第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE



 イラストレーターたちは、街の裏路地にある小さな秘密の入り口の前にいた。
 先ほど、素体テッカマンの襲撃に遭った時、間一髪というところで、ある人物たちに助けられたのである。
 それは、アキ・アイバ(旧姓:如月アキ)とユミ・フランソカワ──この世界のテッカマン二人であった。最終時間軸の相羽タカヤよりも後から来ているはずの二人がここにいるのを疑問に思ったが、とにかく管理に屈服されずに辛うじて逃れている数名の戦士が、こうして街の外れで隠れるように生活しているらしい事を何となく察した。

「……どうなっているんだ、一体!」

 キリカの声が虚しく響いた。管理というものが、所謂『洗脳』である事を知って、どうしようもない孤独感に苛まれているのだった。元の世界では、友人であるえりかやその両親たちもこうして管理され、洗脳され、希望を失っているのだろうか。
 まるで、魔女の口づけを受けた人間たちのようだった。生気がなく、意思が見えない存在なのだ。

「どうなっているのか聞きたいのはこっちの方よ。あなたたちは、一体何者?」

 アキは強い口調で訊き返した。無理もない。管理された世界とはいえ、財団X以外の異世界人が来訪するのを経験していないのである。しかも、タイミングが悪かった。相羽タカヤことDボウイは既に死んでいる。おそらく、つい先ほどまで悲しみに浸っていた真っ最中だろう。そこを無理して助けに来たので、ひどく感情的になっても仕方のない話だった。
ただ、彼女たちはどうやら、管理に巻き込まれない強い意志を持っているらしく、まだ管理されていないのである。今も財団Xや管理下の素体テッカマンとは敵対しており、レジスタンスのように隠れて行動しているらしかった。

「さっき、変な力使ってましたよね……? テッカマンじゃなさそうですけど……」

 隣にいるのは、ユミだ。少し恍け気味の彼女もテッカマンイーベルとしてテッカマンに変身する。他にも四名のテッカマンが、各地でゲリラとして活動しており、そのサポートメンバーも基地の中で管理から逃れようと必死に足掻いているようだ。
 外世界でも、そうなのだろうか。仮面ライダーやプリキュアたちは、彼らのように理不尽な管理に抵抗するために必死で足掻いているのだろうか。
 それを思いながら、胸の内の絶望を和らげる。

「僕たちは、その……。あの殺し合いに呼ばれていた人間なんだ。助けてくれた事は、心から感謝する」

 その立場を口にする事はできなかった。
 目の前のアキのデータは存在する。ユミまでは調べていなかったが、アキはDボウイと同じスペースナイツの仲間で、恋人である。Dボウイを巻き込んだ殺し合いを傍観していたのは、他ならぬ自分たちだ。この世界に居場所がない感じを抱いていた。
 ましてや、顔を合わせる事などできない。

「……」

 そして、一方のアキは、やはりと言うべきか、「殺し合い」というワードで俯いた。つい先ほどDボウイの死をモニターで見たばかりなのだ。ずっと昔に解決したはずの苦しみを、また抱いている姿は物悲しい。
 仲間が喪われた事実も悲しいが、その仲間が最後の最後まで、こうして身内殺しを強いられる事実が彼女たちをやりきれなくさせた。先ほども基地の中では殆ど暗く沈んでいる状態だったに違いない。涙の痕はまだ残っているだろうか。
 仮面の下の涙は、拭えなかったので、今どうなっているかもわからない。

「……隠れ家まで案内してもらえたのは、本当に礼を言いたい。ただ一つだけ……この世界について教えてほしい。いつからこうなったのか、そして、今はこの世界のいつごろなのか……それだけ教えてくれたら、僕たちは……」

 ここを去ろうと思っていた。
 当然、被害者と加害者で一緒にいるなど、気持ちが押しつぶされるだけだろう。
 いじめを苦に自殺した子供の遺族が、見てみぬフリを決め込んだ生徒たちを許せないように……。

「……」

 アキは怪訝そうに見つめながらも、五人を基地に入れた。
 基地とはいうものの、中身は木箱を机代わりにするような六畳一間ほどの質素で狭い部屋だった。光の挿す電球もなく、換気用の窓もない。おそらくは、隠れ家を追われて、新しくここに来たようで、武器は不十分なほどしか備え付けられていなかった。
 何とか猫含む八名が押し込まれると、本当に足を開くスペースもない。ただ、幸いなのはイラストレーターを除いて全員痩せ型の女性であった事だろうか。骨格の都合上、さほど大きな幅を取る事はなかった。

「この世界がこんな風になったのは、ほんの一週間前の事よ。突然、Dボゥイがいなくなって、探していたら街中に人ごみができていた。見れば、街頭にあの巨大モニターが、突然現れていた。他にも街の至る所にあれと同じ物が作られていた。テレビの電波も乗っ取られて、あそこで流れている映像が垂れ流されるようになったの」

 一週間……。時の流れが違うという事だろうか。
 ゲームが始まったのはつい昨日の出来事のはずだ。しかし──。

「最初に流された映像には、Dボゥイや弟のシンヤ、妹のミユキが映っていた。殺し合いの始まりを告げる集会だったわ。それが、一昨日までずっと流れていた。その間、Dボゥイは帰ってこなかった……」

 やはり、殺し合いが始まったのは昨日、という事だろうか。
 オープニングから殺し合い開始までに一週間程度のインターバルが設けられていたのだ。
 その間の記憶はイラストレーターにはない。おそらくは、参加者も主催者も、多くは眠らされていたのだろう。イラストレーターに何も告げなかった「来訪者」たちも同じだ。

「一週間の間に、財団Xが現れて、街の人たちの様子も変わっていった。この世界を支配した『××××』という存在に管理されて、だんだんとそいつに忠誠を誓い、従うようになっていった。人の精神を抑制して、言う事を聞かせているみたいで……私たちの仲間も何度か、それに引っかかりそうになったけど、何とか平静を保っていた。未来を信じていた。でも……」

