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【彼女の千年紀】


「聞いてくれますかエリクシル……?」
「なんですかユミルム?」
古き体を世界樹の泉へと投げ、新しき肉体を得て再生し、赤く実った叡智の実を齧ることでかつての記憶を取り戻したばかりの姉に、それを待っていたとばかりに末の妹は思いつめた表情と声で話を切り出した。
「と言っても恐らくはディオマーのことですね?」
 「はい、その通りです……」
 ユミルムはそこまで言って一旦口ごもってしまう。
「まだあのことを気にしているのですか?それなら全ては彼の日頃の行いの招いたこと、あなたが気に病む必要は無いと思いますよ?」
「でも……」
 あの事とはこの時より500年ほど昔、兼ねてよりユミルムという愛すべき妻がいながら、博愛と称して他のエルフや最近このエリスタリアに渡ってきた小人達に何かとちょっかいを出していたディオマーの行いに、我慢の限界を迎えたユミルムがついに我を忘れて激怒し、彼に灸を据える目的でエリスタリア中を追い回したという出来事があった。
 その結果、ディオマーは自分以外はすべて追手と化したエリスタリアからの脱出を図り、その途上で唐突にその消息を絶った。
それから70年ほどして、ディオマーがこの世界とは別の世界で生存していることが確認され、ユミルムが懇願して協力を取り付けた隣国ラ・ムールのクオルヌ王の力とユミルムの神力を代価として彼をこの世界へと帰還させることに成功したが、その後にもいくつかの問題があって二人の関係はかつてのようには上手くいっていない。
「ディオマーはハッキリ言って私達兄妹の仲で一番ダメダメでしょう、堪え性がなく、思量が浅く、異性にだらしなく、不真面目で……」
「エリクシル……そのくらいにしてくれますか……?」
 ディオマーの妹であり長女であるエリクシルの容赦のない指摘に、ユミルムが思わず割って入って無理やり中断させ、その反応にエリクシルは思わずクスリと笑ってしまうが、すぐに表情を真剣なものにして彼女に中断された残りの言葉を愛する妹に言い聞かせる。
「ですが、ディオマーはあなたのことを一番愛していますよ?」
「それは……わかっています……」
 そう言われたユミルムもまるでそこは欠片の疑いもないとばかりに応えるが、問題はそことは違っているようだった。
「私は、もう昔のように素直になることができません……ディオマーが誰よりも優しいことも知っています。その愛の深さと広さはエリスタリアの全ての民に振りまかれていることも知っています。ですが、それでは嫌だと思ってしまう自分がいるのです。ディオマーには私だけを愛してほしいと願ってしまう、そんな醜い自分が居ることに私はあの時から気がついてしまったのです……」
 それは告解だった。誰よりも信頼でき聡明な姉にだけ告げることのできる、妹の誰にも知られたくない醜い自分の内面を曝け出す告白。それに対して姉であるエリクシルは、再生されたばかりで妹より小さな手で悩み多き妹の頬に触れると、そのまま自らの胸の中に誘い包み込むようにし、その滑らかな長い髪を撫でる。
「大丈夫ですよユミルム。それくらいのことはディオマーもちゃんとわかっています。だって彼は私達の兄なのですから」
「……はい」
 傍目には姉にしか見えぬ妹は、妹にしか見えぬ姉の優しい声と不思議な説得力の伴った言葉に安堵を覚え、それからしばらく姉の胸の中に抱かれながらその穏やかな心臓の音色に耳を傾けた。

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  • 1000年ほど昔 ヨーロッパのどこか

「ここは……?」
 彼女は気がつくと見たこともない植物の生い茂った森の中に立っていた。
「エリスタリアの森ではありませんね……どれも見たことのないものばかり……」
 彼女はまず自分の目の前に繁茂する植物に注目し、そのどれもが見たこともないものだと理解する。これがエリスタリアのどこかであるなら森の木々や草花は彼女の呼びかけに応えてくれるはず、しかし、この場所にある植物は彼女の呼びかけに応えてはくれない。
「それに……精霊も居ない……」
 この奇妙な場所に迷い込むまで彼女の耳には多くの精霊の囁きが聞こえていた。だが、今はそれはまったく聞きとることができず、それまで経験したことのない恐ろしいまでの沈黙に初めて彼女はこの場所が怖いと思った。
 精霊は彼女達にとっては最も親しき隣人であり友である。まったく見知らぬ土地であってもその土地の精霊に助けを乞えば彼らは彼女達を悪いようにはしまい、しかし、今彼女が居る場所には彼らは居ない。

