それから数日後・・・
第七学区 とある病院
毒島帆露が入院する病院(正式な手続きは済ませたらしい。)のロビーで
毒島拳はソファーに座りながら、
缶コーヒーを飲み、ロビーに置いてあったテレビを眺めている。
『えー。続いてのニュースです。第5学区の○○病院で入院患者に違法薬物を投与した疑いで医師、看護師数名を逮捕しました。この事件は――――』
『昨年の10月、第五学区で起きた女子高生暴行事件の続報です。
警備員《アンチスキル》はこの事件をスキルアウトの個人的な暴行ではなく、第二三学区で行われていた非人道的な実験の告発が―――』
『第八学区の路地裏で国際特殊環境研究所の
木原故頼博士の遺体を発見しました。』
『この件で木原氏には、数年前から発生していた置き去り《チャイルドエラー》大量失踪事件や
昨年の第五学区で起きた女子高生暴行事件への関与を窺わせる証拠が発見されており、更に余罪が―――』
『続いてのニュースです。第五学区~第八学区にかける高速道路で破壊活動を行ったとして、器物損壊の罪で数名のスキルアウトを逮捕しました。事件は――――』
『第5学区の
風輪学園中等部の敷地内で破壊活動を行ったとして、警備員《アンチスキル》は風輪学園の不良能力者集団と抗争していたスキルアウトを一斉検挙し―――』
テレビから流れる数々のニュース。一見、繋がりの無さそうなニュースの全てがたった一つの真相と繋がっていることなど、関係者でなければ知る由もないだろう。
流石に学園都市の権威を揺るがすこともあってか、宇宙頭脳《スペースブレーン》や境界突破《アフターライン》、
そして逮捕されたスキルアウトが軍隊蟻《アーミーアンツ》がであることは触れられていなかった。
あの事件の夜、第七学区から出発した樫閑、毒島、茜とその他は到着が遅れたことでMARによる逮捕劇を逃れることが出来た。
しかし、寅栄、仰羽、そして2人を取り戻そうとMARに突撃した数名のメンバーが逮捕された。
樫閑「お姉さんの容態はどうなの?」
訝しそうな顔でテレビを見つめていた拳に長点上機の制服を着た女子高生、
樫閑恋嬢が話しかける。
毒島「能力に関しては問題ない。」
樫閑「“能力に関して?”」
毒島「あの医者が言うには――――
昨日の診察室での冥土返しとのやり取りを回想する。
冥土返し「手術は無事に成功。君のお姉さんの体内にある能力阻害物質は取り除いたんだね?」
毒島「じゃ、じゃあ・・・・」
毒島はあまりの嬉しさに椅子から立ち上がって、すぐにでも姉の入院室に飛び込む準備をしていた。
冥土返し「でも、お見舞いは控えるんだね?」
突如、冥土返しの言葉で毒島は現実へと引き戻された。
冥土返し「彼女の抱える問題はそれだけじゃないんだね?」
毒島「男性恐怖症・・・・」
冥土返し「うん、それは能力に関してもとても大きな問題なんだね?
