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『鴉-巣立ち』








「俺らに“人殺しをしろ”──だぁ??」

「…………」


「え、マジ? 草すぎ」 「この女なに?」

「……」

「いや黙んなよっ?! 無視ムーブされちゃったし俺~~」

「…………」

「……何スルーこいてンのっつってるよなテメェ。ぁあ?」


「まぁまぁ苅べー。ほらこの女さ……おっぱい見ろって、おっぱい(笑)」

「はぁあ? ペチャパイじゃんかよ……!!」

「いや逆に着痩せ説ワンチャンあるって。ギリ盛れる体型してるし(笑)。……ヒヒヒヒ!!」

「うぇ~~マジ!? ……ゲキャキャキャ!!!──」

「──となると俺らも断る理由はねェぜ!! 苅べー激アツメソッドで、シコシコぶっ殺しミッション開始~~! んでクリア報酬は……俺らと5Pだからな!!──」


「──身体、十分火照らせといてくださいよ? 野咲たん♡」

「…………じゃあ、お願い」

「うわ出た!! ガチ承認!!」 「苅べー中出しすんなよ~!」


「ゲキャキャキャキャキャキャ~~~~~~~!!! ケラケラケラケラ~~ダハハハァ~~~~~~~~!!!!」



【野咲春花@ミスミソウ 第一回放送通過】


【アシストフィギュア No.19】
【苅べーと仲間たち@闇金ウシジマくん 召喚確認】
【概要】
参戦時期は『フリーエージェントくん編』。
迷彩服をまとった少年四人組。
苅べーは楕円型のフチなし眼鏡にちょび髭、そして欠けた前歯が特徴的。
サバイバルマシンガン×4を携行し、群れで獲物を追い立てる。

………………
…………
……




 白桃のようにふくらんだ胸元から、きゅっと締まった小柄な尻部へ──。
柔らかな曲線をすべる雫は、溶けゆく白泡を連れひとすじに流れていく。

伊井野ミコ。
──彼女の荒れた心をなだめてくれるのは、昔から変わらずシャワーだけだった。
生ぬるい水流は、胸の奥の重さも、こぼれかけの涙も、そして先ほど相場から受けた頬の疼きさえも、全てをほどかしてくれる。
水栓を止めると、ミコは湿った髪をそっとかき上げる。
両腕を上げた拍子に揺れるたわわな輪郭。排水の音に耳を澄ませる瞼の奥。
肩に残った一滴が柔肌の上で光を弾いた瞬間、ミコは静かに息を吐いた。


「……よしっと」


…………
……


 さざなみを聞き届けるヒトデ。
少し離れた浜辺で海を眺める二つの影と、渋谷ビーチ小屋から現れた小さな影がある。
鴨ノ目武、鰐戸三蔵、ならびにミコの三人が訪れたのは、東急ホテル近郊の浜辺であった。
ご紳士にもシャワータイムをただ待つだけでいた二人の元へ、風紀委員は砂を蹴りながらズカズカ歩み寄っていく。


「鴨ノ目さん!! あと、特に鰐戸さんっ!!!!」

「……」 「……あ? 特に?」


幼い頃から英才教育を受け、礼儀作法だけは誰より厳しく仕込まれたミコだ。
例え殺し合いの最中であろうと、それを理由に礼節を捨てるつもりなど毛頭ない。

ゆえに今日もミコは、二人に注意をするため──、


「いいですか!! 先程の燃えるゴミの件、改めて物申したいのですが……────ッふぎゃっ」


────三蔵が掘っておいた落とし穴に、まんまと落ちていくのだった。









◆──────────────◆
  《 TAKE : 02 》
◆──────────────◆


………………
…………
……


 『落とし穴』────ッ!!!
もはや説明の余地すらない。
太古の猟師が発明し、人が獣を仕留めるために用いてきた、古典にして万能の罠である。


「信じられないっ!! 信じられないっ!! 信じられないっ!! 信・じ・ら・れ・ッ──ない!!!!」


罠にかかった子リスのように頬をふくらませ、足をバタつかせるミコは、バスルームへと逆戻り。
全身に付着した泥を洗い流しにかかるのであった。
シャンプーにコンディショナー、そしてボディソープ。
一つひとつを丁寧に泡立てては、身体を一から清潔にせねばなるまいのだから、嗚呼煩わしい。
ようやく全身の泡を落とし終えた後──くびれに残った小さな泡には気づかぬまま、ミコは鼻息フンスとバスルームから出るのだった。


