後編です注意してください
「幽霊は白い着物着てるもんだ」
「そうなの?」
「多分」
そういう彼はパッと見普通の人間な幽霊さん
言われてみれば足元とか透けてる気がする
純日本産の幽霊さん
正直もうちょっとおどろおどろしいというか、
顔色悪かったり暗い雰囲気をまき散らしてるようなのをイメージしていただけに拍子抜けだった
白い着物は似合っているものの現代には不釣り合いで、日本の幽霊っぽいといえばそうだけど
本人が何とも幽霊らしくなかった
多分20代くらいのいかにもな日本人
他人を恨んでいたりとかそーゆうのなさそうな感じ
あーもしかしてミサキちゃんの言ってた「なんか違う」ってこういう感じのことなのかな
「この辺で亡くなったんですか?」
「なんていうか、動じないね」
今まで俺を見たやつはみんな驚いて逃げ出してたのに
そういう彼に私は自分のことを説明する
「ええ、まぁ私も似たようなものですし」
世界は違えど死人は死人
体があろうがなかろうが動き出せば死にぞこないの
アンデッドに変わりない
そんなわけ「私メリー異世界からやってきたゾンビなの」とざっくりと説明してみれば
「俺の知らん間に世界が広がるどころか増えていたとは」
とずいぶん驚かれているようす
まぁまだ異世界人はこっちじゃ珍しいしそんな反応もいつものこと
ちょっと大げさかなとは思うけれど
「ああ、質問に答えないとな、俺はほら、あれだよ」
そう言って彼が指さすのは道の端に供えられた花と名前の書かれた札
「三津 祐二というらしい」
「らしい?」
「正直生前のことをあまり覚えていなくてな」
「覚えてないんですか?」
「うむ、ここでそういう名前のやつが亡くなったらしいからな、多分俺のことなんじゃないかなって感じだ」
「ふーん」
生前のことを覚えていない、というのはスラヴィアンにもよくあることで、私もそうだ
私に関してはちょっと生まれが特殊なせいもあるけど、ほかのスラヴィアンも生前の記憶が薄いのがほとんどだったように思う
変なところに共通点があるもんだなぁ
「あっそうだ」
「うん?」
「私たちは神様の力を分けてもらって生まれるらしいんですけどこっちの幽霊さんはどうなんですか?」
ちょっと気になってたことではあるんだけど「あっち」の世界じゃ神様パワーなしにスラヴィアンは生まれない
でもこっちではこの人みたいに神様パワーなしに似たようなものが生まれてる
これは結構気になる
たぶんスラヴィアンとこちらの世界の幽霊の決定的な違い
神様パワーとは違う特殊なエネルギー源があるのだろうか
そう思っての問いかけに対する答えは
「よくわからんけど、悔いを残して死ぬと幽霊として残るみたいなことはきいたことがあるなぁ」
自力かよ
人間すげぇーときどきすげー
「つまり悔いがなくなれば成仏という名の消滅を迎えるわけですね」
「消滅とはまたちょっと違うがまぁそんな感じだ」
そんな感じらしい
「ちなみにどんな悔いをのこして亡くなられたんですか?」
「いやーそれがなー」
言いよどむ
あれっもしかしてこの人
「それすら忘れちゃった系ですか?」
「忘れた」
死ぬに死ねないような悔いにもかかわらず忘れるってどういうことなの
意味わからないんだけど
「でも消えてないってことはまだそれは解決してないってことですよね」
「そうなるのかな」
そう言う彼は割と関心薄そうに見える
自分のことなのに
でもまぁどうでもいい
重要なのはこれは学校での勉強なんかより面白そうってことだ
自分のことを忘れてしまった幽霊の身元捜索
面白いかもしれない
私には過去の記憶というものがない
スラヴィアンとなったとき、私はまさしく生まれたのだ
しかし彼は違う
彼は記憶を失ってはいるが「かつて生きていた誰かの続き」なのだ
だから知りたい
生み出された私とは違う、自分の意志で死後もこの世界にとどまる彼の過去を
「ねぇ」
「うん?」
「探してみませんか?」
「探すって何を?」
「あなたの過去を」
こうして私は彼の自分探しを手伝うこととなった
彼はそこまで熱心ではなかったけど
