いるはずのない真犯人(2)◆dGUiIvN2Nw
「いい加減にしろ!!」
喧嘩に発展しそうになったところを魔理沙が一喝した。
「価値があるとかないとか、そんな簡単に決めんなよ! 命だぞ!? 人一人の命がかかってんだぞ! どうしてそんな冷酷でいられるんだ!!」
「魔理沙。落ち着け。その二人は何も間違っていない。ただ、俺達と価値観が違うだけだ。俺達よりも遥かに長く生きているんだから、命そのものに執着が薄くなるのは仕方がない」
人と違い、一人でも生きていくことが可能な二人。それは当然、自分以外の生命を軽んじることに繋がる。
未だ短い付き合いだが、瀬多はそのことを感覚的に理解していた。彼女達は冷酷なわけではない。ただ他人に興味がない。それだけだ。
「ふん。幻想郷に住むお前なんかより、よっぽどよく分かってるじゃないか」
「ま、理解力があることは認めるわ」
「素直に欲しいと言ったらどうだ? まぁ、あげないけど」
「主ごっこなんてするほど子供じゃないって何回言えばわかるのかしら?」
再び喧嘩が始まった。
魔理沙も、もう止める気すら起きないようだった。
「価値があるとかないとか、そんな簡単に決めんなよ! 命だぞ!? 人一人の命がかかってんだぞ! どうしてそんな冷酷でいられるんだ!!」
「魔理沙。落ち着け。その二人は何も間違っていない。ただ、俺達と価値観が違うだけだ。俺達よりも遥かに長く生きているんだから、命そのものに執着が薄くなるのは仕方がない」
人と違い、一人でも生きていくことが可能な二人。それは当然、自分以外の生命を軽んじることに繋がる。
未だ短い付き合いだが、瀬多はそのことを感覚的に理解していた。彼女達は冷酷なわけではない。ただ他人に興味がない。それだけだ。
「ふん。幻想郷に住むお前なんかより、よっぽどよく分かってるじゃないか」
「ま、理解力があることは認めるわ」
「素直に欲しいと言ったらどうだ? まぁ、あげないけど」
「主ごっこなんてするほど子供じゃないって何回言えばわかるのかしら?」
再び喧嘩が始まった。
魔理沙も、もう止める気すら起きないようだった。
「魔理沙。全員が生きてここから脱出するための提案だ。霊夢のことは──」
「お前に指図されるいわれはない!」
魔理沙はぴしゃりと言い放った。
「……本当に、なんとかならないんですか?」
今まで黙っていたアドレーヌが、瀬多の袖を引っ張って言った。
「アドレーヌ……」
「サカキさんを倒すことはできなくても、どうにか霊夢さんだけでも取り返すことはできないんでしょうか」
「無理とは言わない。だが、危険過ぎる。霊夢は本気でサカキを神だと思っているんだろう。なら、いくらこっちが理を説いても、彼女はおそらく乗ってこない。
……ただの人質なら、俺だって諦めようなんて言わない。だが、こちらに対し、本気で殺しにかかってくる人間を捕獲しようってなれば、必ず死傷者が出る。それだけは避けたい」
アドレーヌはそれで黙ってしまった。自分が戦うわけじゃないのだ。無責任にそれでも救い出しましょうなんて言えるわけがない。
「魔理沙ちゃん。あの──」
足立の鼻先すれすれに幽香の蹴りが飛ぶ。その蹴りは壁を突き抜けていた。
「喋るな」
「お、おい幽香!!」
「あら、ごめんなさい。ゴキブリがいたものだから」
「今あきらかに喋るなって言っただろうが!! 次やったら許さないからな!」
「……許さない? 許さないから何だって言うの? まさか、あんた私を倒せるとか思ってる訳? はっ。笑っちゃうわね」
魔理沙は見るからに歯噛みしている。
悪い傾向だ。ますますこちらとの溝が深まる。
「幽香。挑発は止めてくれ。これ以上関係が悪くなるのは双方の為にならない」
「相手の為になる必要なんて私にはないんだけどね。……まあいいわ。仕切りはあんたの役目だし」
そう言って幽香は大人しく引き下がる。
だが、そのこと自体が魔理沙には気に入らない。
「……なんなんだ。幽香もレミリアも、どうしてこんな奴の言う事を真に受けて、あたしを信じてくれないんだ」
同じ幻想郷の住人同士、どこか通じ合うところがあると信じていた。なのに、レミリア達は瀬多にばかり肩を持つ。
苛々するなと言う方が無理な話だ。
「お前ら、そんな奴らじゃなかったろ。大した力もない人間なんて、どうとも考えないような奴らだったじゃんか。まともに相手してる人間なんて霊夢くらいのもんだったろ!? なのにどうしてそんな奴を信じるんだよ!」
「そろそろ鬱陶しいわよ、霧雨魔理沙。あなたの勝手な解釈で私を縛らないで頂戴」
それは魔理沙にとって、決別を決定的なものにさせる一言だった。
(こいつら妖怪なんて所詮そんなもんだ。結局誰が死のうが知ったことじゃないんだ。信じれるわけがない。こんな奴らに信用されてる瀬多もだ。
そうだ。こいつは信用できない。こいつは……あまりにも冷静過ぎる。落ち着き過ぎている。こいつの話が正しいなら、こいつの仲間は今もどこかで危険に曝されているかもしれないってことじゃないか。
なのにどうだ? こいつの余裕は。あたしはずっと気が気じゃなかったっていうのに。今もこんなに焦ってるのに。全然そんな素振りを見せない。
焦るのが普通じゃないのか。仲間が、本当に仲間がピンチなら、焦ってすぐにでも助けに行こうとするのが普通じゃないか。こんな奴が信用できるはずがない!)
「魔理沙。俺を信じろとは言わない。だが、いい加減冷静になってくれ。ここでいがみ合っていてもなんにもならない」
「あたしに指図するなって言ってるだろ! お前は冷血漢だ。卑劣で、仲間なんて何とも思ってない悪魔だ! そうやって足立を貶めて、今度はあたしも──」
「お前に指図されるいわれはない!」
魔理沙はぴしゃりと言い放った。
「……本当に、なんとかならないんですか?」
今まで黙っていたアドレーヌが、瀬多の袖を引っ張って言った。
「アドレーヌ……」
「サカキさんを倒すことはできなくても、どうにか霊夢さんだけでも取り返すことはできないんでしょうか」
「無理とは言わない。だが、危険過ぎる。霊夢は本気でサカキを神だと思っているんだろう。なら、いくらこっちが理を説いても、彼女はおそらく乗ってこない。
……ただの人質なら、俺だって諦めようなんて言わない。だが、こちらに対し、本気で殺しにかかってくる人間を捕獲しようってなれば、必ず死傷者が出る。それだけは避けたい」
アドレーヌはそれで黙ってしまった。自分が戦うわけじゃないのだ。無責任にそれでも救い出しましょうなんて言えるわけがない。
「魔理沙ちゃん。あの──」
足立の鼻先すれすれに幽香の蹴りが飛ぶ。その蹴りは壁を突き抜けていた。
「喋るな」
「お、おい幽香!!」
「あら、ごめんなさい。ゴキブリがいたものだから」
「今あきらかに喋るなって言っただろうが!! 次やったら許さないからな!」
「……許さない? 許さないから何だって言うの? まさか、あんた私を倒せるとか思ってる訳? はっ。笑っちゃうわね」
魔理沙は見るからに歯噛みしている。
悪い傾向だ。ますますこちらとの溝が深まる。
「幽香。挑発は止めてくれ。これ以上関係が悪くなるのは双方の為にならない」
「相手の為になる必要なんて私にはないんだけどね。……まあいいわ。仕切りはあんたの役目だし」
そう言って幽香は大人しく引き下がる。
だが、そのこと自体が魔理沙には気に入らない。
「……なんなんだ。幽香もレミリアも、どうしてこんな奴の言う事を真に受けて、あたしを信じてくれないんだ」
同じ幻想郷の住人同士、どこか通じ合うところがあると信じていた。なのに、レミリア達は瀬多にばかり肩を持つ。
苛々するなと言う方が無理な話だ。
「お前ら、そんな奴らじゃなかったろ。大した力もない人間なんて、どうとも考えないような奴らだったじゃんか。まともに相手してる人間なんて霊夢くらいのもんだったろ!? なのにどうしてそんな奴を信じるんだよ!」
「そろそろ鬱陶しいわよ、霧雨魔理沙。あなたの勝手な解釈で私を縛らないで頂戴」
それは魔理沙にとって、決別を決定的なものにさせる一言だった。
(こいつら妖怪なんて所詮そんなもんだ。結局誰が死のうが知ったことじゃないんだ。信じれるわけがない。こんな奴らに信用されてる瀬多もだ。
そうだ。こいつは信用できない。こいつは……あまりにも冷静過ぎる。落ち着き過ぎている。こいつの話が正しいなら、こいつの仲間は今もどこかで危険に曝されているかもしれないってことじゃないか。
なのにどうだ? こいつの余裕は。あたしはずっと気が気じゃなかったっていうのに。今もこんなに焦ってるのに。全然そんな素振りを見せない。
焦るのが普通じゃないのか。仲間が、本当に仲間がピンチなら、焦ってすぐにでも助けに行こうとするのが普通じゃないか。こんな奴が信用できるはずがない!)
