託された希望(2) ◆dGUiIvN2Nw
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「レミリア。俺達も幽香の援護に行った方が……」
「止めときなさい。そんなことしたら幽香に殺されるわよ。あいつが死ぬなんてこの私が死ぬ次の次くらいに有り得ないから心配する必要はないわ」
そう言って、フラフラな身体で小さなソファまで行くと、そこにゴロンと横になった。
「い、いくらなんでもリラックスしすぎだ! 敵は眼の前にいるんだぞ」
「何度も言わせるな。幽香が向かったんなら、少なくとも小一時間は安全だ。その間にちょっとでも回復しておきたい。いい加減おちょくられるのも我慢の限界なの」
「だからって……」
言いかけて、瀬多はこれ以上先の言葉を呑みこんだ。
たった少し横になっただけで眠りに落ちてしまったレミリアを見れば、彼女の負傷がどれほど酷いものなのかは理解できる。いくら吸血鬼で再生能力が高いといっても、やはり限界が近かったのだろう。
彼女としても自分と同等の力を持ち、無傷だった幽香を見て焦りを覚えていたのかもしれない。
「寝顔だけ見れば可愛いんだけどな」
苦笑して、自分も腰を下ろす。いざという時に全力を出せるように、できるだけ体力を回復しておきたかった。
ふと、そこでずっと黙って下を向いているアドレーヌに気付いた。
「どうしたのだ、アドレーヌ? お腹でも痛いのか?」
デデデもそれに気付き、優しく声をかける。
「……幽香さん、喜んでた。私を守ってくれるって、そう言ったのに」
デデデも、そして瀬多も、それを否定することが出来ず、黙り込んだ。
「幽香さんにとって、私はただのエサだったんだ。私と一緒にいたのも、けっきょく強い人と戦いたいだけ。……私のことなんて、ホントは嫌いだったんだ」
「……アドレーヌは、幽香を信じてるのか?」
アドレーヌは思わずデデデを見つめた。
「幽香は、アドレーヌのために戦ってるんだぞ。そんな奴が、アドレーヌのことを嫌いなわけない。だから、幽香を信じてやらないといけないぞ」
アドレーヌは俯いて、デデデの言葉を聞いていた。
「幽香もレミリアも、俺達とは少し違う。強靭で、裏打ちされた絶対的な自信がある。我が強くて、非情で、一見すると何を考えてるかよくわからない。
でも、それでも二人は、殺し合いに乗らず、俺達と一緒に行動してくれてる。俺もデデデと同意見だ。俺達は守られるばかりじゃない。二人を信じてやらなくちゃいけないんだ」
アドレーヌは、割れた窓に目をやった。そこから幽香を確認することはできないが、戦いの音がそこから聞こえてくる。
「……そう、ですよね。私が…幽香さんを信じてあげなくちゃ」
「そうだぞ。おれさまも、…おれさまだって、リディアをずっと…信じてたんだから」
デデデは、ここにきて、ようやくその言葉を言う事ができた。カインの甘言に戸惑うことはあった。けれど、自分はリディアが死ぬその瞬間まで、彼女をともだちだと思っていた。
それを今、実感することができた。
「リディア? それはだれ?」
デデデは流れ落ちそうな涙を我慢し、アドレーヌに向けて微笑んだ。
「リディアはな。おれさまの──」
「止めときなさい。そんなことしたら幽香に殺されるわよ。あいつが死ぬなんてこの私が死ぬ次の次くらいに有り得ないから心配する必要はないわ」
そう言って、フラフラな身体で小さなソファまで行くと、そこにゴロンと横になった。
「い、いくらなんでもリラックスしすぎだ! 敵は眼の前にいるんだぞ」
「何度も言わせるな。幽香が向かったんなら、少なくとも小一時間は安全だ。その間にちょっとでも回復しておきたい。いい加減おちょくられるのも我慢の限界なの」
「だからって……」
言いかけて、瀬多はこれ以上先の言葉を呑みこんだ。
たった少し横になっただけで眠りに落ちてしまったレミリアを見れば、彼女の負傷がどれほど酷いものなのかは理解できる。いくら吸血鬼で再生能力が高いといっても、やはり限界が近かったのだろう。
彼女としても自分と同等の力を持ち、無傷だった幽香を見て焦りを覚えていたのかもしれない。
「寝顔だけ見れば可愛いんだけどな」
苦笑して、自分も腰を下ろす。いざという時に全力を出せるように、できるだけ体力を回復しておきたかった。
ふと、そこでずっと黙って下を向いているアドレーヌに気付いた。
「どうしたのだ、アドレーヌ? お腹でも痛いのか?」
デデデもそれに気付き、優しく声をかける。
「……幽香さん、喜んでた。私を守ってくれるって、そう言ったのに」
デデデも、そして瀬多も、それを否定することが出来ず、黙り込んだ。
「幽香さんにとって、私はただのエサだったんだ。私と一緒にいたのも、けっきょく強い人と戦いたいだけ。……私のことなんて、ホントは嫌いだったんだ」
「……アドレーヌは、幽香を信じてるのか?」
アドレーヌは思わずデデデを見つめた。
「幽香は、アドレーヌのために戦ってるんだぞ。そんな奴が、アドレーヌのことを嫌いなわけない。だから、幽香を信じてやらないといけないぞ」
アドレーヌは俯いて、デデデの言葉を聞いていた。
「幽香もレミリアも、俺達とは少し違う。強靭で、裏打ちされた絶対的な自信がある。我が強くて、非情で、一見すると何を考えてるかよくわからない。
でも、それでも二人は、殺し合いに乗らず、俺達と一緒に行動してくれてる。俺もデデデと同意見だ。俺達は守られるばかりじゃない。二人を信じてやらなくちゃいけないんだ」
アドレーヌは、割れた窓に目をやった。そこから幽香を確認することはできないが、戦いの音がそこから聞こえてくる。
「……そう、ですよね。私が…幽香さんを信じてあげなくちゃ」
「そうだぞ。おれさまも、…おれさまだって、リディアをずっと…信じてたんだから」
デデデは、ここにきて、ようやくその言葉を言う事ができた。カインの甘言に戸惑うことはあった。けれど、自分はリディアが死ぬその瞬間まで、彼女をともだちだと思っていた。
それを今、実感することができた。
「リディア? それはだれ?」
デデデは流れ落ちそうな涙を我慢し、アドレーヌに向けて微笑んだ。
「リディアはな。おれさまの──」
ドゥン!
「とも……だ…ち……?」
デデデは当惑する。突然声が出なくなった。突然背中が暖かくなった。突然激痛が走った。
蒼白になり、今にも叫び声をあげようとしているアドレーヌが目に映る。休息していた瀬多が驚愕と共に立ち上がる。
デデデは、後ろを振り向くことなく倒れ伏した。
「ひゃーはっはっは!! 再生完了だぜ」
先程まで、眼を背きたくなるほどボロボロだった死体が起き上がり、豪快に笑っている。
何が起こったのか。そんなことを考える暇など瀬多にはなかった。
「ペル──」
「遅えええ!!」
男の隠し持っていた銃が今度は瀬多に向けられる。
ドゥン!!