 イラストレーターたちは顔を見合わせる。誰も、『××××』という存在には全く心当たりがないらしく、俯いた。イラストレーターのデータにもその存在はない。
 もしかすれば、参加者たちも知らない存在なのかもしれない。

「……Dボゥイも死んでしまった。私たちも、一緒に管理されてしまった方が、いいのかもしれない……」
「アキさん!」

 弱気になるアキを、ユミが横から諭した。
 ……それを横目で見ながらも、教えられたあらゆる事に五人は絶句し、彼女たちの様子に気づく事はなかった。
 自分たちの想像を遥かに凌駕する、スケールの大きい出来事が、あの殺し合いと並行して発生していた事──それは、かのプレシア・テスタロッサさえも吃驚して言葉を失うほどである。

「僕たちは、一週間の記憶を失っているのか。それとも……」

 自分たちが一週間眠っていたのか、だ。
 どうやら、主催者側でも情報には差があるらしい。おそらく、その事を加頭やサラマンダー男爵は知っていただろうし、その一週間は普通に活動していたのだろう。

「ううん。みんな、ずっと寝てたよ」

 アリシアが、突如、当然のようにそう口にした。
 その一言に、イラストレーターは絶句する。驚くべき事に、彼女は加頭とサラマンダー男爵と同じ側の存在だったのだ。──思わぬところに、こうして事情を隠していた情報源がおり、「灯台下暗し」という言葉を思い出した。
 それを聞いたキリカが、少し不機嫌そうな声で彼女に訊く。

「……何故知っているんだ!?」
「寝なかったから」
「何故黙っていたんだ!?」
「聞かれなかったから」

 そんな情報もアリシアにとっては、些末な問題だったらしい。彼女はこの状況に真剣に対応する気はないようだった。……とはいえ、それを知っていたところで何ができたと言われれば、それまでだ。もっと早い段階で知っていれば有利というわけでもなく、今知ったからと言って、何でもない話である。
 他に知っている事があるとすれば……。

「僕たちが寝ている間、加頭たちは一体何をしていたんだ?」

 それが気になった。イラストレーターはアリシアを責めない。彼女には、何が重大で何が重大でないのか、判断する能力そのものがまだ乏しいのだ。
 それは仕方のない話でもある。

「……わからない。でも、色んなモニターを見てた」
「誰が目を覚ましていた?」
「白い服や黒い服の人たちとか、バラが描いてあるお姉さんとか、金色の太ったおじさんとか……」

 財団Xの人間や、ラ・バルバ・デ、脂目マンプクの事だろう。
 彼女が知っているのは、それだけだった。おそらくは、根っからの怪物の多くは、自分たちより詳しく知っているという事だ。
 その真実……その全てについて。

「ねえ、一体何の話?」

 アキが訊いた。彼女がついていける話ではなかったのだろう。

「あの……私、さっき金色の太ったおじさんなら、モニターで見ましたっ!!」

 ユミが挙手してそう言う。妙に張りきっているが、彼女の素である。
 どうやら、脂目マンプクと血祭ドウコクのコンタクトを見ていたらしい。街中のモニターにある全ての映像を同時に監視し続ける事ができないので、こうして知識の差が生まれるのだろう。
 相羽一家やモロトフが死んだ事によって、彼女たちが監視する範囲はもう少し変わった。ユミの場合は、おそらく最も特徴的な人物である血祭ドウコクを追ったのだろう。その結果、脂目マンプクの姿を見る事になったのだ。

「それは……」

 イラストレーターは口を開こうとする。
 まさか、彼らと一緒に行動していたなど言えない。話すのが責任であるが、話さずにどうにか持って行きたい気持ちが心にはあったのだ。
 イラストレーターがその先を口にできなかった。都合の良い言い訳を考えながらも、喉にでかかった言葉を外に放出する事はできなかった。
 その時である。

「ただいまー……って、うわ、お客さん多いな……っ!!」

 地のドアが開き、誰かが入って来た。
 背後から現れた者に警戒したが、アキやユミが大きな警戒をしない所を見ると、来て然るべき仲間のようである。背後から現れた男は、茶髪の青年で、少し頼りなさげな顔立だった。
 この狭い部屋に誰かがもう一人分来られるという事は厄介でもあった。
 どこかから調達してきた食料を手いっぱいに持っている。

 彼の名はハヤト・カワカミ。ユミの相棒のパイロットであった。

「……うん……?」

 ハヤトが織莉子とアリシアの顔を見て、何かに気づいたように見つめた。
 見覚えがある、という言葉が聞こえそうだった。
 彼は、またもう一歩、織莉子に顔を近づけた。

「君、もしかして……」

 ……この二人の事を知っているという事は、つまり彼が殺し合いの中継モニターを確認していたという事だった。
 そして、彼はおそらく、その時、自分の中に在った記憶と、目の前の人物とを照合し終えたのだろう。

「……ミクニ・オリコ……?」

 ハヤトがそう発した時、いよいよ、言い逃れができない事がはっきりとわかったのである。






 ……それから、また彼らは誰も来ない裏路地を歩く事になった。イラストレーターはこの狭い路地で、織莉子たちに何となく囲まれている。先頭を猫が歩き、その後ろをテスタロッサの二人が。イラストレーターの後ろには魔法少女たち。お陰で、前から来られても後ろから来られても平気という安全地帯だ。
 だからこそ、だろうか……。いつも通り思案する事ができた。尤も、それは後悔であり、考察ではない。

 あの後の『出てってくれ』というアキの言葉は、辛辣だった。無理もなかった。
 アキは確かに、イラストレーターたちに殴りかかろうとしており、ユミやハヤトの制止など利く様子もない。彼女が正義の志である事は間違いなかったが、同時にDボゥイという男に惹かれた女である事も間違いない。

