『ボウリング・フォー・コロシアイ』



[登場人物]  利根川幸雄三嶋瞳






 西部劇に出てくる………──アレ…………。


風に吹かれて荒野をコロコロ転がる、ボール状の干草。
正式名称は『タンブルウィード(回転草』との事らしい。

タンブルウィードは通常、アメリカ西部の乾燥した地域にしかその姿を確認出来ぬ物だが。
どういう訳か、奴は渋谷区東部の東京湾。──西でもアメリカでもない、湿地帯にて登場し、誰に言われずとも浜辺を転がり始めた。


「………チッ! 出やせん……、誰も…、電話に………っ!! …確かに時間帯も時間帯……。山崎や権田らが応答できぬのも致し方はない…………っ──」

「──ただっ……………!! 左衛門…、堂下………。どうしたっ……?! お前らなら出れる筈だろう……………!! お前らは……、『参加者』なのだから………!!」


「………うぅー〜〜……。…ダメだ。利根川さん、こっちも繋がらないですよ…。新田さんにヒナちゃんにアンズちゃん…。社員の誰一人どころか110番さえ出ません」

「………チッ、使えんゴミ共がっ……………」

「これ…もしかして、電波妨害とかされてるんじゃないですかね? これじゃあ助けを呼ぼうにも何も役に立ちませんよ〜…」

「…クゥッ………。だとするなら、意気揚々と三本指を立てるな…………っ! スマホの電波アンテナの奴……………っ!!」


タンブルウィードは、風に動かされ海岸沿いを抜ける。
峠を転がり続け、カーブが見えても難なく進み、歩を止めない。
何処までも何処までも。どこかへ向かって回り続けた。


「…はぁ。本当にダメな人達……。特に私の社員なんか、四六時中何かある度に私に頼って来るのに……。…私がヤバい時は誰も助けてくれないわけ? 一人も……」

「……もう良いっ……。時間が経ったらまた掛け直すまでだ…………」

「その時間が経つ間に殺される可能性もあるじゃないですかぁ〜っ!! …もうっ、本当にピンチなのに〜……──」


「──…はァ。お互い、使えない部下を持つ身として大変ですよね~~……。利根川さん」

「……クッ、まだ子供の癖して………いっちょ前に同意を求めるな…………っ! …それにわしの部下達はお前のとは違って有能揃い………っ」

「…。………はぁ〜あ〜〜あ…」



「…さて。……もう良いだろう。お嬢、行くぞっ……………! そろそろ…………」

「…へ? 利根川さん、どちらに……?」


真夏の大冒険──。
旅するタンブルウィードは、遂には町中まで到達し転がった。
信号機が赤だろうが、青に光ろうが、ただの干草には交通法など気にも留めない。
街の灯に声援を送られながら、干草は自由に転がり巡った。


「………どちらに、か。………そんなもの、愚問中の愚問…………っ」

「え??」

「………お嬢。ボーリングは好きか…………?」

「へ、ボーリングですか? ……う〜ん…。そもそもやった事無いですねぇー………。私〜」

「んっ? やった事ない、だと……………っ? ただの一度たりともかっ…?!」

「はい。…あっ、大雑把なルールとかは普通に分かりますよ? 重い球投げて、ピン倒して〜って。でも本当経験はないですね…」

「……ほう………っ。…ならば、結構いい機会と言うわけだな………。お嬢…………」

「はあ。…。…………………──」



「────……『どこへ』っ!! 行こうとしてるんですかっ…? …利根川さんっ」


「────…言ったろう、お嬢………。『圧倒的愚問』、とな………!」



転がること、早20km。
この広大な渋谷の大地を、タンブルウィードは自由に駆け回った。
誰の視線も気にせず、そして誰にも気にされず、長い距離を転がり続けた。
ただ、旅は必ず終着点。──終わりというのがあるもの。

