自分が怪物になっていると気づいたが、ローザは当初の予定通りバロン城へと向かう。
幸か不幸か、行けども行けどもボトク以外の参加者には出会わなかった。
上手く行けば、怪物の見た目をした自分でも敵意を抱かない相手が見つかり、仲介役をしてもらえるという期待はあったのだが、残念ながらそうは行かなかった。
いくらか歩いた所で、馴染みの城の姿が見え始める。
誰か知り合いがいるのかと言う期待を胸に、橋を渡ろうとした所で、全身に悪寒が走った。
(何……これ……。)
嫌な感じはかつてゴルベーザや、彼を操っていたゼムスと対峙した時に似ているが、圧迫感はそれよりも勝っていた。
立ち尽くしていると、嫌な気配の大元は、橋の先から歩いていた男だと分かった。
破壊と言う名の何かをまき散らしながら歩いているような男。
その正体が何なのか全く分からないのにも関わらず、身体中の震えが止まらなかった。
唯一分かったのは、自分は間違いなくこの男に勝てないということだ。
姿を変えられても体力や筋力は元の姿のままだということは分かっていた。
だが、体格が怪物であり、いつもより手足の短い寸胴体系である以上、柔軟な動作を必要とする弓矢はどうにも使いにくい。
そのため、ローザは橋の下に隠れることにした。
恐らく相手はまだ気付いていない。
踵を返し、橋を渡らずに土手の下へ向かおうとした時。
「何処に行こうとしている?」
地獄の鬼が鳴らす太鼓のような、低く響く声が聞こえた。
「え……!?」
突然男は足を速めた。
ただ速さに驚いただけではない。
高く掲げた右手には、魔法でも放つかのような光の弾が集まっている。
その姿は、光さえも我が物にした悪魔のよう。
「くっ……ホーリー……。」
逃げられないことが分かり、反撃の白魔法を打とうとするが、時すでに遅し。
その手から放たれた速球は、簡単にローザを捕らえた。
「―――――――――!!」
文字にならない悲鳴を上げる。
光が闇夜を照らす花火のように弾ける。
まるでサンダガでも受けたかのような衝撃が全身を走り、地面に崩れ落ちる。
50mは間隔があったため、まだ逃れられると高を括っていたのが失敗だった。
それはほんの数秒の出来事。
だというのにそれなりにあったはずの距離が瞬く間に詰められ、握られていなかったはずの場の支配権はいとも簡単に握られる。
仁王立ちしている男は、一瞬の離れ業をやってのけたにも関わらず、涼しい顔をしている。
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(ふむ。先の戦いで幾らか手傷を負ったが、どうやら動きや魔法には差し支えないようだな。)
ガノンドロフは右手をにぎにぎと動かし、どこか体に不具合がないか確かめる。
目の前にいた怪物で、運動能力、あるいは首輪に何かしらの制限を掛けられている可能性を調べようとしたが、特に問題ないことを確認した。
「………。」
足元ではうめき声と共に、怪物がピクピクと痙攣している。
とりあえず命に別状はないと確認し、次いで情報を取ることにした。
彼として気になったのは、怪物から発せられる気配だ。
見た目こそは彼の手下の怪物達と何ら変わらない、緑色の肌や尖った爪・牙を持った生き物。
だが、気配こそはそれらが出すものでは無く、むしろガノンにとっては不愉快な、一般の人間にとっては神聖に感じるものだ。
彼の知っている存在で比較すると、同じトライフォースの所持者にしてハイラルの王女の、ゼルダに似ている。
言ってしまえば、見た目とそこから醸し出される気配がまるで違うのだ。
目の前の女性からは、蜂蜜滴るリンゴを口にした時に、それから唐辛子の味がしたかのような違和感を覚えた。
擬態と言ってしまえばそれまでだが、ここまで完璧な変化などガノン自身も見たことが無い。
自ら擬態をしたのか、はたまた他の何者かに姿を変えられたのか。
「貴様に起こったこと、全て話せ。」
剣の切っ先を怪物の太い首元に向けて、問い詰めた。
それだけで話すか、死かという強迫になる。
だが、皮肉にも相手は話を聞いてくれる相手を求めていた。
そのため、好都合にも怪物は起こったことの詳細を話した。
元はローザという白魔導士だが、ボトクという怪物によって、姿を変えられたということ。
そしてボトクはローザの姿に成り替わり、デパートの北へ向かったということ。
最初は妙にペラペラ起こったことを話すと思うが、確かに自分にとって明かされれば不都合な情報ではないからだと納得した。
ただ、度々別の方向を定期的に見ていることから、どうすればこの場から逃れられるか考えていることは何もせずとも伝わった。
一通り相手は話し終わった後、ローザを嘲笑うかのように、ふんと鼻を鳴らした。
ローザやボトクの目的など、知ったことではない。