『出てって!』
『Dボウイがどれだけ苦しんで私たちと戦ってきたのか!』
『Dボウイが私たちと過ごして、一緒に笑い合ってきたのか!』
『あなたたちにはわからないの……!?』

 イラストレーターも織莉子も、自分の罪を痛感している。
 キリカとプレシアに至っては、それを感じているか否かはわからなかったが、少なくともキリカがこの時はマイペースな様子ではなかった。良心がちくちくと痛んでおり、一歩歩くたびにそれが刺さるような気持ちだったのだろう。

「……で、これからどうする?」

 管理された世界の下で、彼らは今後も味方なしに追われる事になる。
 いわば、もうこの世界に行き場はなかった。財団Xや管理下の素体テッカマンに見つかれば、また多勢に無勢だ。
 今度はテッカマンによる救援も期待できない。

「こんな世界よりは、どうせなら元の世界で死んだ方がマシかなぁ……」

 キリカがふと呟いた。
 楽観的に見えるが、その根底には諦観があるようだった。
 絶望するほどでもなく、また、ソウルジェムが穢れないほどでもない。
 ただ、こんなでも元の世界に帰りたい気持ちがあった。加頭は確かに元の世界に帰るのと同じだと言ったが、やはり違う。
 管理されていようが、自分の仲間がいる世界の方がずっと良かった。

「……そうね。元の世界で死ぬ方が、どれだけいいか」

 死ぬという事実だけでは絶望はしない。むしろ、今は生に対する執着がなかった。
 死にたいという気持ちもない。要は、生や死に対する情熱ではなく、元の世界に対する懐古が湧き上がってきた。いつ死ぬかもわからない状況に直面している事実は、生きるか死ぬかよりも、死のシチュエーションに対する思いを抱かせた。
 ああ、これが、殺し合いに巻き込まれた人間の心情なんだな……と薄々感じ始めていた。
 それを諦観しながら助けもしない人間がいるとすれば、それがどんなに恨まれるべき事なのか──。

「あなたたち、死ぬ気なの……?」

 プレシアが口を開いた。その目は、確かに「睨む」という言葉そのまま、織莉子に突き刺さるような視線を浴びせていた。

「……やめて頂戴。私は絶対に死ぬ気はない。生きて私は、取り戻せるはずの私の幸せを取り戻す……。私の足を引っ張るつもりなら、今すぐに死んで! 中途半端な気持ちでこのまま戦うつもりなら……いっそ私が今、ここで……」

 冷淡な彼女の言葉には、士気を下げたくない気持ちが込められていた。
 彼女自身、きっと絶望する気持ちは大きいのだろう。だからこそ、自分の気持ちの流れをそちらに持って行く織莉子やキリカの姿に苛立ちを覚えたのだろう。

「おばさん。もし織莉子を殺すつもりなら、私が先にあんたを殺す……それでもいいかな?」

 そんなプレシアの意思を知ってか知らずか、キリカが今にも反抗しかねない瞳をプレシアに向けていた。本心では彼女も死にたくないには違いないし、織莉子を守りたいのだろう。だから、プレシアが自分を殺すというのなら、それに相応した反撃をする予定なのだろう。
 イラストレーターは我慢できずに、一瞬声を荒げた。

「やめるんだ!」

 それで周囲が注目した後で、声が縮まる。

「……ここで殺し合うのは、二人にとっても不利益だ。感情に流されちゃいけない」

 とにかく、全員がこうして戦闘態勢になるのを中断して、別のところに注意を向けるようになったのは幸いだ。このまま殺し合う事こそ、全員の士気が悪い方に向かう事象になるだろう。ただただ傷つけあうのは虚しいだけだ。

 これで敵を殺して勝ったとしても、やはり勝った方が虚しい気持ちになるだけだろう。
 むしろ協力して生き残る事を考えた方がいいのは明白だった。

「……ちょっと待って、誰? あれ……」

 織莉子が突然、路地の前を指さした。全員、そちらに意識を集中させた。
 見れば、そこには見覚えのある筋肉質の中年男がいる。
 男は、こちらが発見した瞬間、不敵に笑って見せた。

「……テッカマンではないな。だが、管理されていない存在だ」

 イラストレーターも直接会ったのではなく、データで見ていただけだが、その男はゴダードという。この世界の人間であるのは間違いないが、Dボゥイが来た最終時間軸では死んでいるはずの人間だ。
 ……いや、アキやユミといった未来の存在らしき人物もいる状況ならば、最終時間軸という概念が間違っているかもしれないが、それでもそこには彼はいないはずだ。

「……なんで、お前が……ここにいる……!?」
「タカヤ坊たちが死んだ事で、どうやら運命が迷い始めてしまったらしい。このワシもタカヤ坊に倒され死んだ記憶があったが、同時にタカヤ坊の存在が消えた事で倒されなかった記憶もある……妙な話だが、それが真実だ」

 ゴダード自身、その理屈をよくわかってはいないようだったが、とにかく、相羽タカヤの死と生の二つの世界の混濁により、世界そのものが混乱を初めているようだった。タカヤの存在によって死んだ者が、存在していいのかいけないのかを判断できず、結果的に再生してしまっているという事である。
 何故こんな事が起きてしまっているのかはわからないが、テッカマンブレードの世界は少なくとも全滅しており、それが原因だろうと推定できた。

「タカヤ坊やシンヤ坊は死んでしまったらしいな……残念だ。ワシが約束を果たせなかった事をシンヤ坊はどう思うだろう。だが、まだワシにはラダムとしてやる事が残っている……シンヤ坊に詫びるのは、それからにさせてもらおう」
「ラダムとして、やる事……?」
「この世界に起きている管理に打ち勝ち、この星、この世界をラダムによって支配する事だ……! 我々は管理などには屈しない。いずれオメガ様の敵となる邪魔な貴様らもここで葬らせてもらう!」

