精霊:異世界で様々な自然現象を引き起こしている存在。
地水火風闇光などの属性を持ち、姿は様々。知能は大抵ヒトの子供と同じか少し上程度で、性格はその属性による。
好奇心旺盛で、ヒト種の芸術文化などに対して非常に強い興味を示す。
その性質を利用し、異世界のヒトビトはいわゆる『精霊魔法』と呼ばれる超常の術を使っている。
兵庫県立美術館、現在ここでは異世界からの旅行者のために世界中の画家の作品を集めた特別な展覧会「地球世界の画家たち」展が催されている。
この日のために兵庫県のみならず、政府までもが総力を上げて世界中からピカソ、セザンヌ、モネ、ゴッホ、ゴヤ、横山大観、岸田劉生、佐伯祐三、長谷川等伯…どれも一時代を築いた有名画家の代表作を借り集めれる限り集め、日によって主題を決めて日替わりで展示を変えていく凝った趣向で、解説専門のキュレーターはもとよりイヤホンや携帯用電子機器を駆使した作品や作者、時代背景の解説や丁寧なガイドは異世界人だけでなく地球人にも好評を得ており来館数は中々のものだ。
今日もたくさんの来館者が地球の絵画を楽しみに来ているその中に精霊が何匹か混じって併設されたカフェで今日鑑賞した作品の品評をしている。
「うちの世界の絵もいいけどこっちも色んな面白い絵があるね。ボクはお城と馬に乗ったチキュウ人と犬が丘の上を走ってる絵が好き!
イストモスの
ケンタウロス騎士と狗人従士の疾走を見てるみたいで!後は、日傘を差した女の人の絵も空気感があって好きだな」
風の精霊が楽しそうにそう話すと水の精霊が意見を言う。
「あの人の絵はお船の絵が最高だと思うわ。
ドニー・ドニーの海賊船のマストから
ゴブリンの船員と見た雄大な海を思い出すの。あと個人的に好きな絵は睡蓮の絵と松の木が描かれたビョーブね。前者は水面に映る景色や睡蓮の花の美しさをとても良く表しているし、後者は墨の色一色なのに濃淡によって、しっとりとした松の木が表現されていてとても素晴らしいわ。」
そう言って手を組んでうっとりと知ったかぶった論評を水の精霊が述べると、土の精霊が自分の感想を語りだす。
「私は手編みをしている羊飼いの女の子の絵が、牧歌的な情景を表していて、東イストモスの狗人の子や
オルニトの飛べない鳥人の子が家族に放牧を任されていたのを思い出して好みだな。
あとは、果物や野菜の組み合わせで肖像画を描いた作家もとてもユーモラスだし、人の特徴をよく見て表現する高い技量を感じさせる」
土の精霊は腕を組みながらそう評してから、さっきから自分達が乗っている海賊帽のツバ辺りに座って足をぶらぶらさせている火の精霊に話しかけた。
「やはり陶器やブロンズ像みたいに火に関係しない芸術はつまらないか?」
そう聞かれて火の精霊は足を振るのを止めて首を振る。
「いいや?オイラも楽しんでるよ?」
「でもボクから見てもそんなに楽しそうじゃないよー?」
「そうね。心ここにあらずって感じ」
風と水の精霊がそう言うので火の精霊はうーんと唸ってから自分が感じたことを語りだす。
「『画家が見た地球世界』っていうコンセプトはとても面白いと思うんだ。実際、オイラも好きな絵を幾つか見つけたよ。
例えば戦争に巻き込まれた街を描いた絵とか…」
「えー、アレ凄い画家らしいけど見ててよくわかんないよ。怖さは感じたけど…」
「…絵から感じるものはあるが理解は難しいな」
火の精霊の感想に二匹の精霊は否定的な意見を言い、水の精霊はそんなのあったっけ?という顔をする。
それに対して火の精霊が言葉を続ける。
「あれはね。オイラが思うに視点を一方向に固定してなくて、色んな位置から見た中で、画家が印象に残ると感じた部分を組み合わせて描いたんだと思う。だから意味が分からなくても戦争は怖いっていう画家の伝えたい気持ち…熱が伝わって来るんだよ」
その解釈になるほどという顔をする三匹の精霊、そして水の精霊がじゃあと言う。
「あの奇妙な夜のカフェテラスの絵を描いた人はきっと寂しかったのね」
「そういえば、人がいる所がすごく明るかったな…」
絵にまた違う見方ができた精霊は他の絵の解釈も考え始める。
また、あーだこーだ言い始めた中で風の精霊がふと気づいて火の精霊に聞く。
「結局何でつまんなさそうだったの?」
ああ、それは…と火の精霊は答える。
「熱が足りないんだよ」
