【日常ヤンキーズ!】

「カブは頑丈なバイクだけどその分些細な変化でも気づいてあげなきゃダメなんだよ」
最近エンジンのスタートアップが鈍いのでクロトにメンテを頼んだら他にもあちこち痛んでいたらしい。
「んで、どれくらいで直るよ?」
「三日だね」
「三日!?長くないか」
その間、ずっとコイツに乗れないってのは痛いぞ。
「だってまずキャブレターを弄ってフレームの歪みも直して、サスペンションも取り替えて、あとは前々から考えてた精霊エンジンの搭載と新天地仕様の足まわり装備の手配で……あ、ごめん三日どころじゃ済まないかも」
「そこまでしなくてもいいっての!」



「いやーこんな古典的な回答する人っているんだねー」
「う、うん、俺も初めて見た」
日本史の小テストが返ってきた。
結果は俺とドランは赤点、クロトは満点、ウォーチは平均点。
ここまではいつも通りだが
『Q、法隆寺を建てたのは誰か?』
『A、大工』
と答えた俺の答案用紙が槍玉にあがる。
「間違っちゃいねぇだろ」
「いーや間違ってるな」とドランが口を挟む。
「いいかジョウジ、法隆寺を建てたのはただの大工じゃねぇ!宮大工だ!」
おお、なるほど!
「「だめだこの二人早く何とかしないと」」



「おいウォー公、そろそろ負けを認めたっていいんだぜ?」
「何言ってるのさドラン、こんなの余裕だよ。むしろ部活終わりだからまだ足りないくらいだよ。というかドランこそギブしなよ?」
「ハァ?こちとら坊ちゃんの買い出しにつきあわされて疲れてるんだっつの。まだまだ出る気なんざねぇ!」
「そうは言うけど、KO寸前のレスラーみたいじゃないか」
「ンだオラ、喧嘩売ってんのか!」
「売ってはないけど誰の挑戦でも受けるよ!」
サウナ。
それは男と男の意地がぶつかり合う場所。
十津之湯を舞台にドランとウォーチが火花を散らす。
その先にあるのは、勝利か、栄光か、それともただの脱水症か。



「あいつって普段大人しいよな」
「「うんうん」」
「身体はデケェのによ、なんつーか肝っ玉も小さいしよ」
「「うんうん」」
「ボクより争い事が嫌いだし」
「「うんうん」」
…………
「「「そのウォーチが…」」」

「ルォォォォォォ!!」
『あーっと!ロープから跳ね返ってくる挑戦者をメッタ打ちー!』
『伝家の宝刀、村正ラリアットの連発ですか。これはオチ・ムシャ選手は非常に危険な精神状況であると言わざるを得ませんねー』
『挑戦者がもはやミンチだー!!』

「あんまり怒らせない方がいいかもね…」
「坊ちゃんの言う通りだ…」
「俺もそう思う…」



「何で岡っ引き?」
そりゃ俺が知りたいよ。
「俺様のトップクとウォー公の鎧一式はわかるんだけどナァ」
なんだよ、俺が岡っ引きじゃおかしいか?
「それって確か俺のと一緒に丈児の実家に頼んだんだよね…?」
おう。ついでだから何でもいいからビシッとした仮装を送れって言ったらよ…
「その服装が送られてきたワケね」
俺の親父が昔着てたんだと。
「マゴニモイショーってか。似合ってんぞジョウジ!」
「捕まえられる側なのに捕まえる側なんだね」
「ええっと…あり、なんじゃないかな?」
心無いほめ言葉ありがとう。素直に受け取りながらいつか覚えとけ、と思うハロウィンの朝の出来事だった。



「なあウォーチ、今いくら持ってんだ?」
「えーっと……百二十円かな。丈児は?」
「勝った!俺は八十二円だぜ!」
「二人とも、それって食券機の列に並びながらする会話じゃないと思うんだけど」
「安心して下せぇ坊ちゃん、俺なんて十円ポッキリでさぁ!」
「胸張って言うことじゃないよねドラン」



「皆に大事な話があるんだ。俺は今日……エロ本を拾った」
一瞬にして俺たちの空気が凍りつく。
エルフか!?巨乳エルフなんだな!?」
ドランが物凄い勢いで食いついてくる。
「えええええっとそそそういいうのっていいのかないや興味がないわけじゃないむしろ見たいけどイスガさんに見られたらああでもでもでもでもチラっと見るくらいなら」
ウォーチがバグりながらも興味を示す。
「世界に二つしか選択肢がないとすれば、今回の場合は言わずもがな、『見る』と『見る』だね、うん」
それってもう見る気まんまんだよなクロト。



「せぇーのっと!」
パコーンといい音を立てて最後のパネルが打ち抜かれる。
「ぃよぉっし!ノーミスクリアー達成ですぜ坊ちゃん!」
バッティングセンターの片隅にあるストラックアウトで遊んでいたのだが、ドランはどうやらこういうのが得意らしい。
「意外な才能だよね。球速もプロ並だし」
素直な感想を述べるウォーチ。
「誉めたって何も出やしねぇぜ。つーかこの俺様を誰だと思ってやがる?古のクルスベルグに謳われしどおがぁぉん!!?」
「ごめんドラン、手元が滑った」
ウォーチの賞賛に気をよくしていたドランの顔面にクロトの暴投が突き刺さる。
こういうところが安心のドランクオリティというかなんと言うか。

