強者の物語 ◆gry038wOvE



 ガドルは己の腹部に込められた究極の力に抗っていた。
 これが究極の力。──想像以上である。この一撃でガドルは敗北を悟りかけた。
 クウガが遺した最後の力である。
 クウガはもう死んだが、この一撃でガドルが死んでしまったら、それは同士討ち。
 クウガへの勝利とはいいがたい。

「フンッ……!」

 一分間、息さえ吸えないほどの猛攻がガドルの中で繰り広げられる。
 封印エネルギーは尚消えない。しかし、全くそのエネルギーはベルトまで進んでいかない。
 両者の力は互角。
 死してなお、ガドルと戦うとは、クウガは流石凄まじき戦士である。
 ガドルの力も弱り始めている。この封印エネルギーを振り払うために、腹部にエネルギーを溜めこみすぎたのだ。

「……ウガッ!!」

 封印エネルギーが少し、ベルトに近づく。
 このまま到達すればガドルの体ごと周囲数キロ圏内は大爆発する。
 ガドルの体、意思はこの世から消える。

「ラベスモンバ クウガ……!」

 しかし、ガドルは己が放てる限りの全力を腹部に集中させる。
 到達しようとする封印エネルギーを弾くために、体の隅々に僅かずつでも残っていたガドル自身のパワーを一点に集中させる。

「ハァッ!!」

 そして──

 ガドルは、究極の封印エネルギーを弾いた。

 ガドルの力はまだ、究極には届いていない。それでも、究極の一つ下にガドルはいる。
 ガドルはクウガと戦い、そして勝ったのである。

「バッタ……(勝った)」

 己の勝利に浸る。

 いや、まだだ。
 まだアマダムを砕いていない。ガドルはガドルソードを構え、一条の体のある場所に向かった。そして、それはもうあっさりと──アマダムを、砕いた。
 元々壊れかけていたアマダムはその役目を終え、一条の体とともに眠る。
 そこに、ガドルは『塔』のタロットカードを添えた。電撃のキックによる死者。雷を落とした塔の図柄のカードを添え、ガドルのゲゲルは更に趣向を凝らしたものとなった。
 ガドルはこれを持って、このゲゲルの勝者となる──。

「バッタ ビ “クウガ”!(クウガに勝った!)」

 かつて己を破り、言いようのない屈辱を味あわせたクウガに、ガドルは勝ったのだ。
 確かに、この身に、最も強い一撃を与えたのはクウガだ。しかし、それをガドルは振り払った。
 フェイトの一撃よりも、ナスカドーパントの一撃よりも、確かに強い一撃に朽ち果てそうになったが、それでも勝てた。
 もし、ガドルが進化していなければ、究極の力を持つクウガには勝てなかっただろう。

「“クウガ” ビ バッタ パ “ゴレ”!!!!!!(俺はクウガに勝った)」

 ガドルは吠えた。
 クウガではなく、勝者である己を強調して叫ぶ。
 どこまでその声が届いたかはわからない。
 とにかく、勝つべき相手に勝ち、ガドルはひとまずの満足に浸った。

「……ソグザ! ジャズ パ(そうだ、奴は)」

 しかし、ここで終わりではない。まだ戦うべき相手はいる。空虚な心をまた少し埋めるには、更に強い敵との戦いが必要だ。
 そう、クウガとの決戦の前、もう一人戦いたいと思えた男がいた。
 この力があれば、奴など容易く倒す事ができるだろう。

「カメンライダー……」

 もう一人の仮面ライダー、その名は、エターナル。──響良牙であった。






「ハァッ!」

 キュアブロッサムたちの前に、敵が、山を下りて現れた。
 ビートチェイサーにその身を乗せ、走らせるその怪物は、カブトムシの異形をしていた。
 ゴ・ガドル・バであった。

「……ガドル!?」

 最初に声を発したのは、ダブルであった。
 上方から迫りくる殺気。もしや──

「どういう事だ!? 奴は……奴は……」

 エターナルがガドルの方を見て、悲痛の声をあげていた。
 そう、ガドルが乗っているのは、自分たちを攻めてきた時のサイクロン号ではない。
 あれを乗り捨てて、新しく乗っている機体は一条薫が乗っていたビートチェイサー2000である。
 ビートチェイサーは、クウガが勝利してここに来る時、便利だろうと良牙たちが置いて来たものである。