「魔理沙。俺を信じろとは言わない。だが、いい加減冷静になってくれ。ここでいがみ合っていてもなんにもならない」
「あたしに指図するなって言ってるだろ! お前は冷血漢だ。卑劣で、仲間なんて何とも思ってない悪魔だ! そうやって足立を貶めて、今度はあたしも──」
「訂正してください!!」
アドレーヌが一際大きな声で叫んだ。彼女らしからぬ、怒気さえ含んだ叫びだった。
「瀬多さんはそんな人じゃありません! お友達が殺されてないってわかって、本当に安心んしてたんです。こんな、何もできない私のことだって心配してくれたんです。
そんな人を、そんな優しい人を疑うなんてもう止めてください! 瀬多さんはみんなを助けようと必死なんです!」
「……アドレーヌ。もういい。もういいから」
「こんな私でも、できることがあるって。一緒にいてほしいって本気で言ってくれたんです。みんなの気持ちになって、一緒になって悩んでくれる本当に優しい人なんです。
なのにどうして信じられないんですか! 瀬多さんは、あなただって救おうとしてるんですよ!?」
アドレーヌの必死な訴えに、さすがの魔理沙も目を背けざるを得なかった。
「……アドレーヌ。少し落ち着きなさい」
懸命に涙を堪えていたアドレーヌの肩に幽香は優しく触れる。
途端に、涙が止め処なく溢れてきた。
「……どうして、みんな仲良くできないんですか。私たちは、みんな同じ気持ちなのに。……なのに、なんで……、なんで疑い合わなきゃいけないんですか」
アドレーヌは、まるで子供のようにむせび泣いた。
(……あたしだって、泣きたい気分だよ)
魔理沙は心の中で呟いた。
足立が何か言おうと口を開きかけたが、幽香の人を殺しかねない睨みに一蹴された。
結局、情報収集では何の進展もなかった。
瀬多がイゴールについて話し、殺し合いは攻略できると強く主張したが、それは魔理沙の「信用できない」という言葉で一蹴された。
足立は足立で、何を考えているのか瀬多には読めなかったが、大した変化はないように思えた。
二つのグループの険悪感は変わらず、状況も何も変わらず、今はただ沈黙だけが流れていた。
ドクン
突然、瀬多の右腕が脈打った。
「ぐ……!」
「瀬多。どうかしたか?」
右手の紋章がじくじくと痛み出したのだ。
どうやらさっさと行動しろと急かしているらしい。こんな状況で動き回るのは得策ではないが、こうなっては仕方がなかった。
「紋章がうずき出した。もう少しお互いの気持ちを整理してからにしたかったが、仕方がない。今からクリスタルを回収する」
瀬多はそう言って立ち上がる。
「魔理沙。……それに足立。悪いがお前達にも同行してもらう」
足立はもとより反論するつもりはないらしく、大人しく頷いた。それを見て、魔理沙も渋々ながら頷いた。
「瀬多さんはそんな人じゃありません! お友達が殺されてないってわかって、本当に安心んしてたんです。こんな、何もできない私のことだって心配してくれたんです。
そんな人を、そんな優しい人を疑うなんてもう止めてください! 瀬多さんはみんなを助けようと必死なんです!」
「……アドレーヌ。もういい。もういいから」
「こんな私でも、できることがあるって。一緒にいてほしいって本気で言ってくれたんです。みんなの気持ちになって、一緒になって悩んでくれる本当に優しい人なんです。
なのにどうして信じられないんですか! 瀬多さんは、あなただって救おうとしてるんですよ!?」
アドレーヌの必死な訴えに、さすがの魔理沙も目を背けざるを得なかった。
「……アドレーヌ。少し落ち着きなさい」
懸命に涙を堪えていたアドレーヌの肩に幽香は優しく触れる。
途端に、涙が止め処なく溢れてきた。
「……どうして、みんな仲良くできないんですか。私たちは、みんな同じ気持ちなのに。……なのに、なんで……、なんで疑い合わなきゃいけないんですか」
アドレーヌは、まるで子供のようにむせび泣いた。
(……あたしだって、泣きたい気分だよ)
魔理沙は心の中で呟いた。
足立が何か言おうと口を開きかけたが、幽香の人を殺しかねない睨みに一蹴された。
結局、情報収集では何の進展もなかった。
瀬多がイゴールについて話し、殺し合いは攻略できると強く主張したが、それは魔理沙の「信用できない」という言葉で一蹴された。
足立は足立で、何を考えているのか瀬多には読めなかったが、大した変化はないように思えた。
二つのグループの険悪感は変わらず、状況も何も変わらず、今はただ沈黙だけが流れていた。
ドクン
突然、瀬多の右腕が脈打った。
「ぐ……!」
「瀬多。どうかしたか?」
右手の紋章がじくじくと痛み出したのだ。
どうやらさっさと行動しろと急かしているらしい。こんな状況で動き回るのは得策ではないが、こうなっては仕方がなかった。
「紋章がうずき出した。もう少しお互いの気持ちを整理してからにしたかったが、仕方がない。今からクリスタルを回収する」
瀬多はそう言って立ち上がる。
「魔理沙。……それに足立。悪いがお前達にも同行してもらう」
足立はもとより反論するつもりはないらしく、大人しく頷いた。それを見て、魔理沙も渋々ながら頷いた。
「おい瀬多。おんぶ」
行動時はおんぶしてもらうということが定着しているのだろうか。レミリアは恥ずかし気もなく言った。
「……この手でそんなことが出来る筈ないだろ。それに、もう十分回復しているように見える」
「関係ない。私がやれと言ったなら、素直に実行するのが部下の務めだろう?」
「そう言うがな。無理なものは無理なんだ」
「無理を押し通すのが私の部下だ。やらないと私を襲おうとしたこと全員にばらすぞ、ロリコン」
「襲ってない! あれはお前が──」
「私が何?」
瀬多は言葉を濁し、大きく空咳をする。
まさか襲われたのが自分だとも言えない。
「まぁ何も言えないわよねぇ。欲情していたのは事実だし」
(おいレミリア! いい加減にその話題は止めてくれ! ただでさえ魔理沙に疑われてるっていうのに、余計に不審感が強くなる)
そろそろ視線が痛くなってくる頃だ。
「あーはいはい。止めてあげるわよ、しょうがないわね。じゃあ、はい」
「何だその手は」
「おんぶ。まさか何の対価もなしに自分の要求だけ通そうなんて思ってないわよね?」
「…………」
瀬多は大きくため息をつき、レミリアに背中を貸してやった。
地下への扉を潜り、六人は階段を降りて行った。幽香とアドレーヌはしんがりを務め、レミリアを担いだ瀬多が前を歩く。
魔理沙は、瀬多達が冗談を言ったり言われたりしているのを見て、彼らが本物の信頼関係を築いているのだと感じた。
(……ふざけんな。瀬多の奴がいったい何をして信頼を得たのか知らないが、あたしがそれを認めるわけにはいかない)
階段を降り、扉を開ける。
そこには数十メートルほどの通路があり、その奥に三つ目の扉が立ち塞がっていた。
今までのものよりも一層頑丈なようで、扉の厚さも先程までのものと比べると倍以上ある。
「この奥に一つ目のクリスタルがあるんですか?」
「おそらくは」
「蒸し暑いな。もう水もないってのに」
魔理沙がぶつぶつと独り言を呟く。
瀬多は、奥の扉へと近づき、それを開けようと力を入れた。
…………
開かない。
扉はびくともしなかった。
「どういうこと? 何かこの扉を開ける方法があるわけ?」
「そんなもの攻略本には載ってなかったが……。何らかのアイテムが必要なのか?」
調べると中央にモニターがあることが分かる。しかし用途は不明。
(……これは明らかに通信手段の一つとして設置されている。どこか他の施設と連絡を取り合えるということか? それとも……)
レミリアが瀬多の背中から降り、扉に手をかける。
「……僅かながら魔力を感じる。恐らくは結界のようなものが張ってあるんだろう」
「どうにかできないのか?」
「そういうデリケートな魔力操作は不得意だ。私も、そっちの自称最強の妖怪もな」
そう言われれば妙に納得するところがある。レミリアも幽香も、性格的にも能力的にもパワータイプだ。そういうことに関して門外漢の瀬多でも、彼女達は結界を作ったり解除したりするには向いていないと感じる。
しばらくの間、押したり引いたりと扉を入念に調べていたが、結界を破壊できる方法は見つからなかった。
三十分ほど調べ、さてどうしようかという話になった時だった。
グゥ~~
奇妙な音が通路に木霊し、魔理沙が顔を赤くする。
それを見て、瀬多はふっと微笑んだ。
「そういえば、色々とごたついていて朝食もまだだったな。ここで少し食事を取るか」
「契約の方はだいじょうぶなんですか?」
「ああ。地下に入ってからは落ち着いている。しばらくは大丈夫そうだ」
