黄色と黒のポラリティ ◆w4Pq5j/FG.


 山吹祈里がふと我に返った時、周囲はまたしても暗闇に包まれていた。だがそれは白い男に“殺し合い”を宣告された場所の様な、空間そのものが塗り潰された奇怪な暗さとは違う。単に深夜零時という頃合と、屋内の照明が点いていない事が重なっただけの、ありふれた夜の闇に過ぎなかった。
 窓から差し込むぼんやりとした光は、すぐ外に設置されている外灯のものだろう。そのおかげで少し目が慣れれば、自分がどんな場所にいるのかを把握することが出来た。
 祈里にとって余りにも見慣れたその光景は、ごく有り触れた教室だった。机と椅子が整然と並び、前後の壁には黒板が備えられている。壁際のロッカーには生徒の教材が収められ、縦長のものには掃除用具が入っているのだろうか。白詰草女子学院の制服を着た祈里は、時間を誤って登校した生徒であるかの様に一人佇んでいた。
 周囲に人の気配は無い。空調などが作動している様子も無い。だがそれは決して本日の授業が終わっているからという訳ではないのだろう。
 祈里は僅かな光だけを頼りに、覚束無い足取りで教室の中を歩いた。初めて来る場所であるが、教室の間取りなど大抵同じだ。机の端に腰をぶつけたりして痛い思いをしながらも、手探りだけで照明のスイッチを探し当てる。幸いにして電気は通っているらしく、適当に点けると教室はパッと明るくなった。
 視界を確保してから改めて首を巡らすと、この教室は一階の校庭に面しているのだと解かる。祈里はほぼ中央の席に座り込んだが、これから何の授業が始まる訳でも無い。光を取り戻した学び舎とは裏腹に、彼女の表情は暗く沈んでいた。

「なんで…… どうして、こんなこと……」

 祈里の脳裏には、つい先刻目にしたばかりの凄惨な光景が蘇っていた。
 自分にも着けられている首輪の爆発と、鮮血を撒き散らして絶命する三人の男達。喉を抉る様に吹き飛ばされ、何が起こったのかも解からないままに死んでいった彼等の顔が、頭にこびり付いて離れない。人を人とも思わぬ、余りにも惨たらしい仕打ちだった。
 恐怖と悲しみが胸を突き、目の端に涙が溢れてくる。何故こんな酷いことをするのか、どういう目的あってのことか、湧き出す疑問は止まることがない。悪い夢だと思いたいが、先程まで祈里が立っていた位置には、白い男が説明した通りデイバックが置いてあった。
 これから始まるであろうバトルロワイアル。その只中に放り込まれたという事実は、暗い陰となって祈里の心を覆い尽くそうとする。
 しかし彼女の心に諦観は無かった。

(絶対に、止めなきゃ!)

 それは祈里の中に当然の如く存在する“強さ”だった。彼女はプリキュアの一人として、信頼する仲間たちと共に管理国家ラビリンスと激しい戦いを続けて来たのだ。例えどんな状況に置かれていても、理不尽な暴力に抗い弱き者を守ることを、祈里は迷い無く選ぶ。
 そして彼女は、自分がこれから取るべき行動を必死に考えた。この今までに無い危機を、ラブ達と一緒に乗り越えるにはどうすればいいのか。しばらく時間をかけて悩み、結果として思いついたのが、まず支給されたデイバックの中身を確かめることだった。
 どこにでも売っていそうな黒いデイバックを教室後部のスペースまで引き摺り、少し緊張しながらファスナーを開く。真っ先に視界に入った物に、祈里はパッと顔を輝かせた。
 妖精ピックルンが宿った携帯電話型のアイテム・リンクルン。それにクローバーキーも付属している。祈里と仲間たちがプリキュアに変身する為の大切な道具、これさえあれば多少の身体的な危機は乗り越えられるだろう。
 リンクルンを懐に収め、次に取り出した名簿を確認する。やはりラブたちプリキュアの仲間と、ラビリンスのノーザ以外に知る名前は無かった。他の参加者についての情報はゼロに等しいが、やはりごく普通の一般人という訳ではないのかも知れない。

