いるはずのない真犯人(1)◆dGUiIvN2Nw
放送が終わり、しばらく経っても瀬多は呆然としていた。
「……誰も、死んでない」
自分の仲間は誰一人死んでいなかった。
正直に言って、瀬多は覚悟していた。少なくとも一人。酷ければ三人共既に死んでいてもおかしくないと考えていた。
しかしそれも当然。何故なら今自分が生きていることが、瀬多には不思議なくらいなのだから。
あの四人の急襲。さすがにあれは運が悪かったとしか言いようがないが、それでもこの殺し合いの中で命というものがどれほど軽いものかを実感させられた。
だからこそ、瀬多は自分の仲間が誰も死んでいないことに喜びを覚える前に、冗談なのではないかと疑ってしまったのだ。
「瀬多さん。よかったですね。みんな生きてますよ」
自分のことのように喜んでくれるアドレーヌ。それを見て、ようやく瀬多は純粋な喜びが湧き出てくるのを感じることができた。
瀬多は思わずその場にへたり込んだ。
「よかった。……本当に、よかった」
それは、心の底からの安堵だった。
「……誰も、死んでない」
自分の仲間は誰一人死んでいなかった。
正直に言って、瀬多は覚悟していた。少なくとも一人。酷ければ三人共既に死んでいてもおかしくないと考えていた。
しかしそれも当然。何故なら今自分が生きていることが、瀬多には不思議なくらいなのだから。
あの四人の急襲。さすがにあれは運が悪かったとしか言いようがないが、それでもこの殺し合いの中で命というものがどれほど軽いものかを実感させられた。
だからこそ、瀬多は自分の仲間が誰も死んでいないことに喜びを覚える前に、冗談なのではないかと疑ってしまったのだ。
「瀬多さん。よかったですね。みんな生きてますよ」
自分のことのように喜んでくれるアドレーヌ。それを見て、ようやく瀬多は純粋な喜びが湧き出てくるのを感じることができた。
瀬多は思わずその場にへたり込んだ。
「よかった。……本当に、よかった」
それは、心の底からの安堵だった。
結局、四人の知人で死んだ人間は、メタナイトとデデデだけだった。
それが喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか、瀬多には判断のしようがなかった。
とにかく今は自分達が生きることを考えなければならない。
今は幽香が見張りをしてくれているので、安心して考え事に集中することができる。
「……瀬多さんは、すごいですね」
アドレーヌがぼそりと呟いた。
「弱い人の気持ちになってあげることができて。それでいてとても強くて。さっきの戦いだって、瀬多さんがいなかったら、きっとみんなやられてました」
「……俺は強くない。セシルとの戦いだってほとんど一方的だった。皆がいてくれたから、俺達は生き残れた。ただそれだけだ」
しかし、アドレーヌは首を振った。
「瀬多さんの強さは、力じゃないです。もっと奥にある……心の強さ、みたいなものがあると思います」
買いかぶり過ぎだ、と言おうとして止めた。
アドレーヌの自嘲めいた笑みは、おそらく彼女自身に向けられたものだと感じたからだ。瀬多総司を褒めることで、何もできない自分を非難しているのだ。
相手の心の機微を計るのは、大勢の人間とコミュニティを形成してきた瀬多には得意なことだった。
ふいに瀬多は、アドレーヌの眼前に手を突き出した。
「どうしたんですか?」
首を傾げるアドレーヌに少しだけ微笑みかける。
それが喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか、瀬多には判断のしようがなかった。
とにかく今は自分達が生きることを考えなければならない。
今は幽香が見張りをしてくれているので、安心して考え事に集中することができる。
「……瀬多さんは、すごいですね」
アドレーヌがぼそりと呟いた。
「弱い人の気持ちになってあげることができて。それでいてとても強くて。さっきの戦いだって、瀬多さんがいなかったら、きっとみんなやられてました」
「……俺は強くない。セシルとの戦いだってほとんど一方的だった。皆がいてくれたから、俺達は生き残れた。ただそれだけだ」
しかし、アドレーヌは首を振った。
「瀬多さんの強さは、力じゃないです。もっと奥にある……心の強さ、みたいなものがあると思います」
買いかぶり過ぎだ、と言おうとして止めた。
アドレーヌの自嘲めいた笑みは、おそらく彼女自身に向けられたものだと感じたからだ。瀬多総司を褒めることで、何もできない自分を非難しているのだ。
相手の心の機微を計るのは、大勢の人間とコミュニティを形成してきた瀬多には得意なことだった。
ふいに瀬多は、アドレーヌの眼前に手を突き出した。
「どうしたんですか?」
首を傾げるアドレーヌに少しだけ微笑みかける。
左手の指が……
右手に移動した!
「わ! すごいすごい!! どうやったの!?」
純粋に喜んでくれているようだ。
この手品をやってひどく興奮していた菜々子のことを思い出す。
「俺、実は魔法使いなんだ」
「あはは! 瀬多さんって、ほんとは面白い人だったんですね」
場が良い感じに和んだところで、瀬多は自分のデイバックから一つのビンを取り出した。
中には透明の液体が入っている。
「それは?」
「さっき幽香から受け取った。腐毒っていうらしい。無味無臭の猛毒だそうだ」
その言葉に、アドレーヌは少しだけ身を引いた。
「本当は捨ててしまおうかとも思っていたんだが、いつどんな時に何が使えるか分からない。だから持っておこうと思って」
「そうなんですか」
アドレーヌに異論はないようだった。
自分よりも頭の良い瀬多が出した結論なら、それに反論する気はないということだろう。
「俺は、アドレーヌに持っていて欲しいと思う」
「え!? 私にですか!?」
「俺が持っていてもいいんだが、やはりこれは一番殺し合いに乗る可能性が低い人間が持っていた方が良いと思うんだ」
もしも仲間が死んだら。菜々子や、他の友人達を主催者に人質に取られたら。
そうなれば、自分でもどんな行動を取るか分からない。
「俺自身、今後絶対に殺し合いに乗らないとは言い切れない。けど、アドレーヌなら信じられる。アドレーヌは、俺に良心を忘れさせないでいてくれる大切な存在だ。俺は、レミリアや幽香と同じくらい、アドレーヌを頼りにしている」
アドレーヌは目を見開いて瀬多を見つめ、それからビンを見つめた。
「……瀬多さんは、本当に優しい人ですね」
そう言って、そっとそれを受け取った。
「任せて下さい。私が責任を持って、保管しておきます」
アドレーヌはそう言って満面の笑みを浮かべた。
瀬多は、アドレーヌとの距離が少し縮まったような気がした。
純粋に喜んでくれているようだ。
この手品をやってひどく興奮していた菜々子のことを思い出す。
「俺、実は魔法使いなんだ」
「あはは! 瀬多さんって、ほんとは面白い人だったんですね」
場が良い感じに和んだところで、瀬多は自分のデイバックから一つのビンを取り出した。
中には透明の液体が入っている。
「それは?」
「さっき幽香から受け取った。腐毒っていうらしい。無味無臭の猛毒だそうだ」
その言葉に、アドレーヌは少しだけ身を引いた。
