「も、もしもし・・・。緋花だけど・・・」
「おう!どうした、緋花!?早速俺への相談か!?今忙しいんだけどよ、緋花の頼みならしゃーねーな」
「な、何で忙しいの?」
「いやな、夏休みの宿題に没頭しててよ!利壱と紫郎と一緒にレポート課題を・・・」
「ギャー!!武佐君の奇襲が通じないなんてー!!」
「こ、このゾンビ軍団に俺の作戦を破れる知能があるわけ・・・!!」
「・・・・・・ねぇ、拳?」
「・・・・・・な、何だ?」
「大の男が見栄を張る姿って格好悪いと思う」
「ガハッ!!」
焔火の容赦無いツッコミが荒我の胸にクリティカルヒットする。もちろん、夏休みの宿題なんかしているわけが無い。
そんなモン、開始5分で放り投げた。今は荒我の部屋で梯・武佐等と共にゾンビゲームに熱中していたのだ。
「クスクス。拳達らしいっていうか・・・」
「・・・・・・」
電話の向こうで浮かべている荒我の表情が容易に想像できた焔火は、笑い声を隠し切れない。
「・・・ねぇ、拳?」
「お、おぅ・・・」
「詳しくは言えないんだけど・・・今日もまた色々トチっちゃった」
「そ、そうなのか・・・」
「うん。“詐欺師ヒーロー”にボロカスに言われるは、殺人鬼には力の差を見せ付けられるは、リーダーが入院する羽目になるわ・・・ホント散々だったよ」
「“詐欺師”ヒーロー・・・殺人鬼・・・・・・!!!・・・・・・リ、リーダーは無事なのかよ!!?」
荒我は焔火の言葉から一昨日の件を思い出す。あの時に聞いた単語ばかりだったからであるが故に。
「うん、大丈夫。リーダーが入院したのは、ある意味自傷行為みたいなものだったから。2日くらいで退院できるってさ」
「そ、そうか・・・。他には・・・!?」
「リーダー以外には誰も死傷者は出なかったよ」
「・・・ふぅ。そいつは良かった」
荒我は安堵の息を吐く。最近会ったばかりの人間が傷付く姿など、荒我とてその目に映したくは無い。
「また、あの野郎にブツブツ言われたのかよ?」
「うん。胸倉を掴まれて怒られた」
「何!?あ、あの野郎・・・!!」
「・・・最近というか、あの救済委員事件以来ずっと私は誰かに怒られている。ガミガミうるさいお姉ちゃんでも、ここまでしつこくは無いな~」
「・・・お前の姉貴ってそんなにガミガミ言うのか?」
「結構言うね~。でも昨日・今日はボーっとしてるけど。・・・あの“変人集団”のトップとの交際だけは阻止しないと(ボソッ)」
「ん?最後の方が良く聞き取れなかったんだけど、何て言ったんだ?」
「うん!?き、気にしないで!唯の独り言だから!!」
「そ、そうか」
ついポロっと出た企みを誤魔化すように、焔火は荒我に対して言葉を紡ぐ。
「え、え~と、何処まで話したっけかな・・・あっ、そうだそうだ!・・・だからさ、私の不幸度が今とんでもない数値になってると思うのよねぇ」
「かもな。まぁ、俺も緋花と同じような期間に突入していた頃があったし。他人事とは思えねぇな」
「自分のせいでどんどん悪循環に嵌るし」
「何やっても上手くいかねぇし」
「自分を取り巻く環境も厳しくなるし」
「周囲の環境のせいでどん底に叩き落されたり」
「「ハァ・・・」」
タイミング良く溜息を吐く焔火と荒我。似たような境遇を経験する両者の相違点と言えば、焔火は現在進行中、荒我は過去の出来事であるということ。
「でも・・・諦めたらいけないんだよね?」
「そうだな。何度叩きのめされようが、何度不貞腐れようが、その足を止めなかったから今の俺は居るんだって、最近の緋花を見てると余計にそう思うぜ」
「経験者は語るね~」
「別に誇ってるわけじゃ無ぇけどよ」
ベッドの上でパジャマ姿になって寝転がっている焔火は、荒我の言葉に力を貰う。ある意味部外者である荒我だからこそ意味のある言葉を、己の胸にしっかり刻む。
「・・・そういえば、最近ようやく気付いたことがあるんだ」
「ん?何だよ?」
「・・・わ、わた、私・・・が・・・そ、その・・・あの・・・ば、ばば、馬鹿だって・・・ことに・・・」
「・・・・・・・・・・・・今頃!!?」
「な、何よ!!?よ、予想通りだけどさ、その反応は!!!で、でも・・・ム、ムカつくー!!!」
『お前・・・今頃になってそれに気付くって・・・』的な反応を予想していた焔火は、荒我がその通りの反応を示したことに頭を掻き毟る。
「お前・・・今頃になっ・・・」
「そ、それ以上は言わないで!!!というか、私の予想していた言葉のまんまを吐くんじゃ無いわよー!!!」
「だ、だってよぉ・・・」
「だっても何も無い!!こ、これじゃあ小川原に頑張って入った意味が薄れちゃう!!
