【ベジタブルハンターG】



 ドンドコドンドコ ドンドコドコドコ ドンドンドコドコ…
森の中で木々を切り倒した広場。 中央には夕闇を煌々と照らす大きな焚き火櫓。
中規模の学校のグラウンドくらいはある広場には、テントやバラック、頑丈そうな丸太小屋に飯場や井戸などが散在しており
凡そ生活するのに必要であろう施設などが一通り揃っているように見える。
「あーもう!ちゃんと調子を合わせなさいよ! そこは“ドンドコドコ”じゃなくて“ドンドコドン”でしょ!」
広場の入り口から近く、大きな葉を敷き詰めた上で小太鼓を足で押さえ叩く小人の一団。
小人皆一様に足裏や手など一部がとても毛深いのが目に付いた。
「あら?」
今しがた叱り声で丸い耳を真っ赤にしていた小少女がこちらに気づくやとてとてとてと駆け寄ってきた。
「“すたっふ”の人達?お見苦しいところを見せちゃったかしら。
びーじーえむのさんぷるという曲を皆が奏でれるようにならないと秋の国に帰れないから気合が入っているの私」
(うーん、確かにハンターの村っぽい音楽ではあるけども… 異世界だと生演奏になるのは大変だな)
「アンナさん、演奏の方は上手くいっているでしょうか?」
 凍る様な 寒気  頭の中を開く様な 美声  氷の微笑
心が身構えるも手足は悴んで上手く動けない。 異様な存在感を放つ女性が小少女に声をかけつつ歩いてきた。
「地球からのスタッフの方々ですね?わざわざエリスタリアの斯様な地にまで足をお運び頂き…
  嬉しゅう御座います」
微笑を崩さず丁寧に御辞儀する、ゆったりとした七色の葉で編まれたローブを羽織る女性は、ユーキと同じエルフに見える。
「…ユーキ君?」
女性と目を合わせない。 斜め下に俯いたまま顔を漂白させて冷や汗をどくどくと流す。
二枚目も見るも無残な祟り顔。
「うふふ、旅でお疲れでしょうか? 私、今回エリスタリアにて日本の企業様との折衝に就くべく地球外交より戻ってきました
入明=水流(いるあ=みる)と申します」
確証は無い。 無い、が、この人は嘘をついていると感じた。 それもわざと。
 ぐぅぅうううぅぅううっっ
突如、地鳴りかと聞き紛う腹の音が縛れる空気を弾き飛ばした。
「うわ!すみませんス!」
「うふふ、夕飯時ですもの仕方がありませんね。 明日からのお仕事に備えて今夜はゆっくりお休み下さい。
皆様の寝床は用意してありますので、そこから鈴音草を鳴らして頂ければお食事をお持ちします」
その言葉が終わるや否やユーキが湯尾乾とマズアの手を引き、そそくさと小走り去る。
「うふふ…」

「うっわーやばかったー。何とか爆弾は爆発せずに済んだかー」
呼吸を取り戻したユーキが安堵の表情で大きな溜息をつく。
「誰?知り合いなんス?」
マズアの問いかけにぶんぶんと首を横に振る。
「しかし本格的な、“ドコカノゲームデミタヨウナ”場所だなぁ。
言っちゃ何だがカプオンのモンスターズハンターの…」
─── 一つ言い忘れていたのですが」
三人の背後に、ぬぅっと入明が立ち現れる。
「広場の向こう、大樹の根穴を越えて先には行かぬようお願いします。 とてもとても危険で御座いますので」
「「「はっ、はいっ」」」
美しい細い指先が示した先には両脇の篝火に照らし出される、
大樹の根が広がりトンネルになっているのが見える。
(いやもう今夜は何もする気が… ゆっくり休もう…)


 ── 翌朝
「皆さんよく眠れましたか? 私は眠れました。私はビリカーン。今回の企画でチーフを務めます」
広場一頑強そうな丸太小屋に朝一番呼び出されると、やたら間接をクイックイッするナナフシに出迎えられる。妙に陽気だ。
蟲人、身長こそ160cmほどで細い体躯がよく曲がる。 蛇棍か三節棍かと。
「早速ですが皆さんには準備体操をしてもらいます! その後、モーションリーダーを装着してもらい“狩り”に出てもらいます!」
広い切り株の上に並べられた小さな機材。それらを三人が手に取るとすぐさまファンタジックな道具…武具が置かれた。
「ユーキさんは手数で攻めて下さい。 二対剣をどうぞ。
マズアさんは大きな一撃を見舞って下さい。 轟剣をどうぞ。
湯尾乾さんは器用そうなので補助をして下さい。 精霊笛をどうぞ」
「ドコカデミタ…」
「いやまぁ今日日どこのゲームも似たようなものでしょう」
「気にしたら何もできないス」
それぞれが手に取りあれこれ回して見たり振ってみたり。
「これで“狩り”を…?」
「うわー何だか予想できてきた」
「あれ?これ剣とか言う割には大きいだけで刃が無いス。 これじゃ銅の剣ス」
ほぼ大きな身長と同じくらいの太い剣をひょいと掲げたが、確かに刃は無い。
「ああ!今は野菜捕獲モードなのですね。 菜害獣討伐モードは柄を捻って下さい。グリっとどうぞ!」
 ぐりっ  ジャッキィーーンッッ
マズアが太い柄を捻ると、それまで刃のはの字も無かった剣身の内部から、鮫の鋭歯の如く野太い鋼刃が飛び出し並び揃った。
「おっかないス!」
「おっかない獣が出てきた時にどうぞ!」
「私の二対の剣も似た様な仕掛けがあるのかー」
「ちょっ、俺のは唯の笛ですけど?!」
「皆さん、さぁ“狩り出の大樹”へ行きましょう! すでに四人目の方が待っていますよ!」
「俺、どっちかと言えばハンマー使いんですけど… 笛しかないんです?」
「はい」


昨晩、入明が指し示した大樹の根のトンネルへと進む。
「防具はファンタジーっぽい帷子とか鉢冠ですけどこれ、鋼針樹や鎖実草とか一級品の素材で作られてますよ」
流石エルフというか、こういう事には詳しいようで。
「ところで四人目さんは何処ス? 人なんていないんスけど」
確かにトンネルの傍には誰もいない。 いるのは ───
「皆さん。あそこにいるのが多種族キャラの他のサポートキャラ製作を担当する人です!」
「サポート?お供猫みたいな? でもあれは…」
「いえいえ!それはまずいでしょう! 人間、亜人、そしてUMAです!」
「あれどう見たってUSIですよ牛!」
「あれほど見事な牛は神戸牛でも滅多に見ないですなー」
「尻尾は大蜥蜴みたいで手足も蹄じゃなくて獣爪とか…頼りになりそうな牛ス!」
 くっちゃ くっちゃ
「うむ、待っていたぞ。 我が四人目のハンターだ」
渋い洋画の吹き替えでよく聞く様な大塚声。
「「「UMAだーーっ!!」」」


揃い揃った四人のハンター。
人、エルフ、虎人、USI。
これで一体何を“狩る”というのか… 次回へ続く

  • 地味にエリスのキャラが出てて楽しい。どこをどうみてもMHだけど牛って何! -- (とっしー) 2014-04-13 16:43:33
  • ゲームにテーマパークにエリスタリアの思惑にと賑やかな裏に何かありそう -- (名無しさん) 2014-04-13 20:14:10
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

h
+ タグ編集
  • タグ:
  • h
最終更新:2014年05月24日 01:09