『【ℙ𝕝𝕒𝕟 𝔸】 - 𝕗𝕣𝕠𝕞 𝕂𝕒𝕘𝕦𝕪𝕒'𝕤 ℝ𝕖𝕢𝕦𝕚𝕖𝕞』
“俺は『神様』なんてものを信じちゃいない。”
“本当にいると言うなら、今すぐ目の前にでも現れてみろって話だ。”
“俺としてもそれが本望だ。こんな悲運に負わせた礼として、骨が飛び出るまで拳をぶち込んでやる。”
“…だが、どれだけ憤りを見せたで、神が姿を見せる訳もなく。”
“そもそも今具体的にどこにいるのかも分からん。いや、恐らく天の上だかにいるのだろうが。”
“遥か届かぬ上空で胡座をかき、絶望下の俺をニヤニヤ見下ろしてると思うと──腸が煮えくり濁る。”
“故に俺は、神という輩をハナから存在しないものとしている。”
“…そうでも考えないと、発散のしようがない怒りでどうにかなってしまいそうだからな。”
“その一方で、同じく非科学的存在である『あの世』だけはあってほしいと願っている。”
“…ああ。都合の良い話だっていうのは分かってるさ。”
“ただ、”
────もう居なくなってしまったアイツが、存在できる場所──。
────アイツと再開できる場があるというのなら──────、って。
“俺はそう願っているよ。”
“ブラインドの隙間から細く差し込んでくる朝日。”
“薄明るい部屋の中で、パソコンのキーを打音のみが響く。”
“ディスプレイの文字列を眼前に今、俺は。”
─────神を破戒する。
◆
calling…
calling…
calling…
calling…
──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
🅲🅰🅻🅻
ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────
…
……
………
『…これは俺の友達の話なんだがな』
──…そのセリフ聞くたびに思うんですけど、会長ってクラスに友達いるんですか?
『莫迦を抜かせ石上会計。白馬岳の渓谷の数ほど存在する友人の中でも、………特に俺が眼に灼きついていた…『アイツ』の話をしたいと思う。いいか?』
──……『アイツ』…………ですか。
『……俺は、アイツのことが怖かった。──』
『──芸術、音楽、文芸、学問。…あらゆる分野において才能を示し我が秀知院を総ナメにした、まさしく『天才』……。……こっちが彼女の心を読み取ろうと四苦八苦している最中にも、アイツはもう俺の全てを見透かし、掌の上で転がしているのでは……と。……俺はアイツが怖かったよ。──』
『──俺がヤツに抱いていた感情の片鱗を…少しでも悟られたら………アイツはきっとこう言っただろう。「……お可愛いこと」…ってな。──』
『──……その一言が、プライド…矜持の塊である俺には…何よりも恐ろしかった。──』
『────……それでいて、…彼女は……俺にとっての『希望』だったんだ』
──………。
『今の俺にはもう、恐怖はない。…恐れるものなど何一つない。…それは、幸か不幸かで問われれば幸せに値することなのだろうが、そんなのあくまで浅い視点からの話だ。……今の俺が、どんな感情かなんて………言うまでもないだろう。』
『──…『恐怖』と『矜持』は一字違い。故に、俺は今から『恐怖』を《プライド》とルビ打ち、呼ぶこととしようじゃないか。──』
『──俺は無くした『恐怖』を取り戻すッ………。──』
『──手段も…ッ、倫理も……道徳も…もう知ったことかッ………。何があろうと絶対に恐怖を…この懐に引き戻してやる…………ッ。──』
『──…………そうだ。丁度いい……ッ。こうしてプライドが無くなった今だからな………ッ。今だからこそ声高に言いたいことがあるよ……ッ。俺は……俺は…見るも忌々しかった…あの恐怖のことが………ッ。──』
『────……………計り知れないくらいに好きだった』
──………本当に友達の話をしだす人初めて見ましたよ。
──……まぁさておき。分かってはいましたが、つまりはその彼女が起爆剤となって……僕にここまでの仕事をさせた、と……。
『…………』
──VPNを何重にも噛ませたうえでアフガンの爆弾発注ルートをハック改竄して、配送先をアメリカ本土にすり替え、さらに起爆時間セットもオンにさせる…とか。………僕的には何よりも会長が恐怖ですよ。
──大体にして、倫理面や法律面を抜きにしてもこの『作戦』…粗がありませんかね? いくら宗教国とはいえそう簡単に騙し込めるものなのか…とか、バリアー破壊はよしとして首輪解除はどうすんですかとか………。まぁその点は言うまでもなく考えてはいるんでしょうけど。…何よりも僕は──…、
『……………………………………』
──……って、会長。
──…まさか僕に謝ろうとしてませんよね。ここまで来て今更罪悪感とか抱いたりとかしてないですよね。
『………』
──…もしそうなのだとしたらやめてくださいよ。らしくない……。
──というか謝るどころか…国をあげて極刑十回執行してもまだ済まない、悪の可視化みたいな『作戦』なんですよ。そんな作戦の統率者に、罪悪感がまだあるんだとしたら………。
──……最低じゃないですか。
『……』
──…まあとは言っても、起爆停止スイッチは作動可能なのでまだ中止は可能ですけどね。…どうしますか、会長──…、
『──…【ウルトラアトミック作戦】。──────』
──え…?
