帰ってきた外道衆 特別幕 ◆gry038wOvE
「ベリアルを倒しに行けだと? 断る」
【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー GAME GIVE UP】
◆
血祭ドウコクは、六門船の中で、暫しの殺し合いの疲れを癒していた。
あの場の変身ロワイアルだけの話ではなく、このところ、人間界に出るなり、野心深いかつての家臣に命を狙われたり、財団Xなる連中の襲撃に遭ったりと、はっきり言って、ろくな事がない状態だ。──なんでも、第二ラウンドとかいう物が始まっているせいらしい。
まあ、結局のところ、ドウコクに敵う相手は殆どおらず、その殆どが返り討ちに遭ってしまったわけで、殆どの再生外道衆はドウコクに反旗を翻した事でドウコクに殺されたり、そうでなければ今シンケンジャーの残り四人と戦っていたりという形になっている。
過去の死亡経験によって蘇ったとはいえ、元々は志葉丈瑠や池波流ノ介や梅盛源太が単独で倒したわけではなく、シンケンジャーが揃って倒した相手が多い為か、全力を出し切れる程でもなかったし、二の目も失われている。
あの第二ラウンドも、志葉丈瑠たちの死による死者蘇生もドウコクたちにとっては一日余りで片付いてしまうルールでしかなかった。
当面の問題といえば、折角集めた三途の川の水もベリアルによって奪われてしまい、生活最低限の水かさしかない事だろうか。ベリアル帝国にとっても、外道衆は敵に回すよりも飼いならす方が良い相手だったらしく、本当に、永久的に“増えもせず、減りもしない”水かさを保って存在するように制限されていた。
──まあ、結局、ドウコク自身は既に人間界にどれだけいても平気な体質ではあるのだが、ここで共にのんびりとしている骨のシタリのような相手と向こうでも盃を交わす為にも、やはり嘆きの水は必要だ。
充分な水量を欲して、再度、人間界で人を襲ってみるが、やはり三途の川の量は一定にしかならず、ベリアル帝国を名乗る連中には、人間と外道の間で「住み分け」をするよう忠告されている。
あの殺し合いの目的は、なんでも、こうしてドウコクたちがいない間に三途の川の水や嘆きを集め、世界を侵略する事だったらしい。
──全く、ふざけている。
人が折角集めた物を。
だから、ドウコクはここに帰ってしばらく機嫌が悪かった。
「いいのかい? こんな形であいつらとの腐れ縁を断ち切っちゃってサ……」
骨のシタリが、ドウコクに訊く。
老齢の小さな外道衆の彼は、いわばドウコクの悪友に近い存在だ。青臭い縁ではなく、単に利害が一致し、お互いを裏切らない一定の信頼を抱きあうという、持ちつ持たれつの関係というところだろう。
先ほど、人間界で戦っていた真っ最中に、死に損ないの左翔太郎たちが空を飛ぶ奇妙な船に乗り、ドウコクをベリアルとの戦いにスカウトしようとしたわけだが、結局、彼らの勧誘はドウコクの「断る」の一言で徒労に終わった。
何でも、ドウコクのような生還者でなければ倒す事が出来ないらしいが、彼も神風特攻隊の数合わせに志願するつもりはない。──まあ、わざわざここから出向いてやる必要はないと思っていた。
それよか、ここでしばらく自由に酒を味わい、シタリと会話でも交わしていた方が良い。
「あの銀ピカに言われてたじゃないかい。あんな程度の相手に勝てないようじゃ、シンケンジャーどもにも勝てないって。……まあ、あいつもそんな事言いながら死んじゃったけどネェ」
「──シタリ。俺が潰すのは、目の前に立ちはだかる障害だけだ。俺がこうして脱出した以上、“奴ら”とはお互い、しばらく障らねえのが上手な生き方じゃねえのか」
「まっ、そうだよねェ。あいつらが異常なんだ。……てっきり、アタシゃ、アンタも少しは連中に感化されちまったのかと思ったよ」
「俺が? ……馬鹿言うんじゃねえよ」
ドウコクたち外道に感情などあるはずもない。いわば欲望の隙間の産物であるドウコクには、人間に感化される余地などどこにもないのだ。最初からそういう構造なのである。
ただ、沖一也の言葉はあの時、確かに真に近かった。石堀光彦を倒さなければ脱出への道は遠ざかるだろうし、主催者を倒さなければならないと思ったのだ。だから、彼の言葉に考えを改め、彼の思索に乗った。
結果的に、一応脱出は叶ったので、結果オーライであるといえよう。
しかし、今は、わざわざドウコクが出向いて殺し合いに参戦する意味はない気がした。
ドウコクは、酒を一杯ばかり喉に通した。
「ただ……“奴ら”の考えてる事は俺にも少し気になるな……一体、この後は何をするつもりでいやがるんだ?」