ガサガサ

不意に彼女の背後の茂みから音がし、彼女はビクリと体を震わせ、音のした茂みのほうに視線と体を向ける。

ガサガサガサガサガサ

 茂みを掻き分ける音はどんどん彼女の方へと近づいてくる。彼女はどうして良いものか判断に窮し、その場に立ち尽くしたまま胸の前にした手をギュッと強く握りしめることしかできない。
「あれ?なんでこんなところに女の人が?もしかしてあんた道に迷ったのか?」
 茂みを掻き分ける音の後に茂みの奥から出てきたのは癖の強い赤毛の背の高い青年、手には弓が握られ、背中には矢筒が背負われている。
「鹿と間違えて人を射るなんて勘弁だからな……ってあんたもしかして俺の言ってることわからないのか……?」
 青年は目をパチクリしている彼女の様子から、彼女に自分の言葉が通じていないことを理解する。
 彼は自慢できるほどの学は持ち合わせていなかったが、機微を察して物事を理解し判断するという才には長けた人物だった。
「えらく美人さんだけど、どっから来たんだ?っていうか耳がえらく長いな……」
 それが彼女と後に彼女の最初で最後の夫になる青年との最初の出会いだった。

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  • 11世紀初頭 フランス オルレアン

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
 広場に集まった群衆はすでに異常な興奮状態に陥っていた。
 広場には十数人の男女が群衆の前に連れ出されていた。
 皆一様に怯え、口々に自分たちへの罵りの声を上げる群衆を見ている。
 広場に集まった群衆は自分たちの前に連れ出された者達に向かって罵りの言葉を叫び、彼らに向かって石を投げつけてくる者の中には彼らの知った顔がいくつもあった。
それは先日まで彼らにとっては良き隣人であり隣村の人間であり、また時折頼み事をされるような知り合いだったりもした。
 それが今では彼らに限りなく殺意に近い敵意を向けてくる。
 彼らはただ無知なのだ。そして無知ゆえに自分たちの知らない事、理解できないことを恐れ、そしてそれが何であるかということを知っていると騙る者の言葉を何の疑いもなく信じてしまった者達。
「あれは恐ろしい悪魔だ! あの悪魔達が麦の不作を招き、幼子を病で死なせているのだ! あの悪魔達をこのまま野放しにしていては我らはやがて不作と病で死に絶えることになる!」
 興奮する群衆の先頭に彼らは居た、彼らの信じる神の印とその教えの記された書を手にした老齢の男が詰めかけた群衆に向かって声を張り上げる、実際には何も知らないにも関わらず信じる神を肯定するが為にその男は嘘をつく、いや、自分が嘘をついているという自覚さえなく偽りの言葉を口にする。
「燃やせ! 燃やせ! 燃やせ!」
 男の言葉によって群衆の興奮は一層高まっていく。広場の中央へと投げられる礫の数は増し、その礫をぶつけられた者達は悲鳴を上げてなぜ自分たちがこんな仕打ちを受けなければならないのかと叫ぶが、その声は罵り声に簡単に押しつぶされてしまう。
「これより悪魔退治を行う!この地に救う悪魔を我々の手で焼き払うことで再び我らは主の慈悲を得られるだろう」
 老齢の男の言葉を合図に広場へと投げいれられる礫は止み、代わりに武装した男たちが広場の中へと踏み入り、礫によって打ちのめされた者達を乱暴に起き上がらせると広場の中央に設えられた台へと引きずって行く、なんとか抵抗しようとする者には容赦なく叩きのめすが殺してはならぬと厳命されているのか柄で殴りつけこそすれ刃で切りつけるようなことはせず、痛めつけられ抵抗する力を失った彼らを柱に縛り付けていく。
「見ろお前達!これが悪魔だ!」
 武装した男の一人が台に縛り付けられグッタリと俯いていた彼らの一人の頭部の長い毛を掴んで強引に持ち上げる。
「なんて恐ろしい顔だ……」
「あれが悪魔なのね……」
「あんなものがこの近くに隠れ住んでいただなんて……」
 それを見た群衆は口々にそう囁いた。
 たしかに彼らの姿は人とはかけ離れていた。衣服をはぎ取られた全身はオオカミのような毛で覆われ、体躯こそ人のそれに近いと言えなくもなかったがその顔はまさに獣のそれであった。
「この悪魔は我々のそばにいつの間にか住みつき、長年に渡って我らを苦しめてきた!しかし、その悪行も今日の裁きによって永遠に絶たれることになる!」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

広場には民衆の歓声が響き、台の上に縛り付けられた彼らの一人の「違う、俺達はそんなことしていない……」というものや「お前らのほうが後から来たくせに……」というか弱い声を簡単に押しつぶす。
「それでは、これより悪魔を聖なる炎によって焼き払う!皆の者よ、悪魔の最期をその目に焼きつけよ!」
 老齢の男の合図と共の下に組まれた木材に炎が放り込まれ、またたく間に台は炎に包まれていく。
「燃えろ!燃えろ!燃えろ!」
 その場に居合わせた群衆はただ一人を除いて、立ち上った炎が彼らを飲み込んでいくのを興奮と愉悦の中で見守った。
「ごめんなさい……ごめんなさい……待にあわなくてごめんなさい……」
 興奮の最中にある群衆の中、体を震わせ彼女は涙を流して自らの非力を恨み、無念のうちに死にゆく彼らへと詫び続けた。

