託された希望(3)◆dGUiIvN2Nw
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「ぎゃあああ!!」
どこからともなく現れた守護霊のような巨大な男。そこから発せられた雷がシルバーの身体を襲った。
「せ、瀬多さん……」
何度呼んでも決して目を開けなかった瀬多総司が、そこには立っていた。
「全員戦闘を中止しろ!! この戦いは、殺し合いは無意味だ!!」
もう一度、今度は何もないところに雷を放ち、周囲の注意を引く。
その目立つ攻撃と、その興味深い言葉から、戦闘を行っていた者が徐々に戦いの手を休めていった。
「フン。この状況でよくそんなことが断言できる。我々は殺し合う以外に道はない。参加者の中で、最強の者こそが生きる権利を与えられるのだ」
幽香に心底惚れ込んだ今のアシュナードは、そんなこと甚だ考えていない。が、今は瀬多の温い発言を嘲弄するために敢えてそう言った。
「最強? そんなものがこのゲームで計れる訳がない。このゲームで最も重要なのは力じゃない。運だ」
全員が黙って瀬多の言葉を聞いている。しかし、その全員が聞き耳をたてながらも、周囲の警戒だけは解いていない。
「いくら強い奴でも、連戦連勝を迫られれば必ず消耗する。そうなれば、実力では劣る奴が強い奴を倒すこともあり得る。
そんな不確定要素の多いゲームで、本当に最強の参加者が決められると思うのか?」
「殺し合いは無駄だと言ったが、それはこの殺し合いを打破する可能性を見つけた、ということか?」
剣を下げ、見た目だけで言えばかなり無警戒なセシルが言う。
「そうだ」
その問いに、瀬多は躊躇なく頷いた。
そして、瀬多は自分の手の甲に浮き出た紋章を見せた。
「ほぉ。これはまた懐かしいものが出てきたな」
アシュナードの含んだ言い方に疑問を持つが、今はそれを無視して瀬多は叫ぶ。
「俺はイゴールという奴と契約した。そして、イゴールは俺と約束した。自分を探し出すことができれば、この首輪を解除すると」
「眉つばだな」
「嘘ではないぞ」
カインの呟きに、瀬多ではなくアシュナードが答える。
「あの紋章は『血の契約』をした証だ。かなり拘束力の強い契約で国家間の交渉にも使われている。
支給品にしては度の過ぎたものよ。どういう契約をしたのかは知らんが、下手な嘘は契約違反と見なされる。見るからに甘い性格なその男が、ここでそんな危険は冒さん」
言外に、この契約が他者に影響を及ぼすことを仄めかし、アシュナードはクックと笑う。
「で、でも、いつの間にそんな契約を。さっきまではそんな紋章なんてなかったのに…」
「良いところに気がついたな、アドレーヌ。俺が言いたかったのはまさにそこなんだ」
にやりと笑ってみせる瀬多。
瀬多の狙いはただ一つ。殺し合いの打破。殺し合いに乗った者の改心。それを成すだけの情報を今の瀬多は持っていた。
「俺はさっきまで気絶していた。そして、その気絶している間に俺はイゴールと契約したんだ」
勘の鈍い者は首を傾げ、鋭い者は眉間に皺をよせる。
「なるほど。つまり少年はこう言いたいわけか。俺達をこんなところに集められる力を持った奴を、契約に則って殺してしまおう、と」
スネークの的を得た言葉に、瀬多はこくりと頷いた。
「イゴールは無敵だ。夢と現実の狭間を行き来し、参加者に気付かれることなく、この殺し合いの会場へと拉致した。だが、今は違う。この会場にいる今は」
「契約内容に、そのイゴールの弱体化も織り込んだ、というわけか」
「イゴールは自分を参加者だと言った。契約にもそう書かれていた。殺し合いの参加者だということは、俺達にだって殺せる存在でなければならない。
夢の中へ逃げることも、この会場にいる限りは不可能だ。……イゴールはここでしか倒せない。
そして、イゴールを倒さなければ、たとえ優勝しても殺し合いから抜け出せたとはいえない。
イゴールをここで倒し、殺し合いの輪廻を断ち切る。それが俺達全員に共通した目的であるはずだ」
「殺し合いなぞしている場合ではない。そういうことか?」
「優勝して、これ以上殺し合いに参加しないことを確約してもらうって手もある。だが、それはあんた達の望みとは違うものだろ?」
全員が沈黙している。しかし、それは瀬多の問いに対してイエスと答えているも同然だ。
瀬多の視界の隅に、倒れ伏したレミリアとデデデが映る。アドレーヌの様子から、二人とも生きていることは確かなようだが、それでも瀕死であることに変わりはない。
(大丈夫だ。俺がミスらなければ、これ以上の被害は出ない。二人とも生還できる)
「協定を結ぼう。あんた達の行動を強制するつもりはない。だが、イゴールを倒すだけの間は、他の参加者を襲うようなことはしないで欲しい。
その間に、必ず俺がここから脱出する方法を考える。イゴールを倒すことに関しては、俺達の目的は一致している。お互い悪い話じゃないはずだ」
両手を広げ、こちらに攻撃の意思がないことを示す。他の人間に強制することはできないが、それでも効果はあるはずだ。
「いいか。マルクの力は、それぞれの世界の常識を集合させたものに過ぎない。この中に死者を蘇らせる術を知ってる者がいるか? そんな奴、どこを探してもいやしない!! マルクはただ、俺達をゲームの駒に見立てて楽しんでるだけだ!!」
声を大にして、高揚した気持ちを吐き出すように、瀬多は訴えかける。
「マルクは倒せる。こんな見え透いた首輪なんかで俺達を縛ってる時点で、あいつが万能でないことは証明されてる。イゴールさえ倒せれば、俺達はここから脱出できる!!」
肩で息をしながら、周りの反応を窺う。
カインは全員の動きを機敏に観察し、どのようにも動けるようにしている。セシルは何か考えているかのように、眉間にしわを寄せて立ちつくしている。
シルバーはぽかんとしており、アシュナードは黙って瀬多を睨んでいる。
スネークもメタナイトも、幽香もアドレーヌも、その様子を緊張した面持ちで窺っている。瀬多の説得に応じるかどうか。それはもはや誰にもわからなかった。
この均衡状態において、一番最初に行動を起こしたのはセシルだった。
「……行くぞ、カイン」
その言葉に一番驚いたのは、他ならぬカインだった。
「本気かセシル!? 本気であの小僧の言う事を信じるのか!?」
セシルは剣を仕舞い、横目で瀬多を見遣る。
「信じたわけではない……が、今は退こう」
それだけ言って、セシルは背を向けて割れた窓へと歩いて行った。
「……フン」
何も言わず、アシュナードも背を向ける。シルバーも一瞬慌てるが、それでもアシュナードの側へと移動する。
元より部下になることを約束した身だ。王の決定に背ける訳がない。
それを見て、アドレーヌはヘナヘナと崩れ落ち、心の底から安堵のため息をついた。
「……瀬多さん。勝ちましたね」
決して無傷だったとはいえない。デデデの傷が危険なことには変わりないし、レミリアもいつ起きるか分からない。
しかし、誰も死んでいない。これほどの危機を前にして誰も死んでいない。
それは、確かに一つの成果だった。
喜ぶべきではない。しかし、それでも瀬多は、戦いを回避できたことを嬉しく思い、自分に出来たことを誇らしく思った。
セシルが背を向けたことで、カインもメタナイトとの睨み合いを切り上げた。
「…俺は納得したわけではない。貴様とはまた別の機会に決着をつける」
「望むところだ」
下がるカインを見届けて、メタナイトは自分の武器を仕舞い、くるりと背を向けた。
「アドレーヌ! デデデの怪我の具合は──」
「馬鹿野郎!! 油断し過ぎだ!!!」
その言葉を、メタナイトは一瞬理解できなかった。
それを理解したのは、先程身を引いたはずのセシルが、自分を斬り付けようと迫るところを確認した時だった。しかし、それはあまりにも遅過ぎる反応だ。
再び武器を取り出す暇もなく、メタナイトの視界は赤に染まった。
どこからともなく現れた守護霊のような巨大な男。そこから発せられた雷がシルバーの身体を襲った。
「せ、瀬多さん……」
何度呼んでも決して目を開けなかった瀬多総司が、そこには立っていた。
「全員戦闘を中止しろ!! この戦いは、殺し合いは無意味だ!!」
もう一度、今度は何もないところに雷を放ち、周囲の注意を引く。
その目立つ攻撃と、その興味深い言葉から、戦闘を行っていた者が徐々に戦いの手を休めていった。
「フン。この状況でよくそんなことが断言できる。我々は殺し合う以外に道はない。参加者の中で、最強の者こそが生きる権利を与えられるのだ」
幽香に心底惚れ込んだ今のアシュナードは、そんなこと甚だ考えていない。が、今は瀬多の温い発言を嘲弄するために敢えてそう言った。
「最強? そんなものがこのゲームで計れる訳がない。このゲームで最も重要なのは力じゃない。運だ」