「本当は捨ててしまおうかとも思っていたんだが、いつどんな時に何が使えるか分からない。だから持っておこうと思って」
「そうなんですか」
アドレーヌに異論はないようだった。
自分よりも頭の良い瀬多が出した結論なら、それに反論する気はないということだろう。
「俺は、アドレーヌに持っていて欲しいと思う」
「え!? 私にですか!?」
「俺が持っていてもいいんだが、やはりこれは一番殺し合いに乗る可能性が低い人間が持っていた方が良いと思うんだ」
もしも仲間が死んだら。菜々子や、他の友人達を主催者に人質に取られたら。
そうなれば、自分でもどんな行動を取るか分からない。
「俺自身、今後絶対に殺し合いに乗らないとは言い切れない。けど、アドレーヌなら信じられる。アドレーヌは、俺に良心を忘れさせないでいてくれる大切な存在だ。俺は、レミリアや幽香と同じくらい、アドレーヌを頼りにしている」
アドレーヌは目を見開いて瀬多を見つめ、それからビンを見つめた。
「……瀬多さんは、本当に優しい人ですね」
そう言って、そっとそれを受け取った。
「任せて下さい。私が責任を持って、保管しておきます」
アドレーヌはそう言って満面の笑みを浮かべた。
瀬多は、アドレーヌとの距離が少し縮まったような気がした。
「私、幽香さんの様子を見に行ってきますね」
「あ、じゃあもう少ししたらまたここに集まってくれるように言っておいてくれ。レミリアが起きたらクリスタルを探しに行きたい」
攻略本は既に目を通してある。
四つあるクリスタルの内の一つがここにあるということも、既に瀬多は知っている。
考えるべきことは他にも色々と積もっているが、当分はクリスタルを優先していかなければならない。
瀬多は血の契約を交わしているのだ。とにかく今は、契約違反にならないように積極的に行動しなければならない。
「はい。わかりました」
そう言って駆けていくアドレーヌを見送る。
その様子から、やはりアドレーヌにとって幽香は大切な存在なのだと感じることが出来た。
「あ、じゃあもう少ししたらまたここに集まってくれるように言っておいてくれ。レミリアが起きたらクリスタルを探しに行きたい」
攻略本は既に目を通してある。
四つあるクリスタルの内の一つがここにあるということも、既に瀬多は知っている。
考えるべきことは他にも色々と積もっているが、当分はクリスタルを優先していかなければならない。
瀬多は血の契約を交わしているのだ。とにかく今は、契約違反にならないように積極的に行動しなければならない。
「はい。わかりました」
そう言って駆けていくアドレーヌを見送る。
その様子から、やはりアドレーヌにとって幽香は大切な存在なのだと感じることが出来た。
瀬多は立ち上がり、ソファですやすやと眠っているレミリアの様子を窺った。
本当によく眠っている。傷も少しずつだが癒えているようだった。
普通に行動する分にはもう十分回復しているだろう。本当ならすぐに起こしたいところだが、子供のように熟睡しているレミリアを起こすのは忍ばれた。
そっと、顔にかかっている髪をのけてやる。
「こんな寝顔で吸血鬼だなんて言われても、誰も信じないだろうな」
花村や千枝、雪子に紹介したら、皆どんな顔をするだろう。
(レミリアのキャラに、きっとたじたじになるだろうな)
そんなことを考えて苦笑する。
本当によく眠っている。傷も少しずつだが癒えているようだった。
普通に行動する分にはもう十分回復しているだろう。本当ならすぐに起こしたいところだが、子供のように熟睡しているレミリアを起こすのは忍ばれた。
そっと、顔にかかっている髪をのけてやる。
「こんな寝顔で吸血鬼だなんて言われても、誰も信じないだろうな」
花村や千枝、雪子に紹介したら、皆どんな顔をするだろう。
(レミリアのキャラに、きっとたじたじになるだろうな)
そんなことを考えて苦笑する。
「随分と鼻の下伸ばしてたわね」
眠っていたはずのレミリアの声が聞こえた。
「なっ!? お前、起きてたのか!?」
「この分だと、結構な数の女にちょっかいだしてるんじゃないの?」
そう言って、レミリアはこちらに顔を向ける。どこか意地の悪い笑みだ。
レミリアの言っていることはまさに図星だった。
思わず目を逸らす。
「やっぱり。道理で女の扱いがうまいと思ったわ」
「人をプレイボーイみたいに言うな! い、一応深い理由があって……」
「ふーん。どんな理由か聞きたいところね」
瀬多はレミリアにコミュニティのことを話して聞かせた。ついでに、レミリアが気絶していた時に皆に告げたイゴールとのことも。
「なっ!? お前、起きてたのか!?」
「この分だと、結構な数の女にちょっかいだしてるんじゃないの?」
そう言って、レミリアはこちらに顔を向ける。どこか意地の悪い笑みだ。
レミリアの言っていることはまさに図星だった。
思わず目を逸らす。
「やっぱり。道理で女の扱いがうまいと思ったわ」
「人をプレイボーイみたいに言うな! い、一応深い理由があって……」
「ふーん。どんな理由か聞きたいところね」
瀬多はレミリアにコミュニティのことを話して聞かせた。ついでに、レミリアが気絶していた時に皆に告げたイゴールとのことも。
「へぇ。なるほどね」
「そういうわけだ。だから俺達は一刻も早くイゴールを見つけて倒さないといけない」
「話を逸らしたわね」
「ぐっ…!」
「ふふ。まあいいわ。いじめるのはこのくらいにしてあげる」
くすくすと笑うレミリアを見て、瀬多はため息をついた。
子供っぽいと思ったら自分よりも遥かに年上のような態度を取る。レミリア・スカーレットという女性はどうにも両極端で、瀬多もどう扱っていいものか迷うところがあった。
「ソファなんかでずっと寝てたから身体が痛いな。瀬多。ちょっとおんぶして」
「……はいはい」
両手を伸ばすレミリアに背を向けると、すぐにぴょんと飛び乗って来た。
そんな元気があるのなら一人で歩いてもらいたいところだ。
「向こうにベッドがあったでしょ? そこまで連れて行きなさい」
「おい。もうそろそろクリスタルを探そうと──」
「つべこべ言うな。吸うぞ?」
吸血鬼にそんなことを言われれば、従わざるを得ない。
瀬多はもう一度ため息をついてベッドルームへと足を進めた。どうせすぐに幽香達が来る。それまでの間は、我儘に付き合ってやろう。
「そういうわけだ。だから俺達は一刻も早くイゴールを見つけて倒さないといけない」
「話を逸らしたわね」
「ぐっ…!」
「ふふ。まあいいわ。いじめるのはこのくらいにしてあげる」
くすくすと笑うレミリアを見て、瀬多はため息をついた。
子供っぽいと思ったら自分よりも遥かに年上のような態度を取る。レミリア・スカーレットという女性はどうにも両極端で、瀬多もどう扱っていいものか迷うところがあった。
「ソファなんかでずっと寝てたから身体が痛いな。瀬多。ちょっとおんぶして」
「……はいはい」
両手を伸ばすレミリアに背を向けると、すぐにぴょんと飛び乗って来た。
そんな元気があるのなら一人で歩いてもらいたいところだ。
「向こうにベッドがあったでしょ? そこまで連れて行きなさい」
「おい。もうそろそろクリスタルを探そうと──」
「つべこべ言うな。吸うぞ?」
吸血鬼にそんなことを言われれば、従わざるを得ない。
