とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-365

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匿名ユーザー

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 みんなに紹介するから、と言って歩き出した言祝の後ろを、上条とサーシャは頭が回ってない状態のままついていく。軽く校内を案内するつもりもあるようで、言祝は何かある毎に立ち止まってサーシャに話しかけていた。その間、他校の制服を着た金髪美少女であるサーシャは少々どころかかなり目立ったが、横に上条がいるとわかると一転、「まあ上条だしな」という空気ができ追求されることはなかった。同学年だけでなく上級生まで同じ反応を示したのは、きっと年代の壁を越えて一致団結していることの証しだろう。幸か不幸か教師の誰かと鉢合わせすることもなく、三人は無事にある教室の前にたどり着いた。
「――って、一年七組(おれたち)の教室じゃねーか」
「そ。やっぱり持つべきものは身近な友達よねー。みんな快く承知してくれたのですよ」
「……、」
 つまり被害は身内に限定されていたということか。安心すべきなのかどうなのか、上条は判断に迷う。
「でもさー言祝。今さらだけど、本気でサーシャにシンデレラやらせるつもりなのか? ウチの生徒でもない人間が主役を張るのはまずいと思うんだけど」
「何とでもなるって」
「どこから来るんだその自信! いくら監督でも出来ることと出来ないことがあるでしょーが! そしてサーシャ! お前がなんにも言わないから勝手にどんどこ話が進んでんだぞ!? いいのかそんな流されるままの人生で!」
 上条は一歩下がった場所でぼーっとしている赤シスターを怒鳴りつけた。
 手提げをぶらぶらさせていたサーシャはほんの少し考えるそぶりを見せ、
「確認一。私はトーマたちの演劇に役者として勧誘されていると判断してよいか」
「そうだけども、それは中庭にいるときに言っておくべきだった台詞だぞ」
 なら、とサーシャは言祝の方を向いて、
「私見一。興味はある。私にできることであるなら参加してみたい」
「な――」
「そーこなくちゃ! 簡単ではないかもしれないけど、あなたなら大丈夫! 私に任せてくれれば一週間で素敵なお姫様にしてあげるわ!」
 何故、という言葉は興奮した言祝の叫びにかき消されてしまったのだけど――
(『灰姫症候(シンデレラシンドローム)』のことはどーなるんだ?)
 上条は思う。
『灰姫症候』
 人から人へさまよう魔術、『零時迷子(ヌーンインデペンデンス)』を元に組み立てられたらしい新種の術式。
 本来なら数回の移動でイメージが保てなくなり崩壊するはずの『零時迷子』を、誰もが知っている“とある物語”を媒介にすることで半永続化させたものらしい。
 誰が、何の目的で作った魔術かはわからない。しかし問題なのは、それが今も学園都市の誰かの中に存在するということだ。
 しかも魔術師の手に渡ってしまえば、容易に伝染病のような効果に変更して再放流することができるという。
 そのような事態を未然に防ぐために、そして原因を究明するためにロシア成教とイギリス清教の両方から勅命を受けてやってきたのが彼女、サーシャ=クロイツェフである…………はずなのだが。
(これじゃあ、本当にただの学生活動じゃねーか)
 だんだん不安になってくる苦労人上条である。
 それに気づいたのか、赤シスターは熱く語り続ける言祝から離れ、背伸びをして上条の耳元に口を寄せた。
「(説明一。問題はない。これは全て『灰姫症候』捜索のために必要なこと)」
「(はい? そう言われましても無学な上条さんにはアナタが学校生活をエンジョイしようとしているとしか見えないのですが)」
「(補足一。演目が『シンデレラ』だから。演劇を通して『灰姫症候』を誘い出せる可能性がある)」
「(……どゆこと?)」
 いつまでも背伸びをさせておくのは申し訳ないので中腰になる。
「(補足二。『灰姫症候』は“童話『シンデレラ』に関する知識”をイメージの基盤に置くことで、素人の中でも構成が崩れないようにしたもの。ならば“『シンデレラ』という物語のイメージを操れれば、『灰姫症候』に干渉することができるのではないか”というのがインデックスのアイデア。問題はその手段だったのだが……演劇というのは存外に最適だったかもしれない。トーマに会いに来て幸運だった)」
「(うわー生まれて初めてかもしれないそんなこと言われたの。でもさ、それだと劇を見に来た人にしか効果なくないか? 捜索範囲は学園都市全域なんだろ?)」
「(解答一。元より『灰姫症候』の捜索メンバーは私だけではない。ブラザー土御門もそうであるし、他にも数名が何らかの手段で学園都市に入っているはず。私の役割はインデックスと共に捜索することであるから、彼女の知識から導き出された計画を実行することに問題はないと思うのだが)」
 上条は身を起こし腕を組む。
 言っていることはわかる。わかるんだけど…………
「おーいー? そろそろ入るよー?」
 ドアの取っ手に手をかけた言祝が、首だけひねって呼んでくる。サーシャは上条より先に歩き出した。
「解答二。了解した」
「おもしろいしゃべりかただねーサーシャちゃん。かみやんくんと何ひそひそ話してたの?」
「解答三。大したことではない。今日の夕食の献立について」
「なんか深く考えるすごい意味になりそうな……そう言えば『トーマ』なんて下の名前で呼んでるくらいだもんねぇ?」
「私見二。友人がそう呼んでいるのでそれに倣っているだけなのだが」
「ほほう。三角関係というわけなのですね」
 微妙な塩梅(あんばい)でかみ合っていない会話を続ける天然赤シスターとお気楽腹黒監督に置いてきぼりにされそうな上条だったが、
 そんなことはどうでもいいくらい、気になっていることが一つあった。
(…………自分で気づいてんのかね。さっきの説明、妙に押しが強かったぞ)
 上条は小さく“笑う”。
 詰まる所、シンデレラ劇が『灰姫症候』の捜索に好都合だったとしても、実際に参加してまでどうこうするほどのものでもないはずだ。練習という手間暇、共演者という重荷、そんなものをわざわざ抱え込むメリットなんてない。
 ないはずだ――魔術師には。
 上条は思う。
 拷問道具標準装備で、表情が読みづらい彼女だけど、好きなものややりたいことだってきっとあるのだろう。
 比較的年齢の近い集団に飛び込んだことがきっかけで、そういった欲求が顔をだしたとしても不思議はない。
 しかもそれがシンデレラをやってみたいってことだなんて――なんとも可愛らしいわがままじゃないか。
(ま、ちょっとは仕事の選り好みしたって罰は当たんねぇだろ。不都合が出るなら、その分は土御門にでも回しゃいい。一端覧祭は学生が楽しむためのイベントですってな。せっかく制服を着てるんだから、サーシャも楽しめばいいんだ)
 うんうん、とまるで父親か教師みたいに妙に嬉しい気持ちで微笑する上条当麻。
 ――――――――――――――――――――――――その微笑が凍りつくまで0,5秒。