慌てて避けるも足を取られ、そのまま転倒してしまう。
「二人目ええええ!!!」
転倒した瀬多に馬乗りになり、そのままリロードを素早く済ませて、今度は外さないように瀬多の眉間に照準を合わせる。
「死ねえええ!!!」
「うるさいぞ」
「は?」
瞬間、男に向かって鮮血のように紅い槍が放たれる。それは男の腹に風穴を開き、しかしそれでも勢いは止まることなく、男と共に別荘の壁を貫通した。
「ちっ。……魔力精製に時間がかかるのはかなりネックだな」
未だフラフラした状態のレミリアはソファーから起き上がった。
「……おい、アドレーヌ。一体何があった?」
「デデのだんな!! 起きて!! 起きてよぉ!!」
泣きじゃくるアドレーヌはレミリアの問いが聞こえなかったようだ。未だデデデを揺さぶっている。
レミリアは見るからに苛々した様子でアドレーヌに近づき、その頬をぴしゃりと叩いた。
「しっかりなさい。デデデはまだ生きてるわ。戦闘不能だろうけどね。あんた以外に誰がこいつの治療をするのかしら」
一瞬だけぼーっとしていたアドレーヌだったが、レミリアの言葉の意味を理解すると、慌てて応急処置の準備を始めた。
ようやく冷静さを取り戻したアドレーヌに、レミリアはやれやれとため息をついた。
「で、何があったのか、さっさと教えなさい」
「わ、私にもよくわかりません。最初に投げ込まれた死体が、いきなり……」
手の動きは一切止めずに、涙をぽろぽろ流しながらも、アドレーヌは必死にデデデを助けようとしている。
レミリアは何をするでもなく顎に手をやって考え事をしていた。
「ゾンビってこと? さっきの死体にしては随分と小綺麗だったけど」
言いながらも、レミリアは一つだけ心当たりがあった。以前、従者である咲夜と肝試しに行った時に出会った人間。『蓬莱の薬』を呑み、不老不死になった人間。
もしもあいつがそれと同じなら。
力のない人間といっても、この殺し合いの中ではかなり厄介な相手だ。
「おい、瀬多。いつまで寝ている。さっさと起きろ」
そう言って足蹴にするも、瀬多は一向に起きる気配がなかった。怪訝に思い、胸倉を掴んで揺さぶってみる。それでも動かない。息はしてるし心臓も動いている。なのに何故か、一向に目覚める様子がなかった。
「やりやがったなこのガキイイィ!!」
穴の開いた壁から再びあの男が現れた。ぽっかり開いていたはずの腹の穴は当然のごとく塞がっている。
「蓬莱の薬を飲んだな、餓鬼」
瀬多から手を離し、男と向かい合う。今の自分の状態では相性の悪過ぎる相手だが、幽香がもう一人の敵を片付けるまでは自分が引き受けるしかない。
「蓬莱ぃ? 名前なんか知らねえが、妙なもんを飲まされたのは確かだな」
「お前のような屑には勿体ない代物だ。未だ人間気取りのような奴は特にな」
「あぁ?」
「不死になったんだろう? だが、お前の周りには恐怖が纏わりついている。息巻いてはいるが、お前は痛みなどという矮小なものにさえ怯えている」
男は黙っている。
「おおかた、ここに放り込まれたのも無理やりだったんだろ? こんな特攻を思いついて実行するような奴には見えないからねぇ。
お前は怖いものだらけだ。ここに放り込んだ奴も怖い。痛みも怖い。そしてこの私も。お前は無敵になったつもりかもしれないが、私から見ればなんてことはない。お前はただの精神的惰弱者だ」
赤い瞳が輝くように光る。牙をむき出しにして笑う。
たとえ身体が小さくとも、そこにいるのは正真正銘の吸血鬼だ。
「……うるせえ」
小さく、男は言った。
「うるせえうるせえうるせえうるせえ!!! 俺は弱くねえし餓鬼でもねえ!! 俺はシルバーだ!! クソ親父だって越えれる男だ!! てめえなんかを怖がって堪るかあ!!」
シルバーはレミリアに向けて銃を向ける。レミリアの怪我を思えば、圧倒的なピンチであるにも関わらず、彼女は余裕の表情で笑っていた。
「この状態の私でも貴様を屠る程度のことは造作もないぞ? さぁ来い、弱者。人間を止め、それに縋りつく者よ。私が直々に教えてやろう。人外というものを」
シルバーとの距離を、まるで瞬間移動でもしたかのように詰め、その頭を片手で掴むと、そのまま地面へと叩きつけた。
引き金を引く。それだけの動作すらさせてもらえない。
あまりの勢いに地面がへこみ、シルバーは声にならない悲鳴をあげる。
「どうした? 怖くないんじゃなかったのか? 今のお前は私に対する恐怖でいっぱいに見えるぞ」
片手片足が使えない状態とは到底思えない力の差。それを目の当たりにして恐怖を覚えない者などいるはずがない。
自分の立ち位置を思い出させる力。
自分は所詮、捕食者なのだ。
シルバーの絶望と、レミリアの愉悦。双方入り混じる別荘に、轟音が響き渡った。
デデデは当惑する。突然声が出なくなった。突然背中が暖かくなった。突然激痛が走った。
蒼白になり、今にも叫び声をあげようとしているアドレーヌが目に映る。休息していた瀬多が驚愕と共に立ち上がる。
デデデは、後ろを振り向くことなく倒れ伏した。
「ひゃーはっはっは!! 再生完了だぜ」
先程まで、眼を背きたくなるほどボロボロだった死体が起き上がり、豪快に笑っている。
何が起こったのか。そんなことを考える暇など瀬多にはなかった。
「ペル──」
「遅えええ!!」
男の隠し持っていた銃が今度は瀬多に向けられる。
ドゥン!!
慌てて避けるも足を取られ、そのまま転倒してしまう。
「二人目ええええ!!!」
転倒した瀬多に馬乗りになり、そのままリロードを素早く済ませて、今度は外さないように瀬多の眉間に照準を合わせる。
「死ねえええ!!!」
「うるさいぞ」
「は?」
瞬間、男に向かって鮮血のように紅い槍が放たれる。それは男の腹に風穴を開き、しかしそれでも勢いは止まることなく、男と共に別荘の壁を貫通した。
「ちっ。……魔力精製に時間がかかるのはかなりネックだな」
未だフラフラした状態のレミリアはソファーから起き上がった。
「……おい、アドレーヌ。一体何があった?」
「デデのだんな!! 起きて!! 起きてよぉ!!」
泣きじゃくるアドレーヌはレミリアの問いが聞こえなかったようだ。未だデデデを揺さぶっている。
レミリアは見るからに苛々した様子でアドレーヌに近づき、その頬をぴしゃりと叩いた。
「しっかりなさい。デデデはまだ生きてるわ。戦闘不能だろうけどね。あんた以外に誰がこいつの治療をするのかしら」
一瞬だけぼーっとしていたアドレーヌだったが、レミリアの言葉の意味を理解すると、慌てて応急処置の準備を始めた。
ようやく冷静さを取り戻したアドレーヌに、レミリアはやれやれとため息をついた。
「で、何があったのか、さっさと教えなさい」
「わ、私にもよくわかりません。最初に投げ込まれた死体が、いきなり……」
手の動きは一切止めずに、涙をぽろぽろ流しながらも、アドレーヌは必死にデデデを助けようとしている。
レミリアは何をするでもなく顎に手をやって考え事をしていた。
「ゾンビってこと? さっきの死体にしては随分と小綺麗だったけど」
言いながらも、レミリアは一つだけ心当たりがあった。以前、従者である咲夜と肝試しに行った時に出会った人間。『蓬莱の薬』を呑み、不老不死になった人間。
もしもあいつがそれと同じなら。
力のない人間といっても、この殺し合いの中ではかなり厄介な相手だ。
「おい、瀬多。いつまで寝ている。さっさと起きろ」
そう言って足蹴にするも、瀬多は一向に起きる気配がなかった。怪訝に思い、胸倉を掴んで揺さぶってみる。それでも動かない。息はしてるし心臓も動いている。なのに何故か、一向に目覚める様子がなかった。
「やりやがったなこのガキイイィ!!」
穴の開いた壁から再びあの男が現れた。ぽっかり開いていたはずの腹の穴は当然のごとく塞がっている。
「蓬莱の薬を飲んだな、餓鬼」
瀬多から手を離し、男と向かい合う。今の自分の状態では相性の悪過ぎる相手だが、幽香がもう一人の敵を片付けるまでは自分が引き受けるしかない。
「蓬莱ぃ? 名前なんか知らねえが、妙なもんを飲まされたのは確かだな」
「お前のような屑には勿体ない代物だ。未だ人間気取りのような奴は特にな」
「あぁ?」
「不死になったんだろう? だが、お前の周りには恐怖が纏わりついている。息巻いてはいるが、お前は痛みなどという矮小なものにさえ怯えている」
男は黙っている。
「おおかた、ここに放り込まれたのも無理やりだったんだろ? こんな特攻を思いついて実行するような奴には見えないからねぇ。
お前は怖いものだらけだ。ここに放り込んだ奴も怖い。痛みも怖い。そしてこの私も。お前は無敵になったつもりかもしれないが、私から見ればなんてことはない。お前はただの精神的惰弱者だ」
赤い瞳が輝くように光る。牙をむき出しにして笑う。
たとえ身体が小さくとも、そこにいるのは正真正銘の吸血鬼だ。
「……うるせえ」
小さく、男は言った。
「うるせえうるせえうるせえうるせえ!!! 俺は弱くねえし餓鬼でもねえ!! 俺はシルバーだ!! クソ親父だって越えれる男だ!! てめえなんかを怖がって堪るかあ!!」
シルバーはレミリアに向けて銃を向ける。レミリアの怪我を思えば、圧倒的なピンチであるにも関わらず、彼女は余裕の表情で笑っていた。
「この状態の私でも貴様を屠る程度のことは造作もないぞ? さぁ来い、弱者。人間を止め、それに縋りつく者よ。私が直々に教えてやろう。人外というものを」