精神状態は自分だけの現実《パーソナルリアリティー》の構築において、とても重要なのは、君でも分かっているんだね?」
毒島「はい。」
冥土返し「事件のトラウマ・・・男性恐怖症を克服しない限り、能力も、お姉さんの日常も取り戻すのはとても困難なんだね?」
毒島「でも・・・あんたは冥土返し《へヴンキャンセラー》なんだろ?男性恐怖症ぐらい・・・・!!」
冥土返し「僕の本領は外科手術。さすがに、それはお姉さんの心の問題。」
毒島「・・・・・・」
冥土返し「でも、心配する必要は無いんだね?患者が僕から離れるときは、死ぬか、完治するかの2択なのだから。」
回想終わり
毒島「――――ってことだそうだ。」
樫閑「それは、帆露さんの心の強さに賭けるしかないわね。」
毒島「そう言えば、あんたは何でここに?」
樫閑「緑川先生のお見舞いよ。傷が酷かったから、冥土返し《へヴンキャンセラー》に治療を頼んだのよ。」
毒島「腹を刺された後、全身を能力で総攻撃されたみたいだな。」
樫閑「その割には元気だったわ。差し入れのバナナを一房も食べたのよ。」
毒島「今思うと、あの人を敵に回さなくて良かった。」
樫閑「そこには同意するわ。じゃあ、私はこれで。」
そう言って、樫閑は大きな紙袋を両手に抱えて、立ち上がった。
毒島「どこに行くつもりなんだ?」
樫閑「とりあえず、九野先生にお礼を言いにいくわ。情報統制もそうだけど、被験体たちに善良な研究機関を紹介してくれたからね。
あと何か風紀委員一七七支部にもお世話になったみたいだから、そっちにも行くわ。他にも黄泉川さんとかにも言わなくちゃ・・・」
毒島「そうか。気を付けてな。」
樫閑「あなたもね。」
そう言って、樫閑は両手に紙袋を抱えたまま病院から出ていった。
入口付近でレディースと出会い、彼女らに荷物を持ってもらう光景が見えていることから、
トップの2人が逮捕されても軍隊蟻《アーミーアンツ》という組織はまだ存続しているのが窺える。
毒島(さてと・・・これからどうするか・・・・。)
毒島はこれから先のことを考えていた。
姉の事件は解決した。細かい事情聴取も無い。真相があれなだけに、九野先生たちが書類を偽装して騒ぎにならないように配慮してくれているそうだ。
もう自分の役割は無いだろう。
しかし、長いこと休んでいるため、学校には今更感を感じる。(そもそも勉強が追いつけない。)
だからといって、霧の盗賊に戻るというのは、無理があるだろう。
ならば、いっそのこと、軍隊蟻《アーミーアンツ》に入るか?――――と考えるが、些か躊躇いを感じる。
軍隊蟻《アーミーアンツ》にも利益があるといっても、トップ2人が捕まるような大事件を持ちこんだ張本人が居心地良いわけではないだろう。
樫閑たちが毒島を受け入れても、毒島自信が責任を感じてしまう。
毒島は自分の手元に何か無いのか、ポケットの中を探り始めた。
すると、ズボンのポケットに携帯電話が入っていたことに気付く。
画面を見ると、2件のメールが届いていた。
毒島「誰からだ?」
From:eisei-tyo-ikemen@****.ne.jp
件名:無題
俺のメアドを教えるのを忘れていたな。とりあえず、登録ヨロ。
自分だけの現実について聞きたいことがあったら、いつでもメールしろよ。
ああ見えて、俺って専門家なんだぜ☆
毒島(ウザッ・・・・。けど、まぁ、能力阻害物質とか教えてくれたから、悪い奴じゃないか・・・。)
From:家政夫
件名:無題
毒島ちゃーん♪
両手両足切断は流石に死ぬかと思ったでー☆
まぁ、わいの瞬間再生で何とかなったけどな!ドヤッ
そういえば、霧の盗賊のサイト更新したいんやけど、
今まで毒島ちゃんに丸投げしとったから、やり方が分からへん!
いつものところにおるから、ちょっと手伝ってー!!
毒島(もっとウザッ!!)
しかし、敵対した自分に対し、ここまでフレンドリーに接して来るのは、何か裏でもあるのだろうか・・・。
毒島は一旦、病院の外に出て、家政夫《ヘルプマン》に電話をかける。
家政夫『ほいほーい♪毒島ちゃーん。メール見てくれた?』
毒島「見た。何のつもりだ?」
家政夫『別に裏なんてあらへんよ?メール見たまんまや。病院での復讐とか考えとらんで。』
毒島「そうか?俺が着いた途端、あいつら一緒にフルボッコにする魂胆が見えてるんだが・・・」
家政夫『やらへん。やらへん。毒島ちゃんに手ぇ出したら、また振動支配《ウェーブポイント》にダルマにされるんやろ?
