連鎖、という言葉がある。
時に人は自らの思惑から外れ、運命とでも言うべき超常的な力から逃れる事なく生きていかざるを得ない。
そうした運命はまるで連鎖するように次々と流転していくのである。
今夜のような特別な日はなおさらだ。
「エクレア買ってきたぞー」
クソすっとぼけた調子で守屋先輩が新聞部部室に入ってくる。
最近の先輩は何でこうもエクレア推しなのだろうか。
今日はクリスマスだぞ。せめてブッシュドノエルくらい用意できないものか。
「で、サンタクロースは見つかったの?あと紅茶をお願いはとむら」
即座にエクレアを頬張りながら先輩が尋ねた。
「ええ、見つかりましたよ。
おかげさまで『あわてんぼうのサンタクロース事件』は無事に解決です。
まさか解決するのにイブの夜までかかるとは思いませんでしたが。
予定が台無しですよ」
自分はわざと愚痴った調子で答えたが、守屋先輩は妙な含み笑いを漏らした。
「予定って言ったって、親戚の法事なんでしょ。
それよりはイブの夜をマリモんと一緒に過ごせたほうが良かったんじゃないのはとむら?」
マリモんとは、新聞部の女子部員で狗人のマリモ・スタンの事だ。
あの忌々しい『あわてんぼうのサンタクロース事件』解決のために、昨夜は行動を共にしたのだ。
「迷惑をかけてしまったとは思ってますよ。
いずれ穴埋めはしなければならないでしょうね」
紅茶を出しながら自分が言う。わざと苦目に煎れたものだ。
「だったら今すぐ行動しなさいなはとむら。
今日はクリスマスだよ。プレゼントの一つくらい用意したら?
ちなみに彼女が今一番欲しいものは『首輪』なんだってさ」
ケータイをカチカチといじりながら先輩が言う。確かにそうだ。
首輪はちょっと買うのに抵抗感があるが、他にも相応しいものはあるだろう。
「ちょっと自分、出かけてきます」
その瞬間、自分のスマフォの着信音が鳴った。
言うまでも無く地球観測・解析用強行偵察型蟲人36号、通称シャーロックからのものだ。
『ハトソン君。狗人女子の好みなど、キミにわかるはずもないだろう。
真っ先に相談すべき相手を忘れているのではないか。
相談料は駄菓子屋「白い巨糖」 の水飴一瓶でいいぞ』
自分はスマフォをそっとポケットの中に押し込めた。
真っ先に向かったのは校内保健室だ。
自分の予想通りならば、彼女はそこに居るはず。
「お邪魔します・・・」
ドアを開けた瞬間から鼻腔を突く消毒液の臭い。あまり好きにはなれない空間だ。
中を見渡すと、予想通り包帯まみれになった女子生徒がいた。
十津那学園高等部2年の女子生徒、芦原瑠奈だ。
どう見ても大怪我をしているのだが、案外平気そうな顔をしてベッドを占領してお菓子を食い散らかしている。
「あれ、鳩村が保健室に来るなんて珍しいな。
サンタクロースは見つかったのか」
お前が気絶してブッ倒れてる時に何度かかつぎ込んでるだろ、とは言えず。
彼女とは、とある事件を切っ掛けにして知り合ったのだが、謎の多い人物である。
仮説の域を出ないのだが、彼女は現代日本のこの地において『何か超常的なもの』を相手に闘っているようなのだ。
これは他人には言えない。
厨2病と笑われるか、サイコ野郎と言われるか、もう寝なさいと言われるか、何にせよ信じてはもらえないだろう。
それでも観察した結果からはその結論しか出ない。もう何度も大怪我した彼女をここに連れてきているのだ。
ただ、そんな相手が居たとして、何故シャーロックが興味を示さないのかだけは不明だ。
とりあえずマトモに会話の成立しそうな女子が他に思いつかなかったのだ。
「相談なんだけどさ、クリスマスプレゼントってどんなのがいいかな」
すると芦原はみるみるうちに顔を真っ赤に染め上げた。
「あ、あのねっ!
フツーはそういうのって、もっとさりげなくリサーチするものじゃない?