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  • 15世紀後半 ヴェネツィア共和国

「アントニオ様、これは……」
「あぁ、動かないで!そう、そのまま」
 もう間もなく春がやってくるという晩冬の日差しが差し込む窓辺、そこに一人座った彼女は実に絵になった。儚げでありながら宗教画に描かれる聖母マリアのような慈愛を感じる横顔に、彼女が雇われているベネツィアでも指折りに数えられる商家の御曹司は実に満足そうに筆を振っている。
「先生の美しさを永遠に残しておきたいと思いましてね。それなら自分が描くのが一番だと思ったわけですよ」
 彼の教師として彼女が雇われてもう5年になる、切っ掛けは旅先で毒蛇に噛まれて倒れたアントニオを偶然居合わせた彼女が救護したことで、最初こそ謝礼目的かといぶかしんだ彼の両親達も、重症だった一人息子の症状が瞬く間に軽くなっていくのと、真剣に治療を施す彼女の姿にその考えを改め、彼の状態が落ち着くと何の謝礼も要求することなくいくつかの諸注意を言い残して去ろうとする彼女を彼の両親が慌てて礼がしたいと留め置いた。
 それから彼女が医学だけではなくその他の様々な知識に深く精通していることを知った彼の両親は、将来の跡取りである息子の家庭教師になってほしいと懇願し、彼女はそれからの5年間をヴェネツィアに留まり彼の家庭教師として過ごした。
「父上に聞きました。春にはヴェネツィアを去られるそうですね」
「……はい」
 カンバスに向かって筆を動かしながら彼はことさら感情を込めることなく彼女に語りかける。
「アントニオ様も大きくなられました。私がお教えすることはもう何もありませんし……5年は骨休めにはちょっと長すぎましたから」
 彼女は最初この地に留まるのは1年ほどのつもりだった。アントニオの家庭教師をしながら今も各地で同じ志のためにそれぞれできる限りのことをしている者達と、怪しまれない程度に連絡を重ねつつ、彼女は1年さらにもう1年と年数を重ねて5年間このヴェネツィアで過ごした。
「骨休めではなく、この地に骨を埋められてはいかがでしょう」
「え……?」
 窓辺に座ったまま自分を描くアントニオに向けた視線が、彼女へと向けられる彼の真剣な視線と交差する。
「貴女がはっきりとそう仰ったことはありませんが、僕は先生が何か大きな目的のために生きていることは知っています。自慢でも自惚れでもなく僕ならそんな先生を支えることができると思っています。だからこのままヴェネツィアに残ってはくれませんか?」
 アントニオは彼女が5年間このヴェネツィアに留まってその成長を見届けたいと思うほどの少年だった。まるで乾いたスポンジのように彼女の教えることを吸収し、学問だけに留まらず芸術にも優れ、少々女性に対してだらしのない所もあったが、それを補って余りある人間としての器の大きさと魅力と聡さを持った素晴らしい青年にこの5年間で成長していた。
「それは……」
 思いもよらない教え子からの告白に一瞬戸惑いがなかったかと言えば嘘になるが、彼女にとっての伴侶とは遠い昔に死に別れたただ一人だけだった。
「……と言うと先生にまた叱られますね。もう少しで絵が出来上がるので楽しみにしていてください」
 部屋に流れた沈黙の意味を察することができないほどアントニオは愚かではなく、彼は内心愚かであればこんな気持ちにならなくても良かったのにと思いつつ、それまでの言葉は冗談であるとするように砕けた口調を作る。
「……はい、楽しみにしています」
 彼女もまた、そんな聡い教え子の気持ちを痛いほど理解しながら同じように普段通りの表情と言葉を取り繕った。
 そして、その年の春、彼女は5年間過ごしたヴェネツィアを去り、彼女の去った後には窓辺に腰かけた彼女の姿を描いた一枚の絵が残された。

