権利関係

権利関係

注:このページはまだスタブです。

GURPSで扱う著作権・ライセンス等の権利関係。


目次

ガープス翻訳の翻訳権を持っているのはどこの会社ですか?

著作物の翻訳権を持っているのは、著作権者であるスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社(Steve Jackson Games, SJG)です。角川書店でも富士見書房でもグループSNEでもありません。

著作権とは、複製権・公衆送信権・譲渡権・翻訳権・翻案権……など、その著作物を利用するための様々な権利をまとめて指す言葉です(しばしば「権利の束(たば)」といわれます)。著作権は、著作権者であるSJGがこれを専有し、SJG以外の何者かが著作権をもつことはありません。当然、著作権という束の一部である翻訳権を専有するのも、SJGということになります。

では、日本の出版社(仮に角川書店)が米国の法人(仮にSJG)の著作物を日本語に翻訳して出版したい場合はどうするのかというと、一般に「SJGの有する本件著作物の翻訳権を、日本語版を出版するために角川書店が一時的に使わせてもらう」という契約を両社間で結ぶのです。これを「翻訳権の利用許諾契約」といいます。翻訳権という権利の持ち主はあくまでSJGなのですが、日本語版を出すときに角川書店に翻訳権をレンタルする(そして、日本語版が売れた印税の一部という形でレンタル料をもらう)というイメージです。
※翻訳権は譲渡(≒売買)が可能なので、日本語版を出すためにSJGが角川書店に翻訳権を売却しており、現在の翻訳権者は角川書店である、というケースも理論的には考えられます。しかし、翻訳出版の実務上、原書の出版社が翻訳権を売却してしまう場合はほぼありません。

角川書店はガープス翻訳の「独占翻訳権」を持ってるようですが、この独占翻訳権とはどんなものですか?

翻訳出版でよく用いられる「独占翻訳権」という言葉は、著作権法上の用語ではありません。角川書店とSJGとの契約によって、角川書店が「SJGが持っている翻訳権の利用を、角川書店以外の誰にも許諾しない」という約束を取り付けている状態を指す言葉です。角川書店が「翻訳権の排他的利用許諾」を得ている、ともいいます。

SJGが角川書店と翻訳権の排他的利用許諾契約を結んでいる場合、他の相手方に翻訳権の利用許諾を与えることは契約違反であり、出版の差止めや損害賠償の原因となります。

著作権法上、翻訳権をもっているのはあくまでSJGであり、角川書店ではありません。角川書店はSJGのもつ翻訳権の利用許諾をとっているにすぎません。この意味で角川書店が「独占翻訳権」をもつという言い回しには問題があるのですが、実務上、翻訳権の排他的利用許諾を得た状態を「独占翻訳権取得」「翻訳権独占」などと表現することがよくあります。

「翻訳権独占」と本に書かれていないなら、排他的利用許諾ではないのではないか、と思う方もいるかもしれませんが、それは誤りです(「翻訳権独占」と本に書かれていようがいまいが、法的には何の違いもありません)。実務上、翻訳出版は原書の版元から日本の版元への排他的利用許諾によって行われており、ほぼ例外はありません。

なお、付言すると、翻訳権の利用許諾契約は、書籍のタイトルごとに別個独立の契約として結ばれるのが通常です。『GURPS Basic Set: Characters』の契約、『GURPS Magic』の契約、というふうにです。「SJGの著作物で題名にGURPSと含まれるものの翻訳権は、今後将来にわたって全て角川書店にその利用を許諾する」というような契約は、実務ではほぼ見られません。したがって、未翻訳のサプリメントの翻訳権の利用許諾を、角川書店以外の日本の出版社に与えるということは、SJGにとって契約違反でも何でもなく、適法に可能でしょう。
※この点はSJGや角川書店に確認したわけではないので、あくまで一般論という留保つきでお読みください。

ここ数年、グループSNEがガープスの翻訳をしていないので、我慢できなくなって自分で原書のサプリメントを翻訳しました。どこで公表すればいいですか?

