その2
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homuhomu_tabetai
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見る限り永遠かと思える長い道路。ミタキハラのアウトバーンを、石油をたっぷりと積んだトラックで走り抜けたい衝動に駆られる。
何故こんな辺鄙な所に図書館があるのかは不明だったが、さやかによると周りの土地殆ど全てが司書の私有地らしい。
司書にそんな金や権限があるはずがない。ほむらは、この世界がイレギュラーどころか異世界ではないかと疑い始めていた。
ほむら「…それで、ほ虐?とやらの歴史というのはどんなものなの?」
先程は感情的になって否定してしまったが、そもそもこの世界自体まともな倫理がなさそうなのだ。
自分の知っている道徳が、世間一般でも受け入れられているなどとは思わないほうが良い。
さやか「簡単に言うと、縄文時代頃からずっと続けられてきたことが、文明開化によって隠されちゃったってことかな」
まどか「ほ虐はストレス解消にもいいのに…皆、字面だけで拒否反応を示すんだ。ミタキハラが成長してきたのもほ虐のおかげって言う人もいるくらい、良い効果ばかりなんだよ」
ほむら「…動物虐待が?理解出来ないわ」
ああ思ったけれど…やはり、自分の良心は無視できない。無垢な動物が人間によって無残に虐待されている。その事実だけでも苦しい。
まどか「ほんとに!ほむらちゃん、きっと猫やハムスターみたいな可愛い動物を想像してると思うんだけど…なんていうか、そんなものとはまるで違うっていうか」
ほむら「私だってゴキブリや蜘蛛は苦手よ。でも虐待しようとまでは思わない。自分の周りにいなければそれでいい。どうして動物虐待をするの?」
さやか「…見れば分かるよ。とにかく、いじめたくなるんだ」
まどか「最近は中々研究できないみたいだけど、人間のストレスを誘発する成分をほむほむが出してるなんて言ってる人もいるし」
そういうのはトンデモ説と言うのだ。馬鹿馬鹿しい。まどかが、そのような如何わしい学者の話を信じ込んでいると思うと心がどんよりする。
ほむら「今ので分かったわ。あなた達は、動物虐待を無理矢理正当化しようとしているだけよ。
まあ、ここまで来たのだからその動物くらいは見ていくけれど、
もう金輪際ほ虐の話はしないで頂戴。あまり愉快なものではないわ」
まどか「…ごめん。ちょっと、言い過ぎたかな」
そこから十分程歩く。仲のいい友達同士と、時期はずれの転校生というトリオにしては珍しいほどの沈黙が流れた。
最初のときを思い出す。あの頃の私ならば、空気の読めない発言を繰り返して今と同じような状況になっていたかもしれない。
それでも…この二人なら話しかけてきてくれたはずだ。
今となりにいる二人は、私の知っているまどかとさやかではない。守りたい人はとうの昔に消え去っていた。
一つしかない行き先に向かって、一台のトラックが三人を通り越していった。
まどか「着いたよ。ここがミタキハラ大図書館」
さやか「広いでしょ?司書の本も数千冊入ってるんだって」
ほむら「何よ、それ…」
軽くため息をついて、二人と一緒に歩く。
まどか「図書館の中には備品のほむほむもいるけど、虐待は禁じられているからね。公共の施設だし」
さやか「図書館の中なら、ね」
意味ありげにつぶやくさやか。あまり言葉の裏を考えたくなくて、顔を背ける。
まどか「ほむほむはね、縄文時代からずっと人間と共にいるんだ。だから…ほら、人間をまるで恐れない」
ほむほむ「ホムー!ホムー!」コンニチハ
さやか「どう思う?転校生」
ほむら「…別に何も。可愛らしい動物としか思えないけれど」
さやか「確かに。初めてこれを見た人は皆そう言うんだよね」
法律ではペットの事を器物として認識しているらしいが、さやかの『これ』という言葉の響きはそれよりももっと冷たかった。
この子は命の尊厳を何だと思っているのだろうか。私が言えた台詞ではないが、さすがに良心が痛む。
ほむら「この子を虐待することが、この街の歴史なのね。なんて野蛮な街なのかしら。
私、ここに転校してきた事を残念に思うわ」
英語のテストに出そうな単純な日本語で喋る。
さやか「そこまで言われちゃうか…まあ、仕方ないけどさ」
ほむほむ「ホム?ホムホム?」ドウカナサレマシタカ
まどか「別になんでもないよ。心配してくれてありがとう。
もうあっちに行っても大丈夫だよ」
ほむほむ「ホムホム!」ワカリマシタ
一礼した後、受付まで小走りで帰ってゆく。この場面だけ切り抜いたなら、さぞかし和やかに見えただろう。
私は悲しい。あの子は、自分の仲間が人間に無残に殺されていると知ってどう思うのだろうか。
さやか「で、ほむほむと人間は明治維新まで良い関係だった訳だけどさ…」
ほむら「一方的な関係を良いと言う人間には初めて会ったわ」