 イラストレーターが、その言葉でぐっと構えた。どうやら、ゴダードは、ラダム以外とは共同戦線を張る気がないらしい。このまま交戦する事は確かだ。
 こちらの言葉に丁寧に応える男だったので、もしかすれば説得できる可能性はあるかもしれないと思ったが、それは甘かった。
 管理に屈しないのはヒーローだけではない。悪人たちも時として、そのプライドにかけて管理から逃れるのである。
 ゴダードは、直後にはテッククリスタルを握りしめていた。

「テックセッタァァァァァァァッ!!!!!」

 ゴダードがテッカマンアックスへとテックセットし、立ちはだかる。
 ただでさえ眼鏡だった図体はその外殻に包まれ、数倍巨大な緑と黒の怪人に変身。──ラダムに洗脳された悪しきテッカマンであった。
 ゴダードという男は、もともとは文武両道の人格者だったらしい。ラダムに洗脳されてからも微かにその面影を残しているが、洗脳の度合いは決して低くはない。決して人類や邪魔者には容赦しないであろう。

「……仕方ないな、また一丁やるよっ!」

 キリカは直後に魔法少女へと変身すると即座に前進──腕から出現した巨大なカギ爪で敵を狙う。周囲の速度を低下させ、キリカはその時間の波に乗っかるようにアックスの胸の下までたどり着く。
 カギ爪がアックスの顔面に向けてクロスを描こうとする。

「甘いわッ!!」

 しかし、その時間の中でアックスがテックランサー──テックトマホークを回転させて、キリカの頭部を叩き付けた。
 クリーンヒットし、キリカは頭から地面に叩き付けられ、そのまま顔をアスファルトに直面させたまま滑っていく。摩擦熱で頬が熱くなり、血が滴る。
 あまりの衝撃に、一瞬感覚が追い付かなかった。起き上がるには至らない。意識さえ飛んだかもしれない。

「キリカッ!?」

 織莉子が心配の声をあげる。地面に目をやっても、キリカが動く事はなかった。キリカの魔法による速度低下に対応するだけのスピードで振るったのだ。
 いくら速度が低下したとしても、それに合わせて常人の数倍早い攻撃を放つ。──強敵というのを目にした。

「油断しちゃいけない……彼は白兵戦の達人だ」

 いくら魔法少女とはいえ、付け焼刃の女子中学生に接近戦で負けるはずがない。
 安易な攻撃は危険だ。
 次いで、キリカの敗北を気にも留めないプレシアが自らの通る道を確保するため、バリアジャケットを展開する。雷光の魔導師が敵を消し去らんと前に出る。
 彼女こそ、安易な攻撃を放てるだけ、自分の魔力量に自信を持った猛者であった。

「関係ないわ……。邪魔よッ!」

 ──サンダースフィア。紫の魔法弾が掌から放たれ、テッカマンアックスへと真っ直ぐな軌道を描いて進む。そして、体表で炸裂。
 しかし、アックスがそれをダメージとして受け入れた様子はなかった。
 アックスの様子に辛酸を舐めて、また次の攻撃に移る。

「喰らいなさいッ!」

 エクスディフェンダーと呼ばれる更に強大な魔法弾がアックスを包んだ。
 だが、そこにはアックスはいない。既に進路を変更し、攻撃を回避。爆煙の中から移動し、プレシアの露出した脚の付け根を蹴り飛ばす。
 不意の一撃に、プレシアもまた吹き飛んだ。

「……フフフ。その程度か、貴様らは……ッ!! タカヤ坊の足元にも及ばんな……」

 アックスの強靭が次に狙ったのは、アリシアが変身したクレイドール・ドーパントであった。

「……っ!?」
「まずは貴様だ。喰らえ、小娘ッ!!」

 ──そこに向けて一閃。テックトマホークがクレイドールの首を一瞬で刈り取った。

 それはまさしく、誰も息もつけないほど、一瞬の出来事だった。タブーの首が吹き飛んだかと思えば、次の瞬間には四肢が切り取られ、クレイドール・ドーパントの体はバラバラに散らされていた。
 あまりにもあっけないが、それは人の死を意味していた。イラストレーター以外の全員の動揺。
 倒れた地面からその様相を見上げていたプレシアがそのあまりのショックに悲鳴を上げる。

「……そんな……」

 ショックで青ざめた顔は、すぐに鬼の形相へと形を変える。
 プレシアがようやく取り戻した幸せを奪われた時、また強い憎しみのプレシアが始まった。プレシアはアックスの方を見つめながら、怒りとともに杖を向けた。

「……よくも……私のアリシアをッッッ!!!」

 アックスに向けて放つ拘束魔法。アックスの体が魔法陣の上で、紫の光に拘束される。アックスも相当驚いたようであった。両手を紫の鎖に縛られた彼は、身動きが取れない。
 更に、プレシアは強力な魔法力を集中させ、自分の手でアックスを葬り去ろうとした。

「消えなさい……ッッッ!!」

 拘束魔法がかかり、身動きが取れないのを良い事に全力を込めたエクスディフェンダーを放つ。流石にこれを受ければアックスも一たまりもないだろう。
 愛娘を目の前で殺された恨みが全て、そこに込められていた。放たれたエクスディフェンダーの光がアックスに近づいていく。

 だが──

「クラッシュイントルードォォォォォッ!!」

 アックスには、手でも足でもない、移動手段が存在した。それが背中のバーニアからエネルギーを放出し、上空へ移動。
 エクスディフェンダーの攻撃が空ぶる。
 そして、背面のビルへと叩き付けられる。その根本だ。そこから崩していった。それが不味かった。裏路地で破壊されたビルは、近くにある建物をこの狭い空間で全て巻き込み、瓦礫が彼らのもとに降り注いでいくのだ。
 既に轟音が鳴り、恐るべき早さでそれが始まる。

