宴を邪魔する者達 第一幕 ─折れた赤き翼─ ◆dGUiIvN2Nw
「漆黒。あなた、その腕大丈夫?」
膝をつき、剣から手を離している漆黒の騎士に咲夜は聞いた。
見れば、その両腕は小刻みに震えており、見るからに真っ赤に腫れていた。
「……筋を、かなり痛めたようだ。しばらくは…剣を持つことも、適わないだろうな」
風見幽香に加えた一撃、その威力を見れば、それも納得といったところだ。
「……あなたのおかげよ。あなたのおかげで、被害は最小限に抑えられた。幽香も生きている。もっと自分を誇りなさいよ。誰にもできないことをあなたはやってのけたんだから」
漆黒の騎士は苦笑する。
人にこの身を案じてもらったのはいつ以来だろうか。褒められたのは、……もしかしたら初めてかもしれない。
「だが、案外いいものだな」
「え?」
「何でもない。咲夜殿は無事か?」
「ええ。……けど、その殿って止めてくれない? なんだか馬鹿にされてる気分」
「……一応、敬称なんだがな。まあ、咲夜殿……咲夜が止めろと言うのなら異論はない」
「その堅っ苦しい喋り方もできれば止めて欲しいところだけどね」
咲夜はそう言って薄く笑った。
「それよりも、今は君の主の心配をした方がいい」
「ああ。お嬢様なら──」
「お前に心配してもらう必要なんてない」
瀬多に介抱してもらいながら、レミリアはむすっとした表情で言った。
「言っとくがな。今回は花をもたせてやっただけだ。やろうと思えば、私だってあれくらい……、いたたた! おい瀬多! もっと優しくしろ!!」
「今回のMVPは誰がどう見てもゼルギウスだ。そういう言い方はあまり良いとはいえないな」
いらない布を千切って作った包帯を頭に巻いてやりながら、瀬多は言った。
「ふん。女の前で良い恰好したかっただけだろ。男という奴は外面を良く見せることだけは長けてるからな」
そう言ってレミリアはそっぽを向いてしまった。
「咲夜。レミリアは何をそんなに怒ってるんだ?」
「どうやら、私とゼルギウスの仲を疑ってらしてるようね。誤解も甚だしいけれど」
「……咲夜は私の娘みたいなものだ。私が納得するような男じゃないと絶対やらん」
レミリアはふてくされたように言った。
「どっちかと言うと、母親を取られそうな子供っていう感じが……、いや、何でもない」
レミリアの睨みに気付いて、瀬多は発言を取り消した。
「ははは。瀬多君、たじたじじゃん」
千枝の笑い声。瀬多の罰の悪そうな空咳。
漆黒の騎士は、それを見て微笑んだ。
自分には無縁だった暖かい空気。今、自分もその中にいる。
ずっと張り詰めていた気持ちが和らいでいくのを感じた。
(ガウェインの息子……アイクも、きっとこのような環境で過ごしたのだろうな)
信頼関係で結ばれた仲間。その中で互いの剣を学び、互いに強くなっていく環境。そんな下地があったからこそ、アイクはあそこまで急激に強くなれたのだろう。
膝をつき、剣から手を離している漆黒の騎士に咲夜は聞いた。
見れば、その両腕は小刻みに震えており、見るからに真っ赤に腫れていた。
「……筋を、かなり痛めたようだ。しばらくは…剣を持つことも、適わないだろうな」
風見幽香に加えた一撃、その威力を見れば、それも納得といったところだ。
「……あなたのおかげよ。あなたのおかげで、被害は最小限に抑えられた。幽香も生きている。もっと自分を誇りなさいよ。誰にもできないことをあなたはやってのけたんだから」
漆黒の騎士は苦笑する。
人にこの身を案じてもらったのはいつ以来だろうか。褒められたのは、……もしかしたら初めてかもしれない。
「だが、案外いいものだな」
「え?」
「何でもない。咲夜殿は無事か?」
「ええ。……けど、その殿って止めてくれない? なんだか馬鹿にされてる気分」
「……一応、敬称なんだがな。まあ、咲夜殿……咲夜が止めろと言うのなら異論はない」
「その堅っ苦しい喋り方もできれば止めて欲しいところだけどね」
咲夜はそう言って薄く笑った。
「それよりも、今は君の主の心配をした方がいい」
「ああ。お嬢様なら──」
「お前に心配してもらう必要なんてない」
瀬多に介抱してもらいながら、レミリアはむすっとした表情で言った。
「言っとくがな。今回は花をもたせてやっただけだ。やろうと思えば、私だってあれくらい……、いたたた! おい瀬多! もっと優しくしろ!!」
「今回のMVPは誰がどう見てもゼルギウスだ。そういう言い方はあまり良いとはいえないな」
いらない布を千切って作った包帯を頭に巻いてやりながら、瀬多は言った。
「ふん。女の前で良い恰好したかっただけだろ。男という奴は外面を良く見せることだけは長けてるからな」
そう言ってレミリアはそっぽを向いてしまった。
「咲夜。レミリアは何をそんなに怒ってるんだ?」
「どうやら、私とゼルギウスの仲を疑ってらしてるようね。誤解も甚だしいけれど」
「……咲夜は私の娘みたいなものだ。私が納得するような男じゃないと絶対やらん」
レミリアはふてくされたように言った。
「どっちかと言うと、母親を取られそうな子供っていう感じが……、いや、何でもない」
レミリアの睨みに気付いて、瀬多は発言を取り消した。
「ははは。瀬多君、たじたじじゃん」
千枝の笑い声。瀬多の罰の悪そうな空咳。
漆黒の騎士は、それを見て微笑んだ。
自分には無縁だった暖かい空気。今、自分もその中にいる。
ずっと張り詰めていた気持ちが和らいでいくのを感じた。
(ガウェインの息子……アイクも、きっとこのような環境で過ごしたのだろうな)
信頼関係で結ばれた仲間。その中で互いの剣を学び、互いに強くなっていく環境。そんな下地があったからこそ、アイクはあそこまで急激に強くなれたのだろう。
ふいに茂みの中からカービィが顔を出した。
「なんだか楽しそうだね。ぼくも混ぜてよ」
「カービィ。その……キョウは……」
「……うん。ちゃんと埋めてきたよ。いただきますもした」
「い、いただきます!? 食べちゃったの!?」
「あ、間違えた。お悔やみもうしあげます……だっけ?」
「……びっくりさせるわー」