瀬多はもう一度ため息をついてベッドルームへと足を進めた。どうせすぐに幽香達が来る。それまでの間は、我儘に付き合ってやろう。
ベッドルームに辿り着き、一人で寝るには大きすぎるベッドにレミリアを預ける。
「感謝しなさい。私をおんぶできる人間なんて咲夜とあなたくらいのものよ」
「確か、レミリアのメイドだったか?」
「ええ。優秀な人間よ。……あ、そうだ。なんならあんた、副メイド長にしてあげようか?」
「止めてくれ。変な想像をしてしまう」
自分がメイド服を着ている姿が頭に浮かんできて、慌ててそのイメージを消し去る。
「でも、あんた器用そうだしね。けっこう面白い思いつきかもしれないわ。咲夜が鍛えればきっと良いメイドになれるわ」
「だから止めてくれって」
「あんた可愛い顔してるし、メイド服も案外似合うかもよ」
レミリアが面白がってるのは明明白白だ。
こうなっては単純に止めろと言っても聞かないだろう。瀬多は逆の方法を試みることにした。曰く、押して駄目なら引いてみろというやつだ。
「……なら、ついでにカチューシャとストッキングも頼む」
「任せなさい」
「ナチュラルに返さないでくれ!」
そこはツッコミをいれてほしかった。
くすくすと笑うレミリア。どうやらわざとだったらしい。
「……なぁレミリア」
「何?」
「まだ言ってなかったと思ってな。……その、ありがとう」
「何がだ?」
その何でも見透かしていそうな笑みを見たところ、きっと瀬多の言わんとすることも理解しているのだろう。しかし、それでも瀬多の口から言わせたいようだった。
「……俺がアシュナード達を説得できなかった時だよ。お前の言葉がなかったら、俺はあそこで諦めていた。たぶん、こうして笑うこともできなかった。だから──」
「部下を導くのは主として当然だろう?」
いつから部下になったんだ、という疑問はもう浮かばなかった。
レミリアが主で、瀬多が部下。その関係が、二人にとって一番馴染む関係だと、瀬多はどこかで感じていた。
「お前が迷ったら、私が導いてやる。だからお前も忘れるなよ。妖怪に誇りがあるように、悪魔に誇りがあるように、人間にだって誇りがある。自分を貫く信念と誇りさえあれば、たとえ肉体的には雑魚であろうと、そいつは我々と対等の存在だ」
妖怪。悪魔。瀬多は未だ、その種族を完全には理解していない。
だが、彼女達には彼女達のルールがあり、それを守る為に生きていることは理解できた。
命よりも誇りを大切にする種族。瀬多は、その生き様に本物の気高さを見た気がした。
「感謝しなさい。私をおんぶできる人間なんて咲夜とあなたくらいのものよ」
「確か、レミリアのメイドだったか?」
「ええ。優秀な人間よ。……あ、そうだ。なんならあんた、副メイド長にしてあげようか?」
「止めてくれ。変な想像をしてしまう」
自分がメイド服を着ている姿が頭に浮かんできて、慌ててそのイメージを消し去る。
「でも、あんた器用そうだしね。けっこう面白い思いつきかもしれないわ。咲夜が鍛えればきっと良いメイドになれるわ」
「だから止めてくれって」
「あんた可愛い顔してるし、メイド服も案外似合うかもよ」
レミリアが面白がってるのは明明白白だ。
こうなっては単純に止めろと言っても聞かないだろう。瀬多は逆の方法を試みることにした。曰く、押して駄目なら引いてみろというやつだ。
「……なら、ついでにカチューシャとストッキングも頼む」
「任せなさい」
「ナチュラルに返さないでくれ!」
そこはツッコミをいれてほしかった。
くすくすと笑うレミリア。どうやらわざとだったらしい。
「……なぁレミリア」
「何?」
「まだ言ってなかったと思ってな。……その、ありがとう」
「何がだ?」
その何でも見透かしていそうな笑みを見たところ、きっと瀬多の言わんとすることも理解しているのだろう。しかし、それでも瀬多の口から言わせたいようだった。
「……俺がアシュナード達を説得できなかった時だよ。お前の言葉がなかったら、俺はあそこで諦めていた。たぶん、こうして笑うこともできなかった。だから──」
「部下を導くのは主として当然だろう?」
いつから部下になったんだ、という疑問はもう浮かばなかった。
レミリアが主で、瀬多が部下。その関係が、二人にとって一番馴染む関係だと、瀬多はどこかで感じていた。
「お前が迷ったら、私が導いてやる。だからお前も忘れるなよ。妖怪に誇りがあるように、悪魔に誇りがあるように、人間にだって誇りがある。自分を貫く信念と誇りさえあれば、たとえ肉体的には雑魚であろうと、そいつは我々と対等の存在だ」
妖怪。悪魔。瀬多は未だ、その種族を完全には理解していない。
だが、彼女達には彼女達のルールがあり、それを守る為に生きていることは理解できた。
命よりも誇りを大切にする種族。瀬多は、その生き様に本物の気高さを見た気がした。
「最近は若い男と話す機会なんてなかったから、なかなか新鮮だな」
「幻想郷に男はいないのか?」
「いるにはいるけど……。あまり楽しくない奴ばっかり。基本的に、弱い人間は相手にしない主義なの」
吸血鬼なんていう種族なのだから、普通はそうなのだろう。
そんなことを思っていると、いきなり胸倉を掴まれ、ぐいと引き寄せられた。
幼いがきめ細かく、美人といっても差し支えないレミリアの顔が瀬多の間近にある。
自分の耳が恥ずかしさで赤くなるのがわかった。
まさか押し倒すではなく、引き倒すという方法で迫られるとは思ってもみなかった。
「ねえ、少しだけ血を飲ませてくれないかしら。久しぶりに男の味を楽しみたいの」
「ご、誤解されそうなことを平然と口にするな! 断る!」
この現場をもしも警官に押さえられたらこっちが一方的に逮捕されてしまう。
慌ててレミリアの上からどこうとするが、彼女の怪力は自分の力でどうこうできるものではない。
「あら、もしかして怖いの? 大丈夫よ。優しくするから」
「だ、だからそういうことを……」
ふと、誰かの視線に気づく。
そこには顔を真っ赤にするアドレーヌとあきれ顔の幽香がいた。
「……言っておくが、公序良俗違反なのはレミリアの方だからな」
言っても無駄だとは思ったが、一応言っておいた。
「ロリコン」
幽香の冷めた口調は、余計に胸に刺さった。
「だ、だから違う! ちゃんと話を聞いてくれ!!」
「ロリコン」
レミリアがにやにやしながら言った。
「お前が言うな!!」
瀬多のツッコミは、屋敷内で虚しく響いた。
「わ、私なにも見てません!! 何も見てませんから!!」
「ま、待て待て! 本当にそんなんじゃないんだ!!」
「ひどい男だな、瀬多総司。なかったことにするなんて。責任の一つも取れないのか?」
「レミリアは少し黙っててくれ!!」
アドレーヌ相手に必死に弁明を続けるが、当のアドレーヌは両手で顔を覆い、耳まで顔を真っ赤にして何も聞いてくれない。
「幽香もアドレーヌに言って聞かせてくれ!」
「嫌よ。何で私がロリコンの肩を持たなくちゃいけないの?」
そう言って、幽香はアドレーヌには見えない位置で、にやりとサディスティックな笑みを浮かべた。
(やばい。レミリアも幽香も、この状況を心底楽しんでる。このままじゃ本当にロリコンになってしまうぞ! どうする瀬多総司!!)