も、もぅ!!何よ!何なのよ!!最近はムカつくことばっかりが目の前に現れるんだから!!」
「・・・ガキみたいな癇癪だな、緋花?」
荒我は電話の向こうにいる焔火が癇癪を起こしていることに呆れながらも、何処か温かな感情を抱いていた。
「ふんだ!!どうせ、私はガキですよ!馬鹿で独り善がりなクソガキですよ!!」
「・・・・・・」
「・・・け、拳?ご、ごめん。ちょっと不貞腐れ過ぎたね」
「・・・い、いや・・・そういうんじゃ無くてよ・・・」
「うん?」
急に黙り込んだ荒我に焔火は己のみっともない言動に気付き謝罪するが、荒我は別のことを考えていたようだ。
それは、当の荒我にとっても予想外な思考。だから、つい口走ってしまう。後戻りのできない言葉を。
「え、え~とよ・・・・・・か、可愛い・・・って思っちまった。癇癪を起こしてるお前をよ・・・」
「ッッッ!!!!!」
瞬間、焔火の体温や血圧が上昇する。顔が真紅に染まる。まさか、こう切り替えして来るとは思わなかった。それは、焔火にとって予想外な上にド直球の言葉。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・う、嘘じゃ無ぇぞ?ほ、本気で・・・そう思っちまった。自分でも何でかわかんねぇけど」
「・・・・・・しい」
「ん?」
「・・・恥ずかしい」
「恥ずかしい?」
焔火は、今途轍も無い羞恥に心を染められていた。癇癪を起こしている自分が可愛いと男性に言われたことに、焔火はいたく刺激を受けていた。
「そうだよ。恥ずかしい・・・すごく恥ずかしい。これなら、まだ固地先輩や“詐欺師ヒーロー”みたいにボロクソに怒られる方がマシ・・・」
「な、何で俺がそいつ等よりお前に酷いことをしてる風に言われなきゃなんねぇんだ!!?」
荒我は憤慨する。自分は素直な感想を言葉に出しただけなのに、何故焔火にここまで言われなければならないのか?今の荒我にはサッパリ理解不能だ。
「・・・いけない。こんなんじゃいけない。私は・・・ガキのままで居たくない。こんなことで『可愛い』なんて言われたく無い!!
あ、貴方に・・・拳に・・・こんなことで『可愛い』なんて言われたく無い!!」
「緋花・・・」
言葉に必死が宿る。
「・・・貴方に何時までもこんな姿を見せたくない。拳には私が成長した姿を見て欲しい。その姿を見た・・・貴方の言葉を聴きたい」
「・・・言っとくけど、俺への相談とかを取り止めるなんてのは認めねぇからな」
「・・・うん。それはわかってるよ。だって・・・貴方の言葉を耳に入れるだけで私の心はすごく落ち着くんだもの。止めるわけが無いよ」
焔火緋花という少女にとって、
荒我拳という少年の存在は何時の間にかこれ程までに大きなモノとなっていた。
そんな存在を自分から切り離すなんて選択肢が出る筈が無い。何故なら・・・
「・・・今度さ、拳の部屋に行ってもいい?」
「う、うん!?お、俺の部屋!!?」
「そう。今は成瀬台に通ってるからさ。その帰りとかに寄ってみたいなぁって。・・・駄目?」
「だ、駄目なんかじゃ無ぇよ!!」
「そう。・・・それじゃあ、タイミングが合えば寄らせて貰うね。・・・そこで色々話したいこともあるし・・・」
「お、おぅ・・・」
焔火は荒我の部屋に訪問する約束を取り付ける。そこで、彼に話さなければならないことがある。絶対に。
「・・・それじゃあ、そろそろ切るね」
「・・・また、何時でも相談に乗るぜ?」
「・・・ありがとう、拳。私の・・・・・・ううん、何でもない。それじゃ!」
何かを言いかけようとした焔火が言葉を濁し、直後に通話を切った。荒我は焔火が何を言おうとしたのかをその場で考え出した。
「武佐君・・・。これは、オイラ達が邪魔しちゃいけないでやんすね」
「そうだね。ここは荒我兄貴を信じよう、梯君」
そんな荒我を遠目から見ていた梯と武佐は、互いにアイコンタクトを交わしながら舎弟としての役割を悟る。一方・・・
「・・・私の・・・好きな人・・・」
焔火はベッドに寝転がりながら、先程言いかけた言葉を改めて呟く。これは、今言うべき言葉では無い。荒我と直接会った上で、告白として言わなければならないこと。
「拳・・・。私・・・絶対に諦めないから。自分も・・・仕事も・・・恋も・・・何もかも!!!」
ベッドから降り、彼女が使っている机に向かう。椅子に腰を据える。横に掛けている鞄からノートを取り出す。最近習慣になりつつあるそれは、所謂反省ノート。
「そのためには・・・まずは今日の反省!!私があの殺人鬼に突っ込んだのが切欠で、最終的にリーダーの入院という結果になってしまった!!
これは固地先輩や椎倉先輩の言う通り、最良の結果を導く行動でも自分の信念を貫くための最適な行動じゃ無かった!!