『当作戦の呼称は【ウルトラアトミック作戦】とする。……実に直球なネーミングではあるがな。仮に俺が死んだ時そう記載するよう、書類会計を頼むぞ。──』
『────石上会計………っ』
──………ふっ、やっぱり貴方はそうこなくっちゃ。ただ、一つ異議を申すなら…死なないでくださいよ会長。…僕には生徒会長代理なんて到底勤まりませんから……。
『…………はは…。…検討はするさ』
──では二日後また。五人揃って、いつもの生徒会室で。…失礼します。
『……………………礼は、その時に言おう。……またな』
──────プツンッ。
…
……
………
☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩
『【Plan 𝓐】 - from Kaguya's Requiem』
☩────────☩
………
……
…
◆
15世紀のフランスにて。
ある貴族の男は、かつて神を信じていた。
1429年、シャルル7世の命で宮廷に呼ばれた男は、一人の少女と出会う。
ジャンヌ・ダルク──神の声を聴けるというその聖少女の姿に、彼はたちまち圧倒された。
まるで天使のような威厳を纏った彼女を前に、ただちに忠誠を誓ったのである。
以降、戦場では二人は共に剣を取り、いくつもの華々しい勝利を収めた。
男はその武功を称えられ陸軍元帥となり、家紋には王家の百合が加えられるという名誉を賜った。
だが、栄光は長くは続かなかった。
ジャンヌは捕らえられ、時の流行である魔女狩りによって火刑に処されたのだ。
……
…
『Pourquoi Dieu l’a-t-il abandonnée…?』
──(なぜ彼女を見捨てたのだ…、神よ………)
────百年戦争の英雄。ジャンヌ・ダルクの右腕。『ジル・ド・レ』の言葉。
…
……
信仰の灯が消えたとき、ジルの心には別の炎が灯る。
錬金術、黒魔術、少年達への残虐な拷問。
──見るも忌々しいキリスト教徒共、ならびに神を焼き尽くすほどの、『復讐』の焔。
神が、憎かった。
全ては神を裏切るための、儀式だった。
神がジャンヌを奪ったのなら、自分はその神を否定するしかない。
────悪魔に魂を売り渡した男・『青髭』はこの時、神へバスタードソード《宣戦布告》を突きつけたのである。
時は流れ平成の世。
青髭の生涯を知ってか知らずか、──いや、英才卓抜である『彼』は間違いなくその存在を知っていたであろう──。
ジル・ド・レの生き写しが如く、悪魔に魂を売り切った男がいる。
フランス貴族として享楽の限りを尽くしたジル・ド・レとは対照的に。庶民の出でありながら、ただ努力一つで生徒会長の座を掴み取った──その男。
まるで宿命をなぞるように、彼もまたあの青髭と同じ『鋭い眼差し』を宿していた。
────四宮かぐやを想いながら、エンターキーを押し込む。彼の名は────。
カタンッ──
──【残り00:14:59.875】──
…
……
………
「……こんのクソがァッッ!!!!」
バンッ──。
事務所『カウカウファイナンス』、廊下を少し歩いた先の男子トイレにて、鏡がひび割れる音が響く。
白銀の用心棒係──島田虎信は、血が滲む握り拳をギュっと締め、沸き立つ怒りを深く噛み締めていた。
彼のズボンポケットには一枚の野口英世札。──数分前、白銀から「悪いがこれで缶コーヒーを」と頼まれて受け取った紙幣であるが、島田が向かった先は外の自販機ではなくトイレ内。
別に、彼は緊張感もなく催していたというわけではない。
「………ぐぅッ………!! うっ………。なんや…。──」
「──なんや…アフガニスタンって…なんや融点がどうたらって………もうワケわからん…………。──」
「──アイツ《御行》の作戦はメチャクチャや………。──」
そして別に、白銀が彼に耳打ちした、ゲーム脱出のプラン──『ウルトラアトミック作戦』について理解ができなかったわけでもない。
荒くれ者で、お世辞にも教養は育まれていたとはいえない島田でも理解できた、実に単純な作戦である。
ただ、
「………カモ……っ。もっとお前に…『仕事』の流儀について聞いときゃって、後悔しとるで…………。…なぁ、カモ………。──」
「──…お前なら…どうするんや………。そして、オレは…………御行をどないすりゃ正解なんや……………っ」
──その単純である『悪魔』の作戦と、悪魔に陥った『白銀御行』の二つに、島田は心の底から苛まれていた。
鏡同様ひび割れた拳の血雫と、──そこからにじむ血の存在に、彼がようやく認識したのはこの時。
島田の怒りの理由は『己の葛藤』であった。
「………………止めれば…ええんか…………。…もう、………オレには分からんわ……………」
白銀御行に現状一番寄り添っている参加者として、島田が抱える苦悩、葛藤は計り知れないものだった。
『悪魔の作戦』を止めるべきか、否か。
シーソーのど真ん中に立たされた島田は、そのおぼつかない立ち位置に、心が揺れ乱れて仕方なかったという。
──【残り00:12:31.846】──
島田視点から順を追って、可能な限りの説明と回想をする。
全ての始まりはもはや説明不要。──二人の目の前で、四宮かぐやが爆ぜり、────彼女の瞼をそっと閉じさせたあの瞬間。
──────白銀の瞳孔カラーが明らかに血走ったあの時から作戦が始まった。
白銀に促されるまま、ホームセンターから得た『硬度計測装置』を片手に、無言の道中を続けること十数分。
垂れる汗も、灼熱の陽の光も気にせず、互いに無言で歩み続け、
辿り着いた先──渋谷最南東、別名には『バリアーの最端部』にて、白銀はやっと口を開いた。
…
……
──……ほう。…硬度にしてHV2100、か。…意外でいて予想通り、という感じだな。
──なぁ島田、こんなコンタクトレンズの如くペラペラのバリアーが、まさかセラミックの十倍の硬度を誇るなんて…信じられるか? バトル・ロワイアルとはつくづくこの世の常識が通じない…侮り難いものだ。
────………あ? なんやねん………? セラミック?? ……そんな…そんな訳わからん話するために来たんか?! ここまで!! オイッ!!
