場面:鬼屋敷の縁側。午後。
涼しい風が吹き抜ける静かな縁側。イコルとツヅリが、寄り添って本を読んでいる。
涼しい風が吹き抜ける静かな縁側。イコルとツヅリが、寄り添って本を読んでいる。
イコル
(ページをめくりながら)
ふぁ〜……ツヅリちゃ〜、この絵本すっごいかわいいのに、めっちゃ怖かった〜……
ラスト、誰も助からないとか……夢に出る〜……
(ページをめくりながら)
ふぁ〜……ツヅリちゃ〜、この絵本すっごいかわいいのに、めっちゃ怖かった〜……
ラスト、誰も助からないとか……夢に出る〜……
ツヅリ
(静かに微笑みながら)
でも、誰も助からないお話って……少しだけ、現実に近い気がして。
そういうところが、私は好きです。
(静かに微笑みながら)
でも、誰も助からないお話って……少しだけ、現実に近い気がして。
そういうところが、私は好きです。
イコル
ツヅリちゃんって、たまにこわいよね〜……でも、わかる。わかる気はする……
ツヅリちゃんって、たまにこわいよね〜……でも、わかる。わかる気はする……
(ふたり、しばし静かに本を読んでいると、屋敷の奥から何かが崩れる音が響く)
(しばらくして、すーっと戸が開き、お菊がホウキを手に現れる)
お菊
……申し訳ないけど、本を読んでいるところ、失礼するわ。
……申し訳ないけど、本を読んでいるところ、失礼するわ。
(ホウキを立てて持ち、無表情に立っている)
お菊
セイメイ様の部屋から、また煙が上がっていたの。
中を見たら、天井から未開封の塩辛がぶら下がっていて……
意味は……考えないようにしたわ。
セイメイ様の部屋から、また煙が上がっていたの。
中を見たら、天井から未開封の塩辛がぶら下がっていて……
意味は……考えないようにしたわ。
ツヅリ
(本を閉じて、立ち上がる)
お姉ちゃん……お疲れさまです。すぐ、私も手伝いますね。
(本を閉じて、立ち上がる)
お姉ちゃん……お疲れさまです。すぐ、私も手伝いますね。
イコル
あっ、ずるい〜!ツヅリちゃんだけ抜け駆け〜!
わたしもあとで手伝うから、もうちょっとだけ読ませて〜!
あっ、ずるい〜!ツヅリちゃんだけ抜け駆け〜!
わたしもあとで手伝うから、もうちょっとだけ読ませて〜!
お菊
……あとでって、便利な言葉よね。
でも、それを20回聞いて、20回信じた結果、部屋はこうなったのよ。
そろそろ、臼を出してもいいかもしれないわ。
……あとでって、便利な言葉よね。
でも、それを20回聞いて、20回信じた結果、部屋はこうなったのよ。
そろそろ、臼を出してもいいかもしれないわ。
イコル
ひっ!? い、いまやる!今すぐ動く〜!
ひっ!? い、いまやる!今すぐ動く〜!
ツヅリ
(苦笑)
お姉ちゃん、冗談なのか本気なのか、分からなくなるよ……
(苦笑)
お姉ちゃん、冗談なのか本気なのか、分からなくなるよ……
お菊
冗談じゃないわよ。……でも、あなたたちが動くなら、それでいいの。
冗談じゃないわよ。……でも、あなたたちが動くなら、それでいいの。
イコル
じゃあ、三人でやろ〜!終わったらお茶にしよっ?
セイメイ様の部屋は……見るの禁止で!
じゃあ、三人でやろ〜!終わったらお茶にしよっ?
セイメイ様の部屋は……見るの禁止で!
お菊
……ええ、同意するわ。生命を守る行動として、正しい判断ね。
……ええ、同意するわ。生命を守る行動として、正しい判断ね。
ツヅリ
お姉ちゃん、お茶の準備は私がしますね。今日は甘いのがいいですか?