この状況をどうにかしようと必死で考える。
「よ、よし分かった! アドレーヌ!! 分かったからこっちを見てくれ!」
言いながら、瀬多はデイバックから輪ゴムを一つ取り出した。
指と指の隙間から、アドレーヌは瀬多のすることを見ている。
「幻想郷に男はいないのか?」
「いるにはいるけど……。あまり楽しくない奴ばっかり。基本的に、弱い人間は相手にしない主義なの」
吸血鬼なんていう種族なのだから、普通はそうなのだろう。
そんなことを思っていると、いきなり胸倉を掴まれ、ぐいと引き寄せられた。
幼いがきめ細かく、美人といっても差し支えないレミリアの顔が瀬多の間近にある。
自分の耳が恥ずかしさで赤くなるのがわかった。
まさか押し倒すではなく、引き倒すという方法で迫られるとは思ってもみなかった。
「ねえ、少しだけ血を飲ませてくれないかしら。久しぶりに男の味を楽しみたいの」
「ご、誤解されそうなことを平然と口にするな! 断る!」
この現場をもしも警官に押さえられたらこっちが一方的に逮捕されてしまう。
慌ててレミリアの上からどこうとするが、彼女の怪力は自分の力でどうこうできるものではない。
「あら、もしかして怖いの? 大丈夫よ。優しくするから」
「だ、だからそういうことを……」
ふと、誰かの視線に気づく。
そこには顔を真っ赤にするアドレーヌとあきれ顔の幽香がいた。
「……言っておくが、公序良俗違反なのはレミリアの方だからな」
言っても無駄だとは思ったが、一応言っておいた。
「ロリコン」
幽香の冷めた口調は、余計に胸に刺さった。
「だ、だから違う! ちゃんと話を聞いてくれ!!」
「ロリコン」
レミリアがにやにやしながら言った。
「お前が言うな!!」
瀬多のツッコミは、屋敷内で虚しく響いた。
「わ、私なにも見てません!! 何も見てませんから!!」
「ま、待て待て! 本当にそんなんじゃないんだ!!」
「ひどい男だな、瀬多総司。なかったことにするなんて。責任の一つも取れないのか?」
「レミリアは少し黙っててくれ!!」
アドレーヌ相手に必死に弁明を続けるが、当のアドレーヌは両手で顔を覆い、耳まで顔を真っ赤にして何も聞いてくれない。
「幽香もアドレーヌに言って聞かせてくれ!」
「嫌よ。何で私がロリコンの肩を持たなくちゃいけないの?」
そう言って、幽香はアドレーヌには見えない位置で、にやりとサディスティックな笑みを浮かべた。
(やばい。レミリアも幽香も、この状況を心底楽しんでる。このままじゃ本当にロリコンになってしまうぞ! どうする瀬多総司!!)
この状況をどうにかしようと必死で考える。
「よ、よし分かった! アドレーヌ!! 分かったからこっちを見てくれ!」
言いながら、瀬多はデイバックから輪ゴムを一つ取り出した。
指と指の隙間から、アドレーヌは瀬多のすることを見ている。
輪ゴムを、人差し指と中指に通した…
アドレーヌに見えない位置で、薬指と小指にも引っかける…
「何やってんの? あんた」
軽く握っていた手を広げると…
輪ゴムが人差し指と中指からはずれ、一瞬にして薬指と小指に移動する!
……ネタが見えるどころか、輪ゴムは飛んでいってしまった。
「わわ! 飛んだ!! 飛んで行った!!」
だがアドレーヌは、「すごいすごい!」とひどく興奮していた。
手品には失敗したが、誤魔化しには成功したようだ。
ふぅ、と額の汗をぬぐった。
「……こんなしょうもない手で逃げ切るとは、つくづく人間は理解不能だわ」
幽香は呆れたように言った。
妖怪や悪魔にとっては、確かにしょうもない手品だろう。人間サイドでも決して凄いものではない。
「……おい瀬多。さっきのどうやったんだ? 私にだけこっそり教えろ」
が、レミリアはかなり興味深々なようだった。
だがアドレーヌは、「すごいすごい!」とひどく興奮していた。
手品には失敗したが、誤魔化しには成功したようだ。
ふぅ、と額の汗をぬぐった。
「……こんなしょうもない手で逃げ切るとは、つくづく人間は理解不能だわ」
幽香は呆れたように言った。
妖怪や悪魔にとっては、確かにしょうもない手品だろう。人間サイドでも決して凄いものではない。
「……おい瀬多。さっきのどうやったんだ? 私にだけこっそり教えろ」
が、レミリアはかなり興味深々なようだった。
「み、みなさん! ベッドの下!! ベッドの下、見てください!」
飛んでいった輪ゴムの行方を探していたアドレーヌが突然叫んだ。
訝しく思いながらも、三人共言われた通り、ベッドの下を覗き込んでみた。
そこには、隠し扉と言うのもおこがましい、重厚な扉が隠されていた。
金属性のそれは、どう見ても屋敷の様相とは不似合いだ。
「地下への扉か」
「見るからに怪しいわね」
確かにその通りだ。が、クリスタルがこの施設のどこかにある以上、ここが一番可能性の高そうな場所だった。
「悩んでいても仕方がない。入ってみれば分かることだ」
罠だとしてもそれは主催者によるものだ。おそらく殺傷性は皆無だろう。
だからといって油断できるものではないが、入るのを拒む理由にはならない。
ベッドはかなりの大きさだったが、幽香は片手でそれをひっくり返してみせた。もはやそれを驚くこともなかったが。
とにかく瀬多は、その曝け出された隠し扉を開けてみる。
かなりの重さだ。なんとか扉を開けることに成功すると、視界に地下へと続く階段が飛び込んできた。少し薄暗いが辺りが見えない程ではない。奥にはさらに扉があり、堅く閉ざされている。
少しだけ中に入ってみる。
(……暖かい。そういう作りなのか。それとも地下だけ暖房が完備されているのか。どっちにせよ、奇妙なことに変わりはないか)
「瀬多」
突然、幽香に呼ばれた。
「どうした? 何か問題が?」
幽香はこくりと小さく頷いた。
「微かだけど、さっき誰かがドアを開ける音が聞こえた。来客よ」
飛んでいった輪ゴムの行方を探していたアドレーヌが突然叫んだ。
訝しく思いながらも、三人共言われた通り、ベッドの下を覗き込んでみた。
そこには、隠し扉と言うのもおこがましい、重厚な扉が隠されていた。
金属性のそれは、どう見ても屋敷の様相とは不似合いだ。
「地下への扉か」
「見るからに怪しいわね」
確かにその通りだ。が、クリスタルがこの施設のどこかにある以上、ここが一番可能性の高そうな場所だった。
「悩んでいても仕方がない。入ってみれば分かることだ」
罠だとしてもそれは主催者によるものだ。おそらく殺傷性は皆無だろう。
だからといって油断できるものではないが、入るのを拒む理由にはならない。
ベッドはかなりの大きさだったが、幽香は片手でそれをひっくり返してみせた。もはやそれを驚くこともなかったが。
とにかく瀬多は、その曝け出された隠し扉を開けてみる。
かなりの重さだ。なんとか扉を開けることに成功すると、視界に地下へと続く階段が飛び込んできた。少し薄暗いが辺りが見えない程ではない。奥にはさらに扉があり、堅く閉ざされている。
少しだけ中に入ってみる。
(……暖かい。そういう作りなのか。それとも地下だけ暖房が完備されているのか。どっちにせよ、奇妙なことに変わりはないか)
「瀬多」
突然、幽香に呼ばれた。
「どうした? 何か問題が?」
幽香はこくりと小さく頷いた。
「微かだけど、さっき誰かがドアを開ける音が聞こえた。来客よ」
来客は二人だった。そして、その内の一人は瀬多の知人。
正直に言えば、一番会いたくない人物だった。
「足立……」
「……誰、だっけ?」
「とぼけるな」