(男の人もプリキュアになるのかな? 優しい人ばかりだったらいいのに……)

 少し外れたことを考えつつ、他の支給品も取り出して机に並べていく。
 地図、まだ現在位置は分からない。コンパス、使い方がよく分からない。紙とペン、無いよりはあった方が良いかも知れない。食料と水、本当に三日分あるのかどうかは疑わしい。
 そして、バックの最奥にしまい込まれた直方体の箱。

「……なに、これ?」

 箱は飾り気の無い茶色の紙で出来ており、長辺は四十センチ近く、短辺が二十数センチ程度と見える。持ち上げてみるとズシリとした重みがあり、両手でそっと机の上に置いた。特に封などはされておらず、簡単に身蓋を開けられそうだ。
 祈里は妙な胸騒ぎを覚えていた。既に机に並べられている支給品の数々は、包装と言ってもせいぜいビニール袋に入れていた程度で、殆どそのままデイバックに詰め込まれていた。しかし最後に現れたこの箱だけが──簡素な紙製でしかなかったとしても──未だ正体を現さず、そのサイズも相まって異様な存在感を放っている。
 祈里の脳裏には、どこか予感めいたものがあったかも知れない。自分が今置かれている状況、そして白い男の説明を思い返しながら、恐る恐る蓋を開いた。

「……!」

 そして、息を飲む。彼女の目の前に出現したのは、紛れも無い人殺しの為の武器だった。
 発泡スチロールの容器に包まれたベレッタM92FS。添えられているマガジンには弾薬が目いっぱい入っている。もちろん祈里にはその種類や機能など知る由もないが、“拳銃”という形状だけで彼女が衝撃を受けるには充分だった。
 祈里はしばし呆気に取られていたが、やがてその手が吸い寄せられる様に伸びてゆく。初めて味わう感触と重量。決して引き金には触れない様にしながら、映像でしか目にしたことのない武器を両手でそっと持ち上げた。
 それは優しげな風貌の少女には余りに似つかわしくない異物だった。思えばプリキュアとなって随分経つが、何度も命がけの戦いに身を置きながら、ここまで明確な凶器の形を手にしたのは初めてのことだ。

(……オモチャじゃない、よね……)

 指一本動かすだけで人を殺傷せしめる力。凶悪なイメージに対する拒否感から突拍子も無い考えが浮かぶが、流石にこの状況でその可能性は少ないだろうと思い直す。もっとも仮にこれが玩具の類であったとして、祈里の知識では見分けることなど不可能であるが。
 そうして手の内の兵器を凝視したのも束の間、祈里は早々に結論付けた。

「……いらない、よね」

 この銃はキュアパインの、山吹祈里の戦いには必要の無いものだ。この場に置いて行こうと思い、ベレッタを箱に戻して蓋を閉じた。もうその中身を目にすることはないだろう。
 そしてもう一度デイバックを覗き込むが、後には埃しか残っていなかった。彼女が受け取るべき支給品は先程の箱で最後らしい。
 机の上にある品々を見回し、祈里は小さく息を吐いた。手札の確認は全て終わり、後は行動あるのみ。怖くないと言えば嘘になるが、今まで何度もそれを乗り越えてきたのだ。きっとラブ達も同じ様にして動き始めているはずだと、祈里は信じている。
 地図だけを残し、他の持ち物は全てデイバックに戻した。しっかりとファスナーを閉めたことを確認すると、懐からリンクルンを取り出す。プリキュアになっていた方が何事にも即座に対応できるだろう。

 その直前、祈里は静かに深呼吸した。
 誰も殺し合いなんて望む筈がない。参加者の中に混じっていたノーザや赤い怪物は不安材料だが、普通の人なら解かってくれる筈。みんなで協力して、このバトルロワイアルを瓦解させるのだ。
 決意と共に、リンクルンにクローバーキーを差し込む。そして祈里はキュアパインへと──

「動かないで」

 ──変身、できなかった。
 冷たい声と共に、後頭部にゴツリと固い何かが押し当てられた。キーを回そうとしていた手がぴたりと止まる。

「……え?」

 何が起こったのかすぐには解からず、祈里は体ごと振り向こうとした。だが誰かの手の感触が背後から肩を抑え、頭に当たっているモノにも痛い程の力が篭もる。

「あなたの頭に銃を突き付けてるわ。妙な動きをすれば撃つ」

 聞こえてくるのは、祈里とそう齢も変わらないであろう少女の声。

(──え、えぇ!?)

