とおせんぼ

最終更新:

homuhomu_tabetai

- view
管理者のみ編集可

作者:tLxrlK/c0

865 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2012/03/22(木) 23:04:06.00 ID:tLxrlK/c0



「ホミュホミュ...」トテトテ...

絨毯の上に寝転がった私の前を、一匹の仔ほむが歩いている。
どうやら、部屋の中を散歩中のようだ。

「ホミュホミュ...」トテトテ... ニコニコ

どうやら彼女なりに楽しんでいるようで、眩しい笑顔すら浮かべているが、
生まれたばかりの幼子でもなかろうに、ただの散歩の何が楽しいのか私には分かりかねる。
きっとすぐに飽きて、私と同じく退屈を持てあますようになるに違いない。

(そうだ……)

その時、私の脳裏に小さな閃きが起きた。
閃き――いや、正しくは悪戯心に類するべきソレは、まあ、退屈さを持てあまして寝転がっている私にとっては至上の名案だった。

「さあ、通せんぼだ」

私はその名案を早速、実行に移し、目の前を通り過ぎようとする仔ほむの行く手を腕全体で遮った。

「ホミュ!?」ビックリ

突然現れたベルリンの壁に、仔ほむは驚きを隠せないようだ。

「さあ、ここを通りたければ私の手を押し退けて行きなさい」

私は芝居がかった口調で言うと、出来る限りのいやらしい笑みを顔に貼り付けた。

「ホミュ...ホミュミュゥーッ!」

最初は私の態度に寂しそうな表情を浮かべた仔ほむだったが、私の意図する所を察してくれたのか、
まるで新幹線から子犬を守らんとする正義超人よろしく、私の腕を押し始めた。

「ふふっ、君は力持ちだな」

「ホミュミュンッ」エッヘン

得意げな顔を浮かべる仔ほむを相手に、私はわざとらしく腕を後退させながら笑みを浮かべる。

私自身の名誉のために弁明するが、これは決して意地悪ではない。

彼女の散歩に一時のサプライズを、私の退屈に一時の潤いを……。
そんな他愛のない理由から始まる、ただのスキンシップだ。

「はい、私の負けだ。さぁ、勝者よ通りたまえ」

「ホミュホミュ」ペコリ

芝居がかった賛辞を向ける敗者に一礼し、その場から歩き出す仔ほむ。

その姿を眺めながら、私はまた笑みを浮かべる。

時間にして僅かに十秒程度の短いやり取りだが、退屈を紛らわすには良い方法だ。
そんな事を考えた矢先――

「キリュキリュッ」トテテテ...ッ

「おや?」

仔ほむとの一件を見ていたのか、新たな来客が私の目の前に駆け込んで来た。
説明するまでもないが、仔きりだ。

「君も、私に通せんぼされたいのかい?」

「キリュリュ!」コクコクッ

「通せんぼされるのを望むとは……おかしな仔だな、君は」

苦笑いを漏らしながらも、私は彼女を通せんぼした。

「キリュキリュゥ」ワクワク

「頼むから、爪は立ててくれるなよ?」

胸を高鳴らせているのが分かるほど嬉しそうに、私の腕へと駆け寄る仔きりの手元を見ながら、私は乾いた笑みを浮かべた。

~おしまい~




感想

すべてのコメントを見る
記事メニュー
ウィキ募集バナー