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  • 17世紀前半 ミラノ

 今やその街にはそこかしこに死が溢れていた。
 近隣の村や町でその病が流行りはじめたという話は行商の者などからもたらされたが、病そのものもその時この街に入り込んだのかもしれない。
 その病に罹った者が街に現れたという噂で、権力者たちは皆恐れをなして次々と持てる限りの財産をもって自分たちが本来治めるべき街を捨てて逃げ出した。
やがて街には逃げ出したくても逃げ出せぬ弱者だけが取り残され、平時であれば市場が立ち賑わいに溢れる広場は閑散とし、まるで死への秒読みでもするかのように教会の鐘が昼夜関係なく病魔を追い散らさんと鳴り続けている。
しかし、教会がいくら神への祈りを捧げて病魔の退散を願おうとも死者の数は増え続け、街の空には日々増え続ける病魔の化身のようにどこからともなくやってきた無数のカラスが飛び回り、屋根の上からまるで地上の人間を見張るように居座り続けている。
「ひどいものだ……」
 そんな死の街と化した場所を歩く異様な人影、全身をなめし革のコートで覆い、顔にはまるで今この街の空を我が物顔で支配しているカラスのような仮面を付けている。
この街が平時であれば警邏の兵士に有無を言わせず捕えられてもおかしくない異様な姿であったが、今のこの死にかけた街ではそんな者が往来を闊歩していても、不審がる者はおろか通りすがる者さえいない。
「本当にこんな所に彼女が居るというのか……」
 彼はこの死の溢れた街である人物を探していた。自らが恐ろしい病に罹る可能性を考慮しても、失うわけにはいかない尊き人をこの場所から探し出して連れ戻さなければならない、そういう強い信念のもとに彼は考えうる限り万全の備えを自らに施してこの場所に居た。
「……人の声?」
 まるで街そのものが死んだように静まり返った中で彼は人の声を聞いた。そして、その声の聞こえた方向に彼は足を向ける。
しばらく声を頼りに街の中を進み、お世辞にも裕福とは言えない階層の人々が住む区域に彼はたどり着いた。
「おかしい……」
 疫病が発生すればまず多くの病人と死者が出るのはこうした場所からだ。過去には疫病を封じ込めるために貧民街を住人諸共焼いてしまったというほどの惨状を呈したこともあったらしい。
 そうしたことからすれば今の彼が立っている場所はあまりにもそうした死の臭いが薄かった。
「ここには誰かいるのか?」
 彼が最後に辿り着いたのはこの一帯では比較的大きな建物だった。灯りすら消えた建物ばかりとなった中でその建物だけ閉められた鎧戸や門扉の隙間から灯りが漏れている。
「すまない。少々人を探しているのだが誰かおいでか?」
門扉を叩き、中にいるであろう住人に向けて声を上げる。
「エリクシルという女性を探している。この辺りにいるかもしれないと聞いてきたのだがご存じないだろうか?」
 続けて門扉を叩きながらもう一度声を張って中にいるであろう住人に向けて声を張る。

ガチャリ

 無視を決め込まれたかと諦めかけ、門扉を叩く拳を下ろした時、扉が内側から開けられた。
 「アルベルト、あなたどうして……こんな危険な所に……」 
「先生! やっと見つけましたよ!」
 扉を開けて現れたのは目の下に疲労からであろうクマを作った彼の恩師、彼女は一瞬彼の異様な姿に驚きの表情を見せたものの、すぐにそれが自分の教え子であるとわかると安堵と労りと、そして諌めるよう声で無茶をした教え子に言葉をかける。
「先生こそ、こんな場所で何をされているんですか!」
「これを見てわかりませんか? 治療です」
 そう言って彼女は部屋の奥に視線を向けるようにと教え子に促す、それに従って彼が部屋の奥へと視線を向けると、そこにはたくさんの人が急ごしらえとわかる寝台に寝かされている光景があった。
「これは……」
「みんな見捨てられてしまった人達です。この街を離れることもできないまま病に罹り恐怖の中で死を待つしかなかった人たちです」
「まさか、先生がおひとりで?」
「いいえ、他にも手伝ってくれている人達がいます。今は食事の支度や他に治療が必要な人を見つけてもらっているところです」
「そうですか……」
 彼は改めて自分の師の偉大さを実感していた。彼女はこんな死の溢れた場所でさえ懸命に人々を救おうとしている。
 そして彼女の教え子である自分はなんとか彼女だけでも救おうと、それだけに必死になっていたということにひどく情けない気持ちになる。
「これを飲んでください。この場所に来たあなたはもう病に罹っているようなものですから」
 そう言って彼女は彼に小さな器を差し出す。
「これは……まさか!?」
 器の中には少量のトロリとした赤い液体が入っていた。甘い蜜のような香りがするその赤い液体を見て彼は何か思い当たるところがあったのだろう、より深刻な表情を浮かべて目の前の彼女の顔を見る。
「何も言わないでください、今はこれしか方法がありません……」
 満足に睡眠や食事も摂れていないのだろうが、それ以上にやつれた印象のある彼女は、それだけ彼に言うと再び奥に寝かされた人々の看護を再開する。
「この世に聖母がいるとすれば、それは貴女のような方だと私は思わずにはいられません……」
「やめてください。私はそんなものではありませんし、なりたいなんて思ったこともありません……」
 謙遜でもなんでもなく、彼女は本心からそう言っていることがわかる。彼女はいつだってそうなのだ。助けを求める人が目の前にいれば、それに手を差し伸べるのは当たり前のことと考えている、ただそれだけなのだ。
 その年、ヨーロッパ各地ではペストの大流行で多くの死者が出た。しかし、高い死者の出た地域の中で不自然なまでにそうした犠牲者の数が少ない地域があったが、これは長らく神の奇跡であると地元教会によって語られることとなる。