シルバーとの距離を、まるで瞬間移動でもしたかのように詰め、その頭を片手で掴むと、そのまま地面へと叩きつけた。
引き金を引く。それだけの動作すらさせてもらえない。
あまりの勢いに地面がへこみ、シルバーは声にならない悲鳴をあげる。
「どうした? 怖くないんじゃなかったのか? 今のお前は私に対する恐怖でいっぱいに見えるぞ」
片手片足が使えない状態とは到底思えない力の差。それを目の当たりにして恐怖を覚えない者などいるはずがない。
自分の立ち位置を思い出させる力。
自分は所詮、捕食者なのだ。
シルバーの絶望と、レミリアの愉悦。双方入り混じる別荘に、轟音が響き渡った。
斧と刀がぶつかり合う。その度に大気は震え、火花が散る。
何度となくぶつかり合う二本だが、武器の質としては決して上等とはいえない。しかし、使い手がその質の悪さを完全にカバーしていた。その圧倒的な力で。
「素晴らしいぞ!! よもやここまで戦えるとは。化身せぬところを見れば貴様もベオクのようだが、これほどの女は初めて見る」
「私はよく見てるわね。あなたみたいに自分が最強だと勘違いしてる弱者は」
一際強い一撃を受け合う二人。その反動で距離が開く。
「我を弱者呼ばわりする奴も初めてだ。つくづく我の興味をそそる」
ここまでの凄まじい打ち合いなどなかったかのように、二人は汗一つかいていない。
「お喋りはそれで終わり? さっさと済ませたいんだけど」
「仲間が気になるか?」
幽香はただ黙ってアシュナードを見つめている。
「フン。分かっているだろう。貴様はこちら側の人間だ。我と同じように強者を求め歩いている。強者と戦い、勝利することこそ我々の存在意義なのだ。なのに何故群れをなす。何故互いの傷を舐め合う弱者に与する」
アシュナードは言葉を切り、すっと手を差しだした。
「我と共に来い。我が貴様にとっての理想を実現してやろう。強者が生き、弱者が死ぬ世界。強者こそが正義となる世界を我が作ってやる。だから…我の妃になれ」
あまりにも直球なプロポーズ。
照れの一つなく言い切ったアシュナードの言葉に、当の幽香は眉一つ動かさない。
「NOよ。あなたの世界もあなた自身も、私には微塵の興味もないの。私は私のやりたいようにやるだけ。強い奴がいれば闘うし、そこに花があればそれを愛でるし、私はいつだって私の好きな様にする。それともう一つ訂正ね」
言葉の合間を縫って、幽香は一足でアシュナードの懐へと入り込んだ。
「私は人間じゃない。史上最強の妖怪よ」
隙をついた横なぎの一撃。それはアシュナードの鎧を粉砕し、そして自分の斧までも砕け散らせた。
斧を捨て、拳による二撃目を繰り出す前にアシュナードの蹴りが幽香の腹に突き刺さる。
もう一度距離を取る二人。
「少し甘かったか」
「ああ、甘い。それに温い。貴様はどこかで力をセーブしている」
「よく分かったわね」
「何故本気を出さん」
「出す必要がないからよ」
「フン。つまらん嘘をつくな。自分で自分を制御出来ないからだろう?」
図星を突かれたのか、幽香はピクリと反応する。
「我の周りから出るメダリオンの瘴気。残留したものとはいえ、闘争本能の塊である貴様にはなかなか堪えるものがあるのだろう?」
幽香は強者の多い幻想郷の中でも突出して戦闘力が高いことで有名だ。だから好き好んで幽香に戦いを挑む者など一人としていない。スペルカードルールも考案された現在、幽香が全力で戦うことなどまずないのだ。
パワータイプの幽香が本気になれば周りなど見えなくなる。おそらく自分の愛する花畑を壊しながらでも闘うだろう。
久々の全力、さらにメダリオンによる瘴気が渦巻くフィールド、そして守らなければならないもの。この三つの要素は幽香を制止させるに十分なものだった。
「どうした? 本気を出したくて仕方がないという顔をしているではないか。全力を出しても壊れない玩具がここにあるのだぞ? 貴様にとっては絶好のチャンスではないか?」
その通りだ。確かにその通りだ。
しかし、幽香の中で何かが歯止めしている。
その時だった。
よく知った、背筋に鳥肌がたつような感覚が幽香に走る。
アシュナードもそれを感じ取ったのだろう。幽香と同じ場所を振り向く。
そこには二人の男がいた。遠目からこちらを窺っているが、攻撃してくる様子はない。しかし、その殺気と佇まいから、彼らが殺し合いに乗っていることは明白だった。
アシュナードは幽香を一瞥し、にやりと笑う。
すっと音もなく手を伸ばし、アシュナードは別荘を指差した。
幽香はアシュナードが何をしているのか一瞬分からなかったが、すぐにその意図を察した。
「あ、あんた何を!!」
「貴様の心配の種を一つ減らしてやろうとしているのだ。感謝しろ」
二人組の男はアシュナードの意図を汲むと、そちらへ向かって走って行った。
「これで、貴様は我をいち早く倒さねば──」
アシュナードの頬に幽香の拳がぶち込まれた。
地面をバウンドして転がり、慌てて立ち上がったアシュナード。しかし既にその前には幽香が拳を引いて立っている。
刀を振るう。が、それは幽香の拳によっていとも簡単にへし折られた。
「ふはははは!!! いいぞ!! この強さ、この狂気。これこそ我が妃に相応しい!!!」
拳を武器に、二人は狂気に駆り立てられるかのように殴り合った。
何度となくぶつかり合う二本だが、武器の質としては決して上等とはいえない。しかし、使い手がその質の悪さを完全にカバーしていた。その圧倒的な力で。
「素晴らしいぞ!! よもやここまで戦えるとは。化身せぬところを見れば貴様もベオクのようだが、これほどの女は初めて見る」
「私はよく見てるわね。あなたみたいに自分が最強だと勘違いしてる弱者は」
一際強い一撃を受け合う二人。その反動で距離が開く。
「我を弱者呼ばわりする奴も初めてだ。つくづく我の興味をそそる」
ここまでの凄まじい打ち合いなどなかったかのように、二人は汗一つかいていない。
「お喋りはそれで終わり? さっさと済ませたいんだけど」
「仲間が気になるか?」
幽香はただ黙ってアシュナードを見つめている。
「フン。分かっているだろう。貴様はこちら側の人間だ。我と同じように強者を求め歩いている。強者と戦い、勝利することこそ我々の存在意義なのだ。なのに何故群れをなす。何故互いの傷を舐め合う弱者に与する」
アシュナードは言葉を切り、すっと手を差しだした。
「我と共に来い。我が貴様にとっての理想を実現してやろう。強者が生き、弱者が死ぬ世界。強者こそが正義となる世界を我が作ってやる。だから…我の妃になれ」
あまりにも直球なプロポーズ。
照れの一つなく言い切ったアシュナードの言葉に、当の幽香は眉一つ動かさない。
「NOよ。あなたの世界もあなた自身も、私には微塵の興味もないの。私は私のやりたいようにやるだけ。強い奴がいれば闘うし、そこに花があればそれを愛でるし、私はいつだって私の好きな様にする。それともう一つ訂正ね」
言葉の合間を縫って、幽香は一足でアシュナードの懐へと入り込んだ。
「私は人間じゃない。史上最強の妖怪よ」
隙をついた横なぎの一撃。それはアシュナードの鎧を粉砕し、そして自分の斧までも砕け散らせた。
斧を捨て、拳による二撃目を繰り出す前にアシュナードの蹴りが幽香の腹に突き刺さる。
もう一度距離を取る二人。
「少し甘かったか」
「ああ、甘い。それに温い。貴様はどこかで力をセーブしている」
「よく分かったわね」
「何故本気を出さん」
「出す必要がないからよ」
「フン。つまらん嘘をつくな。自分で自分を制御出来ないからだろう?」
図星を突かれたのか、幽香はピクリと反応する。
「我の周りから出るメダリオンの瘴気。残留したものとはいえ、闘争本能の塊である貴様にはなかなか堪えるものがあるのだろう?」
幽香は強者の多い幻想郷の中でも突出して戦闘力が高いことで有名だ。だから好き好んで幽香に戦いを挑む者など一人としていない。スペルカードルールも考案された現在、幽香が全力で戦うことなどまずないのだ。
パワータイプの幽香が本気になれば周りなど見えなくなる。おそらく自分の愛する花畑を壊しながらでも闘うだろう。
久々の全力、さらにメダリオンによる瘴気が渦巻くフィールド、そして守らなければならないもの。この三つの要素は幽香を制止させるに十分なものだった。
「どうした? 本気を出したくて仕方がないという顔をしているではないか。全力を出しても壊れない玩具がここにあるのだぞ? 貴様にとっては絶好のチャンスではないか?」
その通りだ。確かにその通りだ。
しかし、幽香の中で何かが歯止めしている。
その時だった。
よく知った、背筋に鳥肌がたつような感覚が幽香に走る。
アシュナードもそれを感じ取ったのだろう。幽香と同じ場所を振り向く。
そこには二人の男がいた。遠目からこちらを窺っているが、攻撃してくる様子はない。しかし、その殺気と佇まいから、彼らが殺し合いに乗っていることは明白だった。
アシュナードは幽香を一瞥し、にやりと笑う。
すっと音もなく手を伸ばし、アシュナードは別荘を指差した。
幽香はアシュナードが何をしているのか一瞬分からなかったが、すぐにその意図を察した。
「あ、あんた何を!!」
「貴様の心配の種を一つ減らしてやろうとしているのだ。感謝しろ」
二人組の男はアシュナードの意図を汲むと、そちらへ向かって走って行った。
「これで、貴様は我をいち早く倒さねば──」
アシュナードの頬に幽香の拳がぶち込まれた。
地面をバウンドして転がり、慌てて立ち上がったアシュナード。しかし既にその前には幽香が拳を引いて立っている。