私は鳩村がくれるんだったら、ふつーのプレゼントで満足だけど」
あ、変な勘違いしてる。というか聞き方が悪かったか。
これは厄介な事になった気がする。下手に誤魔化すとかえって悪化する恐れがあるな。
「そのふつーってのがわからないんだ」
「え、ホントにふつーでいいよ。じゃあ、リング欲しい!」
芦原は満面の笑みで答えた。
これもしかして、プレゼント2人分買う流れになるのか・・・
そもそも最初っから同じ種族である狗人に聞けば良かったのだと後悔しつつ、自分は陸上部へと足を運んだ。
部の性質柄、
ケンタウロスが多く所属する陸上部は、自然と従者たる狗人も多く集まる。
「鐙クレスタさんはいますか?」
部室にいた陸上部員に声をかけると、鐙クレスタことクレスタリア・アヴミールは帰郷しているという事だった。
となれば当然彼女の従者も帰郷しているだろう。
「彼女に何か用事でもありましたか」
途方にくれていると、
マセ・バズークの蟲人で陸上部員、蜂須賀三七(はちすかみな)が声をかけてきた。
やはり、とある事件を切っ掛けにして知り合った生徒だ。
「いや、その、クリスマスプレゼントの事で」
すると蜂須賀は口をチキチキと鳴らしながら考え込み、言った。
「ケンタウロスの女性に告白するのならば、チキュウの風習に沿うよりも、
イストモスの風習に沿うべきです。
彼の地には恒例の『星祭』と呼ばれる宗教行事があり、その場で愛を誓う方が勝算が高いとディルカカネットで分析されています。
サンタクロースなどという実在しない神の眷属の恩恵に頼るよりは、実在する星神に愛を誓うべきです。
もっとも彼女はイストモスに想い人がいると言っていたので、あなたでは勝ち目はありません。
贔屓目に見積もって2%以下ですが、それでも勝負なさいますか」
さすがは群れの威信をかけて地球に送り込んだだけの事はある分析力と文化理解力。
完全に勘違いした分析結果としか言いようが無いのだが。2%以下か・・・本音を言えばもう少しは欲しかった。
「そうじゃなくてですね。彼女のことで相談しに来たのではなく」
蜂須賀は自分の言葉を遮って全身を震わせてから、こう言った。
「存じているかとは思いますが、私の世代からは確かにニンゲンとの生殖行動を可能とした器官が搭載されています。
それにしてもあまりに唐突な提案のため情報を処理しきれません。情報を処理しきれません。情報を・・・」
ああ、フリーズしてしまった。
結局肝心な情報を聞けず終いか。厄介ごとを増やす前に、さっさとここからは立ち去ろう。
後日、水飴くらいはプレゼントすべきかな。
途方にくれていると、目の前に何度爆死しても足りないカップルが現れた。
元剣道部部員の川津先輩と、その彼女の蛇人、蛇神先輩だ。
「あれ、新聞部さんじゃない。
そんないかにも途方に暮れていますみたいな顔して。どうなさったのです?」
蛇神先輩が優しく話しかけてきてくれた。
これはプレゼントの事を聞くいい切っ掛けになった。
何故か川津先輩は呆れ返った表情になっているが。
「ヤマカ。お前ホント話す相手によって声のトーンとか口調とか変わるのな。
それどうやってんの?翻訳の加護とか自動的に翻訳されるんじゃねぇの?」
すると蛇神先輩は意外そうな声で言った。
「テンちゃんまで気づいてないの?
アタシ、普段は
ミズハミシマの言葉なんて使ってないからね。
中学1年の頃から地球で過ごしてるんだから、そりゃあ言葉だって覚えるよ」
「インフルエンザでブッ倒れた時は使ってたじゃねぇか」
「意識が朦朧としたら、そりゃ出ちゃうよ」
「本題に入っていいですかね。プレゼントの相談なんですけど」
自分がそう切り出すと、川津先輩が首を横に振りながら言った。
「新聞部・・・そういう質問はもっと普通の女子に聞くべきだ。
こいつの話はまったく参考にならん。6年間サンタを務めた人間の意見だ。」
「なによぅ。それじゃアタシがセンス無いみたいじゃない。
ちなみに今年は神戸の中華街でディナーを楽しんだ後で・・・ねぇ?
