり、殺し合いのことですか?」
アドレーヌの言葉に瀬多は頷く。
「参加者とその世界の説明が簡潔に載ってある。ただそれだけじゃなく、色々と殺し合いをする上でお得な情報もあるみたいだな」
「得? 強力な武器が会場に隠されてるとか、そういうこと?」
「まあそんな感じだ。中でも一際目立つ情報がこれだな」
そう言って、瀬多が本のとあるページを開いて皆に見せた。
「……どういうこと?」
「どういうことも何もない。本に記載されている通りだ」
その本の見出しにはこう書いてあった。
『爆弾首輪を外すためのお得情報!! 各エリアに隠された四つのクリスタルを見つけろ!』
その下にはクリスタルなるものの隠されている詳細な位置が書かれていた。
「よ、よくわからないぞ。どうしてそんなものを教える必要があるのだ?」
「俺の考えを言ってもいいか?」
全員が瀬多を見つめる。それを了承の合図と受け取り、瀬多は話し出す。
「ここに書かれていることが真実である可能性は低いだろう。主催者にとって、この首輪は殺し合いを促すためのものであるはずなんだ。デデデの言う通り、主催者側にこんな情報を俺達に教えるメリットなんてない。ただ、この情報が殺し合いを促進するというのなら話は別だ」
「え、え~っと……どういうことでしょう?」
アドレーヌの疑問の声があがる。
「簡単に説明しよう。そもそも首輪が殺し合いを促すというのは、放送で流れる禁止エリアによる影響が一番強い。一所に隠れられなくすることで遭遇確率を高めるってわけだ。
で、そういう行動を取ろうとする人間は、自分の力に自信を持っていない奴が比較的多いだろう。…アドレーヌ。もしも君が殺し合いに優勝しようと思ったら、どうする?」
「え!? えっと……」
突然質問を振られ、慌てて考える。
「そう、ですね。やっぱりずっと隠れてます。禁止エリアに指定されたら動いて、別エリアに入ったらまた……あっ! そうか!!」
「そうだ。おそらく主催者はそういう状況を避けたかった。だからこんな回りくどい真似をして参加者の動きを活性化させようとしたんだ。
首輪さえ解除されればこのゲームはクリアしたも同然だからな。禁止エリアに入って、あとはずっと隠れていればいい。24時間の間に死者が出なければ首輪が爆発するというルールがある以上、それで優勝は確定だ」
殺し合いはあくまで殺し合いでなければならない。ただ隠れて逃げのびるだけでなく、命のやり取りに参加しなくてはならないのだ。
それが娯楽目的なのか、他に何か意図があるのか。現段階では何とも言えないことだが。
「ここから読み取れる情報はいくつかある。まず一つは、主催者はどの参加者にどの支給品を支給するのか、あらかじめ決めていた可能性が高いということ。この攻略本が幽香やレミリアのような強者に渡ったら、その効力はまるきり無駄になるからな。
徒党を組みそうな人間を選ぶ必要があったっていうわけだ。そしてもう一つは、この攻略本に書いてある、情報の正誤を比較的簡単に確かめられるものは、全て真実だということだ」
「根拠は?」
「情報の価値が分かれば、即座にこの本は参加者にとって不要なものになる。だから参加者の生い立ち、各世界の説明は信用できる。序盤でも活発に動けばけっこうな参加者と遭遇することが出来るからな」
ここにきて、程度の差はあれ、全員が瀬多に感心していた。対主催派にとって、支給品はいわば敵からの贈り物である。
主催者に対する反発が強ければ強いほど、支給品の信頼性は落ちる。特にそれが情報関係のものなら尚更だ。瀬多は見事その信憑性を得ることに成功したのだ。
「ここまでの話は理解したわ。それで? 結局あなたは何が言いたいわけ? その攻略本が一定の信用に足るものだとわかりましたって、それだけ伝えるためにわざわざ私をここまで同行させたんじゃないでしょうね」
「まさか。今ようやく話のスタート地点に立ったところだ」
その言葉にアドレーヌもデデデも苦い顔をした。これまでの話でも付いて行くのが辛かったというのに、まだ話は半分にも達していないのだ。
「この本の信頼性がある程度高いことは分かってもらえただろうと思う。そこから俺は、一つの仮説を潰したかったんだ」
