「ウガーーーーーーッ!!」
クッパの口腔から、灼熱の炎が吐き出される。
ブレス攻撃の厄介な所は、大して魔力も使わずに、呪文並みに広範囲を攻撃できることだ。

だが、スピードではクッパに勝る二人は、左右にジャンプして躱す。


敵が吐いた炎が消えると、すかさずヤンはクッパの懐に潜り込む。
その拳が顔面に刺さり、追加で炎の爪から出た小さい火の玉が、クッパを焼く。


「うあああああああ!!」


苦しみと怒りが綯い交ぜになった声を上げる。
ヤンの炎の爪での攻撃を受けた時に思い出したのは、かつてマリオに雨あられと食らったファイアボール。
それを投げたのは誰か分からない。だが、敵だった者から似たような痛みを被ったことだけは覚えていた。


怒りのまま、チェーンハンマーを振り回す。
そんなものはヤンの瞬発力をもってすれば当たりはしないが、厄介なのは鉄球だけではない。
市街地のあちらこちらが、鉄球により壊され、その瓦礫がヤンの逃げた先に降り注ぐ。


「バギマ!」


シャークが唱えた竜巻の魔法が、瓦礫を吹き飛ばす。
クッパの攻撃により、特技はまだ使えなくなっているが、魔法は使える。

「かたじけない。」
「礼なら勝ってから言うと良い。」

瓦礫の雨が止み、今度はクッパは突進攻撃をしてくる。
それを先程炎を躱したように横っ飛びで避け、ヤンは蹴りを顔面に、シャークはナイフの斬撃を肩に入れる。
一人から二人に変わることで、攻めも守りも、格段に良くなっていた。


「ガアアア!!」
「来ますぞ!シャーク殿。」
「ああ。」


怒るクッパは両腕を振り回すが、それもまた当たらない。
今度は人間2人が、クッパ相手に攻め続けていた。
船頭多くして船山に登るという諺があるが、マール・デ・ドラゴーンの船長と、ファブールのモンク僧のリーダーの間では、全くそんなことは起こらなかった。
互いをカバーしつつも最適なタイミングで攻撃のチャンスを作っていく。


だからといって、このまま勝てるとは二人も思っていなかった。
たとえヤンが新たに戦闘に加わってくれたとしても、巨大な亀の怪物を倒せるビジョンは見えてこない。
2人はその名を知らぬが、クッパを手負いまで追い詰めた者の凄さを実感してしまう。
そして持久戦に持ち込まれれば、身体の大きいクッパの方に戦況が傾いてしまう。
何か、瞬間的な破壊力に富んだ一撃が必要とされる状況だった。


「シャーク殿、頼みがあります。」
「手短に話せ。」


クッパの鉄球が当たらないギリギリの距離で、ヤンはシャークに話した。


「もう少し。いや、一手でよろしい。時間を稼いでもらえぬかな。」
「任せろ。今さら一手や二手ぐらいどうということはない。」
「ありがたい限りです。」
「ついでにこれも餞別代りにやるよ。」

シャークは攻撃力を上げる魔法、バイキルトをヤンにかける。
会話が終わると、すぐにヤンは後方に下がり、呼吸を整える。

「まて!にげるな!!」

クッパがヤンめがけて突進するが、そこは先ほどと同じように、シャークが蹴りを入れたことで攻撃を止める。
それがクッパが言う逃げではないと、王と言ってもコスタール王のような強さと優しさを兼ね揃えた者だと信用していた。
なので、彼は頼まれたことをするだけだと心に決めた。


そしてヤンも、クッパがシャークに掛かりきりになった瞬間、もう一つのモンク僧の技を使い始める。
集中力を外から内へ。敵を警戒するために広くしていた空間を、より集中するために狭める。
まずは全身の力を抜き、二酸化炭素を吐き出し、心を波一つない朝ぼらけの海のように沈める。
そこから息を深くゆっくりと吸い込み、徐々に力を溜めていく。


シャークの健闘もあって、今までで一番力を溜めることが出来た。
元の世界には無かった攻撃力を上げる魔法の加護もあり、かつてセシル達と戦った以上に力がみなぎって来るのを感じる。
このまま、クッパは愚か、デパートでさえも拳一発で壊せる自信があったぐらいだ。
さあ後は怪物にこの拳を突き出すだけ。


その時、足音が聞こえた。
極めて静かで、軽い足音。
だが、彼は標的をクッパに絞っていた。今さらそんなものなどどうでもいい。
いや、どうでもいいものとしか扱えない。たとえそれが命を狙ってくる存在であっても。


それがすぐ近くに来た瞬間、ヤンはその気配に気づき、ようやく疑問を抱くことになった。
スクィーラ、何故来たのだ。
違う、それじゃない。
なぜ針なんぞを、しかも自分の方に向けているのだ。