プレゼントはネズミーマウスのお財布と熱いキッスだったの~」
ええいリア充め。まるで参考にならない。
「新聞部・・・どうせリア充とか思ってんだろうけどな。
カエル食ったあとのくちでキスされる身にもなれ」
中華でカエルと言えば、田鶏(ティエンチー)と呼ばれる一般的な食材ではある。
日本で一般的かと言うと・・・
「カエルの美味しさを理解できないなんて、ニンゲンはこれだから困る」
蛇神先輩は両手を掲げ、ヤレヤレといった風に首を振る。
「ミズハミシマにもカエルっているんですか?」
ふと沸いた疑問を投げかける。この辺り、新聞部の性だ。
「ヴォジャノイね。結構美味しいよ。
ただ、ミズハでも鱗人の一部しか食べないかも。クセがあると言えばあるから。
そーだ!テンちゃんさ、年末年始でミズハに一緒に帰ろうよ。
ヤマカちゃん特製のヴォジャノイ料理を披露するから。
あと龍我喃言宮(るがなんごんぐう)にお参りしてだね。それから・・・」
そうして二人は行ってしまった。
「新聞部ー!いっそアクセサリー自作とかでどうだー!
ノームに聞いてみろよ」
川津先輩がそう叫んだ。その手があったか。
手芸部のドアをノックすると、中から返事が聞こえた。
やはり、とある事件で知り合ったノームのアルテン・ロッカが所属する部だ。
その事件を皮切りにして、亜人用の私服やコスプレ衣装を無尽蔵に生産し続け、むちゃくちゃな儲けを出しているらしい。
特にアルテン・ロッカは十津那学園女子大学、通称、淑女生産工場『クシナダライン』への推薦というかスカウトが来ているようだ。
とりあえず中に入ると、そりゃそうだと思いつつも凄い人数の女子部員が揃っていた。
「なにかごようですか?」
ズイと目の前に180cmの巨体が立ちはだかった。豚人系
オークの奥山さんだ。
「アルテン・ロッカさんはいらっしゃいますか」
自分がそう言うと、奥山さんは困った表情をした。
「ロッカさんは今日はおやすみです。彼氏さんとでーとに行くのです」
休みならば仕方ない。ここは別の手立てを探すとしよう。
それにしても自分が知るノームと言えば、あとはノム子さんとユッコ・ベルテしかいない。
ノム子さんの作るアクセサリを想像すると恐ろしくもあるし、ユッコがそんな繊細さを持っているとも思えない。
どちらかと言うと二人共マッドサイエンティストの系譜だからだ。
「それにしても皆さん忙しそうですね」
思わずくちにしてしまったが、手芸部全体が鬼気迫る様相だったのだ。
「皆さん彼氏さんにプレゼントするもののおいあげさぎょうです。
わたしもヒウマくんにプレゼントするセーターをあんでいました。
今日のうちにはわたせそうです」
奥山さんの手には、イギリスの屈強な船乗りとてこうまで頑丈な物は着ないだろうというミッシリしたセーターがあった。
彼女はミズハミシマの生まれと聞いていたが、これでは
ドニー・ドニーの鬼達に相応しいだろう。
あえてドラクエ風に言うならば、かわのよろいよりも防御力がありそうだ。
「あ、あの!ニンゲンさん!お聞きしてもいいですか!」
不意に
ドワーフの女性から声をかけられた。
「私、マーミヤといいます。
クルスベルグのドワーフです。
その、ニンゲンの男の人って、ドワーフ式マフラーでも喜んでもらえますか?」
マーミヤを名乗った彼女の手には、やや複雑な構造をしたマフラーがあった。
「その、坑道の粉塵避けにもなるマフラーなんですけど。
そういう実用的なものは好かれませんか?わかんないんです。自信無いんです」
マーミヤはネコヒゲをくしゅんと下げて自信無さげに言った。
女性ドワーフもヒゲが生える者がいるとは聞いていたが、こういう生え方なのか。
「一般論ですけど、顔見知りから手製のものをもらって喜ばない人は居ないと思いますよ」
正直、人によるとしか答えようが無いのだが・・・
するとマーミヤはヒゲをピンと伸ばして嬉しそうに言った。
「良かった!これでオグリさんに自信を持って手渡せます!」
どこに行ってもリア充ばかりだな。この学園。
「サンタさんやくもたいへんですけど、がんばってくださいね。
彼女さんもきっとよろこんでくれますよ」
「奥山さん、何故それを?」
あと彼女じゃない。
「さっきヤマカちゃんからメールがきていました。
ロッカさんにアクセサリーをたのみにきたんですよね?
