わたしは、狂信者。

 どれだけ蹴落とされても、どれだけ地に這いつくばっても、それでも光を信じてた。

 その陽だまりこそが帰る場所であると根拠もなく信じ込んで、そしてその望郷こそが、前に進む活力となってくれた。

 けれど、その先に待っていたのは、偽りの太陽で――その花はまるで異形のごとく醜く、歪んでしまった。



 ――ねえ。

 それでも綺麗だと、囁いてくれますか。

 それでもまだ、未来を信じていいですか。

 それでもわたしに、帰る場所はありますか。





「このエリアからは逃がさぬでござる。」
「小癪な……。」

 ゴルベーザにも、焦りが見え始める。ゴルベーザに植え付けられた唯一の目的、皆殺しには未だ遠い。矛盾に満ちた行動理念であろうとも、己の死を忌避するは本能。ここで歩みを止めるわけにはいかないという気持ちは、ゴルベーザにも宿っている。

 再び交錯する剣と剣。手に跳ね返る衝撃は両者の命を着実に削り取っていく。

(くっ……ここに来て、さらに重く……!)

 このタイミングで、さらに一撃の重みが増したゴルベーザ。これまでの応酬の際にも、決して手を抜いていたわけではない。だが、キングブルブリンを下僕として用いた点、マリオのトドメを黒竜に任せた点など、『次の戦い』を見据えて力の消耗を抑えながらの戦闘は少なからず行っていた。しかしこの局面で、その無意識のリミットをも解除。この30秒を制さねば、次の戦いは無い。

「どうやら光は……」

 一方のメルビンは、半ば気合いだけで立ち上がっている身体だ。限界なんてとうに超えている。ただでさえ互角であった打ち合いを、制することなどできるはずもなく――

「……微笑まなかったようだな。」

 ――しかし、その瞬間。


「……!?」

 ゴルベーザの体躯が唐突にぐらりと揺れた。斬り込まんと踏み込んだ脚は大地を踏み締めることも叶わず、膝をつく。

 明確な妨害によるものではない。その原因はこの上なくシンプルで、これまで積み重なった疲労やダメージが、ゴルベーザの動きを鈍らせたという真っ当なものだ。消耗戦の中、メルビンが、早季が、ビビアンがそれぞれ放った攻撃が、この段階にきてようやく重要な一瞬を繋いだ。

 そしてその一瞬の間に――業魔が、戦場に襲来する。

「……早季、殿?」

 全てを敵として認知しているゴルベーザのみならず、メルビンにも早季に起こっている異常は察知できた。彼女の歩みに伴って、波紋が広がるように周囲を包み込む破滅の色。まるで毒の沼を生み出しながら歩いているかのような禍々しさを纏いながらも、早季は凛とした様子でゴルベーザを睨み付ける。

(落ち着いて……攻撃を、イメージ。)

 刹那、早季に制御できる範囲の呪力による攻撃が炸裂する。もはや、他害への迷いなんてない。全身の至る所から虹色の蜃気楼を生み出しながらも、それでも皆殺しの呪いに守られ、何とか立ち上がるゴルベーザ。

「ぬわっ!」
「……っ! ごめんなさい!」

 その一方で――制御不能となった呪力の漏洩は、禍々しい色合いに染まった大地から草木型の異形を生み出し、ゴルベーザとメルビンを包み込んでいく。

(だめだ……メルビンさんまで、巻き込んじゃう……!)