全員が黙って瀬多の言葉を聞いている。しかし、その全員が聞き耳をたてながらも、周囲の警戒だけは解いていない。
「いくら強い奴でも、連戦連勝を迫られれば必ず消耗する。そうなれば、実力では劣る奴が強い奴を倒すこともあり得る。
そんな不確定要素の多いゲームで、本当に最強の参加者が決められると思うのか?」
「殺し合いは無駄だと言ったが、それはこの殺し合いを打破する可能性を見つけた、ということか?」
剣を下げ、見た目だけで言えばかなり無警戒なセシルが言う。
「そうだ」
その問いに、瀬多は躊躇なく頷いた。
そして、瀬多は自分の手の甲に浮き出た紋章を見せた。
「ほぉ。これはまた懐かしいものが出てきたな」
アシュナードの含んだ言い方に疑問を持つが、今はそれを無視して瀬多は叫ぶ。
「俺はイゴールという奴と契約した。そして、イゴールは俺と約束した。自分を探し出すことができれば、この首輪を解除すると」
「眉つばだな」
「嘘ではないぞ」
カインの呟きに、瀬多ではなくアシュナードが答える。
「あの紋章は『血の契約』をした証だ。かなり拘束力の強い契約で国家間の交渉にも使われている。
支給品にしては度の過ぎたものよ。どういう契約をしたのかは知らんが、下手な嘘は契約違反と見なされる。見るからに甘い性格なその男が、ここでそんな危険は冒さん」
言外に、この契約が他者に影響を及ぼすことを仄めかし、アシュナードはクックと笑う。
「で、でも、いつの間にそんな契約を。さっきまではそんな紋章なんてなかったのに…」
「良いところに気がついたな、アドレーヌ。俺が言いたかったのはまさにそこなんだ」
にやりと笑ってみせる瀬多。
瀬多の狙いはただ一つ。殺し合いの打破。殺し合いに乗った者の改心。それを成すだけの情報を今の瀬多は持っていた。
「俺はさっきまで気絶していた。そして、その気絶している間に俺はイゴールと契約したんだ」
勘の鈍い者は首を傾げ、鋭い者は眉間に皺をよせる。
「なるほど。つまり少年はこう言いたいわけか。俺達をこんなところに集められる力を持った奴を、契約に則って殺してしまおう、と」
スネークの的を得た言葉に、瀬多はこくりと頷いた。
「イゴールは無敵だ。夢と現実の狭間を行き来し、参加者に気付かれることなく、この殺し合いの会場へと拉致した。だが、今は違う。この会場にいる今は」
「契約内容に、そのイゴールの弱体化も織り込んだ、というわけか」
「イゴールは自分を参加者だと言った。契約にもそう書かれていた。殺し合いの参加者だということは、俺達にだって殺せる存在でなければならない。
夢の中へ逃げることも、この会場にいる限りは不可能だ。……イゴールはここでしか倒せない。
そして、イゴールを倒さなければ、たとえ優勝しても殺し合いから抜け出せたとはいえない。
イゴールをここで倒し、殺し合いの輪廻を断ち切る。それが俺達全員に共通した目的であるはずだ」
「殺し合いなぞしている場合ではない。そういうことか?」
「優勝して、これ以上殺し合いに参加しないことを確約してもらうって手もある。だが、それはあんた達の望みとは違うものだろ?」
全員が沈黙している。しかし、それは瀬多の問いに対してイエスと答えているも同然だ。
瀬多の視界の隅に、倒れ伏したレミリアとデデデが映る。アドレーヌの様子から、二人とも生きていることは確かなようだが、それでも瀕死であることに変わりはない。
(大丈夫だ。俺がミスらなければ、これ以上の被害は出ない。二人とも生還できる)
「協定を結ぼう。あんた達の行動を強制するつもりはない。だが、イゴールを倒すだけの間は、他の参加者を襲うようなことはしないで欲しい。
その間に、必ず俺がここから脱出する方法を考える。イゴールを倒すことに関しては、俺達の目的は一致している。お互い悪い話じゃないはずだ」
両手を広げ、こちらに攻撃の意思がないことを示す。他の人間に強制することはできないが、それでも効果はあるはずだ。
「いいか。マルクの力は、それぞれの世界の常識を集合させたものに過ぎない。この中に死者を蘇らせる術を知ってる者がいるか? そんな奴、どこを探してもいやしない!! マルクはただ、俺達をゲームの駒に見立てて楽しんでるだけだ!!」
声を大にして、高揚した気持ちを吐き出すように、瀬多は訴えかける。
「マルクは倒せる。こんな見え透いた首輪なんかで俺達を縛ってる時点で、あいつが万能でないことは証明されてる。イゴールさえ倒せれば、俺達はここから脱出できる!!」
肩で息をしながら、周りの反応を窺う。
カインは全員の動きを機敏に観察し、どのようにも動けるようにしている。セシルは何か考えているかのように、眉間にしわを寄せて立ちつくしている。
シルバーはぽかんとしており、アシュナードは黙って瀬多を睨んでいる。
スネークもメタナイトも、幽香もアドレーヌも、その様子を緊張した面持ちで窺っている。瀬多の説得に応じるかどうか。それはもはや誰にもわからなかった。
この均衡状態において、一番最初に行動を起こしたのはセシルだった。
「……行くぞ、カイン」
その言葉に一番驚いたのは、他ならぬカインだった。
「本気かセシル!? 本気であの小僧の言う事を信じるのか!?」
セシルは剣を仕舞い、横目で瀬多を見遣る。
「信じたわけではない……が、今は退こう」
それだけ言って、セシルは背を向けて割れた窓へと歩いて行った。
「……フン」
何も言わず、アシュナードも背を向ける。シルバーも一瞬慌てるが、それでもアシュナードの側へと移動する。
元より部下になることを約束した身だ。王の決定に背ける訳がない。
それを見て、アドレーヌはヘナヘナと崩れ落ち、心の底から安堵のため息をついた。
「……瀬多さん。勝ちましたね」
決して無傷だったとはいえない。デデデの傷が危険なことには変わりないし、レミリアもいつ起きるか分からない。
しかし、誰も死んでいない。これほどの危機を前にして誰も死んでいない。
それは、確かに一つの成果だった。
喜ぶべきではない。しかし、それでも瀬多は、戦いを回避できたことを嬉しく思い、自分に出来たことを誇らしく思った。
セシルが背を向けたことで、カインもメタナイトとの睨み合いを切り上げた。
「…俺は納得したわけではない。貴様とはまた別の機会に決着をつける」
「望むところだ」
下がるカインを見届けて、メタナイトは自分の武器を仕舞い、くるりと背を向けた。
「アドレーヌ! デデデの怪我の具合は──」
「馬鹿野郎!! 油断し過ぎだ!!!」
その言葉を、メタナイトは一瞬理解できなかった。
それを理解したのは、先程身を引いたはずのセシルが、自分を斬り付けようと迫るところを確認した時だった。しかし、それはあまりにも遅過ぎる反応だ。
再び武器を取り出す暇もなく、メタナイトの視界は赤に染まった。
「……スネー……ク?」
しかし、その血はメタナイトのものじゃない。斬りつけられる瞬間、スネークが間に割って入ったのだ。
「がっ……」
袈裟懸け状に血を噴出させ、スネークはその場に倒れ込んだ。
「き、貴様あああああ!!!!」
自らを竜巻へと昇華させ、高速の斬撃を繰り出す。しかし、セシルは後方へと下がりながらそれを防御し、全てを捌き切った。
瀬多は、アドレーヌは、その様子をただただ目を見開いて傍観することしかできなかった。自分の説得は成功したのではなかったか。
理屈からしても、瀬多の提案は乗るに値するものなのではないのか。
「二人ともしっかりしなさい!!」
幽香の言葉にはっとする。アシュナードによって投擲されたシルバーが迫っていたのだ。
「スラッシュ!!」
瀬多のペルソナ、イザナギが手に持つ大剣を振るう。
シルバーの身体をまともに受け切り、そのまま後方へと吹き飛ばす。
「何故だ!? 俺の言う事が信用できないのか!?」
自分の言葉が足りなかった。必死の思いで説得したというのに、誰の心にも届いていなかった。絶望に打ちひしがれそうになりながらも、瀬多は叫んだ。
「信じるも何もない。貴様の言葉など、我々が聞くに値するようなものではない」
メタナイトの猛襲を防ぎながら、セシルは事もなげに言ってのけた。
メタナイトの高速の斬撃は確かにセシルを上回るものがある。しかし、パワーでいえばセシルのそれはメタナイトを遥かに上回る。
一撃。宙から振り下ろされた一撃が、メタナイトのナイフとぶつかる。メタナイトはそのまま踏ん張り切ることができず、後方へと飛ばされる。
「瀬多、とか言ったか。はっきり言おう。貴様は我々にとって、脅威以外の何物でもない」
指を差し、一切迷いのない目で睨まれ、瀬多は動揺した。
「我々にとって、もはや選択肢などというものはない。我々は勝つしかないんだ。勝って、優勝して、そして願いを叶える他、自らを律することが出来ないんだ。
