── 早朝 十津那学園 海之前校より南、砂浜
「とどのつまり、その一発で決めるか次の一発に持っていくかの違いってことだろ?」
2m近い人間男性がジョギングをしながら筋肉を纏った両腕であれこれとフリを作る。
「相手の背が低いと大振りの一発がどうしても当たらなくて…
かと言って力を加減して下方へ狙い振ると速度も強さも中途半端になってしまって」
3mあろうかという
オーガは傷だらけ筋肉だらけの見た目からは想像出来ない丁寧な言葉で、
どしんどしんとジョギングを続けながら両手であれこれ軌道を描いてみせる。
「どうしてもラリアットじゃなきゃダメなのか?
拳握って振り子かハンマーかの要領で一発!浮かした後にラリアットでドカンの二段構えなら…」
「それならとても魅える連携になるんですけど…
あ、あの二発当てちゃうのは相手も痛いんじゃないかな…と」
申し訳なさそうに頭をかいたオーガの上空を海鳥がふらり飛んでいく。
一寸、一間。
「はっ!らしいなマスクマン! それじゃあ何が何でも大でも小でも一発で刈り取るしかないな!」
傍から見ると大男と大大男がじゃれ合っている様にも見えるが、
当の二人には至って真面目な実技込みのラリアット談義である。
「兄さん!」
通りの良い高い声。 呼び掛けに肩を竦めて振り向いたのは大男の方。
「今日は実家の掃除に行く日だよね?!」
追撃に反応して上空を見上げると既に太陽は早朝から朝の位置に。
「すまん。行く」
「はは、仕方が無いよ。 鋼矢、弟さんが怒る前に早く」
オーガと拳を一度合わせ打ち、鋼矢は呼び掛けた元へと走り寄る。
声の主に一度、二度と指を指される度に鋼矢は頭を下げていた。
「ウォーチ!」
「休みの日だというのに本当に真面目ですね」
「今日は坊ちゃんの“アンリさんの店の当たり券をパーっと盛大に引き換える日”だろぉ?!」
砂浜を見下ろす堤防の上から不良男子、坊ちゃん
ノーム、リーゼント龍人の声。
呼ばれてすぐにどしんどしんと駆け寄るオーガ、ウォーチ。
「あれ?丈児、それは?」
「おう!“カブ”っつぅ世界一頑丈で気合の入ったバイクよ!」
「全世界に広がり愛用されている珠玉の名バイク、と紹介されているね」
「飾りっ気はねェが、これはこれでシブいぜェ…」
ブルルン ブスンブスン
「それでも三人乗りはちょっとしんどいんじゃないかな」
─── ~! ── 乗りはー ── ーっ!
何処かより、誰かの声が聞こえてくる。
「やべえっ! “ヤツ”が来る前にずらかるぜ!」
見た目で強引と分かる乗車スタイルにも拘らず、カブは勢い良く白煙を噴いた後、とんでもない速度で走り去る。
「流石、ノム子さんのカスタマイズは一級品だね」
「兄さん! 早くしないとポートライナーが出ちゃうよ!」
身支度、と言っても亜弓はいつものカッターシャツと学生ズボン。俺はいつものトレーニングウェアとスラックス。
十津那山之上校の建つ境界山の麓にある学生寮を出、中央ランドアーチへと駆ける。
途中、一心不乱に走る男性をガシャガシャと追う奇妙な道化人形の背に乗ったノームを
警笛を鳴らしながら低いヒールで褐色肌の顔を真っ赤にして追走するダークエルフの婦警の一団に巻き込まれそうになったが
上手く左右に分かれてやり過ごす。
「相変わらず十津那荘の人達は賑やかだなー」
アーチの入り口にあるバス停に到着してすぐ、ポートライナー駅行きのバスがやってくる。
休日ではあるが朝ということもあって乗り込む客もまばら。
最後に鋼矢が乗り込むと、バスは軽快な空気音を吐き、扉を ──
「そのバス待ってー!」
バス後方、数メートル先から駆けてくる人影二つ。
思わず声に反応した鋼矢がつま先と二の腕でバスの扉を静止すると、再度扉が開く。
「ごめんなさい!乗ります!」
「ふぁー!ギリギリ間に合った!」
動き易そうなアウトドア様相の
エルフが見事な癖っ毛をひと払いして耳の回りを整える。
