「何か分からぬが、随分と派手にやっているようだな……。」
遠く離れた煙が立ち上る建物を眺め、繰り返されるティンパニのような轟音を聞きながら、ガノンドロフは1人呟いた。
あの騒動は、先程会った女性の姿を奪った怪物、ボトクが原因になっているのか。
もしまだあの場所にボトクがいるのなら、捕まえて魔力の正体を聞き出せるか。
期待を胸に抱き、崩壊し行く杜王駅へと向かう。
「ウガーーーーッ!!!!!」
煙が上がっている場所に近づいて見ると、建物が崩壊する音だけではなく、怪物のような鳴き声も聞こえる。
正体が分かるまで、そう時間はかからなかった。
鎖の付いた鉄球を振り回した、巨大な亀の怪物が現れていた。
(確か……名簿によると、クッパという名前だったか?)
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
破壊の権化と化した怪物は、鉄球を振り回し、目につく建物全てを破壊する。
自分の姿に気づいたらしい怪物は、ドカドカとうるさく走ってきて、鉄球を投げてきた。
当たれば、ガイアーラの鎧を身に包んだ自分でさえも、無事では済まないだろう。
しかし当たらなければどうと言うことは無い。
ガノンドロフがさっと身を逸らしただけで、破壊の塊は明後日の方向へ飛んでいく。
「避けるなアアアアアアアア!!!」
相手は怒る、だが、遅い。
こういった武器は往々にして、躱されてしまうと大きな隙が出来てしまう。
二撃目を許さず、剣を持っていない方の手で鼻先を思いっ切り殴った。
その一撃で、巨体は大きく後退する。
「ウガーーーーッ!!」
雄たけびと共に、ズシンズシンを足音を立てて突撃をしてくる。
いくら手傷を負っているからと言って、その程度で立てなくなることは無い。
鉄球に頼れないと分かると、クッパは鎖を捨てて炎を吐き、ガノンドロフを焼き尽くそうとする。
だが、気にせずに紅蓮の炎の中を突っ切る。
彼が纏っているガイアーラの鎧は、並の炎は軒並み無力化してしまう。
それでも彼の吐く息を完全に防ぐことは出来なかったが、それで十分。
そのままクッパの下腹部に思いっ切り蹴りを入れる。
ガノンドロフの足に、ズンと蹴った時の衝撃が伝わる。
その箇所は既にアルスのギガスラッシュで大きなダメージを受けていたため、ダメージは倍にも3倍にも膨れ上がった。
2,3度バウンドし、壊れかけの建物の壁を突き破り、柱にぶつかった所で止まる。
「何だ、所詮は見掛け倒しか?」
崩れ落ちるクッパの目の前に仁王立ちし、右手で鉤の形を作り、来いと挑発する。
しばらくの間クッパは、炎を吐いていた所で思いっ切り腹に衝撃を受けたこともあり、呼吸さえままならなかった。
しかし、呼吸がどうにか整うと、息を吸い込み叫ぶ。
「キ、キサマは!?」
どうやら先程のショックで冷静さを幾分か取り戻したようだ。
「我のことを知ってどうするというのだ!?」
傲岸不遜な笑みを浮かべる。対して、クッパの表情は引き攣っていく。
誰か知り合いでもいるのか、辺りを見回した後にクッパは叫んだ。
「ローザ!!逃げろぉ!!!!」
何の皮肉か、手痛い攻撃を受けたことで、身体のリミッターが作動し、周りの相手を慮る冷静さを与えたようだ。
強大な敵を目の前にして、仲間に逃げろと促す姿勢は立派だ。だが。
「ローザだと!?ハハハハハハハ!!!」
口元を歪め、零れだすのは絶え間のない嘲笑。
この怪物が暴れていた理由に全て納得がいった。
「キサマ!!何が可笑しいというのだ!!」
鋭い爪でガノンドロフを引き裂こうとする。
だが、その爪が届く瞬間、がっちりと腕を掴む。
掴まれてない方の腕で、殴りつけようとしてくるが、それもまた掴む。
あの鉄球を振り回せるだけに、力こそはかなりのものだと、組み合って見るとそれが伝わる。
「教えてやろうか?貴様がローザと呼んだ女は、ボトクと言う怪物が化けていた姿だ。どうやらキサマは奴に一杯食わされたようだな。」
一瞬驚いた顔をするも、すぐにその言葉を否定する。
「……デタラメを言うな!!」
「ウソもデタラメも言っておらん。少し前、ここより南の方でローザと名乗った怪物の姿をした女性に会ってきた。」
「デタラメを言うなと言ってるだろう!!」
さらに拘束を振りほどこうとする力が強まる。
これで全力じゃないとは恐ろしいなと呆れるぐらいだ。
力で打ち勝つのはとてもではないが難しい。
だが、攻撃は怒りに任せたワンパターンなものでしかない。
この程度なら、いくらでも凌ぐことは出来る。
クッパは密着状態で、ガノンドロフの顔面に噛みつこうとする。
巨大な牙の一撃を顔面に食らえば、即死ではないにしろ、タダでは済まない。
しかし、力が増していくクッパに対して、敢えてガノンドロフは腕の力を抜いた。
急に敵が力を抜いたことで、元々噛みつこうとして前のめりになっていたクッパは、容易にバランスを崩す。
「おわ!?」