唯の暴走!!ガキの癇癪!!私は・・・私は脱却する!!成長してみせる!!もし、それでも間違いを起こしたとしても、私は絶対に諦めない!!」
荒波に曝され続けている少女に秘かに宿りつつあるのは、意志の強さ。我儘でも癇癪でも無いソレ―“我”―は、成長への足掛かりとなる根幹。
加賀美が“我”と判断したモノ・・・それは“我”では無く、実は我儘であった。どうやら、加賀美は“我”と我儘を混同しているようである。
“カワズ”が加賀美に求めていたのは、自分の言葉を今の焔火がどう受け止めて動いたのか―反動。文字通り、『反応して動くこと』―に対するアフターケアであり、
成長しようとする“我”を見極め、リーダーとして彼女が誤った方向に伸びないように叱咤激励を・・・である。我儘を正すのは当然なので、改めての忠告はしていないのだ。
前者を我儘(=結果。焔火の場合は錯誤含む)の是正とするなら、後者は“我”(=過程。同じく焔火の場合は根幹含む)の矯正と言った所か。
“我”とは、決して悪しきモノでは無い。“我”を通すということは、決して我儘ばかりでは無い。但し、“我”と我儘の境界線は非常にあやふやである。
だからこそ、方向性や判断を間違えれば“我”は何時でも我儘に移り変わる。今の焔火には感得し得ていない感覚故に、“カワズ”は加賀美にフォローを促したのである。
だが、リーダー2人の思惑を余所に焔火は思いも寄らぬ方向から痛烈なフォローを喰らった。
それが起因で、1人立ちした女性として見て貰いたいという欲求が彼女の“我”を強く刺激した。もちろん、今までの経験も大きな刺激になっている。
焔火緋花は、決意する。様々な人に支えて貰いながら、幾度にも渡る逆境を経験しながら、それでも少女は足を止めないことを改めて決意する。
それは・・・確かな自立への一歩。
「ふ~ん。災難だったねぇ」
「・・・・・・それだけですか?」
「俺の忠告を無視したそっちの自業自得。最優先に考えなきゃいけないことを見誤ったそっちのポカ。死者が1人も出なかったことを不幸中の幸いだと思うんだね」
「・・・です・・・ね」
「・・・お兄さんらしい毒舌だね」
所変わって、ここは“ヒーロー戦隊”がキャンプを張っている廃墟の一角。“カワズ”と林檎は、スパイ契約を結んだ葉原から色んな報告(主に殺人鬼関連)を受けていた。
(ちなみに、“カワズ”の携帯電話をスピーカーフォンモードにしているので、林檎も参加している)
「にしても、あの殺人鬼の実力が思った以上にヤバイな。しかも、それで『本気』じゃ無いんだろう?」
「おそらく・・・ですけど」
「・・・あたしの『音響砲弾』とかも効かないのかな?」
「いや。林檎ちゃんの『音響砲弾』はあいつにも効くと思うよ?念話系の強みは、空間移動系と同じ防御無視の攻撃にあるから。
でも、林檎ちゃんって戦闘慣れしてないでしょ?環境次第じゃ返り討ちを喰らうよ?俺が君を病院送りしたのと同じように」
「そ、それならお兄さんと一緒に戦えば・・・」
「それも1つの手だけど・・・。う~ん・・・気が進まないなぁ。林檎ちゃんって能力を除いたら、戦場では唯のお荷物だしなぁ・・・」
「うううぅぅ!!」
「容赦無いお言葉・・・さすがですね、界刺先輩」
人を平然と荷物扱いにする“カワズ”に林檎は落ち込み、葉原は恐怖する。
「まぁ、その話は後で考えるとして・・・予想通りの暴走具合だな。ヒバンナと言い神谷君達と言い。加賀美も面倒臭ぇ部下を持ったもんだ」
「・・・はい」
「・・・ハバラッチ。ヒバンナについて、俺は少し様子を見るよ?」
「・・・その理由は?」
「君の努力を評価してるのと、殺人鬼との邂逅がどんな影響を与えるのかを見極めたいからさ」
「えっ!?」
葉原は予想もしない“カワズ”の言葉に疑問を抱く。特に、『君の努力』という言葉。“カワズ”が緋花の暴走を止められなかった葉原の努力を評価していることに対して。
「わ、私は緋花ちゃんを止められなかったんですよ!?な、なのに・・・」
「ヒバンナのことなんかどうでもいいんだよね、究極的に言うと」
「・・・で、できるならわかりやすく教えて頂けませんか?」
「君が自分の意思で動いたことを評価してんの、俺は。あんだけ『自分には緋花ちゃんを矯正させるなんてことはできない』とか言って身売りするような真似をしておいてさ。
これなら、スパイ契約なんかハナっから結ばなくても良かったんじゃない?」
“カワズ”はハッキリと言葉に出す。自分を大事にしない少女を矯正させるために。
「そ、それはあなたにばっかり頼るなってあなた自身が・・・」
「そうだよ。俺はそう言った。そして、君と取引をした。んで、君は俺にヒバンナのことで頼る前に自分の意思で動いた。俺は取引後のことを言ってるんだよ?