どうやらこのカービィという少年(?)は、かなりの天然らしい。
「……すまない。私がもっとはやく倒せていれば」
「終わったことをクヨクヨしてても仕方ないよ! それより笑顔笑顔! 笑ってる方がキョウだって喜んでくれるよ」
瀬多がカービィと会うのは初めてだ。
攻略本の記述でしかその活躍を知らないが、今こうして目の前にいるカービィを見て、確かにカービィにはなにかやってくれそうな、そんな気持ちにさせる風格があった。
頭が冴えるわけでも、決して頼りになりそうなタイプでもないのに、何故かヒーローとしての素質を持っているような気がした。
「じゃあぼく、アドレーヌを見てくるね」
そう言って、カービィはテテテと走って行った。
「なんだか楽しそうだね。ぼくも混ぜてよ」
「カービィ。その……キョウは……」
「……うん。ちゃんと埋めてきたよ。いただきますもした」
「い、いただきます!? 食べちゃったの!?」
「あ、間違えた。お悔やみもうしあげます……だっけ?」
「……びっくりさせるわー」
どうやらこのカービィという少年(?)は、かなりの天然らしい。
「……すまない。私がもっとはやく倒せていれば」
「終わったことをクヨクヨしてても仕方ないよ! それより笑顔笑顔! 笑ってる方がキョウだって喜んでくれるよ」
瀬多がカービィと会うのは初めてだ。
攻略本の記述でしかその活躍を知らないが、今こうして目の前にいるカービィを見て、確かにカービィにはなにかやってくれそうな、そんな気持ちにさせる風格があった。
頭が冴えるわけでも、決して頼りになりそうなタイプでもないのに、何故かヒーローとしての素質を持っているような気がした。
「じゃあぼく、アドレーヌを見てくるね」
そう言って、カービィはテテテと走って行った。
◇◇◇
「……アドレーヌ」
仰向けに倒れている幽香の手当てをしていたアドレーヌはその手を止めた。
「……私、何人殺した?」
その血塗られた手を見つめ、幽香は言った。
自分が何をしたのかはだいたい理解している。だが、正確な記憶がなかった。
「……そんなこと、考えないでください」
「……あいつらの仲間、何人殺った?」
幽香から少しだけ離れたところで腰を落ち着けている瀬多達を見て、幽香は言った。
「幽香さん、言いましたよね。シャドウなんて気にするな。私が守ってやるって。私にそう言ってくれましたよね。みんなを殺そうとした私を……幽香さんは許してくれた。
だから私も……。私も、幽香さんを許したい。みんなが幽香さんを悪者だって言っても、私だけは幽香さんの味方です。だから……、だからもう、自分を傷つけないで」
零れてくる涙を必死に拭きながら、アドレーヌは手当てを再開する。
「私が悔しいのは、自分で自分を律せなかったこと。私が悲しいのは、こうしてあなたを泣かせてしまっていること。……何が、最強の妖怪よ。私は、自分自身すら面倒を見切れない、ただの戦闘狂……」
「違う! 幽香さんはそんな人じゃない。幽香さんはずっと一緒にいてくれた。ずっと私を助けてくれた!」
幽香が共にいてくれて、どれだけ心強かったか。幽香の言葉が、どれだけアドレーヌを慰めたか。
アドレーヌは弱い。何も出来ない。
だけど、ずっと自分を守ってくれた人が苦しんでいるというのなら、助けてあげたい。その悲しみを、少しでも和らげてあげたい。
何も出来ない自分でも、幽香に何かをしてあげたい。
「ぼくもそう思うな」
ひょっこりと、カービィが顔を出した。
「幽香は優しい人だよ。落ち込むことなんてないって」
「……私は、あなたの友人を殺したのよ」
「うーん……。そうなんだけどさ。……でも、キョウだってきっと幽香を良い人だって言ってくれるよ。だって、ずっとアドレーヌを守ってくれたんでしょ? そんな人が悪い人なわけないよ」
「カーくん……」
カービィの裏表のない言葉に、幽香は思わず目を逸らした。
「……馬鹿よ。あなたは」
「はは。よく言われる」
アドレーヌは、ぎゅっと幽香の手を握った。
「幽香さん。私は、……私はずっと──」
「暗黒」
突然、アドレーヌの目の前に暗闇が襲った。
仰向けに倒れている幽香の手当てをしていたアドレーヌはその手を止めた。
「……私、何人殺した?」
その血塗られた手を見つめ、幽香は言った。
自分が何をしたのかはだいたい理解している。だが、正確な記憶がなかった。
「……そんなこと、考えないでください」
「……あいつらの仲間、何人殺った?」
幽香から少しだけ離れたところで腰を落ち着けている瀬多達を見て、幽香は言った。
「幽香さん、言いましたよね。シャドウなんて気にするな。私が守ってやるって。私にそう言ってくれましたよね。みんなを殺そうとした私を……幽香さんは許してくれた。
だから私も……。私も、幽香さんを許したい。みんなが幽香さんを悪者だって言っても、私だけは幽香さんの味方です。だから……、だからもう、自分を傷つけないで」
零れてくる涙を必死に拭きながら、アドレーヌは手当てを再開する。
「私が悔しいのは、自分で自分を律せなかったこと。私が悲しいのは、こうしてあなたを泣かせてしまっていること。……何が、最強の妖怪よ。私は、自分自身すら面倒を見切れない、ただの戦闘狂……」
「違う! 幽香さんはそんな人じゃない。幽香さんはずっと一緒にいてくれた。ずっと私を助けてくれた!」
幽香が共にいてくれて、どれだけ心強かったか。幽香の言葉が、どれだけアドレーヌを慰めたか。
アドレーヌは弱い。何も出来ない。
だけど、ずっと自分を守ってくれた人が苦しんでいるというのなら、助けてあげたい。その悲しみを、少しでも和らげてあげたい。
何も出来ない自分でも、幽香に何かをしてあげたい。
「ぼくもそう思うな」
ひょっこりと、カービィが顔を出した。
「幽香は優しい人だよ。落ち込むことなんてないって」
「……私は、あなたの友人を殺したのよ」
「うーん……。そうなんだけどさ。……でも、キョウだってきっと幽香を良い人だって言ってくれるよ。だって、ずっとアドレーヌを守ってくれたんでしょ? そんな人が悪い人なわけないよ」
