【大きな麦藁帽子】

  大ゲート開通後から急速にまとまりと平和への道を進みだした異世界各国
  しかし、その流れの中でも異彩を放つ国があった
  その国の名は ── 新天地

 ここは新天地の東のどこかに位置する小さな村
 村の起こりは新天地の未踏破を目指し東へ進んだキャラバンが乱精霊の土隆嵐に遭遇し荷獣から何まで足を失い、
 周囲を獰猛な野獣魔物が徘徊する中でキャラバンの残骸からバリケードを建造したことに始まる
 以後、キャラバンの生き残りは自給自足を確立し生き長らえ稀に通り過ぎる者達と交流ししっかりとした生活基盤を作り上げたのであった
 そんな小さな村にある日突然大きくのっぺりとした一つ目のヒトガタが現れたのである
 その時々により大きさが多少変動するものの、鉱石土砂運搬に用いられる土ゴーレムのような体は変わらず、
 何をするかと言えば畑を耕したり周辺の荒野を耕したりしているのである
 言葉の一切を発さずにもくもくと耕しては日の沈む頃になると人知れず消えてしまい、また翌日になると何処からともなく現れる

「あ!ヒトツメ様のふわふわが出たぞー!」「違うよほわほわだよ」「え~?ぽかぽかでしょ~?」

 耕作の時々に、ヒトガタは指のないにゅっとした両手を合わせて不思議で温かい綿毛のような光を生み出す
 その光が地に吸い込まれていくと、枯れようとしていた作物は息を吹き返し、固い荒地はむせ返る様な湿香を放つ土壌に変異する
 猛暑大雨豪雪と気まぐれな精霊の多い土地のせいか天候気候の荒れやすい土地ではあるが、ヒトガタはただ黙々とそんな日でも鍬を振るうのであった

「ここにィ…レギオぉンがいると聞いたァ!出てこォい!」
「何だ何だ!」「荒野の荒くれ者達よ!」「最近獣人の集まった野盗がキャラバンを襲っていると聞いたがまさか村を襲ってくるとは!」
様々な武器防具を乱雑に縛りつけ載せた走鳥や脚竜や荷獣に跨った如何にも風な獣人達。 武器を掲げ怒号をあげる。
レギオン?」「かーちゃんレギオンってなぁに?」「町に買出しに行った時にそんな名前を聞いたような聞いてないような…」

 レギオン ──
 それは異世界の神々の中にありて新天地を管轄する神の名。群神レギオン。
 最も新興の神であり、その性質は他の神々と一線を隔すものである。
 存在自体が多くの神予備軍とも言える力持つ者の集合であり、それらは世界とは別の異空間を拠点とする。
 異空間自体がレギオンと呼ばれるとか最初の一人が器となり神となろうとしたなど諸説様々ではあるが、今では神の一角として名を持っている
 彼“ら”は一個の神として在るにも関わらず、それぞれが新天地の方々に分かれ散らばり土地を治め民を動かすなどして
 土地の力、延いては自身の力に繋がる繁栄を目指し実践しているのである
 レギオンにも様々な者がおり、名を知られることなく人に気付かれることなく見守ったり力を行使する者もいれば
 人の姿などを取り支配者となって牽引したりもする。中には一見すれば繁栄とは真逆の害獣に身を変え暴れる者もいるという。

「我が名はァ!獣皇星ガオン!行く行くは新天地全土の支配者となりレギオンを統べる神となる者だァ!」
虎の顔に獅子の鬣、体は森の賢者と何ともおかしげな風貌ではあるが周囲に置いた部下達は見るも当然の暴力者。
「今!我はァ、新天地を巡り同士を募り旧態然とのさばる古いレギオンを打倒ゥせんと腐心しているゥ!
国は造るものではないィ!国は支配者の後に自然と付いてくるものであるゥ!」
「私の名は鳥新星ギャオン。此度ガオン殿の熱意勇気に心打たれ賛同した新しきレギオンの一人であります。
この村にもレギオンがいると風精霊の噂で聞きました。何処ですか?現れなさい」
「だから、レギオンって一体何なんだべ?」「そんな大層な人などこの村には…」「でもこのままだと村がどんな目に遭うか…ブルブル」
「俺の名は魚煌星ウオン!出てこいレギオン!貴様も俺達の中に入ったということはそれなりの力を持っているということだろう?ならばその力、今こそ揮う時ぞ!」
口々に大声を張り上げるもレギオンらしき姿は一向に現れず、痺れを切らした野盗が遂に村を襲おうとしたその時!
「あっ、ヒトツメ様だ!」「そういえば日も昇っておる」「ヒトツメ様ぁ~こっちにきちゃなんねぇだ~」
のっぺりとした巨体にぱっちりとした単眼。担ぐは鍬。
そのあまりにも“力”とかけ離れた姿に唖然とした頭目三獣人であったが、半ば無理矢理に自己完結し納得したのか
何も言わずぬぼ~っとするだけのヒトガタを荷台によっこらせと乗せてしまう。
「よしィ!戦力は揃ったァ!これより聖戦の始まりでェあぁるゥ!」
ドドドドド……
土煙舞い地鳴りが去った後には呆然と立ち尽くす村人達だけが残った。