んふっ!やるね、
葉原ゆかり?やっぱり、持つべきモンは親友と店長・・・いや、店長は除外しよう」
「私の・・・意思」
「そう。君の意思だ。きっと、君の言葉は無駄になんかなっていない筈だ。今はまだ結果に結び付いていないけど。でも、この積み重ねが大事なんだよね。
これくらいのこと、小川原に通う優等生様にだってわかってんじゃないんですか?」
“わかっている”。言葉上では。でも、実際に直面してみると本当に難しいし、何より自分の覚悟が問われる場面が多い。“百聞は一見にしかず”とはよく言ったもの。
「・・・難しいというのはよく“わかりました”。特に今日とかは、文字通り命が懸かっていましたから」
「そればっかりは、どうしようも無いね。世界がそういう判断を下したのなら、その一部でしか無い人間の意思なんざ軽く吹っ飛ばされることもよくあるし。
徒労に終わるなんてこともザラにあるだろうね。逆に、頑張った奴や意地を見せた奴には世界が微笑んでくれることもあるし。そこら辺は、世界の機嫌次第だね。
唯、あの野郎みたいな人間は何時か世界に滅ぼされるさ。世界の一部足る人間の手によって・・・ね」
「・・・似たようなことを、その殺人鬼も言ってましたよ?何だか、界刺先輩と通じる部分が見受けられますね」
「・・・俺をあんな野郎と一緒にすんじゃ無ぇ。心外過ぎだぜ、うん?」
“カワズ”の声が重くなる。その言葉に怒りの色が見えたために、葉原はすぐに話の転換を図る。
「ビクッ!!え、え~と・・・その殺人鬼との邂逅による影響というのは、具体的にどんなものなんですか?」
「・・・ふぅ。幾らあのヒバンナが馬鹿なクソガキだったとしても、今日直面した色んな事実を無視することはできないと思うんだよ」
「・・・それは、殺人鬼に負けたこととか加賀美先輩の入院とか・・・」
「そう。それに俺が言った言葉や君とのやり取りなんかも含めた色んなこと。特に、自分の力ではどうしようもできない存在とぶち当たった事実は大きい。
ガキの我儘でどうにかなるような問題じゃ無いからな。しかも、自分の行動が切欠でリーダーを入院させる結果を生み出してしまったことで、
『見て見ぬフリをする』という退路が塞がれた。そこに、俺や君の言葉が外堀を埋めて来る。だから、考えざるを得ない。・・・良い流れだ。
んふっ。もしかしたら、今日君達があの男と戦ったのはヒバンナにとってすごく幸運なことだったのかもしれないね?」
「・・・あれを幸運だとは思えないですけどね・・・・。でも、緋花ちゃんが良い方向に変わる切欠になる・・・いえ、切欠にしなきゃいけませんね!!」
活かせるモノは何でも活かす。それが、殺人鬼との邂逅であったとしても。ネガティブにばかり捉えていては、物事は好転しない。
「そうだね。しばらくは、君の思う通りにしてみるといい。俺からは特段何かを言うつもりは無いから。俺も忙しいし」
「界刺先輩・・・」
「君は、もっと自信を持っていいと思うよ?どうせ、ヒバンナのことや内通者を見破れなかったこととかが理由で自信を無くし気味になってるんでしょ?」
「・・・はい」
“カワズ”の言う通り、今の葉原は自信喪失気味である。理由も“カワズ”が言った通り。
「・・・頑張れ、葉原ゆかり。親友の君にしかできないこともある筈だ。俺だって、ヒバンナのことを全部知ってるわけじゃ無い。むしろ、君の方が知ってる筈だ。
どうせなら、君の力で親友を矯正し切ってみせるくらいの意地を見せてみろよ。まぁ、契約は契約だから、ヒバンナのことで困った時は相談くらいには乗るよ?」
「・・・頼もしいですね。“詐欺師ヒーロー”の言葉なのに何故か信じられる、信じてしまう魔力みたいなのを感じますよ」
「これが、自分に自信を持つってことだよ、ハバラッチ?」
「・・・いいんですか?利用する相手にそこまで肩入れして?」
「利用する駒をより有能な駒にするのも、“詐欺師”の腕の見せ所さ」
「・・・やっぱり、私だけの力じゃ無いですよ。あなたが後ろに居るからこそ、私は安心して動ける。今日の行動だって、きっとそう」
葉原は、頼りになる“詐欺師ヒーロー”に礼を言う。自分のこと。そして、焔火のことに対する礼を。
「ありがとうございます。あなたは・・・本当に優しい人ですね。色んな女性が、あなたを好きになる理由が何となくわかる気がします」
「・・・満席だからな。一応忠告しとくぜ?」
「・・・惜しいですね」
「・・・冗談だな?」
「はい。冗談です」
「ふぅ。なら、いい。それと、俺が優しい人間ってのは的を射ているぜ?何せ、俺に利用されているにも関わらず情報を隠しているスパイの行動を見逃してやってるんだからな」
「ッッ!!!」