そのままがら空きになったクッパの脇腹に、再度蹴りを見舞った。
またも相手は吹き飛ぶ。
そしてまた太い腕を振り回し、襲い掛かって来る。
「キサマ!!こざかしい真似をしおって!!」
「つまらんな……」
クッパの鋭い爪がガノンドロフに襲い来る。
寸前で身を逸らして躱す。
「クソ!!クソ!!クソ!!」
何度も腕を振り回すが、今度は受け止めるようなことはせず、躱し続ける。
「どこまで逃げる気だ!!力づくで勝負しろ!!臆病者め!!」
「逃げたつもりはないがな。」
稼いだ時間を使い、右手には魔法のエネルギーが宿る。
「ヌゥゥン!!」
そのままクッパ目掛けて投げつけた。
「グアアアアア!!」
敵に命中した所で魔法弾は爆ぜ、雷が頭上に落ちたような痺れと、衝撃を受けてクッパは倒れ伏す。
「貴様のような臆病者にその様に言われるとは心外だな。」
「誰が臆病者だというのだ!!」
立ち上がり、啖呵を切るとすぐに、炎を吐くための息を吸い込む。
「ヌグッ!!」
しかしその顎に蹴りを見舞い、ファイアブレスをキャンセルさせる。
「騙されていると認めたくなくて、怒りのまま力を振るい続ける貴様だ。」
クッパは炎を吐きつける所を無理矢理止められたので、ゲエゲエとえづき始める。
「もし我の言葉が偽りの物で、ローザが人間だとしても、どのみち行方が分からぬ以上は裏切られたのではないか?」
「ウルサイ!!どいつもこいつも、ワガハイの邪魔ばかりしおって!!」
クッパは拳を固め、ガノンドロフに殴りかかろうとする。
一度は冷静になったというのに、またも我を忘れるとはしようのない奴だと笑みを浮かべ、相手を迎え撃つ。
迎え撃つ、とは言っても、戦いの主導権は握り切っていると確信したガノンドロフは、クッパの戦い方には乗らず、殴打も噛みつきも、突進も1つ1つ闘牛士の様に躱し続ける。
今度はカウンターの蹴りも、魔法弾も撃たない。
両腕を振り回し、炎を吐き散らし、時には飛び回る。
その都度地面が、建物が、街灯が焦げ、抉れ、ひび割れ、砕ける。
しかし、地面を二度と治ることが不可能になるほど痛めつけても、トライフォースの魔王を傷つけることは出来ない。
頑丈な大地の精霊の力を借りた鎧に守られているのもあるが、如何せん敵の攻撃がワンパターンすぎるのだ。
どんなに強い力での攻撃も、どこに来るか分かっていればさして恐ろしくもない。
「……ゼエ……ゼエ………。」
クッパが肩を落とし、息が切れ始める。
それまで戦術も何もあった物ではないとはいえ、必死で攻撃していたのだが、それさえ出来なくなる。
もともとアルス達との戦いで体力はかなり消耗していた。
その消耗を怒りによってカバーしつつ続けていた攻撃も、体力切れによる限界の時が来た。
「愚かな。自分がどのような状況に陥っているのかさえ分からず、獣か童のように暴れ続けることしか出来ぬとは……。」
「調子に乗るな!!まだワガハイは負けておらん!!」
炎を吐こうとするも、出たのは黒い煙だけ。
もう攻撃の手が無くなると分かったガノンドロフの行動は早かった。
まずはクッパの両手を鷲掴みにし、体重をかけて巨体を地面に叩きつける。
一度地に付し、バウンドして空中に戻った後、飛び蹴りを二発見舞う。
下からの攻撃によって、高く高く上がり、ジャンプしても届かなくなるまで上空に飛ばされる。
手が届かなくなった所で、魔法弾を片手に集め、上空のクッパに投げつけた。
「ガアアアアアア!!!」
またも黄白色の魔法弾が、光の粒を飛ばして眩しく弾ける。
既に白みかけている空に、最後の花火が起こるかのようだった。
しかし、これで終わりではなく、クッパが地面に落ち始めた所で、自分も跳び上がり、上空から巨大な槍の様な両足でクッパを蹴り落とす。
抵抗も出来ず、受け身も取れずそのまま隕石の様に地面に堕ちた。
「フン……他愛もない。」
常にフルスイングで戦っていたクッパに対し、最低限の動きで攻撃と回避をつづけたガノンドロフは、少々疲れたと言ったぐらいだった。
これなら、最初に城で戦った老兵士とカメの男の方が、まだ戦い甲斐があった。
しかしガノンとしては、どうにも桁落ち感がしてならなかった。
ボトクがいるなら殺して力を奪い、ボトクで無かったら駅を壊す程暴れている者に力を見せつけ、配下に加えるつもりだった。
しかし、こんな暴れるだけの生き物を配下に加えることは出来ない。
ブルボーでさえ、然るべき乗り手がいれば頭を垂れ、背中を許すというのに。
試しに相手がいかに愚かなことをしていたか説明し、自分と共にボトクや他の参加者を狩る算段をしていたのだが、上手く行くこともなかった。
これで終わりかと思えば、小さなクレーターの中心で、泥にまみれたクッパは身を捩っていた。
「しぶとさだけは認めるとするか……。」
クッパとの戦いでまだ使っていなかった魔法の剣を小箱から出す。
ただ使いたくなかった訳ではなく、使う必要もないと思っていただけだ。
トドメに首を斬り落とし、さっさと終わらせようとする。