丸くて柔らかい草ボールは、名の知れぬ現代アート家が作った『十本の立つ枝』へ。
──たまたま路上に立っていた枝の群れへ、勢いを増し転がると────。



「行くぞっ………! 『スポ●チャ』へ……………!! ボーリングをっ………………!」


「…え? いや、え??? は…?? …えっ、なんで!??」

「…クックク。…shut up──!! 理由は後で話す。とにかく黙ってついてこい……っ! お嬢めがっ……………!」



──バランッバラン…、と一本も残さず倒し、排水溝へと落ちていった。




「…………えー、…えぇ〜〜〜〜〜……???」



──────────────────────────────────────
     ★作品No.050☆

☆『ボウリング・フォー・コロシアイ』★
 ★(原題: Bowling for BattleRoyale)☆

       ★出演★
      ☆三嶋 瞳★
     ★利根川 幸雄☆
       ☆???★


       〜Wait.〜
〜 If you wait, the opportunity will surely come... someday.〜
──────────────────────────────────────





……
………

 …という訳で、殺すか殺されるかの極限状態にいるというのに、ボーリングを遊びに娯楽施設に来たこの私。

…………。
…何してんだろ。


私…。







……
………

 拝啓。


──…とりあえず差宛はヒナちゃんへ。



 ヒナちゃん、この前仁志君とボーリング場で擬似デートみたいな事したって言ってたよね。覚えてるかなー。
今、私もラウン●ワンでボウリングさせられてるんだけども…。
ヒナちゃんが行った店も、室内はナイトモードで薄暗く、ワックスがけの床と電光掲示板のみが輝いて、そしてテーブルやら専用シューズ置き場がレトロに鎮座……。そんな感じの雰囲気なのかな。
とりあえず以下、具体的なボーリング場内の詳細〜…。

彼方先にて、十本の白いピンが舞い降り、直立不動で処刑の時間を待ち続ける…。
ガコンッ──と、ボール排出所から登場して、私の隣でゆっくり立ち止まる貸出ボール…。
そのボールの、穴の空いた三つの目とちょうど目が合った。貸出ボールは私の指を愛おしそうに見つめながら呟く。──「You、早く投げちゃいな」、と…。
電光掲示板に刻名される『H.MISHIMA』の名前。…その横にはズラーッと『▶◀』が並んでたけど、……ボウリングは詳しくないから詳しい意味は不明。

ラウン●ワンに足を踏み入れて数十分が経過。
ベンチに座る利根川さんの「早く投げろっ」というギスギスした視線を浴びる中。

私の第九球目となるボウリングが、始まりを告げた────……。





…。

……。

……いや……もう、さ……。




はぁ、ぁぁぁ…………………。



ぁぁ、ぁ……………。

………。





本当に私……。


何で………?!




こんなことやらせてるの…………………………………?




意味が…。

意味が分かんないよ………………………。




「…………ィッ。…絶対こんな事してる場合じゃないのに………」

「チッ!! どうしたお嬢………っ!! 早くしろっ………!」


「………………」



私がボソッと吐いた正論は、EDM調のBGMで完全にかき消された…………。



「…………はァ……」


 私は、顧問が勝手に企画した寺合宿に、無理矢理連れてこられた気分だった。
…やり場のない煩わしさと、激しい倦怠感。
……本当に堪らない。

不貞腐れた目付きで視線を伸ばす先には、十本のピンがある。


────形も色も大きさも、何もかも揃っているそのピンは、利根川さんの部下達を彷彿とさせられた。



……
………

 ……回想。
 数分前の会話の事。
 店内に入るや否や、利根川さんは私に趣味について尋ねてきた。


 『…え?? うーん……。やっぱ【仕事】…ですかね』

 『あぁ………? 趣味が、仕事………? くっ、なんて小娘だっ……』

 『…………えー…。何ですか…?! その反応〜……っ』


 私の答えを聞いて、利根川さんは一瞬虚を突かれたみたいな顔をしたけど、直ぐ様、実につまらなそうな表情に変わっていく。
 …そりゃ、自分でも「あ、変な事言っちゃったかも」とは思ったけども、…この利根川って叔父様。何とも分かりやすく表情に出る傾向がある気がする。
 ただ、後々解ったことだけども、利根川さんがそういうリアクションを取ったのも理由があって。
 なにしろ、彼の部下は全員揃って、趣味を聞かれたら『ボウリング』と答えるそうだった。