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  • 19世紀初頭 ロシア帝国 サンクトペテルブルグ 

 彼は暗く不衛生な檻の中に囚われていた。
 彼の人生は決して善良なと言えるようなものではなかったが、少なくともこんな扱いを受けるような行いはしてきたつもりはなかった。
 彼は船乗りで、小さいながらも何人もの水夫を束ねる船長だった。
 それが嵐に遭い、小さな船は揺れる木の葉のように嵐の海で弄ばれ、懸命に嵐を乗り切ろうと彼は水夫たちを動かし、自らも舵にしがみついて努力したが、それも叶わず彼の船は嵐の海に飲まれ、彼は多くの水夫と共に暗い海の底へ沈んでいった。
 次に彼が目を覚ますとそこはどこかの陸地で、彼はとにかく命が助かったことを猛き戦神に感謝したが、程なくしてなぜあの時他の水夫と共に死ねなかったのかと後悔することになった。
 彼が流れ着いたのは全く彼の知らぬ異邦の地であり、その土地の者は一見するとエリスタリアの民のようであったが彼らのように長い耳はなく、彼は知っているいくつかの言葉でなんとか会話ができないかと試みたがそれらは全て無駄に終わった。
 彼は異邦の地で囚われの身となり、どうやら奴隷のような身に落とされたのだということを理解した。
 卵顔で丸耳の者達が支配するその地は彼にとっては奇異なことばかりで、この地では精霊は彼の呼びかけに応えず、またこの地で暮らす卵顔に丸耳の者達もまるで精霊の扱いを知らないようだった。
 少しでも反抗の意思を示せば容赦なく痛めつけられ食事や水を止められた。彼の目からするとこの異邦の地の者はこうした残虐な知恵にはひどく長けているように思えた。
 手枷に足枷をされて裸のような格好で衆目の前に晒され、鞭で打たれまるで動物のように芸をやらされる日々がどれだけ続いただろう。もはや生きて祖国に帰ることは叶わないだろうと諦め、どうやって自らの命を絶てばいいものかと考える日々を送っていた時、彼女は現れた。
「気をつけてくださいよ? 普段は死んだみたいに大人しいですがたまに手のつけられないくらい暴れるんで、もし何かあったら俺が団長に殺されちまう」
「はい、わかりました。すぐに済むので大丈夫です」
 天幕の外でいつも彼を意味もなく痛めつける小柄な男が何事か話しているのが聞こえてくる。ほどなくして天幕の中に人影が一人入ってくると、明りを手にして彼が囚われた檻へと近付いてくる。
「……私の言葉、わかりますか?」
 彼の檻へと近づいて来た人影の口から紡がれたのは驚くことに、もはや二度と耳にすることはないと思っていた彼の故郷のやや古いニュアンスの言葉。
その驚くべき出来事に暗闇の中で息を潜めて様子を窺っていた彼は思わず反応する。
「アンタ! 俺の言葉がわかるのか!? わかるんだな!?」
 彼は檻の外に居る人影の近くまで一気に飛びかかるように近づくと鼻息荒く人影に向かって問い質す。
「はい、わかります。私はあなたを助けに来た者です」
 明りに照らされたのはかつて何度か目にしたことのあるエリスタリアの民の顔だった。彼らの特徴である長い耳はいかなる方法でか目立たなくなっていたが、その特徴的なこの地の者とは似て非なる顔立ちには彼はたしかに見覚えがあった。
「俺は、助かるのか? もう一度故郷に帰れるのか?」
 彼の言葉に彼女は一瞬顔をゆがませる。
「あなたを故郷に帰すことはまだできません。ですが、貴方に安全な場所を提供する用意が私達にはあります」
 故郷に帰ることはできないと言われ彼は脱力するが、この最悪の状況からは抜け出せるらしいとわかり、彼は彼女に救助を求める意思を示した。
 その二日後、サンクトペテルブルグの見世物小屋から豚人間と呼ばれた怪物が何者かの手によって檻から連れ出されいずこかへと姿を消した。

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  • 1990年10月 地中海 あらゆる地図から存在を消された島

 その島は地中海にたしかに存在するものの、その存在はいかなる地図からも確認することはできない。
 その島は巧妙に偽装が施された港湾施設を有し、島の中には各種自家発電設備と各種生活インフラが設置され、島の中心部に邸宅とそれに付随した温室と庭園が存在している。
 ここは古くからある女性のために在り、その存在が長く秘匿され続けている。