 余りに唐突な状況だった。何者かが教室に入って来たことにも、そしてすぐ背後まで接近して来る気配にも、祈里はまったく気付くことが出来なかった。まるで今この瞬間に背後に現れたかの様だ。
 ちらりと窓に目を向けると、確かにガラスには長い髪の少女が祈里の頭に銃を押し当てる姿が映り込んでいる。ハッキリとは見えないが、彼女もまた学校の制服の様なデザインの洋服を着込んでいた。

「だ、誰!?」
「質問するのはこっちよ」

 当然の疑問は呆気なく却下された。
 先刻目にしたばかりの凶器が己に向けられていることを意識すると、さっと肝が冷え、映画やドラマで見た場面の様に自然と両手を上げてしまう。


 すると後ろから黒い長袖の手が素早く伸びてきて、持ったままだったリンクルンを奪い取られた。あっ、と思ったが祈里には何も出来ない。数秒後に響く乾いた音は、リンクルンを机の上にでも放ったのだろうか。

「まず両手を頭の後ろで組んで、跪きなさい」

 少女の声はひどく冷淡だが、あの白い男の感情の篭もらない話し方とは違い、相手の反抗を封じようとする力が宿っている。
 言われるがままにするしかなかった。プリキュアにもなっていない祈里は銃の脅威に何の抵抗も出来ず、大人しく教室の床に膝を着いた。位置的に窓ガラスで状況を確かめることも難しい。銃らしき物の感触は頭から離れたが、まさしく手も足も出ない姿勢であった。

「それでいいわ。じゃあ、あなたの名前は?」

 心なしか、頭の位置が低くなっただけで相手の声の威圧感が増した様に思える。

「や、山吹祈里……」

 こんな格好で両親に授かった名を明かすのは嫌だったが、仕方ない。名簿を確認しているのか、紙を弄る微かな音が耳に届いた。
 何か言わなければならない。少女が次に口を開くまでの数秒間、祈里は必死に思考を巡らせた。その脳裏に浮かぶのは自分に銃口を向ける者への抗議や罵声ではなく、まだ顔も知らぬ少女と仲良くなる方法ばかり。相手がラビリンスの一員である可能性など、僅かにも思い至らなかった。
 こちらに敵意が無いことを証明し、対話に武器は必要ないことを解かってもらうにはどうすれば良いのか。理想への道筋を探す時間はすぐに過ぎ去り、六十九人の名の中に“ヤマブキイノリ”を見つけたのだろう少女は、次の質問を口にした。

「あなたは魔法少女なの?」

 その内容は、祈里の思索を停止させるには充分なものだった。

「……え?」

 突拍子も無い単語に、祈里は降伏の姿勢のままキョトンと目を丸くする。アニメか何かの話だろうか。

「ま、魔法少女って……?」
「インキュベーター…… キュゥべえと契約した者のことよ。何か一つ願いを叶えて貰う代わりに、魔女と戦う運命を背負う。あなたもそうなんじゃないの」

 初めて耳にする言葉である。祈里には答えようがない。

「あ、あの、キュゥべえって何?」
「言葉を話す白い獣。知らないフリをしてるのかしら」

 少女の声に険が混じる。知らないものは知らないと言いたい状況だが、彼女が語った簡素な説明には思い当たるところがあった。喋る動物といえば、祈里のごく身近にまさしく該当者がいる。

