二百年野望 ◆7pf62HiyTE
唐突だが、ここで地図を見て貰いたい。
今回の催しの舞台となるのは1つの比較的小さな島となる。
だが、この島には明らかに別の世界・場所にある筈の施設、建物、名所に類ずる物が幾つか存在する。
その中でも異彩を放っているのが――三途の池。
予備知識の無い読者諸兄であっても三途の川ならば聞いた事があるだろう。
現世つまりはこの世とあの世を隔てる場所にある川と言われており、この世の生者が死者となった時にあの世に向かう際に越える川の事だ。
さて、ある世界には外道衆と呼称される三途の川に生息する住人が存在する。
彼らはこの世を支配すべく侵略を仕掛けてくるものの彼らには致命的ともいえる弱点が存在していた。
一部の特殊なのを除く外道衆は三途の川から長い間離れすぎると川の水が抜けて干上がる、通称『水切れ』を起こしてしまうのだ。
そこで、人間が苦しみ不幸になれば水量が増すという三途の川の性質を利用し人々を苦しめ三途の川を氾濫させるという手段を取って侵略を行っているというわけだ。
長々と説明をしたものの要するに、基本外道衆にとって三途の川の水は必要不可欠、それを念頭においてくれればそれで構わない。
話を戻そう、この催しには外道衆が数人程参加させられている。だが、前述の通り三途の川から長時間離れれば水切れを起こし活動不可能となってしまう。
そこで主催側は三途の川の代用品として島の数ヶ所に三途の川の水を溜めた池を数ヶ所用意した。
つまり、この地における外道衆にとっては生命線といえる場所であると考えて良い。
「さて、どうしたものでしょうかな」
C-4に位置する三途の池、その内にてそう呟く一人の異形なる者がいた。
彼の名は
筋殻アクマロ、先に説明した外道衆の一人である。幸か不幸か彼の初期地点はこの場所となった。
長である
血祭ドウコク及び知恵袋の骨のシタリから補修を頼まれていた薄皮太夫の三味線を渡せと言われた矢先、気が付いたらこの殺し合いに巻き込まれていた。
殺戮そのものをを躊躇するつもりは無いが、加頭と名乗った人間に従い優勝を目指すつもりは全くない。
いや、正確に言うなれば自身の目的を考えるならば即座に優勝、つまりは最後の一人となるわけにはいかないと言った方が良い。
アクマロの望みは外道である自身が決して行く事の叶わぬ地獄を自身で味わう事、その目的を果たすべく二百年も昔から準備を進めてきたのだ。
その為に必要なのは極上の苦しみが詰まった薄皮太夫の三味線、妖刀裏正、そして裏正を振るう
腑破十臓なる外道衆のはぐれ者だ。
アクマロが地獄を味わう為にやろうとしていた事、それは『裏見がんどう返しの術』で地獄、すなわちあの世をこの世に顕現させる事である。
それを行った場合、この世はおろか隙間にある三途の川やそこに住む外道衆も只ではすまないが、その程度アクマロ自身にとっては些細な事である。
裏見がんどう返しの術――人の嘆きや苦しみを土地に直列に刻みつけた時、それが楔になりこの世に大きな隙間を作り出し、その隙間の中心となる地を切り裂けば裏返り地獄が現れるというものである。
が、この術を成す事はそう簡単なことではない。最終的に切り裂く人物は人でも外道でもない者でなければならないのだ。
つまり、人でも外道でもないはぐれ外道である十臓の存在が必要不可欠という事なのだ。
無論、十臓とて素直にアクマロに従う道理も無い。だがここで裏正が重要な意味を持つ。
アクマロが十臓に渡した裏正にはある者の魂が閉じこめられている。それは人斬りの道に走る十臓を最後まで止めたいと願い続けた十臓の妻の魂。
その魂を救う為と持ちかければ地獄をこの世に呼び寄せるアクマロ自身の望みを叶える事に手を貸してくれるだろう。
それ故に、最低限十臓と彼をその気にさせる為の裏正は目的の為の必須条件といえよう。
だが、手元には修理の為預かっていた裏正が無い状況、自身の武器である削身断頭笏が無い事を踏まえ恐らくそれらの武器や道具は隠してある三味線も含め他の参加者に支給されている可能性が高い。
また、十臓の性格を考えるならこの地でも強き者と死合うのは明白、そうそうやられるとは思わないが絶対とは言い切れない。
折角、ここまで準備を進めてきたのにここで潰されるわけにはいかない、なんとしてもこの局面を脱しなければならない。
「それにしてもドウコクは何処でしょうかな?」
また、気になるのはドウコクの所在だ。
前述の通り、外道衆は三途の川を長時間離れる事は不可能。