瀬多の提案に魔理沙が反対できる訳もなく、それはすぐに可決された。
行動時はおんぶしてもらうということが定着しているのだろうか。レミリアは恥ずかし気もなく言った。
「……この手でそんなことが出来る筈ないだろ。それに、もう十分回復しているように見える」
「関係ない。私がやれと言ったなら、素直に実行するのが部下の務めだろう?」
「そう言うがな。無理なものは無理なんだ」
「無理を押し通すのが私の部下だ。やらないと私を襲おうとしたこと全員にばらすぞ、ロリコン」
「襲ってない! あれはお前が──」
「私が何?」
瀬多は言葉を濁し、大きく空咳をする。
まさか襲われたのが自分だとも言えない。
「まぁ何も言えないわよねぇ。欲情していたのは事実だし」
(おいレミリア! いい加減にその話題は止めてくれ! ただでさえ魔理沙に疑われてるっていうのに、余計に不審感が強くなる)
そろそろ視線が痛くなってくる頃だ。
「あーはいはい。止めてあげるわよ、しょうがないわね。じゃあ、はい」
「何だその手は」
「おんぶ。まさか何の対価もなしに自分の要求だけ通そうなんて思ってないわよね?」
「…………」
瀬多は大きくため息をつき、レミリアに背中を貸してやった。
地下への扉を潜り、六人は階段を降りて行った。幽香とアドレーヌはしんがりを務め、レミリアを担いだ瀬多が前を歩く。
魔理沙は、瀬多達が冗談を言ったり言われたりしているのを見て、彼らが本物の信頼関係を築いているのだと感じた。
(……ふざけんな。瀬多の奴がいったい何をして信頼を得たのか知らないが、あたしがそれを認めるわけにはいかない)
階段を降り、扉を開ける。
そこには数十メートルほどの通路があり、その奥に三つ目の扉が立ち塞がっていた。
今までのものよりも一層頑丈なようで、扉の厚さも先程までのものと比べると倍以上ある。
「この奥に一つ目のクリスタルがあるんですか?」
「おそらくは」
「蒸し暑いな。もう水もないってのに」
魔理沙がぶつぶつと独り言を呟く。
瀬多は、奥の扉へと近づき、それを開けようと力を入れた。
…………
開かない。
扉はびくともしなかった。
「どういうこと? 何かこの扉を開ける方法があるわけ?」
「そんなもの攻略本には載ってなかったが……。何らかのアイテムが必要なのか?」
調べると中央にモニターがあることが分かる。しかし用途は不明。
(……これは明らかに通信手段の一つとして設置されている。どこか他の施設と連絡を取り合えるということか? それとも……)
レミリアが瀬多の背中から降り、扉に手をかける。
「……僅かながら魔力を感じる。恐らくは結界のようなものが張ってあるんだろう」
「どうにかできないのか?」
「そういうデリケートな魔力操作は不得意だ。私も、そっちの自称最強の妖怪もな」
そう言われれば妙に納得するところがある。レミリアも幽香も、性格的にも能力的にもパワータイプだ。そういうことに関して門外漢の瀬多でも、彼女達は結界を作ったり解除したりするには向いていないと感じる。
しばらくの間、押したり引いたりと扉を入念に調べていたが、結界を破壊できる方法は見つからなかった。
三十分ほど調べ、さてどうしようかという話になった時だった。
グゥ~~
奇妙な音が通路に木霊し、魔理沙が顔を赤くする。
それを見て、瀬多はふっと微笑んだ。
「そういえば、色々とごたついていて朝食もまだだったな。ここで少し食事を取るか」
「契約の方はだいじょうぶなんですか?」
「ああ。地下に入ってからは落ち着いている。しばらくは大丈夫そうだ」
瀬多の提案に魔理沙が反対できる訳もなく、それはすぐに可決された。
食事時だけという条件の元、瀬多の腕も一時の自由を得て、それぞれ支給されたパンを取り出した。
「……まず。なんだよこりゃ」
魔理沙の呟きに呼応して、瀬多も一口食べてみる。
……確かに味気のないパンだった。
「この私にこんなものを食べさせようなんて、主催者はやっぱり殺さなくちゃいけないわね」
まさかそんな理由で殺意を向けられるとは主催者も思っていなかっただろう。
「街に行ったら材料くらいはありそうですよね」
「肝心の作る奴がいないけど」
「料理なら得意だ」
「へぇ。瀬多さんってなんでもできるんですね」
「知ってるぞ、瀬多。そういうのをそっちの世界で番長と言うんだろう?」
「言わない」
「番長ですか。かっこいいですね」
「いや、言わないんだって」
「照れることないじゃない」
「照れてない! 本当に言わないんだ!」
「ロリコン番長」
「いい加減その話題から離れてくれ!!」
四人揃って雑談に花を咲かせている。あの幽香でさえもその輪の中に入っていた。
その輪の中心にいるのは、間違いなく瀬多総司だった。
(……わかってたんだ。本当は、あいつが悪い奴じゃないってことくらいは。けど、あたしが霊夢のことが心配で浮足たってるってのに、大して年齢も離れていないあいつは落ち着き払ってた。冷静で、自分が何をすべきかを全部分かってた。
……あたしは、焦ってたのかもしれない。足立を罵倒されて、変な対抗意識を燃やしてたのかもしれない。
よくよく考えれば、足立よりも瀬多の方が理屈に合ってる。足立が嘘をついてると考えた方が自然だ。……でも、それでもあたしは信じたい。足立を信じたいんだ)
この場所は本当に喉が渇く。
魔理沙が、自分のペットボトルに少しでも水は入っていないかと飲み口を下に向ける。だが、そこからは一滴も水は流れてこなかった。
魔理沙は思わずため息をついた。
「よければやろうか?」
その一部始終を見ていた瀬多が、魔理沙に声をかけた。
「……別にいらない」
「ちょうど開封していないやつが余っていたんだ。こんなところで意地張って、肝心な時に調子崩したら元も子もないぞ」
そう言って、瀬多はペットボトルを投げ渡す。
「……なんで余ってんだよ」
それを片手で受け止めながら、そう返した。どうしても険のある言い方になってしまう。
「……大勢、死んだからな」
魔理沙は、そう言って目を逸らす瀬多を見て、ようやく理解した。
瀬多は、強くなければいけなかったんだ。遠くの仲間よりも、目の前の仲間を優先しないといけないほど、追い詰められた状況にいたんだ。
魔理沙は思った。このクリスタルを手に入れたら、少し冷静になって考えてみよう。足立の行動、言動、それらをもう少し客観的に見てみよう。
そう思い、ペットボトルの蓋を開け、口にしようとした時だった。
「……まず。なんだよこりゃ」
魔理沙の呟きに呼応して、瀬多も一口食べてみる。
……確かに味気のないパンだった。
「この私にこんなものを食べさせようなんて、主催者はやっぱり殺さなくちゃいけないわね」
まさかそんな理由で殺意を向けられるとは主催者も思っていなかっただろう。
「街に行ったら材料くらいはありそうですよね」
「肝心の作る奴がいないけど」
「料理なら得意だ」
「へぇ。瀬多さんってなんでもできるんですね」
「知ってるぞ、瀬多。そういうのをそっちの世界で番長と言うんだろう?」
「言わない」
「番長ですか。かっこいいですね」
「いや、言わないんだって」
「照れることないじゃない」
「照れてない! 本当に言わないんだ!」
「ロリコン番長」
「いい加減その話題から離れてくれ!!」
四人揃って雑談に花を咲かせている。あの幽香でさえもその輪の中に入っていた。
その輪の中心にいるのは、間違いなく瀬多総司だった。
(……わかってたんだ。本当は、あいつが悪い奴じゃないってことくらいは。けど、あたしが霊夢のことが心配で浮足たってるってのに、大して年齢も離れていないあいつは落ち着き払ってた。冷静で、自分が何をすべきかを全部分かってた。
……あたしは、焦ってたのかもしれない。足立を罵倒されて、変な対抗意識を燃やしてたのかもしれない。
よくよく考えれば、足立よりも瀬多の方が理屈に合ってる。足立が嘘をついてると考えた方が自然だ。……でも、それでもあたしは信じたい。足立を信じたいんだ)
この場所は本当に喉が渇く。
魔理沙が、自分のペットボトルに少しでも水は入っていないかと飲み口を下に向ける。だが、そこからは一滴も水は流れてこなかった。
魔理沙は思わずため息をついた。
「よければやろうか?」
その一部始終を見ていた瀬多が、魔理沙に声をかけた。
「……別にいらない」
「ちょうど開封していないやつが余っていたんだ。こんなところで意地張って、肝心な時に調子崩したら元も子もないぞ」
そう言って、瀬多はペットボトルを投げ渡す。
「……なんで余ってんだよ」
それを片手で受け止めながら、そう返した。どうしても険のある言い方になってしまう。
「……大勢、死んだからな」