“カワズ”の的を射た言葉に、葉原の心臓がドクッと動いた。言葉に・・・詰まった。
「俺が気付かないとでも思ったかい?風路の件が椎倉先輩達に伝われば、どんなことになるのかを俺が予想していないと本気で思っているのかい?」
「そ、それは・・・!!」
「もし、俺の行く道を風紀委員が邪魔するってんなら・・・容赦はしない。そう、椎倉先輩達に伝える・・・わけにもいかないか。
俺と君の繋がりを先輩達は知らないからね。んじゃ、君の心の中に留めておくといい。どうせ、これくらいのことを先輩達が予想していない筈が無いだろうから」
「あなたは・・・とても恐ろしい人でもありますね。絶対に敵に回したくないです」
「そんじゃあ、そうならないように努力するんだな・・・何処ぞのスパイらしく」
「・・・・・・わかりました」
そう言った後に何度かやり取り(何故か“カワズ”が免力を呼んだので、彼とも少しだけ話した)をし、“カワズ”との通話を切った葉原はベッドの上にダイブする。
そして、手持ちの携帯電話(スマートフォン)から繋いでいるイヤフォンを自分の耳へ持って行く。
携帯に取り込んでいる音楽から選択するのは、昨日買ったばかりの曲・・・『Love song’s loads』。
「謳え~♪謳え~♪~~~~♪」
イヤフォンから聞こえて来る曲と歌声に合わせて、葉原は歌う。
『儚げで、哀しげで、それでいて確かな心の強さを感じる恋人や愛する人達の想いが溢れた歌』・・・そう、かつて抱いた初印象そのままに少女は歌う。
「笑え~♪笑え~♪~~~~♪」
この歌を歌えるのは・・・誰のおかげか。この歌に込められた想いや、登場人物の境遇に想いを馳せる葉原。
自分にとって愛おしい存在・・・焔火緋花。“初めて”の親友。守りたい少女。彼女を守るためなら、自分は何だってする。そう、決めた。だから・・・した。
まるで、この歌の登場人物が心に強く誓った想いを連想させる覚悟。それを容赦無く、でも優しく認めてくれたのは・・・
「届け~♪届け~♪~~~~♪」
恋とも愛とも違う感情。別種の感情。この歌に込められた想いをまだ理解し切れていないの同じように、あの人に抱くこの想いはまだ理解し切れていない。
尊敬のようで、信頼のようで、恐怖のようで、でも全然違うような気もする。“詐欺師ヒーロー”とは言いえて妙か。
だから、1つだけ決めた。この声が届かなくても、この想いが届かなくても、それでも歌おうと。
この歌に出てくる気高き女性のように、自分の信念(ことば)を愛しき人に歌い続けようと。
あの人の声がある限り、私は・・・頑張れる気がする。あの人の声がしなくとも、私は・・・決して歩みを止めない。
そうすれば、愛しき人を助けることができる気がする。そうすれば・・・あの人のような揺るがない自信を身に付けることができる気がする。
そう思ったから、葉原ゆかりは歌い続ける。声が枯れても歌い続ける。――を理解するために。
「まさか、私が入院するとはねぇ」
ここは、ある病院の一室。そこに176支部リーダー
加賀美雅は入院していた。
斑の『空力使い』を背中に設置したために負ったダメージが原因である。とは言っても、2日程で退院できる程度の軽症である。
加賀美自身、動けば多少痛いもののそこまで苦痛という程のものでは無かったために、今の彼女は暇を持て余していた。
「これじゃあ、緋花への指導も稜達との触れ合いも内通者の見極めも全然できないじゃないの。自業自得とは言え、情けないなぁ・・・私」
加賀美は気落ちしている自分の心を把握する。気合を入れ直して望んだ1日目で即入院という結果に、想像以上に落ち込んでいた。
「・・・こんなんじゃあ、界刺さんにも電話できないわ。絶対にブツクサ文句を言われる。それに、こんなことで一々電話してちゃあリーダーとしてどうよ?って話になる」
加賀美の独り言は収まる気配を見せない。個室を宛がわれた関係から、誰にも自分の愚痴を聞かれる恐れが無いからである。
「稜達に電話したら、かえって余計な心配を掛けちゃいそうだし。・・・債鬼君なら心配よりも文句の方が多そうだけど、生憎私用の携帯アドレスを知らないのよねぇ。
債鬼君って、仕事用と私用とで携帯電話を分けてるみたいだし。この前、緋花の出向のことで話し合った時も教えてくれなかったし。
風紀委員会が結成されてから仕事用の番号がわかったから何度も掛けてみたけど、私のコールに出た試しが無いんだよなぁ。・・・もしかして、私って嫌われてる!!?」
今更のように、固地に嫌われてる可能性を考える加賀美。
「・・・そ、そんなことは無い筈!!わ、私と債鬼君は同期なんだし!!しゅかんと一緒に遊んだこともあるし!!
