変身ロワイアルの真実 ◆gry038wOvE
全パラレルワールドの完全管理。──それが、彼の不動の目的だ。
本来、『インフィニティ』による管理は完全無欠であるはずだった。全てのパラレルワールドを管理するツールであるはずのそのメモリーは、FUKOを蓄積すれば世界の管理を行える力を持っているはずである。かつてメビウスもそれを信じてインフィニティを使った。
しかしながら、実際に使ってみれば、管理されない世界もいくつもあった。
たとえば、この殺し合いで桃園ラブが疑問に思ったように、一度メビウスによる全パラレルワールドの『管理』が行われたはずだが、その事実も、他の世界の参加者には通用しない常識になっている。あの時に管理された世界は、あらゆるパラレルワールドのごく一部でしかなく、支配された世界の一つではなかったのだ。
宇宙の果てにあるマルチバースと呼ばれる、一つ一つが小さな玉になっている多次元宇宙──それがパラレルワールドだが、管理国家はその玉の全てを握っているわけではない。ほんの欠片だけだったのである。
マルチバースには自分の世界を基準としたレベルがあり、そのレベルが上がるにつれ、科学や進化体系、年代の違いまで生じ、その遡行も難易度が高くなる。
答えをばらしてしまうと、インフィニティの力が支配できるのは、そのうちレベル2の一部──管理国家ラビリンスが認識できた世界までであった。いや、厳密には全パラレルワールドを支配する事もできるのだが、レベル2の多くや、それ以上を得るには、それなりの力が必要なのだ。それこそ、エントロピーを凌駕するエネルギーなど些末にしか感じないほどの壮絶な力が──。
この主催者は、それを得て全て支配しなければ、満足しない性格だった。それではまだ、全てのパラレルワールドを管理──とは名ばかりの支配をできない。
全てを管理下に置いていく。
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インフィニティの存在を知った彼は、早速その強奪に取り掛かった。とある鉱石のエネルギーを用いて、辛うじてインフィニティのあるレベル2世界に遡行する事に成功し、その後、管理の為の準備を進め始める。
行き着いたレベル2マルチバースには、FUKOを更に効率よく上げる為の方法を持つ世界が複数存在した。
たとえば、ソウルジェムや三途の川が存在する世界である。それらの時空を一つの場所に統合し、三つの現象を併用する事により、たった一つの絶望で三倍以上のエネルギーが蓄えられる。それがインフィニティの管理速度を早めさせる事を考えたのであった。
それから、更に、驚くべきは、人間が『変身』するエネルギーというのがその進化を助長するという事実だった。
人がその身を別の姿に変じるという事は、それこそ科学や世の中の法則を無視した現象であるのは、周知の事実だ。
高度に発達した科学や、実際的な魔法が存在する世界においては、そんな常識はとうに過去の話であもあったが、それが通常ならば世界法則を歪めるだけの科学や魔法であるのも事実だった。そうして世界法則を歪めるだけのエネルギーを集めれば、管理世界の幅を広めるのに役立つと、彼は知ったのだった。
変身は、本来交わらないはずの異なるマルチバース間での変身の方が膨大なエネルギーを放出するというのも、興味深い事実であった。
収集方法は、変身する人物の魂を内包している器(人体、ソウルジェム)に特殊装置を付けたうえで、『変身』をさせる事で装置内に収集させる方法を選んだ。手間はかかるが、確実で、成功すればかなりの量のエネルギーを回収できるはずだ。
そして、いざ装置が完成してみれば、そこに溜めこまれたエネルギーは、装置が破壊されるまで外には放出されない難点があったが、それは些末な問題であった。すぐに、装置に一定条件下で爆発する爆弾を取りつける事を決定した。
そして、彼は、様々なマルチバースで、人体の『変身』を可能とする世界を恣意的に選び、その装置をつけて殺し合いをさせるゲームを開催する事にした。装置を70名の人間に取りつけ、エネルギーを収集する事にしたのだった。
装置は後に、『首輪』と呼ばれる。この首輪の爆破、または解除により、効率的にエネルギーが外へ出て行き、彼のもとに収集されるのだ。せいぜい、この特殊な首輪の寿命は80年程度だが、それだけ悠長に待つ気はなかった。
インフィニティや参加者66名ほか、あらゆる世界から彼とその部下は人を呼び、集めていった。
説明役に、『仮面ライダーW』の世界の財団X幹部・加頭順を呼んだ。彼自身興味を持っていた、財団Xという地球人組織を武力で支配下に置き、インフィニティを発動させた後、殺し合いがスタートするのだ。