「す、スウィーツ王国の妖精……?」

 口に出してしまってから、頭の端をちらりと後悔の念が過ぎった。スウィーツ王国からやって来たタルトやシフォンの事は、基本的にプリキュア関係者以外には秘密だ。後ろの少女の素性が判らない現状で、話してしまって良い事なのだろうか。
 だが言葉を話す獣という、常識的に考えればおとぎ話の様なことを言い出したのは相手の方だ。スウィーツ王国以外にも不思議な世界が多々存在することを知る祈里には、“キュゥべえ”とやらもそういった場所の住人であると推定するしかない。

「……は? なんですって?」
「その、喋る動物っていったら、スウィーツ王国から来た妖精さんかなって……」
「……なにそれ、ふざけてるの?」
(えぇ!?)

 しかし祈里の予想に反し、少女の声には微かな怒りさえ宿り始めた。
 確かに字面だけ見れば、スウィーツ王国などという名前は滑稽で突飛に思えるかも知れない。だが祈里には他にシフォンたちの故郷を言い表す言葉は思い付かなかった。

「真面目に答えなさい。あなたはキュゥべえと契約した魔法少女なの、それとも違うの」

 再び後頭部に冷たく固い何かが当たる。だが祈里にとって、そしてプリキュアにとって大切な友達であるタルトたちのことを疑われたまま話を進めるのは嫌だった。

「ほ、本当だよ! スウィーツ王国には妖精さんが暮らしてて、タルトっていう王子様が私たちの世界に来てるの!」

 苛立ちと呆れを含んだ溜め息が聞こえるが、祈里は構わず話し続けた。

「そ、それで、ピックルンに選ばれた女の子がプリキュアになって、ラビリンスと戦ってるの!」

 背後で息を呑む様な気配を感じたのは気のせいだろうか。頭にかかる力が少し弱まり、少女からしばらく反応が帰ってこない。
 勢いに任せてプリキュアの事まで暴露してしまったが、今度は意図的な発言だった。しかし一方的に銃を突き付けられている上、話の内容に齟齬が混じっているとなると、まともなコミュニケーションに発展させることは難しい。だから祈里は話せるだけのことを明かし、そして相手にも話して欲しかった。
 やがて今までに無かったほど長い間を置いて、少女が次の質問を向ける。

「その、プリキュアっていうのは…… 何なの」
「え、えっと…… スウィーツ王国から来た妖精のピックルンに選ばれて、変身する女の子だよ」

 何か考え事でもしているのか、また少女は十秒近く押し黙った。二人のやりとりは遠い異国で中継されている会話の様に、途切れ途切れのまま続いてゆく。

「その、ピックル……とかいう妖精と、契約するの?」
「え、契約って……?」
「何か一つ願いを叶えてもらって、その代わりにプリキュアとかいうのになるんじゃないの」
「そんなことなかったと思うけど……」
「……なら、プリキュアになった者は何をするの」
「みんなを守るために、悪い人と戦うの。四つ葉町…… わたしの町にはラビリンスっていうのが来て、いつもみんなを苦しめてるの」
「そのラビリンスは、魔女なの?」
「魔女じゃなくて、別の世界にある国だよ。最近は魔女みたいな人も出てきたけど」

 いつの間にか後頭部の異物感はまた消えている。淡々と返答を繰り返していく内に、もはや完全に開き直りの心境になった祈里は、何ら隠し事をする気はなくなっていた。
 そして同時に、銃で狙われているという危機を認識しながらも、彼女の思考は次第に平衡を取り戻していた。まさしく今語っている通りプリキュアとしてラビリンスと戦い続ける日々が、祈里に恐怖を乗り越える強さを養わせたのだ。その話し方からも緊張が失せてゆき、声だけならば、後ろの少女と対等に言葉を交わしている様にも聞こえるだろう。

「……それで」

 再び幾許かの間を置いてから、少女はその問いを口にした。

「あなたは、プリキュアなの?」
「うん」

 祈里は素直に肯いた。

「今も変身できるの?」
「できる、けど…… リンクルンが無いと」
「リンクルン?」
「えっと、さっきの携帯電話」
「……そのまま動かないで。銃口は外していないわ」