お姉ちゃん、お茶の準備は私がしますね。今日は甘いのがいいですか?
お菊
ありがとう。そうね……今日は、甘いのがいいかもしれないわ。
ありがとう。そうね……今日は、甘いのがいいかもしれないわ。
イコル
やった〜!じゃあ急いで片づけよっ!
やった〜!じゃあ急いで片づけよっ!
第一話:静寂破壊編「チヨメ、読書の敵」
登場:イコル/ツヅリ/お菊/チヨメ(鬼屋敷・縁側。ツヅリとイコルが本を読んでいる)
登場:イコル/ツヅリ/お菊/チヨメ(鬼屋敷・縁側。ツヅリとイコルが本を読んでいる)
イコル
(ぱたぱたと脚を揺らしながら)
このページすごい……絵がめっちゃきれい……!ツヅリちゃん、見て見て〜!
(ぱたぱたと脚を揺らしながら)
このページすごい……絵がめっちゃきれい……!ツヅリちゃん、見て見て〜!
ツヅリ
(そっと覗き込み)
本当ですね……この光の描き方、神話の表現としては珍しいかもしれません。
(そっと覗き込み)
本当ですね……この光の描き方、神話の表現としては珍しいかもしれません。
(静かな風が吹く中、突然、襖が爆音と共に開く)
チヨメ
どーーーーんっ!……ってあれ?なんすかこの空気っ!
どーーーーんっ!……ってあれ?なんすかこの空気っ!
イコル
わっ!?ちょ、ちょっとぉ〜!びっくりしたぁ……!!
わっ!?ちょ、ちょっとぉ〜!びっくりしたぁ……!!
ツヅリ
(小さく肩をすくめる)
チヨメさん……もう少し、音量を下げていただけると助かります……
(小さく肩をすくめる)
チヨメさん……もう少し、音量を下げていただけると助かります……
チヨメ
えー!だってこの屋敷、静かすぎるっすよ!もうちょい元気出していきましょ!
えー!だってこの屋敷、静かすぎるっすよ!もうちょい元気出していきましょ!
(お菊、そっと出現)
お菊
……静かすぎるのは、悪いことではありません。
あなたが爆発音と共に現れるほうが、問題です。
……静かすぎるのは、悪いことではありません。
あなたが爆発音と共に現れるほうが、問題です。
チヨメ
うぉっ、お菊さん!?いつからそこに!?こっわ!
うぉっ、お菊さん!?いつからそこに!?こっわ!
お菊
最初から、そこにおりました。わたくし、気配が薄いので。
最初から、そこにおりました。わたくし、気配が薄いので。
イコル
チヨメちゃん、今のとこ読んでたのに〜……音でびっくりしてページ飛んじゃった……
チヨメちゃん、今のとこ読んでたのに〜……音でびっくりしてページ飛んじゃった……
チヨメ
あ、あー、ごめんっす……ってことで、掃除手伝いに来たっす!今日こそセイメイ様の部屋、殲滅作戦開始っすよ!
あ、あー、ごめんっす……ってことで、掃除手伝いに来たっす!今日こそセイメイ様の部屋、殲滅作戦開始っすよ!
ツヅリ
(本を閉じる)
それは……とても勇気のある宣言ですね。
(本を閉じる)
それは……とても勇気のある宣言ですね。
お菊
……一つだけ確認します。
それは本気でおっしゃっているのですか?
……一つだけ確認します。
それは本気でおっしゃっているのですか?
チヨメ
……えっ、だめっすか?
……えっ、だめっすか?