「仮説?」
「このゲームは攻略可能かどうかっていうことだ」
瀬多の言葉に、幽香とレミリアはどこか意図を汲みかねたように首をかしげ、アドレーヌとデデデは逆に食い入るように瀬多を見つめた。
「どういうことかさっさと教えなさい」
「殺し合いに乗る人間にとって、おそらく最も割合の高い動機が、実際に当てはまるのかってことだ」
幽香とレミリアは未だしっくりとこないらしい。
「幽香、レミリア。二人はどういう動機が一番多いと思う?」
「動機なんて……そりゃあれでしょ。あの……最強を証明したいとか」
「主催者をぶっ殺すためのかけ橋よ。優勝したらやっぱり顔くらい見せるでしょ? その時に刻んでやるのよ」
瀬多の想像以上に物騒で力押しな答えだった。
「……正解は、勝てるわけがない、だ」
「「はぁ?」」
面白いほどに声が重なった。
それにしてもと瀬多は思う。どうしてこの二人は、これほど自信満々なのだろうか。自分の命を握られているという自覚が足りないのではないか。
「要するに、全知全能の神がいたら刃向っても無駄だと思うだろ。それと同じ理屈だ」
「そんな奴がいたら私が逆さにして吊るしてやるわ」
「あたしなら串刺しにして、にんにく漬けにするわね」
「……あんたらの意見はわかった。けど、この仮説を崩すのはけっこう重要なんだ。こういう場所で真に危険なのは強者じゃなく、弱者だ。それも、一見味方のような奴がな」
何となく文句を言いたそうな顔をしている二人を無視して瀬多は話す。
「強い奴は確かに脅威だが、行動を予測しやすい。だが、情緒不安定な奴は、何をしでかすか分からないという点でかなり危険なんだ。
食べ物に毒を盛るかもしれない。寝込みを襲われるかもしれない。このゲームで重要なのはチームを作ることだ。
チームを作り、いかにそれを瓦解することなく保ち続けるか。それが勝負の鍵だ。強い奴だけじゃなく、機械や魔法に詳しい奴も必要だし、チームをまとめる人間も必要になってくる。
そんな中で、いかに全員がぶれずに動けるか。そのためにはまず、主催者は神なんかじゃないという絶対的な事実が必要なんだ」
アドレーヌもデデデも、どちらかといえば弱者側だ。だからこそ瀬多の言い分、その本質を理解できた。
必ず攻略できるという確信がなければ、ゲームを根気よくプレイすることは出来ない。ゴールがあるから人はそれに向かって動ける。瀬多はまず、このチームの芯を作るために、そのゴールを見つけたかったのだ。
「このゲームを成り立たせる要素は多くない。そして、そのほとんどが個人にとっては神がかり的なものであり、参加者全体の視点で見れば大したことのないものだ」
攻略本で得た知識を瀬多は語る。ワープを可能にする杖。博麗大結界やマヨナカテレビ。
それらの存在を全て兼ね合わせれば、この殺し合いを始めるために起こさなくてはならない奇跡のほとんどが可能なのだ。
「マルクに大した力はない。ただ様々な世界を行き来できるというだけだ。あいつ自身には何の力もない。そして、奴が俺達の常識を併せ持った存在だというのなら、俺達が力を合わせれば、奴を倒すことだって難しいことじゃない」
瀬多が紡ぎ出した仮説。それはアドレーヌやデデデにとって、確かに希望の光のように思えた。
首輪によって命を押さえられ、殺し合いを強要され、まさしく神のように遠い存在だと思っていたマルクとの距離が、一気に縮まった気がした。
「私達はどうやって拉致したの?」
幽香の冷めた声が聞こえた。
「あなたたちがいつどうやってここに連れてこられたかは知らないけど、私の場合は本当にあっという間だったわ。まばたき一つした瞬間、妙な場所で首輪をつけられていた。このイリュージョンはどうやって説明するつもり?」
その言葉に全員が黙った。
ワープする杖があったとしても、それを使用する間に何らかのモーションがあったはずだ。それにすら気付かずこの場所に飛ばされる。幽香やレミリアといった強者を相手に、そんなことが簡単にできるとは思えない。
「……方法はないわけじゃない」
これまで流暢に話していた瀬多が初めて言い淀んだ。しかしそれでも、その方法に心当たりがあると、確かに瀬多は言ったのだ。
