ほむライフ

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作者:JVjgY/KBo

867 名前:ほむライフ[sage] 投稿日:2012/03/23(金) 00:55:34.35 ID:JVjgY/KBo



「疲れてんのかな・・・」
思わず出たでかい独り言に慌てて周囲を見回す。幸い誰もいなかった。

会社から家まではちょうど30分。
夕日を背に、同じ風景の帰り道を歩く。電信柱。ちょうど顔の位置にくるブロック塀の菱形の穴。あの三叉路を左に曲がれば住み慣れたマンションと煩いおばちゃ―――――――いやいや、気さくで優しい大家さんですよ。今日も玄関前で花の水やりしてるんだろうな。
手提げ鞄を肩に掛けながら溜め息と共に三叉路を曲がる。
「ドンッ!ホムッ!?」
鞄越しに柔らかい感触があった。肩に掛ける時に何かにぶつかったのだろう。当たった位置からして相手はかなりのチビだ。
やばいな、子供に怪我でもさせようもんなら面倒なことになるぞ。恐る恐る視線を落とすとそこには子ど
「ホムン?ホムー・・・」
子供じゃない。黒い長髪、白と紫の綺麗な衣裳、掌サイズ・・・そんな少女のような生き物がでんぐり返し直後のようなポーズで尻餅をつき、不思議そうにこちらを見上げていた。
「ほむほむ」か。ニュースとかではよく見るが。
「ホムゥン♪ホムホムゥトテテテスリスリ」
起き上がって駆け寄ると、綺麗な黒髪を振り回して無邪気に頬擦りしてくる。随分人間に慣れているのはこいつが元飼いほむだったからだろう。そうでなければ臆病といわれているほむほむが寄ってくるはずは無い。いつまでも革靴に頬擦りさせるのは可哀想だったので右の掌にご招待する。
「ホムー?クビカシゲ」
・・・見とれてしまった。ニュースで見るよりも可愛いな。
美しい黒髪は言わずもがな、不思議な輝きを放つ瞳も印象的である。しばらく、髪を撫でたり両手をつまんでブランコしてやったりと、ひとときの触れ合いを楽しませてもらった。礼代わりに、休憩時間に食べ損ねたチョコバーを差し出す。
「ホムッ!ホムッホムゥ!バリバリバリ」
がっつくねぇ。そんなに美味いか。
・・・じゃあな、ありがとよ。ほむほむをそっとアスファルトへと誘い、別れを告げる。
「ホムッ!ホムー・・・!ホムー・・・!ポロポロ」
背中越しに聴いた声は少し寂しそうに感じたが、まさかそんなはずは無い。所詮は動物、しかも初対面だ。有り得ない。
・・・さて、そんなことより明日は休み。部屋の片付けでもするかな。そうすれば少しは気分も晴れるだろう。

けたたましいノックの音で目が覚める。

まだ朝の8時だぞ?
休日は11時まで寝る約束だったはずだ・・・。
自分ルールを暗唱しつつドアを開けると、チェーンロック越しに大家さんの顔が見えたので安心してドアを開放した。
「あんたさぁ、ほむほむ好き?」
ズカズカと玄関に踏み込んで言ったセリフがそれかよ。その掌にはほむほむが一匹。口の回りにはチョコがついていた。
「ホムー!ピョーン」
考える隙も与えずほむほむが飛び付いてくる。間違いない、昨日のほむほむだ。
「じゃあよろしく!」と言い残してそそくさと大家は退室した。後で聞いた話だが、このほむほむがマンションの玄関先で一晩中体育座りしていたそうで、不憫に思った大家が飼い主探しをしていたそうだ。
世話好きってのは何でこうも守備範囲が広いのかねぇ・・・。
「ホムッ!ホムッ!」
肩に座ってご機嫌さんだよオイ。しゃあねぇ、部屋の片付けするから落ちるんじゃねぇぞ。
「ホム~」
足をパタパタさせてさぁ・・・ほんとに大丈夫か?

1ヶ月ほったらかしていた洗濯物をたたみ終え、気付いた。
昨日までとはどうも気分が違う気がする。気ばっかりだが。
「ホムッ、ホムッ、ホムッパタパタモフッ」
全身を使って一生懸命タオルをたたみ、勢い余って頭から突っ込む。たたんでは洗濯物に頭を突っ込み、たたんでは洗濯物に頭を突っ込み・・・。ヒョイッとほむほむを抱き上げる。
「ホムゥ!ホムゥ!ピョンピョン」
まだやるってか。気持ちはありがたいが、さすがに疲れただろう。飯にしよう。
とはいっても男の一人暮らしなもんで、期待はするなよ?
「ホムッ!?ホームゥズズズズズ」
有り合わせの具材をまぜこぜにした焼きそばを出してやると豪快にすすり出した。やっぱ腹減ってたのか。同じく焼きそばをすすりながら、ほむほむの食事風景を眺める。
「ホフゥ・・・ケプッ」
あぁ、何だこりゃ。腹がパンパンに膨れてる。そりゃあんだけの焼きそばを食えばそうなるわな。
「ホヒュー・・・ホヒュヒュー・・・」
・・・俺も昼寝するかな。


会社から家まではちょうど30分。
夕日を背に、同じ風景の帰り道を歩く。電信柱。ちょうど顔の位置にくる、ブロック塀の菱形の穴。あの三叉路を左に曲がれば住み慣れたマンションと、煩いおばちゃ―――――――いやいや、気さくで優しい大家さんですよ。今日も玄関前でほむほむと一緒に花の水やりしてるんだろうな。

あれから、1週間が過ぎていた。最近は憂鬱な気分になることも無くなり、自分でも拍子抜けしてしまうぐらい体調が良い。手提げ鞄の取っ手を腕に通しながら、少し早足で三叉路を曲がる。
「ホムー!ホムムー!トテテテテ」
「あーらお帰りー!ほむほむちゃんがお待ちかねだよー!」
飛び付いてきたほむほむをナイスキャッチして肩に乗せる。前までは耳障りだった大家のお喋りも、今は全然気にならない。それが、左肩の温もりのおかげかどうかはわからないが。
「ホムホムホムゥ♪パタパタ」
憂鬱が無くなったのがこいつのおかげなのかどうかは、このまま時間を重ねなければわからないだろう。もしかしたら、また憂鬱がやってくるかもしれない。
「ホム♪ホムホムー♪スリスリ」
でもその時はたぶん、こいつが何とかしてくれる。
よくわからないが、そんな気がしてならない。


『終わり』




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