「「………………………………………………………………(怒)」」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
 言祝が開けたドアの向こう。スタンド使いも真っ青な闘気を無差別に撒き散らしている吹寄制理(おうじさま)と姫神秋沙(まほうつかい)がいらっしゃいました。


                    ◇   ◇


 さて、三分後。
 問答無用、とばかりに上条当麻は教室の中央に正座させられていた。その周りを五人の人間が囲んでいる。完全包囲というやつだった。
 上条はおそるおそる口を開く。
「…………あの。客観的に常識的に考えてワタクシめも被害者の一人であるというのにこの扱いはなんなのでせう?」
「黙りなさい上条当麻。全ての責任が貴様にあることは明らかよだからそのまま日が暮れるまで反省していること」
 一人目。吹寄制理が恐ろしく冷たく言い切った。教卓に立ち、まるで裁判官のように上条を見下ろしている。開廷直後に下された実刑判決に「被告人」上条は猛反発した。
「だって! 演劇の役者が足りなくなったのもそれで吹寄たちが強引に引っ張りこまれたのも俺のせいじゃねーでしょ!? こうなったら腹をくくってみんなでオスカー目指そうぜ!」
「とても良い言葉なのだけど。君は大きな勘違いをしている」
 上条から見て左、のんびりした声に少量の怒気を含ませているのは二人目、姫神秋沙だった。座っている机と椅子を横向きにして上条に向けている。どうやら彼女の役割は「判事」らしい。
「どゆこった? 姫神」
「私達は。演劇をすることに不満があるわけではない。というか。むしろそれ自体は望むところ」
 大覇星祭の時の負傷から完全回復したばかりの黒髪の巫女さんは、かねてからの憧れであった「魔法使い」にたとえ劇の役だとしてもなれることを喜んでいるようだった。
 教卓の吹寄はちょっぴり口を尖らせて、
「……私はそうでもないんだけど。栞がどうしてもって言うから仕方なく」
「そやねー。吹寄さんは優しいお人やもんねー。でもボク思うんやけど、やっぱ吹寄やったら王子様より継母の方が性格的にぐばっ!?」
 姫神の隣にいる三人目が超高速で投擲されたチョークを眉間に喰らい悲鳴を上げる。「判事側の証人」青髪ピアスは奈良の大仏みたいになったおでこをさすった。
「被告人」は何がなんだかさっぱりだ。
「あのさー。本気でわかんないんだけど、結局お前らは何で怒ってるわけ?」
「んーとやねー。手っ取り早く言うと」
 青髪ピアスが手を挙げ、吹寄と姫神もそれに続き、三人で同じ一点を指差す。
 異口同音に告げる言葉は、

