経済とは欲の具現化であり、寝ずに見る夢である。 全ての源である欲の衝突から戦争は起こるのである。
異世界の歴史を研究する中で一際興味を引いた“
ドニー・ドニー独立戦争”。
海と寒候に囲まれた群島域が一致団結し諸国連合と戦い勝利し、その存在を異世界各国に認めさせ“国”として新生した。
掻い摘んで見れば少数が誇りを勝ち取った美談に思えるが…実際はどうだったのであろうか?
人間と亜人とは姿形も違えば考え方も違うはずであろう。
調べよう。感情の零の位置から。
所謂“労働の対価”というものは 時間・人夫・成果 大体がこの三点の集計から算出されるのが地球での一般とされているが、
異世界ではその基準は大きく違っていることが多分にある。
種族の多様さから身体の大きさから能力の差等の振れ幅がこと大きい異世界は、
極端な成果主義がよく見受けられるのである。
異世界にて貨幣という明確な基準が全ての国と地域にあるわけではないことが、物々交換の場での“商品の価値こそ全て”という価値観に繋がっている。
上記の成果主義が独立前の当時はそう名の無かったドニー・ドニーの群島域に一つの雇用体系を生み出していた。
島々にある豊富な自然資源に目をつけた
ラ・ムール商会がその採取と販売に乗り出してきたことが全ての切っ掛けと言っても良い。
原始的な生活を営んでいた
オーガなどの巨体種に、文化的産物を対価として資源の採掘などを依頼したのである。
当初、それまで大々的に鉱脈や伐採などを行わずに生活で必要な量だけを得ていた巨体種に出来得る限りの作業量を求めたが
彼らの鶴嘴の一振りは商人が連れてきた
オークをはじめとする獣人の数倍にも及び、当然として産出される資源量も予測を遥かに上回っていたのである。
「採れるだけ採って売れば良いのではないか?」と思うだろうが、過剰な流通は利益を損なう要因であるのは商人の道理であり、
結果として商人は巨体種に“手加減した作業”を求めたのである。
商品としての潤沢な資源を得る商人と、緩い労働により対価を得る労働者。
という奇妙な雇用模様である。
その双方円満な関係は一つの鉱山事故から発生した鉱毒流出災害により終わりを迎える。
雇用主と労働者をはっきりと分けて認識する商人は身の安全とその後の採掘困難な状況に見切りをつけて島から避難したが、
共に生きる者を仲間とする労働に従事していた種族は、家族と仲間を、そして商人を避難させるために最後の最後まで奮闘し
多くが果てたという。
その後、汚染された鉱脈群島を含める全ての所有権が異世界全土規模で売りに出されることになる。
ここで終わっていれば一つの悲劇の決着と、島の生活が回帰することになったが、
後に続く世界の動向が島に残る者達に独立への気運を高めることになる。
毒への耐性の強い巨体種をも蝕む危険な鉱脈への掘削指示と、災害後に商会へ打診された島所有権の売却案など自然発生以外の疑問
鍛冶国家である
クルスベルグの過剰なまでの鉱石資源確保、鉱脈開発などの時期が重なったことも大きな要因ではあるが、
当時当初それを知る島民はほとんどおらず、そういった裏の事情は独立戦争宣言後に
ゴブリン商人が伝えるに至る。
では何が戦争の口火を切らせたのか? 事は単純であるとされている。
“人を人として扱わなかった者に対する人の怒り”である。
群島の所有権獲得争いでドニー・ドニー独立の双角が一角であるナゼフに競り負けたクルスベルグが取ったのは軍事的強攻策であった。
電撃的火急としてクルスベルグ艦隊が沿岸からの攻撃を開始した後に発布した群島所有宣言は、
諸国への了解も討議も無しに行われており、クルスベルグの焦燥が伺える。
と、前置いたが、ここで大きく作用したのが労働に対する考え方の違いであった。
労働とは生活の一環であり他者を結ぶものとする群島の住民達と、
労働とは民の義務であり国を強くするための手段とするクルスベルグ。
宣言など聞く機会も無く気にかける事もしなかった住民には、押し寄せるクルスベルグの先行軍は一種、害を成す獣の様にも写った可能性がある。
しかし、ここでもしクルスベルグが以前のラ・ムール商人の様な交渉と契約を行えば戦争は起こらなかったのかも知れない。
宣言により群島を属領とみなしたクルスベルグは、早々に鉱山採掘へと乗り出した。
そして、過剰なまでの大量の鉱石を求めるクルスベルグが、属領の民に国のための鉱山労働を強制したのである。
強制と述べたが、当のクルスベルグにとっては至極当然である義務の励起であった。
その後、島民の反抗を予期していたクルスベルグ艦隊による攻撃、上陸部隊による群島の征圧が始まったが、
それはそれまでに溜まった島々の積念を爆発させる。
繋がりと信頼を最初から捨ててかかったクルスベルグは、自分達を否定する存在として見えたのだろう。
これにより独立戦争の火蓋が切って落とされるに至る。
最後に、こうして起こった各国の経済を巻き込んだ独立戦争だが、その最中にあって商人の強さを知らしめる裏舞台の話で終わりとする。
独立戦争の中で更に鉱石需要の高まったクルスベルグにそれを多く売っていたのは、やはりラ・ムールの商人であったが
その先で鉱石を採掘し最初に売り送っていたのは群島で独立戦争を指揮していたゴブリン商人であった。
危険状況下での割り増し売価は最終的にクルスベルグの経済に打撃を与える結果となった。
特に隠しもされないその流れは、
クルスベルグの国力が戦っている相手に掌握されているという焦燥感を持たせると同時に、戦争状態でも経済では取引、対話が成立しているという一つの事態解決への道を示す事にもなった。
独立戦争最終局面において国家容認と自由取引による講和が持ち出されたのは、力で耐え経済で攻めたドニーの勝利であったとも見える。
ドニー・ドニー独立後、それまでに培った海の力と経済の力により世界の海へと飛び出した彼らの発展は
寒海に浮かぶ群島国家の枠を遥かに越えて大きく広がったのである。
ドニー・ドニー独立戦争についての顛末の少しを仮説
- ドニーを攻めた側がどれくらいの戦力だったのかは分からないけどやっぱり守る方がやりやすかったのだろうか。金握られてたら勝てるものも勝てないわな -- (とっしー) 2013-12-28 20:15:00
- 商人とその他全ての思考の違いが色んな方向に働きかけているのがよく分かる。経済は人にとって幸福なのか不幸なのか -- (名無しさん) 2014-01-07 23:36:55
- 人間という単一種が広がる地球と違って能力も考え方も多様な異種族がいる異世界は社会のシステムや生き方も人間の範疇では収まらず欲望も陰謀も想像を超えることもあるのでしょうね -- (名無しさん) 2019-04-07 18:41:06
最終更新:2013年12月28日 02:29