…………
……


「兄弟分よォ、お前……おでんでなに好き?」

「……急だねぇ。オレはぁーー……ちくわぶ、かな」

「ちくわァ!? 俺ぁあれが大嫌いだッ!!! まず美味しくない! ついでに穴から汁吸って激アツだから食えねぇんだわ」

「じゃあ、たまご……かねぇ」

「あー、たまごもウゼェったらありゃしねェよなあ~~。味染みてない黄身がホロホロしててよ~~……おぉ気持ち悪いぃ……!!!」

「お前さんは何を期待してこの雑談ふったんだよ」


「おでん……? はぁああっ!? オデン(・・・)じゃなくてゴメン(・・・)が先でしょぉーー!!! それが筋じゃないですかぁーーっ!!!」


「あっ」 「……小っちゃい韻踏み、かましてきたねぇ……。──」

「──ミコ……。……おかえり」

「ただいまですぅうーーっ!!!」


 “ただいま”と言ってもその距離はまだまだ遠い。
数分前と寸分たがわぬ光景で、──浜辺で腰を下ろすカモと三蔵。そして渋谷ビーチ小屋からバーンと飛び出したミコ。
ただ当然として、一つ違う点はミコの纏う怒気であり、彼女の抱えたキリキリと震える分厚い本はイヤに凶悪に見えたものだった。
分厚い本。──法律すべてが詰まった愛読書────『六法全書』。
ミコが二人の元へ到達した暁には、ヒステリー教師顔負けの法律講義が始まるのは火を見るより明らかだろう。
さしずめ、落とし穴は『敷地掘削罪』だとか、なんだか。
三蔵とカモは思わず、うつむきつつの目配せを交わすのだった。


「ったく、だから言ったろ兄弟分~~。全部テメェの指示なんだからなァ~? ぁああ?」

「落ちた瞬間ギャハギャハ笑ってたくせに。よく言うよ……」


とはいえ、ミコの義憤は至極もっともではある。
シャワーのやり直しはもちろん、泥だらけの制服を洗濯機へ放り込み、さらに着替えまで。
追加労働の三連コンボを強いられたのだから、この悪質イタズラは許されざる暴挙だった。
手間、手間、手間、手間手間手間手間手間手間の──玉手箱。たまったものじゃない。
ここまで自分に実害が及ぶくらいなら、まだ亀いじめみたいな古典的イタズラの方がマシだ、と。
ずかずか歩くたび、かの石上のバカにした顔が脳裏をよぎり──そのたびにイラッと胸を焦がすミコであった。


「……(……まぁ、石上なんかと比べたら二人に失礼か……)──」

「──絶っ対に許さないぃーーっ!!! 私は容赦しませんからぁあーー!!! 覚悟しててくださいよ、特に鰐戸さぁーーん!!!!」

「全部俺のせいかよっ」 「実行犯は、時に指示役より罰せられるからねぇ」


鰐戸は生きているだけで前科がつきそうな凶悪面のため、普通なら目を合わせてはいけない部類の人物なのだが──何故だかミコは、彼に妙に厳しい。

揺れる半袖短パンの夏服。
砂浜をズカズカと進んでくるミコ。
理論上、彼女が二人に追いつくまで残り数秒といったところだろう。
拷問を家業とする凶悪二人組は、赤子でもひねれそうな小娘に気圧され、同時にため息をつくのであった。


「あなた方二人は楽しいのかもしれませんけど……やられた側の気持ち、少しは考えてくださいねえーー!!! 本当にもう……!!!──」

「──六法全書(・・・・)はあなた方を断罪して……────ッはぅあっ!?!」


──ズドンッ…………。
──二つ目の穴。


カモらのため息には、どうしようもない『呆れ』の色が滲んでいたという──。


「あぁ~~? 六甲おろし(・・・・・)がなんだって?? ……プッ!! ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

「…………やれやれだねぇ。これで残り、二十四個」



◆──────────────◆
  《 TAKE : 03 》
◆──────────────◆


………………
…………
……


 『天丼ネタ』────ッ!!
別名:デジャヴ。
I've just been inthis place before……。


「バッカじゃない!! バッカじゃない!! バッカじゃない!! バッカじゃないっ!!!!!」


三度のシャワータイム。
すらりと露わになった太ももラインを三度も拝めたとなれば、浴槽もさぞ満足げに泡を立てたことだろう。
湯気をまとって揺れる足元、曇り続ける鏡、轟々たるシャワー音。──もはやミコにとっての風物詩と言っても差し支えない。

“湯気を吸うのは、もうお腹いっぱいだというのに……”────。

十分すぎるほどの香りを纏って、彼女はバスルームを後にしていく。


…………
……


 ツン、ツン、
  ツン、ツン、

    ──ズボッ

「あっ! ……ここが落とし穴の箇所…………。……じゃあ、こっちは通っても……大丈夫……っと!」

「知恵を使い始めたねぇ」 「……いや何してんだあのバカ?」


 伊井野ミコ──若くて、身体になにひとつ不自由のない彼女が手に持つは、一本の白い棒。
それは落とし穴対策として考案した『簡易チェック用杖』らしく、かくして彼女は砂浜をツンツンと突きながら前進するのだった。
砂をツンと突き、杖先が沈めば即座にルートを変更。
砂浜という戦場を、慎重極まりない姿勢で踏破していく。
その慎重さとは裏腹に、鴨ノ目と三蔵へ向けるにらみだけはやたらと鋭かった。

ザッ、ザッ──。
おぼつかない足取りで、しかし確かに前へ。
ミコは確実に二人との距離を詰めていく。


 ツン、ツン、
  ツン、ツン、


 ツン、ツン、
  ツン、ツン、

 ツンツンツンツンツンツン────。


「おでん食いたくなってきたなァ」

「いやツンツンで連想すんなよ……」


 ツン、ツン、


「……よし! ……ここは大丈夫……え、待って……違う……? ……もっかい、確認して……もうっ……もう~~~~~~~~っ!!! あぁもうっ!!!!──」

「──なんですかコレ!!! なんで私がこんな屈辱的なことしなきゃなんないんですかぁっ!!! 鴨ノ目さん、あなたの指示なんですよねっ?! 意味わかんないですよ!!!!」