「カーくん……」
カービィの裏表のない言葉に、幽香は思わず目を逸らした。
「……馬鹿よ。あなたは」
「はは。よく言われる」
アドレーヌは、ぎゅっと幽香の手を握った。
「幽香さん。私は、……私はずっと──」
「暗黒」
突然、アドレーヌの目の前に暗闇が襲った。
「……いみじくも、あの時と同じ状況というわけか」
二人を庇うよう咄嗟に前へ出たカービィが、その場で倒れた。
「カーくん!!」
「カービィ!!」
アドレーヌと幽香が声を荒げる。
全員が予期せぬ来客に驚愕している。
だが、誰もが満身創痍の状態。声を出すのが精一杯だ。
「アイクもそうやってお前を守った。そして殺された。僕達の手によって」
カービィを踏みつけ、セシルがその剣をカービィに向ける。
「……さて。こうすればお前はどうする? ゴルベーザ」
ガキイン
と金属がぶつかる音が聞こえ、森の中からカインがその姿を現した。
「でかしたぞセシル! 奴の攻撃が止まった!」
カインと斬り結んでいたのはゴルベーザが歯噛みしながら剣を構えている。
ゴルベーザは、休息を取っていたセシル達を見つけ、ここまで追い詰めて来たのだ。
それがまさかこんな形で逆転されるとは、ゴルベーザ自身も思っていなかった。
「貴様ッ!」
「動かないか。お前はもはや、我々とは相いれない存在というわけだな、ゴルベーザ」
「その者を離せ。その者は、お前を心の底から想っていた。お前の安否を心配し、お前が殺し合いに乗ったと分かっても、止めようとしていた」
セシルは心の中で微笑んだ。
やはり君は光の者だ。その言葉は、正義を翳す人間にしか言えない言葉だ。
セシルは見つけた。言う事を聞かず、決して闇の道から出ようとしないゴルベーザに、光の道へと進ませる方法を。
セシルは叫んだ。この場にいる全員に聞こえるように。
「下らない正義感を振りかざすのは止めておけゴルベーザ! 貴様もここで倒れている者と同じだ。矮小で、一人では何も出来ない。そうやって地べたを這いずることでしか自分の価値を見いだせない」
そこにいるカイン以外の全員が悔しさに身を震わせる。
今、ゴルベーザと彼らの心は一致した。悪を憎む心。悪を打ち倒す正義の心。
「よし、セシル。こいつを人質に取ってこのまま逃げよう。絶好の機会を逃すことになるがここは仕方ない」
カインが、セシルにしか聞こえないように小声で言う。しかし、セシルは無言だ。
二人を庇うよう咄嗟に前へ出たカービィが、その場で倒れた。
「カーくん!!」
「カービィ!!」
アドレーヌと幽香が声を荒げる。
全員が予期せぬ来客に驚愕している。
だが、誰もが満身創痍の状態。声を出すのが精一杯だ。
「アイクもそうやってお前を守った。そして殺された。僕達の手によって」
カービィを踏みつけ、セシルがその剣をカービィに向ける。
「……さて。こうすればお前はどうする? ゴルベーザ」
ガキイン
と金属がぶつかる音が聞こえ、森の中からカインがその姿を現した。
「でかしたぞセシル! 奴の攻撃が止まった!」
カインと斬り結んでいたのはゴルベーザが歯噛みしながら剣を構えている。
ゴルベーザは、休息を取っていたセシル達を見つけ、ここまで追い詰めて来たのだ。
それがまさかこんな形で逆転されるとは、ゴルベーザ自身も思っていなかった。
「貴様ッ!」
「動かないか。お前はもはや、我々とは相いれない存在というわけだな、ゴルベーザ」
「その者を離せ。その者は、お前を心の底から想っていた。お前の安否を心配し、お前が殺し合いに乗ったと分かっても、止めようとしていた」
セシルは心の中で微笑んだ。
やはり君は光の者だ。その言葉は、正義を翳す人間にしか言えない言葉だ。
セシルは見つけた。言う事を聞かず、決して闇の道から出ようとしないゴルベーザに、光の道へと進ませる方法を。
セシルは叫んだ。この場にいる全員に聞こえるように。
「下らない正義感を振りかざすのは止めておけゴルベーザ! 貴様もここで倒れている者と同じだ。矮小で、一人では何も出来ない。そうやって地べたを這いずることでしか自分の価値を見いだせない」
そこにいるカイン以外の全員が悔しさに身を震わせる。
今、ゴルベーザと彼らの心は一致した。悪を憎む心。悪を打ち倒す正義の心。
「よし、セシル。こいつを人質に取ってこのまま逃げよう。絶好の機会を逃すことになるがここは仕方ない」
カインが、セシルにしか聞こえないように小声で言う。しかし、セシルは無言だ。
「止めろ、セシル!! ……人質が欲しいなら、俺がなってやる」
「せ、瀬多君!?」
「瀬多! 何を勝手なことをぬかしている!」
「カービィはこのまま死なせちゃいけない!」
瀬多を見つめるセシルの目は、ひどく冷たいものだった。
「セシル。俺を殺したいんだろう。お前、そう言ってたよな。お望み通り殺されてやる。だからカービィを離せ」
「ふざけるな!」
ようやく上半身だけ起こし、幽香が叫ぶ。
「誰かが死ぬというなら、私が死ぬべきよ。それくらいの覚悟はできてる。
……あんた達。まさか私の顔を忘れたわけじゃないでしょうね。アシュナードと殴り合いをしてる時見かけたわよ。体力さえ回復したら、あんた達なんて一瞬で塵にしてやれる。
けど、その子を離すっていうなら、私の命、あんた達にくれてやる」
「い、いやだ! いやだよ!! 瀬多さんも幽香さんも死んじゃいやだ!!」
「このままじゃカービィが死ぬのよ! あの子を守れて死ぬのなら私だって本望。私には、お似合いの最後……」
「幽香! お前はアドレーヌと約束しただろ! アドレーヌにはお前が必要なんだ! 俺の方が一番──」
「滅多なことを言うな!!」
突然、ゴルベーザが瀬多を一喝した。
「勇気と蛮勇を吐きちがえるな。……私にだって分かっている。この者の強い正義の心。何かを成し遂げるだけの気概。お前達が感じたものと同じものを、私もこの者に感じた。
……だが、それはここにいる全員に言えることだ。誰も欠けてはならない。だから、そのようなことを言うな」
セシルは思わず目を瞑り、感涙にむせぶのを堪えた。
ああ。それこそが君の進むべき道だ。それこそが、本当の君だ。