まどか「あ、あんまり怖い顔で睨まないで…」
ほむら「あら、ほ虐とは関わりたくないと言う人間にほ虐の歴史を話すのも立派なことだと思うわ、私は」
もう目の前にいる女学生は私の知っているまどかじゃない。この子は、動物を虐めて楽しむ情緒障害の子だ。
そう心に思ってからは、世界の為ならまどかなど切り捨てる人格が生まれ、自分を動かしているように思えた。
さやか「お願い…だから」
まどか「誤解しないで…まだ、先があるの」
ほむら「先…?」
鼻をふんと鳴らす。びくりと桃色の髪の少女が怯える。もう、何も気にかけない。
さやか「最後まで聞いてくれれば、もうあたしたち、転校…暁美さんには話しかけない。だから、聞いてほしいんだ」
まどか「ごめんね、ほむらちゃん…暁美さん。ごめんね」
平謝りする二人を苛つきながら見る。なんなんだ、この、私の友人の皮を被った外道は。
さやかの事はあまり好きではなかったが、こいつよりは数倍いい子であったと思う。もう会えない、彼女には。
ほむら「いいわ。最後まで聞く。だから、早く切り上げて」
さやか「う、うん。明治になってから、ほら、日本は鹿鳴館を建てるなんかして、外国に追いつこうとしたじゃん」
ほむら「ええ」
まどか「それで、関東にあるミタキハラで、ほ虐なんて文化があることをある外人さんが偶然知っちゃったんだ」
健気にも、恐怖を隠して話す。だからどうした、と共感を捨てる。
さやか「それからミタキハラではほ虐禁止令が回ったんだ。当然だよね、ある意味さ」
まどか「それでも、隠れキリシタンみたいにしてほ虐は細々と続いていたの。
元々ほ虐禁止令だって些細なことから始まったし、ほ虐を続けるのは簡単だったんだって」
さやか「でも、表には出なかった。それで、戦争が終わって、今に至るんだ」
ほむら「…随分とあっさりとした歴史ね」
さやか「重要な事はなにも言っていないからね」
まだ続くのか。もう帰りたいと内に叫ぶ。
まどか「実はね、ほむほむと似たような種に…まどまど、さやさや、あんあん、まみまみなんてのがいるんだ」
ほむら「そう」
さやか「一応他にもまだいるんだけど、今大切なのはまどまどと、『ほ食種』と呼ばれるさやさや、あんあん、まみまみ。
まどまどはほむほむと番になることができるんだ。あとの三種はほむほむやまどまどを食べるんだよ」
よくもまあ番などという意味を知っているものだ。こういう狭い世界では、往々にして専門的な知識が常識として使われる。
まどか「一番問題なのはまどまど。ただ、暁美さんには見せられないけど」
ほむら「何かあるの?ほ虐好き以外には漏らしちゃいけない『機密』?」
さやか「そんなんじゃないよ、ミタキハラに自然にいる種だし。ただ、今ここにはいないってだけ」
まどか「いることはいるけど…多分、見たくないと思う」
訳が分からない。人をけむにまく説明はするなと教わらなかったのか。
ほむら「それは、ほ虐という意味で?」
まどか「…そう。この図書館の周りの私有林の地下に、大規模なほ虐場があるの」
ほむら「……」
何を言っているんだ、この子は。何を考えているんだ、この街の人間は。
カルトの末端、心の底まで冷たい水が流れている人間と触れているような錯覚を覚える。まさか21世紀の都会でこのような事象が起こるとは。信じられなかった。
さやか「えっと、だから、その…」
ほむら「いいわ」
まどか「えっ?」
いいからそこに連れて行け。今すぐ、ミニミと手榴弾をぶち込んでやりたい。
もう、我慢の限界だった。人としての道を踏み外したヒトには鉛玉が最適なプレゼントだろう。
気持ちが悪い。嘔吐を抑えて、冷静に受け答えをする。
さやか「そ、それは…」
ほむら「この街の状況を確認したら、両親に言って、この街から出ていく。
もう二度と関わりたくないから」
まどか「…!そ、そんな!
さすがにそこまで…」
ほむら「少し黙って。いいからそこに連れて行って」
さやか「…はい」
完全に怯えている。しかし、非道にはぴったりの感情だろう。
私は躊躇しない。たとえ、この二人でも。
さやか「…こっち。ここから外に出ないでいけるから」
まどか「……」
広い図書館を縦断するのかと思ったが、入り口から少し歩いたところに地下への入り口があった。
『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたそれを乗り越え、深い地中へ誘われる。
2,3階分ほど降りたかと思うと、自動ドアがあった。その後、また先の見えない真っ直ぐな闇に取り込まれていく。
また5分ほど歩いたかというところで、十人ほどが乗れる小さなエレベーターがあった。何故入り口は階段で出口はエレベーターなのかは分からなかった。
まどか「本当に…いいの?暁美さん」
さやか「ごめんね…ごめんなさい。気持ち悪い思いさせちゃうと思うけど…」
ほむら「いいから、さっさと上げて」
まどか「う、うん…」