その中でもドウコクは過去の戦いの後遺症により、三途の川を離れればすぐに水切れを起こす状態となってしまったのだ。
戦闘力こそ絶大ではあるものの、後遺症故に戦いに出る事はほぼ不可能な状態である。
つまり、少なくともドウコクの居場所は三途の川と似た特性を持つ三途の池である事はほぼ確実。だがC-4にある三途の池にはいないのは確認済み。
「この三ヶ所の何処か……ということでしょうな」
地図上にはB-9、F-3、G-7にも三途の池が示されている。それを踏まえるならばドウコクの拠点はこの三ヶ所のどれかと考えて良いだろう。
「とはいえ、ドウコクの事に関しては今は良いでしょう」
しかし、現状ドウコクについてはこれ以上考える事も無いだろう。
実の所、三味線を渡すわけにはいかない為、このタイミングでドウコクに反旗を翻すつもりではあった。
無論、自身の真意を悟られればドウコクが自分を消すのは明白ではある。
だが現状はまだ問題はなく、同時に露呈した所で長時間戦えないドウコクから逃げ切るのは簡単ではないものの十分可能なレベルだ。
それを踏まえるならば現状では特別大きな問題無いだろう。
「今は十臓と裏正、それらを探すのが先決でしょう」
そういいつつ三途の池を後にした――
「ほう、これは……」
そう言いながらアクマロはC-5まで来ていた。
彼がこの場所に来たきっかけは池を出た直後に1人の中国風の服を着た少女が走っていくのを見たからだ。
幸いアクマロの存在には気付いていなかった様だったがこのまま放置する理由もない。
アクマロは密かに尾行しC-5まで来たという事だ。
見ると少女は発見した別の少女を襲撃していた。対する少女はシンケンジャーの様に自らの服を変え――ある意味変身(?)を行い戦闘準備に入り迎撃していた。
下手をすれば自身も戦いに巻き込まれる、負けるつもりは無いが無駄な消耗は避けたい所故、ある程度距離を取りその戦いを眺めていた。
「一見すれば互角……しかし、果たしてそうでしょうかな?」
戦いの様子は一言で言えば一進一退といった所だ。だが、アクマロはそう判断しなかった。
断片的に聞こえたやりとりから察するに中国風の少女は乱馬、恐らく
早乙女乱馬を守る為に他の参加者を皆殺しにしようとしているのだろう。
故にその一撃一撃には必殺の意が込められていると考えて良い。無論、その動きは手練れたものではある。
一方の変身した少女の方もまた動きは手練れたものではあり、その一方でその挙動一つ一つにはあくまでも殺人の意思はなく、彼女を説得する事に徹している。その為、その攻撃には一切の殺意はない。
この状態で一進一退の互角という事だ。ではこれは本当の意味で互角と言えるのだろうか?
結論を述べよう。これは互角でも何でもない。圧倒的に変身した少女が有利である。彼女の方は本気を出していないのがアクマロにはわかった。
変身した少女がその気になれば中国風の少女は瞬時に瞬殺されるであろう。
「あの小娘はそれに気付いていない、仮に相手の甘さから運良く倒せた所で先は知れましょう」
アクマロにとってこの戦いの結末などどうだって良い。
いや、出来れば変身した少女が中国風の少女を殺してしまう結末を期待したい所ではある。
なにしろ、助けたい止めたいと思った少女を殺してしまった時の嘆きや哀しみは自分達外道衆にとって大きな糧なのだからだ。
「とはいえ、手を出す事もな……おやおや?」
そんな中、同じ様にこの戦いを見つめている1人の女性を見つけた。
「私と同じ様子見でしょうかな、あるいは……」
そう言いつつ巻き込まれぬよう念の為、後退していたが――女性が『何か』――ソレワターセと呼んでいたらしいそれを戦いの場に投入した事で状況は一転した。
「これは!」
ソレワターセは変身した少女の背に取り付き異変を起こした。
ソレワターセが何かはわからない。だが、アクマロは少女に起こった事についてある程度推測出来ていた。
一方の少女は、事が終わったら何事もないように必殺の一撃を叩き込もうとしたが、
「愚かな……」
そう呟くアクマロの言葉通り、その一撃は通らず逆に仕掛けた拳は潰され――そのまま一方的に惨殺される結末を迎えた。
その後、事を仕掛けた女性こと
ノーザが少女
スバル・ナカジマに接触。
どうやらノーザが投入したソレワターセによってスバルは操り人形と化し、中国風の少女を惨殺したという事だった。無論、これはアクマロが先ほど推測した通りである。
その後、スバルは惨殺した少女を全て吸収、恐らくは背中に植え付けられたソレワターセの力なのだろう。