そして、オープニングの映像を外世界に流し絶望させるために一週間のインターバルを置いた。あらゆる世界から、FUKOが溜まっていく。その間、参加者や一部の主催陣には全員眠っていて貰い、財団Xの人間には管理された自世界の様子を眺めさせた。彼らもだんだんとインフィニティによる支配力が効き始めていった。
結果的に、彼らの帰るべき世界はその力で、六日間で管理された。
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異なる時間軸から人間が消え去った事実はなくなっていき、世界は自ずと矛盾を消していこうとし始めた。元々、一つの流れを自然とする世界は、その本能に従い、最も正解に近い世界へと形を変えていく。そして、結果的に連れて来られた人間の最終時間軸を基準にした融合が始まった。
ただし、その世界の人間全てが死亡した段階で、世界は矛盾を治す力を使い果たし、更に矛盾だらけの世界を作り出してしまう。テッカマンブレードの世界は、まさしくそうだった。相羽タカヤが活躍するよりも過去の時間軸で死亡したという事実に対して、あらゆる混乱を起こした結果、彼が殺した敵が蘇るような現象が起きたのである。
こうして世界が一つにまとまり始めた事は驚きだったが、その方が、管理がしやすいのも事実であった。
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管理されていない世界でも、勘の良い者は、遠いマルチバースの異変を何らかの書き記すようになった。やがて管理される時が迫っている事を動物的本能が察知し、それを夢に見る者がいた。
ある世界では、その絶望の様相が美大生の課題の絵として提出された。その美大生は、課題の期限に追われて適当なイメージを描いただけだったが、それが深層心理からの警鐘であり、未来起こりうる事だとは到底知らないだろう。
ある世界では、その管理の本質が哲学者の思想として知れ渡り、少しの注目を浴び始めた。その本質を見極めたところで、着々と迫りくる管理の夜に抵抗する術はない。
ある世界では、その物語の殆どが数名の人間によって合作され、インターネット上で「リレー小説」として公開された。散り散りに感じていた無意識のイメージの断片が自然と吐き出され、一つの作品を作り上げていき、世界の隅で少しずつ記録されていった。
そうして、外世界も少しずつ全パラレルワールド管理への注意を喚起し始めていた。
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殺し合いの会場となる世界は、唯一、主催者である彼にも謎の世界である。こればかりは、主催者にもわからなかった。
どのマルチバースにも属さず、どうしてここに行きついたのかは彼自身もわからない。ふと気づけばここにいたと言ってもいい。……ただ、ここは知れば容易に踏み込む事ができ、知らなければ一生触れようともしない場所にあった。
誰も人が住んでおらず、点々と置いてある島々には、ただ戦いの痕跡だけがある。まるで、誰かが既にこの島で殺し合いをしたようだった。倒壊したビルや、大破した巨大ロボットの残骸、首輪をつけた人間たちの死体……そんな生々しい爪痕が残っている。もし、何も知らない人間が見れば、嫌悪さえ催すような場所だろう。しかし、彼は妙にそこに惹かれていた。
そこに、一つ真新しい島が存在していた。彼はそこで殺し合いを行う事に決定した。どういうわけか、誰も用意もしていないのに、『風都タワー』や『志葉屋敷』といった、レベル3世界の産物が建てられている。
島の地下には、主催人物が休むための施設があり、F-5の山頂の真下に、その入り口が存在している。
それを疑問に思ったが、誰かが「ここで殺し合いを行え」と自分を急き立てているような気がした。彼は、それに運命を感じて、ここで殺し合いをする事にしたのだった。
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……ここにいる加頭順の頭上では、今も殺し合いは行われているのだろう。
爆破・あるいは解体された首輪の変身エネルギーは今も着々と、「あのお方」のもとに届いている。首輪の構造上、こうして爆破され、解体される事がやむを得ない。いくつか、解体されないまま死体とくっついて放置される首輪が存在するものの、残っている参加者たちはそれを拾い、再び解体していく事もあった。