君が何と言おうと、これでようやく君は光の道へ足をかけることができたのだ。
……だが、まだ足りない。
「茶番だな」
全員の怒りの視線が突き刺さる。痛くも痒くもない。
僕は無だ。もう何も持っていない。だから、何も痛くない。
一つだけ残った欠片も、今自分の手で捨てる。
たった一人の肉親を、今、切り離す。
これで儀式は終了だ。
これで君は、晴れて光の者になる。
弟が殺し合いに乗り、それを止めようと扮装し、悪を憎む。これでこそ正義を成す者だ。
だから切り離そう。君の中の弟という存在を。
悪を憎み、悪を滅する正義の人間に、悪に対する憐憫も情もいらないのだ。
セシルは剣を掲げた。
「せ、瀬多君!?」
「瀬多! 何を勝手なことをぬかしている!」
「カービィはこのまま死なせちゃいけない!」
瀬多を見つめるセシルの目は、ひどく冷たいものだった。
「セシル。俺を殺したいんだろう。お前、そう言ってたよな。お望み通り殺されてやる。だからカービィを離せ」
「ふざけるな!」
ようやく上半身だけ起こし、幽香が叫ぶ。
「誰かが死ぬというなら、私が死ぬべきよ。それくらいの覚悟はできてる。
……あんた達。まさか私の顔を忘れたわけじゃないでしょうね。アシュナードと殴り合いをしてる時見かけたわよ。体力さえ回復したら、あんた達なんて一瞬で塵にしてやれる。
けど、その子を離すっていうなら、私の命、あんた達にくれてやる」
「い、いやだ! いやだよ!! 瀬多さんも幽香さんも死んじゃいやだ!!」
「このままじゃカービィが死ぬのよ! あの子を守れて死ぬのなら私だって本望。私には、お似合いの最後……」
「幽香! お前はアドレーヌと約束しただろ! アドレーヌにはお前が必要なんだ! 俺の方が一番──」
「滅多なことを言うな!!」
突然、ゴルベーザが瀬多を一喝した。
「勇気と蛮勇を吐きちがえるな。……私にだって分かっている。この者の強い正義の心。何かを成し遂げるだけの気概。お前達が感じたものと同じものを、私もこの者に感じた。
……だが、それはここにいる全員に言えることだ。誰も欠けてはならない。だから、そのようなことを言うな」
セシルは思わず目を瞑り、感涙にむせぶのを堪えた。
ああ。それこそが君の進むべき道だ。それこそが、本当の君だ。
君が何と言おうと、これでようやく君は光の道へ足をかけることができたのだ。
……だが、まだ足りない。
「茶番だな」
全員の怒りの視線が突き刺さる。痛くも痒くもない。
僕は無だ。もう何も持っていない。だから、何も痛くない。
一つだけ残った欠片も、今自分の手で捨てる。
たった一人の肉親を、今、切り離す。
これで儀式は終了だ。
これで君は、晴れて光の者になる。
弟が殺し合いに乗り、それを止めようと扮装し、悪を憎む。これでこそ正義を成す者だ。
だから切り離そう。君の中の弟という存在を。
悪を憎み、悪を滅する正義の人間に、悪に対する憐憫も情もいらないのだ。
セシルは剣を掲げた。
君のためなら、僕は喜んで悪役になろう。
「……おい、セシル。お前、何を──」
一切躊躇せずにセシルはそれを振り下ろした。
一切躊躇せずにセシルはそれを振り下ろした。
「セシルウウウウウウゥゥゥ!!!!!」
怒りの声と共に振り下ろされた剣を受け止める。
強い。鋭い。
これが正義の力だ。
剣を組んだ状態で、それでもその力に押され、背中に木がぶつかる。
「貴様だけは許さん!! 貴様のような悪は、私が滅ぼしてやる!!」
「ふん。ならばやってみるがいい。お前如きに負ける我々ではないがな」
ゴルベーザを蹴り飛ばし、剣を水平に構える。狙うは衰弱しきった正義の集団。
「暗……」
「させん!!」
咄嗟に飛び出すゴルベーザ。
「そんなに奴らが大事か?」
その隙だらけな身体に、横なぎの斬撃。
「ぐおっ!!」
鎧が砕け、思わず膝を折る。
暗黒を放つと思わせたフェイクの攻撃。ゴルベーザが、身を挺して彼らを守ったという既成事実を作るための奇襲。
当然、致命傷とは至らない。
「ジオ!!」
「十万ボルト!!」
二つの雷を飛んで避ける。
「少しでも身体が動く奴! ゴルベーザを守れ!!」
その言葉は、セシルが待ちに待った言葉だった。
ゴルベーザは光の者に認められた。
満足だ。今回は、もうこれで満足だ。
(お膳立てはもういらないな。……僕の手で殺されるその僅かな時間を、君は正義の者として生きてくれ)
悲痛な願い。しかし、叶えられたその願い。
何もない自分が唯一できた兄への孝行。
これだけ抱いて、僕はカインを優勝させよう。
「来るな! 私なら心配ない!!」
再びゴルベーザがセシルと斬り結ぶ。その力はやはり強大だ。一人では逃げるだけでもままならない。
「カイン!! ここは退くぞ。手伝ってくれ!!」
返事がなかった。
「カイン、どうした! ゴルベーザを引き離してくれ!!」
カインは、ただじっとセシルを見つめていた。
しかし、まったく動く気配がない。
「どうしたカイン! 僕の言っていることが分からないのか!?」
セシルの待望を知りながら、それでもカインは後ろを向いた。
「……カイ……ン?」
「すまない」
「な、何を謝っている。早くゴルベーザを──」
「もう、お前にはついて行けない」
セシルの中の何かが決壊した。
「どう……いう、ことだ?」
「それはこちらのセリフだ。人質を取って、こちらが優勢だったはずなのに、それをあっさり切り捨てて。お前は、ゴルベーザに固執し過ぎだ。もうついて行けない。今回の件で、それがようやくわかった」
「ま、待て。待ってくれ! 僕は君を──」
「俺は優勝する。ゴルベーザも殺すし、お前も殺す。……これ以上は一緒にいられない。お前にとって、ゴルベーザが一番大切だというのなら、俺はもうお前とはいられない」
これからも度々ゴルベーザと戦うことになるだろう。
だが、背中を預ける人間がゴルベーザに情を持っていれば、いつこちらを裏切るか分からない。裏切らないとしても、その甘さから致命的なミスをすれば、それはこちらの生死に関わる。
カインは、黙って歩いて行った。大勢の得物も放っておく。