「と、とぼけてない! 本当なんだ!! 僕は君を知らないはずだ! どうして僕の名前を知ってるんだ!?」
その白々しい演技に、瀬多は思わず首を振った。
「止めろ、足立。そんな小細工をしたところでもう終わりだ」
瀬多は自分のペルソナ、イザナギを出現させる。
「な、なんだよこれ。映画か何かか?」
「お前を再起不能にする。安心しろ。殺しはしない」
ひぃ、と短い悲鳴が聞こえる。
「お、おい止めろ! 足立は知らないって言ってるじゃないか!」
「魔理沙といったな。そいつは連続殺人犯だ。警察官でありながら、人を殺した悪人だ」
「嘘つくなよ! 足立はあたしを励ましてくれた! そんな奴が人殺しなんかするか!」
瀬多は考える。
このまま強行的に足立を攻撃するか、それとも説得を試みるか。もしも強行に走ったところで、おそらくレミリア達三人は瀬多の言う事を全面的に信じてくれるだろう。
しかし魔理沙はそうはいかない。どうにかして足立が悪党だと信じてもらわなければ彼女との仲違いは一生直せない。
瀬多はペルソナをしまった。
「……俺が経験した事件を語ろう」
正直に言えば、一番会いたくない人物だった。
「足立……」
「……誰、だっけ?」
「とぼけるな」
「と、とぼけてない! 本当なんだ!! 僕は君を知らないはずだ! どうして僕の名前を知ってるんだ!?」
その白々しい演技に、瀬多は思わず首を振った。
「止めろ、足立。そんな小細工をしたところでもう終わりだ」
瀬多は自分のペルソナ、イザナギを出現させる。
「な、なんだよこれ。映画か何かか?」
「お前を再起不能にする。安心しろ。殺しはしない」
ひぃ、と短い悲鳴が聞こえる。
「お、おい止めろ! 足立は知らないって言ってるじゃないか!」
「魔理沙といったな。そいつは連続殺人犯だ。警察官でありながら、人を殺した悪人だ」
「嘘つくなよ! 足立はあたしを励ましてくれた! そんな奴が人殺しなんかするか!」
瀬多は考える。
このまま強行的に足立を攻撃するか、それとも説得を試みるか。もしも強行に走ったところで、おそらくレミリア達三人は瀬多の言う事を全面的に信じてくれるだろう。
しかし魔理沙はそうはいかない。どうにかして足立が悪党だと信じてもらわなければ彼女との仲違いは一生直せない。
瀬多はペルソナをしまった。
「……俺が経験した事件を語ろう」
瀬多はマヨナカテレビの事件を、掻い摘んで、しかし全容が見えるように説明した。自分達がどうにかして事件を解決しようとしていたこと。足立が連続殺人犯だったこと。その全てを。
「これで納得できたか?」
「……嘘だ」
瀬多は思わずため息が漏れそうになるのを必死でこらえた。
「こんな大それた事件を、俺が即席で考えたっていうのか? もしそんなことが出来たとしても、どうして俺が見ず知らずの足立透を陥れないといけないんだ。いや、そもそも俺が足立の名前を知っている時点で足立は嘘をついていることになる。それだけで疑うには十分過ぎる」
「……参加者のプロフィールが分かる支給品があったのかもしれない。事件の話は、……お前、頭良さそうだしすぐに考えつくだろ。元々考えてあったのかもしれないしな。足立を陥れたのは、あたしのことを知ってるレミリア達がいたからだ」
見当違いも甚だしいが、事実として瀬多は参加者のプロフィールが分かる本を持っている。真実がどうであれ、それはこちらの言い分を不利にしかしないものだ。
「……よく考えろ。俺は足立だけじゃなく、他の参加者の名前を口にしている。そいつらに確認を取ればすぐにでも調べはつく話だ。そんなすぐにばれる嘘をつくメリットが俺にはない」
「どうだかな。そいつらを全員お前が殺してたらばれる心配なんてない」
「せ、瀬多さんはそんなことしません!!」
アドレーヌが叫ぶが、瀬多は魔理沙の言う事も一理あると考えていた。
普段なら魔理沙もここまで瀬多を疑わなかっただろう。だがここは殺し合いの場だ。せっかく出会えた信頼できる人間を頭ごなしに否定されて、血が昇らない人間は少ない。
理で考えて怪しくても、人間は感情で人を簡単に信じてしまう。
その事実を瀬多は軽視し過ぎていた。
瀬多は早くも、最初の接触の仕方を後悔していた。
ふいに、レミリアがため息をついた。
「まったくもってどうでもいい話だな。おい瀬多。とりあえずこいつの両手、折っておこうか?」
「ひいぃ!」
「おいレミリア! お前、こんな男のこと信じるのか!」
「自分の部下が言っていることを信じるのは、主として当然だろう?」
「ふざけんな! こいつはな。咲夜を死んだと勘違いしてて、今回の放送聞いて涙流して安堵してたんだぞ! そんな奴が殺し合いなんて乗るわけないだろ!!」
レミリアの瞳が大きく開かれるのがわかった。
瀬多が慌てて止めようとするが、払われる。
ずかずかと足立の前まで歩いて行き、胸倉を掴む。
「おい。何故咲夜が死んだなんて言った? 殺し合いに乗ってるお前が、どうして咲夜が死んだと?」
レミリアも足立が殺し合いに乗っていると考えている。ならば咲夜が死んだなどという嘘をつく理由は一つしか思いつかない。
「これで納得できたか?」
「……嘘だ」
瀬多は思わずため息が漏れそうになるのを必死でこらえた。
「こんな大それた事件を、俺が即席で考えたっていうのか? もしそんなことが出来たとしても、どうして俺が見ず知らずの足立透を陥れないといけないんだ。いや、そもそも俺が足立の名前を知っている時点で足立は嘘をついていることになる。それだけで疑うには十分過ぎる」
「……参加者のプロフィールが分かる支給品があったのかもしれない。事件の話は、……お前、頭良さそうだしすぐに考えつくだろ。元々考えてあったのかもしれないしな。足立を陥れたのは、あたしのことを知ってるレミリア達がいたからだ」
見当違いも甚だしいが、事実として瀬多は参加者のプロフィールが分かる本を持っている。真実がどうであれ、それはこちらの言い分を不利にしかしないものだ。
「……よく考えろ。俺は足立だけじゃなく、他の参加者の名前を口にしている。そいつらに確認を取ればすぐにでも調べはつく話だ。そんなすぐにばれる嘘をつくメリットが俺にはない」
「どうだかな。そいつらを全員お前が殺してたらばれる心配なんてない」
「せ、瀬多さんはそんなことしません!!」
アドレーヌが叫ぶが、瀬多は魔理沙の言う事も一理あると考えていた。
普段なら魔理沙もここまで瀬多を疑わなかっただろう。だがここは殺し合いの場だ。せっかく出会えた信頼できる人間を頭ごなしに否定されて、血が昇らない人間は少ない。
理で考えて怪しくても、人間は感情で人を簡単に信じてしまう。
その事実を瀬多は軽視し過ぎていた。
瀬多は早くも、最初の接触の仕方を後悔していた。
ふいに、レミリアがため息をついた。
「まったくもってどうでもいい話だな。おい瀬多。とりあえずこいつの両手、折っておこうか?」
「ひいぃ!」
「おいレミリア! お前、こんな男のこと信じるのか!」
「自分の部下が言っていることを信じるのは、主として当然だろう?」
「ふざけんな! こいつはな。咲夜を死んだと勘違いしてて、今回の放送聞いて涙流して安堵してたんだぞ! そんな奴が殺し合いなんて乗るわけないだろ!!」
レミリアの瞳が大きく開かれるのがわかった。
瀬多が慌てて止めようとするが、払われる。
ずかずかと足立の前まで歩いて行き、胸倉を掴む。
「おい。何故咲夜が死んだなんて言った? 殺し合いに乗ってるお前が、どうして咲夜が死んだと?」
