「またあの夢だ。」
気味の悪い男が人々に無理やり注射のようなものを打ち、
打たれた人間は為す術なく糸の切れた傀儡のように倒れていく。
そんな不可解な夢を、ネアは見続けていた。
けれど今日は一際気分が悪かった。
その注射を打たれた人間が、
私だったからだ。
「今度は失敗しないでね。」
聴き慣れた生温い声が、ネアの耳を舐める。
そしてまた、左の足首が締め付けられた。
賭した運命の賽
最善策は君が消えること
今日が狂になる興
「怖い」ミルキーが言ったんだ
まだ嫌な汗の滲む私に、ベッドの傍らにいる小犬が"喋った"。
「これから起こることは夢じゃない。君は人生の反省をしなくてはならない。」
「反省…?」
「あの男は人の過ちを食い物にしてる。君はその標的になったんだよ。」
「それにしても君、以前僕と話したことはないかい?」
そうか、これも嘘か
脳内戦は現実に敵わない
今日も三つ数えよう
割れた足音が消えた
壊したっていいじゃん
騙したっていいじゃん
変容ったって素は人間だ
弱った思考は
強いカード似だ
責めたっていつかは散るの
夢で謳う君、君の名前
怖い音たちは聴こえないと作り笑い
吐き出した心の臓器
影に放り込んだ願い事を、ネア
「反省って具体的に何をすればいいの?」
「君の最も大きな絶望を解消すればいい。」
絶望
ミルキー(ではないが)が云うには、絶望した人間の生命力を奪うことは容易いらしい。
「君は明らかに闇を抱えている。その根本は何だい。」
私が絶望したもの…そんなものわかってる。
私の家族だ。
後悔さえも叱咤でも
「関心がない」暴力には
敵わない、だから笑う
無理な顔で今も
胸に刺さる君、君の言葉
新しいカゾクは私なんか知らないの
間違った性の勝利
闇に葬れない、こんな小さな手では
私が暴力を受けると、いつもお姉ちゃんが助けてくれた。
誰にでも優しくて、誰にでも愛される。
そんなお姉ちゃんが羨ましかった。
「私は絶望なんかしていない。妹を助けたいだけ。」
「いいや、君は妹に絶望しているんだよ。こんなやつ生きていても仕方がないと思っている。」
「違う。」
如何やったって死んじゃったの
「あーあ。」
声が馬鹿になるよ
もう最大の心遣いでも
愛を買えないのなら
今は瞳を閉じて
意味のナイ夜を演じているんだ
ややこしい心の音
明かしてよナイトゥナイ
ねぇまだ恋は出来ない?
「君、本当の名前じゃないね。悪夢が乱れてる。」
今日もし窓の向こうが赤かったら、
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
お姉ちゃんは今日から私になるの。
キスして。
この座席は君、君に渡す
幻で遊ぶ私だって信じてるの
“過去”で終わるなら、“未来”で始めようか
愛してるの 消えるべきは、あなたじゃない。
「せっかく手に入れた名前なのに、本当にいいのかい。」
「お姉ちゃんのフリをしたって、私は私に絶望し続けるもの。」
双子のアネ
ネアは監禁に使用していた階段下の扉を開けた。
「本当にそっくりだ…」
「これが君の"絶望"なんだね。」
「君はこれからどうするんだい。」
「あの日私は死んだのだから、今日もう一度死ぬ。」
幻を追いかけるのは、今日で終わり。
何週間もこうされていたのに、束縛を解いた私を見てお姉ちゃんは微笑んだ。
「ありがとう。」
私はいてもたってもいられなくなり、扉に頭をぶつけながら飛び出した。
ミルキーもその後に続いた。
今度こそたった一人になったネアは、もう悪い夢を見なくなる、
はずだった。
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