 背後でゴソゴソと動く気配。ややあって、頭の上に被せていた祈里の手にゆっくりとリンクルンが渡された。

「……手は下ろしていいわ、変身して見せなさい。ただし抵抗したらすぐに撃つわよ」
「うん、わかった」

 プリキュアになれれば普通の鉄砲ぐらいは何とかなる、この不平等な状態を打ち崩せる── そういう下心が浮かばなかった訳ではない。だが祈里は自らその思い付きを否定し、ただ己の素性を明かし、信じて貰うために変身するのだと即座に考え直した。

「……座ったままじゃないとダメ?」
「足を使う必要があるのかしら」
「そ、そうじゃないけど…… うん、その、怒らないでね」
「は?」

 上部にクローバーキーを差し込み回すと、リンクルンがぱかりと開く。露出したボタンにそっと人差し指を添わせ、祈里は自分をプリキュアに変える言葉を叫んだ。

「チェインジ・プリキュア! ビート・アーップ!」

 照明などより遥かに眩く清い光が、教室を黄色く染め上げた。その中で祈里の体は華やかな衣に包まれてゆき、髪は明るい金色に彩られる。胸を飾る四色のクローバーは、彼女が常に仲間たちと共にある証だ。

「イエローハートは祈りのしるし!」

 指でハートを形作り、軽やかに手拍子を打つ。そして変身した祈里は底抜けに明るく、自らの新しい名を謳い上げた。

「とれたてフレッシュ、キュアパイン!」

 スウィーツ王国に語られる伝説の戦士、プリキュアの顕現。しなやかな足を伸ばし教室に降り立ったキュアパインは、小さく一息吐くと苦笑しながら頬をかいた。

「……えっと、ごめんね? 変身したら勝手に立っちゃって……」

 振り向くことだけはせず、背後で変身の一部始終を眺めていたであろう少女に詫びる。
 返事は無かった。プリキュアの変身をどういうものと予想していたのかは判らないが、呆気に取られているのかも知れない。

「あ、あはは…… やっぱり、ちょっと派手かな……?」

 返事は無い。それどころか人の息づかいさえ聞こえない。

(……あれ?)

 暫く待ってみるが、周囲からは何の音もしない。キュアパインが恐る恐る振り向いてみると、先程までそこにいた筈の少女は影も形も無かった。

「……あれ?」

 キュアパインはたった一人、ぽかんとした表情で夜の教室の中に突っ立っていた。
 机の上に置いてあった箱が空になっていることと、デイバックの中から食料と水が消え失せていることに気付くのは、今少しの時間が必要だった。



 点々と備えられた街灯が、夜の道路をぼんやりと照らし出している。魔法少女の衣装を身に纏った暁美ほむらは、アスファルトを踏み締めながら数分前の出来事を思い返していた。
 加頭の説明を受けた後、市街地で目覚めた彼女はアテも無く足を進めていた。そこで目にしたのは、証明の消えた家屋が立ち並ぶ中、誘蛾灯の如く光を漏らす校舎。罠を警戒して慎重に校庭を横断し、窓から教室を覗き見ると、ほむらと同い年程度の少女が無警戒にデイバックを漁っていた。靴箱の並ぶ正面玄関から校内廊下に周り込み、“能力”を発動させてから教室に侵入。彼女の頭に銃を付き付けてから、再び全てを戻したのだ。
 そうして思慮の足りない少女を尋問した結果、思いも寄らない話を聞かされることになった。