今は……セシルの声を聞きたくない。
「ご、誤解だ!! 行かないでくれ!! 僕には君しかいないんだ!! 何もない僕には──」
「隙だらけだぞ!!」
横腹にゴルベーザの蹴りが直撃する。思わず剣を離し、ごろごろと転がる。
「カイン……。カイン!! 僕の話を聞いてくれ!! カイン!! カイン!!!!」
カインはもう、こちらを見ることすらなかった。森の中へと入っていき、やがてその姿は消えた。
怒りの声と共に振り下ろされた剣を受け止める。
強い。鋭い。
これが正義の力だ。
剣を組んだ状態で、それでもその力に押され、背中に木がぶつかる。
「貴様だけは許さん!! 貴様のような悪は、私が滅ぼしてやる!!」
「ふん。ならばやってみるがいい。お前如きに負ける我々ではないがな」
ゴルベーザを蹴り飛ばし、剣を水平に構える。狙うは衰弱しきった正義の集団。
「暗……」
「させん!!」
咄嗟に飛び出すゴルベーザ。
「そんなに奴らが大事か?」
その隙だらけな身体に、横なぎの斬撃。
「ぐおっ!!」
鎧が砕け、思わず膝を折る。
暗黒を放つと思わせたフェイクの攻撃。ゴルベーザが、身を挺して彼らを守ったという既成事実を作るための奇襲。
当然、致命傷とは至らない。
「ジオ!!」
「十万ボルト!!」
二つの雷を飛んで避ける。
「少しでも身体が動く奴! ゴルベーザを守れ!!」
その言葉は、セシルが待ちに待った言葉だった。
ゴルベーザは光の者に認められた。
満足だ。今回は、もうこれで満足だ。
(お膳立てはもういらないな。……僕の手で殺されるその僅かな時間を、君は正義の者として生きてくれ)
悲痛な願い。しかし、叶えられたその願い。
何もない自分が唯一できた兄への孝行。
これだけ抱いて、僕はカインを優勝させよう。
「来るな! 私なら心配ない!!」
再びゴルベーザがセシルと斬り結ぶ。その力はやはり強大だ。一人では逃げるだけでもままならない。
「カイン!! ここは退くぞ。手伝ってくれ!!」
返事がなかった。
「カイン、どうした! ゴルベーザを引き離してくれ!!」
カインは、ただじっとセシルを見つめていた。
しかし、まったく動く気配がない。
「どうしたカイン! 僕の言っていることが分からないのか!?」
セシルの待望を知りながら、それでもカインは後ろを向いた。
「……カイ……ン?」
「すまない」
「な、何を謝っている。早くゴルベーザを──」
「もう、お前にはついて行けない」
セシルの中の何かが決壊した。
「どう……いう、ことだ?」
「それはこちらのセリフだ。人質を取って、こちらが優勢だったはずなのに、それをあっさり切り捨てて。お前は、ゴルベーザに固執し過ぎだ。もうついて行けない。今回の件で、それがようやくわかった」
「ま、待て。待ってくれ! 僕は君を──」
「俺は優勝する。ゴルベーザも殺すし、お前も殺す。……これ以上は一緒にいられない。お前にとって、ゴルベーザが一番大切だというのなら、俺はもうお前とはいられない」
これからも度々ゴルベーザと戦うことになるだろう。
だが、背中を預ける人間がゴルベーザに情を持っていれば、いつこちらを裏切るか分からない。裏切らないとしても、その甘さから致命的なミスをすれば、それはこちらの生死に関わる。
カインは、黙って歩いて行った。大勢の得物も放っておく。
今は……セシルの声を聞きたくない。
「ご、誤解だ!! 行かないでくれ!! 僕には君しかいないんだ!! 何もない僕には──」
「隙だらけだぞ!!」
横腹にゴルベーザの蹴りが直撃する。思わず剣を離し、ごろごろと転がる。
「カイン……。カイン!! 僕の話を聞いてくれ!! カイン!! カイン!!!!」
カインはもう、こちらを見ることすらなかった。森の中へと入っていき、やがてその姿は消えた。
それは、セシルにとっての死を意味していた。
「みじめだな、セシル」
ゴルベーザの言葉は、もはやセシルには聞こえていなかった。
「お前は生かしてはおけない。ならば、せめて兄の手で葬ってやる」
剣を振り上げ、ぴたりと止める。
セシルは完全に無防備状態だった。
カインが消えた方をただ見つめるだけだ。
「遺言を聞こう」
セシルは何も言わなかった。その瞳には、何も映っていなかった。
そこで初めて、ゴルベーザは気付いた。
まるで魂が抜けてしまったかのように呆けているセシル。
その姿は、まるで死人も同然だった。
「……止めた」
ゴルベーザはばさりとマントを翻し、背を向けた。
「その様子では、誰かを殺すこともないだろう。もう、お前を殺す意味はない」
こんなセシルは見たくなかったと思うやるせなさと、弟を殺さないで済んだという安堵。
それらがゴルベーザの中を渦巻いていた。
「助かった。ゴルベーザ」
「…………」
ゴルベーザは何も言わなかった。
「……何を考えているかはだいたいわかる。だが、それでも一緒に──」
「断る」
にべもなく瀬多の提案を遮断する。
ゴルベーザは、集団の中に漆黒の騎士がいることを確認すると、誰にもわからないように薄く笑った。
よかったじゃないか。お前は、悪の道から逸れることが出来たんだ。
「ゴルベーザ、と言ったな」
漆黒の騎士が言う。
「先程の戦いで少しばかり相まみえた。私はその時、貴殿を自分と同じだと感じた。私を見てくれ。私はこうしてここにいる。貴殿にも、それが出来るはずだ」
咲夜に一喝され、こうして誰かの為に剣を振るうことが出来るようになった。
そんな漆黒の騎士だからこそ、咲夜が自分の道を開いてくれたように、今度は自分がゴルベーザの道を開いてやらねばならない。
そんな義務感のようなものが漆黒の騎士にはあった。
「私は反対だな」
だが、レミリアは冷酷にもそう言った。
「瀬多。さっきお前は助かったと言った。だが、あいつらはこいつが連れて来たようなものじゃないか。礼を言う筋合いなんてない。
それに、さっきまでこいつは咲夜達と共にいたんだろう? だというのに、一番大変な時に姿を消し、全てが終わってからこうしてひょこひょこ戻って来た」
「レミリア。それは──」