「奴は、なんで……アイツのマシンに乗ってるんだよォッ!!」

 つまり、一条が敗北した、と──そういう事なのだろうか。

「フンッ!」

 ブルルゥゥン! ──ガドルは、バイクで飛び上がった。
 見れば、その右の手には、ガドルボウガンを装備している。ガドルボウガンは、クウガと同じように、ライジング化していた。電気の力を帯びた、ライジングペガサスフォームに近い形態である。
 銃口が、そこにいる人間の一人を狙う。

「……危ないっ!」

 “なのは”だった。
 この状況で最も無防備なのは、彼女に違いない。
 戦いを求め続けるガドルだが、その思考上、本来弱者は狙わないはずだった。
 しかし、残るは殺し合いの覇者となる事だけ──クウガもダグバももういない。
 ここからはその戦いの中で、強者との戦いを楽しむのみであった。
 その過程上、弱者を殺すのもまた構わない。何故ならば、もうガドルは「究極を超える者」だからだ。
 ゲゲルに縛られる事もなく、自由に殺害する事も厭わず、その過程で弱者が死ぬのは、いわば一つの「犠牲」だ。仲間が犠牲になるたびに、彼らは強くなる。それと戦う。
 究極に近づいたガドルには、そんなダグバのような思想さえ生まれ始めていた。

「なっ……!」

 ガドルボウガンが自分の真上から発射用意されている事に、“なのは”は驚く。
 プラズマ電気を帯びた空気弾が直前までなのはがいた地面に突き刺さる。

「危ないところでしたね」

 キュアブロッサムが助けてくれたらしい。
 なのはは、ブロッサムの腕の中にいた。そして、優しい声で微笑みながら言う。

「ありがとう、キュアブロッサム」
「はい!」

 浄化され、新しい心と体を得たダークプリキュアは、もうかつてのように刺々しい言葉と口調を使う事はなかった。
 その姿に、いつきは自らの父を「おとうさん」と呼んだ時の、あの優しい声を感じた。
 不思議な感じもあったが……少し照れるが、まあ良い。

 ブロッサムは、なのはをその場に下ろすと、ガドルの方を睨んだ。

「……一条さんは、どうしたんですか!!」

 それは、既に怒りの込められた一言。既につぼみは気づきながらも、その事実がまだ確実でない──わずかな確率でも信じようとしていた。

「クウガか。奴は俺の手で殺した!」

 ガドルは、リントの言葉で返す。一条が、死んだ。
 ダークプリキュアが死ななかった代わりに、一条が死んでしまった。
 その事実が悲しかった。ずっと一緒にいた一条が殺されてしまったのだ。

「そんな……私、堪忍袋の緒が切れました!」

 そして、ガドルを睨みながらも、ガドルの手にあるガドルボウガンがまだ生身の人間を狙おうとしている事を察知した。

「いつきも、早く変身を!」
「うん!」

 いつきは、再び変身しようとシャイニーパフュームを翳す。
 そこにプリキュアの種を装填、再び戦う。

「プリキュア、オープンマイハート!」

 シャイニーパフュームの力で、いつきはキュアサンシャインへと変身する。

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」
『海風に揺れる、一輪の花! キュアマリン!』
「陽の光浴びる、一輪の花! キュアサンシャイン!」
『月光に冴える、一輪の花! キュアムーンライト!』

「『「『ハートキャッチプリキュア!』」』」

 “四人”のプリキュアが声を揃える。キュアブロッサムとキュアサンシャインは背中合わせに、二人でポーズを決めた。

「えりか、ゆりさん……私たち、今も一緒なんですね……! それなら……」

 その声に応えるかのように、マリンのココロパフュームとムーンライトのココロポットが光る。ハートキャッチミラージュやスーパープリキュアの種もここにあった。
 ブロッサムは、ハートキャッチミラージュにスーパープリキュアの種を装填する。

「鏡よ鏡! プリキュアに力を……!」

 キュアブロッサムとキュアサンシャインの体が、鏡に反射する。
 心なしか、その中にマリンとムーンライトの姿も一瞬だけ映ったような気がした。

「世界に輝く一面の花! ハートキャッチプリキュア! スーパーシルエット!」

 スーパーキュアブロッサムとスーパーキュアサンシャインは、進化する。仲間たちの想いを乗せて。これは、ここに全てのプリキュアの力が結集した事による最後の奇跡。
 ダークプリキュアにではなく、キュアブロッサムとキュアサンシャインにだけ与えられた奇跡であった。
 二人は、その進化に何の違和感も感じなかった。ただ、すぐにガドルを狙い、地を走りだした。