「うーーん。……マインクラフトみたいだよねぇ」

「それを言うならマインスイーパーな? アホ」

「…………。とにかくその調子で来て。ほら、頑張るんだー、ミコーー」

「声援ありがとうございますっ!!! でも私、あなたのことが大嫌いですっ!!!!!」


いつの間に建てたのやら──『落とし穴二十六個注意!!』の看板に、おさげ髪が泣いている。
勤勉なミコは、おそらく一度も触れたことのないであろうゲーム──『マインスイーパー(@リアル編)』。
いまや彼女は全身全霊で苦戦を強いられていた。

地雷を踏めば、即ドボン。
頼りになるのは海の家に転がっていた棒きれのみ。
カモや三蔵の性格を踏まえ、落とし穴のありそうな場所を冷静に推理し、先読みしたうえで足を運ぶという──。
──以上の作業は、優秀な頭脳を持つミコにとって、人生で一番どうでもいい案件に頭を使わされた瞬間かもしれない。

必要なのは頭脳。
そして運と、ほんの少しの度胸だけ。

ツン、ツン、ツン、ツン──。
果たして彼女は、この即席マインスイーパー地帯を突破し、無事に二人のもとへ説教馳せ参じができるのだろうか。


 ツン、ツン、
  ツン、ツン、

「大丈夫……大丈夫……。ここはっ、いける……! ……はぁ……ほんと、バカみたい……」

「あ、そうだ。……ゲヒヒ!! おーい伊井野ちゃ~~~ん?」

「人が集中してる時に話しかけないでくださいっ!!!」

「ンな辛気臭いこと言うなって! テメェにカモえもんから秘密道具(・・・・)くれるってよ!! ──おい寄越せゴラ」

「なっ!」 「……秘密道具? なんですかそれは」


 ポーンッ、ザッ。


「ほらよ、頑張った君にプレゼント!! 『サングラス』~~!」

「……意味が分かりません。これをかければ落とし穴が可視化できるとでも?」

「はぁ? 見えるわけねェーだろ!!」



ミコの挑戦。
『マインスイーパー』編。
彼女の行く末は──。



「でもこれかけりゃ、テメェはあっという間に視覚障が……、」

「(ピュイ~~~~~ッ!!!!)はいアウト!!! アウトアウトアウト!!!! 信じられない……最低……っ!!──」

「──……鰐戸さんを黙らせるにはもう……自分から落ちて終わらせるしかないじゃないですかっ……。──」

「──もうっ!!!!」


 ピョン

 ドシンッ……。



────『自滅』で終わった。



「……あまり図に乗るなよクズ。全然オチてないからな?」

「…………ライン(・・・)は余裕で超えれたけどな?」




◆──────────────◆
  《 TAKE : 04 》
◆──────────────◆


………………
…………
……


 『マインちゃん(地雷)』────ッ!!
この風呂上り後、クロミちゃん人形に話しかける彼女こそ地雷系そのものだっただろう。


「ふんふふん~……♪ きみは~シンデレラガール……♪ マイパサ~~……♪ ユアマオンリ……フローリーヒーロイ~~ン♪…………──」

「──……はぁあ………………もう、なんなのよぉ……」


推しであるキンプリの歌を鼻歌でなぞりながら、ミコは湯舟に身を沈めた。
四度目のシャワー。
そして、頭脳をもってしても攻略できなかった落とし穴の群れ。
その混乱と疲労を、湯の温もりだけが静かにほどいていく。

本当は──ただ誰かに、温かい言葉をかけてもらいたかったのかもしれない。


「…………」


白濁した湯面に、ほどけたおさげがふわりと浮かぶ。
毛先の揺れをぼんやり眺めながら、ミコはそっと湯の中へ顔を沈めた。


「(平野紫耀くんに……頭、撫でられてみたいな………………)」


…………
……



「……なんでジャイアンツユニ?」

「他に適合する衣服がありませんでした。……念のため言っておきますが、これは私の趣味ではありません」

「いやそうじゃない。……なんで川相のユニが海の家にあるんだよ……」


 『かわい様は送らせたい -バントの神様の闘魂頭脳戦-』──。
ジャビット人形ならぬクロミちゃんを愛しく抱きしめながら、ミコは奇跡的に二人のそばまでたどり着いた。
もはや、この頃になると呆れというか。怒る気力すら残っていなかったのだろう。