────まさかやないけど…お前このバリアー壊すつもりやないやろな?!
────…なんや? 仲間ごっつ引き連れて…一斉にぶん殴って壊すっちゅう考えか……? それがお前のゆうた『ウルトラアトミック作戦』ゆうんか?!
────…ッざけんのもええ加減にせえっ!!! …それよりも、ほんま…かぐやの為……真面目に考えなあかんこと…あるんとちゃ…、
──『あずきバー』の逸話にはこういうものがある。
────あ?
──…聞いた話によればな、アメリカ軍が実験でライフル弾を二発放っても、氷菓には傷一つ付かなかったそうだ。
──…信じられないよな。あずきバーの硬度と、軍予算の無駄遣いっぷりに。……俺はふと思うよ。
────…あ? なんや…お前………? だからホムセンであずきバーもこうたっちゅうんか? …ィッ!!! いや何話したいねんおま…、
──硬いのなら『溶かせば』いい。
────………ぁ……?
──どんな物質にも『融点』がある。…バカげた話だが、『バリアーはこの世のものではないのでは…』と俺は危惧していてな。故に、こいつにも硬度があるのかどうか不安ではいたが……。…ほんとに『予想通りだが意外』だったよ。
──HV2100となると、融点の推測値は『摂氏3500度から4000度』ほどになる。……もう分かっただろう? 島田。
────あ……?
──なら、『ちょうどよかった』じゃないか。
……
…
手から放り落とされたあずきバーをジワジワ、ジワジワと溶かしていく──早朝の太陽と、地面の熱。
あずき液にアリが集るのを待たずして、確信じみた表情を浮かべた白銀は、島田を近くの雑居ビルへと促した。
ノートパソコンがあるビル三階へと足を運ぶや否や、通話を飛ばすは、白銀の後輩という──石上優へと。
『ネットに関しては腕っぷし』と評す、その石上へ、白銀は事情説明を兼ねて『ウルトラアトミック作戦』の一部を託す。
最初こそ当然ドン引きしていた石上会計だったが、経過に連れ、ゲームを攻略するかのようなノリで手を動かしていく。
荒唐無稽かつ鬼畜じみた『作戦』も引き受けてしまうとは、生徒会長・白銀御行の人望を表す光景と言えるのだろうが、異様な雰囲気に島田はこの時、ただ立ち尽くすしかできずにいた。
ふと、石上が白銀へクエスチョンを向ける。
…
……
────……ところで会長。……アフガニスタンってどういうチョイスですか? 国なんて山程あるのにそこを選ぶセンスが僕には理解できませんが。
──ん、簡単だ。日本に一番近い核保有国がそこだから。それだけだな。
────あー、なるほど。
──それに宗教国家は都合がいいだろ? “神の教え”だの何だのと……。現実離れした神話を、真剣に信じ込んでいる連中だ。脳死な狂信者ほど扱いやすいものはない。…呆れた話だ。
──…………………『神』なんて存在しないというのにな。
────………はい。
……
…
二人の会話をただ聞き流せば、気がついた頃にはもう作戦準備は終了間近。
石上の圧倒的な作業速度により、──もう取り返しのつかない地点へと踏み込んでいた。
石上と通話を終えても、白銀は休むことを知らない。
ふと尋ねたところによれば、今度は『タリバン最高指導者のモデリング作成』に入るとのこと。
いつどこで学んだのか知らぬ、Dari語(アフガン公用語)をブツブツ練習しながら、白銀は作業をどんどん進めていく。
目にクマを腫らし、顔色も眠そうに青白くなっても、疲労が明らかになっていてもなお。
白銀は取り憑かれたように、作戦の準備を止めなかった。
たかが──と言ったら語弊が発生するかもしれないが。
たかがバトル・ロワイヤルが────いつの間にやら信じられぬ程スケールが肥大化していく。
──たかが、バリアーの為だけに。
ただでさえ、ナルコレプシー(睡魔発作)傾向の白銀である。
眠気覚ましのため、強めのカフェインを島田にパシらせたのは、この折であった。
──【残り00:11:00.924】──
──そして現時刻に至る。──
………
……
…
「……オレは……………。オレ…は………………………。──」
以上の通り、(裏社会の人間とはいえ)常人である島田が、ここまで苦悩するのも無理はなかった。
「──…どうすりゃ、ええんや…………。」
母を理不尽に失って以来、『復讐屋』鴨ノ目武と働くようになった島田。
その稼業も気づけば長い年月を経ており、これまでも幾度となく『クズ共』を無惨に始末してきた。
被害者遺族の依頼を受け、対象のクズを攫い、物置小屋にて──斧、ドリル、ガスバーナー……etc。様々な戒めを味あわせていく。
依頼こそ無いとはいえ、復讐屋としての視点から見れば、白銀御行は紛うことなき『執行対象』。
──いや、もはやクズや極悪人なんて言葉は生温い、『大正義的巨悪』。正義すらも超越した、悪魔のような理知と意志だった。
「……おかん、カモ…………。…奈々………。…誰でもええから、最適解…教えてや…………」
ただ、そんなクズ共。
かつてのジェイク堀尾や櫻井志津馬。あるいは歴史に名を遺すジル・ド・レといった悪人達と、白銀で、決定的に異なる点がある。
それは一つのみ。