 業魔が、神栖66町における恐怖の象徴の一角を担う所以。早季特有の高い値を誇る"人格指数"も、症状の制御を行うことができる要素になどなり得ない。原因が不明であれどその症状は先行研究の通り、安易に試せる方法などで呪力の漏洩は止まらない。

 業魔となった者は、身近な人すらも傷付けてしまう。元の世界は、もはや帰る場所ではなくなったのだ。仮にこのまま早季が生還を果たしたとしても、業魔となってしまった現実は変えようがなくて。止める方法は、元の世界の大人たちも把握している通り、ただひとつ――その命を、奪うこと。それを早季が知らないことは、きっと幸せなことなのだろう。まだ、この雪の先の陽だまりを信じていられるならば。


「――残り、20秒。」

 オルゴ・デミーラがカウントを進める声。まだゴルベーザは、一歩も動けていない。

「構わないでござる。奴を、この力で留めておけるのであれば……。」

 ヘルバオムのねっこのような異形化した植物に、全身を絡め取られながらも、メルビンはその手に魔力を込め始める。ゴルベーザがこの30秒を生き延びるために真っ先に排除せねばならない障害は、もはやメルビンではなくなった。そして早季殿を狙うためには、目先の植物を何とかするのに一手を消耗せねばならない。

 すなわちメルビンにはゴルベーザよりも一手分、余裕がある。この戦いに命を捨てる覚悟すらあるメルビンは、必ずしもこの植物を抜け出す必要はないのだから。

「――ファイガ!」

 ゴルベーザの紡いだ炎は、己を拘束する植物へと点火するや否や可燃性の草葉を伝ってメルビンを覆っていた植物までもを焼き切る。

(ぬう……ここまで、でござろうか。だが、それでも……)

 その植物に包まれていたメルビンも全身を炎に包まれ、意識を保てる許容量を優に超えるダメージをその身に刻んだ。次第に再び、消失していく意識。

(この一撃だけは、必ず……!)

 それでも、早季と約束したのだ。ゴルベーザを必ず、禁止エリアによる罰の時間までこの場に留める、と。その約束を果たさぬままに倒れては――亡き友に合わせる顔など、ありはしない。

 霞む視界の中でも、何とかゴルベーザの姿を捉え――震える指で、十字を切った。その軌道をなぞるように生ずるは、聖騎士の奥義。

「――グランド……クロス!!」

 眩いばかりの閃光が、ゴルベーザの身体を包み込む。それを受けるは、横に構えた皆殺しの剣。


「ぐっ……ぐおおおおっ!!!」

 しかし仮にも聖騎士の極意。即席の防御などで守りきれるはずもなく、グランドクロスの余波がゴルベーザの全身を焼き、おびただしいまでの傷痕をその身体に刻みながら――しかし未だ、ゴルベーザという脅威は健在である。

「この、光、は……。」

 しかし一瞬、ほんの一瞬だけ。

 傀儡は光の中に、何かの面影を見た。その何かを振り切るように、ゴルベーザは大きく首を横に振った。

 これは、やもすれば有り得た物語なのかもしれない。聖騎士の奥義が、皆殺しの呪いを打ち破って、傀儡としての生しか与えられなかった男に、光の道を示す結末。

「――皆殺しだ……! まだまだ、殺し足りぬ……!」

 されど呪いを打ち破るには、あまりにも遅すぎた。彼の弟を最も強く想起させるはずであった聖なる閃光とて、彼の償いを呼び覚ますには足りない。放送で呼ばれたセシルの名に、一切の想いを馳せることすらなかった瞬間から、彼にセオドールの生を許される未来は潰えてしまったのだから。

 今や――

 私を優しく包み込むかもしれなかった閃光は、もはや私を殺すためだけの凶器で。

 私の前に立ち塞がった英雄は、かつて私が歩めなかった道そのもので。

 私に立ち向かうカゲの魔物は、私が信じられなかった愛という名の光を、希望に変えていて。

 そして――禍々しき呪いの力に侵食されながらも、それでもなお、心は光のごとく綺麗に在ろうとする少女が、虹を放つ。

 私の前に立ち塞がるは、私に無かった光を持つものばかり。憎しみに支配され、闇の道を歩むことしかできなかった私を、否定するものばかり。

 ああ、そうだ。

 最初から、そうだったのだ。

 誰にも受け入れられぬ"毒虫"を意味する『ゴルベーザ』の名が名簿トランプに刻まれているように――私は最初から、この世界に弾劾されるべくして降り立っていたのだから。私には最初から、闇の道しか提示されていなかったのだから。