「見て見てジェームス! シェムロンの実が今年もこんなに!」
 麦わら帽子に作業着を着こんだ女性が嬉しそうに摘み取ったばかりの鮮やかな赤や黄色の実の入った籠を抱えて久方ぶりに訪れた来客の方へと小走りにやってくる。
「シェムロン、たしか免疫効果を高める薬効成分のあるものでしたね」
「そう!でもコレはジャムにするとおいしいの。去年作ったものがまだ残っているからお茶の時にスコーンと一緒に食べましょ」
「それは、楽しみですね」
 普段は滅多に表情を崩すことのない堅物として知られる彼が表情を崩して柔らかな笑みを浮かべる。
「お体の調子はいかがですか?」
「えぇ、ここに戻ってからは何とも無いわ、前より元気なくらい!」
 そう言って彼女は力瘤を作るようなしぐさを見せる、もっとも華奢な彼女の腕は毎日土いじりをしているとは思えないほど華奢だ。
「それは良かった。やはりここは先生の体に馴染むのでしょうね、この島に植えられているもののは多くは先生の故郷の植物なのですから当然かもしれませんが」
 この島の、もっと言えば中心部に設けられた庭園と温室で育てられている植物は地球上には存在しないものがそのほとんどを占めている。
 この島の主であるこの女性が故郷よりこの異邦の地に迷い込んだ際に持ち込んだ物と、その後の長い年月の間にこの世界の各地で見つけた故郷に由来する植物を彼女が持ち帰り、この島で丹念に世話をし根付かせた異邦の植物たち、それらは彼女の知識と手腕によって薬の材料となり多くの人々を長い年月の間助ける助力となってきた。
「しかし、先ほどのように無茶をされるとせっかく良くなったものがまたぶり返すこともありますので、どうかご自愛ください」
「は~い」
 生返事というわけでもないが、おそらくあまり期待できないなと思いつつも、彼は改めて周りの様子を確認する。
「この子達がしたいように、私はそれをちょっと助ける程度」という彼女の教育方針そのままのような植生の庭園、それぞれの植物の性質を深く理解しているからこそできる雑然と植物が伸びたい放題に伸びているようでそれぞれの植物が絶妙な塩梅でそれぞれのテリトリーを侵さないように区切られ調和の取れた世界がそこには出来あがっている。
「いつ見ても素晴らしいですね」
「そんなことありません。ジェームスのお屋敷のお庭のほうが私は素敵だと思うわ」
 彼女はそう言って彼の一族が代々に渡って維持してきた古き良きイギリス風景式庭園を評価する。
「ありがとうございます。帰ったらさっそく庭師に上物のスコッチウィスキーでも労うことにしましょう」
「それはいいですね」
 彼女はクスクスと笑った。
 二人はそんな話をしつつ庭園から彼女が暮らす邸宅のテラスへと移動し、この島に彼女の介助スタッフとして住みこんでいる女性の用意した紅茶とスコーンで早めのティータイムとしながら近況報告や昔話に花を咲かせた。
「昨日アレクセイからの手紙が届きました。孫が生まれたとそれはもう文字だけなのに彼のはしゃぎっぷりがわかるくらいの喜びようで、思わず私までうれしくなっちゃいました」
「彼は一生独り身で過ごす男だと思っていましたが、今や4人の子供に13人の孫ですか、私の人を見る目も彼に限っては節穴だったようです」
 話題はソ連で核物理学者として東西の天秤が偏ることのないように長く働きかけている彼女にとっては教え子であり彼にとっては青春を共に過ごした同輩の話題となっていた。
「13人目のお孫さんは女の子で名前はレイラと言うそうなんですよ……それから……」
 唐突にそれまで明瞭だった彼女の発言に淀みが生まれる。
「先生?」
「すみません、なんだか急に眠くなってきてしまって……」
 そう言う彼女はすでにウトウトと船を漕ぎ始めている。
「庭園の管理で疲れたのでしょう。少しお休みになってください」
 彼はそう言って介助スタッフに目配せをし、スタッフも慣れた動作で彼女の体を抱え上げると邸宅の中へと運び込み作業着を脱がせ寝やすい格好にするとベッドに寝かせる。
「最近は庭園の管理などをされると突然意識を失うように眠られる時間が増えてきています」
「出来る限り体に負担となることはさせないように、しかし、彼女の意思を制限するようなこともする必要はない」
「わかっております」
 介助スタッフからの報告は彼が予感していた最も良くない未来を暗示しているかのようなものだった。
「私はまたしばらく来ることができないが、よろしく頼む」
「お任せください」
 彼はその後にスタッフといくつかの報告と指示を交わし来た時と同じように船に乗り込み島を後にした。
「まさか、こんな日が訪れることになるとはな……」
 船上から眺める島は瞬く間に水平線の向こうに消え、代わりに広がる地中海の海と空は変わらず青いままのはずだったが、彼の目にはそれらは若干色あせて見えた。