どのみちこの殺し合いに乗るにしろ乗らないにしろ、いずれ自らの手で殺すか、他の誰かによって殺されるかのどちらかしかないのだから。
怪物の姿をした女が元の姿を取り戻せようが、ボトクの作戦の成功しようが興味はない。
ましてやそれによって誰が死のうと生きようと、興味は全く沸かない。
だが、いくつか魔王の興味に引っかかったことはあった。
一つは、変化の魔法のこと。
既に老兵士と亀の魔物との戦いで、この世界ではガノンを以てしても知らない力があるのは知っていた。
だが、それらは自分の世界の類似品の域を超えないものだという認識もあった。
変化の術とは、それとは一線を画している。
あの忌まわしい影の僭王、ザントは影の女王ミドナの姿を変えたが、それは力を奪ったことによる追加効果のようなもので、姿を変えることを第一としたものでは無い。
何を求めているのかと言うと、トライフォースの力をも超える新たな力だ。
流石にボトクという魔物が強大な術の持ち主ではないと思うが、どのような魔力を持っているかは調べてみたいと感じる。
異なる世界の力同士を併せて、トライフォースさえも征服出来る力の錬成も可能かもしれない。
そしてもう一つ気になったことは、体格の変化のこと。
具体的にかつてのローザの体格と言うのはどのようなものか、カード名簿を見ただけでは分からないが、少なくとも均整は人間と違うのだろう。
例えば、首の太さなども異なるはずだ。
ボトクの術は魂を入れ替えたのではなく、姿を変えた。
その情報から察するに、自分にもつけられている忌まわしい首輪は、どういうからくりかは分からないが、持ち主の変化にもある程度順応出来るということだ。
従って、自分の切り札でもある、魔獣変化も行うことが出来る。
先の戦いは室内ということもあったが、何より巨大化による首輪への衝撃を恐れていたため、それが出来なかった。
「失せろ」
「…………?」
怪物の姿のままローザは、間抜けたような表情で見つめていた。
「聞こえなかったのか。我の気が変わらぬまま、どこへでも行けと言ったのだ。」
どうやらようやく言葉を理解したようで、ローザはそのまま橋を渡って消え去ろうとした。
別に殺しても問題はないが、怪物のままにしておいた方が、あれこれと混乱を生み、殺し合い終了までの時間を少なく出来そうだったからだ。
ガノンにとっての殺人は今も昔も手段であり、目的ではない。
従って自分が手を下さずとも他の誰かが殺してくれる状況だったり、見逃したことで更なる混沌が生まれる可能性があるなら、殺人をしないということもある。
それに怒りに任せて全てを滅ぼすのはこの場では難しいと、一度目の戦いで学んでいた。
「ああ、そうだ。リンクと言う耳長で緑帽子の男と、ゼルダと言うこれまた耳長で金髪の女を見なかったか?」
一瞬呆けた顔でガノンを見つめたのち、ローザは首を横に振った。
「もういい。知らないなら、さっさと行け。」
そのまま哀れな元人間の姿は見えなくなった。
「フッ……フハハハハハハハ!!!」
この戦いが始まってから暫くの間怒りに満ちていたガノンドロフは、初めて高笑いを上げた。
終ぞ入手できなかった勇気と知恵のトライフォースのみらなず、異なる世界からやって来た力までも手にする。
優勝し、デミーラとザントを殺し、その先に見るのは何なのか。
魔王は更なる未知との出会いが、楽しみで仕方が無かった。
【G-3/市街地/一日目 黎明】
【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:頭に傷 腹部に打撲 高揚感
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0~1 確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者も含め皆殺し、その過程でリンク、ゼルダから勇気と知恵のトライフォース、あるいは別の世界の強い力を手に入れる。
※ハイラル城でリンクを待っている間からの参戦です。
【G-4/市街地/一日目 黎明】
【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:HP2/3 ボトクの姿 恐怖
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢30本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:バロンへ向かい、対主催勢力を集める。かつての仲間だけじゃなく、様々な参加者と協力したい
1.ボトクに対抗する勢力を集め、彼に自身の姿を戻してもらう
2.ガノンドロフに警戒
※参戦時期は本編終了後です。
最終更新:2021年11月14日 10:37