著作物の翻訳権を持っているのは著作権者であるSJGですから、SJGから翻訳権の利用許諾を取得してください。加えて、Web上で公開するのであれば公衆送信権と公衆送信可能化権の、紙媒体として公開するのであれば複製権と譲渡権の利用許諾を、SJGから取得してください。もっとも、そうした許諾を個人が取得できる可能性はほとんどありません。

他人の著作物を個人的にまたは家庭内等限られた範囲内で使用する場合には、複製も翻訳も翻案もまったく自由です。これを「私的使用」(著作権法30条1項)といいます(30条1項は複製だけを規定していますが、同条項の適用がある場合には43条1号もまた適用されますので、翻案等も許されます)。ただし、私的使用にいう「限られた範囲内」は、同居の家族、きわめて親しい少数の友人など相当狭く解釈されています。大学のサークルなどは、まず含まれません。

私的使用の範囲を超える行為、例えば翻訳した文章を不特定多数の他人に見せるなどの行為を適法に行うには、著作権のうち必要な一部を利用させてもらう許諾を著作権者から取得することが必要です。この許諾自体は、まだ角川書店が排他的利用許諾(「独占翻訳権」)をとっていないサプリメントであれば、SJGは誰にでも与えることができます。
※ただ、SJGは誰にでも許諾を与えることができるとはいえ、可能であれば取引実績のある角川書店に許諾をしたいと思うことは、十分考えられます。

もっとも、サプリメントは出版社であるSJGが商業出版として利益を得るためのものですから、それを無料で公開する許諾をSJGが与える可能性はほとんどないでしょう。商業翻訳では、まず成果物を有料で公開し、その利益の一部がSJGに還元されるという構図になることが大前提ですが、そのための設備・人員・ノウハウ等を個人が保有していることはほぼありません。そこで、原書の出版社が翻訳権の利用許諾契約を結ぶ相手方としては、その言語の国の出版社(のうち好条件を提示したもの)が選ばれるのです。

したがって、原書のサプリメントを自分で翻訳して、それを公開したい場合は、
  • 翻訳原稿をSJGに見せて、e23でダウンロード販売してもらえるように依頼する
  • 自分で出版社を設立し、翻訳出版の実績を積み上げ、「角川書店ではなくぜひ当社に」と売り込む
という方法が考えられるでしょう。

角川書店の「独占翻訳権」の権利の期限はいつまでですか?

通常、排他的利用許諾契約の締結日から5年から10年くらいの間で決められることが多いと思われます。また、「日本語版の絶版の時点から1年経過したら、期限がまだ残っていても利用許諾は自動的に終了する」というような条項が書かれているのがふつうです。

ここで、「絶版」という言葉の定義に注意しましょう。絶版とは、(1) 出版権が消滅しているがゆえに、本が作られ売られていない状態、または (2) 出版権が存在しているのに、本が事実上作られ売られていない状態をいいます。この出版権(著作権法79条以下)とは、ある著作物を紙媒体の本として作って売るために、出版社が著訳者から取得する権利のことです(著訳者から出版社に出版権を与えることを、厳密には「著訳者が出版社に対し出版権を設定する」といいます)。

国内の著訳者と出版社との法的関係は「貸しビルのオーナーと、そのビルを借りて営業している商店」の関係とよく似ています。著訳者がビルオーナーで、著作物がそのビルで、出版社がビルを借りている商店にあたります。商店は、借りたビルを利用して営業することで利益を得ています。オーナーは、貸し先である商店から家賃をもらうことで利益を得ています。著作者と出版社の関係も基本的に同様で、出版社は、出版権の設定を受けた著作物を印刷して売ることで利益を得ています。著訳者は、出版権を設定した先である出版社から印税をもらうことで利益を得ています。

そして、いわゆる「絶版」とは、ビルに入居者がいなくて廃墟になっているような状態です。なかでも特に、「ビルを借りる権利を誰ももっていない状態」を指して絶版ということがあります。この意味の絶版に含まれない、いわゆる「品切重版未定」とは、ビルを借りる権利を商店がもっているのに、実際には入居していなくてビルが廃墟になった状態です。
※ビルの家賃と違って、出版権を維持するために月々決まったお金を払う必要はないので、品切重版未定という状態はきわめて頻繁に起こります。法律上は、重版が途切れた版元に対しては、著者は出版権消滅請求(著作権法84条2項)という手続をとることができますが、あまり例は見かけません。

日本の出版社には「品切重版未定 (2) である、ゆえに絶版 (1) ではない」として、絶版に伴う権利消滅を食い止めようとする傾向があり、国内ではおおむねそれで通用しています。しかし、翻訳の契約書では「絶版」の定義が「1年間の売上部数が○○部未満となった年の12月31日を絶版の時とみなす」と明確に (2) を指すように書かれるのが普通なので、このような強弁は少なくともSJGに対しては成り立たない、と考えてよいでしょう。

Steve Jackson Gamesのウェブサイトを翻訳したいのですが?