「「はああああああああああああああっっ!!」」

 ガドルは、駆けてくる二人の少女を前に呟く。

「ゴモギソギ(面白い)」

 ガドルの体は、金の俊敏体になる。電撃俊敏体となったガドルは、ガドルロッドを取り出して、その切っ先で二人を捉える。
 二人のプリキュアはロッドの先端を掴み、逆上がりをするように、同時にガドルの体表を蹴り上げた。






(一条刑事……)

 響良牙は、その男の事を思い出す。一条薫は死んでしまった。
 それは、誰が原因なのか──良牙は考える。いや、自然と考えてしまった。

(俺の……俺のせいじゃねえか……)

 エターナルが突っ走って、ウェザーの力を敵に浴びせた。
 それが相手の力を強化させる事など知らなかったとはいえ、マキシマムドライブで余計な事をしてしまったのはほかならぬ良牙だ。
 新たな力に溺れ、良牙は敵を手っ取り早く倒そうと、マキシマムドライブを使った。
 それがこんな形で無に帰されるとは──

(……すまねえ……一条刑事……)

 自然と出てくる詫びの言葉。
 エターナルは、ガドルを前にも、どうすればいいのかわからなくなる。
 プリキュアたちは戦っている。
 だが、また自分自身の手で、敵に力を与えてしまうとしたら……。
 それが恐ろしい。
 ガドルを更に強くしてしまえば、良牙には今度こそ勝ち目がなくなってしまう。

(くそっ……くそっ……)

 五代のみならず、一条まで、自分のせいで死んでしまった。
 こんな事ならば、あの時、一条ではなく、自分の手で責任を取るべきだったのだ。
 良牙の心を、どうしようもない後悔が襲っていた。
 これ以上、何ができる……。また、良牙が戦う事が、「余計」であったら──。
 それなら、いっそ何もしない方が正しいのかもしれないと、良牙は思った。






「はあああああああっ!!」

 スーパーシルエットにまで進化したキュアブロッサムが、ガドルの胸部を蹴り上げる。
 一発、二発、三発、四発……。
 まるでガドルの胸で足踏みをするように何発もの蹴りを叩き込む。

「ボシャブバ(こしゃくな)」

 ガドルがガドルロッドで振り払おうとしたところで、スーパーキュアブロッサムはより強くガドルの胸を蹴り上げて、空へと飛ぶ。
 ガドルロッドは虚空を掠める。
 そして、次に隙のできたガドルの腹に重い肘鉄が叩き込まれる。スーパーキュアサンシャインによるものだった。

「……はあああああああああああああああああっ!!」

 スーパーキュアサンシャインはそこで静止する。
 肘から伝わる攻撃の余韻を敵の腹に残すために、肘を限界まで敵の腹に残しているのだ。実際、それは重い一撃であり、ガドルはその攻撃には「痛み」を感じていた。
 ガドルの体が、そこから遅れて数メートル吹き飛ぶ。
 それは、先ほどアルティメットクウガが狙った場所と同じ。
 この腹部への一撃は重かった。スーパーキュアサンシャインは離れる。

「クッ……!」

 ガドルは形態をチェンジする。
 電撃剛力体。既にアメイジングマイティフォームと同等の能力を得たガドルも、クウガと同じく金で戦い続ける事ができる。
 これはライジングタイタンフォームに匹敵するフォームだ。

「ハァッ!」

 そんな彼の背中や腕を無数の弾丸が打ち付けた。いくつかの弾丸をガドルソードが割る。
 自由自在、縦横無尽に攻撃を命中させる仮面ライダーダブル ルナトリガーの弾丸、炸裂。
 インファイトで戦うスーパーキュアブロッサムとスーパーキュアサンシャインに攻撃を当てないために、より確かな方法で戦う事にしたのだ。
 今は後方支援がちょうど良いところだろう。身の丈に合った戦い方をすべきだというのを理解したうえで、このポジションがちょうど良いと思ったのだ。

「ブスギ……!(温い)」

 しかし、それらはガドルが今、攻撃と認識できるほどのものではない。煙の中で悠然と立つガドルは、もはやノーダメージである。
 ダブルの現状の能力は、全く今のガドルとは程遠い物だったのだ。ガドルは以前もダブルと数戦交わしたが、それが果たして戦いと呼べるほどのクオリティに達していたかといえば、否と言える。
 それがただでさえ、ガドルの大幅なパワーアップによって強化されたとなれば、ダブルの立つ瀬はない。