 『………だから、わしはあの時思わずツッコんだ……っ!! 揃いも揃ってお前ら……、高校生かッ…、と…………!』

 『……はあ』

 『その事が効いとるから………、お嬢……! お前の趣味を聞いて不意を突かれたのだ…………。余計な………』


 利根川さんの勤める帝愛の規定上、社員は全員黒スーツにサングラスの清掃が義務付けられていて、
 彼らの仕事風景は映画のマト●ックスまんまみたいらしいんだけども。
 私はこの時、二つツッコミをしたい気分だった。


 “全員見た目同じで趣味も統一って……────クローンなのっ!??”

 と、

 “ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?! ──そこがまずツッコミポイントなんだけどっ!!!”


 ……の、二つ。

 もっとも、後者である「ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?!」は口に出してツッコんだため、すぐに答えが判明する事となる。
 ………全く腑に落ちない、その『答え』が。

………
……



「…はぁ…………………。…よいしょっと……」


 傷一つない新品のボールを持ち上げて、一呼吸。
…噂には聞いていたけど正直こんなに重たい物だとは思っていなかった。
ただでさえ右腕が重たくしんどいというのに、今はもう見るだけで嗚咽が催すくらいうんざりだった。

バーテンダー時代の腱鞘炎を思い出させるその重量…。


────私の心中はボーリング球よりも重苦しく、ドンヨリしていた。



……
………


 『…いや…………』

 『ん? どうしたお嬢』


 『…どうしたもこーしたも…無いでしょうっ────────?! 利根川さんっ────!!!』

 『…………あ〜?』


 『今どんな緊急事態に置かれてるのか分かってますかっ!!? 殺し合い中ですよっ?!! 呑気にボーリングしてる暇じゃないでしょうが!!!──』

 『──こうして玉転がししてる間にも……、罪のない人達が何の理由もなく殺されていくんですって!!!! それが分からないんですかっ!!??──』

 『──それに、託されたじゃないですか…!! 黒崎さんから…、…プランAを!!!! だから早くここから出てゲームを終わらせましょうよっ!!!! ねえ!!!』


 『…………………』


 また回想…。
 ハァ、ハァ…と、正論の三連単一気飛ばしに息が上がった。…ねえ、私が言ったこと正論だよね??

 ボウリング球を片手に、直立不動で固まってしまう利根川さん…。
 私はてっきりこのラウン●ワンで。──いや、ラウ●ドワンに在る『何か』が殺し合い崩壊の鍵になり、それを求めて利根川さんは動いたのかと思っていた。
 ボウリングとバトル・ロワイアル。
 接点なんて見つからないその二つだけども、利根川さんなら、きっと何か考えがあるのでは……? って。そう信じて付いてきたわけだけど。
 ……結局のところ、彼の真意はただ遊びたいだけだった。

 ……全く以って理解ができない……っ。
 何なの………?
 もしかして、ゲーム脱出とかハナから諦めていて、「どうせ死ぬんだし最後は自分のやりたいことして終わりたい」とか考えてるわけ………?
 イライライライラ、イライライライライライラ……っ。
 利根川さんの内たる胸中を考察する度に、沸き立つムカムカが抑えきれなかった。


 そんな私の正論に、言われた利根川さんもすっかりと怯んで──……、


 『…………ククク………』

 『…な、何がおかしいんで──…、』

 『お嬢、追いすぎだ…………! 『理』をっ…………………!!』


 『……え?』


 ──しまう事なんて全くなく。
 蛇は、私にその鋭い牙を向けてきた……。


 『ククク…なるほどなるほど。確かにかなっている……。理には……! たかが小娘とはいえ、その主張にはわしも出んよ……………。ぐうの音もなっ………………!!──』


 『──なら、聞こうじゃないか………! お前はボーリング場を出て以降、何をするつもりなんだ? …具体的にな………………!!』

 『……えっ?』

 『何を、どう行動して、誰に会うつもりで……っ、そう動こうとする…………? 是非聞きたいものだなっ………! お前の…【策】とやらを…………!!』



 『……………え。…え、えっと……………──』


 『──………。……そ、そんなの〜……。簡単に思いつくものでもないですけども………』


 『クククッ………。案の定………っ!!』

 『い、いやっ!!! 違いま──…、』

 『否定しなくて良いっ……!! 簡単に打破できる代物ではないのだっ………!!! …いいか、舐めるなよ………? このバトル・ロワイアルを……………!』


 『……お、お言葉を返すようですがっ! だからって遊んでるのも酷く冒涜的行為でしょう!! …何人も命の危機に晒されてる……この現状下で………。そう思いませんか!!』