刀を振るう。が、それは幽香の拳によっていとも簡単にへし折られた。
「ふはははは!!! いいぞ!! この強さ、この狂気。これこそ我が妃に相応しい!!!」
拳を武器に、二人は狂気に駆り立てられるかのように殴り合った。
「やったか? カイン」
セシルの冷静な声が別荘に木霊する。
アドレーヌはもはや言葉すら出ない。デデデも意識はあるが、朦朧としている。瀬多に至っては未だ気絶した状態。シルバーは先程のレミリアの一撃が効いているのか、再生中で状況を確認する余裕すらない。
突然現れた鎧の男。まるで隕石のように天井を抜いて落下してきたカインの一撃に、レミリアは頭からどくどくと血を流して倒れていた。
ここに来る前、セシルはカインと情報交換を済ませると、強敵であるレミリア・スカーレットを弱っている内に倒すことを主張し、カインもそれに乗ったのだ。それは今の状況を見ても妙案だったということがわかる。
「いや。ギリギリでかわされた。槍で頭を一突きにするつもりだったんだが、蹴りをいれるので精一杯だった」
しかし、その蹴りも『ジャンプ』によって威力は何倍にも膨れ上がっている。吸血鬼であるレミリアでなかったら明らかに即死だ。そしてレミリアも死は免れたが、さすがに意識を失ってしまっている。
「だが、この状況を見れば、このチームは壊滅したも同然だな」
気絶した瀬多とレミリア。瀕死のデデデ。戦闘力のないアドレーヌ。幽香は外で戦っている。遠目から見た様子では外で戦っている二人は戦力的に拮抗している様子だった。
それならばまだ時間はたっぷり残っている。
ここにいる死にぞこないを全員殺せるだけの時間は。
「ま、待ちやがれ!! こいつは俺のえも──ぎゃああああ!!!」
「黙れ」
再生したシルバーに間髪入れず斬撃を繰り出す。両腕を切断され、のたうつシルバーを無視してセシルは構える。
「面倒だ。まとめて片付ける。カイン、離れていろ」
アイクを沈めた全体攻撃、暗黒を放つ構えだ。
暗黒のことを知らずとも、アドレーヌには何か強力な技を相手が使おうとしていることがわかった。
「だ、だめです!! ぜったいに、だれも殺させたりしません!!」
レミリアを引きずり、できるだけ三人を近くへと引き寄せる。暗黒を防ぐ方法などアドレーヌにはない。
しかし、それでもどうにかしたい。
一人だけでも生き残らせたい。
自分が盾になれば一人くらいは生き残るかもしれない。アドレーヌは残された時間で必死に皆を引きずり、そして一人セシルの前で手を広げた。仲間を守る為に。
「暗 黒」
無慈悲な声が響き渡り、アドレーヌの視界が黒い光に包まれた。
思わず目を瞑る。
痛みが全身を貫き、真っ赤な鮮血が……
「あれ? 痛くない」
思わず自分の身体を確認する。怪我一つしていない。一体どうして。そう思った時、一つの声が聞こえた。
「少し見ぬ間に強くなったな、アドレーヌ」
自分よりも小さな体。しかし凛とし、大人びた雰囲気を漂わせるマントを羽織った球体の男。
「メタナイトさん!!」
小さな、しかし正義を貫く強さを持った剣士がそこにはいた。
セシルの冷静な声が別荘に木霊する。
アドレーヌはもはや言葉すら出ない。デデデも意識はあるが、朦朧としている。瀬多に至っては未だ気絶した状態。シルバーは先程のレミリアの一撃が効いているのか、再生中で状況を確認する余裕すらない。
突然現れた鎧の男。まるで隕石のように天井を抜いて落下してきたカインの一撃に、レミリアは頭からどくどくと血を流して倒れていた。
ここに来る前、セシルはカインと情報交換を済ませると、強敵であるレミリア・スカーレットを弱っている内に倒すことを主張し、カインもそれに乗ったのだ。それは今の状況を見ても妙案だったということがわかる。
「いや。ギリギリでかわされた。槍で頭を一突きにするつもりだったんだが、蹴りをいれるので精一杯だった」
しかし、その蹴りも『ジャンプ』によって威力は何倍にも膨れ上がっている。吸血鬼であるレミリアでなかったら明らかに即死だ。そしてレミリアも死は免れたが、さすがに意識を失ってしまっている。
「だが、この状況を見れば、このチームは壊滅したも同然だな」
気絶した瀬多とレミリア。瀕死のデデデ。戦闘力のないアドレーヌ。幽香は外で戦っている。遠目から見た様子では外で戦っている二人は戦力的に拮抗している様子だった。
それならばまだ時間はたっぷり残っている。
ここにいる死にぞこないを全員殺せるだけの時間は。
「ま、待ちやがれ!! こいつは俺のえも──ぎゃああああ!!!」
「黙れ」
再生したシルバーに間髪入れず斬撃を繰り出す。両腕を切断され、のたうつシルバーを無視してセシルは構える。
「面倒だ。まとめて片付ける。カイン、離れていろ」
アイクを沈めた全体攻撃、暗黒を放つ構えだ。
暗黒のことを知らずとも、アドレーヌには何か強力な技を相手が使おうとしていることがわかった。
「だ、だめです!! ぜったいに、だれも殺させたりしません!!」
レミリアを引きずり、できるだけ三人を近くへと引き寄せる。暗黒を防ぐ方法などアドレーヌにはない。
しかし、それでもどうにかしたい。
一人だけでも生き残らせたい。
自分が盾になれば一人くらいは生き残るかもしれない。アドレーヌは残された時間で必死に皆を引きずり、そして一人セシルの前で手を広げた。仲間を守る為に。
「暗 黒」
無慈悲な声が響き渡り、アドレーヌの視界が黒い光に包まれた。
思わず目を瞑る。
痛みが全身を貫き、真っ赤な鮮血が……
「あれ? 痛くない」
思わず自分の身体を確認する。怪我一つしていない。一体どうして。そう思った時、一つの声が聞こえた。
「少し見ぬ間に強くなったな、アドレーヌ」
自分よりも小さな体。しかし凛とし、大人びた雰囲気を漂わせるマントを羽織った球体の男。
「メタナイトさん!!」
小さな、しかし正義を貫く強さを持った剣士がそこにはいた。
どこだ、ここは。
瀬多総司が最初に感じたのはそんな疑問だった。
振動する地面。その不規則な揺れから、今自分が立っている場所そのものが移動していることがわかる。
目を開くと、そこに立つ自分をしっかりと確認することができる。
凹凸の激しい道を走っているのだろうか。再び地面が揺れる。
「俺は……一体」
自分の両手を確認しながら、思わず呟く。
辺りを見渡すまでもなく、瀬多は実感していた。
そう。自分はここをよく知っている。豪勢なソファー。カラス張りのテーブル。車の中とは思えない、広く調度品の多いこの場所を。
突然、聞き慣れた老人のような声が響いてきた。
「ようこそ、ベルベッドルームへ」
思わず顔を上げ、そこにいる者を睨みつける。
「お前か、イゴール」
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。…フフ。あなたには無用の説明でしょうね」
肩を揺らして笑うイゴール。その度に長く突き出た鼻が揺れ、瀬多を苛立たせる。
「ここにいるということは、やっぱりお前が絡んでたんだな」
「はてさて。それはどうでしょうか。…しかし、あなた様はそれを確信していらっしゃる。だからこそ、ここに来ることが出来たのです」
イゴールの煮え切らない答えを無視して、瀬多は口を開いた。
「お前が絡んでいる可能性は、ここに来た時から考えていた。この殺し合いを開催する力。それだけを考えれば、一番実現可能な人物だからな」
イゴールについては瀬多自身も知らないことだらけだ。ペルソナを生成することができ、異次元空間を作ることができる。瀬多の夢にまで干渉できたことを考えると、人の意識を絶った状態で特定の場所に連れて来ることも出来そうだ。
「フフフ。まあ、お堅い話は置いておきましょう」
「お前が絡むといつもお堅い話になるんだがな」
イゴールについて分かることは二つだけ。おそらくこいつもペルソナ使いで、相当の実力者だということと、どんな事件が起こっても絶対に直接的な干渉はして来なかったということだ。
マヨナカテレビの事件だって、イゴールが出てくれば簡単に解決しただろう。なのに、あくまでもサポートに徹するのみだった。事件そのものを解決することは出来ずとも、少なくとも死者を出さないようには出来た筈だ。
目的のためならば、死人が出ても構わない。それくらいのことは考えていると思っていいだろう。
「今回、あなたをここに呼んだのは、私の存在に感づいたということもありますが、もう一つ、契約を果たしてもらうためでございます」
「……契約?」
「その通り。それも、今この瞬間に結ぶ契約でございます」
そう言って深々と頭を下げ、どこか含んだ笑みを浮かべた。
「……聞こう」
「そう言って下さると思っておりました。あなたは人よりも冷静で柔軟な頭をお持ちだ」
「前置きはいい。用件だけを言え」
「フフ。せっかちな人も嫌いではありません。では契約内容をお話しましょうか」
長話をする前の一呼吸。その演出的な喋り方も、瀬多は気に入らなかった。
「その前に一つご質問を。あなたにとって、最高のゲームとは何でしょうか?」
「ゲーム?」
そう言われて思いついたのは、トランプやゲーム機、ボードゲームの類だ。どれも人並みにはやるが、最高とまで言えるようなものは特に思いつかなかった。
「それがこの契約と何の関係がある? いや、そもそも俺がその契約を結ぶとも言ってない」
「話は順番に。何をそんなに慌てておられるのです?」
そうだ。何を俺は慌てているんだ?