たった一つであるが、『悪』という存在を構成する根幹に関わる、決定的な分岐点だった。
──白銀は、【利他主義】。
──殺し合いに巻き込まれたすべての人間を救うために。ゲームそのものを崩壊させるために。
────【そして何よりも、四宮かぐやの為に。】
彼は、自ら悪の道を選び取ったのだ。
「………………………御行……っ」
それは果たして、正義か否か。
というのも、白銀の立案したその作戦は、『巻き込まれる』無関係な人々にとっては、たまったものではない為である。
何かを得るには、必ず何かを失わねばならない。
まさに『等価交換』──。錬金術の理を地で行くその作戦は、罪なき人々の命を犠牲とすることで成立していた。
殺し合いに一切関わりない、それどころか他国の老若男女。
たまたま『その場』に居合わせただけの無辜の人々が、虫のごとく殺されていく。
それに加えて、犠牲数も桁違い。白銀曰く、「三百人で済めば御の字だな」──と、その『爆発』の威力を懸念していた。
いわば、国境を越えた虐殺を踏み台にした末の────自分達の生還。
もしかすれば、他に方法があるのかもしれない。
バリアーを破壊し、主催者を突き止め、ゲームを終わらせる。
犠牲も最小限にとどめるプランが、どこかに存在していた可能性もゼロではない。
島田も、作戦の具体的内容を聞かされた際、勿論「アホか、他に方法あるやろ」──と、紛れもない正論のツッコミを入れたものだった。
──その正論は、また『別の正論』によって完全に打ち消されたものだが。
「…『あるなら出してみろ』…って……………。御行………お前……そんなん……………」
殺し合いに巻き込まれた参加者たちの命を救うために、無関係な多数を犠牲にするか。
または逆も然りか。
どちらが正解で、そして自分は白銀を止めれば良いのか否かも判断ができず、
両サイドに命がのしかかるシーソーの中心にて、島田が立ち尽くし続けること早三分。
──【残り00:10:01.123】──
「……………とりあえずは、…コーヒーやろ………」
ポケットに手を入れた拍子、触れた貨幣の感触で『お使い』のことを思い出し。
長く伸びた髪をひと掻きし、島田は静かにトイレを後にした。
結論を出すことを一旦は放棄して、今はただ言われるがまま自販機へ。
島田はまだ、『神の存在』、──すなわち希望の道筋を諦めてはいなかった。その願いにも似た思いを胸に、彼はそっとドアノブを回す。
廊下を出て数歩ほど。
──片や、すれ違いざまの風の感触で、
「…あ?」
──片や、バタンと閉まったドアの音で、
「……え?」 「…なッ」
──島田と、
──このビルにたまたま入っていた佐衛門&サヤ。
互いが互いを振り返ったそのタイミングは、ほぼ同時だったという。
──【残り00:09:41.999】──
◆
………
……
…
一方は────対、改造銃。
島田の額にて、銃が突きつけられる。
「……ハァハァ………言っとくがなァ…、至近距離戦では…銃よりナイフのほうが遥かに有利なんやからな…………ッ!!!──」
「──なんかの漫画でゆうてたけど、銃はスリーアクションなんやぞ…。『抜き』……──…、」
「『構え』、『引き金を引く』…そのスリーアクション…なんだろ………っ?」
「…あぁ?!」
もう一方は────対、ナイフ。
左衛門の頸動脈ギリギリにて、仕込みナイフが牙を剥く。
「それに引き換え、ナイフは『刺す』の一動作に終わる………。アンタはそう言いたいんだろ…………っ? とどのつまり……、──『オレのほうが有利〜』と。…そう〆るつもりなんだろ……っ!!」
「……っ。……んや…見透かしたかのように………。お前も読んどったんか、マスターキートン…………」
「答える気はない……っ。そしてアンタとも漫画の話で和気あいあいとする気は……ない…………っ。──」
「──僕にはただ殺意のみっ……!! アンタに今…向けるのは…殺意だけだ……っ!!」
「ッ、お前…ェ…ッ……」
「佐衛門さんっ!!!!」
狼狽するは────サヤの声、ただ一つのみ。
「………な、なに……。なんなのこの状況…。…ね、ねえ佐衛門さん…何してんのっ………?」
「……サヤさん……猜疑心重……っ。『信じちゃダメ』ってことさっ……!! 参加者全員…誰もかも…………」
「…え? は、はぁ???!」
「その上…よく見てみるんだ……。こんな見るからに目付きの悪い……輩を相手にしているんだぞっ……。なら尚更じゃないかっ…………!!──」
島田と左衛門で、互いに伸びる腕。
空気が張り詰める中、その互いの手にて、交差するそれぞれの武器。
互い、互い、互い、互い、互い、互い、互い、たがい。
────疑い。【疑心暗鬼】。
いや、この状況を四字熟語で簡潔に表すとするなら、【疑心暗鬼】ではなく──、
「──ここは僕が引き受けるから……。だから逃げろ………逃げるんだ…サヤさんっ……!!!!」
「なにが逃げろやねんワレッ!!!! お前が急に銃向けてきたんやろがッ!!! ふざけんなやゴラアアアァッ!!!!!」
「ひっ!!」
────【一触即発】だった。
数分前。
すれ違い──島田の存在を認識するなり、佐衛門が取った行動は、先手必勝。