「……訳が分からないわ」

 思わず、嫌いな相手と同じ台詞を口走ってしまう。
 山吹祈里の語った内容はスウィーツ王国だのプリキュアだのいう絵空事の様な事ばかりだったが、現実に目の前で変身されると一概に否定は出来ない。実際はほむらと同じ魔法少女でありながら、夢見がちな少女の他愛ない妄想を呟いている──という可能性も無くはないが、少なくとも見滝原に関わる者以外の参加者のうち、一人は“ただの人間”ではなかった訳だ。
 それを確認できた時点で、ほむらは再び時を止めて彼女の支給品を失敬し、そのまま立ち去った。変身を果たした山吹祈里が抵抗を試みた場合、全く利の無い戦いで貴重な銃弾を消費しかねない。ほむらは無駄な争いは好きではないのだ。
 収穫は、わずかな情報とベレッタが一丁。特に後者は有り難かった。ほむら自身のデイパックに入っていたディバイトランチャーなる大型の火器は、正直扱い方がよく分かっていない。来るべき日の為に様々な銃器の使用法を学んだほむらだが、現在の科学技術で造れる筈の無い奇怪な光学兵器に信頼を置く気にはなれなかった。威力に差はあるかも知れないが、携行武器としては手に馴染んだ拳銃の方が遥かにマシだ。
 しかし、とほむらは思考を戻す。今考えるべきは別の事だ。

(魔法少女でもプリキュアでも、とにかく山吹祈里は特殊な力を持っていた。なら普通の人間を連れて来たところで、生存の可能性は僅かな筈)

 名簿に載った他六十名も何らかの形で常人に在らざる力を宿している可能性が高い。魔法少女ならぬプリキュアも他にいるのだろうか。そういった面子を掻き集めての殺し合いに、果たしてどういう意味があるのか。

(インキュベーター、一体何を企んでいるの……!)

 ほむらはこの“バトルロワイアル”の裏に、キュゥべえ──インキュベーターの関与を確信していた。彼等の意思に反して全く別の勢力が見滝原に介入し、魔法少女を拉致するなどという事はそうそう有り得ない。あの感情無き異星生物が、首謀にしろ共謀にしろ、今回のゲームで糸を引いているのは明らかだ。
 では、その目的は? 魔法少女を絶望に追いやることで魔女化させ、その魂たるグリーフシードを回収するのが連中の手口だ。だとすれば箱庭の中で殺し合わせるという舞台設計も有りなのかも知れないが、それでは確実に魔法少女とは異なる男なども混ざっている点が気にかかる。或いは人間の性別を問わずエネルギーを回収出来る様になったのだろうか?
 歩きながら暫く考え、やがて「結論を出すには早い」と結論付ける。情報が圧倒的に不足していた。闇の中から真実を探る為には、さらに他の参加者から話を聞き出す必要があるだろう。
 そしてその果てに何が見えるとしても、最終的にほむらの成すべきことは唯一つだ。

「まどか…… 絶対に私が守ってみせるわ」

 その為には何を犠牲にしようと構わない。障害となるものは全て排除する。
 瞳に決意を宿し、時を越える少女は歩き続けた。


【1日目/未明 G-8 中学校】

【山吹祈里@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康、キュアパインに変身中
[装備]:リンクルン、キュアスティック、パインフルート
[道具]:支給品一式(食料と水を除く)、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:みんなでゲームを脱出する。人間と殺し合いはしない。
1:桃園ラブ蒼乃美希東せつなとの合流
2:一緒に行動する仲間を集める
[備考]
※参戦時期は36話(ノーザ出現)後から45話(ラビリンス突入)前。
※「魔法少女」や「キュゥべえ」の話を聞きましたが、詳しくは理解していません。
※ほむらの名前を知りませんが、声を聞けば思い出す可能性はあります。


【G-8 中学校周辺】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、魔法少女に変身中
[装備]:ベレッタM92FS(9mmx19・15発)、ディバイトランチャー(シューター・ガンナー)
[道具]:支給品一式(食料と水は二人分)、ランダム支給品1~2(武器ではない)
[思考]
基本:鹿目まどかを守る。
1:鹿目まどかを発見する。
2:他の参加者から情報を集める。
3:鹿目まどかを守る目的以外の争いは避ける。
[備考]
※参戦時期は未定です。後続の書き手にお任せします。
※プリキュアに関しては話半分に聞いていますが、「特別な力を持つ存在」だとは解かりました。





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暁美ほむら Next:嵐の前(?)の…
山吹祈里 Next:波紋呼ぶ赤の森


最終更新:2013年03月14日 22:00