イゴールに言われ、とにかく少し黙りこむことにする。しかし、どこかそわそわした感覚が離れない。
何か、重要なことを忘れている気がする。しかしそれが何なのか。一向に思い出せない。
「万人にとって、遊びの定義は様々です。お子様方ならばおままごとや砂遊びなどがそうでしょうし、少し歳を取れば縄跳びや野球といったものになる。
人はその人のキャパシティの中で出来ること、全力で取り組めることを遊びとしてきました。
遊びを遊びとする定義はたった一つ。その者がそれを行い、楽しいと思えるかどうか。楽しいと感じる行為。
その行為に一定のルールを添えたものがゲームと呼ばれるものでございます」
「……このゲームの主催者は、遊び感覚で俺達を集めたって言いたいのか? そして、他でもない、俺達とゲームをしてると?」
「フフ。それも一つの答えでしょうな」
にやりと笑うイゴール。
イゴールの反応から、自分の答えが正しかったのかを判断しようと考えていたのだが、それは不可能だったようだ。
「私はこの会場内のどこかにいます。私を探し出し、再びこうして相対した時、真実をお教えしましょう。私とあなたにとっての真実を」
「どういうことだ? お前の言っていることはいちいち分かりづらい。そうやって俺を動き回らせて、殺される確率を高めようっていう寸法か?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。何を信じるかはあなた次第でございます。ただ…そうですね。
これだけ、一つだけお約束致しましょう。再び私と相まみえる時、あなたの首輪はこの私が外してさしあげます」
「……それが契約か?」
「あなたが契約を結ぶメリットの一つでしょうな。さらにメリットを挙げるとするならば、あなたと契約することで、私も他の参加者と同じ扱いになるということでしょうか。
そうなれば当然、こうしてベルベッドルームに逃げることも出来なくなる。この会場内で私を殺すことも出来ないことではないでしょう。
今回のような接触は、契約を結ぶ結ばないに関わらず今回限りでございます。賢しいあなたなら、私の言っていることはわかると思いますが?」
瀬多の推測通り、今回の参加者をここまで運んで来たのがイゴールであるとするならば、その存在は到底無視できないものだ。
どうにかしてうまくこの殺し合いから脱出できても、また第二第三の殺し合いに招かれる可能性がある。それだけは断じて避けなければならない。
「……それが本当だという確証は?」
「私、嘘をつくことだけは致しません。あなたが死んでも、他の誰かが私を突き止めれば、契約は実行されましょう」
「根拠としては薄過ぎるな。少なくとも、他の連中を納得するには足りない」
「交渉の足しにでもするつもりですかな? フフフ。まあいいでしょう。それならばうってつけのものがあります」
ぱちんと指を鳴らすと、テーブルの上に古ぼけた紙が現れた。
「これは血の契約書と呼ばれるものでございます。これで契約すれば、あなたも私も契約内容を破ることはできません」
「それは行動を縛るということか?」
「そうではありません。ただ、契約にそぐわぬ行動を取ろうとすれば、この契約のことを知った参加者は全て死んでしまうでしょうな」
思わずテーブルを叩き、イゴールを睨みつけた。
「ふざけるなっ! そんな契約認められる訳がないだろ!!」
「しかし、これは対等な契約でございます。貴方と同じだけのリスクを私も背負うことになる」
そう言われれば、瀬多は考えるより他にない。歯を食いしばり、冷静になるように努める。
「私を見つけようと考えるなら、他の方の助力は必要不可欠。そこを理解しているだけでも、十分冷静でございますよ」
瀬多が考えていることを予測してか、イゴールはそう言った。
「……契約不履行のまま俺が死んだらどうなる?」
「その時は、この契約を知っている者の誰かがランダムに選ばれ、貴方の代わりになってもらうことになります」
次なる生贄ってわけか。
そう吐き捨てたくなる気持ちをぐっと押さえて、瀬多は口を開いた。
「いいだろう。受けてやる。その契約」
瀬多総司が最初に感じたのはそんな疑問だった。
振動する地面。その不規則な揺れから、今自分が立っている場所そのものが移動していることがわかる。
目を開くと、そこに立つ自分をしっかりと確認することができる。
凹凸の激しい道を走っているのだろうか。再び地面が揺れる。
「俺は……一体」
自分の両手を確認しながら、思わず呟く。
辺りを見渡すまでもなく、瀬多は実感していた。
そう。自分はここをよく知っている。豪勢なソファー。カラス張りのテーブル。車の中とは思えない、広く調度品の多いこの場所を。
突然、聞き慣れた老人のような声が響いてきた。
「ようこそ、ベルベッドルームへ」
思わず顔を上げ、そこにいる者を睨みつける。
「お前か、イゴール」
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。…フフ。あなたには無用の説明でしょうね」
肩を揺らして笑うイゴール。その度に長く突き出た鼻が揺れ、瀬多を苛立たせる。
「ここにいるということは、やっぱりお前が絡んでたんだな」
「はてさて。それはどうでしょうか。…しかし、あなた様はそれを確信していらっしゃる。だからこそ、ここに来ることが出来たのです」
イゴールの煮え切らない答えを無視して、瀬多は口を開いた。
「お前が絡んでいる可能性は、ここに来た時から考えていた。この殺し合いを開催する力。それだけを考えれば、一番実現可能な人物だからな」
イゴールについては瀬多自身も知らないことだらけだ。ペルソナを生成することができ、異次元空間を作ることができる。瀬多の夢にまで干渉できたことを考えると、人の意識を絶った状態で特定の場所に連れて来ることも出来そうだ。
「フフフ。まあ、お堅い話は置いておきましょう」
「お前が絡むといつもお堅い話になるんだがな」
イゴールについて分かることは二つだけ。おそらくこいつもペルソナ使いで、相当の実力者だということと、どんな事件が起こっても絶対に直接的な干渉はして来なかったということだ。
マヨナカテレビの事件だって、イゴールが出てくれば簡単に解決しただろう。なのに、あくまでもサポートに徹するのみだった。事件そのものを解決することは出来ずとも、少なくとも死者を出さないようには出来た筈だ。
目的のためならば、死人が出ても構わない。それくらいのことは考えていると思っていいだろう。
「今回、あなたをここに呼んだのは、私の存在に感づいたということもありますが、もう一つ、契約を果たしてもらうためでございます」
「……契約?」
「その通り。それも、今この瞬間に結ぶ契約でございます」
そう言って深々と頭を下げ、どこか含んだ笑みを浮かべた。
「……聞こう」
「そう言って下さると思っておりました。あなたは人よりも冷静で柔軟な頭をお持ちだ」
「前置きはいい。用件だけを言え」
「フフ。せっかちな人も嫌いではありません。では契約内容をお話しましょうか」
長話をする前の一呼吸。その演出的な喋り方も、瀬多は気に入らなかった。
「その前に一つご質問を。あなたにとって、最高のゲームとは何でしょうか?」
「ゲーム?」
そう言われて思いついたのは、トランプやゲーム機、ボードゲームの類だ。どれも人並みにはやるが、最高とまで言えるようなものは特に思いつかなかった。
「それがこの契約と何の関係がある? いや、そもそも俺がその契約を結ぶとも言ってない」
「話は順番に。何をそんなに慌てておられるのです?」
そうだ。何を俺は慌てているんだ?
イゴールに言われ、とにかく少し黙りこむことにする。しかし、どこかそわそわした感覚が離れない。
何か、重要なことを忘れている気がする。しかしそれが何なのか。一向に思い出せない。
「万人にとって、遊びの定義は様々です。お子様方ならばおままごとや砂遊びなどがそうでしょうし、少し歳を取れば縄跳びや野球といったものになる。
人はその人のキャパシティの中で出来ること、全力で取り組めることを遊びとしてきました。
遊びを遊びとする定義はたった一つ。その者がそれを行い、楽しいと思えるかどうか。楽しいと感じる行為。
その行為に一定のルールを添えたものがゲームと呼ばれるものでございます」
「……このゲームの主催者は、遊び感覚で俺達を集めたって言いたいのか? そして、他でもない、俺達とゲームをしてると?」
「フフ。それも一つの答えでしょうな」
にやりと笑うイゴール。
イゴールの反応から、自分の答えが正しかったのかを判断しようと考えていたのだが、それは不可能だったようだ。
「私はこの会場内のどこかにいます。私を探し出し、再びこうして相対した時、真実をお教えしましょう。私とあなたにとっての真実を」
「どういうことだ? お前の言っていることはいちいち分かりづらい。そうやって俺を動き回らせて、殺される確率を高めようっていう寸法か?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。何を信じるかはあなた次第でございます。ただ…そうですね。
これだけ、一つだけお約束致しましょう。再び私と相まみえる時、あなたの首輪はこの私が外してさしあげます」
「……それが契約か?」
「あなたが契約を結ぶメリットの一つでしょうな。さらにメリットを挙げるとするならば、あなたと契約することで、私も他の参加者と同じ扱いになるということでしょうか。
そうなれば当然、こうしてベルベッドルームに逃げることも出来なくなる。この会場内で私を殺すことも出来ないことではないでしょう。
今回のような接触は、契約を結ぶ結ばないに関わらず今回限りでございます。賢しいあなたなら、私の言っていることはわかると思いますが?」