貴様はそのたった一つの希望に翳りを与える存在だ。我々の存在理由を根本から否定する可能性を秘めている。
そして、我々の敵になる者達の旗頭になる可能性を秘めている。貴様は、貴様だけは、ここで殺しておかなければならない」
瀬多にとって、この言葉はショック以外の何物でもなかった。説得しようと言葉を紡いだ結果、より殺害意欲を増加させる結果となったのだ。
「ククク。瀬多よ。我はお前の言ったこと、半分以上は真実だと踏んでいるぞ」
アシュナードは愉快そうに言った。
「イゴールとかいう奴を始末しなければならないとも考えている。そして、貴様の力が必要だともな。だから我はこう考えたのだ。貴様を我の配下に加えてやろうとな」
「……は?」
言っている意味がわからない。瀬多は、この狂王がどれほど傲慢な存在か、まるきり理解していなかった。
「貴様のような参謀も、国には必要だということだ。貴様にはその素質がある。この殺し合いから抜け出す方法を編み出すだけの将来性もある。だから、貴様は幽香と共に、我がもらう」
自分勝手、という言葉も霞んでしまう傍若無人。
アシュナードは決して自分の願望を言っているわけではない。実際にそうなると心から信じ、そう言っているのだ。
手に入れたいものは、竜の王族だろうが何だろうが手に入れてきたアシュナード。そんな男だからこそ、その歯止めの利かぬ欲望は常人に計り知れるものではない。
「ふん。狂王め。お前のような男と一緒にされるというのも、随分気に入らない話だ」
カインが吐き捨てるように言い、アシュナードが笑う。
「ククク。面白いことを言う奴だな。貴様ら二人もなかなか気に入ったぞ。我の傘下に入る気はないか?」
「断る。我らの主は、我らが決める。貴様など、その器ではない」
「その独立した精神。ますます気に入ったぞ。…が、優先順位で考えれば、貴様らの相手は後回しだな」
アシュナードが瀬多に向かって歩いて来る。セシルとカインが瀬多に向かって歩いて来る。
それを、幽香と、メタナイトが阻止すべく対峙する。
「「どけ。奴は我(我々)がもらう(殺す)」」
「がっ……」
袈裟懸け状に血を噴出させ、スネークはその場に倒れ込んだ。
「き、貴様あああああ!!!!」
自らを竜巻へと昇華させ、高速の斬撃を繰り出す。しかし、セシルは後方へと下がりながらそれを防御し、全てを捌き切った。
瀬多は、アドレーヌは、その様子をただただ目を見開いて傍観することしかできなかった。自分の説得は成功したのではなかったか。
理屈からしても、瀬多の提案は乗るに値するものなのではないのか。
「二人ともしっかりしなさい!!」
幽香の言葉にはっとする。アシュナードによって投擲されたシルバーが迫っていたのだ。
「スラッシュ!!」
瀬多のペルソナ、イザナギが手に持つ大剣を振るう。
シルバーの身体をまともに受け切り、そのまま後方へと吹き飛ばす。
「何故だ!? 俺の言う事が信用できないのか!?」
自分の言葉が足りなかった。必死の思いで説得したというのに、誰の心にも届いていなかった。絶望に打ちひしがれそうになりながらも、瀬多は叫んだ。
「信じるも何もない。貴様の言葉など、我々が聞くに値するようなものではない」
メタナイトの猛襲を防ぎながら、セシルは事もなげに言ってのけた。
メタナイトの高速の斬撃は確かにセシルを上回るものがある。しかし、パワーでいえばセシルのそれはメタナイトを遥かに上回る。
一撃。宙から振り下ろされた一撃が、メタナイトのナイフとぶつかる。メタナイトはそのまま踏ん張り切ることができず、後方へと飛ばされる。
「瀬多、とか言ったか。はっきり言おう。貴様は我々にとって、脅威以外の何物でもない」
指を差し、一切迷いのない目で睨まれ、瀬多は動揺した。
「我々にとって、もはや選択肢などというものはない。我々は勝つしかないんだ。勝って、優勝して、そして願いを叶える他、自らを律することが出来ないんだ。
貴様はそのたった一つの希望に翳りを与える存在だ。我々の存在理由を根本から否定する可能性を秘めている。
そして、我々の敵になる者達の旗頭になる可能性を秘めている。貴様は、貴様だけは、ここで殺しておかなければならない」
瀬多にとって、この言葉はショック以外の何物でもなかった。説得しようと言葉を紡いだ結果、より殺害意欲を増加させる結果となったのだ。
「ククク。瀬多よ。我はお前の言ったこと、半分以上は真実だと踏んでいるぞ」
アシュナードは愉快そうに言った。
「イゴールとかいう奴を始末しなければならないとも考えている。そして、貴様の力が必要だともな。だから我はこう考えたのだ。貴様を我の配下に加えてやろうとな」
「……は?」
言っている意味がわからない。瀬多は、この狂王がどれほど傲慢な存在か、まるきり理解していなかった。
「貴様のような参謀も、国には必要だということだ。貴様にはその素質がある。この殺し合いから抜け出す方法を編み出すだけの将来性もある。だから、貴様は幽香と共に、我がもらう」
自分勝手、という言葉も霞んでしまう傍若無人。
アシュナードは決して自分の願望を言っているわけではない。実際にそうなると心から信じ、そう言っているのだ。
手に入れたいものは、竜の王族だろうが何だろうが手に入れてきたアシュナード。そんな男だからこそ、その歯止めの利かぬ欲望は常人に計り知れるものではない。
「ふん。狂王め。お前のような男と一緒にされるというのも、随分気に入らない話だ」
カインが吐き捨てるように言い、アシュナードが笑う。
「ククク。面白いことを言う奴だな。貴様ら二人もなかなか気に入ったぞ。我の傘下に入る気はないか?」
「断る。我らの主は、我らが決める。貴様など、その器ではない」
「その独立した精神。ますます気に入ったぞ。…が、優先順位で考えれば、貴様らの相手は後回しだな」
アシュナードが瀬多に向かって歩いて来る。セシルとカインが瀬多に向かって歩いて来る。
それを、幽香と、メタナイトが阻止すべく対峙する。
「「どけ。奴は我(我々)がもらう(殺す)」」
それが再戦の合図だった。
メタナイトは一人でセシル達と斬り結び、幽香はアシュナード相手に再び肉弾戦を挑む。
瀬多が望んだのは争いの回避だった。殺し合いに乗った人間も含め、誰も犠牲者を出すことなく脱出することが望みだった。
しかし、懸命な努力の末がこのありさま。
凄まじい勢いで展開する白兵戦。
その犠牲者は既に現れている。そして、これから確実に増え続ける。下手をすれば全滅だって免れない。
「瀬多!! いい加減しっかりしなさい! こっちの戦力は明らかに不足してるのよ!!」
アシュナードとの息もつかぬ攻防の最中、幽香が叫ぶ。
セシルとカインも、アシュナードとシルバーも、狙っているのは対主催チーム。つまり、瀬多達だ。
瀬多の提案を退けた今、優勝を目指す彼らにとって同じスタンスの人間は等しく貴重な存在。
そして、対主催側がチームを組んでいるというのなら、両者の利害関係は一致している。
何の打ち合わせをせずとも一種の協定を結んだかのようにお互いを攻撃し合うようなことはしない。
「……その…お嬢さんの……言う通り、だ。…少年」
メタナイトが怒涛の勢いでセシル達を相手に奮闘している中、アドレーヌが動いてスネークを戦闘圏外へと連れ出していた。
「瀬多さん。この人はまだ生きてます。まだ誰も死んでません! だから、だから…諦めないで!!」
「……諦めるなって言ったって……」
無理だ。スネークがやられ、もはやパワーバランスは崩れた。メタナイトが二人相手にしているが、それもいつまでもつか分からない。
あの説得が唯一のチャンスだった。自分達が生き残れる最後の道だった。
なのにそれを…それを、自らの手で閉ざしてしまった。
自分の命をも顧みず決死の思いでイゴールと契約を結んだというのに、けっきょく自分の出来ることには限界があった。その限界を思い知らされた。
奮闘していたメタナイトがこちらに吹き飛ばされて来た。慌ててその身体を受け止める。
「だ、大丈夫か!?」
大丈夫なわけがない。体中傷だらけで、左腕が欠損しているうえに羽根も一本根元から折れてしまっている。
どれもこれも、自分の責任だ。
瀬多にはもう、立ち上がり踏ん張るだけの力がなかった。このまま終わる。それが自分達の運命だと、諦めた。
メタナイトは一人でセシル達と斬り結び、幽香はアシュナード相手に再び肉弾戦を挑む。
瀬多が望んだのは争いの回避だった。殺し合いに乗った人間も含め、誰も犠牲者を出すことなく脱出することが望みだった。
しかし、懸命な努力の末がこのありさま。
凄まじい勢いで展開する白兵戦。
その犠牲者は既に現れている。そして、これから確実に増え続ける。下手をすれば全滅だって免れない。