「あなた怨みはありませんが、私たち人間のためなのです。」


ぶすりと、猛毒の針がヤンの背中に刺された。
彼の表情に表れたのは、憤怒か、驚嘆か、それとも苦悶か。
毒の影響でみなぎっていた全身の力が、嘘のように抜けていく。





「ヤン!どうしたんだ!!」

いつまでもヤンが来ないことを案じ、踵を返して彼が離れた方向に走るシャーク。
その時クッパの爪が当たるが、自身が被った毒も気にすることは無く。
そして先程デパートで出会い、どこかへ逃げたネズミがヤンを刺していた瞬間を目にする。


「スクィーラ!!」

あの武器の攻撃力が毒に頼ったものなら、キアリーをかければいい。
制限されている間とは言え、ベホイミを使えばまだ延命が出来るかもしれない。
それに、あのネズミの魔物を許しておけない。
ナイフを振りかぶり、彼をも串刺しにしようとした時。
後ろからクッパの炎が、シャークを焼き尽くした。
炎はシャークの海賊の服や、キャプテンハット諸共、彼の肉体を焼き尽くした。


「キア……り……。」
あと一手、解毒魔法を唱えるまであと一手足らず、彼は息子と同様、炎に包まれて天に昇ることになった。



「そう………か……。」
幸か不幸か、ヤンはシャークが焼き尽くされる瞬間を見ずに済んだ。
ぼやける視界に映っているのは、醜悪なバケネズミの顔のみ。


身体中が痺れ、言葉を発するのも億劫だった。
その時、ようやく思い出した。
自分はクッパだけではなく、このネズミにも警戒していたのだと。
折角警戒していたというのに、自分の間抜けさを呪いたくなった。
いつだってそうだ。
ゴルベーザに操られたり、パロム達やテラを助けられなかったり、ドワーフ城でクリスタルを奪われたり。
自分はここ一番でいつも失敗し、いいように騙されている。



彼は能力に頼った孤島の学園の子供たちに比べ、体力はずっとあった。
猛毒の針を何本も刺されても、それでも地面に尻を付けなかった。
せめてこのネズミだけでも倒さねばと、残った力を全て右手の拳に集める。
悪を滅する正義の役を最後まで全うするとか、吐き気を催す邪悪であるスクィーラを刺し違えてでも殺さねばならないとか、そんな御大層なものではない。


「ま、まさか?」


もう立つことさえ出来ぬはず。
その効力は、バロン城で戦った際にレンタロウで試している。
クッパのような怪物ならともかく、人間なら多少鍛えたぐらいではどうにもならない。
そんなことは露ほども感じさせないヤンの気迫を見て、スクィーラは慌てふためいた。


ヤンははっきりとわかった。自分はもう死ぬと。
辺りはクッパが吐いた炎の熱気が充満しているのに、身体は氷のように冷たい。
だというのに、全身からは滝のように汗が流れている。
自分がすることは一つだというのに、脳裏に浮かんだのは、どうでもいいことばかりだった。
そういえばメテオを撃つ前のテラ殿もこんな感じだったのか。
そう言えば、ここ最近弟子に稽古を付けたいないな。
役に立ちそうにないが、支給品のあの道具を、帰りを待っている妻の土産にしたかった。


炎の爪も、バッジ以外の他の支給品も奪われてしまったが、入らない力で振りかぶった拳をスクィーラに突き出す。
その時、スクィーラの懐から、ナイフが飛び出た。
彼が投げたのではなく、ナイフそのものに意識があるかのように飛び、ヤンの右手首を切り裂いた。
それは彼がレンタロウから奪ったダンシングダガーだった。
ヤンが元の世界にいた時から知っていた武器とは言え、どこから出るか分からなければ対応が出来ない。
全く持って予想外のナイフに深く斬り裂かれ、腕をぶらんとさせる。
それでも、両脚で立ったまま、両目を見開いたまま。
ファブール最強のモンク僧は、戦いの構えを崩さぬまま死んだ。

スクィーラはこの殺し合いに参加させられる前は「塩屋虻」というバケネズミのコロニーの将軍だった。
木の枝や葉の裏側でじっとして獲物が通りかかるのを待ち続け、時が来ればひっそりと近寄り、獲物の神経を切り裂くのが塩屋虻のスタイルだ。
今の彼は、まさに塩屋虻のごとし。



「ローザのなかま!!これでおわりだ!!」

クッパの炎が、ヤンの死体を焼き尽くした。
間違った復讐が終わると、クッパは借りてきた猫のように大人しくなった。
焦点の合わない、光を失った瞳でどすんと座り込む。


一先ずは落ち着いたようだが、それを見て、スクィーラはこの怪物をどうするか悩んだ。
先ほどは結果的に良かったが、やはり指示通りに動かない怪物は、いつ自分に攻撃の矛先を向けられるか分からない。
おまけにヤンの支給品は事前に奪えたから良かったが、シャークの支給品は炎に巻かれて、灰になってしまった。
さらに子供とは言え、一人逃がしたのも気になる。
まあ、殺人現場を見られたわけでは無いし、今度会えば自分は悪くないを突き通せばいいかと考える。

