その2

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453 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[saga sage] 投稿日:2012/01/07(土) 20:26:47.85 ID:9yY49j/s0



「チャヤァ……キョーコォ……チャヤヤァ……」ポロポロ

何だろう?

誰かの声がする。
不安げに名前を呼ぶ声が、酷く遠くから聞こえて来る。

加えて、誰かが身体に触れているような感触もあった。

何だろう、これは?

野良仔あん「ニャ……ン……」

確かめたいけれど、身体に力が入らない。

一瞬だけつなぎ止められた意識が、再び遠のく。

だが――


「チャァヤ~ チャヤヤァ~チャヤチャヤチャヤァ~♪」


野良仔あん「………ニャ……」

何、だろう?

語りかける声が、不安げなそれから、優しいものに変わった。

野良仔あん「……ニャ……」

最後の力を振り絞るように、閉じかけた目を開く。


野良仔さや「チャヤヤァ~チャヤチャヤチャヤァ~♪」


目の前に、一匹の仔さやさやがいた。

ただ、自分が知る仔さやさやと、目の前の仔さやさやは違った。

さやさやは本来、軽く、薄く、動きやすさを重視した体毛に覆われているが、
目の前の仔さやさやは、まるで白まどのような真っ白な体毛に覆われていた。

いや、見た目だけではない。

野良仔あん「………」

彼女から感じる雰囲気は、他のさやさやと違う、とても落ち着いた、
まるでめがほむかまどまどのような、ゆったりとした雰囲気に満ちていて。

何より――

野良仔さや「チャヤチャヤッ、チャ~ヤチャヤチャヤ♪」

――とても、綺麗な声で唄っていた。


さやさやが歌を唄うのは、決して珍しい事ではない。

元来、さやさやは綺麗な音や、様々な音楽が好きな生き物だ。

その遺伝子に脈々を刻まれて来た妙なる音の記憶を、自らの声を楽器にして表現する。
さやさやが唄う事は、本能と言ってもいいだろう。


だが、そんな本能などとは無関係に、彼女の歌声は美しかったのだ。

そして、そんな表面的な美しさだけでは計れないほど、彼女の唄う“歌”は美しかった。
人間の評論家が聞けば、思わず唸るほどの歌唱力だっただろう。


勿論、野良でしかない仔あんあんに、
そんな高尚な考えや、歌を評論できるほどの経験があるワケもなく、


ただ――

野良仔あん「ニャン……チャヤ、カァ……」

――尽きかけた力を振り絞ってでも、呼びかけたくなるほどの素晴らしさだけが理解できていた。

野良仔さや「チャ、キョ、キョーコ!」

自分の呼びかけに、仔さやさやは驚きと安堵を持って応えた。

野良仔さや「チャ、チャヤヤァ……チャヤヤ、キョーコ?」

心配するように抱き起こされる。
アスファルトで冷え切った身体に、触れあう肌の温もりが染み渡って行く。

その温もりが懐かしくて、嬉しくて、また意識が遠のきかける。

野良仔さや「チャヤヤ、クーベー、チャヤ」

きゅうべえ……?

野良仔あん「クーベー……クゥ、キャイ……」

ごはん……たべたい……

野良仔さや「チャヤンッ」

遠のきかけた意識で答えた仔あんあんに向けて、
仔さやさやは“任せて”と言わんばかりに胸を張った。

そして、倒れた仔あんあんの身体を支え、
フラフラになりながらも公園に向けて歩き出した。


野良仔さや「チャヤヤ、チャヤ」アセアセ フラフラ

野良仔あん「………」

ほむ種が、仲間のために力を尽くすのは当然の本能。
それは野良であっても変わらない。

そして、ほむ種は仲間への感謝も忘れない。

野良仔あん「……ニャン……」

野良仔さや「チャヤヤン」アセアセ フラフラ

その感謝の念が強すぎて、仔あんあんは、その仔さやさやの持つもう一つの違和感を感じ取れないでいた。


公園にたどり着いた仔あんあんは、きゅうべえと草を食べる事で、ようやく落ち着きを取り戻した。
数日間の空腹と疲労はすぐには回復しなかったが、それでも命をつなぎ止める事は出来た。

数時間が経ち、日も暮れて夜になって、何とか歩けるだけの体力を取り戻した仔あんあんは、
白い仔さやさやに連れられて公園の奥へと進んだ。


少し離れた位置に見える街灯に照らされたソコは、比較的大きな植え込みの奥で、言ってみれば小さな楽園だった。

ホムー ティヒヒッ ユミャァン ティロッ


野良仔あん「ニャァ…ッ!?」

野良仔さや「チャヤヤァ」ニッコリ

驚く仔あんあんの様子に、仔さやさやは少しだけ自慢げに微笑む。

多くの野良ほむ種が闊歩し、仲間達と餌や水を分け合って、まるで宴会場のような雰囲気を醸し出している。

野良、特に都市型の野良にとって、潤沢かつ豊富な餌場の確保は、巨大コミュニティーを築くキッカケとなる。
小さな身体に多すぎる食糧は、仲間達と分かち合うモノだと知っているからだ。