「瀬多!! いい加減しっかりしなさい! こっちの戦力は明らかに不足してるのよ!!」
アシュナードとの息もつかぬ攻防の最中、幽香が叫ぶ。
セシルとカインも、アシュナードとシルバーも、狙っているのは対主催チーム。つまり、瀬多達だ。
瀬多の提案を退けた今、優勝を目指す彼らにとって同じスタンスの人間は等しく貴重な存在。
そして、対主催側がチームを組んでいるというのなら、両者の利害関係は一致している。
何の打ち合わせをせずとも一種の協定を結んだかのようにお互いを攻撃し合うようなことはしない。
「……その…お嬢さんの……言う通り、だ。…少年」
メタナイトが怒涛の勢いでセシル達を相手に奮闘している中、アドレーヌが動いてスネークを戦闘圏外へと連れ出していた。
「瀬多さん。この人はまだ生きてます。まだ誰も死んでません! だから、だから…諦めないで!!」
「……諦めるなって言ったって……」
無理だ。スネークがやられ、もはやパワーバランスは崩れた。メタナイトが二人相手にしているが、それもいつまでもつか分からない。
あの説得が唯一のチャンスだった。自分達が生き残れる最後の道だった。
なのにそれを…それを、自らの手で閉ざしてしまった。
自分の命をも顧みず決死の思いでイゴールと契約を結んだというのに、けっきょく自分の出来ることには限界があった。その限界を思い知らされた。
奮闘していたメタナイトがこちらに吹き飛ばされて来た。慌ててその身体を受け止める。
「だ、大丈夫か!?」
大丈夫なわけがない。体中傷だらけで、左腕が欠損しているうえに羽根も一本根元から折れてしまっている。
どれもこれも、自分の責任だ。
瀬多にはもう、立ち上がり踏ん張るだけの力がなかった。このまま終わる。それが自分達の運命だと、諦めた。
「……ここで死ぬのが…お前の運命か? ……瀬多総司」
聞き慣れた声に瀬多は思わず振り向いた。
もはやこの戦いにおいて、決して立ち上がることはないと確信していた人物。レミリア・スカーレットの姿がそこにはあった。
「貴様が何をやったのかは知らん。何を落ち込んでいるのかも、何を絶望しているのかも私にはわからん。
だがな、一つだけ確かなことは…諦めたら、そこで終わりだということだ」
額から血を流し、手足をだらんと垂らしながらも、その残った手に紅き槍を携える。
魔力によって生成されたそれは、まるで光の塊のようにこうこうと瀬多達を照らしていた。
「気高さを忘れるな、瀬多総司。自らの存在に誇りを持て。強かろうが弱かろうが関係ない。それが、生きるということだ」
槍を掲げ、その弱々しい身体のあらん限りの力を込めて、レミリアは叫ぶ。
「貴様ら下賤な弱者は、この私に屠られるのがお似合いだ!! 身の程知らずはかかって来るがいい。見る目のある者は、私の元で膝を折るがいい。
どちらも出来ぬ者は、黙ってそこで見ているがいい。私の名はレミリア・スカーレット! この会場に降り立った最強無敵の吸血鬼。
敗北という運命が決まっているというのなら、私はその運命さえも変えてみせる!!!」
飛び出してきたカインを相手に、レミリアは自らの槍で応戦する。身体はボロボロ。しかしカイン相手にまったく退けを取らない。
その強靭な精神力が足りない部分をカバーしていた。
「だが、それもただの意地だ。意地は、ほんの小さなことがきっかけで…瓦解する!!」
セシルの剣から放たれた衝撃派が、対主催チームを包み込む。
……かと思われたが、すんでのところで大剣に阻まれ、暗黒を放つタイミングを逸する。
そこには、瀬多の心の化身、イザナギが立っていた。
「……そうだ。俺の命はもう、俺だけのものじゃない。俺は、諦めてはいけないんだ!!」
イザナギの剣と時折放たれる雷。それらはセシルに暗黒を撃たせる余裕をなくしていた。負傷者を多数背負うこちらにしてみれば、暗黒は最悪の技。
それを理解しているからこそ、瀬多は畳みかけるように技を連発する。
誰も死なせない。全員生きてここから脱出する。
その意思を、高貴な意思を忘れないために。
もはやこの戦いにおいて、決して立ち上がることはないと確信していた人物。レミリア・スカーレットの姿がそこにはあった。
「貴様が何をやったのかは知らん。何を落ち込んでいるのかも、何を絶望しているのかも私にはわからん。
だがな、一つだけ確かなことは…諦めたら、そこで終わりだということだ」
額から血を流し、手足をだらんと垂らしながらも、その残った手に紅き槍を携える。
魔力によって生成されたそれは、まるで光の塊のようにこうこうと瀬多達を照らしていた。
「気高さを忘れるな、瀬多総司。自らの存在に誇りを持て。強かろうが弱かろうが関係ない。それが、生きるということだ」
槍を掲げ、その弱々しい身体のあらん限りの力を込めて、レミリアは叫ぶ。
「貴様ら下賤な弱者は、この私に屠られるのがお似合いだ!! 身の程知らずはかかって来るがいい。見る目のある者は、私の元で膝を折るがいい。
どちらも出来ぬ者は、黙ってそこで見ているがいい。私の名はレミリア・スカーレット! この会場に降り立った最強無敵の吸血鬼。
敗北という運命が決まっているというのなら、私はその運命さえも変えてみせる!!!」
飛び出してきたカインを相手に、レミリアは自らの槍で応戦する。身体はボロボロ。しかしカイン相手にまったく退けを取らない。
その強靭な精神力が足りない部分をカバーしていた。
「だが、それもただの意地だ。意地は、ほんの小さなことがきっかけで…瓦解する!!」
セシルの剣から放たれた衝撃派が、対主催チームを包み込む。
……かと思われたが、すんでのところで大剣に阻まれ、暗黒を放つタイミングを逸する。
そこには、瀬多の心の化身、イザナギが立っていた。
「……そうだ。俺の命はもう、俺だけのものじゃない。俺は、諦めてはいけないんだ!!」
イザナギの剣と時折放たれる雷。それらはセシルに暗黒を撃たせる余裕をなくしていた。負傷者を多数背負うこちらにしてみれば、暗黒は最悪の技。
それを理解しているからこそ、瀬多は畳みかけるように技を連発する。
誰も死なせない。全員生きてここから脱出する。
その意思を、高貴な意思を忘れないために。
おれさまはやっぱりバカだ。
曇った視界に映る天井を眺め、デデデはそう思った。
リディアを失い、もう誰も死なせたくないと誓い、挙句の果てがこのザマ。
何もしてない。
何もできてない。
アドレーヌに対し、いつもみたいに偉そうに説教を垂れただけ。
なにがデデデ大王だ。これのどこが王様だ。ともだち一人救えなかった自分。みんながピンチなのに、何もできない自分。
けっきょくおれさまは、何もできなかった。
「違う!!」
突然、目の前にいたアドレーヌが叫んだ。焦点の合わない目で、デデデがアドレーヌを見つめる。
いつの間にか、デデデは自分の心境を声に出してしまっていたようだ。
「わたし、デデのだんなのおかげで幽香さんを信じれたよ。だんなのおかげで、幽香さんが、わたしたちを守るために戦ってくれてる。
わたしたちが今も生きていられるのは、だんなのおかげなんだよ」
おれさまの……おかげ?
デデデには何の実感もない。むしろ足手まといになっていると感じていた。
しかし、アドレーヌは涙を流し、自分を必要だと言ってくれる。
リディアを死なせた自分。カインを説得できなかった自分。何をするわけでもなく敵にやられ、足手まといになっている自分。
どれもこれも、どうしようもなく駄目な自分。
曇った視界に映る天井を眺め、デデデはそう思った。
リディアを失い、もう誰も死なせたくないと誓い、挙句の果てがこのザマ。
何もしてない。
何もできてない。
アドレーヌに対し、いつもみたいに偉そうに説教を垂れただけ。
なにがデデデ大王だ。これのどこが王様だ。ともだち一人救えなかった自分。みんながピンチなのに、何もできない自分。
けっきょくおれさまは、何もできなかった。
「違う!!」
突然、目の前にいたアドレーヌが叫んだ。焦点の合わない目で、デデデがアドレーヌを見つめる。
いつの間にか、デデデは自分の心境を声に出してしまっていたようだ。
「わたし、デデのだんなのおかげで幽香さんを信じれたよ。だんなのおかげで、幽香さんが、わたしたちを守るために戦ってくれてる。
わたしたちが今も生きていられるのは、だんなのおかげなんだよ」
おれさまの……おかげ?
デデデには何の実感もない。むしろ足手まといになっていると感じていた。
しかし、アドレーヌは涙を流し、自分を必要だと言ってくれる。
リディアを死なせた自分。カインを説得できなかった自分。何をするわけでもなく敵にやられ、足手まといになっている自分。
どれもこれも、どうしようもなく駄目な自分。
そんなおれさまでも……できることがあるのか?