 『…悪いが、死なせておけ。そんな奴ら……………』

 『はぁっ!!?』

 『逆に聞こう………。お前は七十人近く……、この全員無傷で救えると…本当に思うのか? あれだけの大人数……、広いエリアで……、好き勝手に動く参加者共全員を…………っ!! あ〜〜……?』

 『…………それは…。そうですけども………』


 パンパンッ──って、参加者名簿シートを叩きながら利根川さんは続けた。


 『無論、インポッシブル………! そんな絵空事…………。合法ロリ社長だか知らんが……、キサマもなまじ経営者なのだから……。リアリストに考えるべきだろうっ………………』

 『……………』

 『今こうして死にゆく奴らに関しては………、もう諦めろ。…運命だ……、もはやなっ………』

 『…………………………』


 『……。…さて、とは言いつつも、わしは決してゲーム崩壊策を諦めてるつもりではない。……とどのつまり、頭にある計画上、第一行動としてやっているのが………これっ……! ──ボーリングなのだ………!!』


 『…は…?』


 『現状……、今はどうする事もできない………、対主催策を掲げるわしらは泥濘にハマったも同然……………!! 圧倒的無力だっ……──』

 『──だから……!! 何か、事が起こるその時まで【待機】っ…………! 待命、待構、我慢……っ!──』

 『──ただし…っ、時が来るまで何もせずボーっとするのもそれでよろしくない…………。だからこその時間潰し………《Bowling Time》なんだっ………………!──』



 『──クククッ、クク………。一番の疑問を解消できてスッキリしたか? ………お嬢…!』


 『…い、いや。そんなの…………。理屈とかそういうの抜きで……………。納得なんて、できないですよ……』

 『フンッ、お嬢。キサマはどうせ心中…《頭の固くて通じない老人》だとか…、舌を出して蔑視しとるのだろう……』

 『えっ。…そ、そ、ち、違いますけど…!!』

 『確かに……。年寄りは新しいものに馴染めず……、頭ごなしにモノを言う傾向がある…………っ。そう思われても仕方ないだろう……──』


 『──だがっ……、その頭ごなしは長年の人生経験から積み重ねて出来た産物なのだっ……!! わしは…分かっている……! もう暫く…、あと数十分後に【機】が来るとなっ………!! 根拠はない…、だが確実にっ……!──』



 『────だから、待つのだ……! 今はまだなっ………!』

 『……………』


 …私は、何も言い返せなかった。
 大手企業にその歴三十年の利根川さん…。彼と、たかがベンチャー企業の私で、遥か彼方すぎる差を見せつけられたようですごく悔しかった。

 利根川さんを説得どころか、逆に丸め込まれてボーリングをする羽目となったのだから。
 私は自分が嫌で、憎たらしくて、辛くて……。


 『よし、早速だ……っ。まずはボールの構え方から教えるぞ………? Lecture────っ。いいな、お嬢!!』


 『……はい、お願いします…』



 それで、気が重くてペラッペラになりそうだった…………。


………
……


「…すぅ……………。…………………はァー…」


 一呼吸置いて、吸った二酸化炭素をため息として出す…。


親指を十時の方向に向け、親指にあまり力をかけない。
ボールから親指が抜けてから、残りの二本の指で少しボールを回すように意識する。
腕の振り抜いた先の軌道上に、スパットが来るように、腕を真っ直ぐ振り、投じる。
────全部、この短時間の間で利根川さんから叩き込まれた『ボーリングの基本』だ。