レミリアも足立が殺し合いに乗っていると考えている。ならば咲夜が死んだなどという嘘をつく理由は一つしか思いつかない。
「お前、私の部下を襲ったな?」
みるみるうちに足立の身体が宙に浮く。
レミリアはその殺気を押さえようともしない。
「ぐ、ぐるしい……」
「おい! 足立を離せ!!」
走り寄ろうとする魔理沙を幽香が前を塞ぐ。
「お前もか! 幽香!!」
「ええ。少なくとも、今のあなたより瀬多は信用できるわ」
魔理沙は幽香を睨みつけるが、動こうとはしない。まともに戦って勝てる相手ではないことは、魔理沙も分かっているのだ。
「ま、待てレミリア!! 気を静めてくれ!! これ以上は駄目だ!!」
「何故止める? お前がこいつを黒と言ったんだぞ」
「確かにそうだ。今でもそれは変わらない。だが、こいつを再起不能にするのはまだ先だ。魔理沙の誤解が解けてからでないと、いらない確執を生むだけだ」
「悠長だな。こんな分からず屋にかかずらわっている暇が私達にあるのか?」
あるのかないのかと言われれば……ない。そんな余裕などある訳がない。しかし、それでもこの殺し合いで誤解は致命的だ。
ここをないがしろにはできない。
「……それでもだ。主として、俺をたててくれる気があるのなら、ここは手を離してくれ。頼む」
しばらく、レミリアは動かなかった。
が、やがてその腕から足立を離した。
「げほっ! げほっ!!」
「足立! 大丈夫か!?」
せき込む足立。駆け寄る魔理沙。
それを背にレミリアはこちらへと歩いてきた。
「……すまない。レミリア」
「私の判断だ。いちいち謝るな。馬鹿」
レミリアが、自分の怒りを抑えていることは、誰の目にも明白だった。
「これは本来保留するべき問題じゃない。今すぐにでも解決しなければならないものだ。だが、この状況でこれ以上の進展があるとも思えない。だから、妥協案を提案する」
瀬多は、足立を追放することを諦めた。しかしそれは永久にではない。魔理沙をどうにか説得する方法を見つけるまでだ。
「とりあえず、情報交換だ。どうせばれることだから言うが、俺は全員のプロフィールやこの殺し合いについての詳細を知っている」
「ほら見ろ! これで足立に関する情報を知ってた理由もわかった。やっぱりお前は嘘つきだ!」
「いいから聞いてくれ。今俺が言いたいのは、そっちが嘘の情報を持って来ても、俺にはそれが分かるということだ。俺がどれほどの情報を持っているか分からない以上、ぼろがでないためにも魔理沙達は真実を語るしかない。この理屈、分かるな?」
「……不平等だ。お前らは情報の成否を確認出来るけど、あたし達は出来ない」
「こっちの情報源を見せてやってもいいが、それでもお前は信用しないだろ? どうとでも改ざんが出来るとか何とか言ってな。だからこっちも譲歩は出来ない」
しかし、魔理沙達からすれば、この条件は飲む他ない。足立の悪評が流されていると知った以上、魔理沙にとって瀬多達と別行動を取るというのは論外なのだ。戦力的にも劣っているこちら側からすれば、どうしても瀬多達に従わざるを得ないところがあった。
瀬多にとっても、こうなった以上別れればどんな噂を吹聴されるか分からない。足立の問題を抜きにしても、魔理沙達と離れることはかなりのリスクがあった。それになにより、魔理沙の命が一気に危険に曝される。それだけは避けたかった。
「……手を縛れ」
「……何?」
「手を縛れって言ってんだよ。それで一応は信用してやる」
「あなた、少しふざけてるんじゃないの? 手なんか縛ったら襲撃の時どう対処しろって言うのよ」
「それくらいの危険は冒せって言ってるんだ。それで初めてこっちと同等になる」
「あんたねぇ……」
文句を言おうとするレミリアを瀬多は制した。
「いや、いいんだレミリア。魔理沙の言う通りにしよう。ただし、手を縛るのは俺だけだ。それで異論はないな?」
魔理沙は何も言わずに頷いた。
レミリアはその殺気を押さえようともしない。
「ぐ、ぐるしい……」
「おい! 足立を離せ!!」
走り寄ろうとする魔理沙を幽香が前を塞ぐ。
「お前もか! 幽香!!」
「ええ。少なくとも、今のあなたより瀬多は信用できるわ」
魔理沙は幽香を睨みつけるが、動こうとはしない。まともに戦って勝てる相手ではないことは、魔理沙も分かっているのだ。
「ま、待てレミリア!! 気を静めてくれ!! これ以上は駄目だ!!」
「何故止める? お前がこいつを黒と言ったんだぞ」
「確かにそうだ。今でもそれは変わらない。だが、こいつを再起不能にするのはまだ先だ。魔理沙の誤解が解けてからでないと、いらない確執を生むだけだ」
「悠長だな。こんな分からず屋にかかずらわっている暇が私達にあるのか?」
あるのかないのかと言われれば……ない。そんな余裕などある訳がない。しかし、それでもこの殺し合いで誤解は致命的だ。
ここをないがしろにはできない。
「……それでもだ。主として、俺をたててくれる気があるのなら、ここは手を離してくれ。頼む」
しばらく、レミリアは動かなかった。
が、やがてその腕から足立を離した。
「げほっ! げほっ!!」
「足立! 大丈夫か!?」
せき込む足立。駆け寄る魔理沙。
それを背にレミリアはこちらへと歩いてきた。
「……すまない。レミリア」
「私の判断だ。いちいち謝るな。馬鹿」
レミリアが、自分の怒りを抑えていることは、誰の目にも明白だった。
「これは本来保留するべき問題じゃない。今すぐにでも解決しなければならないものだ。だが、この状況でこれ以上の進展があるとも思えない。だから、妥協案を提案する」
瀬多は、足立を追放することを諦めた。しかしそれは永久にではない。魔理沙をどうにか説得する方法を見つけるまでだ。
「とりあえず、情報交換だ。どうせばれることだから言うが、俺は全員のプロフィールやこの殺し合いについての詳細を知っている」
「ほら見ろ! これで足立に関する情報を知ってた理由もわかった。やっぱりお前は嘘つきだ!」
「いいから聞いてくれ。今俺が言いたいのは、そっちが嘘の情報を持って来ても、俺にはそれが分かるということだ。俺がどれほどの情報を持っているか分からない以上、ぼろがでないためにも魔理沙達は真実を語るしかない。この理屈、分かるな?」
「……不平等だ。お前らは情報の成否を確認出来るけど、あたし達は出来ない」
「こっちの情報源を見せてやってもいいが、それでもお前は信用しないだろ? どうとでも改ざんが出来るとか何とか言ってな。だからこっちも譲歩は出来ない」
しかし、魔理沙達からすれば、この条件は飲む他ない。足立の悪評が流されていると知った以上、魔理沙にとって瀬多達と別行動を取るというのは論外なのだ。戦力的にも劣っているこちら側からすれば、どうしても瀬多達に従わざるを得ないところがあった。
瀬多にとっても、こうなった以上別れればどんな噂を吹聴されるか分からない。足立の問題を抜きにしても、魔理沙達と離れることはかなりのリスクがあった。それになにより、魔理沙の命が一気に危険に曝される。それだけは避けたかった。
「……手を縛れ」
「……何?」
「手を縛れって言ってんだよ。それで一応は信用してやる」
「あなた、少しふざけてるんじゃないの? 手なんか縛ったら襲撃の時どう対処しろって言うのよ」
「それくらいの危険は冒せって言ってるんだ。それで初めてこっちと同等になる」
「あんたねぇ……」
文句を言おうとするレミリアを瀬多は制した。
「いや、いいんだレミリア。魔理沙の言う通りにしよう。ただし、手を縛るのは俺だけだ。それで異論はないな?」
