その1

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homuhomu_tabetai

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「ほら、餌だぞ」スッ…

「ホムーホムー」ギュ ポリポリ…

「うまいか?」

「ホムムー///」コクン ポリポリ…


ほむほむは俺の言葉に頷いた……水槽の中で、座ってひまわりの種を齧っている。

早くに親をなくした俺はこの春に晴れて社会人となり、それまで世話になった施設を出て一人暮らしを始めた。

こいつはその時からの相棒だ……一人暮らしの寂しさを紛らわせてくれる……野良猫に襲われているところを助けてやったんだったな……

……俺が見つけた時にはもうこいつの家族は殺されていて、こいつも猫におもちゃのように弄ばれてたっけ……

猫は追い払ったが、こいつは血みどろになっててピクリとも動かなかったのに……近づいたら突然鳴きだしたから驚いた……


「お前を拾って結構経つなぁ……あの時はまだ仔ほむだったのに……」

「ホムゥ?」キョトン

「そろそろお前も番がいるな……そうだ!明日俺が仕事から帰ってきたら一緒に店に見に行くか?」

「マドカァ!?ホムッホムッ!!」ピョンピョン!!


ほむほむは嬉しそうに飛び跳ねる……あぁー、俺の彼女も売ってたらいいのになぁ……売るって、なんかやらしいな///

そんな事を考えながら、ほむほむを水槽から出してやり遊んでやった……こいつはかくれんぼがお気に入りだ。

……と言っても……いつも俺が一番最初に探す場所に隠れてるのですぐに見つけられる……ほらここだ!

ガバッ!
「ホッ!?ホムムー♪」

「……やっぱりな……でも……どうして俺ってこいつの場所がわかるんだろう?」

「ホムゥ?」キョトン

「まぁいいか!それ、隠れろ!」メカクシ

「ホムムー♪」トテテテテ…

・・・・・・・・

「それじゃあ、俺は明日早めに出ないといけないからもう寝るぞ。あんまり鳴かないでくれよ……おやすみ」

「ホムーホムー♪」コクコク


俺はベッドに入った……頭もとの水槽からはしばらくほむほむの動く音が聞こえていたが、すぐに静かになった……ほむほむも眠ったらしい。

・・・・・・・・

「それじゃ行ってくるな。昨日約束したとおり、帰ってきたらお前の嫁さん見に行こうな♪」ナデナデ…

「ホムゥン///」スリスリ…

「餌はいつもみたいに昼の分も入れとくからな。朝に食べ過ぎるなよ」

「ホムン!!」コクコク

「おっと……水は……まだ大丈夫だな……うわっ!?遅れる!!それじゃあな!」タタタタ…

「ホムー♪」テフリフリ



俺は時計を見て、急いで仕事に向かった。

いつものように駅に向かう交差点を駆け足で渡る……途中で信号が赤に変わったのが見えた……と思った時!


キキイイィィィィィィィッ!!!!

「……えっ!?」

ドンッ!!!