「私が言いたいのはな。こいつは救える命を幾つも捨ててきたってことだ。おいゴルベーザ。お前、ここに来て何人の救うべき人間に出会った? 何人の参加者を保護せずに放置した? 言ってみろ」
ゴルベーザは周りを見回す。ここにはカービィの死体しかないが、一緒にいたはずのキョウとオタコンの姿がない。
この少女の静かな怒りを見れば、どうなったかは明白だ。
「……ここにいる人間を除けば、六人の正義の道に進む者と出会った」
アイク、雪子、アリス、キョウ、オタコン、そしてカービィ。全員ゴルベーザに認められた者で、全員が死んだ。
「その中で、使える人間は何人いた? お前と同じくらいの力を持った者。傷を癒せる者。何人いた?」
「二人だ。それぞれ一人ずつ。アイクという者と、そして雪子」
レミリアは舌打ちした。
千枝は、親友の名前を聞いて目を見開いた。
「……待ってよ。……ちょっと待って。……なに? あんた……雪子を救えたの?」
「最初に出会ったのがアイクと雪子だった。その時から共にいれば、あるいは──」
「ふざけんな!! なんだそれ……。ふざけてんじゃないわよ!!!」
満足に歩けないというのに、千枝がゴルベーザに食ってかかろうとする。
「止めろ千枝! そんな身体で無理をするな!」
「それだけの力があってどうして! ……どうし……て……」
後半は、涙声で聞きとれなかった。
「正直、私もお嬢様の意見に賛成だわ。さっきのを見たところ、カービィが殺された大きな原因はあなたにあったみたい──」
「咲夜!! それはただの結果論だ!!!」
突然の瀬多の叫びに、思わず咲夜が怪訝な顔をした。
無理もない。咲夜達にはアドレーヌのシャドウについて話していないのだ。
瀬多はアドレーヌの元へ行くと、軽く背中を擦ってやった。
「大丈夫だ。心を落ち着けて。何か楽しいことを考えるんだ。ほら、幽香の手を握って」
身体を震わせながらこくこくと頷くアドレーヌ。瀬多が彼女を慰めることで、ゴルベーザを擁護する人間は漆黒の騎士ただ一人となった。
「お前の価値感で生きるべき人間を決められ、そうでない者は屠られる。生きるべきだと判断されても、勝手な正義を押し付けられてその場で放置。たとえそいつがどれだけ弱者であってもな。はっ。なんだそれは」
「待ってくれ、レミリア・スカーレット! 私とゴルベーザは同じ──」
「いいんだ」
ゴルベーザが漆黒の騎士をそう言って制止した。
「お前がどれほど言葉を紡いでくれようと、元々私にそのような気持ちはない。それに、確かにその娘の言った通りだ。私が正義と判断した者は、いずれも死んでいった」
「とんだ疫病神だな」
「それこそ瀬多の言った通り結果論だ! それに、ならば私はどうなんだ! 誰かを守るどころか、殺し合いに乗っていた私は!!」
「お前はいい」
「何故だ! ゴルベーザと私に、どれほどの違いがあると言うんだ!」
レミリアはため息をつき、口を開いた。
「こいつの精神は濁ってるんだよ」
それは、漆黒の騎士からすれば、まったく想像していなかった言葉だった。
「悪の道にその身を置いて尚、正義を行う。それが正義と分かっていて、それでも悪の道から足を踏み出すことはない。
ふざけた信念じゃないか。悪だろうが正義だろうが、私にはどうでもいいことだが、こいつの自分を律する信念は拭いようのない矛盾からきている。
半端者なんだよ。それでいて、こいつには迷いがない。それが自分の進む道だと信じてる。惰弱な精神などよりもよっぽど見るに堪えない。吐き気がする。こういう輩は生理的に受けつけん」
精神という概念は、人間にとってよく理解できないものだ。
悪魔や妖怪といった、自分の命よりもその精神力を重要視する彼女達だからこそ分かる概念。
精神の強さが肉体の強さと比例する彼女達にとって、信念というものは何よりも重要な意味を持つ。
そうなれば当然、他の生物に対する見方も、その信念というもので推しはかろうとする。
ゴルベーザの言葉は、もはやセシルには聞こえていなかった。
「お前は生かしてはおけない。ならば、せめて兄の手で葬ってやる」
剣を振り上げ、ぴたりと止める。
セシルは完全に無防備状態だった。
カインが消えた方をただ見つめるだけだ。
「遺言を聞こう」
セシルは何も言わなかった。その瞳には、何も映っていなかった。
そこで初めて、ゴルベーザは気付いた。
まるで魂が抜けてしまったかのように呆けているセシル。
その姿は、まるで死人も同然だった。
「……止めた」
ゴルベーザはばさりとマントを翻し、背を向けた。
「その様子では、誰かを殺すこともないだろう。もう、お前を殺す意味はない」
こんなセシルは見たくなかったと思うやるせなさと、弟を殺さないで済んだという安堵。
それらがゴルベーザの中を渦巻いていた。
「助かった。ゴルベーザ」
「…………」
ゴルベーザは何も言わなかった。
「……何を考えているかはだいたいわかる。だが、それでも一緒に──」
「断る」
にべもなく瀬多の提案を遮断する。
ゴルベーザは、集団の中に漆黒の騎士がいることを確認すると、誰にもわからないように薄く笑った。
よかったじゃないか。お前は、悪の道から逸れることが出来たんだ。
「ゴルベーザ、と言ったな」
漆黒の騎士が言う。
「先程の戦いで少しばかり相まみえた。私はその時、貴殿を自分と同じだと感じた。私を見てくれ。私はこうしてここにいる。貴殿にも、それが出来るはずだ」
咲夜に一喝され、こうして誰かの為に剣を振るうことが出来るようになった。
そんな漆黒の騎士だからこそ、咲夜が自分の道を開いてくれたように、今度は自分がゴルベーザの道を開いてやらねばならない。
そんな義務感のようなものが漆黒の騎士にはあった。
「私は反対だな」
だが、レミリアは冷酷にもそう言った。
「瀬多。さっきお前は助かったと言った。だが、あいつらはこいつが連れて来たようなものじゃないか。礼を言う筋合いなんてない。
それに、さっきまでこいつは咲夜達と共にいたんだろう? だというのに、一番大変な時に姿を消し、全てが終わってからこうしてひょこひょこ戻って来た」