 ならば再び――私の闇を、憎しみに変えよう。

 私に"毒虫"の生き方しかないと提示したこの世界ごと、全てを憎もう。

 我が道に光を差す者たちを――"皆殺し"にせよ、と。私が私でなかった頃から私の中に在り続けた何者かが、囁くのだ。

 ――ああ。

 いつか、どこかの、遠い記憶。

 償いを、求めた時があった。

 光がいつか、闇の中の私にも微笑んでくれる日がくるのだと。根拠もなく、ただただ愚直に――






「森羅万象、灰燼に消えよ――メテオ!!!!」




 ――そう、信じていた、はず、だったのに、なあ。





 太陽光を覆い隠すように――天から無数の隕石が、降り注いだ。










「なに、これ……」

 終末という概念を、そのまま絵にしたような光景だった。天からは、まるで月がそのまま落ちてくるかのごとき流星が群をなして降り注ぎ、地は、生とは真逆の様相を示す毒々しい植物に覆われていた。

「……アタイが、助けないと。」

 この場にいる者全員に等しく降り注ぐあの流星は、これまでゴルベーザが仕掛けてきた攻撃のどれよりも強力な魔法であるのは、ひと目で分かった。

 だけど、アタイのカゲがくれは攻撃がどれだけ強力であっても、関係ない。カゲのせかいは、表の世界からはいかなる干渉もできないからだ。

 だけど――カゲがくれで守れるのは、アタイを除けば一人だけ。早季かメルビンか、そのどちらかしか助けることはできない。

「……こんなの、ざんこくな選択だわ。」

 決められるはずがない。というよりも、決めていいはずがない。だけど、決められないままどちらも死んでしまうという未来だけは、絶対に訪れてはならない。時間を割けないことも、この選択をより残酷なものにしていた。

「……メルビン。ごめんなさい。」

 選んだのは、早季の命だった。単純に若い命であること。そしてすでに重体であるメルビンに比べ、力の制御ができていない症状こそあるものの、早季の方が助けた後に生き残れる可能性が高いということ。

 逆に言うと、たったそれだけの理由だ。メルビンが死んでいい理由なんてひとつもない。相対的な命の価値をアタイがジャッジするなんて、烏滸がましいにも程がある。怨まれたって、文句は言えない。だけど、平等に救わない選択肢なんて、あるはずもなく。

 ……時間が、無い。アタイは、早季のカゲへと移り、顕現する。そのまま早季を押さえ込んでカゲのせかいへと、連れていこうとして。


「うっ……!」

 身体に重くのしかかる、自分が自分じゃなくなってしまうような感覚。早季の身体から、30センチ。それ以上は先に進めなかった。

 早季の身体から無尽蔵に流れ出る呪力が、ビビアンを通さない。もし早季の身体に触れてしまったらその時は――嫌なイメージが頭の中を駆け巡る。自分が、まるでカゲそのもののようなおぞましい存在へと成り果ててしまう光景だった。

 そんなアタイを見て、早季は小さく、首をフルフルと横に振った。どこか悲しげな表情が、いやに心にのしかかる。

「ねえ、ビビアン。」

 分かってしまったから。その悲しみの向かう先は、メテオへの――死への絶望などではなくて。

 アタイに触れられないこと。もう他人と、これまでのように触れ合えないこと。それを知った絶望だった。それはすなわち――帰る場所を失ってしまったことへの悲しみだった。

「わたしの友達のこと、お願い。」
「どうして、そんなこと言うのよ。」
「……。」
「アタイなんかにたのまなくったって……生きて、早季が守ればいいでしょ!」

 次の瞬間には、その言葉を否定するように――

「……っ!!!」

 ――眼前の空気が、爆ぜた。大地には亀裂が走って、ボコボコと音を立てながら生み出された雑草が刃となってアタイの背中に突き刺さった。だけどその光景を悲しそうに見つめる早季の視線は、刃の何倍も、痛い。