「……カメンライダー」

 それでも、ダブルの一撃は、ガドルの本当の目的を思い出させるには充分だった。
 ガドルは、仮面ライダーエターナルと戦いに来たのだ。
 奴は確か、仮面ライダーと名乗った──ダブルと同じく。
 しかし、ダブルと違うのは、奴が「究極」に近い力を発動した事である。天候を自在に操り、火を作ってガドルを微かにでも苦しめた。
 クウガもダグバも死んだ今、「究極」を持つ数少ない敵だ。





「アバ、バ────」





 ガドルがエターナルの方を見やる。
 見れば、エターナルの腕が、青から赤へと変化し、背中のローブが消えている。
 赤、か。
 奴もまた、クウガやガドルのように、体の一部が赤や青になる。ダブルもそうだが、より確かな形で色を変える。メモリを入れ替える動作もなく、自発的に。
 おそらく、クウガと同じならば赤い姿が奴の基本形態。そういえば、青のエターナルは、バイクを追っていた時の姿だ。即ち、移動に適した俊敏体である可能性が高い。
 あの時のエターナルは本来の究極ではないというのか。──面白い。

「はああああああああああああああっっ!!!」

 上空から現れるスーパーキュアブロッサム。
 天使が舞い降りるとは言い難い怒声のような唸り声とともにガドルの元へと蹴りを入れる。降りて一回転、パンチを放つ。そして、退く。
 そこへ、スーパーキュアサンシャインの応戦。駆け出してきたスーパーキュアサンシャインは、ガドルの剣を持つ手を抑え込み、足を大きく上げ、ガドルの顔面を蹴る。それでも全くダメージを受けた様子がないので、次の瞬間には右足を下して、左足をガドルの右肩に乗せるように叩き込む。
 ガドルの体がよろめく。

「フンッ!!」

 ガドル、激昂──。スーパープリキュアの強さに魅せられながらも、彼にとって最大の目的は「究極」の力を持ち、闘気を理解するエターナルのみ。
 今の空虚な心を満たすには、そんな、「クウガ」や「ダグバ」に匹敵する超人との戦いを挑み、勝つ事で己がザギバスゲゲルに挑む価値のある男だと証明する事だけだ。
 ゆえに──

「ハァァァッッ!!」

 黒の金の力を、再び己の体から呼び覚ます。

 ガドルは驚天体へと進化し、地響きを起こす。それは周囲を振り払う嵐や竜巻ような覚醒であった。砂埃が舞い、全員がその場に立つバランス感覚が消える。
 驚天動地。
 ガドルの瞳が深く黒ずむ。その場にいる全員を威圧し、鼓動を急かすほどの最強形態。

「ズバエ ゾ キン ン チバラ! ソギデ ゴレ オ タタバエ、カメンライダー!!(金の力を使え! そして、俺と戦え、仮面ライダー!!)」

 砂埃の中からエターナルのもとへ、言葉がかけられるが、全く心当たりのないエターナルの耳は素通りする。
 己に語り掛ける事はないだろうと、エターナルは思った。
 あいつは戦いにしか興味がない。それなら、戦意が消えていく今のエターナルを狙うだろうか。──彼が呼んだ仮面ライダーとは、ダブルに違いない。

「エターナル! 今の状態のあいつをパペティアーの力で操って!!」

 そう声をかけたのは、なのはだった。
 今は戦う力を持たない彼女だが、敵に有効な力を思い出した。
 あのパペティアーメモリは、今仮面ライダーエターナルが所持しているはずだ。あれを使えば、姑息的な手段だが、ガドルを一瞬止められる。

「パペティアー……?」
『P・u・p・p・e・t・e・e・r』

 エターナルは、ゾーンメモリの力で手に入れた五本のガイアメモリのうち、どれの事だか一瞬わからなかったが、マッハキャリバーがサポートするようにアルファベットの名前で綴りを言う。
 通常は滅多に使わない単語であるがゆえ、サポートが必要だと思ったのだろう。