………
……


 『スピードよりもコントロールだ…! 中腰になって下から投げるんだ…! 言うなれば、アンダースロー………っ!! 里中の様な姿勢で……、まずはやってみろ………』

 『は、はい………………』


 …あっ、あとは『片手で下げているときには、手首を曲げないようにする』とか指導してきたっけ。

 とにかく私は仕方なさそうに、言われた通りボールを投げてみせた。
 私のボーリングヴァージンが破られた、その第一球目…。
 なんか知らないけど軌道が大きく変化しながらボールはピン集団へと吸い込まれていく。

 …記念すべき……ボーリングデビューは如何なる成績となったか。
 …それはというと、


 『がぁっ………!!?』


 ────ガランッ、ガラガラガラン……



 ……え〜〜っと。何だっけ。
 …『ストライク』だっけ?

 ピン全倒しで私のボウリング戦績は幕を上げた……。

 唖然とする利根川さんの、顎の開きっぷり…。
 表情から察するに何か凄いことやっちゃった感じなんだけども、…私は嬉しさなんて全く沸かなかった。

 …だって、それどころじゃないんだし………。


 『ほう……。デビューとしては華々しい結果じゃないか………』

 『…お褒めに預かり光栄です。はぁ……』

 『………だがっ!! ククク、勘違いするなよお嬢………! 所詮は【ビギナーズラック】なのだからな…………?』

 『………はい』


 欠伸の出るような戯言を吐いた後、出番を迎えた利根川は、お手本が如くボールを投げてみせた。
 彼が倒したピンの数は…というと……。──………全然覚えてないや。
 …ほんの数十分前の出来事の筈が、遠い記憶の様に私は感じた…。


 ────ガラガラン………


 『ほれ、出番だっ………! 言っておくが、お嬢はさっき若干引けていたぞ…。腰がな……! そこを意識して……。望むと良い』

 『……………』


 はぁーーあ…………。

 教えたがりおじさんのアドバイスを背に、間髪も入れず私の第二球がスタート。
 …まるで、永遠のようなボーリング時間だった。


 ていうか、アドバイスおじさんって何で一々事細かに忠告してくるんだろ…。


 ジャンボ尾崎のホールインワンかよ………。


 ────ガランッ、ガラガラガラン……

………
……


 気怠げ限界な私の思いを乗せて転がるボール。
油濡れの道を転がる先には、何度倒されてもまた定位置に立ち上がるピンの群れがある。…無論。

…もしかして。
『このピン達のように不屈な精神で耐え抜き、立ち上がる精神が、バトロワを生きるうえで必要なんだ』…とか何とか、メッセージ性含みで利根川さんはボーリングに誘ったのかな。
…いや、…それはないかな。だとしたら陳腐で薄っぺらすぎるし、本当にバカげてるよ。


────バックで鳴り続けてるテンポの高いBGMが、背後で歯軋りをしてる利根川さんによくマッチしている…。

………
……

 …第四球目───────ストライク『▶◀』。

 …第五球目───────ストライク『▶◀』。

 …第六球目───────ストライク『▶◀』。


 そして、第七球目も……。

 ────ガランッ、ガラガラガラン……

 ────ストライクッ、『▶◀』……


 『………』


 どうしようもないボーリングの才能があったお陰で、完全にストライクマシンと化した私だけども、…驚嘆や歓喜なんて未だ皆無。
 というか、寧ろ絶望に近い居心地の悪さだけが増していった……。


 『チッ…………』

 『………。……』


 既に利根川さんとはダブルスコアで点差が開いている。
 連続ストライクも四回目になってきた頃合い、徐々に徐々にと口数が減ってきたアドバイスおじさんだけども……。煩わしさが失せた反面、険悪なムードがどんどん立ち込めてくる……。

 もう、私だって……。 
 私だって、好きでストライク取り続けてるわけじゃないのに………。
 ものすごい力感なく投げたり、ガーターに方向向けたりと忖度の限りを尽くしてるつもりなのに、…結果は必ずストライク……。
 地獄だった。


 …いや、ていうか…………。


 そもそもボーリングやり始めたの利根川さんだよね??
 目上である利根川さんがやるっていうから付き合ってるだけなのに……。
 なんで私…こんな憎悪を浴びなきゃいけないの……??? おかしくないっ?!