自分はただフラフラしていられるだけでもいいんだけどなーとか
そんな感じだったけど
でも、だからこそ私の好奇心は刺激された
こっちの世界に来てからというもの、特に活動的でもなかった私がやる気を出す程なのだから大したものだ
結局この日はまたまた明日会う約束をして別れることとなった
さぁ明日は何から調べようか
さて、
一晩考えた結果、まずは彼の正体の第一候補である
「三津 祐二」なる人物から調べてみることにした
とはいえ、調べるったってどうやって?って感じだけど
うん、どうしよう
そんな感じで朝の教室で頭を捻っていると私に声をかける存在が
「おはよーメリー。今日は珍しくおねむじゃないんだねー」
まぁ当然というかなんというか
このクラスで私に声をかけてくるのなんて正直ミサキちゃんくらいなものだ
わたしって話しかけづらいしね
「ちょっと調べないといけないことがあってねー」
「なになに?宿題なら私もやってないけど」
「えっ宿題とかあったっけ?どの教科?」
「英語ー」
「うわーやってないよー」
ってその話はどうでもいい
いや、どうでもよくはないけど
私の中の優先度は低いのだ
「3丁目で亡くなった人について調べようと思ってさー」
「え?」
「いや、昨日うわさの幽霊さんと会ったんだけどね」
「なにそれ怖い」
ミサキちゃんは快く協力を申し出てくれた
申しださせた
そんな彼女の情報によるとなんと「三津 祐二」の親戚なる人物がこの学校にいるらしい
そんなことを聞いてしまうと今日も授業はあまり頭に入らなかった
英語の授業は宿題を忘れたことで怒られて
歴史の授業ではおじいちゃん先生が地元出身の偉人の話を本筋からそれてだらだら話してるのを聞き流し
体育は適当に手を抜き
美術は「私の世界ではこんな感じです」という便利な言葉で切り抜けて
私は放課後さっそくその人物のところへ向かうことにした
「なんで私まで」
と私の隣で嫌そうにつぶやくのはミサキちゃんだ
「だっていきなり私が一人で行ったら驚かせるかもじゃん」
「二人で行っても驚かせると思うよ」
メリーって派手だしと続けるミサキちゃん
うん、まぁ否定はしない
明らかに日本人な容姿じゃないしね
「小野ケイコさんってまだいますか?」
上級生の教室の前で適当な人に声をかける
「小野ケイコ」というのが「三津 祐二」の親戚のなまえらしい
ミサキちゃんもいくら噂好きとはいえよく知っていたものだと思う
私たちが声をかけた相手は戸惑いながらも小野さんを呼びに行ってくれた
多分私の容姿ゆえの戸惑いだと思う
そして教室の入り口までやってきてくれた小野さんだけれど
長い黒髪に赤いメガネ
おとなしそうな顔つきの美人さんだった
ちょっとおどおどしながらこちらへやってきた
「あっあの、何でしょうか」
こちらの表情をうかがいながら問いかけてくる小野さん
そっちのほうが上級生なんだけどね
ていうかこのひともしかして
「えーと、ここではちょっと話しづらいことだから、そうだなー屋上にでも行かない?」
そういってニコッと微笑みかける私
相手の観察ももちろん怠らない
「えっあっはいっ」
ちょっと上ずりながらの返事にやや赤くなった頬
うん、イケますね
ミサキちゃんが横でウエッって顔してるけど私は気にしない
そのまま小野さんを連れて屋上へゴーである
屋上についてみるともう太陽も沈みかけだいぶ暗くなってきている
いいですねー
太陽なんかとっとと沈んじまえよ
「あのー話って」
おずおずと問いかけてくる小野さんだが
私は気にせず彼女の腕をとり引き寄せる
あっと小さく声を漏らす彼女の唇に自分の唇を重ねる
驚きからか彼女の体は固まってしまっている
調子にのって舌を入れてみる
あとついでに生気ももらう
うん、いいですね
「なっなんで」
唇をはなせば、小さな声で彼女が問いかけてくる
赤く染まった顔で戸惑いながら
しかしその体には力が入っておらず
その瞳は「私まんざらでもないです」とうるんでいる
私はまた軽く口づけて