「な……そんな……」

 これだけ派手なビルの倒壊は、周囲にも伝わっただろう。
 時期に管理国家の人間がここへやって来る事にもなるだろうし、このままでは倒壊したビルがここにいる全員を押し潰してしまう。
 アックスの戦闘力以上に、プレシアのその強すぎる魔術の才能が問題であった。
 怒りに我を忘れた彼女が、威力の制限などしているわけがない。

「まずい……っ!!」

 織莉子が慌ててキリカの体を抱き上げ、イラストレーターの手を退いて逃げ出そうとする。スミロドン・ドーパントに変身したリニスは、そのまま加速ですぐに瓦礫の下から回避する。テッカマンアックスも、すぐに背面バーニアでそこから避ける。
 それぞれがいた場所には、瓦礫が次々と落ちていく。ただ、その様子を見る事はなかった。背を向けて、逃げるのに精いっぱいであった。

「……アリシアっ!」

 唯一、そうした回避行動を取らなかったのは、破壊の攻撃を行った当人であるプレシアであった。
 彼女が真っ先にしたのは、茫然と立ちすくむ事でもなければ、そこから逃げ出す事でもない。──異形に変わり果て、首だけになった娘のもとへ駆け出す事であった。
 それが、彼女に残った母としての愛である。その首を抱きしめ、潰させないように必死になる事こそ、彼女がこの時、真っ先にすべきだと判断した回避行動だった。
 まるで当然のように、それを行う姿には、到底二手三手先を考えられる天才の冷静さは感じられない。

「逃げてくださいっ! プレシアさんっ!」

 織莉子が、まだ安全ではないはずの地点で足を止めて、プレシアの方を振り向いた。
 本来、彼女ほど狂気に満ちた人間がそんな事をするわけはないと誰もが思うだろう。
 いや、しかし──自分が死ぬ瞬間まで、娘の遺体に優しさをかけてあげるほどの愛こそが、彼女を狂わせる最大の原因だったのだ。
 プレシアは織莉子の言葉など聞いていない。

「……アリシア……」

 巨大な破片が、先にプレシアの真横で大きな音を立てて落ちた。隣の建物につっかえて支えられ、まだビルは完全には崩落しない。しかし、脆い部分が少しずつ崩れ去り、今にも倒壊して全てを叩き潰してしまいそうだった。
 その音を聞き、頭上を見上げる。脱しようとした時には遅く、ビルそのものがプレシアの真上で陰を作った。真ん中からビルが折れ始めていた。もともと、ラダムの侵攻によって廃れかかっていたビル群であった。脆く、弱いのも仕方のない話だった。

「ママ…………おかーさん……? 泣いてる……?」

 幻聴だろうか、プレシアが抱きしめている首は、そう呟いたようだった。
 プレシアは、亡き娘の首をぐっと抱きしめる。それがたとえ人の姿をしていないとしても。首だけの姿だとしても。生きていないとしても。関係のない話だった。
 そして、次の瞬間、瓦礫ではなく、ビルそのものがプレシアの頭上に降りかかった。
 更に強くぐっと、抱きしめ、そのクレイドールの首が完全に破壊されないように、自分の体を背にして守り抜こうとした。
 駄目だ。
 全身を守ってやる事はできないが、せめてこれだけは──

(アリシア……フェイ……)

 彼女の体が瓦礫に押しつぶされていく瞬間に見た「走馬灯」なる回想の中には、愛娘と山猫と、もう一人、そこにいない少女が映し出されていた。
 科学者としての抜群の才能と頭脳を誇り、記憶に一切の偽りがないはずの彼女には、決して大きな間違いなどが生まれるわけはない。
 彼女は、その時、家族を思い描いたはずだった。
 なのに、何故──そこに、その少女がいたのか。

 消えていく意識の中でそれを思考し、気づく。

 忌々しいはずでありながら、アリシアが生きていた時間の中では、あるいは彼女も──。



 ……。



 …………。






 辛うじて攻撃を避けた四名のもとに、テッカマンアックスは容赦なく現れる。
 倒壊したビルの向こうから、背面バーニアを使って出現。一切、躊躇なく織莉子たちの命を狙っていた。
 プレシアやアリシアがビルの下に消えた中でも、その心配をする時間はくれなかった。

「……織莉子……。こいつ、ちょっと強いかもしれない……勝てないと思う。あのおばさん、死んじゃったかな……」

 キリカが目を覚ましたようで、そう呟いた。
 敗北を確信し、この世界での死を甘んじて受け入れるのだろうか。
 しかし、キリカは妙に落ち着いていた。彼女が織莉子の危機的状況で落ち着いていられるはずがない。何か策があるように見えた。

「……ただ……そう、私も魔法少女のままじゃ絶対無理だ」

 尤も、それが決して希望的な策ではないのは、誰もわかっていただろう。
 彼女は魔女になろうとしている。魔女となり、テッカマンアックスを結界に封じ込めようとしているのだ。
 この路地の向こうから、素体テッカマンの群れやマスカレイド・ドーパントたちが来ようとしている声もする。
 このままいけば、全員巻き込む事になるだろう。だが、その軍勢を相手にできる方法は一つしかないはずだった。

「キリカ……!」
「大丈夫。私は何になっても決して織莉子を傷つけたりしない。いや、むしろこうなることでキミを護る事ができるならば、私は……」

 彼女が取り出したソウルジェムは、黒く濁っている。
 それは、到底宝石とは言い難く、人の魂とも言い難い。
 ただの薄汚れた怪物の種である。それでも彼女は、この状況下、やむを得ないと判断して、そこに全てを捧げる。