魔理沙は、そう言って目を逸らす瀬多を見て、ようやく理解した。
瀬多は、強くなければいけなかったんだ。遠くの仲間よりも、目の前の仲間を優先しないといけないほど、追い詰められた状況にいたんだ。
魔理沙は思った。このクリスタルを手に入れたら、少し冷静になって考えてみよう。足立の行動、言動、それらをもう少し客観的に見てみよう。
そう思い、ペットボトルの蓋を開け、口にしようとした時だった。
「待て」
制止の声がかかり、魔理沙は口元まで近づけたペットボトルを止めた。
「なんだよいきなり」
「開封した時の音がしなかった」
「あぁ?」
「キャップとリングの接合部分が千切れる音がしなかった。俺はそのペットボトルには口をつけてない。元の持ち主もだ」
「……その元の持ち主がお前の気付かないところで飲んでたんじゃないか?」
「よく見ろ。水は減ってない」
全員が、その異様な空気にしんと静まりかえっていた。
「……飲もうと思って開けたんだけど、飲まなかった……とか」
魔理沙の言葉を半ば無視して、瀬多は彼女に渡したペットボトルを回収した。
「俺には、むしろ水かさが増えているような気さえする」
タプンタプンと揺れる水を凝視する。
ちょうど、隅に鼠がいることを確認すると、瀬多はそこに水を流した。
鼠が寄って来て、それを一口舐める。
途端、そのネズミは身体を痙攣させ動かなくなった。
四人揃って雑談に花を咲かせている。あの幽香でさえもその輪の中に入っていた。
その輪の中心にいるのは、間違いなく瀬多総司だった。
(……わかってたんだ。本当は、あいつが悪い奴じゃないってことくらいは。けど、あたしが霊夢のことが心配で浮足たってるってのに、大して年齢も離れていないあいつは落ち着き払ってた。冷静で、自分が何をすべきかを全部分かってた。
……あたしは、焦ってたのかもしれない。足立を罵倒されて、変な対抗意識を燃やしてたのかもしれない。
よくよく考えれば、足立よりも瀬多の方が理屈に合ってる。足立が嘘をついてると考えた方が自然だ。……でも、それでもあたしは信じたい。足立を信じたいんだ)
この場所は本当に喉が渇く。
魔理沙が、自分のペットボトルに少しでも水は入っていないかと飲み口を下に向ける。だが、そこからは一滴も水は流れてこなかった。
魔理沙は思わずため息をついた。
「よければやろうか?」
その一部始終を見ていた瀬多が、魔理沙に声をかけた。
「……別にいらない」
「ちょうど開封していないやつが余っていたんだ。こんなところで意地張って、肝心な時に調子崩したら元も子もないぞ」
そう言って、瀬多はペットボトルを投げ渡す。
「……なんで余ってんだよ」
それを片手で受け止めながら、そう返した。どうしても険のある言い方になってしまう。
「……大勢、死んだからな」
魔理沙は、そう言って目を逸らす瀬多を見て、ようやく理解した。
瀬多は、強くなければいけなかったんだ。遠くの仲間よりも、目の前の仲間を優先しないといけないほど、追い詰められた状況にいたんだ。
魔理沙は思った。このクリスタルを手に入れたら、少し冷静になって考えてみよう。足立の行動、言動、それらをもう少し客観的に見てみよう。
そう思い、ペットボトルの蓋を開け、口にしようとした時だった。
「なんだよいきなり」
「開封した時の音がしなかった」
「あぁ?」
「キャップとリングの接合部分が千切れる音がしなかった。俺はそのペットボトルには口をつけてない。元の持ち主もだ」
「……その元の持ち主がお前の気付かないところで飲んでたんじゃないか?」
「よく見ろ。水は減ってない」
全員が、その異様な空気にしんと静まりかえっていた。
「……飲もうと思って開けたんだけど、飲まなかった……とか」
魔理沙の言葉を半ば無視して、瀬多は彼女に渡したペットボトルを回収した。
「俺には、むしろ水かさが増えているような気さえする」
タプンタプンと揺れる水を凝視する。
ちょうど、隅に鼠がいることを確認すると、瀬多はそこに水を流した。
鼠が寄って来て、それを一口舐める。
途端、そのネズミは身体を痙攣させ動かなくなった。
四人揃って雑談に花を咲かせている。あの幽香でさえもその輪の中に入っていた。
その輪の中心にいるのは、間違いなく瀬多総司だった。
(……わかってたんだ。本当は、あいつが悪い奴じゃないってことくらいは。けど、あたしが霊夢のことが心配で浮足たってるってのに、大して年齢も離れていないあいつは落ち着き払ってた。冷静で、自分が何をすべきかを全部分かってた。
……あたしは、焦ってたのかもしれない。足立を罵倒されて、変な対抗意識を燃やしてたのかもしれない。
よくよく考えれば、足立よりも瀬多の方が理屈に合ってる。足立が嘘をついてると考えた方が自然だ。……でも、それでもあたしは信じたい。足立を信じたいんだ)
この場所は本当に喉が渇く。
魔理沙が、自分のペットボトルに少しでも水は入っていないかと飲み口を下に向ける。だが、そこからは一滴も水は流れてこなかった。
魔理沙は思わずため息をついた。
「よければやろうか?」
その一部始終を見ていた瀬多が、魔理沙に声をかけた。
「……別にいらない」
「ちょうど開封していないやつが余っていたんだ。こんなところで意地張って、肝心な時に調子崩したら元も子もないぞ」
そう言って、瀬多はペットボトルを投げ渡す。
「……なんで余ってんだよ」
それを片手で受け止めながら、そう返した。どうしても険のある言い方になってしまう。
「……大勢、死んだからな」
魔理沙は、そう言って目を逸らす瀬多を見て、ようやく理解した。
瀬多は、強くなければいけなかったんだ。遠くの仲間よりも、目の前の仲間を優先しないといけないほど、追い詰められた状況にいたんだ。
魔理沙は思った。このクリスタルを手に入れたら、少し冷静になって考えてみよう。足立の行動、言動、それらをもう少し客観的に見てみよう。
そう思い、ペットボトルの蓋を開け、口にしようとした時だった。
「待て」
制止の声がかかり、魔理沙は口元まで近づけたペットボトルを止めた。
「なんだよいきなり」
「開封した時の音がしなかった」
「あぁ?」
「キャップとリングの接合部分が千切れる音がしなかった。俺はそのペットボトルには口をつけてない。元の持ち主もだ」
「……その元の持ち主がお前の気付かないところで飲んでたんじゃないか?」
「よく見ろ。水は減ってない」
全員が、その異様な空気にしんと静まりかえっていた。
「……飲もうと思って開けたんだけど、飲まなかった……とか」
魔理沙の言葉を半ば無視して、瀬多は彼女に渡したペットボトルを回収した。
「俺には、むしろ水かさが増えているような気さえする」
タプンタプンと揺れる水を凝視する。
ちょうど、隅に鼠がいることを確認すると、瀬多はそこに水を流した。
鼠が寄って来て、それを一口舐める。
途端、そのネズミは身体を痙攣させ動かなくなった。
「ひっ!」
「全員距離を置いてその場を動くな!! いいな! 全員だぞ!」
皆が皆、動揺や訝しさを隠せずにいた。
「幽香」
その一言で幽香は察した。首を横に振る。
「……一切目を離してなかったわ。小細工する時間なんてなかった」
「魔理沙! 足立から離れろ!! アドレーヌと幽香もだ!!」
戸惑いながらも、全員が瀬多の言う通りに動く。
「どういうことだ、瀬多。説明しろ」
「俺にも分からない。だが確かなことは、この中に毒を入れた犯人がいるってことだ。それが分かるまで誰とも接触するな」
努めて冷静に、瀬多は言った。しかしその内心は困惑とパニックで一杯だった。
(何だ。何がどうなっている。この状況でこんなことが起こるなんて、有り得ないはずなのに)
足立がこの段階で事を起こすなんて考えられない。ただでさえ自分が疑われている状態で、さらに自分の立場を危うくするようなことをするはずがない。
魔理沙もそうだ。毒を入れておいて、自分でその水を飲もうとするはずがない。
(となると、……犯人は、俺達の中にいるということになる)
俺達。それは、瀬多、レミリア、幽香、アドレーヌ。この四人だ。
有り得ない。
それだけは有り得ない。
状況的には確かに出来ただろう。誰にでも毒を入れる機会はあったように思える。
毒を持っていたアドレーヌは無論そうだし、幽香やレミリアだってバックからこっそりと取り出して毒を入れることは可能だ。
しかし、それは有り得ない。そう思えるだけの信頼関係がある。
あの窮地を共に脱したという信頼関係は、限りなく強固なものだ。多少の疑心ならともかく、毒を入れるなどという離反行為をこの四人の誰かがするはずない。
(くそっ! 考えがまとまらない。どういう風に考えればいいのかも見当がつかない!)