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
と、返した
ここで散々引っ張ってきた私の容姿について説明しようと思う
私の容姿であるが、一言でいうなら
「美少女」である
うぬぼれでも何でもない純然たる事実だ
私を生み出した
スラヴィアの貴族は芸術家と呼ばれていた
彼の生み出すアンデッドはどれも美しかったらしいけれど
私はその中でも最高傑作と呼ばれている
細く艶のある金の髪とくりくりとした目は獣人のもの
滑らかでほのかに花の香りのする皮膚は
エルフの
しなやかな筋肉は鬼のものを移植し
ノームからは脂肪を持ってきた
そして芸術的とまで言われた技術によって完成された私はまさに美少女
手術痕など一切見えないしまるで最初からこういう姿で生まれていたかのようだ
製作者の執着と執念によって作り出されたその美しさはもはや呪いの領域ともいえる
ちなみに少女なのは唯一どうなるかわからない「中身」が多少残念でもいいように、ということらしい
大人の女性にはそれなりの知性や教養が求められるからね
いろんなパーツを使ったせいで記憶も何もかも無くなってしまっていては不釣り合いだ
実際に私は最初は赤ちゃん状態だったしね
この容姿は面倒も多く引き寄せるけれど当然いいことだって多い
たとえば唐突な生気吸収が許されたり
情報収集がしやすかったりだ
「で、どうだったの?」
「おいしくいただきました」
「そうじゃなくてさ、幽霊の方」
「あー違うみたい。三津祐二は髪染めてたって」
「幽霊さんは黒髪なんだ?」
「うんそう」
屋上から続く階段を下りながらミサキちゃんと幽霊さんについて話す
ミサキちゃんは私がどんな「聞き方」をするのか察して、屋上には出ずに階段で待っていた
ミサキちゃんは不思議な人だ
私を前にすると大抵のひとは「話しかけたいけど話しかけづらい」みたいな感じで
結局遠巻きに見るだけなのに、彼女だけはまるで私が普通の人のように接してくれる
当たり前に話しかけて、時々避ける
そういうことをしてくれる人は今まで私にはいなくて
だから彼女は私にとって唯一の友達だ
「うーん、他にこのあたりで亡くなった若めの人ねぇ」
思いつかないなーというミサキちゃん
正直言って私はこの街について彼女以上に情報を持っていそうな知り合いがいない
あとは先生にでも聞くくらいである
「ねぇ他にヒントになりそうなこととかないの?見た目とかさー」
「見た目って言っても白い着物を着た若い男の幽霊ってことくらいしかなー」
「白い着物っていかにも幽霊って感じだね、白い三角のやつもつけてたりするわけ?」
「なにそれ?」
「えっつけてないんだ?着物は着てるのに」
「なにかわからないけどつけてなかったよ」
何のためにつけるのかまったく想像できないな白い三角
なんだよそれ
「それにしてもこっちの幽霊っておもしろいよね、決まった格好があるなんて」
向こうの世界じゃ大体生前のかっこうなのになー
そう私が言ったときである
「うん?」
突然立ち止まるミサキちゃん
「ねぇメリー」
「なに?ミサキちゃん」
「その幽霊は着物なんだよね?」
「うん」
「向こうの世界じゃ幽霊は生前の姿が多いんだよね」
「うん」
「じゃあそれってもしかして、、、」
幽霊さんとの待ち合わせ場所に走る
私は見た目重視な作りなので他の、たとえば獣人なんかよりだいぶ足が遅い
とはいえ人間と比べればかなり速いと言えるほどの速さはだせるわけで
全力ダッシュする私は道行く人の注目を集めていたわけだけど
そんなことは気にせず出せる限りの速度で走る
左手を大きく振り
右手には大きく膨らんだ鞄を抱えて
そして昨日幽霊さんと出会ったところに行ってみれば
そこには昨日と変わらず白い着物を身にまとった彼がいた
「よう、どうした?そんなあわてて」
俺は逃げたりしないぜ?そう言って彼は笑う
「見つけたの!あなたの過去!」
そう彼に向って言い放つと、彼はキョトンとした表情を作ったあとに
「昨日の今日でとはずいぶん仕事が早いな」
と答えた
反応薄すぎない?