「アタシには理解する気にもなれないよ。揃いも揃って、ベリアルを潰そうなんて無茶な事言ってくれてネェ……お互い潰し合ってくれれば御の字だけどサ」
「“奴ら”、死ぬぜ」
「そうだろうネェ……。若い女の子まで戦に志願して、無茶な特攻する時代だよ。人間ってのはバカげてるね」
シタリはあきれ顔で溜息をついた。
全く、花咲つぼみや高町ヴィヴィオのように年端もいかない少女までもがベリアルを討伐しに行こうとしている現実が信じられなかった。──シンケンジャーにも何人か女はいたが、どうして人間はああも命を捨てたがるのだろう。
変な洗脳でもされたのだろうか。
まあ、そんなのはシタリの知った事ではないが、彼らの常識からすれば、あんな行動は爆弾を背負って歩く真似を繰り返しているようにしか思えなかった。
ドウコクは、シタリの方をじっと見て、酒をもう少し啜って、言った。
「──いや、俺が言う“奴ら”ってのは、ベリアルたちの方だ」
「何だって?」
思わず、シタリも驚き、強い語調でドウコクに訊き返す。世間話でもする軽い気持ちでドウコクと話していたシタリのペースが変わった。
「何言ってんだい、死ぬのはあの人間どもの方さ。いくら力があったって、あのデカい奴に全然勝てそうもないよ」
そんなドウコクは、悠然とした態度のまま、答えた。
「見てりゃわかる」
「そんなもんかね?」
「お前が言う“奴ら”の方は、ベリアルを倒して、必ずまた俺に会いに来るだろう。──まあ、何人かは屍になるかもしれねえが、何人かは残って、此処に来るように言っておいた」
「どうしちゃったのサ? あの形勢で奴らを信じるなんてのは、アンタらしくないよ!」
「……かもな」
シタリは首を傾げる。──やはり、それは、ドウコクらしからぬ物言いだ。
シタリの目から見ても、あの画面に映った巨大な怪物にあの生存者連中が勝てるとは思えない。折角繋いだ命をまた捨てに行くような物だ。
ドウコクがここに残っているのも、そんな惜しい真似をしない為だと思っていた。
「だが、あの殺し合いに巻き込まれて、人間どもと俺たちとの決定的な違いってのが一つだけわかった。……奴らの“情”ってやつは、時に奴らが持ってる異常な潜在能力を引きだす」
「──なあ、あんたも、ちょっとアクマロに似てきたんじゃないかい。そうして人間の情に付け込もうとしたあいつは、十臓に斬られたじゃないか」
「……十臓は人間の中でも特殊だ。奴は選ぶべき人間を見誤ったに違えねえ」
「……つまり、何かい? あんたは、あの連中を信じてるってのかい?」
「信じるんじゃねえ。奴らが勝つ──そういう事実を言ったまでだ」
ドウコクの言葉は渇いていた。その否定には感情がほとんど籠っていない。
彼は本当に、確信めいた結論として、ガイアセイバーズの勝利を信じているわけだ。
その面子の中には、佐倉杏子や左翔太郎のように憎んで然るべき相手までいるというのに、どうしてこう彼らの肩を持つような意見が言えたのだろう。
「アンタがそう言うんならそうかもしれないけどサ。今度ばかりは、アタシも半信半疑だよ」
「信じろなんて頼んでねえからな」
ドウコクも、別段、シタリに自分の予想を信じろとは言わなかった。
少し前ならば、ドウコク自身もこんな言葉を信じる事はないだろう。
だが、現実に、彼らはここまで、殆どの脅威を打ち破っている。
犠牲も生みながら──それでも、着実に。
「……だが、それでも、何故奴らが、自分が死ぬかもしれねえのに、俺やベリアルに立ち向かおうと考えるのかはわからねえ」
「なあ、アンタがそう言うならさ、アンタ自身が訊けばいいじゃないか。……あいつらは、ベリアルに勝って来るんだろう?」
「ああ。必ずな」
少なくとも、この管理によってこの世界は延命されている。
ベリアルの管理がなくなれば、今度は外道衆が現れ、それがこの世界を侵攻するわけだ。
それも、現状ではシンケンジャーの数が足りない。
まだこの世界に存在しているシンケンジャーは、志葉薫、谷千明、花織ことは、白石茉子の四名のみ。この四人だけでは、この世界の滅亡はほぼ確定的だと言えるだろう。
それに、ドウコク自身が訊きたい事があった為、翔太郎たちには、後々この世界に来るよう招いている。
──彼らは、その招待を受け、一体、どう思ったのだろう。
「だからこそ俺はここで騒ぎもせず待ってるんだ。……シンケンジャーとも、しばらくは顔を合わせる事はねえだろう」
ドウコクは、だからこうして此処で坐して待つのだ。
そんなドウコクの後ろには、外道シンケンレッドの影があった。彼も、ドウコクの真後ろで、胡坐を掻いて座っている。長年の殿様癖が染みついているのだろうか。