言葉挟む間もなく颯爽と銃を引き、そして構えた左衛門は、名前も知らぬゴロツキ標準にトリガーを指にかけ出す。
この考える余裕もない刹那の瞬間、佐衛門を支配していた感情は『焦燥』であっただろう。
なにせつい数刻前、兵藤に片目を奪われたという『バトル・ロワイヤルの真髄』をまざまざと見せつけられた彼だ。
唯一残る左目は、誰彼全てが【敵】。傍らのサヤを除いて、全てが敵と視えている。
平時はマイペースで、冷静な観察眼を持つ佐衛門であっても、この時ばかりは、初対面の人間を信用する余裕など欠片も残っていなかった。
──それが余計、島田のような見た目からして反社会的な匂いを漂わせる男と出会ったとあらば、尚更だろう。
そしてまた、同じく数分前の話。
あっという間もなく銃を向けられた島田であったが、銃弾は放たれることなく。
何せ、過去には違法格闘技で名を馳せ、『復讐屋』となった今でも卓越した格闘術を見せる島田虎信。その人である。
トリガーに指がかかる寸前、反射神経で腕を振るい、仕込みナイフを引き抜いてみせた。
鋭利な刃先は、佐衛門の頸動脈を寸分違わずギリギリなぞり。──もしくは、すでに0.1ミリほど食い込ませた、瞬発の攻撃。
互いの心臓の震えが、互いの武器の先端を微かに揺らす。
刹那ごとに命の天秤が傾く、張りつめた静止。先に動けば、どちらかがフィフティーフィフティーで絶命する。
──この現状下は、こうして出来上がったのである。
汗が滲み出て、
「…………ぃッ!!」
向顔。睨み続け、
「ぐっ……………!」
一方は、首から、か細い一本の血脈がスーッと滴り、
一方は、銃口の奥に宿る冷たい空気に心臓が早鐘を打つ。
二人は膠着を解き放つ何か──『隙』が来るのを待つばかりの。
「……………っ!!」
「…………ぃイッ!!」
────この、緊迫の時間。
『甲子園には魔物が棲む』。
そんな言葉があるが、もしもこのバトル・ロワイヤルにもそのような『神』が宿っているのだとすれば、今この瞬間──。
きっと愉悦に満ちた眼差しで、島田 vs 佐衛門の静かなる死闘を見下ろしていることだろう。
──もっとも、比較的巻き込まれた側である遠藤サヤは不運なものであるのだが。
「え、え………。さ、佐衛門さ……………………」
【Judgment】。
──決着の刻。死の兆し。
ただ、どうであれ。
「…………悪魔がっ………」
「ああァ!?? 悪魔はお前やろがッ! ボゲッ!!──」
膠着下が暗転に包まれる瞬間は、
「──…容赦はせんからな……クソったれ……。ゲームに乗ったクズ野郎がッ…!!!」
「……ブーメラン…っ! そっくりそのままお返しだ………っ。──」
──もう。
「…終わり…もう終わりにしようじゃないかっ………!! うわああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
「イィッ!!! ざっけんなやボゲゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
眼の前を覆い尽くすほどに、近かった──。
「…やれやれなものだ。たかが缶珈琲一本。まさか豆から挽いていたわけじゃないだろうな? …そう思っていたら………島田め……」
──【残り00:08:20.521】──
「「…あ?」」
「え?」
そんな眼前から離れた向こうにて。
白い廊下に、揺れるカーテン。長く無機質な廊下奥から、コツ、コツ、コツ…と。
戦慄に満ちたこの空間をものともしないかのように、革靴の音と──、
「…案の定。実に愚かな争いだな……」
────独壇場を切り開くかの声が、静寂を引き連れて響きだした。
扇子を閉じる音が一つ、聞こえる。
──パタンッ
──【残り00:08:01.351】──
「………なっ…!? おま……──…、」
「島田、俺は常々思うんだがな」
「あぁ…?!」
突然の出現。誰ひとりとして喧噪に夢中で、その気配を察知できなかった。
怒号も罵声も掻き消え、まるでサイレント映画のように静まり返る。──いや、三人を静まらせる力を持つその声。
靴の音が徐々に徐々に、一定のリズムでこちらへと近づいていく中。シルエットの主は淡々と、三人の内の一人、島田に向かって演説口調を発する。
「裁判、スポーツ、家督争い…なんだっていい。──」
「──結局、争い…すなわちバトルってのは『公平な審判』がいて、初めて成り立つと思っている」
「……え?」 「……………っ」
「そう考えるとだ。この『バトル・ロワイヤル』ってやつは、つくづくお粗末な構造をしていると思わないか?──」
「──なにせ審判もなし。ルールも無用。勝手に始まり、勝手に命を奪い合って、勝手に結論が付く。…『バトル』の定義としては最低のフォーマットじゃないか。…公平性も何もない…。審判がいる分、小学校の球技大会のよっぽど秩序があるだろう」
コツコツ、コツコツ────。
まるで機械仕掛けの秒針のように響く一つの足音。
佐衛門も島田もサヤも、誰彼もが虚を突かれ、氷と化したこの場で唯一響く音。
ビルの内壁に反射する光も、路面に焼きつく熱も、どこか白んで見える。