波音が心を鎮め、潮風がゆるくユニフォームの裾を揺らす。
リラクゼーションの雰囲気の中、ホットパンツで露出された太ももの──足先を海に浸け、


「…………はぁ……。……きれい」

「……だな」 「……。(反応としてはおかしいけどねぇ……)」


ミコは三蔵の隣に腰を下ろし、ただ茫然と海の景色を眺め続けた。



「…………褒めてあげたいくらいですよ、鴨ノ目さん」

「……なにがだ?」

「よくもまあ、ここまで大量の落とし穴を……しかも短時間で、ですよ? その……異常なまでの執念、そこだけは本当に称賛します」

「…………」

「さて、そろそろよろしいですよね。……何が目的ですか?──」

「──責めるつもりはありません。ただ、理由が知りたいだけです。どうしてこんなことをしたのか。何のために、誰のために、落とし穴なんて作ったのか……。──」

「──……説明義務がありますよ、鴨ノ目さん」

「…………理由ねえ」


互いの視線は、ただ海の向こうへと投げ出されたまま。
潮騒が一定のリズムで寄せては返し、三人の沈黙を満たしていく。
しばらく押し黙っていたカモは、やがてようやく神妙な声で口を開いた。


「オレには『トラ』という相棒がいてねぇ。伊井野が入浴中、あいつと電話をしたんだが。……ほら、あのホテル。東急ホテルにアイツはいるらしいんだ」

「…………参加者のトラさん、ですね」 「なんだ伝統の一戦(阪神対巨人)でもおっぱじめんのかよッ」

「……オレはアイツを待つために今、近くの浜辺にいる。──」

「──そこでなんだけど、……悪いが、二時間ほどこの浜辺で待つつもりだ。……二人にも付き合ってもらうよ」

「……ンだそれ」 「…………。──」

「──理解しました。──」


「──ですが、一方で分かりません」

「……どっちだい、それは」


「鴨ノ目さんは説明義務を果たしていません。何故、落とし穴を掘ったのか──その核心を話さず、巧妙に逸らしました。それではあなたの考えなど察しようがありませんよ」

「……」

「事情を言いたくないのならそれはそれで構いません。ただ、その場合私たちとの間に溝ができるだけですけどね」

「……」


波の音が一度だけ。
強く寄せた。


「…………どうしてなんですか。答えてくださいよ、鴨ノ目さん……」

「……」



 “どうして”────その問いには、いまだ答えが返ってこない。
カモが起こした唯一の動作といえば、足元に転がっていた巻貝を拾い上げたという──貝殻の穴から海風が口笛を鳴らすのみ。

言ってしまえば、たかが落とし穴。
たかが落とし穴である。

子供のごとし幼稚なイタズラをしただけのはずなのに、それに全く釣り合わないほど、カモは重苦しい沈黙をまとい続けていた。
一向に開く気配のない、固く閉ざされたその口。
すなわち、彼にとって今回の落とし穴騒動は『たかが』では済ませられない性質を内包しているという証左でもあった。

無言は途切れない。
真意はいっこうに語られず──上空をかすめるカモメだけが白い羽音を響かせる。
海が、鳴る。


「……」

「…………答えてくださいよ……」


ただ静かに、静かに──。
時だけが薄い水面となって、この場をそっと覆っていった。





「いやなンだよこの雰囲気……? バカじゃねェ~~の!?」

「え?」 「……」



となると、黙っていられないのが、両翼に挟まれた鰐戸三蔵である。
サディスト中のサディストである彼にとって、沈黙やシリアスはもっとも耐え難い拷問だったのだろう。


──そこで、鬼畜の宣言と共に、唐突すぎる『悪魔のゲーム』が幕を開けるのだった──────ッ!!!



「ダンマリうざってぇ兄弟分には制裁だコラァッ!!! はい、開始ィ!! 『かわいいものしりとり』ィィ!!!! ギャハハハハハハハハ!!!!!!!」

「「……は?」」



 『かわいいものしりとり』────ッ!!
ルールは至極単純!!
可愛いと思う物だけでしりとりを成立させるだけの、わかりやすいゲーム!!
ただし!!
『可愛い』の判定権は主催である三蔵が独占する!!
三蔵が「かわいくねェ」と判断した瞬間、敗者には──可愛さとは無縁の『お仕置き』が待ち受けるのだった……ッ!!!


「まずはー……『りんご』!! はいミコ言え!!」

「え、えっ!? え? ご、ご…………ごー……ごー……」

「一発目で詰まる奴がいっかよッ!!? なんでもいいから言えやッ!!!!」

「わ、わっ……分かりました!! 『ごみ屋敷』!!」

「はいかわいいかわいい。次、兄弟分」

「え?!」 「それを可愛いと思うお前と、パっと思いつく言葉がゴミ屋敷のミコどうなってんの?──」

「──……じゃあ、『キツネ』……、」

「全然かわいくな~い!! 罰ゲェ~~~ム!!! タバスコ一〇〇パーセント一気飲み~~~!!!」

「は?」 「えっ?!」

「おい伊井野ォ!!! さっさと売店でタバスコひったくってこいやッ!!!」

「は、はひぃ!? ……ば、罰は罰なので……仕方ありません。分かりました……!」


無論ッ、海の家にタバスコなど置いてあるはずがないッ!!!
灼ける砂浜を汗だくで歩く客たちが、これ以上カラい思いをする場所など存在するものか!!
すたこらさっさと海の家へ向かう伊井野であったが、──『天丼』にはやはり、辛味スパイスが必要であろうッ!!!