Webサイトに書かれた文章も著作物ですから、その著作物の翻訳権をもっている著作権者であるSJGから、翻訳権(と公衆送信権・公衆送信可能化権)の利用許諾を取得してください。

SJGのWebサイト上の文章について、角川書店が排他的利用許諾をとっている可能性はほぼ考えられません。また、サプリメントの翻訳とは異なり、Webサイト上の文章自体はもともと無料で読めるものであり、商業出版をする設備等をもたない個人にも、SJGが翻訳権等の利用許諾を与えることはありうるでしょう。

過去にSteve Jackson Gamesのウェブサイトを翻訳する許可を貰ったサイトがあると聞いたのですが?

そのサイトを知らないので何ともいえませんが、著作権者であるSJGから翻訳権(と公衆送信権・公衆送信可能化権)の利用許諾を取得すれば、適法にWeb上で公開することが可能です。

一度絶版になってしまった日本語版ガープスのサプリメントを紙媒体として他の出版社から復刊してもらうことはできますか?

新しい版元が、SJG・グループSNE・角川書店から必要な許諾を得ることができれば、理論的にはできます。もっとも、実現は困難でしょう。

翻訳書は、原書を原著作物とする二次的著作物(著作権法2条1項11号)です。よって、原著作権者であるSJGと、この二次的著作物の著作権者であるグループSNEとの両方が著作権者となっています。この翻訳書の版元が角川書店である場合、もし「品切重版未定」の意味で絶版であるとすると、おそらく角川書店がSJGから得た翻訳権の利用許諾は終了しているでしょうが、グループSNEから設定を受けた出版権はまだ存続しているのでしょう。

この場合、新たな版元としては、
  • 原著作物の著作権者であるSJGから、翻訳権等の利用許諾を得る
  • 二次的著作物の著作権者であるグループSNEから、複製権等の利用許諾を得る
  • 二次的著作物の出版権者である角川書店から、出版権の利用許諾としての複製の許諾を得る
これら3つの許諾が得られれば、新たな出版(復刊)が法的には可能です。
※なお、著作権法80条3項に、出版権者から他の版元へ複製を許諾することを禁ずる規定があります。そのことから、「上記のような他社からの復刊のような事例も、版元に出版権が残っている限り一律に違法で許されない」という見解もありますが、それは妥当でないと思われます。80条3項は、出版権は著者と版元との信頼関係に基づいて成り立つから、版元が著者のあずかり知らないほかの版元にいきなり出版を丸投げする行為を許さない趣旨だ、と考えられます。よって、著作権者・出版権者・許諾先の版元の3者が合意して複製を許諾するならば、80条3項の規定よりもこの合意のほうが優先されると解します。実務では、こうした合意によって他社からの復刊や文庫化はしばしば行われています。

法的には可能ですが、実際は困難であろうと思われます。利用許諾には対価がともない、復刊の場合には、原書の版元(この場合のSJG)へ支払うロイヤルティと、国内の著者(この場合のグループSNE)へ支払う印税、もとの版元(この場合の角川書店)に支払う出版権利用料がともないます。加えて、そもそも紙媒体として製造すること自体にかなりのコストがかかります。版元にとって元が取れるかどうかは、限りなく不透明でしょう。

一度絶版になってしまった日本語版ガープスのサプリメントを、電子データの形で復刊し、Steve Jackson Gamesの電子販売部門e23でPDF販売するように求めることはできますか?

SJGがグループSNEから必要な許諾を得ることができれば、理論的にはできます。もっとも、PDF販売によって角川書店に利益が転がり込むような課金体制を構築し、それを角川書店が了承しない限り、実現は困難でしょう。

この場合は、法的には紙媒体よりも要件がゆるやかです。出版社が著作権者から設定を受ける出版権とは、あくまで印刷・製本をして紙の本を作る権利であり、それ以上の機能はありません。原著作物の著作権者であるSJGと二次的著作物(翻訳書)の著作権者であるグループSNEとが合意しさえすれば、著作権者固有の権利として、著作物をPDF形式で公衆に送信して販売することは自由にできます。角川書店の出版権があろうとなかろうと、何の関係もありません。