足立も魔理沙も毒を入れることはまず不可能。
かといって、アドレーヌやレミリア、幽香も毒を入れるなんて考えられない。
しかしどこかに犯人はいるはずなのだ。有り得ないなどと言っていられない。何故なら、実際にそれは起こったのだ。
「……お前だな、瀬多」
魔理沙の声だ。しかし、瀬多は片手を額に添え、地面を睨みつけるだけだ。
「このペットボトルはお前があたしに渡した。お前以外に誰が毒を入れれるんだ!」
「私の部下を疑うことは、私を疑うことと同義だぞ。霧雨魔理沙。それに、瀬多が入れたのならわざわざ止める必要もない。今頃お前はあの鼠のように転がっていたはずだ」
「途中で思いなおしたのかもしれない。あのまま殺してたらボロが出るって考えたのかも。そうだよ。きっとそうだ!!」
「ち、違います! 瀬多さんはそんなことしません!」
「じゃあ誰が毒なんて入れたんだよ!!」
一瞬ひるみ、しかしすぐに口を開ける。
瀬多はアドレーヌが言わんとすることを理解し、思わず顔をあげた。
「よせ!! アドレーヌそれは──」
「わ、私が毒を持ってました。だから、一番に疑われるべきは私です!」
再び、静まり返る。
瀬多は思わず自分を殴りたくなった。
最悪の状況だ。これが最悪といわずして何と言う。
「……お、お前が殺したのかよ。無害そうな顔して、なんて奴だ……」
足立がアドレーヌから離れるために後ずさる。
「ち、違います! 私は……」
「違うって、何が違うんだよ。魔理沙ちゃんを殺そうとしておいてよくそんな──」
突然、幽香がつかつかと足立に向かって歩き出した。
「ま、待て幽香!! 早まるな!!」
瀬多の制止も聞かず、幽香は足立の胸倉を掴み、そのまま壁に叩きつける。
「がぁ!!」
「もう一度言ってみろ糞餓鬼」
「足立を離せ! 人殺し!!」
魔理沙の指先に光が収束する。それが魔理沙の攻撃だと理解するのに時間はいらなかった。
「魔理沙!! 止めろ!!」
「幽香さん!! 私はだいじょうぶだから! だから落ち着いてください!!」
止められない。
言葉を紡いだところで止められるものではない。
レミリアも幽香や魔理沙を止める気はないようだった。
当然だ。レミリアからすれば犯人でないと確信できるのは自分とその部下である瀬多総司。他の四人は等しく毒を入れた可能性があるのだ。ならばどちらに加勢することもできない。ただ黙って成り行きを見守るだけだ。
(ここで魔理沙に幽香を攻撃させる訳にはいかない!)
幽香との決別が確実となれば、待っているのは惨劇だけだ。
瀬多はとっさに走り出していた。
魔理沙の指から、弾幕が発射された。
「……瀬多」
「なんだよいきなり」
「開封した時の音がしなかった」
「あぁ?」
「キャップとリングの接合部分が千切れる音がしなかった。俺はそのペットボトルには口をつけてない。元の持ち主もだ」
「……その元の持ち主がお前の気付かないところで飲んでたんじゃないか?」
「よく見ろ。水は減ってない」
全員が、その異様な空気にしんと静まりかえっていた。
「……飲もうと思って開けたんだけど、飲まなかった……とか」
魔理沙の言葉を半ば無視して、瀬多は彼女に渡したペットボトルを回収した。
「俺には、むしろ水かさが増えているような気さえする」
タプンタプンと揺れる水を凝視する。
ちょうど、隅に鼠がいることを確認すると、瀬多はそこに水を流した。
鼠が寄って来て、それを一口舐める。
途端、そのネズミは身体を痙攣させ動かなくなった。
「ひっ!」
「全員距離を置いてその場を動くな!! いいな! 全員だぞ!」
皆が皆、動揺や訝しさを隠せずにいた。
「幽香」
その一言で幽香は察した。首を横に振る。
「……一切目を離してなかったわ。小細工する時間なんてなかった」
「魔理沙! 足立から離れろ!! アドレーヌと幽香もだ!!」
戸惑いながらも、全員が瀬多の言う通りに動く。
「どういうことだ、瀬多。説明しろ」
「俺にも分からない。だが確かなことは、この中に毒を入れた犯人がいるってことだ。それが分かるまで誰とも接触するな」
努めて冷静に、瀬多は言った。しかしその内心は困惑とパニックで一杯だった。
(何だ。何がどうなっている。この状況でこんなことが起こるなんて、有り得ないはずなのに)
足立がこの段階で事を起こすなんて考えられない。ただでさえ自分が疑われている状態で、さらに自分の立場を危うくするようなことをするはずがない。
魔理沙もそうだ。毒を入れておいて、自分でその水を飲もうとするはずがない。
(となると、……犯人は、俺達の中にいるということになる)
俺達。それは、瀬多、レミリア、幽香、アドレーヌ。この四人だ。
有り得ない。
それだけは有り得ない。
状況的には確かに出来ただろう。誰にでも毒を入れる機会はあったように思える。
毒を持っていたアドレーヌは無論そうだし、幽香やレミリアだってバックからこっそりと取り出して毒を入れることは可能だ。
しかし、それは有り得ない。そう思えるだけの信頼関係がある。
あの窮地を共に脱したという信頼関係は、限りなく強固なものだ。多少の疑心ならともかく、毒を入れるなどという離反行為をこの四人の誰かがするはずない。
(くそっ! 考えがまとまらない。どういう風に考えればいいのかも見当がつかない!)
足立も魔理沙も毒を入れることはまず不可能。
かといって、アドレーヌやレミリア、幽香も毒を入れるなんて考えられない。
しかしどこかに犯人はいるはずなのだ。有り得ないなどと言っていられない。何故なら、実際にそれは起こったのだ。
「……お前だな、瀬多」
魔理沙の声だ。しかし、瀬多は片手を額に添え、地面を睨みつけるだけだ。
「このペットボトルはお前があたしに渡した。お前以外に誰が毒を入れれるんだ!」
「私の部下を疑うことは、私を疑うことと同義だぞ。霧雨魔理沙。それに、瀬多が入れたのならわざわざ止める必要もない。今頃お前はあの鼠のように転がっていたはずだ」
「途中で思いなおしたのかもしれない。あのまま殺してたらボロが出るって考えたのかも。そうだよ。きっとそうだ!!」
「ち、違います! 瀬多さんはそんなことしません!」
「じゃあ誰が毒なんて入れたんだよ!!」
一瞬ひるみ、しかしすぐに口を開ける。
瀬多はアドレーヌが言わんとすることを理解し、思わず顔をあげた。
「よせ!! アドレーヌそれは──」
「わ、私が毒を持ってました。だから、一番に疑われるべきは私です!」
再び、静まり返る。
瀬多は思わず自分を殴りたくなった。
最悪の状況だ。これが最悪といわずして何と言う。
「……お、お前が殺したのかよ。無害そうな顔して、なんて奴だ……」
足立がアドレーヌから離れるために後ずさる。
「ち、違います! 私は……」
「違うって、何が違うんだよ。魔理沙ちゃんを殺そうとしておいてよくそんな──」
突然、幽香がつかつかと足立に向かって歩き出した。
「ま、待て幽香!! 早まるな!!」
瀬多の制止も聞かず、幽香は足立の胸倉を掴み、そのまま壁に叩きつける。
「がぁ!!」
「もう一度言ってみろ糞餓鬼」
「足立を離せ! 人殺し!!」
魔理沙の指先に光が収束する。それが魔理沙の攻撃だと理解するのに時間はいらなかった。
「魔理沙!! 止めろ!!」
「幽香さん!! 私はだいじょうぶだから! だから落ち着いてください!!」
止められない。
言葉を紡いだところで止められるものではない。
レミリアも幽香や魔理沙を止める気はないようだった。
当然だ。レミリアからすれば犯人でないと確信できるのは自分とその部下である瀬多総司。他の四人は等しく毒を入れた可能性があるのだ。ならばどちらに加勢することもできない。ただ黙って成り行きを見守るだけだ。
(ここで魔理沙に幽香を攻撃させる訳にはいかない!)