瀬多の推測通り、今回の参加者をここまで運んで来たのがイゴールであるとするならば、その存在は到底無視できないものだ。
どうにかしてうまくこの殺し合いから脱出できても、また第二第三の殺し合いに招かれる可能性がある。それだけは断じて避けなければならない。
「……それが本当だという確証は?」
「私、嘘をつくことだけは致しません。あなたが死んでも、他の誰かが私を突き止めれば、契約は実行されましょう」
「根拠としては薄過ぎるな。少なくとも、他の連中を納得するには足りない」
「交渉の足しにでもするつもりですかな? フフフ。まあいいでしょう。それならばうってつけのものがあります」
ぱちんと指を鳴らすと、テーブルの上に古ぼけた紙が現れた。
「これは血の契約書と呼ばれるものでございます。これで契約すれば、あなたも私も契約内容を破ることはできません」
「それは行動を縛るということか?」
「そうではありません。ただ、契約にそぐわぬ行動を取ろうとすれば、この契約のことを知った参加者は全て死んでしまうでしょうな」
思わずテーブルを叩き、イゴールを睨みつけた。
「ふざけるなっ! そんな契約認められる訳がないだろ!!」
「しかし、これは対等な契約でございます。貴方と同じだけのリスクを私も背負うことになる」
そう言われれば、瀬多は考えるより他にない。歯を食いしばり、冷静になるように努める。
「私を見つけようと考えるなら、他の方の助力は必要不可欠。そこを理解しているだけでも、十分冷静でございますよ」
瀬多が考えていることを予測してか、イゴールはそう言った。
「……契約不履行のまま俺が死んだらどうなる?」
「その時は、この契約を知っている者の誰かがランダムに選ばれ、貴方の代わりになってもらうことになります」
次なる生贄ってわけか。
そう吐き捨てたくなる気持ちをぐっと押さえて、瀬多は口を開いた。
「いいだろう。受けてやる。その契約」
契約内容を何度も吟味し、抜かりのないことを確認する。それが終わると、瀬多は自分の指を歯でかじり、流れ出た血で自らの名前をその紙に綴った。
途端、自分の右腕に紋章のような浮かび上がった。
「それが契約の証でございます。私の腕にもほら」
そう言って指し示すイゴールの右手にも、瀬多と同じ紋章が記されてあった。
「……契約にそぐわぬ行為といったが、俺の場合はどういうものなんだ?」
「貴方の最重要目的が私の発見だということでございます。当然、あなたの命よりも。やり方は貴方の思うようにすればよろしいでしょう」
「イゴール。最後に聞く。これも、ゲームの一環か?」
「一環でもあり、私自身の望みでもある。私の役目は、お客人を手助けすることでございます。いずれにせよ、真実は次にお目見えする時までということで」
手助け。その言葉を、瀬多はただの戯言だと受け取った。
今回はマヨナカテレビの時とはまったく違う。イゴールが直接介入してきている。その時点で手助けもあったものではない。本当にその気があるのなら、もっとうまい動き方があるはずなのだ。
「……そういえばこの契約、正式に発動するのは俺がここから離れたらだったな」
瞬間、瀬多の目の前にカードが舞い、それを握り潰す。イザナギが現れ、雷がイゴールを襲う。
ソファーが電流によって焼きこげる。しかしそこにイゴールの姿はない。
「フフフ。本当にせっかちな人だ。しかし、私の相手をしている暇はないのではないでしょうか?」
そこでようやくハッとする。
そうだ。今は仲間のピンチだった。
死体だと思われていた男が起き上がり、デデデに斬り付け、応戦しようとしたところで意識が途切れたのだ。
「イゴール!! どこだ、出て来い!!」
「それでは瀬多様。再び出会えることを願っております」
その言葉を皮切りに、瀬多の意識は再び途切れた。
途端、自分の右腕に紋章のような浮かび上がった。
「それが契約の証でございます。私の腕にもほら」
そう言って指し示すイゴールの右手にも、瀬多と同じ紋章が記されてあった。
「……契約にそぐわぬ行為といったが、俺の場合はどういうものなんだ?」
「貴方の最重要目的が私の発見だということでございます。当然、あなたの命よりも。やり方は貴方の思うようにすればよろしいでしょう」
「イゴール。最後に聞く。これも、ゲームの一環か?」
「一環でもあり、私自身の望みでもある。私の役目は、お客人を手助けすることでございます。いずれにせよ、真実は次にお目見えする時までということで」
手助け。その言葉を、瀬多はただの戯言だと受け取った。
今回はマヨナカテレビの時とはまったく違う。イゴールが直接介入してきている。その時点で手助けもあったものではない。本当にその気があるのなら、もっとうまい動き方があるはずなのだ。
「……そういえばこの契約、正式に発動するのは俺がここから離れたらだったな」
瞬間、瀬多の目の前にカードが舞い、それを握り潰す。イザナギが現れ、雷がイゴールを襲う。
ソファーが電流によって焼きこげる。しかしそこにイゴールの姿はない。
「フフフ。本当にせっかちな人だ。しかし、私の相手をしている暇はないのではないでしょうか?」
そこでようやくハッとする。
そうだ。今は仲間のピンチだった。
死体だと思われていた男が起き上がり、デデデに斬り付け、応戦しようとしたところで意識が途切れたのだ。
「イゴール!! どこだ、出て来い!!」
「それでは瀬多様。再び出会えることを願っております」
その言葉を皮切りに、瀬多の意識は再び途切れた。
「メタナイトさん! どうしてここに!?」
「凄まじい音が聞こえたのでな。同士の危機と感じて馳せ参じた」
凛々しくナイフを構えフッと笑う。その姿はあまりにも小さく、初めてメタナイトを見た者ならば油断してもおかしくはない。
が、先程の『暗黒』の軌道を逸らした竜巻のような技を警戒し、セシルとカインは早計に手を打ってはこなかった。
元々戦力足り得るのはメタナイトただ一人。焦りさえしなければこちらの勝利は揺るがない。
「アドレーヌ。怪我はないか? できればここから逃走して欲しいところだが、倒れた仲間がそう多くてはそれも無理か」
「ゆ、幽香さんが外で戦ってます。敵をやっつけたら、きっと助けに来てくれるはずです」
「幽香? 強いのか? 信用できるのか?」
一瞬言い淀む。が、すぐに口を開いた。
「強いです。そして、信用できます」
「…わかった。ならば彼女が来るまでの間、時間稼ぎといこう」
「あ、メタナイトさん。こっちの武器を使ってください。そのナイフよりはマシだと思うから」
「かたじけない」
煌々と紅く輝く緋想の剣を手渡し、アドレーヌは後ろに下がる。
戦闘となればもはや自分が足手まといであることは十分に理解している。
「我ら『赤き翼』を前にして、時間稼ぎができるとは。随分と舐められたものだ。そんな心配よりも、自分の命の心配をした方が身のためだぞ」
「抜かせ外道。弱者を寄ってたかっていたぶるその精神。もはやその生き様は騎士道に反する!」
「俺達は俺達のやり方で目的を達成する。それが俺達の騎士道だ!」
カインが出て、メタナイトと剣を交える。メタナイトの高速の斬撃をカインは見切り、その全てをいなす。
(こいつ……。かなり、やる)
メタナイトの淡泊な感想は、しかしかなり的を得た感想だった。
カイン相手に押されている訳ではない。むしろ実力は伯仲しているといえる。だからこそ、メタナイトは焦燥を抑え切れない。
(この二人。私だけで押さえ切れるのか)
二人の間から感じ取れる厚い信頼。そしてその何気ない所作から、二人が長年共に闘ってきた相棒であることが一目でわかった。
息の合ったパートナーが共に戦えば、その実力は二倍にも三倍にも膨れ上がる。そうなればこちらの勝ち目は万に一つもなくなってしまう。
(せめて、この二人を引き離すことができれば…!)
だが、それにはこちらも最低二人の戦力がなければならない。一人の身で二人を引き離す方法などメタナイトには思いつかない。
「…実力ははっきりしたな。カイン、僕も加わろう」
(まずい。まずいぞっ! こうなったらアドレーヌだけでも逃がして……)
ふと、あることに気付く。
今までどうして気に留めなかったのか、不思議なくらいだ。しかしそれは確かにあった。あまりにも場違いで、あまりにも異質なそれ。
それは……
「……ダンボール?」
瞬間、セシルとカインがその場から跳躍し後方へと下がる。
メタナイトにはよくわからなかったが、二人がいた場所に小さな穴が開き、少量の煙が昇っていた。
セシルが凄まじいスピードで突進し、その段ボールを一刀のもとに斬り伏せる。が、中は空だ。
「上かっ!」
セシルの予想は的中した。真上を向くと、銃を構える男の姿。
セシルはすぐに横飛びで弾丸を回避する。
「空中では身動きできまい!!」
すかさずカインの『ジャンプ』が男を襲う。
「アーボ!!」
しかしそれも、縄のようにしなる蛇が遠くの照明に巻き付き、それを利用して軌道を変えることで回避に成功する。
男はくるくると回転し、音もなく着地した。
「何者だ。まったく気配を感じなかったが」
「職業柄、隠密行動は得意でね」
そこにいるのはシャドーモセス事件をたった一人で解決した稀代の英雄だった。
「スネーク!!」
メタナイトの歓喜の叫びに、スネークは軽く手を挙げて応える。
「数時間ぶりだな、メタナイト」
「どうして貴殿がここに」
「なに。お前と別れた後に、ちょうどこの二人を見つけてな。お前と同じ方向に向かっていたのでもしかしたらと思ってつけてみれば、案の定というわけだ」
その言葉にセシルもカインも内心動揺を隠し切れないようだった。奇襲には最大限の注意をしていたというのに、気配の一つも気取れなかったのだ。
