【歪(いびつ)】

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 新天地は比較的新しい土地に属する。歴史が浅く、開拓も浅い。
 そんな土地に身を置く者は、何がしかの目標を持っている事が多い。
 新しいビジネスを狙っていたり、自分の好きに出来る土地を探したり、新しい食を発見しに来たりと枚挙にいとまがない。
 多くの意味で自由。如何なる理由にせよこの土地は多くを迎え入れる。

 時にこの土地に集う者の中で、目立つとまでは行かずとも目に入る事が多い人々がいる。
 彼らは何か、大きな目標を持って足踏み込んだ訳では無い。理由もまた明確では無い。
 ただ大河の奔流に流れ流され、気が付けばここに居たという程度の理由しかない。
 そんな彼らもまた、理由なき理由の持ち主という形で新天地は迎え入れる。
 父親探しの途上、路銀稼ぎと情報収集を兼ねて傭兵へと林檎は身を落とすことになった。
 今は鬼の少女であるイヅルカと樹人であるジャックの後をついていき、小さな傭兵団の面々と顔を合わせている。
 その誰もが、どこか微妙に不自然であり、どこか微妙に違和感を感じさせた。

「その異邦の小娘を団員に? 何の役に立つのか見当もつかんが、俺は別に異を唱えることはせん。
 お嬢が許可したのならそれでいいだろう」

 カール・ラスペルビア。鳥人。その体躯は鷲の頭部に獅子の身体を思わせる強靭なもの。
 頭部から胸元へかけては白銀であり、四肢へ移るほど黄金へと色を変える。
 その左に背負った翼は見るも美しいが、一方で右はその跡形すら無い。それどころか根元から紛失している。
 右肩から胸にかけて当てられた鎧は、それを身につけた者と比べて随分と安っぽく感じられた。
 鋭い嘴と鋭い鉤爪に加え、その口調もまた鋭く尖った印象を与える。

「ふむ、これが噂に聞く異邦人か。なるほど角の無い鬼、もしくは肌の黄色いエルフ
 または身長の高いノーム、あるいは……そう、異邦人に擬態した蟲人に良く似て……よもや!?」

 アルベン・ガウラ。蟲人。黒と黄の入り混じった不気味な鎧に身を包み、その顔には目も口も無いように見える。
 下半身から伸びる脚と、一本の長い尻尾の先端を線で繋げば五角形を描き、いよいよ人外甚だしい。
 林檎に差し向けられた手のほか、よく見れば腹の前で組まれた両腕が目に映る。
 四足四腕の異形とも呼ぶべき姿だが、その容姿を既存の生物で説明するのは不可能に近い。
 異邦人向けに分かりやすく例えるとすれば、“フレンドリーに人語を話すエイリアン”といえば近からず遠からず。

 これに“絶妙なアンバランス”で構成された鬼のイヅルカ嬢と、異邦かぶれの樹人であるジャック。
 そして何故だか団員として勘定されている猫人のサバーニャ。精霊に憑かれながら父親を探す林檎を加えた計六名の本当に小さな傭兵団。
 新天地広しと言えど、ここまで雑多な混成団体はそう見れたものではない。
 ふと林檎はイヅルカに尋ねた。この集まりの発端は何だったのかと。
 イヅルカは螺旋の角をこつこつと指で叩き、返答に詰まる。そこへジャックが横から割って入った。

「流れ者の集まりなのさ。お嬢も、オレも、カールもアルベンも。
 嬢ちゃんだって流れ流れて新天地(ここ)に辿り着いたクチだろう? そういう集まりさ」

 自分が流れ者に該当するだろうかと林檎は内心疑問に思ったものの、どうも反論できそうになかった。
 ジャックに会う前の状態を思い出せば、あれはどうみても流れ者の姿にしか思えないかったからだ。
 思えば随分と無茶をしていたような気がすると、たかだか16歳の小娘は遅い後悔をした。
 そして流れ流されたとは言え、たかだか16歳の小娘に傭兵という職が務まるのかという今更な後悔もした。
 それとなく気配を察知したジャックが答える。

「今の世の中、何が必要になるか分かったもんじゃないからな。異邦人ならではの活躍を気長に期待するさ」

 くっくと肩をすくめて笑うジャックとは対照的に、鬼のイヅルカは今だこつこつと角を叩いていた。


  • 傭兵団と出ただけで心が躍る俺が何とも安っぽい。短い中でもキャラ立てて終るのは毎度上手いね -- (としあき) 2013-02-10 03:43:09
  • 登場する種族が多様で賑やか。彩りがある -- (名無しさん) 2013-02-11 07:19:05
  • サバーニャさんいつの間にかお仲間に…一癖も二癖もある団員達がいい味を出していますね。新天地は異世界だけでなく地球からの流れ者も集まってきそうな土地に思えてきました -- (名無しさん) 2016-01-31 19:54:53
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最終更新:2013年02月09日 21:51