それは暑さのせいではなかった。彼が近づくにつれ、空間そのものの輪郭がぼやけていく。
「さて──唐突に割り込む形になってしまったが…、島田。あとそれから……君たちにも一つ俺から提案がある。──」
「──というよりも、…サヤ…だったか。そこの君に任せたいことがあるんだが。…いいか?」
「えっ!?」 「…な……っ?!──」
「──…な、なに……?」
光が邪魔で、なおも顔の判別もつかぬその男の白い輪郭が名指しするは、突飛にもサヤの名。
その口ぶりから察するに、彼は島田と佐衛門の膠着を、初めからどこかで見届けていたのだろう。
にもかかわらず、あえて直接の当事者ではないサヤを指名したことに、誰もが小さな違和感を覚えた。
なぜ彼女なのか。
というより何を言い出したいのか。奴は。
島田。佐衛門。
敵味方関係なく、かの男の存在感に身動き一つ取れなくなるこの空間にて。
窓を通り過ぎた折、やっとその姿をはっきり確認できた謎の男は。
──いや。
────『白銀御行』は。
「案ずるな。簡単な事さ、サヤ」
「…だから……なにって…──…、」
「君に是非『ジャッジマン』をしてもらおうと俺は思う。──島田虎信を始末すべきか、まずは話し合うべきか。──」
「──この場の命運をサヤに預けようじゃないか」
「…えっ、え?──」
「──え、え、え、え、──」
「──えっ!???!」
「「…………え」」
────比較的まだ若いサヤへ、白羽の矢をたてた理由について説明しだした。
「な、え、…は? な、なな、なんで………。急にアタシ………?!」
「道理も筋も『なんで』もあったものか。…まぁ強いて理由づけるとするなら、予行練習と思って審判を担えばいいさ」
「…な、何のっ?!」
「…『裁判員制度』の…かっ………?!」
「…ん。──」
サヤを弁護立てるかのように、佐衛門が割って出る。
「──御名答だ、サングラス男。…選択ってのは、往々にしてある日唐突に突きつけられるもの。国がそうやって裁判員制度として決めているんだ。ならちょうど良い機会だろう?──」
「──それに、現状この場で一番ジャッジメントに相応しいのは紛れもなくサヤ。君のみだからな」
「え……………」
「御行…………っ、お前……………」
何を言い出すのか見当もつかない。
佐衛門の視点からすれば、突如現れたこの男の『提案』は、思考回路を乱す渦でしかなかった。
ただ、理には適っている。
冷静に考えれば確かに理には適っている提案とはいえよう。
なにせ、喧噪下にいた三人のうち、対峙の真っただ中にいる島田と佐衛門では、どれほど言葉を重ねたところで歩み寄りは期待できない。
そうなれば、必然的に残る選択肢は一つ。佐衛門の味方と認識されているサヤの判断こそが、唯一この場を収める鍵となる。
確かに、論理としては美しい。納得はいく『裁判員制度』。
無駄のない理ではあった。
──もっとも、サヤの立場からしたらそんな『理』など理不尽極まりないものであるのだが。
「…え、え…え………………、」
「俺としてもこんな不毛な応酬に時間を割く余裕はない。できれば、速やかに判断を下してほしいものだ」
「え?! …いや……ちょっと…………まってよ…」
「悪いな、俺的にはもう十分なくらいに待ったつもりだよ」
「はぁっ?!!」
焦るサヤに、迫る白銀。
この理不尽を突きつけてきた諸悪の根源は、なおも忌憚なくサヤに言葉を続けてくる。
「選択肢は二つに一つ。シンプルだろう?──」
「──『殺すか』、それとも『生かすか』──」
「──さあ、判定の時だ。サヤ」
「…い、いや……、ちょ、ちょっと……。なんなわけ…──…、」
「──…あっ……」
そして気がつけば、佐衛門と島田の視線は、ただ一人──サヤへと静かに集束していた。
まるで世界の焦点が定められたかのように、二対の眼差しが彼女を射抜く。
「……サヤさん………っ」
「………ィッ……」
「ぃ、ぁ………あの………………」
その緊迫を帯びた鋭い眼差しは、睨みつけるというよりも、捕らえて離さぬ鎖のようだった。
細身のサヤの全身を、冷たい光が絡みつき、ゆっくりと締めあげていく。
逃げたい──本能がそう叫ぶのに、足は一歩も動かず。
投げ出したい──心がそう嘆くのに、この沈黙の圧は容赦なく肩にのしかかる。
ただ、空気だけが異様に重く、時間だけが冷たく流れていた。
気が付けば、この場の空気は白銀御行一人に完全に支配されていた。
「え、え……。え。…え………」
「さあ早く」
「…ちょ、じ、焦らすなよっ?!!」
「断る。──」
「──さあ、早く……っ」
「…えっ………え、」
一秒ごとに重くなっていく、全身を押し潰さんばかりの圧。
視線、視線、視線──突き刺すような眼差しが脳髄を灼き、目眩が走る。
良く効いた空調など意味をなさず、汗は皮膚を濡らし続けていた。
わずか十六歳。
喫茶店の店主でしかない、ただの少女に、
そんな重圧に耐えきれるはずもなく。
「あ…………アタシは…………………………────」
彼女は唇を震わしながら、やっと。【ジャッジメント】を下した──。
◆
………
……
…
──Spotifyから流れるは、『逆転裁判3』BGMより。