魔理沙は何も言わずに頷いた。
ロープはカーテンを適当に切ったものを代用することにした。
魔理沙が瀬多の腕を縛る。瀬多は少しだけ腕を動かしてみるがぴくりともしない。
自分だけの力でこれをどうにかするのは至難の技だ。
(後ろ手にされてないだけマシか)
アドレーヌが泣きそうな顔で瀬多を見つめていたが、瀬多は「大丈夫だ」と言って微笑んだ。
「瀬多」
幽香が静かに言った。
「奴はあたしが見てる。下手なことしようとしたら迷わず殺すから」
魔理沙がキッと幽香を睨む。瀬多は何も言えなかったが、心の中で感謝した。
「足立。お前がどう思っているかは知らないが、この殺し合いは異常だ。俺達の力を遥かに上回る奴らで溢れかえっている。分かるな? 俺達は協力すべきだ。そうしないと、俺も、お前も、生き残れない」
足立は一瞬、ほんの一瞬だけ、逡巡するような顔を見せた。
「まだ言ってるのか! 足立はそんな奴じゃない!!」
「ただの保険でしょ。こっち側の主張は『足立が殺し合いに乗っている』なんだから、これくらいのこと許容範囲でしょうに。いちいちがなりたてないで頂戴。耳に響くわ」
そういった駆け引きを、魔理沙は一切する気がない。彼女の言い分は、足立は良い奴。足立を悪とする瀬多は悪い奴。
その主張を一切譲る気がないのだ。なまじ頭が働くためにかえって厄介といえる。
「じゃあ、情報交換を始めるぞ」
こうして、最悪な空気の中で情報交換は始まった。
瀬多としては、足立に喋らせる機会を設けることでどうにかぼろを出しはしないかと期待していたのだが、実際はそんな楽観的なことにはならなかった。
足立の話に無理はなかったし、攻略本から得た知識と照らし合わせても、どこにも矛盾はなかった。当然、足立が善良な警官だということを除けば、だが。
(タケシを殺したのは足立で間違いない。温泉でも、他の二人と共闘、もしくは混戦になって咲夜を襲ったと見てまず間違いないだろう。だが、それを立証することはできるのか? 現段階でそれができる方法といったら、咲夜とコンタクトを取ることくらいしかない)
しかしその咲夜も、おそらくは重傷を負っているに違いない。足立が死を確信したくらいだ。無傷ということはないだろう。そうなると、ぎりぎり放送は迎えられたが、それからすぐに死んでしまったという可能性も否定できない。
ちらりとレミリアを見る。が、彼女は堂々と腕を組んで立っていた。
(俺をたたせる、か)
言葉はない。しかしそれでも、瀬多はレミリアからの信頼を肌で感じ取っていた。
あのレミリアが、自分の意思を曲げてまで付き合ってくれている。ならばこんなところで諦める訳にはいかない。
(発想の転換が必要なのか? 理詰めではなく、どうにか感情論で足立を悪としてしまえば──)
魔理沙が瀬多の腕を縛る。瀬多は少しだけ腕を動かしてみるがぴくりともしない。
自分だけの力でこれをどうにかするのは至難の技だ。
(後ろ手にされてないだけマシか)
アドレーヌが泣きそうな顔で瀬多を見つめていたが、瀬多は「大丈夫だ」と言って微笑んだ。
「瀬多」
幽香が静かに言った。
「奴はあたしが見てる。下手なことしようとしたら迷わず殺すから」
魔理沙がキッと幽香を睨む。瀬多は何も言えなかったが、心の中で感謝した。
「足立。お前がどう思っているかは知らないが、この殺し合いは異常だ。俺達の力を遥かに上回る奴らで溢れかえっている。分かるな? 俺達は協力すべきだ。そうしないと、俺も、お前も、生き残れない」
足立は一瞬、ほんの一瞬だけ、逡巡するような顔を見せた。
「まだ言ってるのか! 足立はそんな奴じゃない!!」
「ただの保険でしょ。こっち側の主張は『足立が殺し合いに乗っている』なんだから、これくらいのこと許容範囲でしょうに。いちいちがなりたてないで頂戴。耳に響くわ」
そういった駆け引きを、魔理沙は一切する気がない。彼女の言い分は、足立は良い奴。足立を悪とする瀬多は悪い奴。
その主張を一切譲る気がないのだ。なまじ頭が働くためにかえって厄介といえる。
「じゃあ、情報交換を始めるぞ」
こうして、最悪な空気の中で情報交換は始まった。
瀬多としては、足立に喋らせる機会を設けることでどうにかぼろを出しはしないかと期待していたのだが、実際はそんな楽観的なことにはならなかった。
足立の話に無理はなかったし、攻略本から得た知識と照らし合わせても、どこにも矛盾はなかった。当然、足立が善良な警官だということを除けば、だが。
(タケシを殺したのは足立で間違いない。温泉でも、他の二人と共闘、もしくは混戦になって咲夜を襲ったと見てまず間違いないだろう。だが、それを立証することはできるのか? 現段階でそれができる方法といったら、咲夜とコンタクトを取ることくらいしかない)
しかしその咲夜も、おそらくは重傷を負っているに違いない。足立が死を確信したくらいだ。無傷ということはないだろう。そうなると、ぎりぎり放送は迎えられたが、それからすぐに死んでしまったという可能性も否定できない。
ちらりとレミリアを見る。が、彼女は堂々と腕を組んで立っていた。
(俺をたたせる、か)
言葉はない。しかしそれでも、瀬多はレミリアからの信頼を肌で感じ取っていた。
あのレミリアが、自分の意思を曲げてまで付き合ってくれている。ならばこんなところで諦める訳にはいかない。
(発想の転換が必要なのか? 理詰めではなく、どうにか感情論で足立を悪としてしまえば──)
「シャンハイ」
考え事をしていると、瀬多の眼前に奇妙な人形が映った。
思わず仰け反りそうになる。が、彼女が意思を持っているという魔理沙の説明を受けてどうにか納得する。
上海人形が慌ただしそうにジェスチャーを繰り返す。自分に何かを伝えたいのだということが何とか分かった。
「……霊夢が、サカキに洗脳されたんだ」
魔理沙がぼそりと呟いた。
「霊夢って、あの霊夢か」
レミリア達から話は聞いている。イゴールの存在がなければ、この殺し合いの中でも最重要人物だといえるだろう。
「洗脳? どういうことだ?」
レミリアが尋ねるも魔理沙は首を振った。
「あたしも詳しくは知らない。ここに来る前にサカキを探したけど……見つからなかった」
「詳しい状況を聞かせてくれ。霊夢は最初どんな感じだった?」
考え事をしていると、瀬多の眼前に奇妙な人形が映った。
思わず仰け反りそうになる。が、彼女が意思を持っているという魔理沙の説明を受けてどうにか納得する。
上海人形が慌ただしそうにジェスチャーを繰り返す。自分に何かを伝えたいのだということが何とか分かった。
「……霊夢が、サカキに洗脳されたんだ」
魔理沙がぼそりと呟いた。
「霊夢って、あの霊夢か」
レミリア達から話は聞いている。イゴールの存在がなければ、この殺し合いの中でも最重要人物だといえるだろう。
「洗脳? どういうことだ?」
レミリアが尋ねるも魔理沙は首を振った。
「あたしも詳しくは知らない。ここに来る前にサカキを探したけど……見つからなかった」
「詳しい状況を聞かせてくれ。霊夢は最初どんな感じだった?」
瀬多は上海人形にだけ集中し、少しずつだが情報を集めていく。
少し時間はかかったが、おおよその状況を把握できた瀬多は、思わずため息をついた。
上海人形が紙を掲げる。助けて、と汚い字で書かれてあった。
「……霊夢は、……今は助けない」
「シャ、シャンハーイ!」
「なんでだよ! 霊夢は今も苦しんでるかもしれないんだぞ!!」
「サカキといったな。そいつは……危険過ぎる。この殺し合いの中で、俺が考え得る最も危険なタイプの人間だ。