到底、一人の家臣とは思えない態度で、しかも、六門船に平然と居ついている。
「……いや、そんな事言ったってアンタ。後ろに座ってるソイツはシンケンジャーじゃないのかい」
「あれは空っぽの抜け殻みてえなもんだろ」
「そうかい。でも、本当、とんでもないお土産を持って帰って来てくれたよ。まさかシンケンジャーが外道に堕ちて来るとはね。本当の志葉丈瑠は死んじまったから、本当に抜け殻だけって感じだけども」
「だが、蝉の抜け殻とはわけが違う。奴は動く。だから使える。……たとえば、ここにまたうるせえ蠅が来た時とかにもな」
ドウコクのその言葉には、やや含みが感じられた。
彼は、まだ自分に仇なす何かが現れる事を確信している。
それは、おそらく──ガイアセイバーズやシンケンジャーといった類ではない。
だが、それならば、まだドウコクに立てつく者が現れるというのだろうか。それはシタリには少々信じがたい話であった。
「──アンタも怖い事言うネェ、ドウコク。もうアンタの怖さは知れ渡ったから、これ以上、アンタを狙う命知らずはいないよ」
「どうだかな。……まあ、シタリ、おめえだけは裏切らねえだろうが」
「そりゃあ、アタシだって命は惜しいからネェ」
何があっても生きようとするというのがシタリの性格だ。
それこそ、トカゲが尻尾を切るようにドウコクに助け船を出さない選択を取る事はあるかもしれないが、勝率が高い方に着くという意味で、彼は常にドウコクを裏切らない。
そして、仮にシンケンジャーたちの勝率が高いとしても、彼らとの共存は生存条件に合わない為、外道衆で絶対の長になるドウコクにしかつかないのがシタリだ。
余程野望がない限り、外道衆の多くは同じ判断を下すだろう。
「来るのは、シンケンジャーやあいつらみたいな命知らずと、俺の力をまだ見誤っているバカな奴って事だ」
ドウコクが脇目を振った。
六門船の障子紙の向こうで何かが動いたような気がしたが──気のせいだろうか。
ドウコクは相変わらず、ただ悠然と其処で構えていた。
──彼は、確かに、其処で「待って」いるのだろう。
◆
六門船から降りる一人の影があった。
──それは、脂目マンプクの部下・アゼミドロだ。マンプクに忠誠を誓うアゼミドロは、こうしてマンプクの野望にもついてきたのである。
そして、六門船から遥か遠く、マンプクの隠れ家に足を運んだ。所謂、密使の役割を引き受けてそれをこなしてきたのである。
「……どうやら、ドウコクは後から仕留めた方が良さそうでござるな」
アゼミドロの報告を聞き、マンプクは結論づけた。
あの殺し合いの主催者側の一人として生き残り、こうして自らが元いる世界に帰って来た彼は、同じく生還してしまった血祭ドウコクとの再会を極力避けるようにしていた。
何もドウコクを恐れているというわけではない。
それというのも、今真っ向勝負で勝てる確率は五分五分と考えている所であるが、せめて九分まで自分が優勢になる状況が欲しかったのだろう。
(仮に勝てたとしても、ドウコクにはまだ二の目がある……つまり、拙者も二の目が必要となる可能性があるという事)
彼もまた、上手にドウコクを仕留めようと張っていた外道衆であったが、しばらくは様子を見る事にした。どうやら、ドウコクはアゼミドロには気づいているようだが、今は六門船の中で酒を飲み交わしている最中という事で見逃しているらしい。
今は骨休めという事だろう。
六門船に下れば、マンプクの安全はしばらく保障されるかもしれないが、彼が今欲しているのはそんな事ではない。
──もっと、確実に、ドウコクを仕留められる状況である。
野望は尽きていない。クサレ外道衆が外道衆を乗っ取り、脂目マンプクが完全なる外道衆総大将となるだろう。
(ドウコクは奴らの勝利を信じているようだが……そんな事はありえない。シンケンジャーとの戦いで傷ついた所を狙うのが吉か)
何にせよ、いずれ、彼はあの殺し合いの生還者の敗北を知り、結局、人間界に出て暴れまわるだろう。そこでシンケンジャーと否が応でも戦う事になる。
ねらい目はその時だ。──それを狙い、マンプクは待つ。
クサレ外道衆だけではなく、ドウコクさえも家臣として平伏す未来を。
(ゆくゆくは、クサレ外道に栄光の美酒を……!)
【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー 此処で待つ】
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最終更新:2015年12月27日 23:20