…
……
………
◆
──【残り00:01:08.110】──
「…蛇めっ………!!──」
「──選べるわけ無いだろう……、サヤさんが…『殺す』という…選択肢を………っ!!」
「…ま、つまりそこまで計算づくやったちゅうわけやろ。恐ろしいやっちゃで…。なぁ三四郎」
「…くっ…………。………」
サックスジャズが響く、カウカウファイナンス三階──事務所内。
Spotifyから流れる落ち着きの音色に寄り添うように、珈琲の香ばしさが空間を満たしていく。
『サヤ自家製・特製コーヒー』──四人分。
互いの間にあった疑心暗鬼が解けた──とは、まだ到底言い難い。
それでも、わずかながら緊張は緩和され、──そして白銀にとっては、ようやく念願のカフェインにありつけた次第である。
一応のところ、事態は丸く収まりつつあった。
「ほいよ、ブラックコーヒー」
「……すまないな遠藤。──」
──ゴクっ
「──……ほう。これは中々…。酸味と苦味のバランスが秀逸。…美味いな」
「あーへへー…。あーごめん、なんかもう色々疲れすぎて褒められても嬉しく感じないや、ぶっちゃけ……」
「まさに『コピ・ルアク』のようなコーヒー。ここにありだよ」
「…あ? …は? …いやそれ…褒めてんのっ?! …遠回しに『糞』みたいなコーヒーつってない?!」
「……物は言いようさ」
「そこは否定しろよおいっ!!!」
マグカップから広がる苦い湯気。
一番窓際のデスクにて朝日を浴びながら、パソコンを動かし珈琲を飲む。まるでモーニングタイムの理想郷。
当然ながら本家本元の高級品『コピ・ルアク』とは程遠いコーヒーではあるが、ほろ苦い薫りにつられて、白銀はふと回想をする。
二年の時、
あれは夏休み以前のことか、生徒会室にて。
藤原書記が『コピ・ルアクのです~』と口走ったせいで、ついつい猫の排泄シーンを想像しながらとなった、珈琲タイム。
無論、生産工程はどうあれさすがは一等品といえる、珈琲の奥深い味、薫りであったが。
その味わいを、三人で。
──隣にいた“彼女”と、同じ味わいを分かち合いながら──カップを口に運ぶ、あの笑顔を──……、
「…………………ふっ…」
──いや、今は、よそうか。──と。
ここまでを区切りとして、白銀は意識を現在に引き戻す。
カップをデスクに置き、タイピングの再開を始めていった。
「………」 「………」
無論、白銀がパソコンを用いて為すことはただ一つ。
──『ウルトラアトミック作戦』準備の続きである。
──【残り00:00:58.424】──
当作戦については、自己紹介の時間にすでに佐衛門ら二人へと説明済み。
ゆえに佐衛門は、白銀のパソコンを、まるで目の前に悪魔でも映し出されているかのような眼差しで、睨み続けていた。
「……白銀君…だったよなっ………? ………僕は是非ともキミに勧めたい場所があるよ…………」
「…………勧めたい場所、ですか。…当てても構いませんよね。──…『病院』と仰りたいのでは?」
「…流石だね………っ。──」
「──何が『ウルトラアトミック作戦』だっ…!? こんなの…ふざけている………。何もかもが内容が…滅茶苦茶だっ……!!!」
「…………三四郎……ゆうてそんなん……」
「なんだ島田さんっ……!? これ以外に策がないと…そう言いたいのか…………!?!」
「……………俺やて……。そんなん俺やって…──…、」
「インポッシブルだっ……!! 完全に狂っている……馬鹿すぎる計画だよ……っ!!!」
「ああ、勿論自覚しています。バカの発想? その通り。正気の沙汰じゃない作戦なのは確かです。…ただ、俺は『バカと天才は紙一重』という言葉が嫌いじゃなくてね」
──【残り00:00:33.443】──
「…天才と言いたいのか……? 自分をっ………」
「…いえ。──」
「──バカと天才の違いについて分かりますか? …俺の持論を以て然るに、バカは思うだけで終わりますが、天才は行動に移す。…佐衛門さんもそう思いませんかね」
──【残り00:00:20.333】──
「………狂人の持論はあてにならないよ………っ」
「──ええ、アンタがそう思うなら自由にしてください。…まぁどう思おうにせよ、病院に行くべきは貴方ですよ佐衛門さん。──」
「──痛まないんですか? その右目」
「え、ちょっと白銀!! …それNGワードなんだけど…」 「…ぐっ………………。──」
──【残り00:00:08.133】──
「──…僕は、…間違った発言はしていないつもりだからな……………っ」
──【残り00:00:02.214】──
「…そうですか。なら俺とは対照的ですね。自分で言うのもアレですが、俺はこの作戦何もかもが過ちで、完全に間違いきってると思いますよ。──」
──【残り00:00:00.333】──
「──……なにせ、全ては一人の『女子』の為だけにあるんですから──────────」
──【残り00:00:00.001】──
────【Time up】────
ボンッ──。
ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────