「……なんなのよ、かわいいって……、──」

 ──グッ

「──いいぃっ!? ……────ッあばああぁぁああああっ!!!!」


浜辺に転がっていた白い棒につまずき、ミコは避けていたはずの落とし穴にドボンッ────!!
反響するはギャハハギャハハとバカみたいな笑い声ッ!!
ミコをコツンと突き落とした『功労者(棒きれ)』は、こう称えられるべきだろう──。


────『送りバント』、成功と。



 ドシン……



◆──────────────◆
  《 TAKE : 05 》
◆──────────────◆


……………………
………………
…………
……


 それは、本当に『たまたま』であった。
沸き立つさまざまな思いに蓋をして、とりあえずはキンプリを鼻歌で合唱。
湯舟に沈んでいたミコのもとへ、

──なんの予告もなくして、ドアは唐突に開かれた。


少女二人。互いに裸体。
両者とも、予期せぬ場所で、予期せぬ相手との鉢合わせ。
一瞬で世界が止まり、二人の唇から小さな「えっ」だけが空気に落ちる。
自分の知らない人間ということもあり、気まずさがあってのことだろう。
二人は武器を構えるでもなく、言葉をぶつけるでもなく。
現れた少女はシャワーで身体の砂を洗い流し、一方のミコはただ黙って視線を落とし、深く口元を沈め。
奇妙な静けさのまま、暗く、湿度が濃く、ただ時だけは確実に過ぎていった。


やがて、少女は黙って浴室を後にする。
脱衣所で服を羽織るその背へ──今度はミコが、ゆっくりと扉から姿を現した。
振り返った少女に、ミコは険しさも警戒も見せない。
ただ、この殺し合いの中で偶然巡り合った縁として。

ミコは静かに、その少女へ言葉を紡いだ──。


…………
……


「……」


 蓮の実の如し穴だらけ。
──解放された二十五の落とし穴が穿つ砂浜に、黒いスカートの裾が潮風にそよぐ。
現在、ミコの衣装は秀知院の制服。最初に洗濯機へ放り込んだ原点の一着だ。
胸元を隠すようにディバッグを抱きしめるその小柄な影には、どこか覚悟めいた気配が。
静かに、ただ静かに宿っていた。


「………………」


──今から告げよう内容を、

もしこれを鰐戸三蔵に話せば、間違いなく耳をふさぎたくなるような下卑た凌辱的コメントが返ってくるだろう。
ではカモならどうか。
それはそれで予測しがたい。善にも悪にも転ぶ、あの男特有の読めなさというものがある。

ただ、それでも。
それでも、あの『参加者』のことを、隠したままにはできない──。
今は海の家に待ってもらっている、あの赤い服の少女のことを──、と。

砂のざらりとした感触、潮の匂い。
言葉にできない緊張が薄く満ちる浜辺で、ミコは静かに三蔵の隣へ腰を下ろした。


「あの、お二人に……話したいことが……、──」


「──あ……」


「……」 「…………なんだ、伊井野」


言葉が急に喉でほどけた感覚だった。ミコは思わず口をつぐみだす。
彼女の視界に映るカモも三蔵も、姿形だけならこれまでと何ひとつ変わらない。
言葉を止める理由など、本来どこにもない、いつもの二人だった。
ただ、足を止めた最大の理由は、──その『空気感』に尽きるのだろう。
何を話していたのか。
二人は妙に神妙な面持ちで振り返り、その静けさはミコの声を飲み込ませるほど重かった。


「あぁ、すまないねえ。伊井野」

「……え、あ……はい」


ミコが言葉を閉ざした事情に気づいたのだろう。
カモは軽く謝罪し、一拍置いてから彼女へ視線を向けた。
そして、遅れてやってきたミコにもわかるよう、あらためて語り始めるのだった。


「……ちょっと他愛もない会話でねえ。三蔵にも聞かせていたら、まぁ、少しシンミリムードになったからさ。別に重たい話ってわけではないよ」

「……どのようなお話ですか?」

「どのようもクソもねェーっつーの。……ったくテメェはいつも空気読めねぇよな! いい雰囲気の時にしゃしゃり出やがって……ッ」

「コラ三蔵……うるさいぞ。…………じゃ、聞きたいか? オレの個人的な話をさ」

「……チッ。また最初からかよッ」

「よろこんで。……お願いします」

「うん。────二十分くらい話そうかな……」



そう──。
ミコ“にも”────。


「……オレは、海が嫌いでねぇ……。──」

「──海には不思議な力がある。苦しい時も悲しい時も、海を見れば何もかもを許せるような気がするんだ」



鴨ノ目武。
裏社会で十数年、悪人だけを淡々と屠ってきた『復讐屋』。
そんな残酷な職業に身を置く男の口から零れ落ちたのは、
──ひどく素朴で、ひどく純粋な『昔話』。

カモは、その断片をそっと掬い上げるように語り出すのだった。



「オレの母親は、俺が小学生の時に死んだ。──」

「…………」


「どうしても納得できなくてね。──」

「──死んだはずの母が帰ってくるんじゃないかって……一ヶ月くらい、玄関で毎日ずっと待っていたよ。──」



潮騒がひとつ、寄せて返す。



「──で、ある日。学校から帰ったら……普通に母親がいたんだ」

「……え?」



ミコの小さな反応すら、波にすぐさらわれていく。
カモは、穏やかな口調のまま語りをつなぐのだった。


 カモが語るに、台所では母が夕食の支度をしていたのだった。
父も驚いた様子はない。まるで、母がそこにいるのが当然であるかのように振る舞っていた。
子どもだった自分は、ただただ、それが嬉しくて。
翌日、学校で友達に言った。
「死んだお母さんが、帰ってきたんだ」