「……駄目だっ! 何が起きるかわからねえ……! 使えねえ、俺には……!」

 しかし、パペティアーメモリを見つめながらも、エターナルはそれを使う事ができなかった。自分が使ったメモリがガドルを強化させ、結果的に一条を死なせてしまった事実が、エターナルを苦しめる。
 メモリを握る手が震える。
 マキシマムドライブを使うのが怖い。たとえどんな能力でも、ガドルにとって、それが力となってしまったら──。

「赤い、エターナル……」

 ダブルは見ていなかったが、仮面ライダーエターナルは先ほどまで「青」だったのに、いつの間にか翔太郎たちも見たことのない「赤」のエターナルに姿を変えている。
 ダブルを苦しめたあのエターナルローブも装着されていない。
 やもすると、奴の──更に、弱い形態ではないのだろうか。

『翔太郎、彼は……』
「ああ。杏子と同じだ……。自分の力を出し切れなくなっている、いや、出し切れなくなっちまったんだ……。クソッ、味方になれば心強いと思ったのに……!」

 かつてエターナルと戦った事のあるダブルならわかるが、エターナルの力を最大限に引きだせば、それこそダブルはここで戦えないほどである。
 いや、考え直してみれば──そう、奴がマキシマムドライブの「エターナルレクイエム」を使えば、ダブルの変身が解除され、T2以前のガイアメモリは永久停止する可能性まである。
 そうだ、確かに彼を戦わせてはいけない。──しかし、それさえ使わなければかなり心強い相手のはずだ。

「ゴグビョグモン──(臆病者)」

 ガドルの顔は、エターナルに対して、失望の色を見せている。
 エターナルが全く自分を楽しませてくれそうにない事は、この戦いの全景を見渡して理解した。
 他人に言われた通りに「操る」などという姑息な手段を使おうとしたならまだ良い。エターナルは今、それを使う事にさえ臆している。戦う方法がないと思っているのか。
 その程度の相手が、あの究極を使いこなしたというのか。
 笑わせる。

「キガラ ビ ボン チバラ ゾ ズバグ バチ バ バギ(貴様にこの力を使う価値はない)」

 ガドルは、興が失せたように姿を変身させる。
 黒の金から、紫の金へ。わざわざ、一瞬だけ変えた究極に近い力も、彼らに使う気が起きなかった。しかし、その手にガドルソードを構えた。

 そして、エターナルの方へと走り出す。

「ギベ……!」

 ガドルは重量級の剛力体に変身したものの、あっという間にエターナルの前方へと距離を縮めた。
 そして、ガドルソードが振り下ろされる。

 ────ただし、ガドルがガドルソードを振り下ろそうとした相手は、エターナルではない。


「危ないっ!!」


 その対象者を心配する少女の声が、響く。ガドルが切り裂こうとしたのは、エターナルの隣にいた月影なのはであった。






「ぐ……」

 そして、ガドルソードは振り下ろされた。
 ガドルの狙いは、周囲の人間の殺害だったのである。周囲の人間が殺されれば、怒りが、エターナルを奮い立たせると信じた。
 クウガがそうして覚醒していくように、究極を持つ者もまた同じ覚醒を辿るのではないかと思ったのだ。
 言ってみれば、「ダグバ」に近い考え方だった。

「……ぁ」

 聞こえるのは、ガドルソードを受けた者の呻き声。
 声にさえ、ならないような小さな声が聞こえた。
 月影なのはの目の前で──

「いつき……!」

 そう、キュアサンシャインが、なのはを庇ったのである。
 間に合ってよかった、とばかりに、キュアサンシャインは微笑む。

「そんな……また……」

 かつて、彼女がダークプリキュアだった頃、同じように、彼女を身を挺して庇った人がいた。その人は、月影ゆりと言った。
 今、月影なのはを庇うのは、明堂院いつきであった。
 二人とも、彼女の大切な人、だった──。

「……な……の、…………」

 電気を帯びたガドルソードは、スーパーキュアサンシャインの左肩に振り下ろされ、彼女の肩の真上を切り裂いていた。
 彼女は、咄嗟になのはの前に出て、ガドルの一撃から彼女を庇ったのである。

「………………は……」

 そして、咄嗟になのはが、いつきの名前を呼んで、いつきは辛うじてそれに答えた。
 それを呼んだ事に満足してしまったいつきの意識が朦朧とし始める。
 その驚異的なダメージ──生命維持すら危うい致命傷に、プリキュアの変身も解かれた。
 プリキュアの力は、「闇」を「光」に還元してダークプリキュアに体を与える事はできても、こうして失われていく命をどうする事もできなかった。