「安らかに絶望できる!」

 そう言って、魔法少女キリカは、宝玉を完全に黒く変えるほどの絶望を込めた。
 それは、祈りのように朗らかに、眠りのように安らかに、彼女のソウルジェムの形を変えていく──。






 ──魔女。
 それがある世界が、ここにまた存在しているわけがなかった。
 それがキリカの知る願いであるとしても──それは、まだ果たされない願いであった。
 世界のどこかに残っている。

──『私……全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい』──

 どこかの宇宙で、どこかの時間で、どこかの誰かが祈った、一つの願い。

──『全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で!』──

 それは『オリジナル』から発された物だった。殺し合いの世界には干渉されないが、この世界には干渉される一つの理。

 全ての魔法少女を救い、全ての魔法少女に導きを与える一つの意思。
 あるいは、一人の少女が概念化した宇宙。
 ──そう、『円環の理』であった。

『……織莉子ちゃん、キリカちゃん』

 上空を見上げれば、そこにあるのは人。──それは、彼女たちが記憶している一人の人物にそっくりである。桃色の髪の乙女は、神のように優しく微笑みかける。
 イラストレーターも驚いて見上げるしかなかった。
 ここにいる二次創作世界の誰も、『オリジナル』──あるいは、それに限りなく近い世界から干渉してきた彼女の存在を知らない。
 鹿目まどかにそっくりで、──いや、彼女そのものであるその巨大な少女の事を。

『ごめん、外の世界に出ちゃったみんなはもう魔女にはなれないんだよ……。二人とも、私が干渉できる宇宙の外にいたからわからないんだね。でも、本当はもう絶望なんてしなくてもいいんだよ』
「……魔女になれないなら、どうやって勝てばいいのっ!? 絶望的じゃないっ! キリカがいなくなった事も、全部無駄で……」
『ううん、大丈夫。キリカちゃんのお陰で私はここに来られた……。だから、キリカちゃんの事だって無駄じゃないよ』

 円環の理は、優しく彼女を包む。
 彼女の願いは『全ての宇宙』にまで及ぶ。たとえ『オリジナル』にほむらの再構成が書き加えられたとしても、再構成の影響を受けなかった別宇宙には円環の理の意思が残存し、こうして魔法少女たちを救う事ができるのであった。
 キリカ──彼女の絶望が繋がる。
 彼女がたった一度、こうして織莉子を救う為にわざと絶望した事実が、別の宇宙にも何かを知らせるのであった。

『織莉子ちゃん、頑張って』

 本来、魔女として世界を絶望に落とすはずだった少女が、また別の存在として、これだけ大きくなっている──鹿目まどかという少女の溢れんばかりの因果が、その大きさから感じ取られた。
 どうやら、最終的な着地点は『希望』であったらしい事を知り、織莉子は安らかな気持ちになる。まどかの命を狙っていた事も、今や懐かしい事実にさえ思い始めていた。
 その輝きの中で、『円環の理』の意味をうっすらと理解する事ができた。

「キリカ……っ!」

 キリカが導かれる。
 円環の理が遠ざかっていくようだった。

「織莉子……ごめん。役に立てなかったけど、もう行くしかないみたいだ。でも、どうせ遠くに行くならついでに……」

 導かれるキリカは、心なしか明るく、優しいキリカの表情であった。
 遠くへ導かれていくキリカの姿を見て、織莉子の頬に自ずと涙も伝った。
 キリカは、織莉子のたった一人の友達だ。だから──

「……織莉子が持ってるでっかい荷物、私が半分持って行ってあげよう! だから、またしばらくはお別れだ! あとは、織莉子の手に残ったぶんの荷物をすり減らして、いつかそれがなくなる日が来たら、またどこかで声をかけるから、また出会おうよ、あの時みたいに……」

 だから、織莉子がこの殺し合いの主催者として協力して、背負った荷物は、彼女が一緒に背負ってくれるのだ。
 織莉子の前からキリカが消えていく。どんなに手を伸ばしても届かない。しかし、その体はおそらく、この異世界ではなく、元の世界を経由して、どこかへ導かれていく。
 元の世界に戻るのは、キリカが望んだ通りだった。

 そして、絶望した魔法少女の行きつく先が、『魔女』ではなく、『円環の理』になった時──、円環の理を追っていた異世界の遡行者に、その世界の座標が特定された。






 世界の色が元に戻ると、織莉子とイラストレーターとスミロドンの前には、テッカマンアックスが立っていた。
 織莉子はキリッと眉を顰め、敵を睨んだ。

「どうした……? 今の少女たちは消えたのか……?」

 アックスは、円環の理の世界には入り込めなかったらしい。突如としてキリカが消えた事実に、辟易している。彼女は三人だけを一度その世界に連れて現れたのである。アックスがその原理を知る由もない。

「……逝ってしまったわ。円環の理に導かれて……」
「円環の理……? 何をわけのわからん事を……」

 織莉子は、アックスに全てわからせようという気持ちはなかった。会話ではなく、自分の中にあるキリカを失った穴にけじめをつけるように。
 ただ、伝えたい事は一つだ。織莉子が予知の魔法を使わずとも、そうだと確信できる未来──。

「……あなたの言う通り、この世界は、確かに管理なんてされない。きっと、管理に打ち勝つわ」

 織莉子は気持ちを切り替えた。切り替えきれない部分もあるが、それでもきりっとした瞳でアックスにそう言い放つ。

「フン。わかったか。この地球は我々ラダムが全て支配する。この世界を管理などさせんわっ……!」
「いいえ。管理に打ち勝つのは貴方たちラダムじゃない……! この世界の地球人たちよ!」

 それが一つの合図ともいえた。
 そのタイミングで瓦礫の中から、突如としてクレイドール・ドーパントが現れ、テッカマンアックスの背後に重力弾を叩き込んだ。アックスにとっても、これは思わぬところからの不意打ちであった。
 土人形の記憶が封じ込められたメモリの使用者・アリシア・テスタロッサが四肢をバラバラにされただけで死ぬ事はない。衝撃を受けて粉々に砕けても再生できるのがこのクレイドールメモリの力であった。

