「、と言う訳で今年もいよいよ年末です。皆さん分かっていますか?年末ですよ。
イベント盛りだくさんでどこの町も国も観光客集めに躍起になっています。 おわかりですか?」
工事用ヘルメットから垂れるのはお辞儀する長い獣耳と、長く長く床に降りてもなお長い髪。
少女の風貌にはアンバランスな大きな手と大きな爪を収めた手袋でばしばしと机を叩く。
彼女こそスラヴィア観光の目玉の一つであるレジャー迷宮の建造を一手に担う“監獄姫”である。
丸い瞳も少し目尻が垂れておっとりした雰囲気なのだが、口から飛び出す言葉の数々はとても早い早回しである。
「クリスマスでげしょ?」
的確な返しで、「それ!」と言わんばかりの指差しを受けたのは
監獄姫配下の蚯蚓人スラヴィアンである“道は後ろに(ゲッショー)”。
手足はほぼあってないような短い触手であり、主に舌をちろちろ出して感情表現を行う。目は無い。
「クリスマス!地球の人間が何故か浮き足立つ日なのです!です! 統計ではこの時期のこちら側への旅行者もぐっと増えています。
大延国は毎度の食って食ってのお祭り騒ぎですごく人が訪れたとありますし、意外な伏兵
イストモスなどは設備投資なしで多くを集めたと聞いています」
「のびなやむ…」
椅子の上には黒いもやのようなものから細い枝の様な手足が生えている。
気がつけばそれは二つになり、瞬きすれば三つになり、余所見をして戻ると一つに戻っている。
幽体スラヴィアンながらも肉体を生み出すことが出来る稀有な存在であるが、如何せん不安定なことから各地を放浪していたところをスカウトされた彼もまた
監獄姫の配下である“無限の個(アタタカイ)”である。
「そうですそうなのですです。スラヴィア観光来訪者は悪い数字ではないのですが、ここ祭事などでの数字が伸びないのです。
はい!接客と売り場担当からその原因は何なのか一言お願いします」
急に振られたのでぎょっと肩をすくめて向き直ったのは脳味噌を脊髄他骨格が支えている頭蓋骨のない骨人間である。
「はい!ありがとうございます! スラヴィアは特に時期柄のイベントがトマト祭くらいなので目立っておりません」
突如脳味噌から全骨格を包み込む肉が溢れ出すと見る見るうちに
エルフの男性を形成し、満面の笑みで応えた。
レジャー迷宮での受付と売り子を引き受ける“笑む骨肉(リスターク)”の言葉は的確であったが、如何せん笑顔で言うことではなかったようで。
「クリスマスとかけて“だんじょんオブXday(えっくすでい)”を開催します!特別調整した迷宮でスラヴィアも他国に負けないように観光客を集めるのです!です!」
ばたん!
「お話は聞かせていただきました。 私に良い考えがあります」
「サミュラ様げしょ!」「おそれおおい…」「この様な場所に足をお運び下さるとは。ありがとうございます」
「何言っているのですか
モルテ様。サミュラ様の真似事なんてやめて下さい気持ち悪いです。
サミュラ様が汚されてしまいますイメージダウンです嫌悪感しかありません。です」
開いた戸が閉じると同時にサミュラの姿がモルテとして感知変換される、ゲッショー、アタタカイ、リスタークの三人であるが
監獄姫は最初からモルテであると気づいていた。
「んもーそれっぽく空気まとったつもりなんだけどナー。 姫ちゃんの“眼”はどうやっても誤魔化せないかー」
リスタークがそそっと用意した椅子にどっかり腰掛け、手をふりふりさせて溜息をつくモルテ。
「大体どんなものでも向こう側や真実が見えてしまう私にはモルテ様の邪悪はどぎつ…目眩がするので絶対に分かりますです。地下千メトル下からでも分かりますです。」
「ハッハー!褒められたって受け取っとくよ。 それにしても岩窟王はどこで“識女王の眼”なんて手に入れたんだい?
“潜帝の腕”は地底で大暴れしているのを沈めた時にもぎ取ったってのは聞いたけどサ。
鼠の国で頭ごと進呈されたってことだけ聞いたけど…もっとよく教えてヨー」
「駄目なのです。です。その話はそれっきりそれ以上はしませんと鼠の国とお父様がしっかりちゃんと契約しているのです。鼠の人は契約に厳しいのです。です」
「ちぇー残念。 ボクがイベントに協力してあげるから教えてくれない?
鼠人とか鵞鳥人とか狗人とか盛り沢山でスラヴィアンを用意させて賑やかなものにしてあげよう!」
モルテが机に広げたのはどう見てもドコカデミタような風体に服飾された干上がった魚の目をしたスラヴィアン達の写真であった。
「やめて下さい絶対に駄目です。正式にでぃずにーと協賛提携を結ぶ話が進んでいる最中なのに余計なことはしないで下さい破談になります。です」
「うぇっへっへっへ…そう言われると…」
「…モルテ様は御自分がどう思われているか御存知ですか?ですか?ちょっと教えて差し上げますね」
「はい?」
監獄姫の拍手と共にころころとホワイトボードがククラ氏により押され運ばれてくる。何やら円グラフが貼り付けてある。
「ではこれを御覧下さい。スラヴィア住民全てにアンケートを取りました。
“スラヴィアの神はモルテ様で良いと思うかそう思わないか”というアンケートの結果がこれです。です
赤色の部分が“思わない”で青色の部分が“良いと思う”です。よく見て下さい」
「う、ん?」
「まっかっかです。スラヴィアンは全員モルテ様じゃない方がいいなーって思ってるのです。私もです。
スラヴィアでの事故の半分以上がモルテ様が原因だと言われています。邪神保険なんてどこも取り扱っていないので補償が大変です損害ですやめて下さい」
「ぜ、全部ってのは言い過ぎじゃないか?! ホラ、ここ青い線が入っているじゃない!円全部が赤って分けじゃないだろう!」
「…その青色の御一人は、サミュラ様の「モルテ様で良いのではないでしょうか」という応えです。です…」
ぶわわっっ
モルテはじめ、その場一同全員が涙を噴き出した。