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【スラヴィアの迷宮の】

年末がすぐそこに迫るスラヴィアのサミュラ邸、その中庭“花の園”。
スラヴィアの中でも不可侵の唯一領とされているここへ自由に立ち入ることが出来る者は僅かしかいない。
 とてとてとて
丸っこい生物が自然体で歩いている。ペンギンのようだがククラ・クララククラククラという名を持つスラヴィアに認められた南極大帝国の特使である。
くるっと誰に向けてか分からない振り向きの後、ぱたぱたと翼…手を振る。
そんなククラ氏の背後にあるのは、色とりどりの花咲き誇る庭に不似合いなみすぼらしい掘っ建て小屋。看板には“従業員入り口”と書いてある。

 各国の特使の他に立ち入りを許されている者に大貴族、最古の貴族があるが
 その中でも岩窟侯と監獄姫は少し扱いが変わっている。
 スラヴィアの地下で迷宮を掘り続ける二人にはスラヴィアの地下全土が所領として認められており、
 自由に掘り進むことが特権でもあり彼らの使命でもあり生きる標でもある。
 広大な範囲を受け持つ二人はスラヴィアの変化にも敏感であり、何かことあればサミュラに報告するのだが
 入邸や移動の手間を減らすために邸の中に入り口を設けているのである。

「、と言う訳で今年もいよいよ年末です。皆さん分かっていますか?年末ですよ。
イベント盛りだくさんでどこの町も国も観光客集めに躍起になっています。 おわかりですか?」
工事用ヘルメットから垂れるのはお辞儀する長い獣耳と、長く長く床に降りてもなお長い髪。
少女の風貌にはアンバランスな大きな手と大きな爪を収めた手袋でばしばしと机を叩く。
彼女こそスラヴィア観光の目玉の一つであるレジャー迷宮の建造を一手に担う“監獄姫”である。
丸い瞳も少し目尻が垂れておっとりした雰囲気なのだが、口から飛び出す言葉の数々はとても早い早回しである。
「クリスマスでげしょ?」
的確な返しで、「それ!」と言わんばかりの指差しを受けたのは
監獄姫配下の蚯蚓人スラヴィアンである“道は後ろに(ゲッショー)”。
手足はほぼあってないような短い触手であり、主に舌をちろちろ出して感情表現を行う。目は無い。
「クリスマス!地球の人間が何故か浮き足立つ日なのです!です! 統計ではこの時期のこちら側への旅行者もぐっと増えています。
大延国は毎度の食って食ってのお祭り騒ぎですごく人が訪れたとありますし、意外な伏兵イストモスなどは設備投資なしで多くを集めたと聞いています」
「のびなやむ…」
椅子の上には黒いもやのようなものから細い枝の様な手足が生えている。
気がつけばそれは二つになり、瞬きすれば三つになり、余所見をして戻ると一つに戻っている。
幽体スラヴィアンながらも肉体を生み出すことが出来る稀有な存在であるが、如何せん不安定なことから各地を放浪していたところをスカウトされた彼もまた
監獄姫の配下である“無限の個(アタタカイ)”である。
「そうですそうなのですです。スラヴィア観光来訪者は悪い数字ではないのですが、ここ祭事などでの数字が伸びないのです。
はい!接客と売り場担当からその原因は何なのか一言お願いします」
急に振られたのでぎょっと肩をすくめて向き直ったのは脳味噌を脊髄他骨格が支えている頭蓋骨のない骨人間である。
「はい!ありがとうございます! スラヴィアは特に時期柄のイベントがトマト祭くらいなので目立っておりません」
突如脳味噌から全骨格を包み込む肉が溢れ出すと見る見るうちにエルフの男性を形成し、満面の笑みで応えた。
レジャー迷宮での受付と売り子を引き受ける“笑む骨肉(リスターク)”の言葉は的確であったが、如何せん笑顔で言うことではなかったようで。
「クリスマスとかけて“だんじょんオブXday(えっくすでい)”を開催します!特別調整した迷宮でスラヴィアも他国に負けないように観光客を集めるのです!です!」
 ばたん!
「お話は聞かせていただきました。 私に良い考えがあります」
「サミュラ様げしょ!」「おそれおおい…」「この様な場所に足をお運び下さるとは。ありがとうございます」
「何言っているのですかモルテ様。サミュラ様の真似事なんてやめて下さい気持ち悪いです。
サミュラ様が汚されてしまいますイメージダウンです嫌悪感しかありません。です」
開いた戸が閉じると同時にサミュラの姿がモルテとして感知変換される、ゲッショー、アタタカイ、リスタークの三人であるが
監獄姫は最初からモルテであると気づいていた。
「んもーそれっぽく空気まとったつもりなんだけどナー。 姫ちゃんの“眼”はどうやっても誤魔化せないかー」
リスタークがそそっと用意した椅子にどっかり腰掛け、手をふりふりさせて溜息をつくモルテ。
「大体どんなものでも向こう側や真実が見えてしまう私にはモルテ様の邪悪はどぎつ…目眩がするので絶対に分かりますです。地下千メトル下からでも分かりますです。」
「ハッハー!褒められたって受け取っとくよ。 それにしても岩窟王はどこで“識女王の眼”なんて手に入れたんだい?
“潜帝の腕”は地底で大暴れしているのを沈めた時にもぎ取ったってのは聞いたけどサ。
鼠の国で頭ごと進呈されたってことだけ聞いたけど…もっとよく教えてヨー」
「駄目なのです。です。その話はそれっきりそれ以上はしませんと鼠の国とお父様がしっかりちゃんと契約しているのです。鼠の人は契約に厳しいのです。です」
「ちぇー残念。 ボクがイベントに協力してあげるから教えてくれない?
鼠人とか鵞鳥人とか狗人とか盛り沢山でスラヴィアンを用意させて賑やかなものにしてあげよう!」
モルテが机に広げたのはどう見てもドコカデミタような風体に服飾された干上がった魚の目をしたスラヴィアン達の写真であった。
「やめて下さい絶対に駄目です。正式にでぃずにーと協賛提携を結ぶ話が進んでいる最中なのに余計なことはしないで下さい破談になります。です」
「うぇっへっへっへ…そう言われると…」
「…モルテ様は御自分がどう思われているか御存知ですか?ですか?ちょっと教えて差し上げますね」
「はい?」
監獄姫の拍手と共にころころとホワイトボードがククラ氏により押され運ばれてくる。何やら円グラフが貼り付けてある。
「ではこれを御覧下さい。スラヴィア住民全てにアンケートを取りました。
“スラヴィアの神はモルテ様で良いと思うかそう思わないか”というアンケートの結果がこれです。です
赤色の部分が“思わない”で青色の部分が“良いと思う”です。よく見て下さい」
「う、ん?」
「まっかっかです。スラヴィアンは全員モルテ様じゃない方がいいなーって思ってるのです。私もです。
スラヴィアでの事故の半分以上がモルテ様が原因だと言われています。邪神保険なんてどこも取り扱っていないので補償が大変です損害ですやめて下さい」
「ぜ、全部ってのは言い過ぎじゃないか?! ホラ、ここ青い線が入っているじゃない!円全部が赤って分けじゃないだろう!」
「…その青色の御一人は、サミュラ様の「モルテ様で良いのではないでしょうか」という応えです。です…」
 ぶわわっっ
モルテはじめ、その場一同全員が涙を噴き出した。