「「「その子誰(やねん)ってこと」」」

 彼らの示した先、上条から見て右方にいるのは、
「………………、」
 何故自分が注目されているのか全くわかってない様子の「弁護士」サーシャ・クロイツェフだった。
 その隣には「弁護士側の証人」言祝栞がニマニマしながら座っている。
 あー、と上条は右手で顔を覆い、
「えーとこの人はですね、俺の知り合いの子で、たまたまウチの学校に見学に来てたところを言祝がスカウトしちまって」
「知り合いと認めたね。そうなるまでにどのような経緯があったのやら。裁判長。被告に無期懲役を求刑します」
「といいますかカミやん。ボクのいないところでロリ金髪しかも工具常備の大工さん属性持ち美少女とお知り合いになってるってどういうこと!? 裁判長! 無期懲役なんて甘っちょろいこと言っとらんとここは古式ゆかしい断頭台(ギロチン)の復活を提案いたします!!」
「妥当なところね。大道具とかけあってみましょう」
「なんだそのスピード裁判!? 判事と裁判長がグルって最悪じゃねーか! こんな司法取引も探偵パートもない裁判なんて認められません! せめて弁護側にも発言させてくださいな!」
 最初は無視していたが、あまりに「被告人」がわめき続けたため、「裁判長」はいかにも渋々といった様子で、
「しょうがないわね。……サーシャ=クロイツェフさん、といったかしら。昨日も会った気がするんだけど」
「解答一。私も貴女のことは記憶している。それと、私のことはサーシャでいい」
「……どうも」
 サーシャのしゃべり方に慣れないのか――あるいは性格にか――、吹寄はわずかに怯んでいた。が、すぐに真剣な顔に戻り、
「それで、肝心なことを聞くけど。――――本当に上条当麻に何もされてない?」
「おい吹寄!? それ全然関係ないだろってごっ!?」
 裁判長の許可なく発言するなと言わんばかりの超速チョークが上条に炸裂し、沈黙させた。
 サーシャはその様子をぼんやりと見ていたが、やがて何事もなかったかのように、
「解答二。協力は色々してもらっている。危険なことは今のところない」
「裁判長。この二人は今夜一緒に夕食を食べるそうでーす」
「言祝てめどばっ!?」
 復活直後に再び撃沈。
「カーミやーん……」「上条君……」「上条……」
 法廷(きょうしつ)の空気が一層凶悪なものに変わる。それはもうDIOの館くらいに。
 青髪ピアスは殺意に満ちた目でにらんでくるし、姫神はなんだか嫉妬めいた瞳を向けてくるし、吹寄はそのどちらとも言えないような視線を突き刺してくる。
(うう。どうにもこうにもならん……不幸だー)
 味方であったはずの「弁護士側の証人」にも裏切られ、もはや救いなしいっそこのまま楽にしてー! と叫びかけた上条当麻だったが、それを静かな声が制した。
「――提案一。この状況が私の存在によるものならば、私は演劇活動への参加表明を取り消す」
「…………え?」
 突如立ち上がった「弁護士」の発言が。
 呆気に取られた声を出したのは吹寄制理。しかし他の人間も彼女と全く同じ心境だった。
 もちろん上条も。
「サーシャ……?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいサーシャさ――サーシャ。あなたはそこの横暴監督とセクハラ少年に無理やり連れてこられたんじゃないの?」
 せーちゃんひどーい、と口を突き出した言祝を、サーシャはちらりと見て、
「解答三。誘われたのは確か。しかし、私は自分の意思で参加を決めた。興味があったから。けれども、それが学友同士で仲違いする原因になるのなら、退くべきなのは私であると思う」
「…………う……」
 吹寄が、なんとも苦い物を飲み込んだような顔になる。
 それはそうだ。年下の女の子にリアルで「私のために争わないで」と言われてしまったのだから。
 しかも、
「………………………………………………………………、」
 口では止めると言っているサーシャの顔は、「本当はとってもとってもやりたいんです」と無言で訴えていた。そしてそれを、迷惑をかけて申し訳ないという思いで押し潰しているのまで見て取れる。
 恐らく、いや確実に彼女は気づいていないだろう。自分がそんな表情をしていることを。貼り付けたような無表情を保てていると思ってるに違いない。
 そして吹寄裁判長は、そんな一少女の不器用な願いを無下にできるほど非人情派ではなかった。
「あの……サーシャ? なんと言うかこれは、上条の日頃の行いのせいであって、決してあなたが悪いわけじゃないのよ?」
 そうだそうだと相槌を打つ検事側。特に青髪ピアスは今にも奇声を上げてサーシャに抱きつきかねない勢いである。彼女の属性に不器用属性が加わった結果らしい。
「――だけど」
 吹寄は顔を曇らせ、
「実際問題、サーシャを演劇班に迎え入れるのは難しいと思う。いくら監督のお墨付きっていっても、この学校のメインイベントの主役に他校の生徒をいきなり抜擢したら絶対に内外から反感を買うわ」
 それでも冷静に物事を捉えてしまう辺り、彼女は良くも悪くも優秀な運営委員だった。
 本当はこんなこと言いたくないのだろうが、役割を持つ者の責任として、吹寄は現実を突きつける。
「しかもあなたの着てる制服(それ)、近所の中学校のじゃない。ということはまだ十三か四、でしょ? 年齢(とし)も足りてないんじゃ、転入生ってゴリ押しすることもできない」
「――――だったら、新入生ならどう?」
 ス、っと。
 その声は豆腐に包丁を差し込むように全員の耳に入った。
 視線が集まる。
 声の主――「弁護士側の証人」は自信たっぷりに腕を組み足を絡め、
「この高校に進学を希望している生徒から一人、特別ゲストとして舞台に上がってもらうことにしました。選ばれた子はとても可愛らしい外国人の女の子でした。その子がシンデレラの役をやりたいと言うので、優しい先輩達は快く譲ってあげることにしました……とこういう筋書きよ。これならサーシャちゃんが堂々と主役やれる上に、ウチの高校の宣伝とイメージアップにもなる。一石二鳥なのですよ」
 ニカッ、と笑った。
 上条達は、戸惑うような感心するような、不思議な気持ちでその笑みを見た。
 言葉も出ない。
 まるで運命が配役(キャスト)を決めているかのように、不利な点さえも利用してステージを完成させていくその知略。
 妥協なく、恐怖なく、目的達成のためにあらゆる手段を尽くすその度胸。
 これが“監督”。
 言祝栞。
「……でも。校外への言い訳はそれでいいとして。校内への対応はどうするの? 一年の独断で。そんなことしたら色々面倒なことになりそうだけど」
 いち早く脳に血が流れ出したらしい姫神が尋ねた。
 しかし言祝は困った様子も見せず、
「そっちのが簡単よ。というかもう終わってるし」
「終わってる。とは?」
「教室(ここ)に来る前に、私と、サーシャちゃんと、かみやんくんとで校内をあちこち練り歩いといたの。みんなならこの意味、わかるよね?」
 吹寄と姫神と青髪ピアスが、あっ……となる。
 そうだ。たとえどれだけ不可解なことが校内で起こったとしても、
 それが可愛い女の子に関することで、
 その隣に、とある少年がいたというのなら、