返ってきたのは、心底不思議そうな顔と言葉。
「え? タケちゃんのお母さん、死んでないじゃん」

奇妙に思いながらも、母が戻ってきた事実を受け入れ、そのまま新しい日々が始まったという。


そこからの日々は、夢のように楽しかった。
一年半ほど続いたある日、修学旅行で海へ行った。
潮風のなかで食べた、母の作った弁当は本当においしかった。
海苔弁の塩気も、卵焼きの甘さも、すべてが胸に沁みた。
あの味は間違いなく夢じゃない、現実のものだった──。

修学旅行から帰ると、家に母親の姿はなかった。

家中を探しても、影ひとつ残っていない。
生活の痕跡さえ、跡形もなく消えていた。
父が帰宅した夜、「お母さんがいなくなった!」と訴えると、
返ってきたのは呆れたような口ぶりだった。

「……おまえ、いまさら何言ってるんだよ」


翌日から、父との二人暮らしが始まった。
何度も、何度でも問いただしたかった。
しかしその瞬間、あの一年半が「幻だった」と決まってしまう気がした。母との温かい日々が、全部嘘になる気がした。


だから、聞けなかった。


ずっと、聞けなかった。




「……その父も、もういない」

「…………」


「……さっき言っただろう? “海を見てると、なんでも許してくれる気がする”ってな。──」

「──二十年以上たった今でも、海を眺めるだけで、あの時の……母との生活を思い出すんだ。──」


「────…………オレは」


 波が靴先を濡らした時、カモはサングラスの縁をゆっくり持ち上げた。
サングラス越しの瞳孔は、初めて会った時と変わらぬ濁りを湛えた黒い色。
裏稼業に身を沈めた者だけが持つ、あのどす黒い色彩は今も確かにそこにあった。
──ただ一方で、一筋の光が映えたようにも見えた。
単に朝日の反射だったのかもしれない。
それでもミコは、言葉を挟むことなく、胸の奥でそっと受け止め。


「…………」

「……」


海面に漂う小さな光の粒と同じように。
静かに。ただ静かに、地平線を眺めていた────。







「以上。…………出典、『アーネスト・ヘミングウェイ短編集Vol.2』より」



「え?」 「…………はぁ??!」




「オチはこれぐらいが締まりいいだろう。……ミコはともかく三蔵、お前は本ぐらい読め。こうして受け売りで名作風の語りができるんだからねえ。──」

「──はっはっは」

「「いや笑い話で済むかァッ!!!!!」」



 今までのシンミリムードは、何処(いずこ)に────?

三蔵はカモの胸倉をつかんで揺さぶり、ミコはそれを必死に止めつつ、同時にカモへ説教を飛ばすという。
──この場の空気は一転、あっという間にドタバタのギャグ劇へと転調していた。

高低差ありすぎて耳がキーンっとなるとはこのことだろう。
寡黙で渋い雰囲気を気取っていたカモも、落とし穴騒ぎを思い返すに、案外子供じみた人間なのか。
ぎゃあぎゃあと飛び交う怒号とツッコミ、大騒ぎ。
今やこの状況は、さざ波音でさえかき消すことができないでいる。


「おい猿!! チンコ出して土下座ッ!! やンなきゃ一生モノのメガネの刑だからなァッ!!!」

「罰が極端すぎるねぇ……」

「バカかテメェッ?! そもそもよォ、海の家で蕎麦(・・)買ってきたころから気に食わなかったんだッ!!! なんだよただの蕎麦って?! そばはそばでも普通焼きそばだろッ!!!」

「え? ソバ……? 私の知らないとこで……ソバ……?」

「いや“じゅるり”じゃねぇ~しィ~~死ね伊井野!!! ……ンだよ()蕎麦って!!! 注文チョイスにテメェのエゴ出してンじゃねェぞタコ!!」

「話が逸れてきたねえ……。でも、お前さんがネギ捨ててオレが注意した時の返しは面白かったよ」

「あぁ『カモがネギ庇ってら』ってのな? ……何が面白ェんだイカレポンチがぁあああああああ!!!」

「まぁまぁ。──……あっ、ほら。あれを見ろ」

「あぁッ?!」


『あれを見ろ』で注意を逸らす──
そんなもの、小学生レベルの引っかけにすぎないはずだが。
揉みくちゃにされながらもカモが指し示した先には、本当に数名の影が砂浜の奥から近づいてくるのが見えた。
ざっ、ざっと、砂を踏む足音が四つ。
こちらのカオス極まる騒ぎなど露ほども気にかける様子もなく、徐々に距離を詰めてくる。