幽香との決別が確実となれば、待っているのは惨劇だけだ。
瀬多はとっさに走り出していた。
魔理沙の指から、弾幕が発射された。
「……瀬多」
魔理沙と幽香、その間に割り込んだ瀬多が倒れていた。
「……はっ。はっはっは。ああ、そうか。魔理沙。お前、そんなに……殺 さ れ た い の か」
紅く光る槍が形作られ、レミリアの手に収まる。
それを見て思わず退く魔理沙に何の躊躇もなく、その槍先を向ける。
ぎらつく瞳は、明らかな殺意を魔理沙に対して向けていた。
「私はもう部下を殺させないと誓った。それは契約だ。分かるな? 魔理沙。悪魔にとって契約は命よりも大事なものだ。貴様は私の吸血鬼としての尊厳を穢した。万死に値する」
その槍が投擲されようとする時だった。
「……て。……ま、て。レミリア」
ぴたりとレミリアの動きが止まる。
ごほっ、ごほっ、とせき込みながらも、瀬多はよろよろと立ち上がった。
「俺は……生きてる。だから、魔理沙に手を出すのは待ってくれ」
瀬多が生きているのは幸運故だった。保険として腹にナガンを仕舞っておいたのが、うまく弾幕に当たって衝撃を吸収してくれたのだ。
おかげでナガンは使いものにならなくなったが、瀬多は軽い打撲程度で事なきを得た。
「あ……」
「命拾いしたとでも思ってるのか? 霧雨魔理沙」
レミリアの槍が魔理沙の喉元をかすめる。
「貴様が私の部下に手を出した事実は変わらない。このまま縊り殺してやってもいいんだぞ」
その白い腕を魔理沙の首へと伸ばす。が、それは瀬多の手によって防がれた。
「レミリア頼む。俺の言う事を聞いてくれ」
これ以上事を荒立てる訳にはいかない。
レミリアの殺意さえ秘めた睨みに一瞬怯むも、それでも目を離さずにじっと見つめる。
「これ以上いざこざを起こす必要はない。誰も得をしない、何の意味もない行為だ。俺は生きてる。それで十分だろ」
レミリアは瀬多の腕を払いのけると、そのまま魔理沙から少し離れたところで腕を組んだ。
「全員俺の言う事を聞けッ!! 幽香もその手を離すんだ!」
「お前の指示に従う義理はない」
瀬多はイザナギを出現させ、幽香の足元に雷を放つ。
攻撃を当てるつもりはない。ただの牽制だ。
幽香が瀬多を睨みつける。
「……何のつもり?」
「いい加減冷静になれって言ってるんだ! ここで戦闘になったら、お前でもアドレーヌを守りきれるか分からないぞ!!」
全員を見回し、瀬多はあらん限りの声で叫ぶ。
「全員だ! 全員離れろ! 相手の攻撃範囲から離れた場所に移動するんだ!!」
幽香は舌打ちすると、足立から手を離してそのまま距離を取った。
「げほっ。げほっ。……ったく、冗談じゃないよ。こんな──」
「それ以上喋ったら殺す」
幽香の鋭い恫喝に、足立は黙り込んだ。
「……はっ。はっはっは。ああ、そうか。魔理沙。お前、そんなに……殺 さ れ た い の か」
紅く光る槍が形作られ、レミリアの手に収まる。
それを見て思わず退く魔理沙に何の躊躇もなく、その槍先を向ける。
ぎらつく瞳は、明らかな殺意を魔理沙に対して向けていた。
「私はもう部下を殺させないと誓った。それは契約だ。分かるな? 魔理沙。悪魔にとって契約は命よりも大事なものだ。貴様は私の吸血鬼としての尊厳を穢した。万死に値する」
その槍が投擲されようとする時だった。
「……て。……ま、て。レミリア」
ぴたりとレミリアの動きが止まる。
ごほっ、ごほっ、とせき込みながらも、瀬多はよろよろと立ち上がった。
「俺は……生きてる。だから、魔理沙に手を出すのは待ってくれ」
瀬多が生きているのは幸運故だった。保険として腹にナガンを仕舞っておいたのが、うまく弾幕に当たって衝撃を吸収してくれたのだ。
おかげでナガンは使いものにならなくなったが、瀬多は軽い打撲程度で事なきを得た。
「あ……」
「命拾いしたとでも思ってるのか? 霧雨魔理沙」
レミリアの槍が魔理沙の喉元をかすめる。
「貴様が私の部下に手を出した事実は変わらない。このまま縊り殺してやってもいいんだぞ」
その白い腕を魔理沙の首へと伸ばす。が、それは瀬多の手によって防がれた。
「レミリア頼む。俺の言う事を聞いてくれ」
これ以上事を荒立てる訳にはいかない。
レミリアの殺意さえ秘めた睨みに一瞬怯むも、それでも目を離さずにじっと見つめる。
「これ以上いざこざを起こす必要はない。誰も得をしない、何の意味もない行為だ。俺は生きてる。それで十分だろ」
レミリアは瀬多の腕を払いのけると、そのまま魔理沙から少し離れたところで腕を組んだ。
「全員俺の言う事を聞けッ!! 幽香もその手を離すんだ!」
「お前の指示に従う義理はない」
瀬多はイザナギを出現させ、幽香の足元に雷を放つ。
攻撃を当てるつもりはない。ただの牽制だ。
幽香が瀬多を睨みつける。
「……何のつもり?」
「いい加減冷静になれって言ってるんだ! ここで戦闘になったら、お前でもアドレーヌを守りきれるか分からないぞ!!」
全員を見回し、瀬多はあらん限りの声で叫ぶ。
「全員だ! 全員離れろ! 相手の攻撃範囲から離れた場所に移動するんだ!!」
幽香は舌打ちすると、足立から手を離してそのまま距離を取った。
「げほっ。げほっ。……ったく、冗談じゃないよ。こんな──」
「それ以上喋ったら殺す」
幽香の鋭い恫喝に、足立は黙り込んだ。
全員がそれぞれ離れた場所に移動した。しかしそれは冷静な判断があったからかといわれるとそうではない。全員が全員疑心暗鬼に捉われている。
だがここで乱闘を起こすことは誰にとっても得策ではなかった。いつ誰が襲ってくるか分からない状況。その中で瀬多の言い分が自分達の目的と重なったから実行しただけ。殺されたくない。ただそれだけの理由。
「皆、とりあえず落ち着いてくれ。このままだと本当に死人が出る」
「そ、そんなこと言って……お前が犯人なのは、わ、分かってるんだ」
がたがたと震えながら魔理沙が言う。
「いいから落ち着くんだ。俺はなんともない。大丈夫だった。仮に俺が犯人じゃなかったとしても、お前を恨んだりなんてしない。だから、短絡的にならないでくれ」
魔理沙は人を撃った。下手をすればそれは死んでいてもおかしくなかった。魔理沙に人間を殺した経験などあるはずもない。だったらその攻撃に正当性を持たせようとするのは必然だ。魔理沙は既に、瀬多総司が悪だという妄想に捉われていた。
「嘘だッ! そんなの嘘だ!! お、お前が……あたしを殺そうと……」
埒があかない。
瀬多は何とかこの場を収め、犯人探しに尽力したかった。だが、魔理沙が自分を犯人だと決めつけてしまっている今、自分がこの場を取り仕切るのは無理があった。
「あ、あたしはお前の言う事なんか聞かない! いつまた寝首をかかれるかわかったもんじゃない! あ、あたしは……あたしは……」
「分かった」
そう言葉を発したのは瀬多ではなく、レミリア・スカーレットだった。
「お前がそれほど言うのなら、ここは私が取り仕切る。全員その場を一ミリたりとも動いてみろ。この私が直々に地獄へ招待してやる」
槍を掲げ、自らの力をアピールするように笑う。
それは取り仕切るというにはあまりに乱暴な発想だが、それ故に強制力が高いものだった。
「霧雨魔理沙と足立透。貴様らは毒を入れる機会がなかった。そうなれば我々四人の中の誰かが犯人だということになる」
滔々とレミリアは語る。
「が、私は、風見幽香は犯人ではないと確信している。奴は私と同類だ。毒なんていうふざけたもので誰かを殺めたりすれば、妖怪としての品位を下げることになる。それは我々にとって命よりも大切なことだ。よって、奴は犯人じゃない。
……おい瀬多総司。お前は犯人じゃないんだな?」
「……ああ。誓って犯人なんかじゃない」
「ならばそれも信じよう。部下の言う事を信じるのは主として当然の事だからな。……となれば、私の中で犯人は一人しかいなくなってしまう」
思わず、アドレーヌは身を縮こまらせた。
それを見てレミリアはにやりと笑う。
「そう怖がるなよアドレーヌ。だからといって、短絡的にお前を犯人だと決めつけ、殺しにかかるなんてことはしない。そもそも、風見幽香からしたら私と同じ理屈で犯人を瀬多総司に絞っているはずだからな」
レミリアの言う通りなのだろう。幽香はじっと瀬多を見つめていた。
「ならばここでクエスチョンだ。一体誰が犯人なのか。幽香は私とアドレーヌは犯人ではないと確信しているし、私は瀬多総司と幽香は犯人ではないと確信している。
おそらくアドレーヌは犯人を私に絞っているだろうし、瀬多は……まぁ、どうせ混乱してるんだろう? 甘ちゃんのお前らしいよ」
クックと、まるで今のこの状況を楽しんでるかのように笑った。
「というわけで、私は探偵役を降りる。誰もかれも犯人では有り得ないと考えられるのなら、そこから犯人を割り出すのは……まぁ、はっきり言ってめんどくさい。だからここは私の一押し、ワトソン君に解決してもらおうじゃないか。誰とは言わんがな」
「瀬多なんかに任せてられるわけないだろ! また何かしでかしてくるに決まってる!!」
「む? 何故瀬多だと気付いた?」
あれで気づかれないと思っていたのか。冗談で言ってるのか本気で言ってるのか、まったく分からない。
「……まあいいか。いちいち了解を取る必要もないことだしな。というわけだ、瀬多。ワトソン役として、見事この謎を解き明かしてみろ」
結局はそこに辿り着くのか。瀬多は頭を抱えたくなった。
「ふざけるな!! あたしはあいつが犯人だと思ってるんだぞ! こんな奴に──」
「ならばお前がそれを立証してみせればいい。今この場を仕切っているのは私だ。その私が、瀬多総司に探偵役をバトンタッチした。これに意義を唱えるのは、この私に盾突いていることと同義だぞ」
めちゃくちゃな発想だ。だが、魔理沙は何も言えない。この場でレミリアを敵に回すのが自殺行為だということを魔理沙は理解しているのだ。
魔理沙だけではない。足立も、幽香も、それを理解している。
図らずも、この場は戦力的に拮抗していた。幽香が自身の直感を信じて瀬多に攻撃を仕掛ければ、レミリアがそれを迎撃する。逆もまたしかりだ。だが、それは二人にとって最も避けたい出来事だ。
レミリアに、先程までのおちゃらけた言動や表情は消えた。じっと瀬多を見つめるその真摯な瞳は、彼女の本気の心が確かにあった。
「瀬多。しっかりしろ。誰も死なせたくないのなら、お前がこの事件を解決するんだ。……信用してるぞ」
それっきり、レミリアは黙ってしまった。全員の一挙手一投足を観察し、本当に一ミリでも動いた人間がいれば牽制にかかるつもりなのだろう。
……信用している。そんなことを言われれば、本気を出すしかない。
瀬多は自分の頬をぴしゃりと叩き、精神を統一する。
(……惑わされるな。事実だけを見るんだ)
天井を見上げ大きく深呼吸する。
どんなふざけた結末でも、信じ難い事実でも、それでも解決しなければ、待っているのはより血生臭い最悪の未来だ。
正真正銘、本物の殺し合いだ。
(それだけはあってはならない。絶対に!)