「「「何があったとしても上条(上条君)(カミやん)のせいにできる…………!!」」」

 がばっと復活。
「待ったらんかーい!! いくらなんでもそりゃねーだろ!? とどのつまり俺を生贄に捧げてサーシャシンデレラを召喚するぜってことじゃねーか! こんな扱い俺の親父が知ったら今度こそ天使が降臨しちゃいますよ!? つーかてめーら三人さっきから息が揃いすぎなんだよ! トリオか、トリオなのか!?」
「流石ね栞。そんな巧妙な作戦思いつきもしなかったわ」
「にはは。このくらいお茶の子さいさいなのですよ」
「いやーでもやっぱりボクらの言祝監督やね」
「今年の名誉監督賞は。あなたのものに決まり」
「聞いてない! 聞いてらっしゃらない!! チョークすら飛んでこない!! これがスルーか、レールガンノミコト様の祟りなのか!? サーシャ弁護士! もうあなただけが頼り……って何を両手で胸を抱いてうっとりしてますかアナタ! そんなにシンデレラやりたかったんかい! そしてそのまま言祝達の輪の中へ行っちゃうの!? 待って、その『素敵な先輩後輩の図』に俺も混ぜてーーっ!!」


 結局、上条の意見は何一つ通ることのないままその日の打ち合わせは終わり、
 言祝栞から吹寄制理経由で運営委員に配役変更の旨が伝えられることになった。

「シンデレラ役 サーシャ=クロイツェフ(特別出演)」

 提出された文書の最上段にはそんな文章が書かれていた。

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