「だって、わたしは……」
「いわなくていい! だから……生きて!」
「……うん。」

 アタイは、涙を流しながらも、早季に背を向ける。

 もしもアタイが、近付くだけで他人に害をなす存在になってしまったら。もしもアタイが、マリオに近づくことすらもできない、そんな魔物に、なってしまったら――考えたくもなかった。その先を考えてしまうと、もしかすると、ドラえもんから示唆されたマリオの現状に、たどり着いてしまうかもしれないから。

 そして次の瞬間には、メルビンのカゲに移動。

「――ありがとう。」

 そんな声が、背後から聞こえる。そのままメルビンを押さえ込むように、カゲの世界へと引きずり込んだ。


「――残り、10秒。」

 終わりまでの時を刻む声と共に、アタイとメルビンは、降り注ぐ流星をやり過ごした。




 それは、確定的に訪れた終わりであった。

 相対するは、月の民が繰り出した伝説の黒魔法。まだ幼い早季が、呪力で止められる規模を優に超えていた。

 何故か、実感があった。ビビアンが近付くことすらできなかったこの症状はきっと、もう治らない。

 わたしは、わたしの大好きな人たちと、ずっと一緒にいたい。それがわたしの帰る場所。それが脅かされる予感なんて、全くなかった。すでに一人が消えているなんて、思ってすらいなかった。

 だから、誰かと触れ合うことすらできないこの症状は、帰る場所の喪失だった。この力で大切な人を奪ってしまえば……わたしはきっと、耐えられない。それ以上誰かを傷付けないように、自ら命を絶つことだって、きっと受け入れてしまうほどに。

「――ありがとう。」

 最後に遺したのは、この上なく月並みな、一言。

 もう一度、皆と会いたい。たったそれだけの願いすらも許さない、この呪いだけれど。たとえ傷ついても触れようとしてくれたあの手の温もりは、30センチ先からであっても、充分に伝わってきたから。

 そして業魔は、流星雨に消える。降り注いだ隕石と、それに伴う破壊の嵐が、再生の余地すらもないほどに少女の身体を砕いた。

 せめてその最後の瞬間まで、辺り一面に呪いを撒き散らしながら。呪われた月の民に、異形化した植物の呪縛を、施しながら。

 そして、少女が倒れ伏したその先に――小さな虫型の魔物の、遺骸があった。

(――チビィ。)

 殺し合いに巻き込まれ、不安に駆り立てられている中でも、この子はずっと、傍にいてくれた。毒を持つ性質を恐れていたが故に、一度も触れることすらなく、別れることになってしまったけれど。

 灰になった身体へと、そっと手を伸ばした。

(――ああ。)

 死後に時間が経っているその身体は、冷たいはずだ。だけどそれでも、陽だまりよりも温かいようで――

(やっとあなたに、触れられた……ね……。)

 ――凍てつくばかりの雪だって、溶かしてしまいそうな気がした。








『――大丈夫。』


『いつかの時代、その命にかえても帰る場所を守るために戦った、たった一匹の勇者のように』


『時間だって、超えてみせる。』


『生と死すら、僕らを分かつには足りやしない。』


『君が守ろうとした人たちは、僕が守るから』


『だから、早季――僕の、愛する人。』


『どうか未来を、諦めないで。』


『いつか帰るところを、信じて。』







 これが、ビビアンとメルビン、そしてゴルベーザの命運を分ける最後の瞬間であることは明らかだ。すでにカウントダウンは10秒を切っている。

 勝利のためにも、まずは禁止エリアからの脱出。それ無しに生還は、有り得ない。

 そして、ゴルベーザを禁止エリアに留めること。メルビンが気絶し、ビビアンも満身創痍な今、ゴルベーザと戦って勝てる見込みは万に一つもない。だから、首輪の爆発以外の勝利はもはや、考えられない。

 そのゴルベーザは今、早季が遺した異形化した植物に絡め取られている。ただでさえ伝説の黒魔法を発動した反動がその身に降り掛かっているのだ。先ほどのようにファイガで即座に燃やし尽くすこともできず、皆殺しの剣によって切断するという、この1秒が生死を分ける状況下であっても原始的な対応しか取れなかった。