こ、こうなったら駄目で元々!!か、掛けてみよう!!・・・(ポチポチ)」
色んな言い訳を呟いた後に、固地の携帯電話(仕事用)に掛けてみる加賀美。すると・・・
「はい!立川です!!」
「・・・・・・はい?」
通話は繋がったのだが、出たのは固地では無く立川という少女であった。
「・・・ま、間違えたみたいです!!ご、ごめんなさい!!」
「む~?間違い電話。・・・あっ!固地君!!固地君に電話だよ!!間違い電話みたいだけど!!」
「固地君って・・・えっ?えっ?」
「・・・てるんだ、立川!?他人の携帯に勝手に出るとは・・・!!」
「(債鬼君の声だ!!)」
「だって、ずっと鳴り続けてたから急ぎの用かなと思って」
電話の向こうでは、焦り気味の声を放ってる固地と立川の問答が聞こえて来た。
「全く!一体誰か・・・・・・・・・加賀美・・・か?」
「・・・・・・そうだけど?誰?今の女の子は?」
無意識の内に、加賀美の声に棘が現れる。
「・・・俺のクラスメイトだ。今日は彼女に連れ回されている」
「『連れ回されて』って酷いよ、固地君!!私は全然遊べていない固地君のためを思って、夏休みの宿題も放り投げて一緒に遊んであげているんだよ!?」
「それは、単なる現実逃避なんじゃないのか!?宿題より遊びを取っただけなんじゃないのか!?」
「でも、1つだけ残念なことがあるの」
「人の話を聞いて・・・残念なこと?何だ、それは?・・・俺が何かしたのか?」
「固地君と一緒に遊べば日焼けできるかもって期待したんだけど、結局できなかったの」
「それは、まず理屈がおかしい!!」
「・・・・・・」
電話の向こうで聞こえて来る痴話喧嘩(加賀美基準)に、電話を掴む手に力が入る加賀美。
「そんなわけで、今も固地君と遊んでるの!!さっきまでは、2人で夜景が綺麗なレストランで食事してたんだ!!え~と・・・加賀美さん・・・だっけ、固地君?」
「・・・そうだ。俺と同じ風紀委員で、小川原中学付属高校に通う1年生だ。部署は違うが」
「そうなんだ!!私や固地君と同じ学年なんだね!!それじゃあ改めて・・・
立川奈枯って言います!!よろしく、加賀美さん!!固地君がお世話になってます!!」
「世話になんかなってない!!」
「・・・・・・加賀美雅です(債鬼君が押されてる!?というか、尻に敷かれている!?だ、だらしない!!それでも、“風紀委員の『悪鬼』”なの!!?)」
立川のマイペースに翻弄されまくりの固地に、段々とムカっ腹が立って来た加賀美。自分には、常に上から目線でズバズバ言うくせに。
「もぅ。固地君って
プライドがすごく高いんだから!!人付き合いは、日頃の行いが大事なんだよ?
私が一学期の途中から固地君の為にお弁当を作ってあげていたのも、固地君と少しでも仲良くなりたかったからなんだよ?」
「お、お弁当!!?えっ?えっ?」
「そうなんだよ、加賀美さん。固地君って私生活は結構ズボラなんだよ?昼食とかは、いっつもパンと牛乳だけだったし。
そんなんじゃあ体を壊すって思ったから、私が一学期の途中から固地君の弁当も作ってあげるようになったの」
「た、立川!!そ、その辺で・・・!!」
「この際だから、同僚の加賀美さんにも知って貰っておいた方がいいよ!!今は夏休みだから、私の目も届き難いし」
加賀美が知らない固地の一面が次々と明るみに出る。固地にとっては、羞恥プレイにも等しい所業である。
「・・・随分、債鬼君のことを見てるんですね?」
「うん!!国鳥ヶ原に入ってからなら、きっと加賀美さん以上に」
「・・・・・・(ピキッ)」
天然マイペースは、こういう時は本当に恐ろしい。
「そういえば、加賀美さんは固地君とは何時からお知り合いなんですか?」
「・・・中学1年生の頃から。だから、債鬼君が実はズボラなのも知ってるんだ」
「へぇ。矯正とかしてあげなかったんですか?知ってたのに?」
「そ、それは・・・!!」
容赦無いツッコミがズバズバ入る。こんな彼女だからこそ、固地さえ尻に敷いてしまえるのかもしれない。
「そうか・・・昔からか。わかりました!!加賀美さんは別の学校だし、これからは私が固地君のズボラを矯正していきますから!!安心して下さい!!」
「(な、何なのよ、この娘!!さも自分の方が債鬼君のことをわかってるって言いたげな言葉ばっかり!!
わ、私だって債鬼君のことなら・・・・・・そ、そりゃわからない部分もあったりするけど!!するけど!!!)」
立川の「これからは自分に全部任せて下さい」的発言に、加賀美は憤りを隠せない。隠せないが、言葉に出せないのが加賀美の加賀美足る所以である。
「ということで!!今からもう一遊びしますから、この辺で!!」
「えっ!?ま、待って・・・」
「立川!?ちょっと待・・・」
そして、通話は唐突に切れる。呆気に取られた加賀美がそれでも再度のコールを試すが、今度は一向に出る気配が無い。なので・・・コールを切った。
「・・・・・・ムカつく」
ここは個室なので、加賀美がどんな愚痴を零そうが誰かに聞かれることは無い。
「何よ!!何なのよ、あの娘は!!債鬼君も、何であんな娘に尻に敷かれてるのよ!?情けない!!一昨日の件と言い、最近だらしが無さ過ぎるんじゃないの!!?」
愚痴を延々と零す加賀美。彼女は、何故自分がこれ程までにイラついているのかが自分でもわかっていない。
「休暇で完全に腑抜けてるわね、債鬼君!!情けない!!本当に情けない!!