 自分が「ボーリングをやろう」とか言い出さなきゃ、イライラすることも無かったのに…。


 『チッ、血も涙もない……。機械のような……小娘っ………。楽しいか……? それで…』

 『…………………………』


 なんで私は怒られているわけなの………?




………
……


 ものすごく嫌な空気感で満ちたるボーリング場内。
もはや普通に殺し合いしてる方がマシなくらいに陰鬱とした雰囲気だった。
なんか一人勝手にギスギスイライラしている利根川さんだけど、……私だってモヤモヤな思いで一杯だしっ………。
最初は利根川さんのヤな視線にビビってた私も、…今はもうムカムカと不貞腐れ状態…。
その為、八つ当たり気味で投げたこのボールは、凄まじいスピン量と加速をしながら転がっていった。


 ────ガランッッッ、ガラガシャガラガランッッ


「……はァ」


派手にぶち撒けて、空中を舞うピン達。


────前述の通り、私はピンを帝愛の社員たちに見立てている。
────最前線に立つ一本のピンは、角張った顔の白髪オヤジに見立ててっ。


……
………


 『あぁ…………。また……ストライク………』

 『…………………。…羽生は、根暗。野茂は………うすのろ…』

 『え?』


 『ならば…、いけ好かないボーリング野郎はァ〜〜〜? あぁ〜〜〜〜〜〜〜?』


 『……………』


………
……




────ねえ、ボーリングって何が楽しいスポーツなの?




「チッ………! 残すところ後1フレーム……。これでラストか……」

「…………そーですね」

「…おい、お嬢……。…あまり言いたくないのだがな………、普通するだろっ…! 忖度とかっ………!! あぁ~? キサマはビジネスでもそうなのか……?! 自分さえ目立てば後はどうでもいいと……………。そうなのかっ………!?」

「…………………」

「チッ! まぁいい…………っ。これで最後の投球だ…………。お互いに……、思い残しのないボーリングを──…、」


「……ちょっとトイレ行ってきます」

「あぁ? ……なんだと…………?」

「…いやトイレくらいいいでしょ。すぐ戻るんで。んじゃ」

「………………クッ」


利根川さんの顔を一切見ずして、私は足早にトイレへと向かった。
…まぁ、別にトイレじゃなくても。一人になれる場所なら何処だって良いんだけども……。



────私が今一番声に出して叫びたい言葉は、ad●のデビュー曲のタイトルだった…。






『♪…っっはぁ〜〜────────────────────────────────────ッッ!!!!!!』



『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪貴様が思うより健全でぇ────すッ!!!!』

『♪一切伐採凡人な〜〜──────、お前ぇじゃ分からないかもねぇ──────!!!!』



「……………………ィッッ」


個室トイレでっ………。
Bluetoothを大音量にしてっ…………。
ストレス発散するためにっ…………。

私は縮こまってお気に入りの音楽を聞いた……………。


『♪あぁよく似合う───────っ!!!』


…本気でアイツ、なんなの…………っ。
うっせんだよ……。
何が「機が来るのを待つ」だよ。
そんなの絶対来るわけ無いし、ふざけんなよっ。
マジで……──Seriously...!!
just die already. You've been rambling on and on...!!!!!


『♪カモ不可もないメロディズム〜〜───────っ!!!!』


Don't act so high and mighty...!!
You're just a useless old man who’s lived a little longer…!!!
You really piss me off.!!!!!


『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪脳みその出来がッ!!! 、違うからッ!!!!』


You're seriously driving me insane...!
How much more do you want to piss me off?

Ahh...
fuck,fuck,fuck,fuck...
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck...


『♪問題はナーシ───────────っ!!!!!!!』



I feel like putting a pig's ass in that dirty and shutting it upッッッ!!!!!

────fuckッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!