「はぁ」
一気にテンション下がった
わざわざ閉まる直前の図書館まで行って確認してきたのに
「あーちょっとこれ見て」
わたしは鞄から大きめの本を取り出す
この街の歴史についての本だ
そして印をつけておいたページを開く
そこに載っているのは紛れもなく目の前にいる人物だった
「高木考作」それが彼の名前
かつてこの国が外国からの干渉を受け荒れに荒れていた時代
あんまり詳しくないけどクーデターが起こったんだっけ?
まぁそんな感じに荒れていた時代、国のトップを武力によってどうにかしようって空気の中
最後まで話し合いによってどうにかしようと周りに説き続けた人物
しかし強硬派な仲間たちと相容れず、最後には仲間によって殺されてしまった人
ざっくりいうとそんな感じの人だった
「ああ、思い出した」
そして、そんな平和主義者で悪く言えば空気の読めない人であったけれど彼は、
死ぬまで、いや死んでもなおこの国の未来を案じていた
「俺は、この国が心配だったんだ」
ふと、小さくつぶやく彼の表情は
うっすらと微笑んでいるように見えた
「それで、どうなったの?成仏したわけ?」
いつもの朝、いつものように椅子に座る私にミサキちゃんが尋ねる
「ううん。まだウチにいるよ」
「えっ?なんかいい感じに満足して成仏する流れじゃないの?」
「異世界と繋がるなんてわけわかんない状況になってるのに、150年見届けたしもういいよねなんてなるわけないじゃん」
「、、、言われてみたらそうなのか?でもメリーの家にいるの?」
「話し相手にもなるしねー」
150年もこの国を心配する気持ちだけで存在し続けたような人がずっと一人ぼっちってのもねぇ
という言葉は飲み込む
なんか上から目線だし
私は純粋にすごいって思ったわけだし
「あっそうだ、メリー」
「なに?」
「昨日すごい美少女がすごい速さで町を駆け回ってたって噂になってるよ」
この数日後、私の家にどこぞの芸能事務所から鬼のようにスカウトの電話がかかってきて泣きそうになるなるのだけど
それはまた別の話
- ざっくざっく進むので大雑把に見えて丁寧な描写ですごく分かりやすいあの世界でのありそうな日常でほっこりした -- (名無しさん) 2014-11-11 01:44:48
- 前も後ろも題名が勢いだけなのかと思った一瞬。 人智越えパワーのあるイレゲだからこその幽霊システムか。他にもいたりするのかなと思った爽やかな一本 -- (名無しさん) 2014-11-12 15:36:52
- 死人だけど幽霊だけど前向きいいねぇ。ちょっと物好きな友人もスラヴィアンの生の支えになってそうだ -- (名無しさん) 2014-11-14 01:46:42
- 思ったよりもハチャメチャさんだメリーさん -- (名無しさん) 2014-11-18 22:42:35
最終更新:2014年11月11日 01:43