こうなったら、彼が休暇中の間に文句1つ言えない結果を出して目に物を見せてくれるわ!!・・・なのに、何でこんな時に入院してんのよ、私!!」
髪を掻き毟りながら、己の不甲斐無さを嘆く加賀美。このままでは、固地に目に物を見せる前に彼が復帰してしまう。
「今の私にできること・・・入院している間にできること・・・。とりあえず、今日の反省というか分析をしよう!!寝てばっかりじゃ、お話にならない!!」
そう言って、彼女は腕組みをしながら考え始めた。今日の出来事から見出せるモノを少しでも掴むために。
「(あの殺人鬼に関しては、きっと椎倉先輩達が色々考えてる筈。緋花の指導は、あの娘と直接接しないと駄目。稜達との新しい関係構築も同様に。
ということは・・・内通者の割り出し・・・か。・・・仮に、私達176支部に『
ブラックウィザード』の内通者が居るとする。
『
シンボル』の形製っていう精神系能力者の調査で、緋花、ゆかり、稜は除外される。残るは狐月、麗、双真、丞介、帝釈、香染の6名。
う~ん、私達の支部って人数が多いからなぁ。個性的にも個性的過ぎる面々だし。だから、あの殺人鬼とも戦闘に・・・・・・・・・まてよ)」
そこまで思考を進めた時に、抱いた1つの疑問。それは、あの殺人鬼のこと。『ブラックウィザード』を追っているという殺し屋の目的。
「(も、もし私があの殺し屋の立場なら、標的としている『ブラックウィザード』の人間が目の前に居れば何らかのアクションは取る!!
仲間の情報を吐かせたり、必要ならば・・・殺す。きっと、あいつは私達より『ブラックウィザード』の情報を持っている筈。
それなのに、あいつは『会ったことは無い』って・・・『用は無い』って言った!!
それってつまり・・・あの場に居た人間の中に内通者は居ないってことを示すんじゃ・・・!!)」
もちろん、この推測は穴だらけである。殺人鬼が『ブラックウィザード』の情報を全部知っているわけが無いだろうし、構成員の人間全てを覚えているわけも無いだろう。
そもそも、風紀委員の中に『ブラックウィザード』の内通者が居ること自体知らない可能性の方が高い。
だから、これはあくまで仮定である。仮定を元に、現状を分析するだけ。
「(・・・この仮定が正しいとして、あの場に居た狐月、麗、丞介、香染の4名は除外される。残るのは双真と帝釈。・・・そういえば、双真は結構休みがちよね。
体が弱いみた・・・・・・・・・まてよ。確か、私達が『ブラックウィザード』に対抗するために風紀委員会を結成した、その口火を切ったのは・・・双真!!)」
網枷双真。普段は物静かで、目立たず、リーダーである自分にも何を考えているのかがわからない人間。
そんな人間が、あの時は自ら進んで発言した。それが切欠で風紀委員会は立ち上がった。
あの時は落ち込んでいる焔火のためや、救済委員事件で傷付いた風紀委員の名誉挽回的な意味で発言したとばかり思っていたが・・・。
「(・・・!!!界刺さんの言ってることが正しいなら、あの債鬼君が尻尾を掴めない程の内通者。内通者と言えば・・・目立たないことが重要な要素になる!!
双真は・・・内通者としてはうってつけのポジション!!後方支援担当で、情報に精通しているポジションでもある!!
風紀委員会でも同じ!!後方支援で、こちらの捜査情報は手に取るようにわかる!!ま、まさか・・・!!)」
確証は無い。そもそもの仮定が穴だらけである。自分の支部に内通者が存在しているとは限らない。そんなことは、百も承知だ。
「(・・・これは、あくまで仮定。穴だらけの推測でしか無い。きっと・・・界刺さんに聞いても答えてくれない。
でも、午前中のあの人の反応は・・・私達の支部に内通者が居ることを知っているようにしか見えない反応だった!!・・・やっぱり、覚悟は居るみたいね。
本当なら、こんな覚悟はしたく無かったんだけど・・・・・・これも自業自得ってヤツかな。天牙の時と言い、鏡子の時と言い、ショックを受けるようなことばっかりだわ)」
手は震えている。瞑る瞼に力が入り過ぎている。だが、彼女は気にも留めない。そんなことに、気を取られている余裕は無い。
「(・・・ホント、何もかも投げ出したくなるわ。もし、あの子が内通者ならこれで“3人目”になる。私が176支部のリーダーになってから風紀委員を辞める人間が。
まだ、リーダーになってから1年も経っていないのに。誰が見ても異常だわ。『176支部のリーダーは何をしているんだ』って言われて当然のことよね)」
麻鬼天牙、
風路鏡子、そして、仮定が正しければ・・・網枷双真。
加賀美雅がリーダーとなってから176支部を辞めた、あるいは辞めさせなければならないかもしれない人間達。
『・・・頑張れよ。こっからが本番だ。きっと、君の抱えるモノは凄く重いと思う。だからこそ・・・頑張れ。意地を見せろ。何があっても最後までやり抜け・・・!!』
「(でも・・・何があっても最後までやり抜かないと。“詐欺師ヒーロー”との約束だもの。それに、本当に困った時は相談していいって言ってくれたし。