 したがって、先に動き始めるのはカゲがくれを脱したビビアンとメルビンの側だった。メルビンを抱えたまま、カゲからカゲへの移動はできない。さらにメルビンは、更なる衝撃を与えればそれが致命打となって死にかねないほどの傷を負っている。

 ゴルベーザよりも先に、メルビンを抱えた上でビビアンが動き出せたこと。それは明確に、二人の命を繋いでいた。最悪の場合、意識の無いメルビンの身体を禁止エリア内に捨て置かなければ、ゴルベーザを止められない状況に陥っていたかもしれなかったのだから。

「――禁止エリアからの脱出を確認した。」

 ビビアンとメルビンの首輪から、憎々しい声が響き渡る。ここが、禁止エリアと通常エリアの正確な境界線。その数センチ先に気絶したメルビンを寝かせておいて、ビビアンは最後の戦場へと顔を向ける。


――残り、5秒。

 植物の拘束から脱したゴルベーザが、通常エリアへと向き直る。僅か、10m。

「アタイはぜったいに、ここを通さない。」
「そこを退け! 我が殺戮の、礎となれ!」

――残り、4秒。

 ビビアンが牽制に放ったまほうのほのおを、意にも介さず通り抜けるゴルベーザ。ビビアンの側も消耗が激しく、まほうの威力も落ちている。そんな小技を前に足を止める暇など、ありはしない。

 しかし同時に放たれたグリンガムのムチの一閃は、そうはいかない。伝説の宝具による一撃をまともに受けようものなら、非力なビビアンによるものであってもその場に膝をつくことは避けられない。皆殺しの剣で受け、そしてその行く先を流す。

(これでも、足りないっていうの……!?)

 ゴルベーザ自身も、一度は立ち上がることことすら困難に陥っていた程度に、相当のダメージを負っているはずだ。だというのに、この1秒を、止められない。

――残り、3秒。

 残る手札は少ないが、出し惜しみなんてもってのほか。もう一度振りかぶる時間なんてないグリンガムのムチから、手を離す。その拳に燃え盛るほのおを込めて、正面から殴り込む。

「ぜったい、とおさない……!」

 ゴルベーザとしても、グリンガムのムチへの対処に剣を用いた以上、残る武器は拳のみ。武道の心得などないのは、両者ともに同じ。根本的な力量の差を、ビビアンのまほうで補って――

――残り、2秒。

「っ……! しまっ……」

 拮抗の果て、ゴルベーザが押し勝つ。殴り飛ばされた身体がひらりと宙に舞って。

 早季やチビィがその命と引き換えに繋いだこの戦線は、アタイのチカラが足りないが故に、終わってしまう。

 メルビンも、気絶から立ち直ることはできない。ゴルベーザの歩みを、止めるものは、もういない。


――残り、1秒。首輪から、点滅音が鳴り響く。

 禁止エリアの脱出への、最後の一歩を踏み出そうとしたその瞬間――その脚に、何かが絡み付いた。

 予想だにしなかった感触は、振り払えない。その正体を振り返って、見極める。

 そこに居たのは。ゴルベーザの左脚を掴んで、ギリギリで禁止エリアに留めていたのは。

「……貴様……何故……!!」

 ――確かに殺したはずの、チビィの姿だった。

 奴がここにいる理由など、もはやどうでもいい。重要なのは――未だ、最後の一歩を踏み出せていないということ。

「おのれ……この……毒虫がぁぁーーーッ!!」

 それは、最後の引き金となった勇者への言葉か。それとも――

 ――残り、0秒。

 首輪の点滅音が、止まった。同時に聞こえるは、命が、爆ぜる音。首から上が消失した死体だけが、禁止エリアとなった領域の中に残され――それを呆然とした目で眺めながら、ビビアンはハッとしたようにメルビンへと駆け寄る。