瀬多は、この事件の真相を解明すべく、頭を働かせた。いるはずのない犯人を探して。
まず、事実だけを見て考えよう。心証まで挟み込んだらキリがない。
毒が入れられてあったのは瀬多総司の持つペットボトル。その毒は腐毒といわれる致死性の非情に高いもので、アドレーヌが所持していた。
(……ああ、くそ。あんなもの捨てていたらよかったんだ。変に欲を見せずにさっさと処分していたらこんなことには……)
しかし、そう言っていても始まらない。後悔なら後でいくらでもできる。再び頭を切り替える。
「全員、自分の食糧をよく調べてくれ。他にも毒を入れられてるものがあるかもしれない」
またいざこざがあるかと身構えたが、皆素直に瀬多に従った。当然といえば当然だ。誰だって死にたくはない。
だがここで乱闘を起こすことは誰にとっても得策ではなかった。いつ誰が襲ってくるか分からない状況。その中で瀬多の言い分が自分達の目的と重なったから実行しただけ。殺されたくない。ただそれだけの理由。
「皆、とりあえず落ち着いてくれ。このままだと本当に死人が出る」
「そ、そんなこと言って……お前が犯人なのは、わ、分かってるんだ」
がたがたと震えながら魔理沙が言う。
「いいから落ち着くんだ。俺はなんともない。大丈夫だった。仮に俺が犯人じゃなかったとしても、お前を恨んだりなんてしない。だから、短絡的にならないでくれ」
魔理沙は人を撃った。下手をすればそれは死んでいてもおかしくなかった。魔理沙に人間を殺した経験などあるはずもない。だったらその攻撃に正当性を持たせようとするのは必然だ。魔理沙は既に、瀬多総司が悪だという妄想に捉われていた。
「嘘だッ! そんなの嘘だ!! お、お前が……あたしを殺そうと……」
埒があかない。
瀬多は何とかこの場を収め、犯人探しに尽力したかった。だが、魔理沙が自分を犯人だと決めつけてしまっている今、自分がこの場を取り仕切るのは無理があった。
「あ、あたしはお前の言う事なんか聞かない! いつまた寝首をかかれるかわかったもんじゃない! あ、あたしは……あたしは……」
「分かった」
そう言葉を発したのは瀬多ではなく、レミリア・スカーレットだった。
「お前がそれほど言うのなら、ここは私が取り仕切る。全員その場を一ミリたりとも動いてみろ。この私が直々に地獄へ招待してやる」
槍を掲げ、自らの力をアピールするように笑う。
それは取り仕切るというにはあまりに乱暴な発想だが、それ故に強制力が高いものだった。
「霧雨魔理沙と足立透。貴様らは毒を入れる機会がなかった。そうなれば我々四人の中の誰かが犯人だということになる」
滔々とレミリアは語る。
「が、私は、風見幽香は犯人ではないと確信している。奴は私と同類だ。毒なんていうふざけたもので誰かを殺めたりすれば、妖怪としての品位を下げることになる。それは我々にとって命よりも大切なことだ。よって、奴は犯人じゃない。
……おい瀬多総司。お前は犯人じゃないんだな?」
「……ああ。誓って犯人なんかじゃない」
「ならばそれも信じよう。部下の言う事を信じるのは主として当然の事だからな。……となれば、私の中で犯人は一人しかいなくなってしまう」
思わず、アドレーヌは身を縮こまらせた。
それを見てレミリアはにやりと笑う。
「そう怖がるなよアドレーヌ。だからといって、短絡的にお前を犯人だと決めつけ、殺しにかかるなんてことはしない。そもそも、風見幽香からしたら私と同じ理屈で犯人を瀬多総司に絞っているはずだからな」
レミリアの言う通りなのだろう。幽香はじっと瀬多を見つめていた。
「ならばここでクエスチョンだ。一体誰が犯人なのか。幽香は私とアドレーヌは犯人ではないと確信しているし、私は瀬多総司と幽香は犯人ではないと確信している。
おそらくアドレーヌは犯人を私に絞っているだろうし、瀬多は……まぁ、どうせ混乱してるんだろう? 甘ちゃんのお前らしいよ」
クックと、まるで今のこの状況を楽しんでるかのように笑った。
「というわけで、私は探偵役を降りる。誰もかれも犯人では有り得ないと考えられるのなら、そこから犯人を割り出すのは……まぁ、はっきり言ってめんどくさい。だからここは私の一押し、ワトソン君に解決してもらおうじゃないか。誰とは言わんがな」
「瀬多なんかに任せてられるわけないだろ! また何かしでかしてくるに決まってる!!」
「む? 何故瀬多だと気付いた?」
あれで気づかれないと思っていたのか。冗談で言ってるのか本気で言ってるのか、まったく分からない。
「……まあいいか。いちいち了解を取る必要もないことだしな。というわけだ、瀬多。ワトソン役として、見事この謎を解き明かしてみろ」
結局はそこに辿り着くのか。瀬多は頭を抱えたくなった。
「ふざけるな!! あたしはあいつが犯人だと思ってるんだぞ! こんな奴に──」
「ならばお前がそれを立証してみせればいい。今この場を仕切っているのは私だ。その私が、瀬多総司に探偵役をバトンタッチした。これに意義を唱えるのは、この私に盾突いていることと同義だぞ」
めちゃくちゃな発想だ。だが、魔理沙は何も言えない。この場でレミリアを敵に回すのが自殺行為だということを魔理沙は理解しているのだ。
魔理沙だけではない。足立も、幽香も、それを理解している。
図らずも、この場は戦力的に拮抗していた。幽香が自身の直感を信じて瀬多に攻撃を仕掛ければ、レミリアがそれを迎撃する。逆もまたしかりだ。だが、それは二人にとって最も避けたい出来事だ。
レミリアに、先程までのおちゃらけた言動や表情は消えた。じっと瀬多を見つめるその真摯な瞳は、彼女の本気の心が確かにあった。
「瀬多。しっかりしろ。誰も死なせたくないのなら、お前がこの事件を解決するんだ。……信用してるぞ」
それっきり、レミリアは黙ってしまった。全員の一挙手一投足を観察し、本当に一ミリでも動いた人間がいれば牽制にかかるつもりなのだろう。
……信用している。そんなことを言われれば、本気を出すしかない。
瀬多は自分の頬をぴしゃりと叩き、精神を統一する。
(……惑わされるな。事実だけを見るんだ)
天井を見上げ大きく深呼吸する。
どんなふざけた結末でも、信じ難い事実でも、それでも解決しなければ、待っているのはより血生臭い最悪の未来だ。
正真正銘、本物の殺し合いだ。
(それだけはあってはならない。絶対に!)
瀬多は、この事件の真相を解明すべく、頭を働かせた。いるはずのない犯人を探して。
まず、事実だけを見て考えよう。心証まで挟み込んだらキリがない。
毒が入れられてあったのは瀬多総司の持つペットボトル。その毒は腐毒といわれる致死性の非情に高いもので、アドレーヌが所持していた。
(……ああ、くそ。あんなもの捨てていたらよかったんだ。変に欲を見せずにさっさと処分していたらこんなことには……)
しかし、そう言っていても始まらない。後悔なら後でいくらでもできる。再び頭を切り替える。
「全員、自分の食糧をよく調べてくれ。他にも毒を入れられてるものがあるかもしれない」
またいざこざがあるかと身構えたが、皆素直に瀬多に従った。当然といえば当然だ。誰だって死にたくはない。
全員確認を終える。毒が入ったものはなかった。
(つまり、犯人は俺のペットボトルにだけ毒を入れたということか。……それは偶然か? それとも故意か?)
おそらくは故意だろう。波乱が犯人の目的だったとしてもこのグループでイニシアチブを取っていた瀬多総司を狙うのは理に適っている。だが、そんなものを望む奴なんて……。
思わず瀬多は首を振った。
(まただ。発想がずれてるぞ、瀬多総司! 今は事実確認に集中しろ!)