………
……

「……………」

「お嬢、遅かったじゃないか………。早くやるぞ………っ」


「………機なんか来ねぇよ」

「あぁっ…?!」


ピカピカの床、暗い室内、ボールにピン、備え付けの自動販売機まで……。
もはや何もかもが鬱陶しい。

何が「早くやるぞ」だよ、ジジイ…。
…もうっ、私はうんざりだ────っ。


「飽きました。疲れたし、ていうか全く面白くないです。はぁ………。──もうさっさと殺し合いを止める準備しましょうよっ!!!! いい加減にしてください!!!!!」

「…………」

「そら私も策なんかないですけど、ただ待つくらいなら動いた方がいいでしょっ!!? ましてやこんなつまらないスポーツやるくらいならっ!!!!! ねえっ!!!! 利根川さん!!!!!」

「……」

「ねえっ!!!!!!!!!」



「…クククッ。…楽しかったか? ボーリング………」

「はぁっ!!!!??」


楽しくなんかないしっ!!!!
そっちから楽しい雰囲気出させなかったでしょ!!!!!!


「いい加減にしてくださいよっ!!!! ほんとにっ!!!」

「…あぁ。勿論、いい加減にするさ。…これくらいになっ………!」

「え?? は、はぁあぁぁっ!!???」


うわ、急にあっさり引き下がってきたし……。
引き下がったら引き下がったで逆にその態度がムカつくんですけどっ…………!!


「お嬢……。今までは、いわばテストだ……っ。わしからのテストにキサマは無事合格したのだからっ………! もうこれで終わり……! そういうわけだな」

「て、テスト……………? なんのっ??! ボーリングのテストですかっ………??」

「………クク。いや違う……っ!! …いいか? これは──…、」

「いや良くないですからっ!!!! 『いいか?』って聞かれてももう聞きませんよ!!! ほんとにっ………」


ほんとにっ、この『とどのつまりジジイ』は…………!
──いや、元はといえばコイツと組む羽目になったのは、コイツの同僚の黒崎さんのせいだしっ…。

さすが悪評誇り高い帝愛の連中だっ…………。
帝愛のボンクラ連中……、ブラック企業の奴らは揃いも揃って………………っ。
もう、もう……爆発寸前だっ……。…もうっ……。


もうっ!!!!!



「私の言う事だけを黙って聞いて────…、」


『三嶋大先生ェッ───────────────────!!!!』



「──うわっ!!?」 「──………なっ!!?」




 ……爆発直前の私の声は、突如して現れた馬鹿でかい雄叫びで掻き消された。
若い成人男性って感じの、その大声。
店内放送のアナウンスか何かと、一瞬私は見回したけど………。……多分違う。
恐らく、殺し合いに参加させられてる誰かの……。拡声器を使った雄叫びなのだと推察できた。

…って、今私の名前…思いっきり叫んでなかった!!!??


『三嶋先生ぇ!!!!! 貴方様のことは───、私堂下浩次と、殺人ニワトリが絶対に救いますッ──────!!!! ノックオッ─────────ンッ!!!!』

「は??! やっぱ聞き間違いじゃなかったし…。誰????!!!」 「…ど、堂下…………!?」


『それと新田さん…、いや新田義史ッ────!!!! この殺人鬼野郎が!!! 覚悟しろやゴラァッ────!!!!』

「えっ!!!??」 「……新田??」


今度は比較的若い、別人の大声が響いた。
…いや、何これっ!??? 何話してるの!!??
新田さんが…。さ、殺人鬼って………。めちゃくちゃ誤解じゃんっ!!!!
こんだけバカでかい声量だから、間違いなく渋谷全体に広がってるんだろうけど……。
それだと新田さんものすごく大ピンチじゃんかっ!!!! なにこの放送!!???
いや黙ってよ!!!! ほんとに!!!!!!


『そうだッ────!!!! 新田ァッ────!!!! ニワトリから聞いたぞっ…!! 金髪にオールバックでヤクザみたいな風貌のお前ッ────!!!! お前には絶対負けない、負けないからなぁッ────!!!!』

「……あ、あわわ…あっ……」 「な、何を馬鹿なことを……………? 堂下………」


しかも新田さんのメチャクチャ詳細な容姿まで喋りだしたし……!??
何考えてるわけ?!! 拡声器の主は!???
今すぐにでも止めないとマズすぎるっ…!! 新田さんが危ないよ!!!!?