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  • 1990年12月 アメリカ

 その日、主に欧米を代表する政財界の重鎮がそれぞれ様々な理由でアメリカへと集まった。
 ある者は休暇と称し。
 ある者はビジネスと称し。
 ある者は学会への出席と称し。
 ある者は公演の為と称し。
そうやって彼らはアメリカへと到着するとあらかじめ用意された様々な手段を用いて衆目の目を掻い潜り、一握りの者達しか知り得ないその場所に久方ぶりに集まった。
「久しいな! こうして顔を合わせるのは何年ぶりだ」
「あなたも元気そうね。その様子ならまだまだ死にそうにはないわね」
 この場に集まったのはかつて<秘密の学校>で同じ師のもとで様々なことを学んだ同輩である。かつての10代や20代の若者だった者達は今やすっかり老境を迎え、表向きにはその立場を退いた者や今だに現役の者など様々であるが、こうして折に触れて集まっている者もいれば久方ぶり、あるいは卒業以来初めて顔を出すという者まで様々だ。
そして再会と互いの健康を讃えた後は懐かしい思い出を織り交ぜつつも、その会話の内容は現在の世界情勢など多岐に渡る。
「アメリカは本当に戦争をするつもりなの?」
「その必要があればするだろうね、僕のところはその公算は高いと判断しているよ」
「イラクにはまだ調査の必要な遺跡や遺物がかなりの数あるわよ? それが失われるようなことには私は賛成できないわ」
「それを言ったらイラクはすでにクェートへの侵攻でいくつかの調査を事実上継続不可能にしているじゃないか」
「今の大統領周辺には僕らの影響力はなかなか効果が無いみたいでね……僕のところもいろいろと圧力をかけてみてはいるんだけど」
「やれやれ、ようやくアメリカとソ連を落ち着かせたと思えば今度は中東か、本当に人間という生き物は度し難いな」
 その場には白人・黒人・アジア系・ヒスパニックなどの肌の色の違う人種の男女だけでなく、明らかにそれらに区分できない奇異な外見の者達も多数混ざっていた。
「あら、あなたがこの席に顔を出すなんて珍しいわね」
「生真面目な委員長に必ず出ろと言われたのでな、久々に外の空気を吸いに出てきたというわけだ」
「貴方もなの? 私も今日は絶対に出てこいって言われたのよ?」
「ふむ、なるほどな……卒業して以来会うこともなかった者まで集まって賑やかなのはそういうことか……」
 できうる限り全ての会議参加資格を有する者の招集、これまでになかったそんな出来事がただ単純に懐かしき同窓会というわけではないのだろうと、その場に集まった者達は理解していた。