アドレーヌやデデデだけじゃない。今度ばかりはレミリアや幽香も、瀬多の言葉に耳を傾けていた。
「だが、確証がない。そして、それを今皆に言うことはできない」
「希望がないからか?」
レミリアは馬鹿にするように笑った。
「……とにかく、そのことについては俺が少し考えてみる。だから今は追及しないで──」
ピタリとレミリアが動きを止めた。それと同時に幽香もアドレーを自分の元に引き寄せる。
早速中に入り、先客がいないかを慎重に確かめる。その工程を終えて居間に集まると、ようやく一服できる時間がやってきた。
「とにかく、ここでレミリアの回復を待つのが得策だな」
「それはいいけど、話があるのならさっさと終わらせてくれないかしら?」
ここに来る道中であらかたの情報交換は終わっていたが、それでも瀬多は全員に話し、聞いておきたいことがあった。
「そうだな。それじゃあとりあえず全員集まってくれないか?」
居間はかなりの広さではあったが、その分家具は充実していないようで、椅子やテーブルの類もあまり置いていなかった。必然的に床に直接座ることになる。全員が輪になって、各々の場所に腰を下ろす。
窓から少し差しこんでいる太陽の光が、今の時間を物語っていた。
「さて。まずはみんなにこれを見て欲しい」
そう言って瀬多が取りだしたのは、一冊の本だった。
「何なのだこれは?」
デデデがそれを受け取り、ペラペラとページを捲る。
しばらく本を眺めていたデデデが、突然目を大きく見開いた。
「こ、これは!! なぜおれさまとカービィのことが載っているのだ!?」
その声に興味を惹かれたのか、瀬多以外の人間が本を覗き込む。
「あら、私と霊夢の初顔合わせのことも載ってるわね」
「あっ! 私のことも載ってる!! なんか恥ずかしいなぁ」
「で、このふざけた本は一体何なのかしら」
全員が少なからず興奮状態にある中、幽香はひどく冷静な態度で瀬多に聞いた。
「“攻略本”らしい。このゲームのな」
「ゲーム、というのはつまり、殺し合いのことですか?」
アドレーヌの言葉に瀬多は頷く。
「参加者とその世界の説明が簡潔に載ってある。ただそれだけじゃなく、色々と殺し合いをする上でお得な情報もあるみたいだな」
「得? 強力な武器が会場に隠されてるとか、そういうこと?」
「まあそんな感じだ。中でも一際目立つ情報がこれだな」
そう言って、瀬多が本のとあるページを開いて皆に見せた。
「……どういうこと?」
「どういうことも何もない。本に記載されている通りだ」
その本の見出しにはこう書いてあった。
『爆弾首輪を外すためのお得情報!! 各エリアに隠された四つのクリスタルを見つけろ!』
その下にはクリスタルなるものの隠されている詳細な位置が書かれていた。
「よ、よくわからないぞ。どうしてそんなものを教える必要があるのだ?」
「俺の考えを言ってもいいか?」
全員が瀬多を見つめる。それを了承の合図と受け取り、瀬多は話し出す。
「ここに書かれていることが真実である可能性は低いだろう。主催者にとって、この首輪は殺し合いを促すためのものであるはずなんだ。デデデの言う通り、主催者側にこんな情報を俺達に教えるメリットなんてない。ただ、この情報が殺し合いを促進するというのなら話は別だ」
「え、え~っと……どういうことでしょう?」
アドレーヌの疑問の声があがる。
「簡単に説明しよう。そもそも首輪が殺し合いを促すというのは、放送で流れる禁止エリアによる影響が一番強い。一所に隠れられなくすることで遭遇確率を高めるってわけだ。
で、そういう行動を取ろうとする人間は、自分の力に自信を持っていない奴が比較的多いだろう。…アドレーヌ。もしも君が殺し合いに優勝しようと思ったら、どうする?」
「え!? えっと……」
突然質問を振られ、慌てて考える。
「そう、ですね。やっぱりずっと隠れてます。禁止エリアに指定されたら動いて、別エリアに入ったらまた……あっ! そうか!!」
「そうだ。おそらく主催者はそういう状況を避けたかった。だからこんな回りくどい真似をして参加者の動きを活性化させようとしたんだ。
