その8
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homuhomu_tabetai
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野良さや「サヤンッ」ペコリ
一方、コンサートはそのまま滞りなく進み、最後の歌を唄い終えたさやさやが深々と頭を垂れていた。
それを合図に始まろうとした拍手と喝采は――
ミギャァァァァァァァァァァ!!
悲鳴じみた野良猫の叫びでかき消された。
ホ、ホビャ!? マギャァァ!? ティリョォ!?
突如として聞こえた野良猫の叫びに、尋常ならざる気配を察して、群はパニックに陥る。
野良さや「サヤ……」
そして、さやさやは義姉妹の置かれた状況を知らぬまま、言いしれぬ胸騒ぎを感じた。
野良りぼ「ホムホ! ホムホムホ、ホムミャ!」
ロッソ・ファンタズマッ! ティロ・フィナーレッ! スクワルタトーレッ!
いち早く冷静さを取り戻したリーダーであるりぼほむの号令で、
群でも屈強の戦士達が集まり、野良猫の声がした方角へと駆け出した。
野良さや「サヤ……キョ、キョーコ!?」
その戦士達の中に、義姉妹がいない事に気付いたさやさやも、慌ててその後を追った。
足を縺れさせ、ひとひとの作ってくれた飾りを取り落としながらも、必死で駆ける。
胸騒ぎが、イメージとなってさやさやの胸を締め付けた。
植え込みの枝を押し退けて、先に現場にたどり着いていた仲間達に追い付く。
仲間達の向こうに、一目散に逃げて行く野良猫の姿があった。
だが、そんなモノは、さやさやの目には入っていなかった。
野良さや「キョ……ゥコ……?」
目が、見開かれる。
そこには、無惨に変わり果てた、あんあんの姿があった。
片腕がもげ、全身、血塗れとなったあんあんが、
呆然と立ち尽くす仲間達の前に倒れていた。
野良さや「キョ、キョォォコォォォ!!??」
半狂乱になって、あんあんに駆け寄るさやさや。
仲間達が戦った様子はない。
そう、あんあんは、自分だけの力で野良猫を追い払ったのだ。
片腕と、命を、引き換えに。
野良灰さや「サァヤァァァァァァ!!」ボロボロ
無惨なあんあんを抱き上げ、返り血を浴びながらさやさやは慟哭する。
失われ行く愛しい家族の命の重みに引かれるように、さやさやの黒化が始まる。
野良りぼ「ホ、ホミャ……キョーコ…!」
りぼほむは、群のリーダーとして冒してはならぬ失態――仲間の孤独な死に、悔しそうに身体を震わせる。
野良黒さや「ザァァヤァァァ、ザァァヤァァァァ、ギョォゴォォォ、ザァヤァァ!」ボロボロ
他の仲間達も、慟哭するさやさやと、勇敢に散った仲間を前に、涙を禁じ得なかった。
だが――
「サ……ヤ、カ……」
微かに聞こえた声に、全員の視線が声のした方向に――瀕死のあんあんに向けられた。
野良ゆま「ユマ、キョーコ!」
ゆまゆまが駆け寄り、あんあんを覗き込む。
野良あん「ア……ン……」
野良ゆま「ユママァ!」
生きていた、瀕死になりながらも、あんあんはまだ、僅かに命を繋いでいた。
野良黒さや「ギョーゴ、ザヤァ!?」ボロボロ
滂沱の涙を零しながら、あんあんの名を呼ぶさやさや。
野良ゆま「ユマァ、オネーチャン、ユマユマ!」
ゆまゆまは、さやさやからあんあんを奪うように抱き寄せると、必死にその傷口を舐める。
ゆまゆまの特殊な体液には、ほむ種や人間の傷の治癒を促進する効果がある。
だが、これ程の重傷を治せる可能性は、ほぼゼロに等しい。
野良りぼ「ホムゥ! ホミャァ、ユマ、ユマ、ホムムムゥ!」
もっとだ、もっとたくさんのゆまゆまを連れて来るんだ!
りぼほむの指示で、他の仲間達が他のゆまゆまを呼びに植え込みへと駆け戻って行く。
野良ゆま「ユマッ、キョーコ、ユマユマァ!」ペロペロ
必死で治療を続けるゆまゆま、しばらくして他のゆまゆま達も駆け付け、総掛かりの治療が始まる。
だが、一度、繋がった命は、それが蝋燭の火が消える一瞬のあがきだったとでも言いたげに、
再び、急速に失われようとしていた。
野良あん「………」
野良黒さや「ザヤァ、ギョーゴォォ……!」ボロボロ
目の前で失われ行く、最愛の命に、さやさやは枯れ果てる勢いで涙を零し続ける。
こんな時に、自分は何も出来ないのか?
大好きな家族……大好きなあんあんが命尽きようとしているのに、自分は何て無力なんだろう。
さやさやは、自分が情けなくて、仕方なかった。
あんあんと過ごした日々が、走馬燈のように駆けめぐる。
『アンコ?』
記憶の中のあんあんが、ぶっきらぼうな声をかけた。
“いいんじゃないか?”
野良黒さや「ザヤ……」
はたと気付いて、さやさやは目を見開く。
そうだった、いつも……いつも……あんあんは自分の歌を聞いてくれていた。
出逢った時から、いつも、いつも……いつも!
歌を……………唄おう……………
野良黒さや「ザヤヤ~♪」ポロポロ
どんな歌が好き?――――何でも、君の好きな歌を、唄うよ。
野良黒さや「ザヤザヤヤ、ザヤザヤ♪」ポロポロ
君に贈る、歓びの歌。――――だって、君といると、私の心は躍るから。
野良黒さや「ザヤザヤ、ザッザザヤザヤ♪」ポロポロ
君に唄う、友情の歌。――――だって、君は、いつも一緒にいてくれたから。
野良黒さや「ザヤヤンザヤヤン、ザヤザヤザ♪」
君を讃える、勇気の歌。――――だって、君は、いつも私を守ってくれたから。
そして………
野良黒さや「ギョーゴォ……ザヤヤザヤヤ♪」ボロボロ
………君に唄う、恋の歌。――――だって私は……君の事を、好きだから!
さあ、歌を、唄おう………。
「アン、コ………サヤカ……」