出版をする権利と、いわゆる「電子出版」をする権利とは、法的には全然関係のない別個の権利(前者は出版権・複製権等、後者は公衆送信権等)です。したがって、普通の出版契約のもとでは、紙媒体での出版・販売は版元が独占的にできますが、著者が勝手に「電子出版」をして著作物を送信して課金しても、版元は法的には著者に一切文句が言えません。
※これは従来から日本の出版契約にひそむ問題として指摘されていたところで、最近では国内の著者と版元の間でも、公衆送信権等の「電子出版」の権利も含めて排他的に許諾せよとの条項を入れた出版契約がなされることもあるようです。角川書店がこのような契約をグループSNEと結んでいた場合には、当然、グループSNEの許諾に加え、角川書店の許諾も必要となります。

ただし、公衆送信権の問題がないとしても、SJGがユーザから課金しグループSNEが印税の形で報酬を得る構造となり、角川書店はまったく利益にあずかれないのですから、角川書店にとって好ましくない状況であることはいうまでもありません。角川書店はグループSNEにとって取り引き先であり、SJGにとっても他に人気が出たゲーム(マンチキン等)を日本で翻訳出版する窓口ですから、角川書店に反感を買ってまで販売する動機はありません。現実的には、3社間で何らかの合意が成立して、角川書店に利益が転がり込むような課金体制を構築する見込みが立たない限り、PDF販売は議論すらされないでしょう。

Steve Jackson Gamesの電子販売部門e23にGURPS Liteの他言語版が無料配布されているのと同様に、GURPS Liteの日本語版をe23で無料配布してもらうことはできますか? すでにRole&Roll SP2に『ガープス・ライト・カスタム』として独自翻訳されていますがこちらは電子化されていませんし無料配布されていせん……。

理論的には、SJG単独でできる可能性があります。もっとも、SJGがそれをする気になるかどうかは別問題です。

実務上、翻訳出版はほぼ例外なく、原書の版元から日本の版元への翻訳権の排他的利用許諾契約によって行われています。Role&Roll SP2はまだ絶版ではありませんから、SJGの有するGURPS Liteの翻訳権は、Role&Roll SP2の版元である新紀元社にその利用が排他的に許諾され、それが存続しているのでしょう。したがって、SJGが新紀元社以外の者に翻訳出版をさせることは新紀元社に対する契約違反になりますから、できません。
※ただし、SJGから新紀元社への翻訳権利用許諾に「絶版の時点から1年経過したら、期限がまだ残っていても利用許諾は自動的に終了する。1年間の売上部数が○○部未満となった年の12月31日を絶版の時とみなす」のような「みなし絶版規定」が盛り込まれているならば、すでに利用許諾が終了している可能性があります。そうであれば、SJGが新紀元社以外の者に翻訳権の利用許諾をしても、新紀元社に対する契約違反にはなりません。

とはいえ、契約内容によっては、「SJGは、新紀元社以外の者に、紙媒体としての出版をするための翻訳権の利用許諾を与えるべからず」とは書かれていても、「PDFとして公衆に送信するための翻訳権の利用許諾を与えるべからず」とは書かれていない(!)かもしれません。書かれていないなら、SJGが自らPDFで配布することには何ら法的な問題はないでしょう。これはSJGと新紀元社との契約内容によりますから、当事者に聞いてみないとなんともいえません。

新紀元社の権利処理をクリアしたとしても、もう一つ問題があります。『ガープス・ライト・カスタム』はGURPS Liteを原著作物とする二次的著作物であり、その著作権者はグループSNEです。仮にあなたがGURPS Liteを自分で翻訳して、SJGに持ち込んで無料配布させたとしても、『ガープス・ライト・カスタム』の著作権者であるグループSNEから、「複製権侵害だ」との主張であなたが訴えられる可能性があります。

侵害を証明するには「依拠性」と「類似性」という有名な要件を満たすことを証明しなければなりませんので、あなたが「同じ原典から訳したにすぎず、『ガープス・ライト・カスタム』に依拠してなどいない。たとえ依拠したとしても類似してなどいない」として争い(サンジェルマン殺人狂騒曲事件参照)、これにより裁判官をしてグループSNEの主張に対する心証を動揺させることに成功すれば、最終的にはあなたが勝訴するかもしれません。しかし、たとえ勝ったとしても訴訟に巻き込まれるというそれ自体の労力を負担しなければなりませんし、そういうもろもろの面倒ごとを予見して、SJGがそもそも無料配布をしないという結果になるかもしれません。





+ タグ編集
  • タグ:
  • 権利関係
  • 著作権
  • 独占翻訳権
  • ライセンス
  • 角川書店
  • ガープス
  • GURPS
  • Q&A
  • 質問
  • FAQ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年05月13日 18:02