「私も……だ」
メタナイトが無理やり立とうとして、慌ててアドレーヌが手を貸す。
「敵の甘言を信じ、最後の最後で油断してしまった。挙句、スネークをこんな目に。助けに入ったはずが助けられるなど…。自分自身に腹が立つ」
「……違うぞ。メタナイト」
確かな声量で、スネークは喋っていた。
「俺がこうなったのはお前のせいじゃない。俺は俺の意思でお前を助けた。他の誰でもない。この結果は、俺が決めたことだ。
俺自身が見つけて、選んだ道だ。俺は俺のやりたいようにやる。昔も、今も、…そして、これからも」
むくりと起き上がり、そのまま立ち上がる。ふらつきはしているが、先程までの瀕死の状態には見えない。
「なあ? お前もそうだろ」
そこには、ただ黙って突っ立つシルバーがいた。手に持つ銃にアドレーヌは警戒する。
「……勝ち組になる。それだけが俺の望みだった。殺し合いに勝ち残って、強者になって、アシュナードの腹心にさせてもらって。
……俺は親父を越える。俺を捨てて逃げた親父なんか絶対に越えてやる。そう思ってた」
ぼそぼそと感情も何もなく喋り、突然咆哮するかのように身体をくの字に曲げた。
「俺は!! てめぇら全員殺して勝ち組になるんだ!! 俺はいらない子供だったんじゃない。親父が俺をちゃんと見てなかったんだ。
俺は優秀だ! 優秀な俺を、親父は知らずに捨てやがったんだ。だから俺は、いつか親父の前に立って、「どうだクソ親父。俺はこんなにすげえんだぞ」って、そう言って… …口汚く……罵ってやろうって……」
いつの間にか涙を流し、銃からも手を離していた。
スネークが持っていたのは、『マキシムトマト』というアイテムだった。体力を回復することができる、シルバーに支給されたアイテムだった。
「ロケット団なんかただの雑魚集団だ。本当に強い奴は、一人で戦える奴だ。一人で何でもできる奴だ。……だから、俺はてめえらなんか大嫌いだったんだ。
……けど、…けどよぉ、……あの、瀬多って野郎は…手加減しやがったんだ。俺は不死で、あいつの敵で、……あいつの仲間だって傷つけた。
……なのに、あいつの攻撃は…痛くなかった。……痛くなかったんだ」
幽香も、レミリアも、セシルも、そしてアシュナードも、全員が致命傷になるほどのダメージをシルバーに与えていた中で、瀬多総司だけはその攻撃を緩めていた。
万が一にも死なないように。誰も死ぬことなく、この殺し合いを止められるように。
「誰が何と言おうと、俺は人間なんだよ。痛いのはこええよ。死ぬのは、もっとこええ。他の人間なんて知らねえ。俺は俺が良ければそれでよかったんだ。
強くなって、本当に強くなって。それで、誰かに認めてもらえれば、それでよかったんだ。
……親父に、俺はいらない子じゃないって……認めてもらえればよかったんだ」
目頭を拭い、それでも飽きずに流れ出る涙。
不死になろうと、何になろうと、そこには人としての感情があった。
「……アシュナードは、俺のことなんてどうでもいいと思ってる。そんなもん、最初にここに放り込まれた時から理解してた。
それでもあいつの命令通りに動いてたのは、怖かったからだ。強い奴に見捨てられるのが怖かった。いらない奴になるのが怖かった。
……でも、それももう終わりにする。俺は瀬多みたいにはなれない。それでも、俺は……俺は、あいつに認めてもらいたい。あいつの希望を、俺は信じたい」
強者。シルバーが追い求めていたもの。その器を、サカキでもなく、アシュナードでもなく、瀬多総司に、一介の高校生に、シルバーは感じていた。
瀬多の言葉は、希望だ。
殺し合いが怖くて、その想いを断ち切るために率先して殺し合いに乗って、怒りで自分を誤魔化して。
そんな惨めでどうしようもない自分を変えれるかもしれないと、瀬多の言葉を聞いてシルバーは思ったのだ。
この希望を紡げば、支えることができれば、自分は、自分の知らない、もう一つの強者の道を歩めるのではないかと。
「人はいつだって誰かに認めてもらいたがる。だがそれは駄目なことじゃない。そうやって足掻いて、見つかるものもある。
……俺も同じだ。俺も、あの少年を信じたい。希望を、……未来を」
スネークはマキシムトマトを二つに割り、デデデとメタナイトに差し出した。
「完全には回復しない。血が止まって、歩けるようになるくらいの効果だ。……俺達はもう、この殺し合いでは足手まといだろうな」
そう言って、スネークは笑う。
「そ、そんなこと……!!」
アドレーヌの両肩に、ぽんと手が置かれる。デデデと、メタナイトの手だった。
「なにより我々が理解している。この回復は気休め程度しかない。数十分も歩けば、身体は動かなくなるだろう」
「それでも、できることはある。アドレーヌがおれさまに教えてくれたことだぞ」
デデデもメタナイトもスネークも、戦場へと向けて歩いて行く。
「ま、待って。何をするつもりなの? 止めてよ。行かないで! お願い!!」
「……人は死ぬ。だが、死は敗北じゃない。誰が言った言葉かは忘れたがな」
「答えになってない! そんなの……ぜんぜん答えになってないよ」
「アドレーヌ。お前は生きてくれ。カービィを見つけて、きっとみんなで生き残ってくれ。おれさまは、それで満足だ」
へたり込み、泣きじゃくるアドレーヌ。
しかし止めることなどできない。
彼らの意思は、もはや誰に変えれるものではない。
「私……だって……みんなの…役に……たちたいよぉ。戦いたいのに……私だって戦いたいのに」
「それでいい、アドレーヌ。お前はそれでいい。お前のような人間が見ていてくれるから、私達は戦える。だから、見守っていてくれ。見届けてくれ。私達の戦いを」
四人は今の戦況を再確認する。
幽香とアシュナードは相も変わらず殴り殴られの肉弾戦。ハリケーンのような勢いで周りのものを破壊しながら戦っている。
カインとレミリアも拮抗してはいるが、それでもやはりレミリアは押されて来ている。
セシルと瀬多も同様だ。戦闘経験でいえば、セシルに一日の長があるのだろう。瀬多の攻撃を最小限の動きでかわし、着実に相手のスタミナを削っている。
このままではごり押しで確実にこちらが敗北する。
「だが、このままでは済まさない。……済ますものか」
その決意の言葉はメタナイトだけじゃない。ここにいる全員に共通した意思だった。
「……よし。行くぞ。希望を託しにな」
スネークの合図と共に、四人は戦場へと飛び出した。
メタナイトが無理やり立とうとして、慌ててアドレーヌが手を貸す。
「敵の甘言を信じ、最後の最後で油断してしまった。挙句、スネークをこんな目に。助けに入ったはずが助けられるなど…。自分自身に腹が立つ」
「……違うぞ。メタナイト」
確かな声量で、スネークは喋っていた。
「俺がこうなったのはお前のせいじゃない。俺は俺の意思でお前を助けた。他の誰でもない。この結果は、俺が決めたことだ。
俺自身が見つけて、選んだ道だ。俺は俺のやりたいようにやる。昔も、今も、…そして、これからも」
むくりと起き上がり、そのまま立ち上がる。ふらつきはしているが、先程までの瀕死の状態には見えない。
「なあ? お前もそうだろ」
そこには、ただ黙って突っ立つシルバーがいた。手に持つ銃にアドレーヌは警戒する。
「……勝ち組になる。それだけが俺の望みだった。殺し合いに勝ち残って、強者になって、アシュナードの腹心にさせてもらって。
……俺は親父を越える。俺を捨てて逃げた親父なんか絶対に越えてやる。そう思ってた」
ぼそぼそと感情も何もなく喋り、突然咆哮するかのように身体をくの字に曲げた。
「俺は!! てめぇら全員殺して勝ち組になるんだ!! 俺はいらない子供だったんじゃない。親父が俺をちゃんと見てなかったんだ。
俺は優秀だ! 優秀な俺を、親父は知らずに捨てやがったんだ。だから俺は、いつか親父の前に立って、「どうだクソ親父。俺はこんなにすげえんだぞ」って、そう言って… …口汚く……罵ってやろうって……」
いつの間にか涙を流し、銃からも手を離していた。
スネークが持っていたのは、『マキシムトマト』というアイテムだった。体力を回復することができる、シルバーに支給されたアイテムだった。
「ロケット団なんかただの雑魚集団だ。本当に強い奴は、一人で戦える奴だ。一人で何でもできる奴だ。……だから、俺はてめえらなんか大嫌いだったんだ。
……けど、…けどよぉ、……あの、瀬多って野郎は…手加減しやがったんだ。俺は不死で、あいつの敵で、……あいつの仲間だって傷つけた。
……なのに、あいつの攻撃は…痛くなかった。……痛くなかったんだ」
幽香も、レミリアも、セシルも、そしてアシュナードも、全員が致命傷になるほどのダメージをシルバーに与えていた中で、瀬多総司だけはその攻撃を緩めていた。
万が一にも死なないように。誰も死ぬことなく、この殺し合いを止められるように。
「誰が何と言おうと、俺は人間なんだよ。痛いのはこええよ。死ぬのは、もっとこええ。他の人間なんて知らねえ。俺は俺が良ければそれでよかったんだ。
強くなって、本当に強くなって。それで、誰かに認めてもらえれば、それでよかったんだ。
……親父に、俺はいらない子じゃないって……認めてもらえればよかったんだ」
目頭を拭い、それでも飽きずに流れ出る涙。
不死になろうと、何になろうと、そこには人としての感情があった。
「……アシュナードは、俺のことなんてどうでもいいと思ってる。そんなもん、最初にここに放り込まれた時から理解してた。
それでもあいつの命令通りに動いてたのは、怖かったからだ。強い奴に見捨てられるのが怖かった。いらない奴になるのが怖かった。
……でも、それももう終わりにする。俺は瀬多みたいにはなれない。それでも、俺は……俺は、あいつに認めてもらいたい。あいつの希望を、俺は信じたい」
強者。シルバーが追い求めていたもの。その器を、サカキでもなく、アシュナードでもなく、瀬多総司に、一介の高校生に、シルバーは感じていた。
瀬多の言葉は、希望だ。
殺し合いが怖くて、その想いを断ち切るために率先して殺し合いに乗って、怒りで自分を誤魔化して。
そんな惨めでどうしようもない自分を変えれるかもしれないと、瀬多の言葉を聞いてシルバーは思ったのだ。
この希望を紡げば、支えることができれば、自分は、自分の知らない、もう一つの強者の道を歩めるのではないかと。
「人はいつだって誰かに認めてもらいたがる。だがそれは駄目なことじゃない。そうやって足掻いて、見つかるものもある。
……俺も同じだ。俺も、あの少年を信じたい。希望を、……未来を」
スネークはマキシムトマトを二つに割り、デデデとメタナイトに差し出した。
「完全には回復しない。血が止まって、歩けるようになるくらいの効果だ。……俺達はもう、この殺し合いでは足手まといだろうな」
そう言って、スネークは笑う。
「そ、そんなこと……!!」
アドレーヌの両肩に、ぽんと手が置かれる。デデデと、メタナイトの手だった。
「なにより我々が理解している。この回復は気休め程度しかない。数十分も歩けば、身体は動かなくなるだろう」
「それでも、できることはある。アドレーヌがおれさまに教えてくれたことだぞ」
デデデもメタナイトもスネークも、戦場へと向けて歩いて行く。
「ま、待って。何をするつもりなの? 止めてよ。行かないで! お願い!!」
「……人は死ぬ。だが、死は敗北じゃない。誰が言った言葉かは忘れたがな」
「答えになってない! そんなの……ぜんぜん答えになってないよ」
「アドレーヌ。お前は生きてくれ。カービィを見つけて、きっとみんなで生き残ってくれ。おれさまは、それで満足だ」
へたり込み、泣きじゃくるアドレーヌ。
しかし止めることなどできない。
彼らの意思は、もはや誰に変えれるものではない。
「私……だって……みんなの…役に……たちたいよぉ。戦いたいのに……私だって戦いたいのに」
「それでいい、アドレーヌ。お前はそれでいい。お前のような人間が見ていてくれるから、私達は戦える。だから、見守っていてくれ。見届けてくれ。私達の戦いを」
四人は今の戦況を再確認する。
幽香とアシュナードは相も変わらず殴り殴られの肉弾戦。ハリケーンのような勢いで周りのものを破壊しながら戦っている。
カインとレミリアも拮抗してはいるが、それでもやはりレミリアは押されて来ている。
セシルと瀬多も同様だ。戦闘経験でいえば、セシルに一日の長があるのだろう。瀬多の攻撃を最小限の動きでかわし、着実に相手のスタミナを削っている。
このままではごり押しで確実にこちらが敗北する。
「だが、このままでは済まさない。……済ますものか」
その決意の言葉はメタナイトだけじゃない。ここにいる全員に共通した意思だった。
「……よし。行くぞ。希望を託しにな」
スネークの合図と共に、四人は戦場へと飛び出した。
「はぁ……はぁ……。どうした……。もう……降伏か……?」
息も切れ切れに、しかし不敵な笑みだけは崩さず、レミリアは言った。
確かに強い。自分一人で勝てる相手じゃない。
だが今は一人じゃない。相手は万全じゃない。
セシルの提案を信じて正解だった。この女は、確実にここで殺しておかなければならない。そう改めて確信し、カインはもう一度突撃する。
「はあっ!!」
一閃。
渾身の一撃を頭部に目掛けて放つ。
ガキイイン
しかし、いくらなんでも、何のフェイントもない一撃をまともに食らうほどレミリアも弱っていない。上部へと槍を逸らし、その攻撃を回避する。
が、
「ごふぅ!!」
次の瞬間、レミリアの顎に槍の持ち手部分が直撃した。レミリアの回避に合わせて、カインが槍を回転させたのだ。
首の骨が折れるのではないかと思われるほどの勢いで頭部が弾き飛ばされる。
ぐらりとレミリアの身体が揺れ、地面に膝を折る……
ガン!!
