【あっちこっちのホワイトデー】

 【神戸 三宮センター通り】
三月になりホワイトデーも直前。異種族交流の現状レポートも合わせてポートアイランドで街頭インタビューが行われている。
「とても身長差のあるお二人ですが、姉弟ですか?ご家族でしょうか?」
レポーターがノームオークの前に回ってマイクを伸ばす。
一度、二度とお互いを見返した二人だったが、ノームの少年が笑いながら応える。
「先月、彼女からの招待で大延国の甘味祭を楽しんだので、そのお返しに僕が日本へ招待したのです」
「お返しに地球の美味しい料理を御馳走しますと誘ってくれたんです」
にこやかな二人にレポーターが再度尋ねた。
「ところでお二人の関係は?」
「「ご想像にお任せします」」
口を揃えて微笑み返した二人は手をつないで商店アーチへと歩いて行った。
…と、その後を怪しげな影三つがこそこそと追いかける。
「…坊ちゃん」
「ドラン、ウォーチ、もっと隠れろよ見つかるだろ!」
「ちょっと無理。看板の大きさと比べてみて」


 【ラ・ムール ディセト・カリマの娼館】
娼館「砂漠の薔薇」の中、従業員用食堂。
「リチャード、これは?」
「先月のバレンタインのお返しさハニー。 食材が揃ったので作ってみたんだが、一口食べてみてくれないか?」
テーブル、座るダークエルフの前に差し出された皿の上には炊いた穀物に砂漠果片が混ざったものに白いどろっとしたような半固形がたれ乗っている。
香辛料と甘い果実の匂いが混ざり合う何とも不可思議な料理。
「先月、防衛技術の視察で大延国を訪れた時に丁度面白いフェスティバルが催されていてね。
甘さを引き立たせるために辛い麺を混ぜる甘麺料理を食べた時に思いついたんだよ。幸いカレーの素材は以前ハーピー宿の主人に分けてもらったものがあったからね」
「カレーと言うとあの色の付いた辛い料理よね。 でもこれは…」
スプーンでひとすくいして口へ。
「甘いわ?!凄く甘い。てっきり辛いものだと思っていたのに」
「驚いたかい?甘いものを食べたくてもここじゃ中々に難しいからね。喜んで貰おうと思って腕をふるってみたんだよ」
香辛料を料理に溶け込ませるのではなく、あくまで辛い香辛料として存在させる。 ハノササと呼ばれる低葉枝の薄い葉は水に溶け難く熱にも強い。それを小さく切り分けたものに香辛料をぎゅっと包んで鍋に入れる。
鍋にはオアシスに群生する樹から採った硬実の甘味汁と毛牛の乳をベースに、形がなくなって蕩けるまで乾燥果実を煮込む。
甘味のある砂漠麦と噛めば爽やかな酸味が溢れる地下小黒豆を混ぜ合わせ、新鮮な砂漠青果を刻み盛り合わせたその上から煮込んだ白いカレーをかけるのだ。
これでもかと押し寄せる甘味の中に小さな香辛料の葉塊を噛めばきゅっと舌を流れる辛さ。そしてその後に一層甘味を増して押し寄せる波。
普段は凛とした面持ちで娼館を守護るダークエルフのベルマが、スプーンを口に運ぶたびにどんどん綻んでいく。
「お気に召したようで何より」
「甘いのだけれども、不思議な甘さ。何度でも味わえる、何度も味わいたいこの味を…美味しいと言うのかしら」
「急がなくても心揺さぶる衝動に正直になるところから始めよう。 味覚に対する認識の幅と欲求が生まれるだけでもエルフ種族としては大きな進歩さ」
「ところでリチャード…」
「何だい?ハニー」
「う、ん。おかわりはいただけるのかしら?」


 【スラヴィア ティータ領屋敷】
「セイジョー、もう一本頂戴」
「何だよ、そんなに気に入ったのか? イレヴンイレヴンの世界間通販で取り寄せた甲斐があったが…
ストロベリー味inマシュマロ味のレッドインホワイトチュッパチャップスも食べ過ぎたら虫歯になるぞ?」
「ホワイトデーのお返し、私のために用意したんでしょ! 頂戴ったら頂戴!」
「はいはい」
ツインテールの少女が飴を噛み砕くのをやれやれと流し、…手元の箱から一本取り出し手渡す青年。
「うーっ!」
「ホホホ。これは貴方の口の中の一本に辿り着くまで終わらない喜劇ですよ」
少し離れて二人のやり取りを見る紙形がカタタと揺れた。



少し遅れましたが、ホワイトデーオムニバス

  • どこもあまーい。リチャードって料理できたんだ… -- (名無しさん) 2015-03-22 19:14:38
  • 異種族カップルってもう当たり前というか同種族カップルよりも多くなってるな -- (名無しさん) 2015-03-31 02:10:38
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最終更新:2015年03月21日 23:42