片や、仰々しい丈夫そうな大リュックを背負った男性はまだ肩で息をしている。
「メノーが用意に手間取るから…午前の便を逃したら
ゲート行きのフェリーは明後日まで出ないって自分で言っておいて」
「はー、革モノの手入れってのは、ふー、手間も時間もかかるもんなんだよ、はー」
「そういうのはメノー、夜の間に済ませておく」
簡便と手をひらつかせる男に顔を膨らませて憤慨するエルフは…男女どちらとも言えない中性的な容姿である。
「羨ましい…」
亜弓は誰に聞こえるでもない小さな声で呟いた。
バスはポートライナー駅に到着。
地上二十余メートルの高さにある駅に登ると、静音のタイヤ走行のポートライナーが到着する。
“神戸大橋前駅:直行”の行き先を確認し、乗り込む。
日々何かを作ろうと形を変えるポートアイランドを見下ろしながら、ポートライナーは進む。
やがて駅に到着。 ここが ──
「ヒロト、どうしたというのだ?早く“渡橋証”を出さないか」
「いや、あれ?あれっ?」
「ひょっとして…ヒロト」
小リュックを前に担ぎながら中を漁るラフな格好の男性を、怪訝そうに見つめる鱗人と心配そうに見つめる鬼人。
春を思わせる身軽なスカート姿から尾を伸ばす鱗人女性とは対照的に、
華やかなフリルをあしらった洋装で引き締まった身体を包む鬼人女性。
── 渡橋証
異世界からポートアイランドに移り住んだ亜人やポートアイランド在住の人間は、
ポートアイランドより出る際に、事前に申請し許可を取らなければならない
今では申請もオンラインで済ませるようになり、手早く簡単にはなったが
申請者の渡橋証が無ければ申請を照会する事が出来ず、許可が下りている場合でも橋を渡る事が出来ない
唯、例外措置の一つとして、ポートアイランドに移る以前に日本国内で居住歴のある亜人に関しては
人間が橋を渡るのと同程度の軽い審査で済むという
「早くしないと異人館通りの洋菓子屋が開いてしまうではないか」
「トガリ、落ち着いて。 慌てなくてもバームクーヘンは逃げないわよ。多分」
諭す鬼人ではあるが、そわそわする尻尾の動きは止まらない。
「何だ?渡橋証を落としでもしたんだろうか」
流石に心配になってきた。 何せヒロトと呼ばれた男を睨むトガリという鱗人の目付きがやばい。
「はぁっ、ごめん兄さん」
シャツを背から引っ張りもたれ、亜弓が遅れてやってくる。
「どうした?」
「うん、駅に降りた時にベンチの下に落ちているのが見えて、ちょっと取りに行ってた」
「落ちてた?何が?」
「これ。落とした人は困っているだろうし、そこの総合センターに届けようかなって」
亜弓の白い掌には、渡橋証が乗っていた。
証に添付されている顔写真は眠たそうな瞼半開きではあったが、ヒロトであった。
ポートアイランドを出て実家へ向かう廉祓兄弟。
駆け足気味ですが、ポートアイランド絡みのキャラの方々をシェアさせてもらいました
実家へ到着するかどうかは次回をば
- そのうち歩いていて人とすれ違うだけでシェアが発生しそうだポートアイランド。種族越えて日常があるのが楽しいな -- (名無しさん) 2013-05-23 15:17:52
- 短い幕の連続だけどキャラの特徴が出てて楽しい -- (名無しさん) 2013-05-24 03:01:42
- 毎日楽しそうだヤンキーズ。両手に花じゃないかヒロト。リア充ばかりじゃないか! -- (とっしー) 2013-05-26 18:28:27
- それぞれの日常がイキイキしてて良い。しかし女っ気のないヤンキーズをリア充扱いしていいのだろうか。 -- (名無しさん) 2013-05-26 19:51:39
- 移動手段や具体的な場所の描写の積み重ねは解放特区ポートアイランドが形作られていくので楽しいですね。考えれば歩けば誰かとすれ違うのですよね -- (名無しさん) 2016-10-16 18:17:46
最終更新:2013年05月30日 03:20