(沈黙)
お菊
……いいえ。止めはしません。ただし、命綱と防毒マスクは必須です。
……いいえ。止めはしません。ただし、命綱と防毒マスクは必須です。
地獄清掃作戦「セイメイ様の部屋に挑む」:お菊/ツヅリ/イコル(鬼屋敷・セイメイの部屋の前。ドアからうっすら煙が出ている)
イコル
……やっぱり、やめない?この部屋、開けたらなんか出てくる気がする……
……やっぱり、やめない?この部屋、開けたらなんか出てくる気がする……
ツヅリ
でも……放置していたら、確実に建物が腐りますよね……
でも……放置していたら、確実に建物が腐りますよね……
お菊
……先日、床下からなめくじのようなものが湧いてきました。
それがセイメイ様の観葉植物だったという報告を受けています。
……先日、床下からなめくじのようなものが湧いてきました。
それがセイメイ様の観葉植物だったという報告を受けています。
イコル
観葉植物が這うの!?それ観賞用じゃなくて逃走用だよ!
観葉植物が這うの!?それ観賞用じゃなくて逃走用だよ!
(お菊、静かに鍵を差し込み、扉を開ける)
お菊
……開けます。
目は閉じていた方が安全です。
……開けます。
目は閉じていた方が安全です。
(扉が開く。中から奇妙な香りと煙が流れ出る)
ツヅリ
……っ!これは、何の匂いですか……?お酒、薬草、あと、なにか焦げたような……
……っ!これは、何の匂いですか……?お酒、薬草、あと、なにか焦げたような……
お菊
……先月煮ていた猪の骨スープが、鍋のまま残っていました。鍋は緑色になっていました。
……先月煮ていた猪の骨スープが、鍋のまま残っていました。鍋は緑色になっていました。
イコル
スープが鉱石になってる!?!?
スープが鉱石になってる!?!?
ツヅリ
(鼻を押さえながら)
これは……掃除というより、供養ですね……
(鼻を押さえながら)
これは……掃除というより、供養ですね……
お菊
ええ。仏具を持ってきます。
ええ。仏具を持ってきます。
姉妹回想「お姉ちゃん、変わらないね」 登場:ツヅリ/お菊/イコル(少し)
(夜。お菊の部屋。ツヅリが膝掛けを持って入ってくる)
(夜。お菊の部屋。ツヅリが膝掛けを持って入ってくる)
ツヅリ
お姉ちゃん、まだ起きてるんですね。
お姉ちゃん、まだ起きてるんですね。
お菊
……ええ。今日の洗濯、干し忘れていたのを思い出して。
……ええ。今日の洗濯、干し忘れていたのを思い出して。
ツヅリ
……子どもの頃も、夜中に起きて誰よりも先に準備してた。変わらないんですね。
……子どもの頃も、夜中に起きて誰よりも先に準備してた。変わらないんですね。
お菊
……昔と違って、誰も褒めてくれませんから。ただの習慣です。
……昔と違って、誰も褒めてくれませんから。ただの習慣です。
ツヅリ
ふふ……でも、私はちゃんと見てますよ。
ふふ……でも、私はちゃんと見てますよ。
(少し沈黙)
ツヅリ
お姉ちゃん、どうしてセイメイ様の部屋を嫌がらずに掃除してるんですか?
お姉ちゃん、どうしてセイメイ様の部屋を嫌がらずに掃除してるんですか?
お菊
……それが、わたくしの役目だからです。
嫌とか無理とか、言ってしまえば……きっと誰も動かなくなるでしょう?
……それが、わたくしの役目だからです。
嫌とか無理とか、言ってしまえば……きっと誰も動かなくなるでしょう?
ツヅリ
……お姉ちゃん、やっぱり優しいですね。
……お姉ちゃん、やっぱり優しいですね。
お菊
違います。……責任感が強すぎて、面倒くさいだけです。
違います。……責任感が強すぎて、面倒くさいだけです。
(部屋の外から、イコルの寝言がかすかに聞こえる)
イコル(寝言)
……スープがしゃべってる……うぇぇ……
……スープがしゃべってる……うぇぇ……
(姉妹、顔を見合わせて笑う)
姉のお菊を看病。
お菊/ツヅリ/イコル
場面:鬼屋敷・お菊の部屋(夜)
布団に横になるお菊。顔がほんのり赤い。薄暗い部屋に、ツヅリがそっと濡れタオルを取り替えている
布団に横になるお菊。顔がほんのり赤い。薄暗い部屋に、ツヅリがそっと濡れタオルを取り替えている
ツヅリ
……お姉ちゃん。どうして、もっと早く言ってくれなかったの?