そんなの嫌や。それに、まだあいつらは入院中やで?今、動けるのが、わいと毒島ちゃん。あと、安田はんも今日から来るそうやで。』
毒島「一度、敵対した俺たちが昨日の今日で仲間になれると思うのか?」
家政夫『いやぁ?仲間なんてこれっぽっちも考えおらへんよ?毒島ちゃ~ん♪忘れとらん?わいは金儲けがしたいだけなんやで。
今回も報酬が貰えんかったし、やっぱ毒島ちゃんと組んでた方が儲かるわ。ってか、お願ーい☆霧の盗賊に戻ってきてー!!』
怪しくて納得がいかないが、行動原理が単純なだけに何かと信用できる家政夫《ヘルプマン》の存在は、
自分の居場所がまだ残っていることに不思議な安心感を覚える。
毒島「そうだな。俺も姉さんの入院費とか治療費とか、色々と借金を抱えているからな。」
無論、これは嘘である。学園都市の生徒全てに奨学金が宛がわれるが、大能力者《レべル4》である毒島帆露に宛がわれる奨学金はかなり大きく、
帆露があまり使わなかったこともあってか、入院費も治療費も一括払いできるほどの資産が残っている。
家政夫『ホンマ!?助かったで~。』
毒島「けど。条件がある。」
家政夫『ほいほい。何でもゆうてみい?』
毒島「討伐するスキルアウトの選定は俺の意見を優先すること。無差別な無能力者狩りをする能力者の討伐も行う事。以上だ。」
家政夫『何や。一つ目の条件やったら、お安い御用やで。要するに、毒島ちゃんは穏健派や筋の通ったスキルアウトを相手にしたくないだけなんやな?』
毒島「随分とストレートに言うんだな・・・。まぁ、それが本意だ。」
家政夫『まぁ、軍隊蟻《アーミーアンツ》やビッグスパイダーなんて組織は希少種や。当たること自体ないわ。
そんで、もう一つの条件なんやけど、流石に無理や。リスクが高すぎるで。』
毒島「高すぎる?けど、リターンも高い。能力者なんてたらふく奨学金貰ってるんだ。
スキルアウトがチマチマとカツアゲやって溜めこんだ金よりは額が多い。」
家政夫『なるほど・・・・、スライムプチプチ潰すより、一気にドラゴンを狙うってことなんやな?まぁ、儲かるんやったら、別にええけどな。』
毒島「条件は呑んだってことで良いんだな?」
家政夫『ほいほーい♪せやから、さっさとサイトの更新頼むで~!次は畜生道《ビーストロード》が標的や。』
そう言って、呑気な笑い声と共に家政夫《ヘルプマン》は電話を切った。
毒島も彼のテンションのせいで調子が崩されつつも、再び霧の盗賊に身を置く決意をする。
ふと、彼は携帯の画面に新たな着信メールが来ていることに気付いた。
「誰からだ?」と思いながらもメールを開いた。
毒島「これって・・・・・」
第十学区 犯罪者収容所
まるで学校のグラウンドのような場所に端にあるベンチで寅栄は座り込み、その隣に仰羽も座っていた。
今は自由時間のようで、各々がサッカーやらバスケやら、スポーツに勤しんでいる。
被験体のような囚人服を着ていた。抵抗する気も無く、とても落ち着いた雰囲気だったが、
別に捕まったことで自堕落になったりはしておらず、刑務所ライフをそれなりに満喫しているようだ。
仰羽「樫閑だけで、軍隊蟻《アーミーアンツ》は大丈夫なんでしょうか?」
寅栄「問題ないだろ。チームの統率は、最近はあいつに任せっきりだったしな。武器の供給も仕事も問題ないだろ。」
そもそも、軍隊蟻《アーミーアンツ》が強力な武器を持ち始めたのは、樫閑が入ってからだ。
企業が兵器を開発する際、最も重要視されるのはその武器の役割であり、樫閑は軍師としての天才的頭脳から、
例え気まぐれで開発・設計された武器でも、それの運用方法などを考案し、その有用性を証明することで兵器のコンペティションにおいて企業を有利な方向へと導いていた。
その応酬が軍隊蟻《アーミーアンツ》の保有する兵器群である。
仰羽「まぁ、俺たちも器物損壊と諸々の余罪で数ヶ月の懲役で済んで助かったすね。」
寅栄「宇宙頭脳《スペースブレーン》の情報料として、九野先生たちには“組織として、軍隊蟻《アーミーアンツ》の存続”を要求したからな。報道で軍隊蟻《アーミーアンツ》の名前が出ていないってことは、ちゃんと約束を護っているようだな。」
そう言って、寅栄と仰羽は空を見上げ、軍隊蟻《アーミーアンツ》の更なる存続と栄光、そしてこれからも筋を通した生き方をすることを願った。