「わっ!!??」 「がっ……!?」
「な、なんやっ!??」
唐突な爆発音が、事務所の空気を裂いた。
建物が軋みを上げ、大きく揺れる。
思わず窓際へ駆け寄った島田と佐衛門の目に映ったのは、遠くのチェーン店が炎に包まれる光景。
──平穏を絵に描いたような国、日本。──その中でも最も華やぎと平和に満ちた街、渋谷。
その筈だというのに────爆風は届かずとも、炎の残響は胸中を焦がしていく。
恐らく対岸の火事。自分らを対象とした爆破攻撃でないのだろうが、サヤと佐衛門の眉間には汗が滲み、島田は歯を食いしばったまま視線を逸らさない。
「…んやねんッ………。おい………」
「え、え、どうすんのこれ…!? とりあえず……避難──…、」
その『バトル・ロワイヤル』の一破片が飛び交った瞬間。
「──あっ……!」
パッと。
一つ、また一つ。
照明が、パソコンのディスプレイが、何もかも。『電気』の灯りが消え失せて行く。
ふと窓の外に目を移せば、街の灯りまでもが、ポツリ、ポツリと断たれていくのが見えた。──爆発の余波による電気接触の不良。大規模停電であろう。
誰かの指でスイッチを切られるように、街の灯が、続々と退場していく。
早朝とはいえ、まだ薄暗さ残る渋谷区/外苑西通りは気づけば明かり一つない状態。
文明開化以前の街並みが如く、暗闇に包まれた。この一瞬であった。
──この一瞬。
──この一瞬にて、最後の幕を下ろすが如く、また一つの明かりが消えて行く。
────『パソコン』が壊れたことが起因となり、
「………サ、サヤ。とりあえず落ち着けって……──…、」
「──って、あッ!!!」 「あっ!!」
「……………………つくづく、爆破尽くめだな。…今日の俺は」
────白銀御行の視界は、ゆっくりと暗転していった。────。
バタリッ─────
「み…御行ィッ!!!!」
………
……
…
◆
ピ…
──【残り00:00:03.000】──
アメリカ・マディソン郡の橋にて。
ピ…
──【残り00:00:02.000】──
渋滞中であったことが不幸か幸か。
車内にて、赤いカウントダウンが人知れず泣きはらし。
ピ…
──【残り00:00:01.000】──
ピィーー……
──【残り00:00:00.000】──
────【Time up】────
──プルトニウム爆弾を積んでいたトラックが閃光と共に大爆破。
──その衝撃波により、周囲の車両は次々と吹き飛ばされ、近郊にあったトルーマン元大統領の墓すら無残に放射能で蹴散らかされる。
──前方車両に乗る、現地を視察していたア●ガニスタン最高指導者は、光に包まれその生涯に終止符を打った。
────『ウルトラアトミック作戦』。
────当作戦は経過に連れ、後にこう改題されることとなる。
…
……
………
☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩
『【Plan 𝓐】 - from A fghanistan』
☩────────☩
………
……
…
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:00】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】昏倒、疲労(大)、精神衰弱(大)
【装備】アーミーナイフ@映画版かぐや様
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:四宮……………。
2:ゲーム崩壊のプラン『ウルトラアトミック作戦』を指揮。ゲームを崩壊させる。
3:島田、サヤ、佐衛門はとりあえずで引き入れている。
【島田虎信@善悪の屑】
【状態】頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:白銀の『策』を信じ、従う。
2:四宮……。ほんますまんッ……。
3:中年親父(黒崎)に復讐したい。…が、今は後回し。
4:三四郎、サヤと行動。ただ三四郎には嫌な感情しかない。
【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:白銀、島田は注視しつつも同行。
3:会長に激しい憎悪。
4:『ウルトラアトミック作戦』に激しい嫌悪感。
【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】疲労(大)
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さん、白銀、島田さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。
4:つか、その作戦…ヤバくねぇ…?
※ナゾ4【プランAとは】…浮上
「白銀御行が指揮するゲーム脱出のプラン『ウルトラアトミック作戦』。その全貌とは」
→白銀御行が#069『【ℙ𝕝𝕒𝕟 𝔸】 - 𝕗𝕣𝕠𝕞 𝕂𝕒𝕘𝕦𝕪𝕒'𝕤 ℝ𝕖𝕢𝕦𝕚𝕖𝕞』にて、作戦始動。
最終更新:2025年07月23日 21:45