人を扇動し、自分を祭り上げるだけの何かを奴は持っている。それはつまり、この殺し合いの中でも組織を作れるだけの技量を持っているということだ。
この殺し合いは、乗った人間でもチームを組んでいる奴が目立つ。全体の流れとしてそうなれば、必然他の奴もチームを作る。そんな状況の中でサカキのような奴がいれば、どれほどの戦力をもつか分かったものじゃない。奴の最も危険な素質。それは……カリスマだ」
幽香とレミリアがぴくりと反応する。
「カリスマは時に、人を恐ろしいほどに魅了する。戦力が揃っているとはいえ、俺達には荷が重い相手だ。もう何人か他に部下を揃えているかもしれない」
「ふん。私に比べれば、その男のカリスマなんて薄っぺらなものだろうがな」
レミリアが鼻で笑う。
しかし、瀬多からすればその逆だ。レミリアよりも、サカキの方が人の上に立つという意味では優秀な存在だと瀬多は考えていた。
レミリアのカリスマに自分が惹かれていることは事実だ。しかし、それでもそこには種族として決定的な差がある。元来妖怪や悪魔は一人で生き、一人で死ぬ種族だ。吸血鬼ともなれば主従関係を結ぶことも多いだろうが、それでも人間のように社会で生きているわけではない。
サカキは人間だ。社会という常に優劣を比べられ、能力のある者が伸し上がる資本主義の中で生きてきた人間だ。
カリスマとは単純な主従関係ではない。組織を作り、その全てを統率する意思と力がカリスマなのだ。
レミリアにそれがないとは言わない。だが、組織を束ねる力はサカキの方が圧倒的に上なのは間違いない。
「……とにかく、俺はそのサカキとは停戦する形が妥当だと思う。聞けばなかなか頭が回るようだし、おそらくは短絡的に優勝を狙っているわけでもないだろう。こちらが脱出の目途さえつければ、向こうも乗って来るに違いない。霊夢はその時に助け出せばいい」
「そんな悠長な考え方で霊夢が助け出せるとは思えない。今すぐどうにかするべきだ!」
「そう言うが、サカキのいる場所が見つからなかったからこっちに来たんだろう? まずどうやってサカキを見つけ出す気だ?」
「そ、それは……」
瀬多の正論に、魔理沙も言葉を濁した。
「奴が霊夢を生かしたのは、部下が欲しかったこともあるだろうが、彼女を脱出の鍵とみているからだ。だから殺さない。いや、殺せない。
カルト宗教の真似事も、奴にとっては一種の賭けだったんだろう。自分を敵対視するが殺せない人間。それをどうにか黙らせる必要があった。サカキがとった苦肉の策はうまくはまったが、もしも失敗すれば彼女は殺されていただろう」
殺されていた。その一言に魔理沙も上海人形も肩を震わせた。
「……言い方が悪かった。とにかく、霊夢が現段階で殺されていないということは、サカキに彼女を生かす意思があるということだ。魔理沙。気持ちは分かるが、あまり短絡的に物を考えるな。死期を早めるだけだぞ。こういう時こそ落ち着いて──」
「おいレミリア! それに幽香も! お前ら霊夢とは仲が良かっただろ! 一緒に来て助け出してくれよ!!」
「興味ないな」
「同じく」
「なっ!」
二人の返答はあまりにも冷めたものだった。
「自分の尻も拭えない奴を助けに行く義理はない。それに、サカキとかいう奴の犬にされているんだろ? そんな奴に助け出す価値があるとは思えないな」
「私も概ねそこの吸血鬼と同感よ。まあそれに、こいつらを守ってやるっていう一応の理由もあるしね」
「ああ、私もだ。それ、私も」
「真似しないでよ」
「そっちこそ」
少し時間はかかったが、おおよその状況を把握できた瀬多は、思わずため息をついた。
上海人形が紙を掲げる。助けて、と汚い字で書かれてあった。
「……霊夢は、……今は助けない」
「シャ、シャンハーイ!」
「なんでだよ! 霊夢は今も苦しんでるかもしれないんだぞ!!」
「サカキといったな。そいつは……危険過ぎる。この殺し合いの中で、俺が考え得る最も危険なタイプの人間だ。
人を扇動し、自分を祭り上げるだけの何かを奴は持っている。それはつまり、この殺し合いの中でも組織を作れるだけの技量を持っているということだ。
この殺し合いは、乗った人間でもチームを組んでいる奴が目立つ。全体の流れとしてそうなれば、必然他の奴もチームを作る。そんな状況の中でサカキのような奴がいれば、どれほどの戦力をもつか分かったものじゃない。奴の最も危険な素質。それは……カリスマだ」
幽香とレミリアがぴくりと反応する。
「カリスマは時に、人を恐ろしいほどに魅了する。戦力が揃っているとはいえ、俺達には荷が重い相手だ。もう何人か他に部下を揃えているかもしれない」
「ふん。私に比べれば、その男のカリスマなんて薄っぺらなものだろうがな」
レミリアが鼻で笑う。
しかし、瀬多からすればその逆だ。レミリアよりも、サカキの方が人の上に立つという意味では優秀な存在だと瀬多は考えていた。
レミリアのカリスマに自分が惹かれていることは事実だ。しかし、それでもそこには種族として決定的な差がある。元来妖怪や悪魔は一人で生き、一人で死ぬ種族だ。吸血鬼ともなれば主従関係を結ぶことも多いだろうが、それでも人間のように社会で生きているわけではない。
サカキは人間だ。社会という常に優劣を比べられ、能力のある者が伸し上がる資本主義の中で生きてきた人間だ。
カリスマとは単純な主従関係ではない。組織を作り、その全てを統率する意思と力がカリスマなのだ。
レミリアにそれがないとは言わない。だが、組織を束ねる力はサカキの方が圧倒的に上なのは間違いない。
「……とにかく、俺はそのサカキとは停戦する形が妥当だと思う。聞けばなかなか頭が回るようだし、おそらくは短絡的に優勝を狙っているわけでもないだろう。こちらが脱出の目途さえつければ、向こうも乗って来るに違いない。霊夢はその時に助け出せばいい」
「そんな悠長な考え方で霊夢が助け出せるとは思えない。今すぐどうにかするべきだ!」
「そう言うが、サカキのいる場所が見つからなかったからこっちに来たんだろう? まずどうやってサカキを見つけ出す気だ?」
「そ、それは……」
瀬多の正論に、魔理沙も言葉を濁した。
「奴が霊夢を生かしたのは、部下が欲しかったこともあるだろうが、彼女を脱出の鍵とみているからだ。だから殺さない。いや、殺せない。
カルト宗教の真似事も、奴にとっては一種の賭けだったんだろう。自分を敵対視するが殺せない人間。それをどうにか黙らせる必要があった。サカキがとった苦肉の策はうまくはまったが、もしも失敗すれば彼女は殺されていただろう」
殺されていた。その一言に魔理沙も上海人形も肩を震わせた。
「……言い方が悪かった。とにかく、霊夢が現段階で殺されていないということは、サカキに彼女を生かす意思があるということだ。魔理沙。気持ちは分かるが、あまり短絡的に物を考えるな。死期を早めるだけだぞ。こういう時こそ落ち着いて──」
「おいレミリア! それに幽香も! お前ら霊夢とは仲が良かっただろ! 一緒に来て助け出してくれよ!!」
「興味ないな」
「同じく」
「なっ!」
二人の返答はあまりにも冷めたものだった。
「自分の尻も拭えない奴を助けに行く義理はない。それに、サカキとかいう奴の犬にされているんだろ? そんな奴に助け出す価値があるとは思えないな」
「私も概ねそこの吸血鬼と同感よ。まあそれに、こいつらを守ってやるっていう一応の理由もあるしね」
「ああ、私もだ。それ、私も」
「真似しないでよ」
「そっちこそ」