【ワイルドランドへ】

「ありがとうございます。本当に助かりました。あのままあそこに放り出されたままだったらどうしようかと…」
僕は隣の筋骨隆々としたペンギン族の御者に礼を言った。
当のペンギン人(ゴンザレスさんというらしい)は
「まあ、この新天地じゃ困ったときはお互い様だよ客人!」
と大きな手?でバシバシ僕の背中を叩きながら陽気に返してくれた。

ここは異世界の新天地。
30年ほど前まではオルニトと言われる国家の所領地だったそうだが、奴隷階級にされていた飛べない鳥族や他国で爪弾きにされていた民族が
独立戦争で勝ち取った新しい国だ(まあ、国と言っても諸族国家群といった感じのようだが…)。
そして僕は今、アメリカからのゲートをくぐってこの新天地にいる。

「しかし、ツいてなかったな。普通はこちらのゲートに着くはずなのにあんな荒野の真ん中で放り出されるとは…」
そう言われて、僕は入界審査の時の事を思い出す。
ゲートをくぐると突然、奇妙な極彩色の空間に出たと思ったら目の前に目も鼻も口も無い背広を着た粘土細工の大きな人型の様なものが現れたのだ。
その人型は僕の方を向くと、両手で頬の辺りをグイッと引っ張って口を作り言った。

「「「汝れは我らの国に何を望む?」」」

初め僕は、嘘をついてでもゲートをくぐり抜けようと思っていた筈だったのに、その不思議な幾重にも重なる声を聞いた途端に、少し物騒なので隠そうとしていた自分の目的をスラスラと話してしまっていた。
粘土細工の紳士は手で伸ばして作った兎のような耳で熱心に僕の話を聞くと、下を指差して静かに言った。

「「「汝れの野心は我らが国に相応しい…}」」」

するといきなり足元が崩れ、僕は楽しそうな笑い声に包まれながら落下していき気がつけば荒野の真っ只中だったと言うわけだ。

「我らが神群様は気分屋だからな…気分で色々とやらかされるのであんまり気にするな。実害はない場合が多いしな!」
またバシバシと背中を叩きながらゴンザレスさんは言う。
「でも今日は危なかったんじゃない?この辺はゴブリンオーガの食い詰めた傭兵が野党をやってるって聞くわよ?何が入ってるか知らないけどそんな大荷物じゃ襲ってくれって言ってるようなもんね」
後ろの客席で退屈そうに座っていたダチョウの婦人が、黙って座るのに飽きたのか話に混ざってくる。
そして、そう言ったダチョウ婦人だけでなく、他の12人ほどの客席の鳥人たちも興味があるのかチラチラとこちらの大荷物を見ている。
僕は足元と腕に抱いた2つのスーツケースを撫ぜながら
「これはこっちでの商売道具になるものなんです。恥ずかしながら僕には夢がありまして…」と、話を続けようと思ったところで馬車が急停止をして思わずつんのめった。

前を見ると長大なヤリが4・5本、大地に深々と突き刺さっている。
そして、その向こうに地に伏せて隠れていたゴブリンやオーガらしき多数の影が起き上がりこっちに襲いかかってくる様子が見えた。
「来たぞ!お客さんだ!!」
ゴンザレスさんが威勢良く言うと、さっきのダチョウ婦人やペンギン、ニワトリの鳥人たちが各々の得物を持って馬車の外に躍り出た。

ドゴッ!!
ゴブリン野党の群れに氷の上を滑るように近づき豪快に振るった棍で野党の2・3人を吹き飛ばすペンギン闘士。

バシンッ!!
ハイキックでガードした金棒をへし折り、オーガの巨体を蹴り潰すさっきのダチョウ婦人。

ザシュッ!ザシュッ!
スパスパとナイフの早業で相手の手や足を切り飛ばし戦闘不能にしていくニワトリの剣士。

見る間に野党を減らしていく三人の護衛。
(こちらの戦いは地球とは違うと聞いていたがこれほどとは…)