「遠路はるばる皆それぞれに都合もあっただろうが、私の呼びかけに応じてくれてありがとう。まずはそれに感謝したい」
 白髪を撫でつけた、やや痩せ気味とも思える老齢の男性、古くから多くの英国軍人を排出し大英帝国の礎に大きく寄与したとされる英国名門貴族ウッドワードの当主ジェームス・ウッドワードのその見た目に反して存在感のある会議出席者への謝意を表す第一声で会議は始まった。
会議は巨大な円卓を囲む形で行われ、この会議に発言の優先順位や序列というものは存在しない、しかし昔から会議を招集し、会議の進行を執り行い、最後に意見の取り纏めを行う者は誰が決めたわけでもなくまた誰からも異論の出ることなく、この第一声を発したかつての<秘密の学校>で生徒を纏め委員長と呼ばれていた彼の役割だと決まっている。
「今日、皆に集まってもらったのは彼女のことについてだ」
「彼女? 先生のことかい?」
 次に発言したのはアメリカの政界にも大きな影響力を持つホルスター財閥の代表を先日電撃的に引退することを表明したアルフレット・ホルスターだ。
彼は円卓の机の上に両肘をついて腕を組み、その上に顎を置いて人の良さそうな顔でそう尋ねてくる。
 しかし、ホルスター財閥は末端企業や表向きには無関係ということにしている関連企業などを含めるとアメリカの兵器産業の大部分に関与しているという軍需産業を中核事業とする企業体で、その代表である彼もまた見た目通りの男ではないことはこの場に居る者なら誰でも知っていることだ。
「彼女なぞ他人行事な、先生でいいだろジェームス」
 アルフレッドの言葉を継いで発言したのは地球における獣人族コミュニティーの代表であるライゼン。彼は古くより怪物や悪魔などと呼ばれ度々迫害されてきたこの世界とは別の世界より流れてきた異邦人達の中でも『隠れ住む者』と呼ばれる、見た目があまりにも人間とかけ離れているが故に偏見や差別、そして弾圧や迫害を受けた歴史を持つ集団を纏めているリーダーである。
 彼らが言うように、この場に集った者達にとって親しみを込めて「先生」と呼べる女性はただ一人だけだ。
「そうよ、私達がどんなに年老いても先生の年齢を超すことはないんだから」
 フランスに拠点を置く世界的な化粧品メーカーを中核とした医療・健康関連の企業体サンテ・エト・ボーテ(SEB)の代表イザベル・ガロアの冗談めかした発言にいくつもの笑いが生まれる。
 若い頃は女優や歌手としても活躍し、代表を務めていた父親が彼女の母親と共に飛行機事故で死去した後はその後を継いで企業家としての才能も発揮した才媛である。
「それで先生がどうした? またどこぞへフラリと旅に出られたか?」
 インドの重工業系をほぼ傘下に収めるタルラ財閥の元会長で、現在は世界的慈善団体の代表を務めるチャダ・タルラが同じく冗談ぽく言葉を継ぐ。
 数年前に会長職を息子に譲ってからは私費で設立した慈善団体の代表として73才という高齢ながら精力的に世界各地の紛争地帯や災害地での支援の陣頭指揮を取っている。
「それは大変! また大規模な捜索隊でも組織するのかしら?」
「やめておけ。かくれんぼは先生の特技の一つ、どれだけ大規模な捜索隊を組織しても金の無駄だ」
再びいくつかの笑い声と苦笑が生まれる。
 会議というにはやや不規則発言が過ぎる感もある、それはまるでハイスクールのホームルームのような雰囲気さえ感じられる。
「皆、少しいいだろうか」
 落ち着いた声でこの会議の仕切り役を務めるジェームス・ウッドホードが再び口を開く。
 彼のその静かな言葉の中に内包する何かをその場の者の多くは即座に反応し、騒がしかった会議の場はそれまでの喧騒が嘘だったかのように静かになる。
「……最近、先生の体調が優れない。診察の結果はまだ全て出たわけではないが、どうやら老衰の傾向にあるようだ……」
 淡々と、出来得る限り自分自身の感情が籠る余地のないように言葉をそぎ落とし、事実だけをこの場の全員に伝えようとするかのように彼はその衝撃的な出来事を一切の淀みなくはっきりと口にした。
「まさか!? 先生が死にかけているとでも!?」
「彼女は不死にも等しいのではないの?」
彼のその発言に、にわかにその場の雰囲気が慌しくなり、そのうちの何人かは堪え切れずに浮かんだ疑問を口にする。
「先生は言っていた。彼女は私達よりはるかに長命な存在だが、彼女の肉体は永遠を生きるようには出来てはいないと」
「それは、先生の寿命が近づいてるってことなの?」
 世界的な考古学者であり、彼らがはるか昔の先達から託されてきた計画のための歴史的見地からの研究の統括責任者であるリーザ・オットーが
「先生があとどれだけ生きられるかについては断言はできない。今のまま安静にしていれば年単位での生存は可能かもしれないが、彼女の寿命が近づいていることは間違いない」
「そんな……」
 誰のものともわからない困惑の声が弱々しい響きに反してその場に響く。
「今日、私が皆を呼んだのはこのことを伝えることと、現在先生が最も気がかりとしている自分の亡き後のことについて皆と話をしておきたいと思ったからだ」
「先生の亡き後のこと……」
 それはこの場に居る者の多くが考えもしなかったことだ。
 この場にいる者の師であり、彼らが中心となって構成される欧米圏を中心として形成された特殊な組織の精神的支柱となり、あまりにも長く存在し続けてきた彼女には死という概念は無縁の存在ではないかと思う者さえ居たほどだ。
 しかし、そう誤解してしまうほど長大な時間を生きてきた彼女の寿命が尽きかけているという事実は相当な衝撃となってこの場に居る者達を揺さぶった。
「我々もその多くが高齢だ。この会議もやがては次の世代に託さなければならないが、先生も死に、そして我々もその座を譲ることとなれば恐らく少なからぬ問題が起きることになるだろう。それは間違っても50年前のような悲劇に繋がるようなことになってはならない。これは先生の願いでもあることだ」
 50年前の出来事。それはともすれば忘れてしまいたい、闇に葬り去ってしまいたいと思うほどの惨事であり、彼らの営む集団の方針を巡っての対立から端を発した内部的な衝突であり、結果それは二度目の世界大戦に少なからず影響を与えてしまうほどの物となってしまった。
「あのようなことが再び起きてはならない、だからこそこうして我々のこれからの未来のために何をすれば良いかを、皆と話し合いたい」
 深い信念を宿した彼の声に、もはやその場で異論を唱える声は上がらなかった。


  • 思い切った人物と繋げてきた大胆さが面白い。思った以上に世界のあちこちに影響を与えているのも存在の大きさの説得力に繋がった -- (としあき) 2013-12-04 22:07:02
  • 人類史の半分を直に見てきた魔女先生は異世界のハイエルフ達ともまったく違った価値観を持ってそう。続きを早くみたいのん -- (名無しさん) 2013-12-07 04:08:03
  • 世界樹のために生きる人と離れた考えを持つエルフの祖がとっても人間臭いのがなんとも面白い -- (名無しさん) 2014-02-18 23:02:34
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最終更新:2013年12月04日 22:24