首輪さえ解除されればこのゲームはクリアしたも同然だからな。禁止エリアに入って、あとはずっと隠れていればいい。24時間の間に死者が出なければ首輪が爆発するというルールがある以上、それで優勝は確定だ」
殺し合いはあくまで殺し合いでなければならない。ただ隠れて逃げのびるだけでなく、命のやり取りに参加しなくてはならないのだ。
それが娯楽目的なのか、他に何か意図があるのか。現段階では何とも言えないことだが。
「ここから読み取れる情報はいくつかある。まず一つは、主催者はどの参加者にどの支給品を支給するのか、あらかじめ決めていた可能性が高いということ。この攻略本が幽香やレミリアのような強者に渡ったら、その効力はまるきり無駄になるからな。
徒党を組みそうな人間を選ぶ必要があったっていうわけだ。そしてもう一つは、この攻略本に書いてある、情報の正誤を比較的簡単に確かめられるものは、全て真実だということだ」
「根拠は?」
「情報の価値が分かれば、即座にこの本は参加者にとって不要なものになる。だから参加者の生い立ち、各世界の説明は信用できる。序盤でも活発に動けばけっこうな参加者と遭遇することが出来るからな」
ここにきて、程度の差はあれ、全員が瀬多に感心していた。対主催派にとって、支給品はいわば敵からの贈り物である。
主催者に対する反発が強ければ強いほど、支給品の信頼性は落ちる。特にそれが情報関係のものなら尚更だ。瀬多は見事その信憑性を得ることに成功したのだ。
「ここまでの話は理解したわ。それで? 結局あなたは何が言いたいわけ? その攻略本が一定の信用に足るものだとわかりましたって、それだけ伝えるためにわざわざ私をここまで同行させたんじゃないでしょうね」
「まさか。今ようやく話のスタート地点に立ったところだ」
その言葉にアドレーヌもデデデも苦い顔をした。これまでの話でも付いて行くのが辛かったというのに、まだ話は半分にも達していないのだ。
「この本の信頼性がある程度高いことは分かってもらえただろうと思う。そこから俺は、一つの仮説を潰したかったんだ」
「仮説?」
「このゲームは攻略可能かどうかっていうことだ」
瀬多の言葉に、幽香とレミリアはどこか意図を汲みかねたように首をかしげ、アドレーヌとデデデは逆に食い入るように瀬多を見つめた。
「どういうことかさっさと教えなさい」
「殺し合いに乗る人間にとって、おそらく最も割合の高い動機が、実際に当てはまるのかってことだ」
幽香とレミリアは未だしっくりとこないらしい。
「幽香、レミリア。二人はどういう動機が一番多いと思う?」
「動機なんて……そりゃあれでしょ。あの……最強を証明したいとか」
「主催者をぶっ殺すためのかけ橋よ。優勝したらやっぱり顔くらい見せるでしょ? その時に刻んでやるのよ」
瀬多の想像以上に物騒で力押しな答えだった。
「……正解は、勝てるわけがない、だ」
「「はぁ?」」
面白いほどに声が重なった。
それにしてもと瀬多は思う。どうしてこの二人は、これほど自信満々なのだろうか。自分の命を握られているという自覚が足りないのではないか。
「要するに、全知全能の神がいたら刃向っても無駄だと思うだろ。それと同じ理屈だ」
「そんな奴がいたら私が逆さにして吊るしてやるわ」
「あたしなら串刺しにして、にんにく漬けにするわね」
「……あんたらの意見はわかった。けど、この仮説を崩すのはけっこう重要なんだ。こういう場所で真に危険なのは強者じゃなく、弱者だ。それも、一見味方のような奴がな」
何となく文句を言いたそうな顔をしている二人を無視して瀬多は話す。
「強い奴は確かに脅威だが、行動を予測しやすい。だが、情緒不安定な奴は、何をしでかすか分からないという点でかなり危険なんだ。
食べ物に毒を盛るかもしれない。寝込みを襲われるかもしれない。このゲームで重要なのはチームを作ることだ。
チームを作り、いかにそれを瓦解することなく保ち続けるか。それが勝負の鍵だ。強い奴だけじゃなく、機械や魔法に詳しい奴も必要だし、チームをまとめる人間も必要になってくる。
そんな中で、いかに全員がぶれずに動けるか。そのためにはまず、主催者は神なんかじゃないという絶対的な事実が必要なんだ」