「そう言えば、奴の力を明かすためにも、この首輪は必要だな。」
迂闊に首輪を作動させないように、慎重に剣をクッパの首に合わせる。
剣を一振り、クッパの首が落とされる―――――はずだった。
「ガアアアアアアアアアア!!!!」
クッパは力で剣の刃をがっちり握る。
「ぐ……離せ……!!!」
しぶといことは分かっていたが、まだ戦う力が残っていたのは予想外だった。
剣を上下させ、無理矢理離させようとする。
元から滲み出ていたクッパの両手から、出血量が増すが、それでも離すことは無い。
そのまま遠心力に任せ、ガノンドロフごと剣を振り回した。
ジャイアントスイング。
かつてクッパはこの技で爆弾にぶつけられ、マリオに敗れたことがあったが、何の因果かその技が彼を救った。
最早クッパに体力は残されていない。
代わりにクッパの体というエンジンを動かしていた怒りの炎も、燃料は既に無くなり、文字通り火花と煙だけの下火になっている。
彼を動かしたのは、こんな所でいいように騙されたまま死にたくないという、マリオとの戦いでは決して味わったことのない恐怖心だった。
「ぬうううううう!!!」
さしものガノンドロフも叫び声を上げる。
手を放しても放さなくても、思いっきり吹き飛ばされる。
「ガアアアアアアアアアア!!!」
何回振り回したか分からないが、そのまま手を離した。
もう良いと思ったから投げ飛ばしたのか、手を放す力が無くなったから投げ飛ばしたのかは分からない。
力の魔王は剣ごと飛んでいく。
かなり遠くに飛ばされたが、地面に魔法弾を打った反動で、落下の衝撃のほとんどを抑えることが出来た。
(フン、時間をかなり食わされたな。)
走れば戻ることは出来たかもしれないが、もうあのカメの魔物に構うつもりはなかった。
そのまま放置すれば勝手に死ぬかもしれないし、自分のような者に殺されるかもしれない。
よしんば何らかの奇跡が起きて、復活したとしても、さほど脅威にならないと考えた。
それよりも彼が気になったのは。
「『ヤツ』とはそんなに遠くないという訳か……。」
地面に落ちた時、人間の足跡が見つかった。
進行方向に沿って規則正しく並んでいるというより、どこか不規則な並び方をしている。
まるで踊りでも踊ったかのように。
嬉しいことが起こり、はしゃいでいるかのように。
未知の力が手に入るまで、そう遠くないと分かり、期待に胸躍らせ、足跡の方向へ向かう。
【E-2/杜王駅北/一日目 早朝】
【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:頭に傷 腹部に打撲 背中に打撲(軽) 疲労(小) 高揚感
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)
基本行動方針:主催者も含め皆殺し、ただし殺すに値しなかったり、生かすことでより混沌が生まれそうな場合は別。
[思考・状況]1:ボトクを捕まえ、配下に加える、または魔力を奪う。
2:クッパは野垂れ死ぬのに任せる。
3:その過程でリンク、ゼルダから勇気と知恵のトライフォース、あるいは別の世界の強い力を手に入れる。
※ハイラル城でリンクを待っている間からの参戦です。
「…………。」
身も心も徹底的に痛めつけられ、何も言わず、動かずにクッパは蹲る。
美女に変身していた悪鬼に騙され、いいように扱われ、捨てられ。
もう覚えられなくなるほど殴られ、蹴られ、投げ飛ばされ、魔法の力を食らい。
それでも、クッパの命は頑なに尽きることを拒んでいた。
その瞬間だった。
具体的な理屈で知ったわけではないが、知ってしまった。
何度倒されても諦めなかった大切な想い人が、死んでしまった。
第六感が告げたのか、何故知ったのかは分からないが、どういう訳かそれが分かってしまった。
どのみち分からなくても、彼女の死はもうじき告げられるのであまり変わりはないが。
深く、深く、深く。
ガノンドロフの力によって造られた、自分が寝転がっているクレーターより大きい穴がクッパの心を苛んでいた。
だが、ガノンドロフにも、ボトクにも、果てにはデミーラとザントにさえも憎しみは無かった。
憎んだのはここまでされても死ぬことを許さない、自分の生命力だけだった。
【E-2/杜王駅南の市街地/一日目 早朝】
【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(特大) 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷 戦意喪失
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:………。
※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
最終更新:2022年01月23日 19:50