槍を地面に突き刺して身体を支える。
絶対に倒れない。こいつを殺すまでは何があっても立っている。
そんな意思を、レミリアの睨みつけてくる瞳を見て感じ取った。
「……その根性は敬服する。だが、もう終わりだ」
こちらが槍を振り上げても、がくがくと身体を震わせるのみだ。もはや動こうと思っても動けないのだろう。
しかし、一切目を逸らそうとしない。自分の死の瞬間も、全て受け入れる。それがレミリアの誇りであり、吸血鬼のプライドだ。
しかし、今回ばかりはそのプライドも無用の長物だ。何故なら、既にカインの腰にはしっかりと抱きついて離さないデデデがいたのだから。
「お、……まえ」
目を見開き、驚愕するレミリア。
「カイン!! もう殺し合いなんて止めろ! リディアも…それに、ローザって人も、きっとそれを望んでる!」
「……うるさいっ!!」
ドス!
デデデの肩に槍が突き刺さる。しかし、デデデは歯を食いしばってその手を離さない。
「ぜったいに離さない。おれさまにだってできることがある!」
ドス! ドス!
次々と身体に風穴が開く。しかし、それでもデデデは一切手の力を抜かなかった。
「や……めろ…!!」
叫ぶだけの体力もない。それでも、レミリアは叫ばざるを得なかった。
「やめない!! ぜったいにやめないぞ!!」
ドスドスドス!!
叫んでいる内にも次々に槍が突き刺さる。すでに地面には血溜まりが出来あがっていた。
レミリアが決死の思いで身体を奮い起す。立ち上がろうともがく。だが、言う事を聞かない。身体が悲鳴をあげ、なかなか立ち上がることができない。
レミリアにとって、人の命は重いものではない。
しかしそれでも、自分の為に命を賭けるような相手を、そのまま放置しておくような礼儀知らずでもない。
自分を慕い、自分に尽くす相手には、相応の態度を示すのが主の役目だ。
部下を持ったなら、その部下を守るのが主の役目だ。
(動け……! 私の身体。さっさと動け!!)
しかし、動かない。
レミリアは既に限界の限界を越えている。今までで既に十分奇跡的だったのだ。
許容量を超えた身体が崩れ落ち、そのまま地面に横たわる瞬間、何者かがその身体を支えた。
「アド……レーヌ?」
瞳を涙で濡らし、それでもレミリアを担いで後方へと下がる。
「待て……。私を……あっちに…つれてけ。……デデデの奴を……」
「あなたを下がらせろという、みんなの最後の願いです。死んでも聞けません」
気丈に言い放つアドレーヌ。しかし、ポロポロと零れる涙は決して隠せるものではなかった。
息も切れ切れに、しかし不敵な笑みだけは崩さず、レミリアは言った。
確かに強い。自分一人で勝てる相手じゃない。
だが今は一人じゃない。相手は万全じゃない。
セシルの提案を信じて正解だった。この女は、確実にここで殺しておかなければならない。そう改めて確信し、カインはもう一度突撃する。
「はあっ!!」
一閃。
渾身の一撃を頭部に目掛けて放つ。
ガキイイン
しかし、いくらなんでも、何のフェイントもない一撃をまともに食らうほどレミリアも弱っていない。上部へと槍を逸らし、その攻撃を回避する。
が、
「ごふぅ!!」
次の瞬間、レミリアの顎に槍の持ち手部分が直撃した。レミリアの回避に合わせて、カインが槍を回転させたのだ。
首の骨が折れるのではないかと思われるほどの勢いで頭部が弾き飛ばされる。
ぐらりとレミリアの身体が揺れ、地面に膝を折る……
ガン!!
槍を地面に突き刺して身体を支える。
絶対に倒れない。こいつを殺すまでは何があっても立っている。
そんな意思を、レミリアの睨みつけてくる瞳を見て感じ取った。
「……その根性は敬服する。だが、もう終わりだ」
こちらが槍を振り上げても、がくがくと身体を震わせるのみだ。もはや動こうと思っても動けないのだろう。
しかし、一切目を逸らそうとしない。自分の死の瞬間も、全て受け入れる。それがレミリアの誇りであり、吸血鬼のプライドだ。
しかし、今回ばかりはそのプライドも無用の長物だ。何故なら、既にカインの腰にはしっかりと抱きついて離さないデデデがいたのだから。
「お、……まえ」
目を見開き、驚愕するレミリア。
「カイン!! もう殺し合いなんて止めろ! リディアも…それに、ローザって人も、きっとそれを望んでる!」
「……うるさいっ!!」
ドス!
デデデの肩に槍が突き刺さる。しかし、デデデは歯を食いしばってその手を離さない。
「ぜったいに離さない。おれさまにだってできることがある!」
ドス! ドス!
次々と身体に風穴が開く。しかし、それでもデデデは一切手の力を抜かなかった。
「や……めろ…!!」
叫ぶだけの体力もない。それでも、レミリアは叫ばざるを得なかった。
「やめない!! ぜったいにやめないぞ!!」
ドスドスドス!!
叫んでいる内にも次々に槍が突き刺さる。すでに地面には血溜まりが出来あがっていた。
レミリアが決死の思いで身体を奮い起す。立ち上がろうともがく。だが、言う事を聞かない。身体が悲鳴をあげ、なかなか立ち上がることができない。
レミリアにとって、人の命は重いものではない。
しかしそれでも、自分の為に命を賭けるような相手を、そのまま放置しておくような礼儀知らずでもない。
自分を慕い、自分に尽くす相手には、相応の態度を示すのが主の役目だ。
部下を持ったなら、その部下を守るのが主の役目だ。
(動け……! 私の身体。さっさと動け!!)
しかし、動かない。
レミリアは既に限界の限界を越えている。今までで既に十分奇跡的だったのだ。
許容量を超えた身体が崩れ落ち、そのまま地面に横たわる瞬間、何者かがその身体を支えた。
「アド……レーヌ?」
瞳を涙で濡らし、それでもレミリアを担いで後方へと下がる。
「待て……。私を……あっちに…つれてけ。……デデデの奴を……」
「あなたを下がらせろという、みんなの最後の願いです。死んでも聞けません」
気丈に言い放つアドレーヌ。しかし、ポロポロと零れる涙は決して隠せるものではなかった。
(くっ。駄目だ。やはり強い!)
瀬多がこの戦いに勝機が薄いことに気付いたのはつい先程だ。
それまでは実力差など大してないと感じていた。しかしそれは、セシルが瀬多の力を計っていたに過ぎない。その計りを終えた今、セシルは本気で瀬多を殺しにかかっていた。
(慎重で隙がない。だというのに、ここぞという時には大胆に攻め込んで来る。戦闘に関しては確実に向こうの方が上だ)
経験も、素質も、能力も、全てにおいて向こうが勝っている。瀬多が出来るのは時間を稼ぐことと、『暗黒』をどうにか撃たせないようにすることくらいだ。
しかし、そんなジリ貧がそう長く続くはずもない。
瀬多が『暗黒』を意識して攻撃を畳みかけ、そのために疎かになった防御面を器用に打つ。セシルは傷一つつかず、瀬多は傷つく一方。もはやどちらが勝つかは一目瞭然である。
「攻撃が緩くなったな。防御を意識したか? だが、それはお前にとっての敗北だ」
後ろに飛び、『暗黒』の構えを作るセシル。
(しまった!)