……お姉ちゃん。どうして、もっと早く言ってくれなかったの?
お菊
(かすれた声で)
……風邪くらい、寝れば治りますから。……誰かに知らせることでも、ありません。
(かすれた声で)
……風邪くらい、寝れば治りますから。……誰かに知らせることでも、ありません。
ツヅリ
でも、今朝からずっと顔色悪かった。声も、少しおかしかったんです。
でも、今朝からずっと顔色悪かった。声も、少しおかしかったんです。
お菊
……元々、声に抑揚はないので。わかりにくくて当然です。
……元々、声に抑揚はないので。わかりにくくて当然です。
ツヅリ
(微笑しながら涙目)
強がり。そういうところ、ずっと変わらない。
(微笑しながら涙目)
強がり。そういうところ、ずっと変わらない。
(戸がガラッと開く。息を切らしてイコルが飛び込んでくる)
イコル
持ってきた〜っ!セイメイ様の棚の一番奥にあった薬草っぽいの、これで正解!?
持ってきた〜っ!セイメイ様の棚の一番奥にあった薬草っぽいの、これで正解!?
ツヅリ
セイメイ様の棚……!?イコルさん、それ、匂い嗅ぎました?
セイメイ様の棚……!?イコルさん、それ、匂い嗅ぎました?
イコル
うん、なんか酸っぱいっていうか……発酵?してる?なんか、動いてたかも……
うん、なんか酸っぱいっていうか……発酵?してる?なんか、動いてたかも……
ツヅリ
それ、絶対だめなやつ……っ!
それ、絶対だめなやつ……っ!
お菊
(布団の中から)
……イコルさん、それを煎じたら、わたくしより先にあなたが倒れます。
よって、没収です。二度と触れないでください。
(布団の中から)
……イコルさん、それを煎じたら、わたくしより先にあなたが倒れます。
よって、没収です。二度と触れないでください。
イコル
えぇ〜〜〜!?でもなんか効きそうな色だったのにぃ〜……
えぇ〜〜〜!?でもなんか効きそうな色だったのにぃ〜……
ツヅリ
そういうのって、だいたい毒なんですよ……
そういうのって、だいたい毒なんですよ……
(イコル、しょんぼり薬草を包みに戻す)
お菊
……薬は、棚の引き出しの奥。左から三番目の引き戸の下に……あったはずです。
……薬は、棚の引き出しの奥。左から三番目の引き戸の下に……あったはずです。
ツヅリ
(優しく)
はい、私が探します。お姉ちゃんは、もう喋らないで。休んで。
(優しく)
はい、私が探します。お姉ちゃんは、もう喋らないで。休んで。
お菊
……はい。すこし、眠いです。
……はい。すこし、眠いです。
イコル
(布団の端にちょこんと座る)
お菊ちゃんが寝込んでるって、変な感じだね。
……でも、なんか、ちょっとだけかわいい。
(布団の端にちょこんと座る)
お菊ちゃんが寝込んでるって、変な感じだね。
……でも、なんか、ちょっとだけかわいい。
(沈黙。お菊、目を閉じたまま)
お菊
……それ以上、しゃべると、快復後に臼へ入れて回します。
……それ以上、しゃべると、快復後に臼へ入れて回します。
イコル
ひえっ!やっぱりお菊ちゃん、寝ててもお菊ちゃんだ〜〜!!
ひえっ!やっぱりお菊ちゃん、寝ててもお菊ちゃんだ〜〜!!
(ツヅリ、そっと笑いながらお菊の額に手を当てる)
ツヅリ
大丈夫。朝には下がってますよ。……お姉ちゃんは、そういう人ですから。
大丈夫。朝には下がってますよ。……お姉ちゃんは、そういう人ですから。