「もう、あんまり軽々しく言うなって言ってるじゃないか」
「面目ねぇ坊ちゃん…」
「ふ、二人ともどうしたの?」
「「イエ、ナンデモナイデスヨ」」



「バイク乗り換えない?」
「いきなりなんだよクロト」
「大学部にいる従姉妹の方で新しい開発計画が持ち上がってて」
「つまり俺にモルモットになれと」
「こういう時だけは勘が鋭いね」
「だけってのが引っかかるな、だけって」
「どうする?」
「命危険そうなので辞退する」
「そっか……ちなみに使用車両はモトラです」
「喜んでやらせてもらいます」
ほんと丈児ってわかりやすい。
まぁ後日、冷静になった丈児に「クロトてめーレアバイクになんつー扱いを!」とキレられたわけだけど。



時は昼時、すたーしーかー食券売場前。
残された焼きエリスそばコロッケロールパン定食(特大)はただ一つ。
「「ヤンキーじゃんけん!」」
「さぁいしょは!」
「グゥ!」
腰だめに構える俺に、打ち下ろしハンマーパンチをお見舞いしてくるウォーチ。
「…っ!じゃぁんけぇん!」
アッパーでかろうじて受け止める。だがさすがに超重量級は伊達じゃねぇな!
「「ぽぉぉぉん!」」
説明しよう!
ヤンキーじゃんけんとは友と道を違えた時に使用される、慈愛の拳である!
拳骨のグー・手刀のパー・目潰しのチョキを駆使し己が意志を貫き通し、かつ相手の負傷を最小限に留めるために考案されたのである!
ちなみにグーチョキパーは多少のアレンジが許されているのである。
俺の初手、パー可変系の横薙手刀をウォーチは更にパー可変系の白羽取りで受け止める。
わずかな静寂の後に衝撃がすたーしーかー全体を震わせる!

「あ、相打ちだと!」
いつ間にか集まっていたヤジウマの一人が実況役を買って出たようだが相手はウォーチだ、油断はできねぇ!
「ギヴしなよ!あーい…!」
合掌捻りよろしくウォーチにぶんなげられて、俺は辛うじて天井に着地(?)する。
「お断りだぁ!こーでぇ…!」
「人魂ナックル!」
「元原キィック!」

「じゃんけんなのに足を使っていいのか!?」
驚愕の声を上げたのはさっきの実況役だ。
そこにクロトの冷静な解説が入る。
「足の裏を使っているからあれはパーだ、つまり有効なんだよ」
ヤジウマからどよめきが漏れる。
つまりこの勝負…グーとパーで…!
「ところがそうはいかないのが面白いのさ」

「フンガー!!」
ぶつかり合いで押し負けて俺は再び宙に舞い、すたーしーかーの天井と床を何度もバウンドし、自販機に突っ込むようやく止まった。
負けだ。だが悔いはない。友と合意の上で全力で語りあったんだ。
「ナイス、ファイト」
差し出した俺のサムズアップにウォーチが答え、ここに第何回か数えるのもめんどくさくなるくらい回食券争奪ヤンキーじゃんけん合戦は幕を閉じた。

「実況ですがなにこの空気」
「面白いからありでしょ。というわけで解説はクロト・ユニクスでした」



「ゴールデンウィークはどうすんだ?」
「従姉妹の手伝いで研究室に篭もる」
「坊ちゃんと一緒に決まってらぁ」
「GW興行でナニワプロレスと対外試合かな」
「…色気もクソもあったもんじゃねぇ」
「そういうオメーはどうなんだヨ?」
「あぁ?狐三兄弟の末っ子と果たし合いしか予定がねぇ……」
「「「人の事言えねーじゃん」」」




  • 資金稼ぎのヤンキーズのバイト編が読んでみたくなる -- (名無しさん) 2014-01-03 03:30:50
  • とりあえず言いたい。卒業までには人並み程度の読み書き計算はできるようになっているんだぞと。亜人の三人は卒業あとをどう考えているか気になるけども今が楽しければとりあえずヨシなのかも? -- (名無しさん) 2014-01-03 11:48:38
  • しょっぱな四人強引乗りカブを思い浮かべたのは秘密。いや本当に学生っぽく謳歌しているのは分かるんですよ。でももうちょっと勉強しような! -- (名無しさん) 2014-01-07 23:31:14
  • 荒行のような補習授業で落第だけはなさそうだ学園 -- (名無しさん) 2014-01-24 23:34:20
  • 改めて思う。四人でいるかぎりは彼女などできないと! -- (名無しさん) 2014-02-17 23:57:26
  • カブの整備待つくらいなら自転車で異世界行こうぜ! -- (名無しさん) 2014-04-28 00:35:41
  • 小道具はそろっているのでそれを揃えるまでの金策も見てみたいのは思った。クロト頼みなのは味気ないしさ -- (名無しさん) 2014-04-29 01:20:31
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最終更新:2014年04月27日 19:00