「……支給品を確認したい。魔理沙、足立。武器は携帯してくれていい。支給品を見せてくれないか?」
「ふざけんな! そんなもん認められるわけないだろ!!」
「……どうしてもか?」
「当たり前──」
そこで魔理沙を制止したのは、意外にも足立透だった。
「魔理沙ちゃん。いいじゃないか。ここで支給品を見せて、身の潔白を証明しよう」
「けどな足立! 支給品はあたし達にとって──」
「わかってるよ。でも、ここで駄々を捏ねてても始まらない。彼……瀬多君に全てを託そう」
「あいつはあたしを殺そうとしたんだぞ!!」
「……僕は違うと思う。彼はそんなことをする人じゃないよ」
(……なんだ? 足立は何を企んでいる? まだしらを切るつもりでいるのか? それとも……)
瀬多には一つ、足立に関する仮説をたてていた。それは、『マヨナカテレビ事件が起こる前に足立がここに連れて来られた』というものだ。ここにいる足立は正確には自分の知る足立ではない。その仮説が成り立てば、先程からの発言も納得できるものがある。
だが、瀬多はその可能性は限りなく低いだろうと判断していた。何故なら、そんな手の込んだことをしても、主催者側は何も面白くないからだ。誰も殺してない、清廉潔白な足立透をこの殺し合いに放り込んでも、何も面白くない。
人を騙し、ペルソナを使って参加者を皆殺しにしようと考える足立透と、正義に燃える一介の警察官である足立透。どちらが殺し合いをより面白いものにするかというと、間違いなく前者だ。
つまり、足立には別の理由があった。ここで瀬多総司を味方する理由が足立にはあった。
なんということはない。足立が犯人でないのなら、この状況は面白いはずがない。
ただでさえパワーバランスはこちらが上回っているというのに、こんなところで本物のバトルロイヤルでも開始すれば、まず足立は死亡する。現段階でそれなりに発言権を持つ瀬多総司に犯人を見つけ出させる。それが足立の目的に一番適う方法なのだ。
(癪ではある。だが、ここは乗らせてもらうぞ。足立)
足立の説得があり、魔理沙は渋々自分の支給品を見せた。
首輪探知器に拡声器。攻略本に載っていたモンスターボールに帽子。
どれもこの事件と関わりがあるとは思えない。
足立の持ち物もそういう点では変わりなかった。
銃に大剣、それに『あなぬけのヒモ』という脱出アイテム。
「アドレーヌ。悪いが君もだ」
アドレーヌが怖々と頷く。これからどうなるのか、不安で堪らないのだろう。
(……くそ。彼女を疑わなければならないのが一番辛い)
絶対に殺し合いに乗らない。そう信じて託した毒薬が、今彼女を苦しめている。
瀬多にとって、それは後悔してもし足りないことだった。
アドレーヌのデイバックを漁ると、すぐに瓶が手に触れた。自分にしか見えないように、バックの外には取り出さず中身を確認する。
瓶は空だった。
分かっていたこととはいえ、それは瀬多にとってショックなことだった。
「瀬多君、だったよね。中身、見せてくれないかな?」
足立の猫なで声が、非情に癪に障る。が、こんなところで冷静さを失っている場合ではない。
「……これは俺が彼女に渡したものだ。それを──」
「瀬多。余計な口を挟むな」
レミリアがぴしゃりと言い放つ。
そう言われれば、瀬多はもうなにも言えない。
レミリアはこう言いたいのだ。先入観を捨てて犯人を探せと。
瀬多は逡巡したものの、結局その空の瓶を全員に見せた。
「これで決まりだな」
足立の声が通路全体に響き渡った。
「いや、まだだ」
すぐさま瀬多は反論する。
「アドレーヌのバックから誰かが盗んだ可能性がまだ捨て切れてない。だからまだだ」
「それ、今から立証するわけ? どっちにしたって確かな証拠なんて見つかりっこないんだからさ。無駄だってそんなことしても。疑わしきは罰せよって言葉知ってる?」
随分と強気だ。幽香が襲いかかってもなんら不思議ではない。
それでも足立がここまで言うのは、おそらくレミリアの牽制を期待してのことだ。アドレーヌが真犯人という流れに持っていき、幽香とレミリアを潰し合わせたいのだろう。
忌々しい。忌々しいが、実に理に適った行動だ。魔理沙と違い、やはり足立は悪知恵が働く。
(誰がどんな思惑をたてていようが、今は忘れろ。今はただ真犯人を見つけ出すことだけを考えるんだ)
(つまり、犯人は俺のペットボトルにだけ毒を入れたということか。……それは偶然か? それとも故意か?)
おそらくは故意だろう。波乱が犯人の目的だったとしてもこのグループでイニシアチブを取っていた瀬多総司を狙うのは理に適っている。だが、そんなものを望む奴なんて……。
思わず瀬多は首を振った。
(まただ。発想がずれてるぞ、瀬多総司! 今は事実確認に集中しろ!)
「……支給品を確認したい。魔理沙、足立。武器は携帯してくれていい。支給品を見せてくれないか?」
「ふざけんな! そんなもん認められるわけないだろ!!」
「……どうしてもか?」
「当たり前──」
そこで魔理沙を制止したのは、意外にも足立透だった。
「魔理沙ちゃん。いいじゃないか。ここで支給品を見せて、身の潔白を証明しよう」
「けどな足立! 支給品はあたし達にとって──」
「わかってるよ。でも、ここで駄々を捏ねてても始まらない。彼……瀬多君に全てを託そう」
「あいつはあたしを殺そうとしたんだぞ!!」
「……僕は違うと思う。彼はそんなことをする人じゃないよ」
(……なんだ? 足立は何を企んでいる? まだしらを切るつもりでいるのか? それとも……)
瀬多には一つ、足立に関する仮説をたてていた。それは、『マヨナカテレビ事件が起こる前に足立がここに連れて来られた』というものだ。ここにいる足立は正確には自分の知る足立ではない。その仮説が成り立てば、先程からの発言も納得できるものがある。
だが、瀬多はその可能性は限りなく低いだろうと判断していた。何故なら、そんな手の込んだことをしても、主催者側は何も面白くないからだ。誰も殺してない、清廉潔白な足立透をこの殺し合いに放り込んでも、何も面白くない。
人を騙し、ペルソナを使って参加者を皆殺しにしようと考える足立透と、正義に燃える一介の警察官である足立透。どちらが殺し合いをより面白いものにするかというと、間違いなく前者だ。
つまり、足立には別の理由があった。ここで瀬多総司を味方する理由が足立にはあった。
なんということはない。足立が犯人でないのなら、この状況は面白いはずがない。
ただでさえパワーバランスはこちらが上回っているというのに、こんなところで本物のバトルロイヤルでも開始すれば、まず足立は死亡する。現段階でそれなりに発言権を持つ瀬多総司に犯人を見つけ出させる。それが足立の目的に一番適う方法なのだ。
(癪ではある。だが、ここは乗らせてもらうぞ。足立)
足立の説得があり、魔理沙は渋々自分の支給品を見せた。
首輪探知器に拡声器。攻略本に載っていたモンスターボールに帽子。
どれもこの事件と関わりがあるとは思えない。
足立の持ち物もそういう点では変わりなかった。
銃に大剣、それに『あなぬけのヒモ』という脱出アイテム。
「アドレーヌ。悪いが君もだ」
アドレーヌが怖々と頷く。これからどうなるのか、不安で堪らないのだろう。
(……くそ。彼女を疑わなければならないのが一番辛い)
絶対に殺し合いに乗らない。そう信じて託した毒薬が、今彼女を苦しめている。
瀬多にとって、それは後悔してもし足りないことだった。
アドレーヌのデイバックを漁ると、すぐに瓶が手に触れた。自分にしか見えないように、バックの外には取り出さず中身を確認する。
瓶は空だった。
分かっていたこととはいえ、それは瀬多にとってショックなことだった。
「瀬多君、だったよね。中身、見せてくれないかな?」
足立の猫なで声が、非情に癪に障る。が、こんなところで冷静さを失っている場合ではない。
「……これは俺が彼女に渡したものだ。それを──」
「瀬多。余計な口を挟むな」
レミリアがぴしゃりと言い放つ。
そう言われれば、瀬多はもうなにも言えない。
レミリアはこう言いたいのだ。先入観を捨てて犯人を探せと。
瀬多は逡巡したものの、結局その空の瓶を全員に見せた。
「これで決まりだな」
足立の声が通路全体に響き渡った。
「いや、まだだ」
すぐさま瀬多は反論する。
「アドレーヌのバックから誰かが盗んだ可能性がまだ捨て切れてない。だからまだだ」
「それ、今から立証するわけ? どっちにしたって確かな証拠なんて見つかりっこないんだからさ。無駄だってそんなことしても。疑わしきは罰せよって言葉知ってる?」
随分と強気だ。幽香が襲いかかってもなんら不思議ではない。
それでも足立がここまで言うのは、おそらくレミリアの牽制を期待してのことだ。アドレーヌが真犯人という流れに持っていき、幽香とレミリアを潰し合わせたいのだろう。
忌々しい。忌々しいが、実に理に適った行動だ。魔理沙と違い、やはり足立は悪知恵が働く。
(誰がどんな思惑をたてていようが、今は忘れろ。今はただ真犯人を見つけ出すことだけを考えるんだ)