その7
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homuhomu_tabetai
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数日後、コンサート当日――
前日から設営の始まったコンサート会場。
その設営は、群のリーダーであるりぼほむと、技術アドバイザーであるカミジョーの指揮で行われていた。
大きなクッキーの空き缶の舞台。
公園の街灯を反射させる、割れた手鏡のレフ板照明。
簡素な……言ってみればゴミの寄せ集めに過ぎなかったが、
野良のほむ種達にとっては、立派で煌びやかな、夢のステージだった。
そして、ステージ裏手の控え室となっている空き瓶で待つさやさやにも、専用のドレスが与えられた。
普段の真っ白な体毛のドレスだけでなく、ひとひとが葉や花びらを加工して作った飾りで着飾った彼女は……落ち込んでいた。
野良さや「サヤ……」シュン
あの日以来、余所余所しくなってしまったあんあんの態度に、さやさやは気落ちしていたのだ。
野良カミ「サヤカ……カミカミ……」
対して、カミジョーも申し訳ない気持ちで一杯だった。
さやさやの技術向上のためとは言え、自分はあんあんとさやさやに酷い事をしてしまった、と。
勿論、真相は話した。
だが、その真相を聞いたさやさやは、自分の態度があんあんを追い込む事になってしまったと思い込んでしまったのだ。
結果的に、特訓には集中し、彼女の歌の技術は以前よりも数段、いや、もっと向上していたが、
こんな精神状態では、素晴らしい歌を披露する事など出来ない。
野良カミ「サヤカ……カミカミィ、カミカミ」
カミジョーは、少しでも彼女を元気づけようと、
“あんあんも、君の歌が大好きなんだ”と口にした。
野良さや「キョーコ、サヤァ?」
野良カミ「カミカミ!」コクコクッ
訝しげに聞き返すさやさやに、カミジョーは何度も頷いて応える。
だから、今日は彼女のためにも、素晴らしい歌を唄おう。
きっと彼女も、君の歌を楽しみにしているのだから。
それを聞いたさやさやは、ようやく元気を取り戻した。
野良さや「サヤヤ、マイアガチャッテマスネ///」
あんあんのため。
その言葉で、さやさやは嬉しそうに微笑んだ。
野良ひと「ヒトヒト、サヤカサン、キマシタワー」
ひとひとに呼ばれ、さやさやは控え室から外に出た。
小石の階段を使って、さやさやは舞台へと上がる。
ホムー! マドー! パチパチパチパチッ
瞬間、待ってましたと言わんばかりの拍手と喝采が、さやさやに浴びせられた。
野良さや「サヤァ…!?」
群の仲間達の視線を集め、さやさやは思わず緊張する。
レフ板照明の眩しさで、仲間達の顔がよく見えなかったが、
全員が集まっていると言うのは、何となく分かった。
そして、理解する。
ああ、そうだ。
自分は今、この仲間達のために唄うんだ。
仲間達に支えてもらい、大好きな家族に愛されて、今まで、自分は生きて来たんだ。
だから今日は、あんあんのためだけじゃない、群の仲間達のために全力で唄おう。
そして、その全力の歌は、この会場のどこかにいるあんあんにも、きっと届くから。
野良さや「サヤァ……サヤァ……」スゥ……ハァ……
さやさやは呼吸を整え、静かに目を閉じる。
意識を、神経を、自分の内的世界へと誘う。
そして――
野良さや「サヤヤァ、サヤヤァ、サヤァヤァァ♪」
その内的世界を、魂を解き放つように、歌を口ずさむ。
群のみんなに、天国のお母さん達に、あんあんに、この歌が、届きますように、と。
そして、あんあんは――
サヤヤァ、サヤヤァ、サヤァヤァァ♪
野良あん「アンコ……サヤカ……」
会場ではなく、植え込みの外れで一人静かに、
遠くから聞こえて来るさやさやの歌に、耳を澄ませていた。
植え込み周辺の見回り。
他の動物が襲って来ないか、彷徨っている仲間達がいないかを探す仕事。
毎晩、ローテーションで行われている任務を、今日は自分から買って出た。
群を守るためには必要な事だし、仲間達にはさやさやの歌を間近で聞いて欲しかった。
いや――
野良あん「アン……コッ」
――自分が、勝手に気まずい思いを抱えて、勝手にさやさやと距離を取ろうとしているだけだ。
そんな自分の気持ちを理解しているからこそ、あんあんは自嘲気味に呟いた。
サヤヤァン、サヤサヤヤァン、サァヤァ、サヤサヤァ、サヤァヤァァ♪
ネガティブな自分の気持ちに反して、遠くから聞こえて来るさやさやの歌は、
とても暖かくて、とても澄んでいた。
野良あん「サヤカ……」
このコンサートが終わったら、どうやってさやさやに謝ろう。
今までの事、今回の事。
そして、これからの事。
どうしていいか、考えが纏まらず、あんあんはただただ憂鬱な気分を抱えて見回りを続けた。
そんな時だった――
ガサ……ガサガサッ
隣の、僅か3メートルほど離れた植え込みで、物音がした。
野良あん「アン!?」
あんあんは即座に臨戦態勢を取る。
隣の植え込みには、他の動物も、他の野良ほむ種の群もいない。
謂わば、空き屋のハズだ。
物音がするハズがない。
しかも、あの物音は木立の擦れる音……どう考えても、自分達ほむ種が出せる類の音の大きさではない。
ガサガサ……ニャァァ……
野良あん「アン、コ……!?」
植え込みから聞こえて来た鳴き声に、あんあんは戦慄した。
そして、目にする。
薄汚れた毛並み、血走った目、全身に小さな傷を作った、凶暴な野良猫の姿を。
人間だけでなく、他の動物の言葉も理解できるほむ種には、他の動物との諍いを話し合いで鎮めると言う術がある。
だが、目の前の相手は違う。
飢えて、理性を失っている。
話し合いは、通じない。
やせ細った肉体は、全力を出す事は出来ないだろう事は分かる。
だが、それでも相手の体長は30センチ前後。
高さも、20センチ近くはあるだろう。
人間で言うなら、全高3メートル、全長5メートルにはなろうと言う巨大肉食獣だ。
如何に群一番の膂力を誇るあんあんでも、一対一で勝てる相手ではない。
しかも、あの剥き出しの鋭い爪は、一撃でもあんあんの身体を貫き、引き裂くだろう。
野良あん「アン、コ……」
あんあんは、即座に群に応援を呼ぼうと考えた。
りぼほむやまどまどの毒矢ならば、その威嚇だけで追い払う事も出来るハズだ。
野良あん「ア、ン……」スゥ……
大声を出そうと、息を吸い込むあんあん。
だが――
サヤヤァ、サヤヤァ、サヤァヤァァ♪
そう、今はコンサートの途中だ。
折角、カミジョーとひとひとが群に融け込もうと努力し、さやさやも歌の特訓を頑張り、
群の仲間達が楽しみにしていたコンサートの日なのだ。
今、ここで自分が仲間達を呼んだら、それが台無しになってしまう。
サヤヤン、サヤヤン、サヤサヤサッ♪
ああ、そうだ……
野良あん「……アン……」
こんな事で、コンサートの邪魔はさせない……
野良あん「アンコ……」チャキ…ンッ
さやさやの歌が……
サヤヤヤヤサヤヤサヤァァッ♪
仲間を讃える勇気の歌があれば……
野良あん「……ロッソッ…」
自分は……
野良あん「ファンタズマッ!!」
……負けない!
必ず、この野良猫を追い払って、コンサートを成功させてみせる!
ミギャァァァッ!
野良猫の威嚇の声と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。