結城丈二が首輪解析功労者とされたのも、それが全て、主催陣にとって有益な話だったからだ。首輪に溜めこまれた力は、「破壊」されてこそ意味を成す物で、基本的には「生存時間」、「変身回数」、「破壊のタイミング」を良いバランスで揃えなければならない。それには、下手に手を加えるよりも、参加者が首輪を爆破させるか、解体するかを自然のタイミングに任せて放置した方が良いだろうと考えたのであった。
事実、それまでの間に繰り返し多彩な変身を行う者がおり、それは彼らの予想外の事実にもなった。下手なタイミングで爆発させるよりもずっと効率良く手に入った。
結城丈二にとって誤算だったのは、彼がダミーと判断したコードや器具が全て、『破壊された後は意味を持たない』というだけの、変身エネルギーの蓄積場所であった事だろう。彼は今も、参加者の多くが首輪を解除するために役立ってしまっている。無論、こんな事を予想できるなど、科学者でも不可能だ。
それこそ、超能力者でもない限りは、首輪を解除する事の真の危険性などに気づかない。彼をはじめとする首輪解除派には一切、落ち度などなかった。
現状でも彼らが解体し続けたいくつもの首輪のエネルギーがFUKOのゲージを目くるめくスピードで盛り上げている。このまま行けば、殺し合いの終了までには、『オリジナル』を含めた全世界を完全支配できるであろう事も間違いなくなってきた。
(ユートピア……)
理想郷のメモリを持つ彼は、現状作られていく管理国家の姿が、その言葉に見合う物なのか、少しばかり思案した。だが、答えは出ない。
テッカマンの世界では、既に人間・素体テッカマン・ラダムに一定の役割が設けられ、その間での戦争・闘争があっという間に収束している。
財団Xも紛争地域への支援が抑えられ、資金の大半がこの殺し合いへの協力に回された。それは財団にとってマイナスでしかなかったが、世界にとってはプラスであるといえないだろうか。
普段の財団の支援で死んでいった兵士よりも、この殺し合いに巻き込まれて死んだ人間の方が遥かに少ないほどである。同じ資金と資材ならば、この数百倍の人間が屍になるだろう。
管理により世界は、かえって争いをなくしていき、『全宇宙の意思』であるワルダスター帝国のドブライまでが彼に力を貸すようになった。それは即ち、この蛮行は宇宙にさえ認められた正当な物である……という事であるようだった。
勿論、加頭も納得はしていない。
園咲冴子がまたも死んだ事実に──震える心もある。
だが、加頭は二度も死んだ後だというのに、またこうしてこの殺し合いの主催に招かれた。大道克己との戦い、仮面ライダーダブルとの戦い……いずれも、忘れられるものではない。
冴子の死という事実も、だんだんと彼の中では軽んじられる些末な話に感じられるほど、死生観の歪みは強まっていく。
……彼の目的は、冴子を加頭のように蘇らせ、この地で共に暮らす事であった。その欲望はまだ胸にある。
管理世界の外に二人だけの理想郷を作るのだ。
──勿論、サラマンダー男爵とオリヴィエとは、その時に殺し合いになるだろうが。
◆
そして──。
彼は、マップの裏側──側近の五名とインフィニティ以外、誰もいない小さな島で、玉座に座って殺し合いの映像を見ていた。
世界の王が玉座というのも古風な話だが、彼は所謂、そういうタイプの悪であった。これがダークザギさえも支配する力を得た戦士である。
まさしく、全ての宇宙を抱き込むほどの欲望を持ち、それを発揮しようとしている怪物だった。
「我ガ名ハインフィニティ……無限ノメモリーナリ……」
インフィニティとともに蓄積されるFUKOや水かさ──それが彼の頭上百光年分を遥かに超える水かさである事が、その方法の効率性の高さを示している。
変身エネルギーがここで大きく回収され続けた事で、あっという間に百光年も水かさが増したのだ。それでも、まだ『オリジナル』には行きつかないと知り、世界の広さを痛感する。
だが、どちらにせよ、関係のない話だった。
「……管理は随分進んでいるらしいな。俺様が全宇宙を支配する時も近いみたいだ……」
……そう、彼の名は、カイザーベリアル。
力に対する強い渇望を感じ、悪の道を行く事になったウルトラ戦士である。
それは、ウルトラ戦士が束になっても勝てず、ウルトラマンノアの力を借りたウルトラマンゼロさえも苦戦を許すほどの最強の怪物であった。
あるいは、彼は、既にウルトラマンノアやダークザギ以上の力を持っているかもしれない。
ベリアルこそ、新たな管理国家──ベリアル帝国を築き、全マルチバースの支配者となる事を夢見る、この殺し合いの真の主催者だった。
【真の主催者】:カイザーベリアル@ウルトラシリーズ
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最終更新:2017年01月15日 03:20