【図書館事情 新天地】

 開拓が進む新天地において、書物や図書館などは何の役にも立たないという印象を持つかもしれない。
だがしかし、現実にはその役割は決して小さいものではない。
新天地の図書館は自衛し、正確な情報を提供し、あるいは移民たちの精神的支柱として無視できない機能を果たしているのだ。

 第一に、図書館は土地所有に関する記録を蓄える。
特に開拓された土地の所有権は大きな問題となる。
かつて誰のものでもなかった土地は、今や誰もが権利を主張する戦場である。
暴力による占有はより強い暴力に奪われるのは自明であり、だから人はより確固とした大義名分を求める。
初めに手を付けた、開拓の労力を負担した、誰彼から権利を譲り受けた、だから所有するといった言い分は認められやすい一方で、水掛け論にも陥りやすい。
故に開拓者は記録をしたため、図書館に預ける。
図書館は記録の正当性を保証し、代わりにいくばくかの保管料を取る。

 たかが記録、と侮る向きもあろう。
都合の悪い記録など、暴力によって破棄すればよいと考える者もあろう。
故に図書館は武装し、自身と自身の蓄える記録を防衛する。
あくまで記録を提供するだけであり、法の執行機関ではないが、敵対勢力に対しては容赦なく反撃する。

 第二の機能として、情報センターとしての役割がある。
未開の地から戻った探検家たちは、図書館に手記を寄贈する。
ニシューネンなど、一部の都市で発行されている新聞もまた、図書館のネットワークを通じて集積・拡散される。
蓄えられた記録は常に整理整頓されて掘り返され、横断的な研究から価値ある情報が掘り出されることもある。
オルニト領の遺跡から発掘された記録を通じて、輸送途中に失われた皇帝への貢物である『三眼のダイヤモンド』を発見した駝鳥人カルマンの発見は記憶に新しい。

 第三に、移民たちが故郷を思い出すよすがとなる。
図書館には各地の雑多な書物が収められている。
多くは安い読み本の類であり、移民たちが故国から持ち寄ったものがほとんどである。
これらの文物は移民の郷愁を掻き立て、二世たちには祖先の来し方を教える。
歴史の浅い社会であるがゆえに歴史を重んじるといった事情は、ゲートでつながれたアメリカのそれとよく似ている。

 新天地各地で散発的に発生した図書館は、現在ではギルドを構成し、蔵書や人材、戦力等の交流を行っている。
このほかに独立した小集団が各地を巡り、情報収集や資金調達、徴募などを手掛けている。


 但し書き
 文中における誤り等は全て筆者に責任があります。
 千文字。

  • 歴史というよりも「言ったかんな!何日何時何分言ったかんな!」という言質取りとか登記簿センターみたいな様相だ新天地図書館 -- (名無しさん) 2014-09-09 02:10:27
  • 必要とされあるべくしてある存在の中にある寄せ集められた望郷の思い出の合わせ技いいね -- (名無しさん) 2014-09-11 23:32:46
  • 富と開拓と土地とか求めてやってきた新天地で何もないと何か形で残したくなるのかな生きた証を -- (名無しさん) 2016-09-26 06:58:40
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る
-

タグ:

i
+ タグ編集
  • タグ:
  • i
最終更新:2014年09月07日 00:04