馬車内に安堵の吐息が流れたその瞬間、悲鳴が上がった。
後方から隠れていたオーガとゴブリンの別働隊が馬車に襲いかかってきたのだ。
オーガが手近な客に振り下ろそうとした戦斧は、手甲を付けたゴンザレスさんの野太い腕が弾きオーガを上手く羽交い絞めにするが、
もう一人のゴブリンが滑るようにゴンザレスさんに斬りかかろうと長剣を振り上げ背後に迫ったその時…

ダンッ!ダンッ!ダンッ!
こちらの世界では聞きなれない、自分に取っては聞きなれた銃声が三発周囲に響きわたり、長剣を手にして迫っていたゴブリンが馬車の外まで吹き飛んだ。

「恥ずかしながら僕の夢というのは、この国でガンマンになることだったんです…
僕らの世界では不要になった存在でも、こちらの国ではまだこういった古いスタイルの用心棒などの需要があると聞き、今回こっちに移住するつもりで渡ってきたんです。しかしまさかいきなり実戦ができるとは…」
野党を叩き伏せた後に馬車の中で、僕は自分がこの国に来た目的を話していた。
長い間練習は重ねていたが、実際の戦闘や人型の生物を撃ったのは初めてで、まだ少し指が震えて荷物にしまっていたガンベルトを付ける手がぎこちない。

「初陣か?なかなか様になってたぞ恩人!」
パンパンと優しく背中を叩いてくれながらゴンザレスさんが言う。
「ほんと、武器を使うのは私的にマイナスだけど、なかなかかっこ良かったわよ?」
とダチョウ婦人が励ましてくれる。
二人のおかげで指の震えもましになり少し余裕が戻ってきた。

「恩人はこれからどうするんだ?」
「できれば、色々な町を回って戦闘の経験を積んでいきたいと思っています」
「それなら、しばらくはウチの乗り合い馬車の護衛見習いをやればいい。見たとおりウチの護衛には遠距離で戦えるのがいなくてね。給金はあまり出せんが色々な町を回るし、
本格的な雇われ護衛をやる時に必要な実戦経験がつめる。何より寝所とメシには困らんよ!まさに、レギオン様のお導きだ!!」

こうして、実戦経験が少なくこちらの事情をあまり知らない僕は、自分としては願ってもないこの申出を謹んでお受けした。
あの神と呼ばれる奇妙な粘土細工の紳士が、僕の野心のどういうところに惹かれたのかは知らないが、せっかくここまで来れたんだ。
ワイアット・アープやバッファロー・ビルのような歴史に残る偉大なガンマンになるまで僕はこの新天地で走り続けよう。


蛇足
新天地の作品が無かったので書いてみました。
拙い上にかなり好き勝手に書いてますのでまずかったら教えて下さい。


  • ねんがんの 新天地SSを てにいれたぞ! 「無貌の紳士」なんてレギオンのイメージは新鮮で素敵でした! 話自体も申し分なくて続きが気になります。 -- (名無しさん) 2011-08-29 03:26:39
  • 無貌の紳士・・・思わずニャル様を思い出してしまった。今回口はひとつしか出現したなかったようですが場合によっては顔中口だらけで支離滅裂なことを喚き散らしたりもするんでしょうなぁ -- (名無しさん) 2011-08-29 09:42:38
  • 初新天地SS来た。気分次第では武器持ち込みもゆるすレギオン神素敵 -- (名無しのとしあき) 2011-08-29 16:58:31
  • 新天地というフロンティアと荒々しい空気が合っていると思いました。異世界にやってきて最初にどんな人に出会うかというのはゲートをくぐる際に最も重要なことなのではと思いました -- (名無しさん) 2013-03-24 19:19:22
  • 新天地やレギオンそして人の縁に選ばれる資質とは一体? -- (名無しさん) 2015-07-04 01:03:14
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最終更新:2011年10月17日 12:23