 多くの力ある者の集合であるレギオンの中は都度加盟者が増えているが、その反面ではレギオン同士の抗争で片方に吸収されたり他の何かに倒され消滅するなどして減ることもある
 その“減”のケースで最も大きかったのが【 ベルフェの鐘 】事件であった
 大ゲート開放より幾年前、当時の最大勢力であったレギオンの治める都ベルフェで行われたレギオン達の会談
 それは新参レギオンから古参レギオンへの不平等改善要求であった
 古参のレギオンは既に土地を繁栄させるなどして力を蓄えているが、新参の我々がそれに追いつき並ぶのは困難極まりないのではないか、と
 古参からは参考に出来る状況があると思えば問題ないという回答で、会談は平行線から遂に衝突寸前の緊張状態にまでなったのである
 当時、新参で運営に難色を示していたほぼ全てと中堅ではあるものの上手くゆかず頓挫後退しているものの全てが集まっており
 力のバランスでも古参のそれと並ぶか上回るであろうという目測であったため引かなかったのだが、その緊張は一つの鐘の音で終わりを始めたのであった
 ベルフェでは昼になると合図に都一番の大鐘(ゴール)が鳴り響くのであるが、その鐘の音にタガが外れた新参側が攻撃を開始、
 それに呼応して古参も応戦したのだが…結果は新参側が全て喰らわれるという凄惨なものであった
 レギオンのブレインであった紳士は全体の三分の一を失ったこの事件の補填回復に奔走し、世界各地でレギオンの盟友となれる者をスカウトして回ったという
 新天地でも残ったレギオンが間口を広く開けたために何処の誰かも分からぬ者まで加盟していたという
 その名残か、レギオンとして未熟な者達がまた力による反発を企てるなど薄雲ではあるが新天地各地で暗雲が立ち込めている

「もうすぐ大農場が見えるはずだァ!全部焼いてしまえィ!」
「自らの食糧を作らせるためだけに領地を運営するとは…レギオンとして存在が矛盾しています」
「全部灰にしてしまえばレギオンも力を減らす!そこを叩く!潰す!」
荒野の向こうに緑の地平線とそれを囲む柵が薄っすらと見えてくる。
「お前らァ!武器を取れいィ!」「「「うぉおおおーーー!」」」

  バグンッ

荒野に開いた口が閉じてうねると何事もなかったかのように乾いた風が吹く。
そこには何もなく、唯一つヒトガタの乗る荷台が牽いていた荷獣を失い佇んでいた。
ヒトガタはゆっくりと荷台から降りるととぼとぼと足を進める。 夕刻の日が橙色に単眼を染めた。


  「お父様…私、一度でいいから外の世界に行ってみたいのです」「我の役目はこの森の ──
  ── …うか、娘に一度の外出を願えませんでしょうか。何卒お願い申し上げます」「あらあら…外に出たいと?そう言ったのですね?」
  …だから…だと言ったのに、何が心ですか。アルの世迷言の… …のハイエルフが… …処分ですね ──
  「私のせいで… …にイルの追ってが… だけでも  …姿を ──  …になるのか… 分かりません。でも貴女がそれ… …なら ──


ヒトガタは、はっとして単眼をこする。 夢はもうその中から消え去っていた。
「あっ!ヒトツメ様だ!帰ってきたんだ!」「おぉぉ…よく御無事で」「わぁい、ヒトツメ様が帰ってきたぞ~!」
朝日の中、村の門に現れたヒトガタに村人全員が集まり囲み喜び出迎えた。
そしてヒトガタは何事もなかったかのように再び畑を耕すのだった。

「ヒトツメ様、これおら達が作ったんだ。受け取ってくんろ」「いつものっぺりした頭のままだとお目目が眩しいだと思ってなぁ~」「でっかい麦藁帽子だよ!」
それは村の子供達が皆で作った大きな大きな麦藁帽子。ところどころほつれはあるものの、それはとてもよいものだった。
奇しくもその日は地球でいうところの“父の日”、ヒタガタは早速麦藁帽子を被ると瞳を閉じて遥か心の向こうを想い懐かしんだ。

スレのレスや手描きから想像したレギオンと父の日を合わせて一本

  • 和み系すぎるレギオンよ -- (名無しさん) 2015-06-24 19:28:12
  • ちょっと変わった神なんだ。こんなのんびりしたのもいるならちょっと支持したくなる -- (名無しさん) 2015-06-25 22:21:15
  • レギオン農協連合とかゆるゆる面白そう -- (名無しさん) 2015-08-28 23:21:56
  • 玉石混交の集合組織レギオン?民から慕われるのもいれば無謀なモブもいると -- (名無しさん) 2016-09-27 07:09:01
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最終更新:2015年06月24日 03:48
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