アドレーヌもデデデも、どちらかといえば弱者側だ。だからこそ瀬多の言い分、その本質を理解できた。
必ず攻略できるという確信がなければ、ゲームを根気よくプレイすることは出来ない。ゴールがあるから人はそれに向かって動ける。瀬多はまず、このチームの芯を作るために、そのゴールを見つけたかったのだ。
「このゲームを成り立たせる要素は多くない。そして、そのほとんどが個人にとっては神がかり的なものであり、参加者全体の視点で見れば大したことのないものだ」
攻略本で得た知識を瀬多は語る。ワープを可能にする杖。博麗大結界やマヨナカテレビ。
それらの存在を全て兼ね合わせれば、この殺し合いを始めるために起こさなくてはならない奇跡のほとんどが可能なのだ。
「マルクに大した力はない。ただ様々な世界を行き来できるというだけだ。あいつ自身には何の力もない。そして、奴が俺達の常識を併せ持った存在だというのなら、俺達が力を合わせれば、奴を倒すことだって難しいことじゃない」
瀬多が紡ぎ出した仮説。それはアドレーヌやデデデにとって、確かに希望の光のように思えた。
首輪によって命を押さえられ、殺し合いを強要され、まさしく神のように遠い存在だと思っていたマルクとの距離が、一気に縮まった気がした。
「私達はどうやって拉致したの?」
幽香の冷めた声が聞こえた。
「あなたたちがいつどうやってここに連れてこられたかは知らないけど、私の場合は本当にあっという間だったわ。まばたき一つした瞬間、妙な場所で首輪をつけられていた。このイリュージョンはどうやって説明するつもり?」
その言葉に全員が黙った。
ワープする杖があったとしても、それを使用する間に何らかのモーションがあったはずだ。それにすら気付かずこの場所に飛ばされる。幽香やレミリアといった強者を相手に、そんなことが簡単にできるとは思えない。
「……方法はないわけじゃない」
これまで流暢に話していた瀬多が初めて言い淀んだ。しかしそれでも、その方法に心当たりがあると、確かに瀬多は言ったのだ。
アドレーヌやデデデだけじゃない。今度ばかりはレミリアや幽香も、瀬多の言葉に耳を傾けていた。
「だが、確証がない。そして、それを今皆に言うことはできない」
「希望がないからか?」
レミリアは馬鹿にするように笑った。
「……とにかく、そのことについては俺が少し考えてみる。だから今は追及しないで──」
ピタリとレミリアが動きを止めた。それと同時に幽香もアドレーを自分の元に引き寄せる。
ガシャアン!!
団欒の時間の終わりを告げるチャイムが、今鳴り響いた。
ガラスを突き破り、別荘の中へと放り込まれた何か。それが五人にぶつかろうという時、幽香の拳が唸り、その何かは地面に叩きつけられた。
「ちっ。随分と悪趣味なことをするわね」
殴った手をひらひらと振る。そこからは夥しい血が流れていた。
「ゆ、幽香さん! 血が!!」
「私のじゃないわ。それよりあなた、少し目を瞑ってなさい」
オロオロしながらもアドレーヌは、幽香が叩きつけた物体に目を落とした。
「ひっ!!」
それは明らかに人間だった。いや、人間だったものだ。
「どこからどう見ても人間の死体だな。…ふん。ただの奇襲にしてはなかなか凝った演出じゃないか」
ただただ事態が把握できずに困惑していたアドレーヌは、青い顔で目を背けた。
「どうやらあっちからお出向きするつもりはないようね。これだけ心地良い殺気を放っておいて、随分と身勝手な奴だわ」
幽香はアドレーヌを瀬多の元へと引き渡し、スタスタと先程死体が放り投げられた窓の方へと歩いて行く。
「幽香! 一人でどこに行くつもりだ」
「決まってるでしょ? これを投げつけた失礼極まりない奴をぶっ殺しに行くのよ」
そう言って笑う幽香に、瀬多は、アドレーヌは、デデデは、戦慄を隠し切れなかった。その表情から湧き出る感情があまりにも場違いで、理解し難いものだった。
愉悦。
幽香は、誰の目にも明らかなほど、この残忍極まる襲撃者の来襲を喜んでいた。
やっと戦える。
鮮血をほとぼらせ、骨をきしらせる戦いがようやく出来る。
幽香のあまりにも凄まじい飢えに、瀬多達はまるで捕食者にでもなったかのような恐怖を覚えた。