「レミリア。それは──」
「私が言いたいのはな。こいつは救える命を幾つも捨ててきたってことだ。おいゴルベーザ。お前、ここに来て何人の救うべき人間に出会った? 何人の参加者を保護せずに放置した? 言ってみろ」
ゴルベーザは周りを見回す。ここにはカービィの死体しかないが、一緒にいたはずのキョウとオタコンの姿がない。
この少女の静かな怒りを見れば、どうなったかは明白だ。
「……ここにいる人間を除けば、六人の正義の道に進む者と出会った」
アイク、雪子、アリス、キョウ、オタコン、そしてカービィ。全員ゴルベーザに認められた者で、全員が死んだ。
「その中で、使える人間は何人いた? お前と同じくらいの力を持った者。傷を癒せる者。何人いた?」
「二人だ。それぞれ一人ずつ。アイクという者と、そして雪子」
レミリアは舌打ちした。
千枝は、親友の名前を聞いて目を見開いた。
「……待ってよ。……ちょっと待って。……なに? あんた……雪子を救えたの?」
「最初に出会ったのがアイクと雪子だった。その時から共にいれば、あるいは──」
「ふざけんな!! なんだそれ……。ふざけてんじゃないわよ!!!」
満足に歩けないというのに、千枝がゴルベーザに食ってかかろうとする。
「止めろ千枝! そんな身体で無理をするな!」
「それだけの力があってどうして! ……どうし……て……」
後半は、涙声で聞きとれなかった。
「正直、私もお嬢様の意見に賛成だわ。さっきのを見たところ、カービィが殺された大きな原因はあなたにあったみたい──」
「咲夜!! それはただの結果論だ!!!」
突然の瀬多の叫びに、思わず咲夜が怪訝な顔をした。
無理もない。咲夜達にはアドレーヌのシャドウについて話していないのだ。
瀬多はアドレーヌの元へ行くと、軽く背中を擦ってやった。
「大丈夫だ。心を落ち着けて。何か楽しいことを考えるんだ。ほら、幽香の手を握って」
身体を震わせながらこくこくと頷くアドレーヌ。瀬多が彼女を慰めることで、ゴルベーザを擁護する人間は漆黒の騎士ただ一人となった。
「お前の価値感で生きるべき人間を決められ、そうでない者は屠られる。生きるべきだと判断されても、勝手な正義を押し付けられてその場で放置。たとえそいつがどれだけ弱者であってもな。はっ。なんだそれは」
「待ってくれ、レミリア・スカーレット! 私とゴルベーザは同じ──」
「いいんだ」
ゴルベーザが漆黒の騎士をそう言って制止した。
「お前がどれほど言葉を紡いでくれようと、元々私にそのような気持ちはない。それに、確かにその娘の言った通りだ。私が正義と判断した者は、いずれも死んでいった」
「とんだ疫病神だな」
「それこそ瀬多の言った通り結果論だ! それに、ならば私はどうなんだ! 誰かを守るどころか、殺し合いに乗っていた私は!!」
「お前はいい」
「何故だ! ゴルベーザと私に、どれほどの違いがあると言うんだ!」
レミリアはため息をつき、口を開いた。
「こいつの精神は濁ってるんだよ」
それは、漆黒の騎士からすれば、まったく想像していなかった言葉だった。
「悪の道にその身を置いて尚、正義を行う。それが正義と分かっていて、それでも悪の道から足を踏み出すことはない。
ふざけた信念じゃないか。悪だろうが正義だろうが、私にはどうでもいいことだが、こいつの自分を律する信念は拭いようのない矛盾からきている。
半端者なんだよ。それでいて、こいつには迷いがない。それが自分の進む道だと信じてる。惰弱な精神などよりもよっぽど見るに堪えない。吐き気がする。こういう輩は生理的に受けつけん」
精神という概念は、人間にとってよく理解できないものだ。
悪魔や妖怪といった、自分の命よりもその精神力を重要視する彼女達だからこそ分かる概念。
精神の強さが肉体の強さと比例する彼女達にとって、信念というものは何よりも重要な意味を持つ。
そうなれば当然、他の生物に対する見方も、その信念というもので推しはかろうとする。
レミリアにとって、ゴルベーザの信念はもはや信念と呼べるものではなかった。
何か行動をする時、誰もが自分だけの価値感で動く。それはレミリアもそうだし、ここにいる全員がそうだ。だがその中でも、やはりゴルベーザは異質だった。
正しいと信じる、自分の価値感に沿った行為を罪の意識から敢えて曲げ、自らを悪としようとしている。その歪んだ信念を、レミリアは嫌ったのだ。
悪だと分かっていながら、自分の想う正義を行うカインとゴルベーザはまったく同じ。ただ少しベクトルが違うだけだ。
以前、レミリアはカインをキチ○イだと称した。その意味は、別に愛などという下らない幻想のために生きているからじゃない。自分の為に誰かを殺しているからでもない。
善悪という、信念の根幹を差すものが決定的なまでにずれていたからだ。
ローザを救うことに、自分の欲を満たす以上の付加価値を求めていたからだ。
殺し合いに乗ることが、彼女を救うことになると信じている。
悪を行い、それを自覚しながら、心のどこかで正義を確信している。
その矛盾を、レミリアはキチ○イという言葉で指摘したのだ。
何か行動をする時、誰もが自分だけの価値感で動く。それはレミリアもそうだし、ここにいる全員がそうだ。だがその中でも、やはりゴルベーザは異質だった。
正しいと信じる、自分の価値感に沿った行為を罪の意識から敢えて曲げ、自らを悪としようとしている。その歪んだ信念を、レミリアは嫌ったのだ。
悪だと分かっていながら、自分の想う正義を行うカインとゴルベーザはまったく同じ。ただ少しベクトルが違うだけだ。
以前、レミリアはカインをキチ○イだと称した。その意味は、別に愛などという下らない幻想のために生きているからじゃない。自分の為に誰かを殺しているからでもない。
善悪という、信念の根幹を差すものが決定的なまでにずれていたからだ。
ローザを救うことに、自分の欲を満たす以上の付加価値を求めていたからだ。
殺し合いに乗ることが、彼女を救うことになると信じている。
悪を行い、それを自覚しながら、心のどこかで正義を確信している。