「何っ!?」

 死んだはずのクレイドール・ドーパントが生きている事に辟易しているアックスの元に、更に二名の襲撃が入る。
 それは、織莉子でもイラストレーターでもスミロドンでもない。

 その遥か後方から駆けてくる──テッカマンアキと、テッカマンイーベルであった。
 テックランサーがテッカマンアックスの腕に向けて投擲される。突然の攻撃に両腕が封じられた。

「ぐあぁぁっ!!」

 アックスの腕から赤い液体が飛び散る。
 苦しみ喘ぐアックスは、こうして邪魔が入る事を予期していなかった。
 よもや、こうして自分やブレードやレイピア以外のテッカマンが誕生している事など、予想もしていなかったに違いない。
 彼らには少なくとも、記憶を混濁した世界のうち、自分が死んで以降の記憶をほぼ持ち合わせていないのだ。

「僕たちを助けてくれるのか……?」

 イラストレーターは、唖然とした様子でアキとイーベルに訊いた。
 彼女たちは、少し迷った後で答えた。

「あなたたちを許せるかはわからない。……それでも、本当に償う気があるなら、罪は生きなければ償えない物よ。……たとえどんな姿になっても」

 テッカマンブレードが抱き続けた罪は、決して死による救済が許されなかった。
 家族や友を傷つけ、殺し、その苦しみと罪の最中で記憶まで失っていたDボウイは、まさしくそういう男だった。
 そんな男の姿が微かにでも重なったのだろう。それで助けないわけにはいかなくなったわけだ。

「Dさんの死は悲しいですし、あんな事をしている諸悪の根源は許せません。でも、あなたたちみたいな優しい人には、きっと何か大人の事情(?)があると思うんです。それに私たち、テッカマンですから……困っている人がいたら、隠れずに戦わなきゃいけないんです!」

 テッカマンイーベルはそう言った。
 彼女なりの励ましや熱意が、その言葉に込められていた。大ボケユーミと呼ばれた彼女だが、正義感だけは一人前であり、困っている人を助けずにはいられない性格もまた彼女の純粋さが引き立たせる物である。

「私たちは外の誰に頼られなくても、この世界の管理や脅威に打ち勝つわ! あなたたちはこの場を逃げて! この袋小路の先に、あなたたちを別の世界に連れていってくれる人たちが来ているから、お願い……この世界は私たちに任せて。私たちの手で守りたい世界なの」
「本当か……? だが、君たちは来ないのか……?」

 アキの言葉に、イラストレーターは思わずそう訊く。
 それに答えたのは、イーベルであった。

「……大丈夫! 私たちにはもっと仲間がいるんだから! 絶望の最中でも負けない、Dさんや、Dさんがあそこで出会っていた人たちみたいに……私たちも、絶望は希望に変えて進まなきゃダメなんです! ……だから、私も諦めない! この世界で戦い抜いて、希望を掴んで見せる。だから、またいつか、この世界で会いましょう」

 二人のテッカマンは、アックスや素体テッカマンの群れに挑もうとしていた。
 これから先、フォン・リーことテッカマンソードや、相羽ケンゴことテッカマンオメガといった、Dボウイに倒されたテッカマンたちも蘇るだろう。
 しかし、地球人たちの力の結晶のテッカマンも、この世界にいる。テッカマンベスナーや、テッカマンゾマー、テッカマンデッド、テッカマンジュエル……様々な仲間のテッカマンが活躍してくれているのである。

「……わかった。ありがとう。その希望が、きっとこの世界中に届く日が来ると信じるよ」

 イラストレーターは、その時素直にそう礼を言った。

「私たちも、これから罪を償って生きていきます。……その第一歩として、この管理を止めて見せる……それが私たちの今の願いです」

 織莉子は、一礼した。これから、アックスを置いてここから逃げ出してしまうのが少し後ろめたいようだったが、キリカが呼び出した『円環の理』によって、他世界からこの世界の異常が感知されたのも事実だ。キリカの死を無駄にしないためならば、いっそこうして逃げるのが一つの手段である。
 先ほどアキたちが隠れ家にしていた路地裏に向かっていけば、迎えがいる。
 だが、彼らはそこに向けて走り出した。

 そして、彼らの足音が遠ざかっていくのを、テッカマンアキとテッカマンイーベルは聞いていた。
 彼女たち二人は、目の前の倒壊したビルを埋め尽くすテッカマン軍勢、ドーパント軍勢に挑もうとしている。
 これだけの騒ぎだ。おそらく、仲間のテッカマンが聞きつけて来てくれる事は間違いない。
 しかし、騒ぎが大きいという事は、敵の増援も多いという事だ。素体テッカマンは管理されているだけで、元は善良な人間かもしれない。なるべくなら、殺したくはない。
 結構、難易度の高い戦いだ。相手を倒せるか否かの限界の体力に、相手を殺してはいけないという制限の問題。
 それでも負けてはならぬのが、この世界において希望となる存在である。

 ただ、己を奮い立たせる為に、声を合わせて叫んだ。

「「宇宙の騎士(テッカマン)をなめないで!!」」






「ねえ、おにーさん」

 アリシアが、織莉子の腕の中から、イラストレーターに話しかける。
 今は走っている真っ最中だ。その状況で話しかけられるのは驚きであった。
 イラストレーターは何を言われても応える事ができない。
 まあ、プロメテの子として生まれた天才児の一人であるイラストレーターは、基本的には運動神経もある程度高かったが。