「おい。あまり調子に乗ったことするんじゃないわよ。…あいつ、なにかおかしいわ」
負の感情、闘争本能を引き立たされる奇妙な感覚。それを自分の身に実感しながらも、レミリアは言った。
「私を誰だと思っているの? さっさと殺してきてやるから、怪我人は大人しくしておきなさい」
幽香はそれだけ言うと、割れた窓からさっさと出て行ってしまった。
ガラスを突き破り、別荘の中へと放り込まれた何か。それが五人にぶつかろうという時、幽香の拳が唸り、その何かは地面に叩きつけられた。
「ちっ。随分と悪趣味なことをするわね」
殴った手をひらひらと振る。そこからは夥しい血が流れていた。
「ゆ、幽香さん! 血が!!」
「私のじゃないわ。それよりあなた、少し目を瞑ってなさい」
オロオロしながらもアドレーヌは、幽香が叩きつけた物体に目を落とした。
「ひっ!!」
それは明らかに人間だった。いや、人間だったものだ。
「どこからどう見ても人間の死体だな。…ふん。ただの奇襲にしてはなかなか凝った演出じゃないか」
ただただ事態が把握できずに困惑していたアドレーヌは、青い顔で目を背けた。
「どうやらあっちからお出向きするつもりはないようね。これだけ心地良い殺気を放っておいて、随分と身勝手な奴だわ」
幽香はアドレーヌを瀬多の元へと引き渡し、スタスタと先程死体が放り投げられた窓の方へと歩いて行く。
「幽香! 一人でどこに行くつもりだ」
「決まってるでしょ? これを投げつけた失礼極まりない奴をぶっ殺しに行くのよ」
そう言って笑う幽香に、瀬多は、アドレーヌは、デデデは、戦慄を隠し切れなかった。その表情から湧き出る感情があまりにも場違いで、理解し難いものだった。
愉悦。
幽香は、誰の目にも明らかなほど、この残忍極まる襲撃者の来襲を喜んでいた。
やっと戦える。
鮮血をほとぼらせ、骨をきしらせる戦いがようやく出来る。
幽香のあまりにも凄まじい飢えに、瀬多達はまるで捕食者にでもなったかのような恐怖を覚えた。
「おい。あまり調子に乗ったことするんじゃないわよ。…あいつ、なにかおかしいわ」
負の感情、闘争本能を引き立たされる奇妙な感覚。それを自分の身に実感しながらも、レミリアは言った。
「私を誰だと思っているの? さっさと殺してきてやるから、怪我人は大人しくしておきなさい」
幽香はそれだけ言うと、割れた窓からさっさと出て行ってしまった。
六時間ぶりに拝む日光に目を細め、幽香は目の前にいる男に対して笑ってみせる。
「あらあら。もっと陰湿そうな顔してるかと思ったら。こんなおじ様だとは思わなかったわ」
「それは我も同じだ。一番の強者と戦うために、わざわざ待ってやっていたというのに、出てきたのは小娘だというのだから」
「……今も、そんなことを考えられるかしら?」
対峙する幽香とアシュナード。
視認すら出来るのではないかと思うほどの闘気が、覇気が、二人を包み込んでいた。
「まさか。久々に高揚しているところだ。これほどの強者をこの手で屠れるというのだからな」
「その自信、根本からへし折ってやるわ」
自分のデイバックから一本の斧を取り出す。
それに合わせて、アシュナードも刀を取り出した。
目の前の標的を確認し合うように互いの武器で相手を指し示す。
一瞬の静けさ。
どちらからともなく、二人の武器は交差した。
「あらあら。もっと陰湿そうな顔してるかと思ったら。こんなおじ様だとは思わなかったわ」
「それは我も同じだ。一番の強者と戦うために、わざわざ待ってやっていたというのに、出てきたのは小娘だというのだから」
「……今も、そんなことを考えられるかしら?」
対峙する幽香とアシュナード。
視認すら出来るのではないかと思うほどの闘気が、覇気が、二人を包み込んでいた。
「まさか。久々に高揚しているところだ。これほどの強者をこの手で屠れるというのだからな」
「その自信、根本からへし折ってやるわ」
自分のデイバックから一本の斧を取り出す。
それに合わせて、アシュナードも刀を取り出した。
目の前の標的を確認し合うように互いの武器で相手を指し示す。
一瞬の静けさ。
どちらからともなく、二人の武器は交差した。