その矛盾を、レミリアはキチ○イという言葉で指摘したのだ。
レミリアも幽香も、他者への表面的な態度と内心の評価は必ずしも一致しない。レミリアはよく幽香と口喧嘩をするが、互いにその実力と精神に敬意を持っている。
漆黒の騎士に対しても同様だ。多少くよくよしていたところはあっても、自分を理解し弁えているその態度と、芯にある強さと誇りを認めている。
ただその評価を言語化しないだけで、レミリアと共にいるのは、基本的にレミリアに認められた者達だ。
レミリアが一人の生命体として敬意を払うに足る存在だと感じた者達だ。
だからこそ、ゴルベーザの同行は認められない。強い弱いなど関係なく、レミリアはゴルベーザ自身を認めることができないのだ。
漆黒の騎士に対しても同様だ。多少くよくよしていたところはあっても、自分を理解し弁えているその態度と、芯にある強さと誇りを認めている。
ただその評価を言語化しないだけで、レミリアと共にいるのは、基本的にレミリアに認められた者達だ。
レミリアが一人の生命体として敬意を払うに足る存在だと感じた者達だ。
だからこそ、ゴルベーザの同行は認められない。強い弱いなど関係なく、レミリアはゴルベーザ自身を認めることができないのだ。
レミリアにとって殺し合いに乗っていたかどうかは重要じゃない。誰かを殺していようが、自分の部下でないのならまったく意に介さない。
ただその信念が敬意を表するに足るものであるのかどうかが問題なのだ。
口にはしないが、妖怪である幽香もレミリアと同じ気持ちだった。
ただその信念が敬意を表するに足るものであるのかどうかが問題なのだ。
口にはしないが、妖怪である幽香もレミリアと同じ気持ちだった。
「騎士よ。お前の想い、ありがたく受け取っておく。できるなら、お前には生き残って欲しいものだ」
漆黒の騎士に向かってそう言うと、ゴルベーザは背を向けた。
漆黒の騎士は再び説得を試みようと口を開くが、……けっきょく何も言葉は出てこなかった。
「瀬多といったな。セシルのことは任せる。あの様子ではもう何も心配はないとは思うが、……殺すべきだと考えるなら、それでもいい」
「……ゴルベーザ。それは無責任だ。お前にはセシルを改心させる義務がある」
卑怯な言い方だと、瀬多自身思った。無理やり家族を繋ぎ合わせ、できるなら二人とも正義の道を歩んで欲しいだなんて。
彼らと無関係の立場だからこそ思える、無責任な考えだ。
「止めてくれ。私にそんなことが出来る訳がない。私は悪の道を進む者だ。悪しか知らぬ者が、正義を教えることなど出来る訳がない」
瀬多は黙った。誰も声をあげる者はいなかった。
「私はカインを追う。奴は殺さなくてはならない。こいつは餞別だ。くれてやる」
懐から取り出したモンスターボールを放り、ゴルベーザはその場を去って行った。
漆黒の騎士に向かってそう言うと、ゴルベーザは背を向けた。
漆黒の騎士は再び説得を試みようと口を開くが、……けっきょく何も言葉は出てこなかった。
「瀬多といったな。セシルのことは任せる。あの様子ではもう何も心配はないとは思うが、……殺すべきだと考えるなら、それでもいい」
「……ゴルベーザ。それは無責任だ。お前にはセシルを改心させる義務がある」
卑怯な言い方だと、瀬多自身思った。無理やり家族を繋ぎ合わせ、できるなら二人とも正義の道を歩んで欲しいだなんて。
彼らと無関係の立場だからこそ思える、無責任な考えだ。
「止めてくれ。私にそんなことが出来る訳がない。私は悪の道を進む者だ。悪しか知らぬ者が、正義を教えることなど出来る訳がない」
瀬多は黙った。誰も声をあげる者はいなかった。
「私はカインを追う。奴は殺さなくてはならない。こいつは餞別だ。くれてやる」
懐から取り出したモンスターボールを放り、ゴルベーザはその場を去って行った。
「……ああするしか、なかったのか。なにか、もっと良い方法が……」
「……元々、あいつは群れるような人間じゃないわ。自分を諦めた者に、誰かが何かをしてやれるなんて、そんな馬鹿な話があるわけない」
それは漆黒の騎士とゴルベーザの決定的な違いだった。
漆黒の騎士は悲嘆しながらも、懸命に自分と向き合おうとしていた。ゴルベーザは、それすらもう諦めている。そんな者を一体誰が救えるというのか。
モンスターボールの中身は、ベトベトンという毒ポケモンだった。キョウのポケモン。
それをピカチュウの身ぶりで理解した時、誰もが何も言えなかった。
ベトベトンの流す涙を止められる者はいなかった。
「……元々、あいつは群れるような人間じゃないわ。自分を諦めた者に、誰かが何かをしてやれるなんて、そんな馬鹿な話があるわけない」
それは漆黒の騎士とゴルベーザの決定的な違いだった。
漆黒の騎士は悲嘆しながらも、懸命に自分と向き合おうとしていた。ゴルベーザは、それすらもう諦めている。そんな者を一体誰が救えるというのか。
モンスターボールの中身は、ベトベトンという毒ポケモンだった。キョウのポケモン。
それをピカチュウの身ぶりで理解した時、誰もが何も言えなかった。
ベトベトンの流す涙を止められる者はいなかった。
こうして戦いは終わった。
それぞれに、それぞれの想いを乗せて。
魔理沙が死に、オタコンが死に、キョウが死に、カービィが死んだ。もっとうまくできなかったのか。もう少しうまく動いていたら、一人くらい救えたんじゃないか。
そんな、瀬多の後悔を乗せて……
(……待て。俺は、何かを忘れて──)
一瞬で瀬多の脳裏を過る。魔理沙の支給品に、もう一つ無視できないアイテムがあったことを。
それぞれに、それぞれの想いを乗せて。
魔理沙が死に、オタコンが死に、キョウが死に、カービィが死んだ。もっとうまくできなかったのか。もう少しうまく動いていたら、一人くらい救えたんじゃないか。
そんな、瀬多の後悔を乗せて……
(……待て。俺は、何かを忘れて──)
一瞬で瀬多の脳裏を過る。魔理沙の支給品に、もう一つ無視できないアイテムがあったことを。
「お前今こう思ったよなぁ。一度奇襲されたんだから二度目はないってさぁ」
背筋が凍りついた。