「良かった……生きている……。」

 その心音を聞いて、ほっとしたように胸を撫で下ろす。そして改めて、ゴルベーザのいた方向へと向き直る。あれだけ自分たちを苦しめた呪われし月の民は、ぴくりとも動かない。確かに奪った命の報いだと、割り切ることができる殺傷だけれど、その無惨とも言える死に様は、どこか哀れだと思わざるを得なかった。

「ドラえもん。あなたのカタキ、討ったわ。だから……安らかに、ねむってちょうだい。」

 最後の瞬間、ゴルベーザの歩みを止めたのは、死んだはずのチビィだった。何が起こっていたのか、厳密には分からないけれど――

 早季の持つ呪力の特質である、再生の力。それは決して、失われた命を戻すものではない。ネクロマンシーのような屍術とも違う。チビィの遺骸――『チビィのかたみ』という無生物(アイテム)を異形化させ、チビィの形を復元しようとも、そこに失われたチビィの魂は宿らない。

ㅤそれでもチビィは、魂の無い異形として再臨してなお、ゴルベーザのみを明確に敵として狙い済まし、最後の一歩を防いだ。そこに、何らかの魂を、感じられたのなら。死者すらも動かすその奇跡に、名前を付けるなら――それはきっと、『愛』とでも呼ぶべきものなのだろう。

「……ビビアン、殿。」

 間もなくして、朧気な意識のまま、メルビンが目を覚ます。まだ立ち上がれないままに、顔の動きだけで周りにビビアンしかいないことを、確認して。

「……これで、全員でござるか。早季殿、は……守り切れなかった……。」
「……ううん。違うわ。早季は――」

 ここがあの世でないのなら、もはや答えの分かりきっている。それは、ただの事実確認のつもりだった。しかしビビアンは、それを肯定しない。

 早季の死んだ場所に、静かに視線を送りながら――たった、一言。


「――帰るべき場所に、帰ったのよ。」

 ビビアンの視線の先。

 業魔と化した少女の、死体の隣。

 そこには、一輪の花が咲いていた。

 それは、かつて家族を奪われた憎しみに囚われ、人を脅かす魔物となってしまった少女のための、追悼の花。早季に支給され、懐に保管されていた花のタネが、呪力の影響を至近距離で直に受け続けた結果、異常な速度で成長を遂げたものである。

 呪力は、その者の精神世界を具現化する力である。なればこそ、呪力によって咲いたその花は、早季の心の在り方を象徴するように、一切の歪みなく咲き誇っていた。降り注ぐ流星群の中でも、折れることも、曲がることもなく。

 だからこそ、そうして咲いたその一輪は――これまでに見たどの花よりも、綺麗だった。




【黒竜@FINAL FANTASY IVㅤ死亡】
【チビィ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち  死亡】
【渡辺早季@新世界より  死亡】
【ゴルベーザ@FINAL FANTASY IV  死亡】

【残り 30名】


【E-5南/一日目 午前】

【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:瀕死の重体
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:魔王オルゴ・デミーラの打倒、ガノンドロフは今度会ったら絶対に倒す 
1.自分とノコタロウと早季の仲間を探し、守る
2.ボトク、バツガルフ、クッパには警戒
3.マリオに不信感
※職業はゴッドハンドの、少なくともランク4以上です。

【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:重傷 疲労(大)
[装備]:グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオと共にこの殺し合いの世界を脱出する。
1. マリオに会って、本当のことを知りたい
2.自身とメルビンの治療をどこかで行いたい

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります。


【グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
ビビアンに支給された、最高位の攻撃力を誇るムチ。先端に三叉に分かれた刃が取り付けられている。

【花のタネ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
過去のウッドパルナ地方で、マリベルがマチルダに渡した花のタネ。早季の呪力の影響を濃く受けたことにより、F-5の早季の遺体の傍に一輪、咲いている。


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065:ジジ抜きで警戒するカード 時系列順 069:冷たい日だまり
067:魔王決戦1 転がるように風を切って 投下順
056:エンドロールは止まらない 渡辺早季 GAME OVER
ゴルベーザ
メルビン 071:ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉
ビビアン
最終更新:2022年05月25日 01:58