「着いたぞ」
「くっ、空気が薄っ!?」
どこで何を間違ったんだろう?
留学先の冬期休暇でクラスの皆と
エリスタリア旅行に行こうと準備して許可取ってストーンヘンジの
ゲートをくぐって…
ホビットの里に行くと調理科の連中が別れて
雪山にアタックするとワンダーホーゲル部と別れて
異世界の酒を飲もうぜ!と誘ってきたステイ先のグリッグと一緒にゲート樹の近くにあった酒場に入った
うん、そこまでははっきりと覚えている。
「お前達は人間という者か?」
「はい。そうですが?」
氷河の様に透き通る白い肌と斜めに突き出す長い耳。切れ長で澄んだ翠瞳の
エルフ。
既にグリッグは幸せそうな寝顔のままテーブルに突っ伏している。
「戦士に興味はないか?」
「はい?」
そこで記憶は途切れ、今は太い太い樹の枝を跳んでは登り跳んでは昇るエルフに担がれている。
身長こそ170cmとそこそこだが線の細い体。慎ましやかな胸のせいで初見は男性かと思っていたが喉仏が無いのを見ると
どうやら女性のようである。
いやいやそうじゃない違うそうじゃない。
「はい」という言葉の難しさを今噛み締める自分。
米俵の様に降ろされた。
肌を押す風はとても地上では味わえない重い圧力だが、何とも心地良いマイナスイオン。
そりゃ周囲全て緑に囲まれているんですし当たり前ですか。
目の前には一階建てっぽいほったて小屋。外壁は丸太を頑丈そうな蔦で縛ってできているようだ。
屋根は所々花の咲いた枝や蔓が覆い被さっている。
空の向こうに
世界樹らしき大樹を臨む、ごん太の枝の先の小屋。
「おお、おお…下は見ないでおこう」
息のし辛さも忘れる下から吹き上げる塊の様な風に脅され、小屋へと進むエルフの後を追う。くらいしかできないし。
「ようこそ。歓迎しよう」
何故壁と同じ厚みの扉なんだ…。エルフは何の気なしに丸太の扉を開いて誘う。
おそるおそる入った直後に飛び込んだのは壁に立て掛けられた武具の数々。
「…というか武器関係しかないんですけど」
「うむ。まぁとりあえず飲むがよい」
部屋の真ん中に鎮座する唯一まともな家具であるテーブルの上にちょこんと正座していた球根の様な人形を ──
ぎゅぅぅうう~~っと握る。口も目も無いが如何にも悶絶した風にじたばたする下からぼとぼとと青紫の汁が零れ落ちる。
木のコップに満たされたそれをこちらにぐぃっと勧めてきたが、丁重に首を振ってお断りする。
「さて、君に頼みたい事がある」
「御免なさい。お断りします」
「人間というのは精霊とも自由に会話ができるらしいな。
人間よ、君は今日から樹の戦士だ」
「うぉおおーーーっっ!!」
会話の展開の意味不明さに感情が爆発して奇声を発し両手を掲げ立ち上がってしまった。思わず。
とんとん とんとん
不意にノック音。扉の下部の四角の窓がぱかりと開き小人が覗き込む。
「マグッサ~、注文してた武器を持って来たよ~…って!ま~た人間を連れ込んでるしー!」
小人、窓を開く。小人、窓から入る。小人、テーブルまでとてとて駆け寄る。
「セニトーリ、これは勧誘だ。連れ込んだのではない」
エリスタリア観光ガイドをめくる。
靴を履かない毛のふさふさした足と子供の背丈に大きな耳と小動物の様な鼻先…ホビットという種族らしい。
そして少し開けた扉からじぃ~っと何も言わずに見つめている
熊の様な何だか分からないが大きな体に武器を背負った枝と幹と根の物体が樹獣というものらしい。
「マグッサ!人間は基本ひ弱で戦士なんてムリなんだから連れ去ったらダメって戦士長から言われてたでしよ!」
「む。しかし成功例が無いわけでもない。私は可能性に賭けたい」
「はぁ~、精神強調体というのは強さ以上に行動のちぐはぐさで大損しているでし絶対に」
良かった。どうやら自分が進んでここにやってきたのではないと認識してくれる人がいた。ありがとう神様!
「ということで人間さん。
いち:ここからすぐ帰る:琥珀貨一枚
に:ここで数日ひどい目に遭った後に帰る:翡翠貨二枚
さん:限界かな~?と判断されるまでここにいた後に帰る:私の気分次第
どれか選んでし」
こんにちは。妖怪アシモトミ。
「…すいません、三番で…」
ガタッ
マグッサ、これでもかという笑みを湛えて立ち上がる。
「本気ですか~?ケチって一人で降りようなんて思っても無駄でしよ?
木の芽樹人の監視網は樹の蜜を吸いに来るコソ泥蟲人一匹たりとも逃さないし、
木の目に見つかればすぐにマグッサに報せが入るようになっているでしよ。
彼らの監視を掻い潜れる確率なんて屋台のトカゲ売りの卵が飛竜の卵だったってくらいの低~い確率でし」
これが…悪魔の脅迫! でも ──
「いや、本当は一番と言いたいんですけども。
財布は連れに預けているので、実は文無しなんですよ」
「じゃあマグッサ、武器はそこに置いておくでし。次は一ヶ月後に来るでしよ」
樹熊、武器を壁に立て掛ける。セニトーリ、樹熊に跨る。すたこらさっさ。
「なし崩しではあるが、君は一ヶ月の間ここにいてもらうことになった。
仮にではあるが、君は樹を護る戦士として外よりやってくる外敵と戦ってもらう。私と共に」
「ずぁあーーーーっっ!!」
とりあえず叫ばずにはいられなかった。
ただ、空の向こうまで突き抜けていく絶叫の通りは気持ち良かった。
樹の枝のエルフの家の画を見て思わず一本
えるふ とても おそろしい ほびっと おかね ほしい
- えるふ こわい ほびっと がめつい -- (名無しさん) 2013-05-15 10:25:30
- 一ヶ月後に帰るのかな?どうするのかな? -- (とっしー) 2013-05-15 12:57:28
- 日本語ってイントネーションで意味合いも変わるから翻訳加護でも変な通じかたはあり得るか。でもどう応えても攫われていたかも -- (としあき) 2013-05-16 21:29:11
- 行動が理解を超えると美人相手でもおったたなくなるって典型やろん -- (名無しさん) 2015-05-08 23:33:08
- 樹枝にある武器庫みたいなエルフの家とは面白いですね。エルフとホビットの性質の違いが浮き彫りになる会話も楽しくその後の彼の人生を思うといっそう楽しくなりました -- (名無しさん) 2016-08-28 17:56:19
最終更新:2013年05月15日 04:03