「さっき熱が伝わってくるって言ってなかった?」
「アレはアレで凄く良い熱なんだけど、オイラの欲しい熱じゃないんだ…」
火の精霊の答えを聞いて何だそれ?と首をかしげる他の精霊達、その時彼らの乗っていた海賊帽が大きく揺れた。
「あんた達ウルサイわよ!いま私、大事な絵を描いてるんだから静かにしなさいよ」
スラヴィア生まれの海賊少女がプリプリ怒りながら帽子の上の精霊達にそう抗議する。
「もー、ボクらは今とっても真面目に絵画の論評してるのにー…」「しかし、さっきから美術館で何を描いてるの?いつもなら絵画や音楽や文学なんか睡眠導入剤代わりでしょう?」
風の精霊がブーっと頬を膨らませて抗議して、水の精霊が不思議そうに海賊少女に質問した。
「学校のしくだいで自分の好きなモノを描きなさいって言われたのよ。だからここにある絵画を真似て最高のレシエお姉さまの絵を描くの」
四匹の精霊がどれどれと彼女が鉛筆で描いた下絵を覗くと、恐ろしいほどに抽象化された何だかよくわからない塊が画用紙の上をところ狭しとのたくっていた。
「……これなあに?」
「だからレシエお姉さまよ」
「まさか…これはスラヴィアの最古の貴族の一人、レシエ・バーバルディア侯なのか?」
土の精霊が引きつった顔でそう呟く。
傀儡侯女レシエ・バーバルディアは、屍徒の国スラヴィアで非常に人気のある最古参の貴族の一人であり、この海賊少女も熱烈なファンの一人であるのだ。
「この現代アートの出来損ないか異次元から来たかのようなお化けがあの美しい
ドワーフ族のレシエ侯…」
「…」
「…」
「…」
精霊達、全員が押し黙る。
少女はそれが不満なのか口を尖らせて
「何よ?あんたら…私が料金払って連れてきてあげてるのに文句があるっていうの?」
「…うん、無いよ。ボク達は何も…」
「そうだな。表現の仕方は人それぞれだもんな…」
「アタシは何も見なかったわ」
「私は何も覚えてないぞ」
皆、目を逸らしながら微妙な反応を返すが、単純な少女はそれで満足したのかまた、あーでもないこーでもないと画用紙に自分の思いの丈をぶつける作業に戻る。
精霊達がそんな彼女を生温い眼差しで見守っていると、机の端に巻いて置かれた画用紙が目についた。
「これもまた宇宙からの物体X?」
風の精霊が大事に巻かれたそれをペラリと広げ、他の精霊達と一緒に食い入るように見始める。
「ちょっとあんた達!それを手荒に扱ったら怒るわよ!!」
既に怒っている少女が精霊達に怒鳴りつける。
「美術館で騒いじゃだめだよー…で、これどうするの?」
「決まってるでしょ!お父様にプレゼントするのよ。これにも何か文句あるの?」
精霊達が見ている画用紙には色々な色のクレヨンで用紙一杯に書かれた彼女の父である
オーク系スケルトンが優しく笑っている姿が描かれていた。
それは今描かれている奇妙に捻くれた愛情一杯の絵よりも子供っぽい技法だが、素朴で親愛の情が溢れている作品だと見る者に感じさせた。
「…ううん、これはわりといいねー」
「うふふ…きっとお父さんも喜ぶわ」
「親子の愛情は何にも優るな」
彼らは口々にそう感想を述べる。
そして、今までつまらなさそうな顔をしていた火の精霊も
「ふーむ…これは良い熱だ!」
そう楽しそうに彼女の絵を評したのだった。
蛇足:作中で精霊があーだこーだ言っていた絵画の作者と名前を追加。
見たい人は編集ページを開けばこの下の辺りで見れます
- 絵画に感じるものは人(?)それぞれでもやはり良いものは良いと感じるんだな -- (名無しさん) 2014-03-30 21:55:18
- 「画狂老人卍様の絵が無い!」「普通に葛飾北斎って言えよ」「あのエロいタコの絵が・・・」「それ目当てなの?」 -- (名無しさん) 2014-03-31 13:17:04
- ぞうしが深い上でのもじり方が異邦人から見たというのにマッチしている驚き。二つ合ってた -- (名無しさん) 2014-04-01 22:41:48
- 美術品は異世界でも高値で取引されているんだろうか -- (名無しさん) 2014-04-18 21:09:08
- 題名に惹かれた。異種族は芸術にも実を求めたり見出したりする反面で込められた想いにも敏感なんだなぁと -- (名無しさん) 2014-07-10 22:35:34
最終更新:2014年03月30日 23:22