慌ててイザナギでセシルを追う。が、それこそがセシルの罠。素早く『暗黒』の構えを解き、イザナギの懐へと肉薄する。
不意をつかれたイザナギは、そのまま大剣によって両断……
「おおおおおっ!!!」
される寸前、戦闘不能だと思われたスネークが飛び込んできた。思わぬ伏兵にタックルされ、手元を狂わせる。
すぐさま横なぎに剣を振るう。しかし、まったく知らない体術で身体を組ませられ、右手が動かない。
「死にぞこないめ。そんなに息の根を止められたいか!」
「死なんて怖くないさ。怖いのは、何も出来ない自分だ!」
「そうまでして戦うか。貴様を駆り立てるのはなんだ。何の為に戦う。正義か。友情か!?」
このまま腕を折ろうとするが、すんでのところでスネークの腹に蹴りが入る。
「ぐはっ!」
みぞおち深くに突き刺さった蹴りだ。人間の自然な摂理として、当然力が緩む。
その隙を見てセシルは逃げ出そうと試みる。が、
「なっ!?」
何かが巻き付き、セシルの自由を奪った。
「お前は……」
それはもう一匹の蛇。スネークに支給されたポケモン、アーボだった。
スネークが最初に戦闘不能になった時、既にアーボへの命令は途絶えていた。以来、誰にも命令されていないアーボは自主行動が取れる状態となっていた。だというのに、アーボはまるでスネークの意思を尊重するかのように、彼に力を貸していた。
スネークはポケモンのことなど知らない。もちろん、モンスターボールの性能もよくわかっていない。しかし、アーボのその瞳を見れば、彼が自分の意思で手を貸してくれたことはわかった。
「そうか。お前も…俺と同じなんだな」
アーボが巻き付いてくれた腕を再び取る。
ゴキリという鈍い音と共に、セシルの関節が外れた。
「俺達はいつだって、自分の為に戦っている!!」
そのままの勢いでセシルを押していく。その先にあるのはカインと、血だらけでしがみついているデデデ。
「今だあああ!!! メタナイトおおお!!!」
スネークの声と共に小さな影が走る。カインとセシルの間に入り込むかのような位置でメタナイトはマントを翻した。
「ギャラクシア・ダークネス!!!!」
目に見えない一閃が、宙に走った。
瀬多がこの戦いに勝機が薄いことに気付いたのはつい先程だ。
それまでは実力差など大してないと感じていた。しかしそれは、セシルが瀬多の力を計っていたに過ぎない。その計りを終えた今、セシルは本気で瀬多を殺しにかかっていた。
(慎重で隙がない。だというのに、ここぞという時には大胆に攻め込んで来る。戦闘に関しては確実に向こうの方が上だ)
経験も、素質も、能力も、全てにおいて向こうが勝っている。瀬多が出来るのは時間を稼ぐことと、『暗黒』をどうにか撃たせないようにすることくらいだ。
しかし、そんなジリ貧がそう長く続くはずもない。
瀬多が『暗黒』を意識して攻撃を畳みかけ、そのために疎かになった防御面を器用に打つ。セシルは傷一つつかず、瀬多は傷つく一方。もはやどちらが勝つかは一目瞭然である。
「攻撃が緩くなったな。防御を意識したか? だが、それはお前にとっての敗北だ」
後ろに飛び、『暗黒』の構えを作るセシル。
(しまった!)
慌ててイザナギでセシルを追う。が、それこそがセシルの罠。素早く『暗黒』の構えを解き、イザナギの懐へと肉薄する。
不意をつかれたイザナギは、そのまま大剣によって両断……
「おおおおおっ!!!」
される寸前、戦闘不能だと思われたスネークが飛び込んできた。思わぬ伏兵にタックルされ、手元を狂わせる。
すぐさま横なぎに剣を振るう。しかし、まったく知らない体術で身体を組ませられ、右手が動かない。
「死にぞこないめ。そんなに息の根を止められたいか!」
「死なんて怖くないさ。怖いのは、何も出来ない自分だ!」
「そうまでして戦うか。貴様を駆り立てるのはなんだ。何の為に戦う。正義か。友情か!?」
このまま腕を折ろうとするが、すんでのところでスネークの腹に蹴りが入る。
「ぐはっ!」
みぞおち深くに突き刺さった蹴りだ。人間の自然な摂理として、当然力が緩む。
その隙を見てセシルは逃げ出そうと試みる。が、
「なっ!?」
何かが巻き付き、セシルの自由を奪った。
「お前は……」
それはもう一匹の蛇。スネークに支給されたポケモン、アーボだった。
スネークが最初に戦闘不能になった時、既にアーボへの命令は途絶えていた。以来、誰にも命令されていないアーボは自主行動が取れる状態となっていた。だというのに、アーボはまるでスネークの意思を尊重するかのように、彼に力を貸していた。
スネークはポケモンのことなど知らない。もちろん、モンスターボールの性能もよくわかっていない。しかし、アーボのその瞳を見れば、彼が自分の意思で手を貸してくれたことはわかった。
「そうか。お前も…俺と同じなんだな」
アーボが巻き付いてくれた腕を再び取る。
ゴキリという鈍い音と共に、セシルの関節が外れた。
「俺達はいつだって、自分の為に戦っている!!」
そのままの勢いでセシルを押していく。その先にあるのはカインと、血だらけでしがみついているデデデ。
「今だあああ!!! メタナイトおおお!!!」
スネークの声と共に小さな影が走る。カインとセシルの間に入り込むかのような位置でメタナイトはマントを翻した。
「ギャラクシア・ダークネス!!!!」
目に見えない一閃が、宙に走った。
この激しい殴り合いが始まって、どれほどの時間が経っただろうか。十分か、二十分か。おそらくはそれより長い。その長い時間、彼らはスタミナの切れることなく拳でぶつかっていた。
拳と拳がぶつかり、衝撃派のような突風が舞う。それでも二人の拳が砕けるようなことはない。アシュナードの顔をまともに肘が激突する。メキリという音と共に鼻が砕ける。それでも一切躊躇することなく、幽香の頬を殴り抜ける。
口の中に溜まる血を唾のように吐き出し、幽香は再び腰をひねり、砲弾のような一撃を放つ。
「っ!」
しかし、それは軽くアシュナードに回避される。先程まで言葉通りの殴り合いをしてきた二人だ。避けられるということを完全に頭から除外していた幽香は必要以上に攻撃が大振りになっていたのだ。
腕を取られ、さらに首に腕を巻かれて締め上げられる。
「貴様の戦い方はずぶの素人同然だ。拳法も何もあったものではない」
メキメキメキ
「あっ……か…!!」
気道が塞がり、息が出来ない。
妖怪同士の戦いで首を絞められるなんてことは一切なかった。未知の苦痛が幽香を襲う。
「これでも、我は少し戸惑っているのだ。どうすれば貴様が我のものになるのか。……たとえば、苦痛を与えるというのはどうだ?」
何の躊躇もなく、アシュナードは幽香の足の指めがけて思い切り踵を振り下ろした。
グシャ、という嫌な音と共に鋭い痛みが全身を駆け巡る。
「ククク。こんなもので屈服するような安い女ではないな。しかし幽香よ。先程と比べ、今のお前はあまりにも弱々しいな。あの竜の如き圧倒的な力を持ったお前はどこに行った」
左肘でアシュナードの腹を狙うも、見事に予想されており、あっさりと避けられる。
「まあいい。貴様は適当に嬲って連れ帰る」
気道を塞いでいた腕がふいに解かれる。
「かはっ。はぁ、はぁ、はがっ……!!!」
その瞬間、髪の毛を掴まれ、そのまま近くにあった机に叩きつけられる。瞬時に机は粉々に砕かれ、それでもアシュナードは同じ場所に幽香の顔面を叩きつける。
グシャ
今度は机を突き抜け、地面にぶつかる。
盛大な音とともに、何度も何度も地面に叩きつける。
その度に地面に穿たれ、徐々にクレーターが大きくなっていく。
「かひゅっ。…はっ、はぶっ!!!」
もはや呼吸をする暇もない。一際強い力で地面に叩きつけられた幽香は、ピクピクと身体を震わせるのみで、動かなくなった。
「ふう。ようやく大人しくなっ──」
途端にアシュナードの身体が縮こまる。だがそれも致し方ない。男性ならば誰もが苦手とする急所に、幽香の蹴りが見事に命中していたのだ。
「ぐ、お、お」
「げほっ。はぁ、はぁ。よくも……やってくれたわね。…ごほっ」
身体くの字に曲げてもだえるアシュナード。その頭部を両手で支え、幽香の膝がモロに鼻を直撃した。
浮かび上がるアシュナードの身体。その顔面に再び渾身の右ストレートをお見舞いする。
身体を回転させてアシュナードは吹き飛んだ。
「生憎と、やられる方は好きじゃないの。ドSキャラは一人で間に合ってるわ」
アシュナードはやられたまま、しばらく動かなかったが、やがて何事もなかったかのようにむくりと起き出した。
「ククク。やはりいいぞ。我の妃に相応しい豪傑だ」
「あなたの妃になるくらいなら、そこらへんで野たれ死んでる方が遥かにマシね」
軽口を叩くも、幽香は内心焦っていた。
アシュナードのあの様子。まだまだ余力を残しているようにみえる。対してこちらの体力はかなり消耗している。
幽香には知るはずもない話だが、アシュナードには回復というスキルがある。それ故に普通の人間、妖怪よりも自然治癒が早いのだ。