「何か面白そうな話をしていますね?」
「サミュラ様!です!」「うひょう!何でここに?」「サミュラ様でございますげしょ!」「かぎりなくおそれおおい…」「これはなんと。ささ、特級品のソファーで御座います。お座り下さい」
モルテの背後からにこやかに御本人の登場である。
「何やら“悪戯”の予感がしましたので」
小首を傾げての微笑に、何故か電流走る様に身を縮こませるモルテ。
「しっかし姫ちゃんは地球のレジャーに詳しいね?どこかの商人にでも地球雑誌とか頼んでたりするのかい」
「実際に足を運んで現地調査しているからなのです。見て聞いて体験するのが手っ取り早いのです。先月も行ってきたのです。楽しかったですねサミュラ様」
「え?何?何? サミュラと姫ちゃんそんなの行ってたの?」
「えぇ。先月オサカの長であるハシモト氏より招待を受けまして。 会談の場所の近くにUSJがあったので、随伴した皆様と一緒にいってきました」
サミュラの隣ではしゃぎながら高速で思い出語りをする監獄姫がありったけの写真を広げた。
「あー!ジュラシってる!スパイダってる!もっぺん行ってみたかったトコだ! あっこれ大人気とかの…ハリーポッってもきたの?!うきぃー!」
「モルテを連れて行くと…この前みたいな惨事になりかねませんので。声をかけませんでした」
「です。です」
サミュラの背よりニヤニヤと勝ち誇った視線をモルテに送る監獄姫は妙に嬉しそうで。
「えぇい!姫ちゃん、今度のクリスマスで勝負しよう勝負!
そっちが作ったとっておきの迷宮をボクが招待したりやってきた観光客が挑戦するのさ!
もし攻略できたらボクの勝ち!もし攻略できなかったら姫ちゃんの勝ちだよ!」
「ふふん。受けて立ちましょうなのです。これから月末まで三週間ほどみっちり迷宮を建て込んで楽しく手強いとんでもないものにするのです。です!」
「あらあら。これは賑やかなことになりそうですね。 私の方からも外の国の方々にもお報せしておきますね」
急にドタバタし始める小屋の床が開きあがると階段が現れ監獄姫と一同がばたばたと降りていった。
「よーし、書状書いちゃうぞー! 書状書くのは得意だからネー!」

嵐の過ぎ去った小屋でホワイトボードを隅に片付けるククラ氏がふと横を向くと
岩窟王が困惑の表情で誰に気づかれるでもなくふるふると震えていたのだった。

スラヴィア観光地である大迷宮を司る岩窟王と監獄姫の一幕を想像

  • けっこういい性格しているね監獄姫。モルテじゃなくてサミュラを好きになっていくのはスラヴィアでは自然なことなんだろうな -- (名無しさん) 2014-11-27 02:05:51
  • アタタカイでお茶吹いた。これは訴訟不可避 -- (名無しさん) 2014-11-27 10:14:20
  • 観光客ゲットとかどんな迷宮を作っているのか探索したい。配下の名前の元ネタ分かる人ってあまりいないんじゃないか? -- (名無しさん) 2014-11-27 21:41:23
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最終更新:2014年11月27日 02:49
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