「……ママがね、最後に私を抱きしめたの……泣いてた」

 ……そうアリシアに言われて、イラストレーターは黙った。彼女は最後の瞬間、母親の表情を見たのだろう。プレシアはよりにもよって、クレイドールの能力を知らず、アリシアが死んだと勘違いしていた。それでも、アリシアの成れの果てであるこの首を抱きしめ、涙したというのだ。親の愛というのは一つの狂気にさえ感じる。

 返す言葉がないが、何か返さなければならない気がした。そうしなければ、彼女にとって大切なチャンスが一つ奪われるのではないかと思ったのだ。

「僕には母がいないから……君の気持ちはわからないけど……」

 イラストレーターには母はいない。
 だが、母への思いを綴った文学があらゆる国に存在しており、それを様々な言語で読んだ事がある。だから、少し想像する事はできた。
 家族というのは──いわば、イラストレーターにとってプロメテの子や研究員たちのようなものだ。失いたくない存在で、そこにいると心が落ち着き、表に出し続けなければならない非情さを奪っていく営業妨害の連中である。

「……その時に、君が、どう思ったのか。今のうちに、それを正直に打ち明ければ、君の家族は、きっと救われると思う」

 イラストレーターが言った時、アリシアは悩んだ。悩んだという事は、何かを感じたという事だ。
 何もなかったのではなく、何を感じたかわからない。──わからないが、多分、これだと思った言葉をアリシアは告げた。

「悲しかった……」

 そう告げた時、確かに実感した。
 これは『悲しみ』だ。
 母が仕事を休んでくれなかった時や、かつてアリシアが死んだ時──母との今生の別れを悟った時に感じた記憶が、ふと蘇る。
 悲しみ。それを、もっと昔、アリシアは確かに知っていた。

「……悲しかったよぉ……」

 アリシアは、それを思い出した時、ついに堪え切れずに泣いていた。
 堪えていたのではなく、なくしたはずの何かが急激に蘇ったのである。
 プレシアがアリシアを愛していたように、アリシアはプレシアを愛していた。
 そして、NEVERとしての特性を忘れるほどに、彼女はだんだんと色を取り戻していった。
 全てを失いつつあった幼いNEVERの少女に、何かが戻った瞬間だった。






 そして、袋小路でイラストレーターたちを待っていたのは、時空管理局であった。アキは嘘など言っていなかった──そんな疑いは最初から持っていなかったが、万が一という事もある。おそらく案内係としてそこにとどまっていたハヤトの隣に、数名の人間が来てくれていた事で、ようやくその疑いが晴れたというところだろうか。
 来たのは、リンディ・ハラオウンやクロノ・ハラオウンをはじめとする、時空管理局の『アースラ』の乗組員である。彼らは、既に最終時間軸である高町ヴィヴィオ及びアインハルト・ストラトスの世界に統合され、充分な年齢を重ねた時代の者になっていた。

 アースラがこうしてテッカマンブレードの世界に辿り着けたのは、『円環の理』の座標を確認したからである。
 各世界で起きているあらゆる異変への対処で時空管理局の各部署が手一杯になっており、アースラも例外ではなかった。中には、管理国家による悪質な『管理』の傘下に入ってしまう部署まで存在しており、かつてないほどの多忙を極めている。そんな中でこうしてこの世界に来られたのは、要するに『円環の理』の働きのお陰だった。
 その時点で最も強い異常を感知した世界──即ち『円環の理』が発生した世界まで急行した彼らは、そこで、驚くべき事にアリシア・テスタロッサとプレシア・テスタロッサがいるという情報をアキから聞きつけ、こうして現れたわけである。
 残念ながら、プレシアは再び命を絶ってしまう形になったが、アリシアをはじめとする数名は保護した。アリシアと織莉子は、あの殺し合いに関する重大なデータを知る者として、特に強い保護対象となっていた。

 アースラには各世界から数名の各世界人が特例的に同乗していた。
 たとえば、旧ラビリンスのウエスターやサウラーなどが、この異常について詳しい情報を知る人間として、同乗許可を得ている。彼らによれば、今度の支配者はメビウスではないらしい。それは有用な情報であった。
 世界の破壊者ディケイドとその知り合いも今日、ほんの少し同乗していたらしいが、いずれも既に別の世界に自力で移動してしまったという事で、重大な情報源となりそうな男とすれ違ってしまったのは残念だが、これからしばらくはこの船の保護下で、殺し合いの様子や管理の様子を見る事ができるようになるだろう。

(まだ管理に屈していない人間はたくさんいる……。きっと、憐たちもそうだ……)

 イラストレーターはアースラの中で思案する。
 管理世界に来た時は、もう絶望の最中だと思った。生還も脱出も許されず、外の世界に来てしまえばあるのは絶望だと──そう信じて、膝をつきそうになった。
 元の世界に帰りたい気持ちも少しずつ薄れ始めたほどである。
 だが──

(希望を信じながら戦う人がいる限り……運命を変えられるかもしれない)

 感情を失いゆくNEVERでありながら、感情を取り戻し始めているアリシア。
 前を向き、自分たちの世界を守ろうとしていたテッカマン。
 親しい人間の凄惨な姿を目にしながらも、自分たちの使命を全うする管理局。
 全ての魔法少女が行きつく未来である円環の理。
 この絶望的な外の世界の中でも、いくつかの希望がそこにある。

 プレシアやキリカとの短い旅が終わり、今度は管理局やラビリンスの人間と、『××××』を倒す為の新たな旅が始まる。



【プレシア・テスタロッサ 死亡】
【呉キリカ@魔法少女まどか☆マギカ 救済】

【吉良沢優@ウルトラマンネクサス 時空管理局によって保護・生還】
【アリシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは 時空管理局によって保護・生還】
【リニス(猫)@魔法少女リリカルなのは 時空管理局によって保護・生還】
【美国織莉子@魔法少女まどか☆マギカ 時空管理局によって保護・生還】




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最終更新:2014年05月27日 00:01