「一つだけ聞きたいのだが、何故ダンボールに? あんな目立つものに隠れていてもあまり意味はないだろう」
「目立つ? 馬鹿を言うな。ダンボールは潜入任務の必需品だぞ」
「…………」
とにかく、この加勢はメタナイトにしてみれば最高のものだった。
「スネーク。二人はかなり熟練したパートナーだ。どうにか引き離して戦いたい」
「なるほど。了解した。ではお前はあの鎧兜の方を頼む」
こちらの出方を窺っているカインをメタナイトは睨みつけ、こくりと頷いた。
「御意」
戦力は均衡していた。
メタナイトは羽根を使って宙を飛び交い、カインのジャンプをうまく防いで高速の斬撃を繰り出す。カインもそれに応戦し、負けじと鋭く素早い突きを連発する。
スネークとセシルは、実力差こそ明白であったが、戦いのセンスはスネークの方が上だった。
うまく距離を取ってセシルの剣技を回避し、『暗黒』が放たれそうになると銃で威嚇する。カインとセシルが合流することも、スネークが機敏に動いて防いでいた。
カインとメタナイトの実力は拮抗していたし、スネークはその技術と経験でうまくセシルの攻撃をいなしていた。
アドレーヌはなんとか二人分の治療を済ませ(瀬多はどこが悪いのか分からなかったので安静にしていた)、できるだけ戦闘の被害が出ない場所に皆を引きずっていた。
全員が全員、自分のことで精一杯。周りのことに目を配る余裕などなかった。
だからこそ、この場で一人、フリーな人間がいることにメタナイトやスネークはもちろん、アドレーヌも気づかなかった。
「再生完了」
激闘のさなか、確かに聞こえたその声に、アドレーヌはびくりと身体を震わせた。
「あれだけくっちゃべってくれたくせして、自分はおねんねかよ。ククク。まあ、そっちの方が好都合だがなぁ」
銃を構え、ゆっくりと近づいて来るシルバー。
メタナイトもスネークも、目の前の敵以外を構う余裕などない。
倒れた仲間を守れる人間は一人だけ。何の力もない、非力なアドレーヌ一人だけ。
「こ、こないで!!」
デデデのデイバックから零れ出ていた拳銃を取り出し、その銃口をシルバーに向ける。瀬多達との情報交換で、これがどういうものかは理解している。
人を殺す道具。それを聞いた時、自分は絶対に使わないだろうと考えていた。
「近づいたら撃つわよ。う、う、嘘じゃないわよ。すっごく痛いんだから!」
カタカタと震え、そのため狙いが定まらない。これじゃ駄目だとわかっていても変えられない。
シルバーも最初は顔を引きつっていたが、アドレーヌの様子を見て、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「撃ってみろよ。ただし、てめえの下手な発砲で、お仲間に当たっちまっても知らねえがな」
「え?」
一瞬の躊躇。その隙をシルバーは見逃さなかった。手にしていた銃を蹴りで払われ、尻もちをつく。
「どうした? ほら、撃ってみろよ。ほらほらほら!! ヒャハハハハ!!!」
どうしようもなく涙が出て来る。皆が頑張っているというのに、自分は何も出来ないということが何よりも悔しい。自分に対する無力さが重くのしかかってくる。
「そうそう。そうやって諦めときゃいいのさ。どうせ俺に殺され──」
一際大きな轟音と、屋敷全体を揺らすほどの地響きが響き渡る。
まるで石ころのように吹き飛んで来たのは、アドレーヌのまだ見ぬ男。
しかし、シルバーの蒼白な顔を見れば、それがシルバーと組んだ殺し合いに乗っている悪い奴だということがすぐにわかる。
そしてそいつがやられているということはもちろん……
「幽香!! ……さ…ん」
等身大の女性が開けたとは思えない巨大な穴を通り、歩いて来る風見幽香。
その瞳にアドレーヌの姿は映っていなかった。
他に戦っている者達も、倒れ伏す仲間の姿も、彼女の瞳には映っていなかった。
幽香の目に入っているのはただ一つだけ。倒れ伏す敵の姿。自分が殲滅すべき敵の姿。
それ以外は何もいらない。何も知る必要はない。
必要なのは一つの認識だけ。
敵を殺す。ただそれだけ。
幽香は一気に跳躍し、倒れ伏すアシュナードの眉間に情け容赦のない突きを繰り出す。が、それはすんでのところで止められる。
気絶していたと思われたアシュナードの蹴りが幽香の顎に突き刺さり、そのリーチのために届かなかったのだ。
空中に浮かびあがる幽香の身体。そこに渾身の殴打をお見舞いする。その一撃は幽香の腹に直撃したものの、構わず幽香はアシュナードの顔面を殴る。
殴打。殴打。殴打。
もはやこの二人の戦いは人のそれではなかった。
「んだよこりゃ…」
拳の軌道上に障害物があれば容赦なく抉り取る、あまりにも非現実な戦いに、アドレーヌだけでなくシルバーさえも呆然としていた。
メタナイト達も自らの戦いに集中しながらも、二人の激闘のフィールドには入らないように間合いを取っている。
ここにいる全員が同じ認識を持っていた。ここで暴れる二人の獅子は、異物だと。化け物同士の共食いだと。
「……違う」
力なく、しかしはっきりとアドレーヌは言った。
「幽香さんは、私を守るって言ってくれたんだもん」
額から血を流し、しかしそれでも狂気的な笑みを絶やさず殴り続ける二人。それを見ても、アドレーヌの考えは変わらない。
「意味もなく小突いたり、おちょくったり、いつも人を怒らせるようなことばかりしてるけど、私は幽香さんに勇気づけてもらった。支えてもらってた」
『……アドレーヌは、幽香を信じてるのか?』
先程デデデに聞かれた疑問を、今でははっきりと答えることができる。
「信じてる。私は、幽香さんを信じてる」
ぐっと目を瞑り、そして今度こそ正面から真実を受け入れる。
幽香が暴走しているというのなら、それを止めるのは、きっと……きっと自分の役目なのだ!
「幽香さん!! 私を守ってくれるんでしょ! だったら……だったらちゃんと、私のことを見てください!!」
その声に反応するかのように、幽香の動きが一瞬鈍くなる。その隙をついてアシュナードの拳が二発三発と命中し、そのまま壁に叩きつけられる。
「あ…」
自分の腕を握りしめ、幽香の無事を願う。
しばらくして、がらがらと瓦礫を押しのけて、ぬっと幽香が姿を現した。
「アド……レーヌ?」
その瞳は、ちゃんとアドレーヌを見ていた。アドレーヌの声が聞こえたのだ。
アドレーヌは、思わず顔をほころばせた。
「幽香さ……!!」
ぞくりと背筋が凍る。
アシュナードが、人間とは思えぬ憤怒の表情をもってアドレーヌを睨みつけていたのだ。
「シルバー」
アシュナードの短い言葉に、シルバーは我に帰る。
「そいつを殺せ」
シルバーに命令を違える理由はない。銃がアドレーヌの頭部に当てられる。
「ま、待ちなさい!!」
慌てて幽香が向かおうとするが、それをアシュナードが阻む。
全力の幽香のストレートを腕を交差して受け切る。
「そこで見ているがいい。何に拘っているかは知らんが、我がそれを断ち切ってやろう」
「アドレーヌ!! さっさと逃げなさい!!!」
防御に回られれば、いくら幽香でもアシュナードを押しのけることは不可能だ。
かといってアドレーヌがシルバーから逃れることはそれ以上に不可能。
「どっちにせよ、チェックメイトというやつだ。潔く諦めるがよい」
「ふざけないで。妖怪はね、一度交わした契約は絶対守り通すのよ」
とは言うもののもはや幽香にアドレーヌを助ける術はなかった。
幽香が暴走などしなければ。アドレーヌのことを意識して動いていれば。
数々の『れば』が幽香の脳内を駆け巡る中、シルバーの指が引き金にかけられた。
その時だった。
「凄まじい音が聞こえたのでな。同士の危機と感じて馳せ参じた」
凛々しくナイフを構えフッと笑う。その姿はあまりにも小さく、初めてメタナイトを見た者ならば油断してもおかしくはない。
が、先程の『暗黒』の軌道を逸らした竜巻のような技を警戒し、セシルとカインは早計に手を打ってはこなかった。
元々戦力足り得るのはメタナイトただ一人。焦りさえしなければこちらの勝利は揺るがない。
「アドレーヌ。怪我はないか? できればここから逃走して欲しいところだが、倒れた仲間がそう多くてはそれも無理か」
「ゆ、幽香さんが外で戦ってます。敵をやっつけたら、きっと助けに来てくれるはずです」
「幽香? 強いのか? 信用できるのか?」
一瞬言い淀む。が、すぐに口を開いた。
「強いです。そして、信用できます」
「…わかった。ならば彼女が来るまでの間、時間稼ぎといこう」
「あ、メタナイトさん。こっちの武器を使ってください。そのナイフよりはマシだと思うから」
「かたじけない」
煌々と紅く輝く緋想の剣を手渡し、アドレーヌは後ろに下がる。
戦闘となればもはや自分が足手まといであることは十分に理解している。
「我ら『赤き翼』を前にして、時間稼ぎができるとは。随分と舐められたものだ。そんな心配よりも、自分の命の心配をした方が身のためだぞ」
「抜かせ外道。弱者を寄ってたかっていたぶるその精神。もはやその生き様は騎士道に反する!」
「俺達は俺達のやり方で目的を達成する。それが俺達の騎士道だ!」
カインが出て、メタナイトと剣を交える。メタナイトの高速の斬撃をカインは見切り、その全てをいなす。
(こいつ……。かなり、やる)
メタナイトの淡泊な感想は、しかしかなり的を得た感想だった。
カイン相手に押されている訳ではない。むしろ実力は伯仲しているといえる。だからこそ、メタナイトは焦燥を抑え切れない。
(この二人。私だけで押さえ切れるのか)
二人の間から感じ取れる厚い信頼。そしてその何気ない所作から、二人が長年共に闘ってきた相棒であることが一目でわかった。
息の合ったパートナーが共に戦えば、その実力は二倍にも三倍にも膨れ上がる。そうなればこちらの勝ち目は万に一つもなくなってしまう。
(せめて、この二人を引き離すことができれば…!)