『『うおっ…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』』



『『三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!』』





『───────プツンッ』




「……」 「…がっ…………」





………なんなの。
これ………………。



────止めなきゃ、メチャクチャまずい。


まずい放送だった────………。




誰だか知らない奴に…、私がいかに素晴らしい人物かを崇拝され、新田さんが意味不明に窮地と化した……。そんな放送…………。


…わけが、分からなすぎる……………。

開いた口が、塞がらない…………。

わなわなと震えちゃう………。

耳が熱くなる……ぅ…………。顔の真っ赤さが、…止まらない……………ぃぃぃ…………。


「…ククク……! クククッ!! とうとう来たな…………!!」

「………え?」

「『期』が熟した………! 重い腰を上げるその時がっ……………! バカのお陰でっ…!」


…利根川さんは、見ないでほしいくらい赤くなってる私の顔に向き始めた。


「…先に詫びを入れておくか……。三嶋お嬢、ボウリングでの、わしの無礼……。すまなかったな」

「…………………へ??」

「あの態度はな。実はわざと……っ、言わば『耐久テスト』だ…………!」

「……ふぇ????」

「このバトル・ロワイヤル………。わしの見立てでは相当な理不尽…、憤慨…、絶望に…疑心暗鬼………っ!! それらが激流の如し、襲い掛かってくるものだと推察している………──」


「──とどのつまり、キサマがどれだけ耐久できるか……。わざとわしは理不尽かつイラつかせる素振りで接したのだ………!! 結果、お嬢は合格ライン……! 第九フレームまで耐えてみせた…………!! …すまないな、勝手に測るような真似をして」



え、
え…………………?



「…え、演技?」

「クククッ、圧倒的愚問…!! わしがあんな小物じみた、器の小さいクズなんかだと………! まさか思うまいな? お嬢………!」

「うぇっ!!?? え、え、も、勿論………」


「…そして、今の信じられない放送に関してだが…………。…あれはわしの部下の声だ。間違いないっ………」


え?
はっ????


「え、いやどうしてくれるんですか!!?? ──って、利根川さんに言うのもお門違いですけども…………。あ、あれのせいで……、私と…新田さんが…………」

「あぁ。間違いないな……。キサマらが大変なことになってるのは………………──」


「──だから、行くぞっ………! 声の音源……、恐らく北東に進んで1km………、渋谷公園周辺方面にっ……………!!」

「えっ!!?」


え、嘘!?
具体的な発声場所とか今ので分かっちゃったの!???



…と、利根川さん。

…なんなのこの人は……。

良い意味で……。




「安心しろっ…! 無論、わしはバカの発言なんかは信じていないっ………!! 新田という奴も完全に風評被害…………!! …信じるまでもないっ」

「…と、利根川さん………」


「だがっ…………!! …クククッ…、『使える』っ………! 拡声器の主は、バカが故に使える……………!! 実に優秀な駒だっ……!──」



利根川さん…………。
ほんとこの人は…────、





「────ゲーム崩壊の、『プランA』にっ…………!!」

「…利根川さんっ!!」


「だから──Chase the light……!!! 長々待ったこの鬱憤を晴らしに………。行くぞっ…………!!」

「は、はい!!」



───…さすがです!! 利根川さん……!




【1日目/F5/ラウンド●ン/AM.03:50】
【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:利根川さんについていく。
3:新田さんがピンチすぎる……。

【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:拡声器の主(堂下)に会うため渋谷公園まで急ぐ。
2:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
3:お嬢(三嶋)をお守り。
4:会長が少し気がかり。
5:黒崎っ…。


前回 キャラ 次回
050:『意味が分かると怖いダガシ 052:『Darling,Darling,心の扉を
014:『Chase the Light! 三嶋 067:『颯爽と走るトネガワくん
014:『Chase the Light! 利根川 067:『颯爽と走るトネガワくん
最終更新:2025年06月25日 20:50