“ヒーロー”で“リーダー”か・・・。私はあんな風にはなれないけど、それでも学べることはきっとある筈。
ムフフ、本当なら私があの人の立場じゃなきゃいけないんだけどな。まだまだ修行不足だね。・・・いざって時は頼りにさせてもらいますよ、“詐欺師ヒーロー”?)」
加賀美は、“詐欺師ヒーロー”の姿を思い浮かべながら頭を枕に乗せる。彼と交わした約束が、今の加賀美を支えている原動力の1つになっていることに少女は気付いていた。
大きい存在。頼れる存在。本当なら自分がそうでなければならない立ち位置に居る“ヒーロー”。そんな“ヒーロー”に思いを馳せながら、少女は眠りへと誘われた。
「・・・どうやら、戸隠は完全にここから離れたみたいだな」
「そうか。どうやら後一歩で間に合わなかったようだな、峠?」
「仕方無い的なことは慣れてるわ。それに、今回はあの娘に対する借り的な物を返す意味もあるし、一々不満的なことを言うつもりは無いわ」
ある建物の屋上で会話を繰り広げているのは、過激派救済委員である雅艶・麻鬼・峠。
彼等は、固地達に張り付いている戸隠がここから離れたことについて議論を交わしていた。
「雅艶。俺達の監視に気付いた可能性は?」
「無いな。そんな素振りは一切見せなかった。何か別の用事があったのか、唯単に引き下がっただけなのか・・・可能性は半々だな」
「それで、どうするの?今夜は国鳥ヶ原の学生寮に張り込む的な活動に終始するの?」
「それが無難だな。国鳥ヶ原の学生寮は中等部・高等部の男女別に分かれているが、高等部だけなら俺の『多角透視』の監視範囲内ギリギリだ。
奴の動き次第では何処から帰ってくるのかがわからない場合もあるが、立川という少女の周囲を見張るという意味でも止むを得ないだろう」
「・・・覗きはするなよ?」
「・・・覗き的なことは厳禁よ?」
「・・・何故、覗きがいけないんだ?・・・固地への連絡はまた後でだな。今のままでは、電話の仕様が無い」
等と言い合った後に、峠の『暗室移動』にて国鳥ヶ原学生寮に向かう過激派救済委員達。ちなみに、固地と立川はゲームセンターで遊びまくっていた(立川主導)。
「網枷さんから電話がありました!もうすぐ到着するみたいです!!」
「・・・それだけかい?会議の時間に間に合わない理由とかは言っていなかったかい?」
「そ、それは・・・何も・・・」
「東雲さんと同行していた人間の言葉とは思えないな。これは、幹部を務める者として由々しき問題だ。そうは思わないかい、阿晴?伊利乃?蜘蛛井?」
「そうだな!!網枷は幹部としての自覚が・・・」
「別にいいんじゃないかなぁ。そんな細かいことで真慈は怒ったりしないって」
「・・・まぁ、今回は大目に見てやろう!!」
「阿晴・・・。相変わらず伊利乃に甘いね。・・・何時かボクの手で智暁共々・・・ブツブツ」
「・・・僕の質問は何処に行ってしまったのだろう?」
時間も11時を回った頃、ここ第7学区にあるカラオケ店『ジャッカル』で最大の収容人数を誇る一室を借り切っているのは・・・『ブラックウィザード』の面々。
今回の会議には幹部が全員揃っていることもあり、何時に無く真剣な雰囲気が部屋に充満している。
ちなみに、先程
片鞠榴の連絡を受けて話し合っていたのは、
永観策夜・阿晴猛・
伊利乃希杏・
蜘蛛井糸寂の4名。いずれも『ブラックウィザード』の幹部である。
もちろん、幹部だけが集まっているのでは無い。この一室には会議に参加するために集合した構成員の一部も居る。
―
仰羽智暁が―「風路さん!もうすぐ網枷さんが来るんですって!」
―風路鏡子が―「そ、そう!!あ、あの、あの人・・・は、早く、早くこ、来ないかな!!?」
―
中円真昼が―「最近は色々あったもんね。網枷君も用心しているのかも」
―
戸隠禊が―「『違わず』。相手が殺し屋ならば、それ相応の注意は払わなければならない!!」
―
西島放手が―「うおっ!相変わらず戸隠の“忍者モード”は急に来るな。この姿を知ってる奴は、この場に居る奴等だけなんだよなぁ。カカカ」
―
江刺桂馬が―「あっ。ウーロン茶が無い・・・」
―
風間鋲矢が―「おおおおおおぉぉぉいいいいいぃぃぃ!!!片鞠いいいいぃぃぃ!!!江刺のウーロン茶が無えええええぇぇぇぇぞおおおおおぉぉぉぉ!!!」
この数分後・・・遅れている3名が姿を現す。
「待たせて済まなかったな、諸君。これは私の落度だ。予め謝っておこう」
『ブラックウィザード』の誇る“辣腕士<ハスラー>”・・・網枷双真。
「<こういう会議は、件の殺人鬼に関わる最初の対応を話し合った時以来かな>」
『ブラックウィザード』への協力者・・・
調合屋(バーテンダー)。
そして・・・
「網枷・・・始めろ」
“孤独を往く皇帝”・・・
東雲真慈。『ブラックウィザード』の主要メンバーが勢揃いしたこの『ジャッカル』で、事は静かに動いて行く。
continue!!
最終更新:2012年10月22日 23:01