満足な得物もなく、どうやってあいつを追い出すか。そんなことを頭の片隅で考えている時だった。
「……何の用だ? シルバー」
その新たな敵に、幽香は忌々しげに舌打ちした。
アシュナードだけでも厄介な現状で、さらなる敵が増えることもさることながら、その手にある剣が、幽香にとって何よりの不安要素だった。
「アシュナード。敵から奪ってきた。こいつを使ってくれ」
ヴァーグ・カティと呼ばれる名剣。それを手にし、ヒュンヒュンと軽く振る。
「フン。少し軽いが、なかなかだ。でかしたぞシルバー」
その時、幽香は少しだけ嫌な予感がした。
強敵に武器が渡り、さらにもう一人倒さなければならない敵が増えたというだけで、幽香にとってはかなりピンチなのだが、そういった危険とは違う違和感のようなものを幽香は感じ取っていた。
(そうだ。あの餓鬼。あいつの、何か決意したような目)
あの目は幽香もよく知っている。何百年も昔、自分を人類の敵だと信じて戦いを挑んできた人間ども。圧倒的なまでの戦力差であろうと決して屈しない強さを持った瞳。
幽香はあの瞳が好きだった。敵であり、殺すべき相手であったが、あの気高さを持った瞳を見た時は高揚すら覚えた。
それとまったく同じ目を、シルバーはしているのだ。
幽香は躊躇しなかった。そして、それが正しいという確信が自分の中にあった。
幽香は強力な武器を携えるアシュナードに、何の策もなく突っ込んでいた。
「馬鹿っ! その男を甘く見るな!!」
だが、幽香の助言も、突攻も、全ては無意味だった。
シルバーの心の蔵に、ヴァーグ・カティは寸分の違いなく突き刺さっていた。
「フン。幽香の言う通りだ、小僧。我を油断させて背後を突くつもりだったか? その心意気は買うが、逆に殺されても文句は言えまい?」
ずぶりと引き抜かれる剣。血が吹き出て、地面が赤に染まる。
そして、シルバーの身体の崩壊が始まった。
足の先から砂のように散っていく自分の身体。それをシルバーは呆然と見つめていた。
「本当に不死になったと思ったか? 馬鹿め。殺し合いの中で、不死になれる薬などあるはずがなかろう」
もはやシルバーなぞに用はない。そう言うかのように、アシュナードは崩壊が始まっているシルバーを無視して幽香の方へと歩いて行く。
グイ
ふいに、何者かにマントを引っ張られる。犯人が誰かは簡単に見当がついた。
「しつこいぞ、シルバー。貴様なぞ──」
ピン
何かを外したような音がした。
シルバーの手には、アシュナードの見たことのない楕円形の何かが握られていた。
現代で言われる手榴弾というものだ。
「道連れだぜ。逝けよ、狂王。てめえが生きていてもろくなことにならねえ」
途端、アシュナードを光が包み込んだ。
拳と拳がぶつかり、衝撃派のような突風が舞う。それでも二人の拳が砕けるようなことはない。アシュナードの顔をまともに肘が激突する。メキリという音と共に鼻が砕ける。それでも一切躊躇することなく、幽香の頬を殴り抜ける。
口の中に溜まる血を唾のように吐き出し、幽香は再び腰をひねり、砲弾のような一撃を放つ。
「っ!」
しかし、それは軽くアシュナードに回避される。先程まで言葉通りの殴り合いをしてきた二人だ。避けられるということを完全に頭から除外していた幽香は必要以上に攻撃が大振りになっていたのだ。
腕を取られ、さらに首に腕を巻かれて締め上げられる。
「貴様の戦い方はずぶの素人同然だ。拳法も何もあったものではない」
メキメキメキ
「あっ……か…!!」
気道が塞がり、息が出来ない。
妖怪同士の戦いで首を絞められるなんてことは一切なかった。未知の苦痛が幽香を襲う。
「これでも、我は少し戸惑っているのだ。どうすれば貴様が我のものになるのか。……たとえば、苦痛を与えるというのはどうだ?」
何の躊躇もなく、アシュナードは幽香の足の指めがけて思い切り踵を振り下ろした。
グシャ、という嫌な音と共に鋭い痛みが全身を駆け巡る。
「ククク。こんなもので屈服するような安い女ではないな。しかし幽香よ。先程と比べ、今のお前はあまりにも弱々しいな。あの竜の如き圧倒的な力を持ったお前はどこに行った」
左肘でアシュナードの腹を狙うも、見事に予想されており、あっさりと避けられる。
「まあいい。貴様は適当に嬲って連れ帰る」
気道を塞いでいた腕がふいに解かれる。
「かはっ。はぁ、はぁ、はがっ……!!!」
その瞬間、髪の毛を掴まれ、そのまま近くにあった机に叩きつけられる。瞬時に机は粉々に砕かれ、それでもアシュナードは同じ場所に幽香の顔面を叩きつける。
グシャ
今度は机を突き抜け、地面にぶつかる。
盛大な音とともに、何度も何度も地面に叩きつける。
その度に地面に穿たれ、徐々にクレーターが大きくなっていく。
「かひゅっ。…はっ、はぶっ!!!」
もはや呼吸をする暇もない。一際強い力で地面に叩きつけられた幽香は、ピクピクと身体を震わせるのみで、動かなくなった。
「ふう。ようやく大人しくなっ──」
途端にアシュナードの身体が縮こまる。だがそれも致し方ない。男性ならば誰もが苦手とする急所に、幽香の蹴りが見事に命中していたのだ。
「ぐ、お、お」
「げほっ。はぁ、はぁ。よくも……やってくれたわね。…ごほっ」
身体くの字に曲げてもだえるアシュナード。その頭部を両手で支え、幽香の膝がモロに鼻を直撃した。
浮かび上がるアシュナードの身体。その顔面に再び渾身の右ストレートをお見舞いする。
身体を回転させてアシュナードは吹き飛んだ。
「生憎と、やられる方は好きじゃないの。ドSキャラは一人で間に合ってるわ」
アシュナードはやられたまま、しばらく動かなかったが、やがて何事もなかったかのようにむくりと起き出した。
「ククク。やはりいいぞ。我の妃に相応しい豪傑だ」
「あなたの妃になるくらいなら、そこらへんで野たれ死んでる方が遥かにマシね」
軽口を叩くも、幽香は内心焦っていた。
アシュナードのあの様子。まだまだ余力を残しているようにみえる。対してこちらの体力はかなり消耗している。
幽香には知るはずもない話だが、アシュナードには回復というスキルがある。それ故に普通の人間、妖怪よりも自然治癒が早いのだ。
満足な得物もなく、どうやってあいつを追い出すか。そんなことを頭の片隅で考えている時だった。
「……何の用だ? シルバー」
その新たな敵に、幽香は忌々しげに舌打ちした。
アシュナードだけでも厄介な現状で、さらなる敵が増えることもさることながら、その手にある剣が、幽香にとって何よりの不安要素だった。
「アシュナード。敵から奪ってきた。こいつを使ってくれ」
ヴァーグ・カティと呼ばれる名剣。それを手にし、ヒュンヒュンと軽く振る。
「フン。少し軽いが、なかなかだ。でかしたぞシルバー」
その時、幽香は少しだけ嫌な予感がした。
強敵に武器が渡り、さらにもう一人倒さなければならない敵が増えたというだけで、幽香にとってはかなりピンチなのだが、そういった危険とは違う違和感のようなものを幽香は感じ取っていた。
(そうだ。あの餓鬼。あいつの、何か決意したような目)
あの目は幽香もよく知っている。何百年も昔、自分を人類の敵だと信じて戦いを挑んできた人間ども。圧倒的なまでの戦力差であろうと決して屈しない強さを持った瞳。
幽香はあの瞳が好きだった。敵であり、殺すべき相手であったが、あの気高さを持った瞳を見た時は高揚すら覚えた。
それとまったく同じ目を、シルバーはしているのだ。
幽香は躊躇しなかった。そして、それが正しいという確信が自分の中にあった。
幽香は強力な武器を携えるアシュナードに、何の策もなく突っ込んでいた。
「馬鹿っ! その男を甘く見るな!!」
だが、幽香の助言も、突攻も、全ては無意味だった。
シルバーの心の蔵に、ヴァーグ・カティは寸分の違いなく突き刺さっていた。
「フン。幽香の言う通りだ、小僧。我を油断させて背後を突くつもりだったか? その心意気は買うが、逆に殺されても文句は言えまい?」
ずぶりと引き抜かれる剣。血が吹き出て、地面が赤に染まる。
そして、シルバーの身体の崩壊が始まった。
足の先から砂のように散っていく自分の身体。それをシルバーは呆然と見つめていた。
「本当に不死になったと思ったか? 馬鹿め。殺し合いの中で、不死になれる薬などあるはずがなかろう」
もはやシルバーなぞに用はない。そう言うかのように、アシュナードは崩壊が始まっているシルバーを無視して幽香の方へと歩いて行く。
グイ
ふいに、何者かにマントを引っ張られる。犯人が誰かは簡単に見当がついた。
「しつこいぞ、シルバー。貴様なぞ──」
ピン
何かを外したような音がした。
シルバーの手には、アシュナードの見たことのない楕円形の何かが握られていた。
現代で言われる手榴弾というものだ。
「道連れだぜ。逝けよ、狂王。てめえが生きていてもろくなことにならねえ」
途端、アシュナードを光が包み込んだ。