「いつき……!!」

 ガドルの真後ろで、もう一人、いつきの名前を呼んだ。
 キュアブロッサムがスーパープリキュアの姿を解いて──いや、スーパーキュアサンシャインの力が解かれた事で自動的に解けて──そこに駆け出した。

「つ、ぼ、み……」

 エターナルは、自分の真隣で、少女の肩が胸元まで、剣で叩き斬られている事に、ショックを感じていた。
 ダブルもまた怒りの声とともに駆け寄ったが、彼もまた無力であった。

「……そんな、折角友達の作り方がわかったのに……私に愛を教えてくれたのに……私に、名前をくれたのに……私、何もまだ返せてないのに……友達になったばかり、なのに……」

 そうだ、最後に言わなきゃ──

「……全部、教えてくれてありがとう、いつき……私は……」

 いつきは、自分の背中から聞こえるそんな声に安堵しながら、微笑み、

(どういたしまして……)

 そして、この瞬間、完全に息絶えた。
 死んだ命は蘇らない──そう言ったのは、いつきだった。
 だからこそ、死ぬのは怖いと、──そう打ち明けたのも、いつきだった。

 まさしく、そう、彼女はその身を持って、命が消えていく瞬間を、月影なのはに教えた事になる。
 しかし、自分の命が失われる恐怖よりも、誰かの命が奪われる事が、厭だったのだろう。彼女は最後までプリキュアだった。
 ゆりの時と同じく、『彼女』がその死に悲しむ事はあっても──月影なのはが殺し合いに乗る事は、もうなかった。



【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア! 死亡】
【残り19人】






「うわああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」

 エターナルは立ち上がった。
 仮面の下に涙が流れる。ガドルは、そちらを凝視した。

「てめえっ!! なんで、俺を殺さなかった……っ!! てめえが殺したいのはこの俺なんだろっ!! ガドルッッッ!!!!」

 咄嗟に、エターナルの手から放たれた気。
 怒気──獅子咆哮弾のように、気を操り、ガドルを威圧する。つぼみの友達を殺し、つぼみの泣き顔を作り上げている目の前の怪物を殺したい。──良牙は、強くそう願った。
 怒りが、エターナルを強くする。
 怒りが、エターナルの色を変える。
 怒りが、エターナルをブルーフレアへと変える。
 再び青の姿を取り戻したエターナルは、仮面の下に悲しみを浮かべながら、叫ぶ。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオリャァッッ!!!」

 エターナルの拳が、ガドルの胸を一発殴る。
 ガドルは、それでも尚、悠然としていた。この一撃は全く通じていない。

「……バスホゾ(なるほど)」

 しかし、ダグバのやり方が効率的だったらしい事を、ようやくガドルは確信した。
 周囲の人間を殺せば、戦士はもっと強くなる。
 この一撃は、確かに以前、ガドルの胸を殴った一撃とそっくりだ。あの時の覇気だ。

「面白い」

 敵に伝わるよう、リントの言葉で言う。
 ガドルは、リントの言葉でそう返した。それが返って、良牙の顰蹙を買ったか。
 エターナルは怒っている。

「……面白い、だとォッ!?」
「そうだ。面白い。もっと強くなり、もっと俺の心を満たしてくれる存在となれ、カメンライダー」

 ガドルは、ダグバに近づいていた。体も、また、思考も。
 最初から人名など尊重する気もなく、ただ縦横無尽に暴れ、強い者との戦いを楽しむ。
 今、少女を庇ったスーパーキュアサンシャインの加速力も、また、一瞬でも早くその場に辿り着こうとした自己犠牲の精神を感じた。

「……お前たちリントも、いずれ俺たちグロンギと等しくなる。そうだ、俺を憎め。そして、憎しみを力に変え、凄まじき戦士として俺に挑むがいい……リントたちよ!」

 今は見逃そう。
 しかし、ここにいる全員が怒りを感じている。
 いずれまた、出会う事を信じて、ガドルは、周囲の視線をまるで意に介す事なく、その場を離れた。
 彼に手を出す者はいなかった。全員が、己の無力を痛感していたからだ。


 驚天体。あの姿より一段劣る形態ですら、あの強さだというのに、あれに変身されたらどう立ち向かえばいいのだろう──。
 ただ犠牲だけが彼らの前にある。敵に何もできず、そこに犠牲だけが横たわる。






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最終更新:2015年12月27日 23:24