……薄れていく視界の中で、誰かが俺に何か言っている……なに言ってるんだ?……聞こえないよ……

そのまま俺の意識は遠ざかっていった……



~~~~~~~~~~







「……あれ?……ここは……俺の部屋……?」


気がつくと俺は自分の部屋に居た……机の上の水槽の中でほむほむがひまわりの種を齧っている。


「ホムホムホム…」ポリポリポリ…

「……あれ?……確かさっき出かけて?……あれれ?」


時計を見る……


「うわっ!?遅刻じゃないか…………おかしいな……ちゃんと時間通りに出たはずなのに……」

「……仕方ない……遅れるって課長に連絡しよう……携帯は……あれ?」


会社に連絡しようと携帯を探すが無い。


「……おかしいな?いつも入れてる尻ポケットに無いぞ?」


……全部のポケットを探したが携帯は無かった。


「マジかぁ……困ったな……どこいったんだろ?……仕方ない、途中の公衆電話で連絡するか……」


俺は部屋から出ようとドアノブに手を伸ばした。


スカッ!

「……えっ!?」


……掴んだはずのドアノブが手からすり抜けた。


「……えっ!?なんだいまの!?」


スカッ!スカッ!

「ダメだ……掴めない…………もしかして……これって本とかで読んだ……アレか!?」

「……そういえばこいつも俺が居るのに全く反応しないしな……」

「ホミュッホミュッ…」チュッチュッ…


ほむほむは水差しから水を飲んでいる……俺が居たら『遊んでー!遊んでー!』と騒ぐはずなのに……

……試しに、腕をドアに向けて一歩前に出る……俺の腕はそこに何もないかのようにドアにめり込んだ……。


「やっぱりだ……と言うことは!?……俺って……死んだ……のか?」


今朝のことを思い出してみる……いつもより早めに出た俺は……いつもの道を通って駅前の交差点を渡りだして……信号が赤になったなと思った時に……


「あ!?……あの時か……確か気がついたらすぐ横に車が来てて……その後……誰かが叫んでて……」

「……俺、死亡?…………えぇーっ!?こんなにあっけないのか!?……はぁ……」


しばらく俺はそのままの状態で考え込んだ……しかしいい考えは浮かばなかった。

変わりに出たのは『どうして手はドアをすり抜けるのに、足は床を通り抜けないんだろう?』だった……不思議と取り乱したりはしなかったな……


「……しょうもない……でも、試してみるか……」
     ・
     ・
     ・
     ・
「はぁはぁ……こんな状態でも疲れるんだな……」


床を足で何度も踏んでみたが、全く通り抜ける事が出来なかった……わけがわからないな……


「…ホムムー…」Zzz…


ほむほむは寝床に入って眠りだした……やはり俺が見えていないらしい。


「……まぁいいか……ドアは通れるんだし、ちょっと外に出てみよう……」スッ…


……俺の身体はドアをすり抜けて廊下に出た……そのまま外に出ようと玄関ドアに向かう。


ヘニョ…

「あれ!?このドア通れないぞ!?なんでだ?」


試しに鍵を回そうとしてみたが、指がすり抜ける……もちろんドアノブもすり抜けた。


「あれー……そりゃっ!」


両腕で玄関ドアを押してみる……しかし結果は同じだった。どういう訳か触っている感触もしない。


「……なんか薄い膜があって……それが俺を跳ね返してるみたいだな……叩いても音がしないし……」

「それなら窓はどうだ?」


俺はベランダの窓に向かった……ここは五階なので泥棒も来ないだろうと思い、この時期は網戸だけで開けっ放しにしているのだ。


「……そい!」


…………網戸に負けた……


「マジか……結界か何かなのか?……そうだ!トイレの窓の網戸が破れてたな……指だけでも外に出れないかな?」


俺はトイレに向かった……やはりトイレのドアは簡単にすり抜けたが……


「……直接外に繋がってるのはココだけだ……どうだ……」




無理だった……何も無いように見えたのだが、俺の指は外に出なかった。


「やっぱり無理かぁ……仕方ないな、ションベンでもしてって…………水が流せないな……というよりしたくないし……」

「しかし、服は着ているがどうなってるんだ?……まぁ、深く考えるのはやめよう……」


俺は自分の部屋に帰ることにした。


「…ホムー…ホムー…」Zzz…


ほむほむは相変わらず寝ていた……俺はベッドに腰掛けてほむほむの寝顔を眺める。


「……ドアはすり抜けるのに、ベッドには座れるって不思議だよな……」


他の人ならパニックになってもおかしくない状況なのに、俺はなぜか落ち着いていた……O型だからだろうか?


「考えても仕方ないな……なるようになるだろ……」

「こいつは水槽に閉じ込められてる……俺もこの部屋に閉じ込められてるし……よく似てるよな……」

「…ホムー…ホムー…」Zzz…


水槽のほむほむは幸せそうな寝顔で眠っている……少し意地悪したくなって水槽の中に手を入れた。


「……触れるかな?」


ほむほむに手を近づける……もしかしてと思って水槽の真横から手を伸ばしたのだが、予想通り手は水槽の壁をすり抜けていた。


「…ホムー…ホッ!?」パチクリ

「おっ!?」


俺の手がほむほむに触るか触らないかの距離になった時に、それまで眠っていたほむほむが急に目を覚ました。


「…ホムッ!?…ホムムッ!?」キョロキョロ… クンクン…


ほむほむは辺りを見回しながらしきりに匂いを嗅ぎ始める。


「……こいつ……俺の気配がわかるのか?」

「ホムホムッ!!…ホミャア///」クンクン…


ほむほむは俺の指先に鼻を近づけ、嬉しそうな顔をした……それから、俺の指にほお擦りしようと短い腕を伸ばした……が。


「ホムゥ///『スカッ!』…ホッ!?ホムッ!?『スカッ!』…ホムムッ!?」

「……やっぱり無理か……」

「ホムゥ…?」キョロキョロ…


……ほむほむの腕は俺の指を通り抜ける……不思議そうな顔をして何度も繰り返すほむほむ…… 


「ホムッ!!『スカッ!』…ホム…ホムンッ!!『スカッ!』…ホムゥ…ホビャアアアァァァァァ…」エグエグ…


とうとう泣き出してしまった……


「でも……こいつは俺の気配がわかるみたいだな……見えないのに……」

「ホムウウウウゥゥゥゥゥ…」ピエェェ…ン…

「……すまん……気配がわかってもやっぱり触れないみたいだな……混乱させてしまったな……」


これ以上混乱させるのは可哀想なので、俺は手を引っ込めた……

・・・・・・・・





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