それを見るなり三者三様。ミコらの反応はあまりに対照的だった。
「あぁ面倒臭ェ……」とばかりに、ポケットに手を突っ込みながら立ち上がる三蔵。
反対に、思いっきり口に出して「ダルいねぇ……」と腰を上がるカモ。
ただ一人、ミコだけは未知の四人組を見て、声を弾ませるばかり。
──誰にでも怯まず注意できるアッパー系根暗のミコと、常時曇天のような二人。その対照が鮮やかに浮き彫りになった結果だろう。

もっともミコ自身も、
「どうせ二人は“しょうもねぇ口喧嘩中に来客すんな”とか思ってるんでしょ……」と内心呆れつつではあったが。


「青天の霹靂……ですね。私たちが揉めている最中に救世主とは……」

「あ? コメの話? 農林水産省にでもしてろバカ伊井野」

「東北のおコメの『青天の霹靂』じゃありませんっ!!! ……なんですかその回り道すぎるボケ……」」

「初手からボケ倒してんのはテメェだよアホ。……ほら、客人用になんか飲み物買ってこいッ」

「あ、はい……。……言っときますが次バカって言ったら告訴状出しますからね。──」

「──では、行って──」

「──くと思いましたかっ?! どうせ落とし穴仕掛けてるんでしょ!!! もう引っ掛かりませんからっ!!!」

「は?」

「看板にはこう書かれていました。──『二十六個(・・・・)、注意』。私が潰した落とし穴は確認できたもので……二十五個(・・・・)…………。──」

「──つまり、自販機の前に『最後の一つ』を仕掛けておいて、私の醜態をあの人たちに見せつけるという……その魂胆。見え見えですからっ!!! 秀知院、舐めないでください!」

「「……」」


四人の来客は締まりのない、
どこかふぬけた表情のまま距離を詰めてくる。

「くわっ」とドヤ顔なのか怒気なのか判別のつかないミコの表情を、カモは感心しているのか馬鹿にしているのか。
ミコの小さな肩に、ポンっと手を置くと、


「…………さすがだねえ」

「さすがでしょっ!! ほんっっっとあなた方は最低な人たち!!!」

「────ただ落とし穴はすぐ近く(・・・・)にあんだけどねぇ!」

「……へ? はいぃ~~……? (ドンッ)──ぐっばあああああ!!!」


そのまま勢いよく、ミコの身体を横から突き飛ばし────ズボッ。
いくら食い意地の張るミコとはいえ、こうも続く天丼ネタには飽き足らぬものなのか。
彼女は抗う間もなく、残された最後の落とし穴へと吸い込まれていった──。






 ──ドシンッ


「あ、いたたた……っ、……うぅ……。……信じられないっ。──」

「──最低最低最低最低っ!!!! ぜっったい許さないんだからっ!!!! 覚悟しておきなさいよ!! あの……鴨ノ目ぇ~~~……、」



 ザ、ザ、ザ……



諸行無常の夢の跡──。
潮のきざはしに、兵どもはただ海を見て心を据える──。



「んじゃやるか、兄弟分」

「ああ」



「……え?」





  ザ、ザザ……

   ──カチャッ



「ケラケラ……」 「ヒヒヒヒ……」
「……ヒヒ……」 「……さぁ!!」




落とし穴は──、




 ザ、ザ……


  ザ…………



「……死ぬなよ、三蔵」

「あぁ死ぬのはテメェだけだ兄弟分。地獄であのクソガキ共のオムツ替え任せたぜ」




 カチャッ──カチャッ──
  カチャッ──カチャッ──


「「「「うぇ~~~~~~~い!!!! 野咲たん万歳ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!!!!!!!」」」」




落とし穴《 TAKE : 06 》は──、
──もう来ない────。





「────鳴けよ、豚ァ」




 ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ──── ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ────
   ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ──── ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ────
     ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ──── ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ────
  ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ──── ガガガガガガガッ────ガガガガガガガッ────



 パンッ──── パンッ────…………

   パンッ…………





………………
…………
……


 静かな海。
あまりに、静かすぎる海。


「ひぃ…………いや……い、いやぁ…………嫌っ…………!」


すべてが無音に感じられた。
波の音も、
風を裂く気配も、
つい先ほどまで雷鳴のように轟いていた弾丸の雨も、
悲鳴も、罵声も、か弱い二つの自動小銃の発砲音でさえも。

頭上をかすめたはずの弾丸の気流すら、いまは遠い昔のことのように思える。


「嫌……………ゃ、イヤ…………、ぁぁあ……………」


四人の少年があげた下劣な笑い声は、ひとつ、またひとつと時間の縁からこぼれ落ち、
一丁の自動小銃の音も、気づけば途絶え、
何か命乞いに似た声を、強引に断ち切るようにはじけた一発──。
──それを最後に、あらゆる音が世界から消えた。

夢というものは、目覚める直前の数秒で見ると聞いたことがある。
ならば、この瞬間すべてが一陣の幻だったのだろうか。


「……なにこれ……なに、これ……。いや……いやっ……なによ、これ……っ……」


この場にて唯一音を発す者──伊井野ミコ。
彼女は、『現実』かを確かめるため、震える手で落とし穴の縁をつかみ、顔を覗かせようとした。


「…………が、鰐戸さ…………。みんな……、」


「ダメだミコ。振り向くんじゃない」

「……えっ…………?」



 『意外な声』だったのかもしれない。
這い上がろうとしたその瞬間、背中越しに届いた男の声音。
“振り向くんじゃない”──その抑揚のない一言が、銃声よりも重くミコの全身を縫い止めた。
震えながら動きを止めたミコを確認し、男はそっと優しいトーンで声を続ける。