不幸にも、仔あんあんはこう言ったコミュニティーに生まれず、
幸運にも、仔さやさやはこう言ったコミュニティーに生まれた。


野良仔あん「ニャン……ニャァ……」ポロポロ

こんな場所があったなんて、知らなかった。

餌を採りに出た母は、いつも住処近くの、この公園とは反対方向にある、
小さな小さな植え込みの中を必死に探していた。

ほんの少し、あと少し、反対方向に足を伸ばしていたら、
この“楽園”にたどり着けていたかもしれない。

それを思うと、哀しくて、悔しくて、堪えきれなくて、涙が溢れた。

野良仔さや「チャヤ……キョーコォ……」オロオロ フキフキ

突然泣き出した新たな仲間に、仔さやさやは慌てたように体毛を使ってその涙を拭う。

野良仔あん「ニャ……ニャンコォォォ……ッ!」ボロボロ

そして、そんな仔さやさやの優しさが嬉しくて、溢れる涙の量は倍になった。

ホミュ? ミャロ? ティリョッ!

すると、騒ぎを聞きつけた、群の仔供達が駆け寄って来た。

まだ生まれたばかりの、小さな小さな、赤ん坊のような仔達だった。

おねえちゃん、泣いてるの?
おねえちゃん、どこから来たの?
おねえちゃん、一緒に遊びましょ。

語りかけて来る幼仔達の姿が、死に別れた妹のソレに重なって――

野良仔あん「……ニャ……ンッ! ロ、ロッチョ・ファンタズミャッ!」

――仔あんあんは涙を拭って、それでもまだ溢れて来る涙を振り払って、力強く答えた。

野良ほむ種に限らず、ほむ種の群にとって、年長者の役割はシンプルだ。

“己よりも、弱き者を守れ”

群に連れられて来た以上、仔あんあんは、目の前の幼仔達を守る――言い換えれば子守をする――立場だ。

そんな自分が、いつまでもメソメソしてはいられない。

強がりでも、見栄でもいい。
自分は今から、目の前の仔供達の“お姉ちゃん”になったのだ。

野良仔さや「チャヤァ……キョーコォ、ホンチョ、チャヤヤァ」

そんな仲間の様子に、仔さやさやは心底、安心したように胸を撫で下ろした。


その時だった。

?????「ホムゥ、サヤカァ!」

?????「ザヤヤァ!」

宴会じみた、おそらくは夕餉の集まりの奥から、不意に声が聞こえた。

野良仔さや「チャヤ? チャヤチャヤ!」

仔さやさやは僅かな驚きと共に、嬉しそうな声を上げた。

群の輪の奥から、二匹のほむ種が駆け出して来る。


野良親めが「サヤカァ、ホムゥゥ」ダキッ スリスリ

心配そうに仔さやさやを抱きしめるめがほむと………

野良灰親さや「ザヤァ、ホントバカッ!」プンスカ

……二匹の傍らに立って怒鳴り声を上げるさやさや。


野良仔あん「チャヤカ……ニャン……」

ああ、そうか……そうなんだ。
この大人達は、この仔のお母さん達だ。

仔あんあんは、直感的にそう悟った。

野良仔さや「チャヤァ……チャヤヤン」スリスリ

母めがほむの頬ずりに、嬉しそうに頬ずりを返す姿が、それを確信させる。

野良親さや「サヤ……サヤサヤァ……」ナデナデッ

最初こそ、心配から怒鳴り声を上げていた親さやさやも、愛しい我が仔との再会の喜びで、彼女の頭を撫でる。
ストレスで始まっていた黒化も収まり、穏やかな表情を浮かべている。


野良仔あん「ニャン……チャビチィ……」

その光景に、この数日の間に失われたばかりの、大好きな家族の事を思い出してしまう仔あんあん。

だが――

野良仔さや「チャヤ、チャヤヤ、キョーコ、チャヤ!」

仔さやさやは、離れた場所で寂しそうに項垂れていた仔あんあんの元に駆け寄り、
両親の前に仔あんあんを連れ出す。

野良仔あん「ニャ、チャヤカ?」

突然、両親の前に連れ出された仔あんあんは、驚きながらも仔さやさやに真意を問うた。

しかし、仔さやさやはその問いかけの答えを、両親に向けて放った。

野良仔さや「チャヤァ、キョーコ、チャヤヤン」


あんあんは、わたしの、あたらしいかぞくだよ







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