だが、それにはこちらも最低二人の戦力がなければならない。一人の身で二人を引き離す方法などメタナイトには思いつかない。
「…実力ははっきりしたな。カイン、僕も加わろう」
(まずい。まずいぞっ! こうなったらアドレーヌだけでも逃がして……)
ふと、あることに気付く。
今までどうして気に留めなかったのか、不思議なくらいだ。しかしそれは確かにあった。あまりにも場違いで、あまりにも異質なそれ。
それは……
「……ダンボール?」
瞬間、セシルとカインがその場から跳躍し後方へと下がる。
メタナイトにはよくわからなかったが、二人がいた場所に小さな穴が開き、少量の煙が昇っていた。
セシルが凄まじいスピードで突進し、その段ボールを一刀のもとに斬り伏せる。が、中は空だ。
「上かっ!」
セシルの予想は的中した。真上を向くと、銃を構える男の姿。
セシルはすぐに横飛びで弾丸を回避する。
「空中では身動きできまい!!」
すかさずカインの『ジャンプ』が男を襲う。
「アーボ!!」
しかしそれも、縄のようにしなる蛇が遠くの照明に巻き付き、それを利用して軌道を変えることで回避に成功する。
男はくるくると回転し、音もなく着地した。
「何者だ。まったく気配を感じなかったが」
「職業柄、隠密行動は得意でね」
そこにいるのはシャドーモセス事件をたった一人で解決した稀代の英雄だった。
「スネーク!!」
メタナイトの歓喜の叫びに、スネークは軽く手を挙げて応える。
「数時間ぶりだな、メタナイト」
「どうして貴殿がここに」
「なに。お前と別れた後に、ちょうどこの二人を見つけてな。お前と同じ方向に向かっていたのでもしかしたらと思ってつけてみれば、案の定というわけだ」
その言葉にセシルもカインも内心動揺を隠し切れないようだった。奇襲には最大限の注意をしていたというのに、気配の一つも気取れなかったのだ。
「一つだけ聞きたいのだが、何故ダンボールに? あんな目立つものに隠れていてもあまり意味はないだろう」
「目立つ? 馬鹿を言うな。ダンボールは潜入任務の必需品だぞ」
「…………」
とにかく、この加勢はメタナイトにしてみれば最高のものだった。
「スネーク。二人はかなり熟練したパートナーだ。どうにか引き離して戦いたい」
「なるほど。了解した。ではお前はあの鎧兜の方を頼む」
こちらの出方を窺っているカインをメタナイトは睨みつけ、こくりと頷いた。
「御意」
戦力は均衡していた。
メタナイトは羽根を使って宙を飛び交い、カインのジャンプをうまく防いで高速の斬撃を繰り出す。カインもそれに応戦し、負けじと鋭く素早い突きを連発する。
スネークとセシルは、実力差こそ明白であったが、戦いのセンスはスネークの方が上だった。
うまく距離を取ってセシルの剣技を回避し、『暗黒』が放たれそうになると銃で威嚇する。カインとセシルが合流することも、スネークが機敏に動いて防いでいた。
カインとメタナイトの実力は拮抗していたし、スネークはその技術と経験でうまくセシルの攻撃をいなしていた。
アドレーヌはなんとか二人分の治療を済ませ(瀬多はどこが悪いのか分からなかったので安静にしていた)、できるだけ戦闘の被害が出ない場所に皆を引きずっていた。
全員が全員、自分のことで精一杯。周りのことに目を配る余裕などなかった。
だからこそ、この場で一人、フリーな人間がいることにメタナイトやスネークはもちろん、アドレーヌも気づかなかった。
「再生完了」
激闘のさなか、確かに聞こえたその声に、アドレーヌはびくりと身体を震わせた。
「あれだけくっちゃべってくれたくせして、自分はおねんねかよ。ククク。まあ、そっちの方が好都合だがなぁ」
銃を構え、ゆっくりと近づいて来るシルバー。
メタナイトもスネークも、目の前の敵以外を構う余裕などない。
倒れた仲間を守れる人間は一人だけ。何の力もない、非力なアドレーヌ一人だけ。
「こ、こないで!!」
デデデのデイバックから零れ出ていた拳銃を取り出し、その銃口をシルバーに向ける。瀬多達との情報交換で、これがどういうものかは理解している。
人を殺す道具。それを聞いた時、自分は絶対に使わないだろうと考えていた。
「近づいたら撃つわよ。う、う、嘘じゃないわよ。すっごく痛いんだから!」
カタカタと震え、そのため狙いが定まらない。これじゃ駄目だとわかっていても変えられない。
シルバーも最初は顔を引きつっていたが、アドレーヌの様子を見て、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「撃ってみろよ。ただし、てめえの下手な発砲で、お仲間に当たっちまっても知らねえがな」
「え?」
一瞬の躊躇。その隙をシルバーは見逃さなかった。手にしていた銃を蹴りで払われ、尻もちをつく。
「どうした? ほら、撃ってみろよ。ほらほらほら!! ヒャハハハハ!!!」
どうしようもなく涙が出て来る。皆が頑張っているというのに、自分は何も出来ないということが何よりも悔しい。自分に対する無力さが重くのしかかってくる。
「そうそう。そうやって諦めときゃいいのさ。どうせ俺に殺され──」
一際大きな轟音と、屋敷全体を揺らすほどの地響きが響き渡る。
まるで石ころのように吹き飛んで来たのは、アドレーヌのまだ見ぬ男。
しかし、シルバーの蒼白な顔を見れば、それがシルバーと組んだ殺し合いに乗っている悪い奴だということがすぐにわかる。
そしてそいつがやられているということはもちろん……
「幽香!! ……さ…ん」
等身大の女性が開けたとは思えない巨大な穴を通り、歩いて来る風見幽香。
その瞳にアドレーヌの姿は映っていなかった。
他に戦っている者達も、倒れ伏す仲間の姿も、彼女の瞳には映っていなかった。
幽香の目に入っているのはただ一つだけ。倒れ伏す敵の姿。自分が殲滅すべき敵の姿。
それ以外は何もいらない。何も知る必要はない。
必要なのは一つの認識だけ。
敵を殺す。ただそれだけ。
幽香は一気に跳躍し、倒れ伏すアシュナードの眉間に情け容赦のない突きを繰り出す。が、それはすんでのところで止められる。
気絶していたと思われたアシュナードの蹴りが幽香の顎に突き刺さり、そのリーチのために届かなかったのだ。
空中に浮かびあがる幽香の身体。そこに渾身の殴打をお見舞いする。その一撃は幽香の腹に直撃したものの、構わず幽香はアシュナードの顔面を殴る。
殴打。殴打。殴打。
もはやこの二人の戦いは人のそれではなかった。
「んだよこりゃ…」
拳の軌道上に障害物があれば容赦なく抉り取る、あまりにも非現実な戦いに、アドレーヌだけでなくシルバーさえも呆然としていた。
メタナイト達も自らの戦いに集中しながらも、二人の激闘のフィールドには入らないように間合いを取っている。
ここにいる全員が同じ認識を持っていた。ここで暴れる二人の獅子は、異物だと。化け物同士の共食いだと。
「……違う」
力なく、しかしはっきりとアドレーヌは言った。
「幽香さんは、私を守るって言ってくれたんだもん」
額から血を流し、しかしそれでも狂気的な笑みを絶やさず殴り続ける二人。それを見ても、アドレーヌの考えは変わらない。
「意味もなく小突いたり、おちょくったり、いつも人を怒らせるようなことばかりしてるけど、私は幽香さんに勇気づけてもらった。支えてもらってた」
『……アドレーヌは、幽香を信じてるのか?』
先程デデデに聞かれた疑問を、今でははっきりと答えることができる。
「信じてる。私は、幽香さんを信じてる」
ぐっと目を瞑り、そして今度こそ正面から真実を受け入れる。
幽香が暴走しているというのなら、それを止めるのは、きっと……きっと自分の役目なのだ!
「幽香さん!! 私を守ってくれるんでしょ! だったら……だったらちゃんと、私のことを見てください!!」
その声に反応するかのように、幽香の動きが一瞬鈍くなる。その隙をついてアシュナードの拳が二発三発と命中し、そのまま壁に叩きつけられる。
「あ…」
自分の腕を握りしめ、幽香の無事を願う。
しばらくして、がらがらと瓦礫を押しのけて、ぬっと幽香が姿を現した。
「アド……レーヌ?」
その瞳は、ちゃんとアドレーヌを見ていた。アドレーヌの声が聞こえたのだ。
アドレーヌは、思わず顔をほころばせた。
「幽香さ……!!」
ぞくりと背筋が凍る。
アシュナードが、人間とは思えぬ憤怒の表情をもってアドレーヌを睨みつけていたのだ。
「シルバー」
アシュナードの短い言葉に、シルバーは我に帰る。
「そいつを殺せ」
シルバーに命令を違える理由はない。銃がアドレーヌの頭部に当てられる。
「ま、待ちなさい!!」
慌てて幽香が向かおうとするが、それをアシュナードが阻む。
全力の幽香のストレートを腕を交差して受け切る。
「そこで見ているがいい。何に拘っているかは知らんが、我がそれを断ち切ってやろう」
「アドレーヌ!! さっさと逃げなさい!!!」
防御に回られれば、いくら幽香でもアシュナードを押しのけることは不可能だ。
かといってアドレーヌがシルバーから逃れることはそれ以上に不可能。
「どっちにせよ、チェックメイトというやつだ。潔く諦めるがよい」
「ふざけないで。妖怪はね、一度交わした契約は絶対守り通すのよ」
とは言うもののもはや幽香にアドレーヌを助ける術はなかった。
幽香が暴走などしなければ。アドレーヌのことを意識して動いていれば。
数々の『れば』が幽香の脳内を駆け巡る中、シルバーの指が引き金にかけられた。
その時だった。
「ペルソナ!!」
何者かの声が別荘内に響き渡った。