第七学区 とある病院
涼しげな印象を与える個室の病室。窓際にあるベッドで帆露は上体を起こし、外を眺めていた。
未だに男性恐怖症から抜けられていないものの、第五学区の病室で樫閑たちに敵意を剥き出すあの頃と比べれば、
幾分かは落ち着いた印象を与える。手には携帯電話が握られている。
彼女の傍らには、振動支配《ウェーブポイント》こと
四方神茜がベッドに寄り掛かって眠っていた。
手元には、何やら文字か絵か、はたまたその中間に位置する図形が書かれたカードを持っていた。
これは、言葉を発せずとも茜が文字を理解できるように宛がったものだ。本来、口語無くして文字を理解することは非常に難しいが、
樫閑は絵や図形から派生して漢字が出来上がったこと、古代エジプトの絵の様な文字であるヒエログリフを参考に、
茜が文字の読み書きを出来るように教育を施している。
彼女は“ヒエログリフ方式”と命名している。
口語を省いた文字の理解はとても難しいだろうが、超能力者《レべル5》の頭脳であれば、すぐに解決するだろう。
帆露「私のために・・・ありがとう。茜ちゃん。」
そう言って、帆露は眠る茜の頭を撫でる。帆露だから安心しきっているのか、振動防御帯で帆露の手が拒絶されることはなかった。
すると、女性の看護師が部屋の中へと入ってくる。
まだ男性恐怖症を克服できていない帆露の担当は、未だに女性が担っているようだ。
看護師「花がかれちゃってるわね。取り替えておかないと・・・」
そんな独り言を呟きながら、看護師は帆露の周辺を整理したりして、自分の職務を全うしていく。
帆露「看護師さん。ちょっと話があるんですが・・・」
看護師「はい?なんでしょうか?」
帆露「・・・・・・、ちょっと・・・外に出てみたいんです。」
看護師「外って・・・、あなた、男性恐怖症は・・・・」
帆露「まだ男の人は怖いです。でも・・・・・このまま病室に篭もったままでいるのも嫌なんです。」
言葉こそは弱弱しかったが、彼女の眼には焔が点いていた。困難を乗り越えるための硬い意志がそこにはあった。
―――――――――泣き寝入りなんて、カッコ悪いわ。―――――――――
かつて、誰かに言われたような気がする言葉。それが彼女の決意の燃料となっていた。
From:毒島帆露
件名:拳へ
今まで、色々と迷惑をかけたようで、ごめんなさい。
まだ、メール越しでしか話せないけど、
いつかきっと面と向かって、拳と話したい。
“ありがとう”って言いたい。
拳だけじゃない。私や茜ちゃんのために戦った人たちにも感謝したい。
そのためにどれだけの犠牲が出たか知らないけど、
まだ、部屋から数歩出るのがやっとだけど、もっと時間がかかるかもしれないけど
それでも、待ってくれる?
From:毒島拳
件名:Re拳へ
ああ。待っている。
拳「待っているよ・・・。姉さん・・・。」
肩を震わせ、必死にうれし涙を堪える拳。しかし、まだ涙を流すには早すぎる。
いつか、帆露と向き合う時に、電話越しでもない。メールでもない。
生の声で、現実に目の前に存在する姉に「ありがとう」と言われた時に・・・、思いっきり泣こう。
バカみたいに大粒の涙を零して、赤子のように大声で泣き喚いて、一緒に笑い合うために。
蟻は弱い。
どんなに強大な力に踏まれても、栄誉も無く、誰にも称賛されず、慈悲を与えられることも無い。
常に世界の底辺でもがき続け、自らが無能であることも知っている。
だが、蟻は群れる。
虫けらには虫けらの生き方があるように、無能には無能の生き方があり、戦い方がある。
同じ苦しみを味わい、同じ戦場を駆け抜けたその絆は、いかなる力を以ってして断つことは出来ない。
そして、その絆は時には強大な力を越えることもある。
蟻も群がれば、龍も喰らう。
それが――――蟻群矜持《ボトムスピリット》
【原作キャラ】
浜面仕上
黄泉川愛穂
御坂美琴
白井黒子
初春飾利
固則美偉
冥土返し
木原数多
テレスティーナ=木原=ライフライン
~スペシャルサンクス~
素晴らしいキャラを生み出してくれた作者の皆さま
スレで応援してくれた皆さま
“とある魔術の禁書目録”を生み出してくれた鎌池先生
最終更新:2013年02月25日 01:13