「助かりました。クッパ様。神様の奥様をまた探しましょう。」
「………ピーチ、さがす。ピーチ、どこ?ローザ、わがはい、だました。」


スクィーラはヤンから奪った支給品を探す。
見つけたのは、貝殻のピアス。
とあるウェイトレスのお気に入りで、何の因果かかつても起爆剤に使われそうになった道具だ。
カードはそろった。後はこれをどこで使うか。


「ま、待って下さい!!」

先に勝手に歩こうとするクッパを慌てて追いかけながらも、頭の中ではそのタイミングを考えていた。





[シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 死亡]
[ヤン・ファン・ライデン@Final Fantasy IV 死亡]

[残り 22名]








【F-2 デパート近く/一日目 日中】


【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) 凍傷 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷(応急処置済み) 精神の衰弱(大)
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)
[思考・状況]
基本行動方針: ぴーち、とりもどす。さらったやつら、ゆるさない
1.すくぃーらにしたがう
2.わがはいをだましたローザはころす

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
※スクィーラの言葉により、ピーチ姫が生きていると錯覚しています。
※僅かだけ記憶が戻りました。




【スクィーラ@新世界より】
[状態]:軽い凍傷 体の数か所に裂傷 この殺し合いへの疑問
[装備]:毒針セット(8(うち5本を服の中に、残りをケースに)/20) @無能なナナ 黒魔導士を模した服@現地調達 ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ 守りの指輪@Final Fantasy IV 
[道具]:基本支給品×4(レンタロウ、美夜子、ヤンの分)、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG  金のカギ?@調達 金の鍵?から取った金粉 オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より  こおりのいぶき@ペーパーマリオRPG 通り抜けフープ@ドラえもん のび太の魔界大冒険 炎の爪DQVII貝殻のピアス@ペーパーマリオRPG クッパの支給品1~2 ヤンの支給品0~1(ヤンに適した武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:デパートへ向かって、参加者を探す。敵対するならクッパを使って殺す
2:クッパを操る
3:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムになり得るものを調達する。
4:主催者と関わり深いかもしれない意思持ち支給品を探す(写真のおやじなど)
5:朝比奈覚は危険人物として吹聴する。また、彼を倒せそうな参加者を仕向ける
6:金のカギを爆薬として使うべきか?
7:サイコバスター。どこで使うべきか。
8:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう
9:主催者が求めている『何か』を探す






※【F-2 デパート近く】にヤンの死体の近くに、ガツーンジャンプのバッジ@ペーパーマリオRPG ひそひ草@FF4が落ちています。




(やっぱり……あいつらは殺し合いに乗っていたのか!!)

ひそひ草に耳を傾けながら、事の端末を聞き取っていた。
彼が今持っている草は、いわゆる盗聴器のような役割を果たす。
しかも外見はただの一輪の花なので、カモフラージュの点から見れば盗聴器異常に優秀だ。
早人はヤンのズボンに、ひそひ草のスペアを入れていた。
かつてカメラで、川尻耕作に擬態した殺人鬼の動向を窺っていたように。


『ローザのなかま!これでおわりだ!!』
その瞬間、音声が切れた。シャークもヤンも助からないだろうと、考えてしまう。
本当ならすぐに戦いに戻りたい。
だが、あのネズミだけならともかく、クッパまでいるなら返り討ちに遭うのは目に見えている。
だから、逃げることにした。
森へ行き、カイン達を探そうと。
何度か振り返りながらも、能力を持たざる少年は走り続けた。




【E-2 市街地】


【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~1(武器ではない) ひそひ草×1@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗ってない者を集め、なぜか生きている吉良吉影、およびスクィーラとクッパを倒す
1: 森まで逃げ、カインにデパートで会ったことを話す
※本編終了後です
※名簿は確認しました。
※ヤンから主催者が変わったという説を考えています。




【ひそひ草@FF4】
川尻早人に支給された道具。
2つペアになっているアイテムで、言語の伝達、盗聴、録音などが出来る。
盗聴器と携帯電話を兼ねている。


【貝殻ピアス@ペーパーマリオRPG】
ヤンに支給された道具。
高級品で、リッチリッチエクスプレスの食堂のウェイトレスのお気に入り。
着けても特に守備力が上がったりしない。



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084:炎と森のカーニバル 時系列順 086:忘却も、思い出も
投下順
081:ネズミは路地裏を行く スクィーラ 096:闇に燃えし篝火は Apocalypse Day
クッパ
074:集合、そして散会 ヤン・ファン・ライデン GAME OVER
シャーク・アイ
川尻早人 092:Twilight Trail
最終更新:2023年01月08日 10:25