これにより証拠を隠滅したのであろうが一連の事は全てアクマロ自身が把握している。
『あなたの力をもっと私に見せてちょうだい。それがあなたにとっての幸せなのだから』
そんな会話が聞こえてきて、アクマロは内心で笑いが止まらなかった。
これの何処が幸せなのだろうか、少なくともスバルにとっては最悪の不幸以外の何者でもない。
今はまだ操り人形故にその事実に気付いていないが正気に戻った所で、その事実は彼女を嘆き苦しみ哀しみに暮れさせる事だろう。
彼女の関係者や中国風の少女が守ろうとした乱馬なる男にその事実を伝えれば哀しみは広がるのは明白だ。
「場合によってはこの地で起こせるやもしれませんな」
この殺し合いの舞台といえど上手く立ち回り事を進めれば裏見がんどう返しの術、その条件を整える事が出来るかもしれない。
とはいえ、それは現状机上の空論に過ぎず、どちらにしても十臓と裏正は必要不可欠だろうし、シンケンジャー等多くの邪魔者がいる事を踏まえると容易にはいかないだろう。
そのため、現状は頭の片隅においておく程度に留めておく。
一方でノーザの方に視線を向ける。
彼女はスバルにこれからさせようとしている事が自身の幸せと語っていた。
だが、一連の事は少なくとも幸せに繋がるというものではない。むしろ真逆と言って良い。
それを望んでいる事を踏まえると、ノーザは嘆きや悲しみを糧とする自分達外道衆と同じ側の人物という事になる。
「接触してみるのも面白いかも知れませぬな」
そう考え近づこうとしたが既に二人は何処かへと移動を始めていた。
「そういえば先程何かの叫び声が聞こえた様でしたな、恐らくは……」
その場所に向かい、スバルに殺戮を繰り返させるのだろう。
叫び声から判断し、その場所には多くの者達が集うだろう。
もしかしたらそこに十臓が向かう可能性もある。
まずあり得ないだろうがスバルが十臓を仕留める可能性も無いとはいえない、流石にそれは避けねばならない。
それを考えるならば様子見ではあっても自身も向かった方が良いだろう。
何より、機会があるならばノーザと接触もしておきたい所だ。同じ種類の者同士、交渉次第では一時的に共闘も出来るだろう。
「では参りましょうか」
そう呟きノーザ達が向かった方向へと足を進める。
全ては地獄をこの身で味わう為、ここまでの仕込みは順調、二百年前から進めていた野望を加頭の名乗る人間共に潰されるわけにはいかない。
外道衆から見ても異常な願望を持つ外道は己が道を往く――
――が、果たして本当に順調なのだろうか?
例えば、ドウコクが抱える水切れの問題についてもそうだ。
仮にドウコクが水切れの問題を克服したならばどうだろうか?
その圧倒的な力により一蹴されるのは言うまでもない。
無論、これは可能性の低い事、それ故にそこまで考慮すべき事ではないだろう。
だがそれ以前に根本的な問題が存在する。
仮に裏正も十臓の身の安全も確保し裏見がんどう返しの術の話、そして裏正の真実を語ったとしよう。
アクマロの計画では十臓がその魂を救うべく件の話に乗る手はずである。
しかし、その計画では十臓がその話に乗らないという可能性が完全に抜け落ちている。
そもそも、十臓程の剣の達人ならば裏正の真実に気付いている可能性もあるだろう、当然その時は真実を知った上で裏正を振るい続けていた事になる。
十臓が身も心も完全に外道に堕ちていたという可能性を何故考慮しない? 仮にそうなら話に乗る道理もないだろう。
また、そこまで外道に堕ちていたならば人でも外道でもないという条件にすら外れるのでは無かろうか。
アクマロは気付かない、二百年に渡る計画そのものに根本的な穴が存在している事を――
【一日目・未明】
【C-5/森】
【筋殻アクマロ@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:地獄をこの身で味わう為、十臓と共に脱出を試みる。
1:ノーザに接触する為、音の響いた方へと向かう。
2:裏正、太夫の三味線の確保及び十臓を探す。
3:ドウコクに関してはひとまず放置。
4:条件が揃うならばこの地で裏見がんどう返しの術を試みる。
[備考]
※参戦時期は第四十幕『
御大将出陣』にてシタリから三味線を渡せと言われた直後。
※アインハルトが放った覇王断空拳の音を聞きました。
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最終更新:2013年03月14日 22:19