「うん、絶対に後ろを見るんじゃないよ。絶対にねえ」

「…………ぁ、ひゃ…………! あ、あの……か、鴨ノ目さん……………! な、なにが……その……、」

「ホテルにトラって奴がいる──ってのは、さっき言っただろう? 悪いが、今後はソイツを頼ってくれ。……つまりは、一旦(・・)お別れだ」

「…………ぉ、お別れっ………………?! が、鰐戸さ……んは…………どうしたん……ですか……?」

「あぁ大丈夫。振り返らずとも──ちゃんと、オレも三蔵も、お前を見届けるさ」

「…………み、見届けるって…………」


ミコは、さっきまでの景色が夢だと思った。
夢じゃないわけがないと、心から思った。
何せ、もし今、自分の想像する『最悪』が本当なら──カモがこんなふうに背後から語りかけてくるはずがないのだから。
夢だと信じていたからこそ、振り返ることができなかった。


「さあ行け、……もう」

「……ぁ、あぅ………………」


おぼつかない足取りで、震える膝を支えながら、ミコはそろりと這い上がった。

後ろを見たくない。
絶対に見たくない。
振り向きたいのに、見てはいけない。

目を大きく見開いたまま、涙の膜越しに揺れる世界を睨みつけ、ミコはただ穴へ背を向ける。
東急ホテルにいる島田虎信に会え──。
その指示に、従うため。



「……あ、あの…………鴨ノ目さ…………」

「ん」


分かっている。
これが永遠の別れでないことは、ミコにも分かっていた。
ほんの、一旦の別れ(・・・・・)にすぎないと分かっていた。

それでも、最期、(・・・)確かめるように。
ミコは、震える声で問いかけを絞りだした。



「……ヘミングウェイに……そんな短編…………ありません…………」

「その話かい」


「…………さっきの話……本当は……、本当に鴨ノ目さんが…………体験したことじゃ……ないんですか…………?」

「……………………………」



 答えは返ってこなかった。
思えば、──自分を救ってくれた──あの『落とし穴』(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)について問いただした時も、彼はただ沈黙で塞いでいた。


「…………」



沈黙こそ、彼の答えなのだとミコは悟ったのかもしれない。
返事を待つことなく彼女は一歩、また一歩と砂浜に足跡を刻んでいく。
強張った表情のまま、歩幅だけが妙に一定で。

カモとの距離が離れるほど、日差しは明るさを増す。
逆に戻っていく波の音は、やけに遠く聞こえた。


潮風がおさげをひときわ強く撫でつけた瞬間、背後から──ボソっと。



「……もう二度と、海は見れないけどねえ」

「………………えっ」


何かが穴に落ちてゆく音と共に、声が完全に消えた。




 振り返りたい衝動を堪え、下唇を血が出る勢いで噛みしめるミコ。
感情が麻痺していたこともある。
この時はまだ、瞬きすら忘れた強張った顔を保ち続けていた彼女であるが、



浜辺から階段を昇った後、
沿道沿いの風に無防備な頬を叩かれ続けた後、
赤信号を無視して、茫然と市街を練り歩いた後、
ショーウィンドウに映った自分の顔が誰なのか分からないまま、足だけを前へ進み続けた後、


──そして、東急ホテルの玄関をくぐった後、とうとう。



………………
…………
……



「…………か、鴨ノ目さ……っ……鰐戸さ……ッ……」



「……君は…………っ」

「あぁ三四郎。……このコが、伊井野……っちゅうわけやろ。──」


「──……よう、耐えたな」

「ぅあ、……あっ……ひっ……ひぐっ……! ぁ……ぁぁ……!!──」



「──あああああああああああああああっ!!!!!! っぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」



島田虎信の胸の中で、彼女は張りつめていた感情すべてを爆発させていった────。




【苅べーの仲間たち@闇金ウシジマくん 全滅確認】
【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん 死亡確認】
【鴨ノ目武@善悪の屑 死亡確認】
【残り55人】


【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ 第一回放送通過】
【島田虎信@善悪の屑 第一回放送通過】
【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ 第一回放送通過】


【1日目/F6/東●ホテル/1F/エントランス/AM.06:00】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】悲哀(激)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕、利根川著『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:………………。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:カモ…………。
2:伊井野ミコの保護。
3:白銀、三四郎(佐衛門)と協力してゲームを崩壊させる。
4:サヤを殺したクズを絶対ぶっ殺す。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:……ミコ、さん。
2:サヤさん……僕は、どうすれば……。



前回 キャラ 次回
087:『GAME OVER 089:『巡り合う二人の会長
067:『颯爽と走るトネガワくん(続) ミコ
082:『あたしのあした 島田
082:『あたしのあした 佐衛門
065:『焔のはにかみや 野咲
067:『颯爽と走るトネガワくん(続) カモ
067:『颯爽と走るトネガワくん(続) 三蔵
最終更新:2025年12月06日 13:24