かわりといってはなんですが、私とマーミヤさんでえらんでみました。
このゆびわを彼女さんにプレゼントしてあげてくださいね」
そう言うと、奥山さんは自分に指輪の入った小箱を手渡した。
「あの、サイズは・・・」
「へんけいします」
ノーム凄いな。
新聞部の部室に戻ると、鳥人のビシタシオンや狐人のフー・シュリンが顔を出していた。
部屋の奥には狗人のマリモ・スタンの姿も見える。
あれ、なんか緊張してきた。
「あ、鳩村さん。お疲れ様です。
昨日は夜遅くまでお互い大変でしたね」
マリモが笑顔で話しかけてきた。あれ、何て切り出せばいいんだっけ。
「昨日の夜って、何があったんだ?」
フー・シュリンが口を挟む。
「一緒にサンタクロースを見つけたんですよ」
実にロクでもないサンタだったけどな。
いや、彼女はアレの真実を知らないのか。
「サンタなんているわけ無いじゃない。バッカみたい」
日本人の安田桜花がいかにも現代人な事を言う。
「そんな事はないですよ。
イストモスには星神様がいらっしゃいます。
ニホンにだって星の加護があって不思議じゃありません。
私は亜神サンタクロースの存在を信じていますよ」
亜神・・・ね。
ふと、自分の小さい頃の事を思い出した。
現実的な両親に育てられたせいもあり、サンタなんてものは居ないのだと理解していた。
だけれども、自分は一度だけサンタクロースを見たのだ。
つるつるとした外見の青黒い猫のようなサンタクロースだったけれども、彼はこう言ったのだ。
「今夜は別件で<こちら>に来たのだけれども、出会ったからにはプレゼントをあげなければな。
キミには面白い『試練』をプレゼントしよう。箱のフタを開けるのは、17歳の誕生日にしなさい」
「オジサンは誰?サンタクロースなの?」
「そうとも。散多苦労スさ」
そんな思い出だ。多分、夢だったのだろうとは思う。
けれども。人はサンタを語り継ぎ、サンタとなって継承していくべきではないのか。
人が感謝の心を失わない限り、サンタは無限に生き続ける。
それはまさに地球の亜神ではなかろうか。
「サンタは、いるよ。
はいこれプレゼント。サンタから預かってきたんだ」」
自分は自然とそうくちにしていた。
尻尾を振りながらマリモが小箱を開けると、中から指輪が・・・出てこなかった。
「ミスリルのチョーカー・・・いいんですか!?こんなステキなもの。
嬉しいです!大事にします」
呆然とする自分の脳裏に、奥山さんの言葉がリフレインしていた。そうか。変形したのか。
「本当に『首輪』を贈っちゃうだなんて、意外とダイタンよねはとむら。
それはそうと、私へのプレゼントはないのかなはとむら」
自分にもたれかかりながら守屋先輩が言う。
「戻る時に購買でお菓子詰め合わせ買ってきてますから、どうぞご自由に」
「やっすいわねぇ」
次の瞬間、スマフォの着信音が鳴り響いた。シャーロックからだ。
『全然返事をくれなくて寂しいじゃないか。
狗人へのプレゼントは決まったかい。
覚悟が無いうちは、けして首輪は贈らない方がいいぞ。
それは求婚を意味するからな』
もっと早く言えよ!
とは言えスマフォをポケットの奥に押し込んでメールを無視し続けたのは自分だ。
今更返してくれとも言えず・・・どうしたものだろうか。
ああ、今日も酷い一日だった。
- 魅力的なキャラが多数出てくるのは学園モノの醍醐味。出席簿とか思わず想像してしまう賑やかな作品 -- (名無しさん) 2012-12-25 12:25:09
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- キャラとイベントの大洪水である!しかし持ち味はちゃんと出てて楽しい。やり方次第では三つくらいに分けれていたかも?と思った -- (名無しさん) 2012-12-28 02:14:54
- 何にもましてキャラの中身を把握した上で作られているのがすごい -- (とっしー) 2013-01-12 18:19:29
最終更新:2014年08月30日 23:28